(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053485
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】既存建物への間柱の設置構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20161219BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
E04H9/02 321E
E04G23/02 D
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-266116(P2012-266116)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111864(P2014-111864A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】安田 聡
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】青野 英志
【審査官】
小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−126830(JP,A)
【文献】
特開2005−320745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04G 23/02
E04B 1/24
E04B 1/58
E04C 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形断面の鉄骨造の梁を有する既存建物の上下の上記梁間に間柱を設置するための構造であって、
上記間柱の上下端部に第1のベースプレートを一体的に設け、これら第1のベースプレートの上方および下方に上記梁を間に挟んで第2のベースプレートを設けるとともに、上記間柱が位置する上記梁の上下部フランジ間に補強部材を介装し、これら第1および第2のベースプレートに挿通した緊張材を緊張させることにより、上記間柱を上下の上記梁に固定してなり、
かつ上記補強部材は、上記上下部フランジ間の高さ寸法に形成されるとともに上記間柱のせい以上の幅寸法に形成された鋼板と、この鋼板に鉛直方向に配置されて一体化されたリブ鋼板とを備え、上記梁のウエブを間に挟んだ両側に介装されていることを特徴とする既存建物への間柱の設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁が鉄骨造である既存建物の柱梁架構に、耐震補強として間柱ダンパ等を増設する際に用いられ
る既存建物への間柱の設置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、耐震あるいは制振対策が施されていない建物に対して、地震発生時に発生する大きな架構の変形を抑制するため、新たに当該架構面内に耐震手段や制振手段を増設する各種の工法が採用されている。
【0003】
ところで、上記制振手段を増設する従来の工法の一種である間柱ダンパを設置する工法によれば、大地震時に上記架構が水平方向に変形した際に、上記ダンパが変形エネルギーを吸収することにより当該架構に伝わる揺れを抑制することができるとともに、鉄骨ブレースを設置する場合のように、架構面内の通行を妨げて既存建物の使用勝手に新たな制約が生じることが無いという利点がある。
【0004】
しかしながら、従来の間柱ダンパの設置構造においては、増設する間柱を既存建物の梁に溶接するとともに、さらに梁にも補強部材を溶接しているために、全体としての溶接作業に多大の手間と施工工期とを要するという問題点があり、加えて当該現場溶接箇所が各所にわたるために、既に使用されている室内に、上記溶接の火花に起因する火災が発生しないように、広範囲にわたる防火対策や養生が必要になるという問題点もあった。
【0005】
そこで、本発明者等は、先に下記特許文献1において、上記問題点を解決し得る既存建物への間柱の設置構造を提案した。
この既存建物への間柱の設置構造は、
図10〜
