特許第6053606号(P6053606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053606
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】電気設備の絶縁劣化測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   G01N17/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-99872(P2013-99872)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-219337(P2014-219337A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】小鶴 進
(72)【発明者】
【氏名】▲黒▼田 崇士
(72)【発明者】
【氏名】山地 祐一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴浩
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−333398(JP,A)
【文献】 特表2012−503463(JP,A)
【文献】 特開昭64−047426(JP,A)
【文献】 特開2009−008427(JP,A)
【文献】 特開2009−281987(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/004426(WO,A1)
【文献】 特開2002−214121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 − 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口とを有する筐体に電気機器が収容された電気設備の絶縁劣化測定方法であって、
空気中に含まれる窒素酸化物量,硫黄酸化物量,塩分量と絶縁物の劣化程度との相関データを予め用意しておき、前記吸気口から取り込まれ前記排気口から排出される空気中の前記窒素酸化物量,前記硫黄酸化物量,前記塩分量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測し、判定手段において、前記両計測手段で計測した計測値の差分を求め、前記相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断することを特徴とする電気設備の絶縁劣化測定方法。
【請求項2】
吸気口と排気口とを有する筐体に電気機器が収容された電気設備の絶縁劣化測定方法であって、
空気中に含まれる硝酸イオン量,硫酸イオン量,塩化物イオン量と絶縁物の劣化程度との相関データ予め用意しておき、前記吸気口から取り込まれ前記排気口から排出される空気中の前記硝酸イオン量,前記硫酸イオン量,前記塩化物イオン量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測し、判定手段において、前記両計測手段で計測した計測値の差分を求め、前記相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断することを特徴とする電気設備の絶縁劣化測定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気設備の絶縁劣化測定方法において、
前記相関データに対する温度及び湿度の影響を把握しておき、前記吸気口から取り込まれる空気の温度及び湿度と、前記排気口から排出される空気の温度及び湿度とを計測して前記判定手段に取り込み、前記判定手段において、取り込んだ前記温度及び湿度により補正を加えて前記絶縁劣化の進行程度を判断することを特徴とする電気設備の絶縁劣化測定方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電気設備の絶縁劣化測定方法において、
