【文献】
MURAKAMI, N. et al,Development of a visible-light-responsive rutile rod by site-selective modification of iron(III) ion on {1 1 1} exposed crystal faces,Applied Catalysis B: Environmental,2010年 3月30日,Vol.97, No.1-2,p.115-119,doi:10.1016/j.apcatb.2010.03.030
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
[酸化チタン粒子]
本発明の酸化チタン粒子は、棒状或いは針状形状を有していることを特徴とし、そのアスペクト比[長辺/短辺(長さ)の比率]としては、例えば1.5以上、好ましくは1.5〜100程度、特に好ましくは2.0〜20、最も好ましくは5.0〜15である。酸化チタン粒子のアスペクト比は、例えば、SEM写真から求めることができる。アスペクト比が上記範囲を下回ると(すなわち、酸化チタン粒子の形状がより球形に近くなると)、バインダー成分と混合した際に、酸化チタン粒子が密に充填されて細孔を塞ぐため、得られる光触媒塗膜の表面積が低下し、塗膜表面への光触媒の露出量が低下する結果、光触媒能が低下する傾向がある。
【0024】
酸化チタン粒子としては、例えば、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、アスペクト比が大きい形状を有する点でルチル型酸化チタン粒子が好ましい。
【0025】
また、本発明においては、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源下でも高い触媒活性を発揮することができる点で、遷移金属化合物を担持した酸化チタン粒子(遷移金属化合物担持酸化チタン粒子)を使用することが好ましい。遷移金属化合物は、例えば、遷移金属イオン、遷移金属単体、遷移金属塩、遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物又は遷移金属錯体の状態で担持される。
【0026】
更に、前記遷移金属化合物は、酸化チタン粒子の露出結晶面のうち、全ての面でなく特定の面(例えば、特定の1面又は2面等)に選択的に担持されることが、酸化反応と還元反応の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、それにより励起電子とホールの分離性を高め、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を極めて低いレベルにまで抑制することができ、より高い光触媒活性を発揮することができる点で好ましい。
【0027】
尚、本発明において、「遷移金属化合物を特定の面に選択的に担持」とは、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に担持する遷移金属化合物の50%を超える量(好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)が2面以上の露出結晶面のうち、全ての面ではなく特定の面(例えば、特定の1面又は2面等)に担持されていることをいう。遷移金属化合物の担持は、透過型電子顕微鏡(TEM)やエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を使用し、露出結晶面上の遷移金属化合物由来のシグナルを確認することで判定できる。
【0028】
遷移金属化合物としては、可視光領域に吸収スペクトルを有し、励起状態で伝導帯に電子を注入することができるものであればよく、例えば、周期表第3〜第11族元素化合物、なかでも周期表第8〜第11族元素化合物が好ましく、特に、三価の鉄化合物(Fe
3+)が好ましい。鉄化合物の酸化チタン粒子への担持においては、三価の鉄化合物(Fe
3+)は吸着しやすく、二価の鉄化合物(Fe
2+)は吸着しにくい特性を有するため、その特性を利用することにより容易に面選択性を付与することができるからである。
【0029】
ルチル型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(110)(001)(111)(011)面等を挙げることができる。本発明におけるルチル型酸化チタン粒子としては、例えば、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(110)(011)面を有するルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、酸化反応と還元反応の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、励起電子とホールとの再結合及び逆反応の進行を抑制することができる点で、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子が好ましい。(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタンの酸化反応面は、(111)面と(001)面である。
【0030】
従って、本発明における遷移金属化合物担持酸化チタン粒子としては、なかでも、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子の(001)(111)面に遷移金属化合物が選択的に担持されているものが好ましい。
【0031】
酸化チタン粒子として、例えば、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子は、チタン化合物を、構造制御剤として親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)の存在下、水性媒体(例えば、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合液)中で水熱処理[例えば、100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]することにより合成することができる。
【0032】
前記チタン化合物としては、3価のチタン化合物、4価のチタン化合物を挙げることができる。3価のチタン化合物としては、例えば、三塩化チタンや三臭化チタン等のトリハロゲン化チタン等を挙げることができる。本発明における3価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で三塩化チタン(TiCl
3)が好ましい。
【0033】
また、本発明における4価のチタン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
Ti(OR)
tX
4−t (1)
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。tは0〜3の整数を示す)
【0034】
Rにおける炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等のC
1−4脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。
【0035】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。
【0036】
このような4価のチタン化合物としては、例えば、TiCl
4、TiBr
4、Til
4等のテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH
3)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Cl
3、Ti(OC
4H
9)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Br
3、Ti(OC
4H
9)Br
3等のトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH
3)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Cl
2、Ti(OC
4H
9)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Br
2等のジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH
3)
3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Cl、Ti(OC
4H
9)