図13に示すように、鋼管柱1間に、H形鋼からなる梁2が架設され、梁2上にスラブ3が形成された既存建物の上下の梁2間に間柱4を設置するための構造であって、間柱4の上下端部にベースプレート5を一体的に設け、間柱4の上方に位置するスラブ3上にベースプレート6を設置し、かつ間柱4の下方に位置する梁2の下部フランジ2bの下面にベースプレート7を設置し、これらベースプレート5〜7およびスラブ3に、それぞれ上下方向に連通する孔部8を穿設し、間柱4の上端部において、緊張材9をスラブ3の孔部を通してベースプレート5、6の孔部8に挿入し、その上下端部をそれぞれ定着具9aによってベースプレート5、6に固定することにより間柱4を上側の梁2に固定し、間柱4の下端部において、緊張材9をスラブ3の孔部を通してベースプレート5、7の孔部8に挿入し、その上下端部をそれぞれ定着具9aによってベースプレート5、7に固定することにより間柱4を下側の梁2に固定したものである。
【0006】
ここで、上記間柱の設置構造においては、緊張材9に張力を付与してベースプレート5、6を上側の梁2に圧接させて固定するとともに、ベースプレート5、7を下側の梁2に圧接させて固定する際に、梁2の上下部フランジ2a、2bが面外方向へ変形することを防止するために、当該上下部フランジ2a、2b間に補強部材10が介装されている。
【0007】
この補強部材10は、例えば角鋼管からなるもので、上下部フランジ2a、2bの面外方向の変形を効果的に防止すべく、ベースプレート5、6の長手方向の両端部間およびベースプレート5、7の長手方向の両端部間に位置する上下部フランジ2a、2b間に、ウエブを間に挟んで配置されている。
【0008】
上記従来の既存建物への間柱の設置構造によれば、緊張材9に張力を与えることにより、梁2の上下部フランジ2a、2bと補強部材10とを一体化することができるため、間柱4と梁2との溶接や、梁2の補強プレート10等の溶接を無くすことが可能になるために、上記溶接の火花に対する防火対策や養生といった作業も無くすことが可能になり、よって間柱4の設置に要する手間を大幅に低減することができるとともに、所要工期も大幅に短縮することができる、といった優れた効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−126830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、一般に既存建物の上下の梁間に間柱を増設した場合には、
図9(a)、(b)に対比して示すように、地震時に、新設された間柱から作用する応力によって、梁と間柱との接合部パネル(既存の鉄骨梁のウエブ)のせん断耐力が不足する虞があった。
【0011】
他方、上記従来の既存建物への間柱の設置構造においては、梁2の上下部フランジ2a、2b間に補強部材10を設けているものの、当該補強部材10は、もっぱら上下部フランジ2a、2bの面外方向への変形を防止するために介装されたものであって、接合部パネル(既存の鉄骨梁のウエブ)のせん断耐力を増加させることは出来ないことから、その改善が望まれていた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、鉄骨造の既存建物に間柱を増設するに際して、溶接作業やそれに起因する付帯作業を無くすことが可能になるとともに、既存の梁と新設の間柱との接合部パネルにおけるせん断耐力も向上させることができ
る既存建物への間柱の設置構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項
1に記載の発明は、H形断面の鉄骨造の梁を有する既存建物の上下の上記梁間に間柱を設置するための構造であって、上記間柱の上下端部に第1のベースプレートを一体的に設け、これら第1のベースプレートの上方および下方に上記梁を間に挟んで第2のベースプレートを設けるとともに、上記間柱が位置する上記梁の上下部フランジ間に補強部材を介装し、これら第1および第2のベースプレートに挿通した緊張材を緊張させることにより、上記間柱を上下の上記梁に固定してなり、かつ上記補強部材は、上記上下部フランジ間の高さ寸法に形成されるとともに上記間柱のせい以上の幅寸法に形成された鋼板と、この鋼板に鉛直方向に配置されて一体化されたリブ鋼板とを備え、上記梁のウエブを間に挟んだ両側に介装されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項
1に記載の発明によれば、既存の梁の上下部フランジ間に、上下部フランジ間の高さ寸法を有し、かつ間柱のせい以上の幅寸法を有する鋼板と、上記鋼板に鉛直方向に接合されたリブ鋼板を備えた補強部材を、ウエブを間に挟んだ両側に設けているために、緊張材によって既存の梁と一体化させた際に、当該補強部材の鋼板によって接合部パネル(梁のウエブ)を増厚した場合と同様の効果を得ることができる。
【0019】