前記吸気側計測手段と前記排気側計測手段の前記計測値の差分の累積値または変化量が、予め定めた閾値を越えたとき警報を出すようにしたことを特徴とする電気設備の絶縁劣化測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気設備の筐体内に収容された絶縁物の劣化状態を予測する絶縁劣化測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気設備を構成する要素の一つである、電路を支持する絶縁物は、時間とともに周囲環境(内部環境・外部環境)の影響を受け劣化し絶縁機能を低下させていく。絶縁物の劣化は、地絡,漏電又は短絡などの事故や故障に繋がるため、絶縁劣化の状態を把握することは、電気設備のメンテナンス上、非常に重要である。しかしながら、絶縁物の劣化の兆候は、五感(目視・異音・異臭など)によって正確に判断することは難しい。そのため、絶縁劣化を検出する手法は、従来、多数提案されている。
絶縁劣化検出の手法のとしてよく知られたものでは、絶縁劣化の進行過程で発生する部分放電を利用する手法がある。例えば、コロナ放電に伴うオゾンと音波が同時に検出された場合に絶縁物が劣化していると判断する絶縁劣化検出方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、部分放電の検出手法としては、例えば、異臭、煙、閃光、熱、音のいずれか1種類以上を検出し、所定レベル以上のときに信号を出力する検出機構と、電磁界変化を検出する電磁界検出機構とを備え、各検出機構から入力される信号の組み合わせパターンに応じて、予め設定された放電の軽重度を示す信号を出力する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、別の電気機器の絶縁診断方法では、診断対象絶縁物の種類,外部環境(温度,湿度,外部ノイズ等)などを考慮して診断項目を決定し、この診断項目と相関が強く、現地で外部環境に影響されることなく短時間で容易に測定できる複数の測定項目を選定し、それらの測定結果をもとに、予め用意した相関データに基づいて総合的に判断して正確な劣化診断を行う絶縁診断方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−171664号公報(第2頁、第2図)
【特許文献2】特開2008−76209号公報(第3頁、図1
【特許文献3】特開2005−61901号公報(第4−5頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1又は2の技術では、部分放電が発生した際の異常は検知できるものの、いつ部分放電が発生するのかを予知すること難しいという問題があった。また、部分放電の検出の精度や絶縁物が設置されている構造上の条件によっては、部分放電が検出される前に、地絡又は短絡に至る虞もあるという問題があった。
これに対して特許文献3に示す絶縁診断方法では、部分放電の発生を予測でき、地絡、漏電又は短絡が発生する前に、絶縁物の劣化の状態を診断することが可能であるが、診断測定用データを得るためには、停電状態で絶縁物を直接測定するか、絶縁物から試料を採取してその試料を測定する必要があり、電気設備を停電しなければならないという問題があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、電気設備を停電することなく、絶縁物の劣化程度を推定して判断する電気設備の絶縁劣化測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電気設備の絶縁劣化測定方法は、吸気口と排気口とを有する筐体に電気機器が収容された電気設備の絶縁劣化測定方法であって、空気中に含まれる窒素酸化物量,硫黄酸化物量,塩分量と絶縁物の劣化程度との相関データを予め用意しておき、吸気口から取り込まれ排気口から排出される空気中の窒素酸化物量,硫黄酸化物量,塩分量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測し、判定手段において、両計測手段で計測した計測値の差分を求め、相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断するものである。
【0007】
また、吸気口と排気口とを有する筐体に電気機器が収容された電気設備の絶縁劣化測定方法であって、空気中に含まれる硝酸イオン量,硫酸イオン量,塩化物イオン量と絶縁物の劣化程度との相関データ予め用意しておき、吸気口から取り込まれ排気口から排出される空気中の硝酸イオン量,硫酸イオン量,塩化物イオン量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測し、判定手段において、両側計測手段で計測した計測値の差分を求め、相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の電気設備の絶縁劣化測定方法によれば、窒素酸化物量,硫黄酸化物量,塩分量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測してその計測値の差分を求め、予め求めておいた相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断するので、電気設備内に収容した電気機器に使用される絶縁物の劣化程度を、電気設備を停電することなく推定して判断することができる。
