特許第6053521号(P6053521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6053521真菌生物ピシウム・オリガンドラムを用いた抗真菌混合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053521
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】真菌生物ピシウム・オリガンドラムを用いた抗真菌混合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20161219BHJP
   A01N 63/00 20060101ALI20161219BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61K35/74 A
   A01N63/00 F
   A01P1/00
   A61P31/10
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-537295(P2012-537295)
(86)(22)【出願日】2009年12月14日
(65)【公表番号】特表2013-510100(P2013-510100A)
(43)【公表日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】CZ2009000154
(87)【国際公開番号】WO2011054322
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2012年10月25日
【審判番号】不服2015-2437(P2015-2437/J1)
【審判請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】PV2009-724
(32)【優先日】2009年11月4日
(33)【優先権主張国】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】512117100
【氏名又は名称】バイオ エージェンス リサーチ アンド ディベロップメント − バード、エス.アール.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】スチャネク、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】クリメス、ラディン
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 松澤 優子
【審判官】 前田 佳与子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−22668号公報(JP,A)
【文献】 国際公開第98/16110号(WO,A1)
【文献】 チェコ共和国実用新案第9883号明細書(CZ,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00-35/768
A61L9/00-9/22
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JST)
CAPLus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌生物ピシウム・オリガンドラムを用いた抗真菌混合物をヒト以外の常に発汗している皮膚に塗布することを含む、皮膚糸状菌以外の真菌生物ピウム・オリガンドラムの宿主生物を、ヒト以外の動物の皮膚から抑制する方法であって、前記抗真菌混合物は、0.001〜25重量部の前記真菌生物ピシウム・オリガンドラム及び75〜99.999重量部の不活性成分からなり、前記真菌生物ピシウム・オリガンドラムの生殖器官の数が前記混合物1g当たり2×10個より多く、前記生殖器官が、遊走子及び遊走子嚢を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
皮膚糸状菌以外の真菌生物ピシウム・オリガンドラムの宿主生物が、病原性酵母及び病原性細菌を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不活性成分が、無機及び/又は有機の溶液及び/又は懸濁液、及び/又はエマルション、及び/又は固形物質であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
真菌生物ピシウム・オリガンドラムを用いた抗真菌混合物を、ヒトを除く動物の耳道に塗布することを含む、ヒトを除く動物の耳道における微生物の定着を抑制する方法であって、前記抗真菌混合物は、0.001〜25重量部の前記真菌生物ピシウム・オリガンドラム及び75〜99.999重量部の不活性成分からなり、前記真菌生物ピシウム・オリガンドラムの生殖器官の数が前記混合物1g当たり2×10個より多く、前記生殖器官が、遊走子及び遊走子嚢を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項5】