これにより、増設した間柱と既存の梁との接合部パネルにおけるせん断耐力を向上させることができる。加えて、リブ鋼板によって、緊張材に張力を付与してベースプレートを梁に圧接させた際の上下部フランジの面外方向への変形も防止することができる。しかも、上記補強部材は、既存の梁に溶接することなく、上記緊張材によって梁と一体化させることができるために、溶接作業やそれに起因する付帯作業を無くすことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る間柱の設置構造の一実施形態を示す正面図である。
【
図6】
図5の補強部材の変形例を示す斜視図である。
【
図7】
図6の補強部材の変形例を示す斜視図である。
【
図9】(a)は、地震時に一般的な既存架構に作用するモーメント分布を示すグラフであり、(b)は、上記間柱設置後のモーメント分布を示すグラフである。
【
図10】従来の間柱の設置構造の一実施形態を示す正面図である。
【
図14】本発明の実施例において比較に用いた補強部材の形状および配置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜
図5は、本発明に係
る既存建物への間柱の設置構造の一実施形態を示すもので、鋼管柱11とH形鋼からなる梁12とによって鉄骨造の柱梁架構が構成されるとともに、梁12上に床スラブ13が打設された既存建物に、間柱ダンパ(間柱)14を増設した状態を示すものである。ここで、間柱ダンパ14は、柱11間の中間位置において上下の梁12間に配置されており、さらに上下階方向に向けて連続するように設置されている。
【0025】
これら上下方向に連続するように設置された間柱ダンパ14は、いずれも高さ方向の中間部が切り欠かれることにより上部間柱14aと下部間柱14bとに分離されるとともに、これら上下部間柱14a、14b間に、水平方向の変位を減衰させる油圧ダンパ15が介装されたものである。そして、油圧ダンパ15は、その一端側15aが上部間柱14aと一体化されるとともに他端部15bが下部間柱14bと一体的に連結されている。
【0026】
さらに、上側の梁12の下部フランジ12bおよび下側の梁12上のスラブ13と対向する間柱ダンパ14の上下端部には、それぞれ長方形板状のベースプレート16a、16bが一体的に接合されている。ここで、これらベースプレート16a、16bは、長辺が上下部間柱14a、14bのせいWよりも大きく、かつ短辺が上下部間柱14a、14bのフランジ幅より大きい長方形状に形成されている。
【0027】
そして、これらベースプレート16a、16bの外周部の複数箇所(図では、長辺側外周部の角隅部に各2箇所、合計8箇所)に孔部17が穿設されている(
図3参照)。また、下端側のベースプレート16bが載置される床スラブ13にも、上記孔部17と連通する孔部が穿設されている。
【0028】
そして、梁12の上下部フランジ12a、12b間に、補強部材20が介装されている。この補強部材20は、
図5に示すように、梁12の上下部フランジ12a、12b間に配置される長方形の鋼板21と、この鋼板1の上下端部に水平に接合された天板22および底板23と、これら天板22および底板23間に鉛直方向に配置されて鋼板1に接合された複数本の帯板状のリブ鋼板24とから構成されたものである。
【0029】
ここで、鋼板1は、高さ寸法が上下部フランジ12a、12b間の寸法に形成されるとともに、幅寸法がベースプレート16a、16bの長辺の寸法(すなわち、上下部間柱14a、14bのせいW以上の寸法)に形成されている。また、複数のリブ鋼板24は、それぞれ鋼板1の幅方向において、ベースプレート16a、16bの孔部17を結ぶ位置および上下部間柱14a、14bのフランジと同じ位置に配置されている。
【0030】
以上の構成からなる補強部材20は、
図4に示すように、鋼板1が梁12の上下部フランジ12a、12bの外縁に沿って配置され、天板22および底板23が各々上下部フランジ12a、12bに対向して配置されて、溶接されることなく上下部フランジ12a、12b間に挿入されている。また、補強部材20は、梁12のウエブを間に挟んだ両側に設けられている。
【0031】
ここで、補強部材20としては、
図5に示した構成のものの他、例えば
図6に示すように、幅方向に2分割したものや、
図7に示すように、幅方向に3分割してものも用いることができる。ちなみに、
図1および
図4においては、
図6に示す2分割した補強部材20を設けた場合について示してある。また、分割した補強部材の各部分を、互いに離間させても後述する所望のせん断耐力の向上効果を得ることができるが、隣り合う部分のクリアランスLは、10mm以下とすることが望ましい。
【0032】