【0009】
また、硝酸イオン量,硫酸イオン量,塩化物イオン量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測してその計測値の差分を求め、予め求めておいた相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断するので、上記と同様に、電気設備内に収容した電気機器に使用される絶縁物の劣化程度を、電気設備を停電することなく推定して判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の実施の形態1による電気設備の絶縁劣化測定方法を説明する説明図である。
図2図1において、測定対象が空気中の酸化物量又は塩分量の場合の、判定手段での判断を説明する説明図である。
図3図1において、測定対象が空気中のイオンの場合の、判定手段での判断を説明する説明図である。
図4】この発明の実施の形態2による絶縁劣化測定方法を用いた電気設備を示す側面断面図である。
図5】実施の形態2による絶縁劣化測定方法を用いた電気設備の他の例を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、図に基づいて説明する。図1は、実施の形態1による電気設備の絶縁劣化測定方法において、電気設備内の絶縁物の劣化のプロセスを説明する説明図である。
図において、破線で示す部分は電気設備の筐体1を示している。電気設備の筐体1の内部に収容された電気機器の通電部は通電により発熱するので、筐体1には外気を取り入れる吸気口2と、暖められた空気を排出する排気口3を備えている。吸気口2から取り込み排気口3から排出する空気中に含まれる物質(詳細は後述する)の量を計測する吸気側計測手段4と排気側計測手段5を有している。更に、両計測手段4,5からの計測データを入力し、絶縁物の劣化程度を推定して判定する判定手段6を備えている。以下、具体的に説明する。
【0012】
電気設備の筐体1の外部の空気中には、NOx(窒素酸化物)又はSOx(硫黄酸化物)又は塩分等が含まれている。これらは、空気と共に筐体1の吸気口2より筐体1の内部へ侵入する。
そこで、先ず始めに、これらの酸化物や塩分等の物質が、筐体1の内部の電気機器に使用されている絶縁物と反応して絶縁物を劣化させるプロセスを図1に基づいて説明する。なお、図1では、上記物質のうち、NOx(窒素酸化物)を例に挙げて説明する。
吸気口2から空気と共に侵入したNOx(窒素酸化物)の大部分は、筐体1の排気口3から外部へ排出されるが、一部は、筐体1内の水分と化学反応を起こして、酸性物質を生成する。具体的には次のような反応が起こる。
【0013】
筐体1の内部において、NOxは、筐体1の内部にある水分(HO)と反応して、下記の(1)式に示すような化学反応を起こして硝酸(HNO)が生成される。
3NO+HO→2HNO+NO・・・(1)
絶縁物を構成する材料には、炭酸カルシウム(CaCO)が含まれているので、生成された硝酸(HNO)は、更に絶縁物の炭酸カルシウム(CaCO)と反応して、下記の(2)式のように変化する。
3HNO+CaCO→Ca(NO+CO+HO・・・(2)
この反応が繰り返して起こることによって、硝酸カルシウムが生成されて硝酸イオン(NO)が発生する。こうして窒素酸化物が筐体1内に取り込まれて絶縁物の劣化が進行していき、最終的には、地絡、漏電及び短絡を引き起こすことになる。発生した硝酸イオン(NO)は、排気口3から排出される。
【0014】
次に、本願の絶縁劣化測定方法について説明する。
上記のNOxの例のように、筐体1内に取り込まれた空気中の窒素酸化物は、筐体1内の絶縁物と反応して硝酸カルシウムとして堆積すると共に硝酸イオンが生成されるので、吸気口2側と排気口3側で見れば、NOxの量は吸気口2側より排気口3側に方が減少し、硝酸イオンイオンの量は吸気口2側より排気口3側で増加する。
そこで予め、準備段階として、絶縁物の劣化程度と空気中に含まれる窒素酸化物(NOx)量,硫黄酸化物(SOx)量,塩分量の関係のデータを収集して絶縁物劣化特性として把握しておき、相関データを判定手段6に記憶させておく。