前記不活性成分が、無機及び/又は有機の溶液及び/又は懸濁液、及び/又はエマルション、及び/又は固形物質、及び/又は油、及び/又はバターであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌症及び細菌を含む真菌と戦うためにデザインされた、真菌生物ピシウム・オリガンドラム(Pythium oligandrum)を用いた抗真菌混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌及び真菌症は、全ての社会の問題であり、特に人及び動物のどちらの皮膚真菌症も、人及び動物で発症頻度の高い疾患に属する。そのような真菌症は通常、病人と健康な人の直接接触だけでなく、感染源に接触した物品を介しても伝染するため、更により深刻である。
【0003】
そのような皮膚疾患の処置は非常に困難であり且つ長期にわたり、現在、処置方法は特に全身的な抗真菌薬の塗布に基づき、例外的に、化学的治療薬を用いた積極的な形態の処置を意味する化学療法も、疾患を引き起こす病原性微生物に対して用いられる。しかし、これは通常、標的病原体だけでなく、治療薬のレシピエントの組織にも影響を与える。抗生物質及びホルモンを用いるその他の積極的な形態の処置にも禁忌がある。
【0004】
前記の保存的な種類の処置は、多くの場合、美容製剤(cosmetic preparation)を用いて完了するが、この製剤も、一部の天然の無機物質(塩等)を含む花及び動物起源の物質を基本原料とする天然の美容製剤もあるが、化学物質の塗布(application)に基づくものである。
【0005】
最近になってやっと、皮膚のトラブルに対して異なる複雑な様式のアプローチが開始され、感度の良い自然な方法が優先的により多く使用されるようになった。そのような方法には、例えば、特許文献1による真菌ピシウム・オリガンドラムを皮膚糸状菌症の原因と戦うための生物学的製剤の形態で塗布することが含まれ、この製剤は、卵胞子(oospora)の形態の前記真菌生物を有効物質として含む(卵胞子の合計数は製剤1g中に最大で2×10個である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】チェコ共和国実用新案第9883(U1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この解決法は、応用範囲が限定され、有効物質が無機キャリアの二酸化珪素にしか結合しない。
【0008】
壁の真菌並びに種々の物品の真菌、酵母、及び細菌は、一連の種々の製剤を用いて除去されるが、これらは有効物質の真菌生物ピシウム・オリガンドラムの塗布に基づいたものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
現在の解決法の前述の欠点は、有効物質の抗真菌生物をより高濃度で使用する本発明に係る真菌生物ピシウム・オリガンドラムを用いた抗真菌混合物により、また、新規な最終混合物の成分及び新たに遊走子、遊走子嚢、及び酵素を適用することにより、ある程度克服される。
【0010】
クロミスタ界ストラメノパイルの真菌生物ピシウム・オリガンドラムは強力な菌寄生菌であり、20を超える科の真菌症原因菌に寄生し、また、有性生殖と無性生殖をすることから、真菌と原生動物の境界線となる。ピシウム・オリガンドラムの繊維は寄生生物(真菌、酵母、細菌)の細胞に侵入し、細胞から自身の栄養に必要な物質を取り出す。栄養及び空間的競争に基づいて、ピシウム・オリガンドラムはその空間から病原体を追い出す。したがって、この真菌の活性の性質は、真菌への寄生と同時に酵素を産生することであり、これにより更に真菌の効率が高まる。これは、ピシウム・オリガンドラムが直接寄生により相手を攻撃すると言うことができる。タスク、すなわち寄生生物の排除を達成した後、ピシウム・オリガンドラムはその場所から消え(人及び動物の体はどちらもピシウム・オリガンドラムのための天然環境ではなく、ピシウム・オリガンドラムはそのような環境に適応することができない)、いわゆる正常な微生物相が再度定着するか(re−settlement)、新たな栄養(真菌)を見つけない限り、休眠状態へと被包化されてその生活環を停止する。
【0011】
真菌症及びその症状を抑制するために、混合物1g当たり2×10個より高濃度の有効物質すなわち生殖器官(reproduction organ)を使用することがより有益であることを新たに見出した。それに加え、ピシウム・オリガンドラムは単独でも使用することができ、前述の応用でのデザインでも使用されている二酸化珪素以外の他のキャリア(成分)と組み合せても使用することができる。
【0012】
より高濃度の有効物質は、真菌生物ピシウム・オリガンドラムの卵胞子だけでなく他の生殖器官を使用することより達成することができる。この技術的解決法に係る真菌生物ピシウム・オリガンドラムの生殖器官の数は、混合物1g当たり2×10個より多い。重量で表現した場合、これは、混合物が、最低0.001〜25重量部のピシア・オリガンドラム及び75〜99.999重量部の不活性成分からなることを意味する。
【0013】
更に、新たな発見は、効果の別の機序に関する。多くの疾患が細菌の存在により生じる。ピシウム・オリガンドラムは、その代謝で、宿主生物を分解するために使用される種々の酵素を産生する。そのような酵素も細菌に好ましくない環境であり、同時に、感染臓器における細菌の存在は、細菌の発育にとって重要な栄養成分を産生する顕微鏡的真菌の発生によって支えられている。ピシウム・オリガンドラムはそのような顕微鏡的真菌に寄生することができ、それにより、病原性細菌の増殖に適した環境を破壊する。両方の要因の組合せにより、細菌の繁殖が抑制され、腐敗プロセスの発生が停止する。同様に、尿路系の疾患及び歯で生じた場合には歯肉炎を引き起こす又は種々の処置方法で使用される異種(heterogeneous)材料を汚染する、バイオフィルムが破壊される。