このようにして、梁12の上下部フランジ12a、12b間に補強部材20が配置された後に、上端側のベースプレート(第1のベースプレート)16aの孔部17と、上階の間柱ダンパ14の下端部のベースプレート(第2のベースプレート)16bの孔部17とに、床スラブ13に穿設した孔部を通してPC鋼材(緊張材)25が挿通され、さらに緊張された後にその上下端部が定着具26によって各ベースプレート16a、16bに固定されることにより、間柱ダンパ」14の上端部側が上側の梁12に固定されている。
【0033】
他方、下端部においては、間柱ダンパ14の下端部側のベースプレート(第1のベースプレート)16bの孔部17と、下階の間柱ダンパ14の上端部のベースプレート(第2のベースプレート)16aの孔部17とに、同様にPC鋼材(緊張材)25が挿通されて緊張された後に、その上下端部が定着具26によって各ベースプレート16a、16bに固定されることにより下側の梁12に固定されている。なお、図中符号19は、ベースプレート16bと床スラブ13との間に充填されたグラウトである。
【0034】
以上の構成からなる既存建物への間柱の設置構造によれば、既存の梁12の上下部フランジ12a、12b間に、上下部フランジ12a、12b間の高さ寸法を有し、かつ上下部間柱14a、14bのせいW以上の幅寸法を有する鋼板21と、その上下端部に一体化された天板22および底板23と、鋼板1に鉛直方向に接合された複数本のリブ鋼板24を備えた補強部材20を、鋼板21を上下部フランジ12a、12bの外縁部に沿わせて配置するとともに、ウエブを間に挟んだ両側に設けている。このため、PC鋼棒25によって既存の梁12と一体化させた際に、補強部材20の鋼板21によって接合部パネル(梁のウエブ)を増厚した場合と同様の効果を得ることができる。
【0035】
これにより、増設した間柱ダンパ14と既存の梁12との接合部パネルにおけるせん断耐力を向上させることができる。加えて、リブ鋼板24によって、PC鋼棒25に張力を付与してベースプレート16a、16bを梁12に圧接させた際の上下部フランジ12a、12bの面外方向への変形も防止することができる。しかも、補強部材20は、既存の梁12に溶接することなく、PC鋼棒25によって梁12と一体化させることができるために、溶接作業やそれに起因する付帯作業を無くすことも可能になる。
【0036】
さらに、上記補強部材20においては、複数のリブ鋼板24を、それぞれ鋼板21の幅方向において、PC鋼棒25および間柱ダンパ14のフランジと同じ位置となるように配置しているために、PC鋼棒25による張力や、新設した間柱ダンパ14から作用する鉛直方向の荷重に対して、効果的に抗することができる。
【0037】
また、
図6および
図7に示した補強部材20を用いた場合には、補強部材20を作業員が手で持ち上げることができる重量まで分割することにより、一層容易に施工することが出来るとともに、補強部材20をその幅方向に複数に分割しているために、一体の場合と同様のせん断耐力の向上効果を得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明の効果を検証するために、3次元弾塑性FEM解析により、補強部材を含めた接合部パネルのせん断耐力を確認した。
解析モデルは、間柱と梁との接合部を取りだした部分十字架構で、接合部パネルの梁の上下部フランジ間に接合部材を設けた場合と、当該補強部材を設けない場合とについて確認した。
【0039】
また、補強部材を設けた場合についても、
図5に示した独立型、
図6に示した2分割型、
図7に示した3分割型について解析を行うとともに、比較のために、
図10〜
図13に示した従来の構造における補強部材10を模して、
図14に示すような2本の補強部材10´を、ベースプレート長手方向の両端部間に位置する上下部フランジ間に配置した場合についても、解析を行った。解析は、Step 1 で上下間柱のベースプレートを繋ぐ緊張材(PC鋼棒)に緊張力を導入した後、Step 2 で間柱上部に水平変位を与えて行った。
【0040】
図8は、この解析結果である間柱せん断力−層間変位の関係を示すものである。
同図に見られるように、補強部材が無い場合には、接合部パネルは設計せん断力(ダンパーの最大減衰力)以下で降伏するのに対して、本発明に係る補強部材を設けることにより、接合部パネルはせん断耐力が向上し、設計せん断力を優に上回ることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
11 柱
12 梁
13 床スラブ
14 間柱ダンパ
16a、16b ベースプレート
17 孔部
20 補強部材
21 鋼板
22 天板
23 底板
24 リブ鋼板
25 PC鋼材(緊張材)
26 定着具
23、24 ベースプレート(第2のベースプレート)