同様に、イオンの量についても、絶縁物の劣化程度と空気中に含まれるイオン量の関係のデータを収集してその相関データを判定手段6に記憶させておく。なお、イオンの種類は、NO(硝酸イオン),SO2−(硫酸イオン),Cl(塩化物イオン)とする。
更に、絶縁物の劣化程度との関係において、電気設備内に取り込まれる酸化物量の閾値、塩分量の閾値、及び、発生するイオン量の閾値を決めておく。以下、NOx(窒素酸化物)を例に説明する。
【0015】
次の計測段階では、電気設備の筐体1内に侵入してくる空気に含まれるNOx(窒素酸化物)の量を吸気口2の外部側において吸気側計測手段4で計測し、排出されるNOx(窒素酸化物)の量を排気口3の外部側において排気側計測手段5で計測し、各計測値を判定手段6に入力する。この計測は、所定の間隔で継続して行う。
図2及び図3は、判定手段6での判定処理を説明する説明図であり、図2は、計測対象が酸化物又は塩分の場合、図3はイオンの場合である。以下では、吸気側計測手段4から取り込んだものを吸気部、排気側計測手段5から取り込んだものを排気部と呼ぶことにする。
図2において、判定手段6では、吸気部のNOxと排気部のNOxの量を比較し差分を記憶する。この工程を繰り返し、差分データを累積していく。この累積値は、絶縁物の劣化原因となる窒素酸化物が筐体内に取り込まれ、絶縁物と化学反応を起こし筐体1側に蓄積したものと考えられるので、予め用意した相関データに基づき、累積値から絶縁物の劣化の程度を判断する。
また、累積値が予め設定した閾値を超えた場合は、絶縁物の劣化が所定以上進行すると判断して警報を出す。または、差分データの変化量が、予め設定した閾値を超えた場合は、絶縁物の劣化程度が速いと判断して警報を出す。
【0016】
また、式(2)で説明したように、化学反応により硝酸イオン(NO)が発生するので、イオン量の増加を見ることで絶縁物の劣化の進行状況を推定することができる。
イオンは筐体1外の空気中にも存在するので、吸気側計測手段4でも計測し、排気側計測手段5で計測した硝酸イオン(NO)の量と共に判定手段6に入力する。イオンの場合は排気部側が多くなる。
図3に示すように、判定手段6では、吸気部のイオン量と排気部のイオン量を比較し差分を求めて記憶する。この工程を繰り返し、差分データを累積していく。そして予め用意した相関データに基づいて劣化程度を判断する。累積値が予め設定した閾値を超えた場合は、絶縁物の劣化が所定以上進行していると判断して警報を出す。または、差分データの変化量が、予め設定した閾値を超えた場合は、絶縁物の劣化程度が速いと判断して警報を出す。
【0017】
以上までは、NOx(窒素酸化物)を例に挙げて説明した。もしSOx(硫黄酸化物)の場合であれば、図1で示す筐体1内の反応は、次式のようになる。
SO+HO→HSO・・・(3)
SO+CaCO→CaSO+CO+HO・・・(4)
また、塩分の場合であれば、次のようになる。
NaCl+HO→NaOH+HCl・・・(5)
2HCl+CaCO→CaCl+CO+HO・・・(6)
上記の反応が起こることで、硫黄酸化物の場合は硫酸イオン(SO2−)が発生し、塩分の場合であればCl(塩化物イオン)が発生する。
【0018】
したがって、SOx(硫黄酸化物)又は塩分を両検出手段で検出し、図2のように吸気部と排気部で比較して、上記のNOx(窒素酸化物)の場合と同様に判定手段6で絶縁物の劣化状況を判定することができる。
更に、検出対象物質を硫酸イオン(SO2−)又はCl(塩化物イオン)とし、図3のように、吸気部側と排気部側で比較して差分を求め、上述の硝酸イオン(NO)の場合と同様に判定手段6で絶縁物の劣化状況を推定して判定することが可能である。
【0019】
上記のように、本願の吸気部と排気部で検出する物質は、NOx(窒素酸化物)量,SOx(硫黄酸化物)量,塩分量,NO(硝酸イオン)量,SO2−(硫酸イオン)量,Cl(塩化物イオン)量であるが、これらから少なくとも1つを選択して検出すればよい。また、複数を組み合わせて検出すれば、絶縁物の劣化診断の精度を上げることができる。
なお、絶縁物を構成する材料として、炭酸カルシウム(CaCO)を例に挙げたが、炭酸カルシウムは酸と反応しやすいので、現在では、水酸化アルミニウム(Al(OH))を含む材料も多く使用されている。この場合でも、反応式は省略するが同様に反応物質が生成されイオンが検出されるので、本願の測定方法を適用できる。
【0020】
また、絶縁物の劣化は、絶縁物が置かれている環境の温度や湿度に依存することが知られている。