【0014】
驚くべきことに、ピシウム・オリガンドラムは皮膚糸状菌症以外の疾患の症状、すなわち口吻の微生物の定着、口腔のその他の炎症、乾癬、痔、静脈瘤性潰瘍、褥瘡、「糖尿病性足病変」、アトピー性湿疹、ざ瘡、単純疱疹、痛む部位、爪真菌、抜け毛、フケ、又は老年期掻痒も抑制することが見出された。獣医学分野では、この解決法は、動物の足、双蹄、蹄、毛、皮膚、目、殻、口の中、鱗、粘膜、及び耳道又は動物の体内の真菌感染症及び腐敗プロセスの抑制にも新たに使用することができる。
【0015】
したがって、この新規な解決法は、ヒトの皮膚、粘膜、毛髪部分中、又は体内での真菌、細菌、又は他の原因のヒト疾患の処置に混合物を使用することを可能にする。それに加え、本解決法は、動物の足、双蹄、蹄、毛、皮膚、目、殻、口の中、鱗、粘膜、及び耳道又は動物の体内の、真菌、細菌、又は他の原因の疾患に対して混合物を動物に使用することを可能にする。
【0016】
更に、もう1つの応用は、ヒト医学及び獣医学の両方で使用される異種材料(人工弁、関節置換物、コンタクトレンズ、カテーテル等)上のバイオフィルムを破壊することである。この技術的解決法は更に、ヒト及び動物と接触するほぼ全ての物品、例えば輸送手段の内部、席、動物のケージ等から微生物相を排除することを可能にする。
【0017】
真菌生物ピシウム・オリガンドラムの前述の新規な応用は、混合物を形成する他の成分の新規な応用によっても可能になる。消費者にとって製剤の塗布がより良く、より理解し易く、より快適なものになるように新規な混合物を調べ、選択した。その結果、それらの可能性のある塗布のための製剤及び実際の塗布は、明確、単純、快適であり、21世紀の一般的な習慣に対応したものとなった。同時に、これらは塗布のための要件を満たす。新規な混合物には、顕微鏡的真菌ピシウム・オリガンドラム(真菌繊維並びに特徴的な有棘卵胞子、遊走子、及び遊走子嚢の作製)及びオリガンドリン(oligandrin)と総称される種々の酵素の産生にダメージを与えない種々の不活性キャリアが種々の比率で使用される。
【0018】
ピシウム・オリガンドラムはこれらの新規な混合物に種々の濃度で使用され、真菌生物ピシウム・オリガンドラムの生殖器官の数は混合物1g当たり2×10個より多い。
【0019】
新規な不活性成分は、特に生物学的有機及び/又は無機溶液、例えば油性基剤、生理学的溶液、芳香溶液、軟膏、坐剤、ペースト、クリーム、練り歯磨き、口内洗浄剤等である。それに加え、これは、散布粉剤、散剤等の個々の成分の懸濁液、エマルション、若しくは固形(遊離)組成物、又はそのような個々の物質に由来する懸濁液、エマルション、若しくは溶液に関する。前述のように、重量で表現すると、これは、混合物が0.001〜25重量部のピシウム・オリガンドラム及び75〜99.999重量部の不活性成分を含むことを意味する。
【0020】
混合物中のピシウム・オリガンドラムの活性は、例えば常に発汗している皮膚による、浸漬又は湿潤後にだけ生じる。
(実施例)
【0021】
(全てのケースで、重量部を%で表す)
実施例1−アフタ及び歯周症を抑制するための混合物
ピシウム・オリガンドラム 10.1%
不活性成分 89.9%、そのうち
クエン酸 33.3%
炭酸ナトリウム 2.6%
スペアミントの芳香 0.45%
ソルビトール 23.45%
重炭酸ナトリウム 26.79%
ポリエチレングリコール6000 3.34%
【0022】
実施例2−アトピー性湿疹を抑制するための混合物
ピシウム・オリガンドラム 0.5%
不活性成分 99.5%、そのうち
乾燥させた有機培養培地の残分 約9.5%
精製オリーブオイル 85.09%
コロイド二酸化珪素(Aerosil 200) 4.8%
ビタミンE(Covi ox T 70) 0.08%
ユーカリ油 0.03%
【0023】
実施例3−糖尿病の症例において乾燥皮膚を軟化するための混合物
ピシウム・オリガンドラム 1.72%
不活性成分 98.28%、そのうち
乾燥させた有機培養培地の残分 約30.5%
精製アーモンド油 61.37%
Aerosol 200 6.30%
Sea buckthorn油 1.65%
ビタミンE(Covi ox T 70) 0.08%
バルサム油 0.03%
【0024】
実施例4−乾癬の症状を抑制するための混合物
ピシウム・オリガンドラム 0.25〜0.5%
不活性成分 99.75〜99.5%、そのうち
乾燥させた有機培養培地の残分 約4.75〜9.5%
シアバターBIO(BIOシアーバターノキのバター) 34.5%
ひまわり油BIO(BIOヒマワリシード油) 34.5%
蜜蝋(Cera Alba) 11%
珪砂(酸化珪素) 10〜15%
【0025】
実施例5
動物の耳道における微生物の定着を抑制するための混合物
ピシウム・オリガンドラム 25.0%
不活性成分 75.0%、そのうち
精製オリーブ油 27.5%
シアバター(Cetiol SB 45) 22.0%
ビタミンEを含む魚油 18.5%
グリセリンモノステアラート(Cutina GMS V) 2.6%
Sea buckthorn油 3.3%
Covi ox T 70 1.1%
【産業上の利用可能性】
【0026】
真菌生物ピシウム・オリガンドラムを用いた抗真菌混合物は、ヒト医学及び獣医学の両方において、化粧品業界において、及び家庭用品において、清潔に保つため、建築物の壁から真菌を除去するため、異種材料上のバイオフィルムを破壊するため、並びにヒト又は動物と接触する物品上の微生物相を除去するために使用することができる。