そこで、吸気口2と排気口3の各検出手段4,5の近傍に、温度・湿度計測器を備えておくと共に、絶縁物の劣化程度と酸化物の量又は発生イオン量との相関データに対し、温度と湿度が及ぼす影響を把握しておく。温度・湿度により補正した補正データとして予め判定手段6に記憶させておいても良い。
そして、計測時に、両計測手段4,5で空気中の酸化物や塩分、又はイオンを検出して判定手段6に取り込むとき、同時に温度と湿度の情報も取り込み、温度と湿度により補正を加えて判断することで、電気設備内に収容されている絶縁物の劣化程度を、より正確に推定し判定することが可能となる。
【0021】
以上のように、実施の形態1による電気設備の絶縁劣化測定方法によれば、吸気口と排気口とを有する筐体に電気機器が収容された電気設備の絶縁劣化測定方法であって、空気中に含まれる窒素酸化物量,硫黄酸化物量,塩分量と絶縁物の劣化程度との相関データを予め用意しておき、吸気口から取り込まれ排気口から排出される空気中の窒素酸化物量,硫黄酸化物量,塩分量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測し、判定手段において、両計測手段で計測した計測値の差分を求め、相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断するので、電気設備内に収容した電気機器に使用される絶縁物の劣化程度を、電気設備を停電することなく推定して判断することができる。
【0022】
また、空気中に含まれる硝酸イオン量,硫酸イオン量,塩化物イオン量と絶縁物の劣化程度との相関データ予め用意しておき、吸気口から取り込まれ排気口から排出される空気中の硝酸イオン量,硫酸イオン量,塩化物イオン量のうちの少なくとも一つを、吸気側計測手段と排気側計測手段で計測し、判定手段において、両計測手段で計測した計測値の差分を求め、相関データに基づき絶縁劣化の進行程度を判断するので、上記と同様の効果を得ることができる。
【0023】
また、相関データに対する温度及び湿度の影響を把握しておき、吸気口から取り込まれる空気の温度及び湿度と、排気口から排出される空気の温度及び湿度とを計測して判定手段に取り込み、判定手段において、取り込んだ温度及び湿度により補正を加えて絶縁劣化の進行程度を判断するので、絶縁劣化の進行程度を、より正確に判断することができる。
【0024】
また、吸気側計測手段と排気側計測手段の計測値の差分の累積値または計測値の差分の変化量が、予め定めた閾値を越えたとき警報を出すようにしたので、部分放電などの異常が発生する前に、絶縁劣化状態を察知して、絶縁物の診断や取替を実施することができる。
【0025】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1で説明した電気設備の絶縁劣化測定方法を適用する電気設備であり、図4は、電気設備の一例として、スイッチギヤを示す側面断面図である。なお、実施の形態2において、実施の形態1の図1と同等の機能を有する部分は、分かりやすいように同一符号としている。
【0026】
図4に示すように、スイッチギヤは、筐体1の内部が隔壁により複数の室に区画されており、正面(図で左側)扉の中央部の後方は、引出形の遮断器7が収容される遮断器室7aとなっている。遮断器7の背面上部と下部から端子が引き出され、上部端子は断路部8と分岐母線9を介して3相の母線10に接続され、下部端子は断路部8と接続導体11を介してケーブル12に接続されている。分岐母線9と母線10は母線室10aに収容され、接続導体11とケーブル12はケーブル室12aに収容されている。
筐体1の前面下部側には、吸気口2が設けられ、遮断器室7a,母線室10a,及びケーブル室12aの天井側には、それぞれ排気口3が設けられている。
【0027】
図4の中に破線矢印で示すように、下部の吸気口2から取り入れられた外気は内部で暖められて上部の各排気口3から排出される。
吸気口2の外部側には、吸気される空気中に含まれるNOx,SOx,塩分のうちの少なくとも一つ、又は、NO,SO2−,Clのうちの少なくとも一つを検出してその量を計測する吸気側計測手段4を備えている。また、排気口3の外部側には、吸気口2側で計測する物質と同じ物質を計測する排気側計測手段5を備えている。排気側計測手段5は、遮断器室7a,母線室10a,ケーブル室12aの各排気口3に個別に設けておけば、それぞれの室の絶縁物の劣化を測定することが可能である。
吸気口2及び排気口3以外からの空気の出入は測定精度上好ましくないので、そのような箇所がある場合は塞いでおくものとする。
更に、吸気側計測手段4と排気側計測手段5の近傍には、吸気又は排気される空気の温度及び湿度を計測する温度・湿度計測器13を備えている。
【0028】
このような構成により、正面扉下段の吸気口2より筐体1内に入った空気は内部を通過して天井側の排気口3へ排気されるが、この過程で、実施の形態1の図1で説明したような化学反応が起こる。例えば、測定する物質がNOxの場合であれば、空気中に含まれる水分と化学反応して酸性物質であるHNOが生成されて絶縁物表面に付着する。この酸性物質は絶縁物の表面の物質、例えば、炭酸カルシウム(CaCO)と反応して生成物が堆積し絶縁物を劣化させ、反応の過程で硝酸イオン(NO)が発生する。発生したイオンは空気と一緒に天井側の排気口3から排出される。
【0029】
吸気口2と排気口3の外側には、吸気側計測手段4と排気側計測手段5を備えているので、各計測手段からの計測値を、実施の形態1で説明したものと同等の判定手段6(図示せず)に入力し、判定手段6において、予め求めておいた、前述の空気中の物質に対する絶縁物の劣化特性(閾値及び温度・湿度補正を含む)を示す相関データに基づいて劣化程度を判断し、閾値を超えた場合は、絶縁物の劣化が所定以上進行していると判断して、警報手段(図示せず)から警報を出す。
本願の構成では、各計測手段4,5と温度・湿度計測器13は、スイッチギヤの筐体1の外側に設置されているため、それらのメンテナンス時にも、電気設備を停電させる必要はない。
【0030】
なお、図4に示すスイッチギヤは一例を示すものであり、遮断器,母線等の電気機器は図に限定するものではない。また、スイッチギヤ以外に、コントロールギヤや変圧器等が収容された電気設備にも適用可能である。
【0031】
図5は、本願の絶縁劣化測定方法を適用する別の電気設備を示す側面断面図である。
図のように、電気室の筐体1の中にスイッチギヤを収納した電気設備である。すなわち、電気設備に収容される電気機器がスイッチギヤの場合である。スイッチギヤは、例えば図4と同等なので、細部の説明は省略する。電気室の筐体1の下段部には、外気を吸気するための吸気口2が設けられており、筐体1の天井部側には、排気のための排気口3が設けられている。
吸気口2及び排気口3の筐体1からみて外側には、それぞれ、吸気側計測手段4と排気側計測手段5を備えている。各計測手段の近傍に温度・湿度計測器を設けても良いが、電気室の場合は、筐体1に空調設備を備えている場合が多いので、温度・湿度の情報は空調設備から得れば良い。
各計測手段4,5の作用及び絶縁劣化測定方法は図4の場合と同等なので、詳細な説明は省略する。
【0032】
図5の構成によれば、電気室内に収容されたスイッチギヤ等の電気機器内の絶縁物の劣化程度を予測して判断することが可能となる。
また、図4と比較して、電気室内の温度及び湿度を空調により管理できるので、電気室内に進入する空気中に含まれるNOx、SOx、塩分等及び空気の湿度を定量的に把握することで、これらの物質及び空気の湿度を抑制するための対策の立案に寄与することができる。
【0033】
なお、便宜上、吸気口と排気口は1箇所ずつ設けたものを示したが、それぞれ複数設けることも可能である。その場合は、それぞれの空気の流れの途中にある絶縁物の劣化状態の予測が可能となる。
【0034】
以上のように、実施の形態2によれば、電気設備であるスイッチギヤの筐体の吸気口と排気口の外部側に、吸気側計測手段と排気側計測手段、及び温度・湿度計測器を設け、実施の形態1に示した絶縁劣化測定方法により絶縁物の劣化程度を判断するように構成したので、スイッチギヤ内で使用される絶縁物の劣化程度を、スイッチギヤを停電することなく推定して判断することができる。
また、各計測手段は、筐体の外部側に設置されているため、交換が容易である。
【0035】
また、電気室の筺体の内部にスイッチギヤが収容されて構成された電気設備の、電気室筐体に設けた吸気口と排気口に、吸気側計測手段と排気側計測手段を設け、実施の形態1の絶縁劣化測定方法により絶縁物の劣化程度を判断するように構成したので、上記と同様の効果を得ることができる。
また、通常、電気室に設けられる空調設備を利用して湿度を制御し、絶縁物の劣化の進行を抑制することができる。
【0036】
なお、本願発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変更、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 筐体、2 吸気口、3 排気口、4 吸気側計測手段、5 排気側計測手段、6 判定手段、7 遮断器、7a 遮断器室、8 断路部、9 分岐母線、10 母線、10a 母線室、11 接続導体、12 ケーブル、12a ケーブル室、13 温度・湿度計測器。
図1
図2
図3
図4
図5