3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Br等のモノハロゲン化トリアルコキシチタン等を挙げることができる。本発明における4価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタン(TiCl
4)が好ましい。
【0037】
特に、前記チタン化合物として4価のチタン化合物を使用する場合は、構造制御剤として親水性ポリマーを添加しなくとも、反応温度110〜220℃(好ましくは150℃〜220℃)、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で2時間以上(好ましくは5〜15時間)水熱処理を施すことにより(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子を合成することができる。
【0038】
その他、(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタンは、(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子を硫酸(好ましくは、50重量%以上の高濃度の硫酸、特に好ましくは濃硫酸)中に投入し、加熱下で撹拌することにより、酸化チタン粒子の稜又は頂点の部位を浸食(溶解)して合成することもできる。(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子は、チタン化合物を水性媒体(例えば、水、又は水と水溶性有機溶媒との混合液)中で水熱処理[例えば、100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]することにより合成することができる。水熱処理の際には、ハロゲン化物を添加することが、得られる粒子のサイズ及び表面積を調整することができる点で好ましい。
【0039】
本発明における酸化チタン粒子の比表面積としては、例えば20〜100m
2/g、好ましくは40〜90m
2/g、特に好ましくは50〜85m
2/gである。酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を下回ると、反応物質の吸着能力が低下して光触媒能が低下する傾向があり、一方、酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を上回ると、励起電子とホールの分離性が低下し、光触媒能が低下する傾向がある。
【0040】
遷移金属化合物の酸化チタン粒子への担持は、酸化チタン粒子に遷移金属化合物を含浸する含浸法により行うことができる。
【0041】
含浸は、具体的には、酸化チタン粒子を水溶液中に分散して浸漬し、撹拌しながら、遷移金属化合物を添加することにより行うことができ、例えば、遷移金属化合物として三価の鉄化合物(Fe
3+)を使用する場合は、鉄化合物(例えば、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等)を添加することにより行うことができる。
【0042】
遷移金属化合物の添加量としては、例えば、酸化チタン粒子に対して0.01〜3.0重量%程度、好ましくは0.05〜1.0重量%である。遷移金属化合物の添加量が上記範囲を下回ると、酸化チタン粒子表面における遷移金属化合物の担持量が低下し、光触媒活性が低下する傾向があり、一方、遷移金属化合物の添加量が上記範囲を上回ると、注入電子の逆電子移動等により励起電子が有効に作用せず、光触媒活性が低下する傾向がある。浸漬時間としては、例えば、30分から24時間程度、好ましくは1〜10時間である。
【0043】
そして、本発明においては、酸化チタン粒子に遷移金属化合物を含浸する際に励起光を照射することが好ましい。励起光を照射すると、酸化チタン粒子の価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子が生成し、これらは粒子表面へ拡散し、各露出結晶面の特性に従って励起電子とホールとが分離されて酸化反応面と還元反応面とを形成する。この状態で遷移金属化合物として、例えば三価の鉄化合物の含浸を行うと、三価の鉄化合物(Fe
3+)は酸化反応面には吸着するが、還元反応面では三価の鉄化合物(Fe
3+)は二価の鉄化合物(Fe
2+)に還元され、二価の鉄化合物(Fe
2+)は吸着しにくい特性を有するため、溶液中に溶出し、結果として酸化反応面にのみ鉄化合物(Fe
3+)が担持された遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を得ることができる。
【0044】
励起光の照射方法としては、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することができればよく、例えば、紫外線を照射することにより行うことができる。紫外線照射手段としては、例えば、中・高圧水銀灯、UVレーザー、UV−LED、ブラックライト等の紫外線を効率よく生成する光源を使用した紫外線露光装置等を使用することができる。励起光の照射量としては、例えば0.1〜300mW/cm
2程度、好ましくは0.5〜100mW/cm
2、最も好ましくは1〜5mW/cm
2である。励起光の照射時間としては、例えば1分から72時間程度、好ましくは30分から48時間である。
【0045】
さらに、本発明においては、含浸の際に犠牲剤を添加してもよい。犠牲剤を添加することにより、酸化チタン粒子表面において、特定の露出結晶面により高い選択率で遷移金属化合物を担持させることができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい有機化合物を使用することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。
【0046】
犠牲剤の添加量としては、適宜調整することができ、例えば、酸化チタン溶液の0.5〜5.0重量%程度、好ましくは1.0〜2.0重量%である。犠牲剤は過剰量を使用してもよい。
【0047】
上記方法により得られた遷移金属化合物担持酸化チタン粒子は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0048】
[バインダー成分]
本発明のバインダー成分は、上記酸化チタン粒子を固定する働きを有するものであり、例えば、過酸化チタン、ケイ素系化合物、フッ素系樹脂等を挙げることができる。
【0049】
ケイ素系化合物としては、例えば、テトラブロモシラン、テトラクロロシラン、トリブロモシラン、トリクロロシラン、ジブロモシラン、ジクロロシラン、モノブロモシラン、モノクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロエチルシラン、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジエチルシラン、クロロメチルシラン、クロロエチルシラン、t−ブチルクロロジメチルシラン、t−ブチルクロロジエチルシラン等のハロゲン化シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メトキシシラン、エトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシエチルシラン、ジエトキシエチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジエチルシラン、エトキシジエチルシラン等のアルコキシシラン化合物等を挙げることができる。
【0050】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、パーフルオロシクロポリマー、ビニルエーテル−フルオロオレフィンコポリマー、ビニルエステル−フルオロオレフィンコポリマー、テトラフルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー、クロロトリフルオロエチレン−ビニルエーテルコポリマー、テトラフルオロエチレンウレタン架橋体、テトラフルオロエチレンエポキシ架橋体、テトラフルオロエチレンアクリル架橋体、テトラフルオロエチレンメラミン架橋体等を挙げることができる。
【0051】
本発明におけるバインダー成分としては、少なくとも過酸化チタンを含有することが好ましく、過酸化チタン単独、又は過酸化チタンとケイ素系化合物若しくはフッ素系樹脂を併用することが好ましい。過酸化チタンは、成膜性が高く、塗布、乾燥することにより、優れた接着性を有する塗膜を速やかに形成することができ、その上、酸化チタン粒子の光触媒作用によって分解されることがないため、耐久性に優れ、長期に亘って酸化チタン粒子を固定することができるからである。
【0052】
過酸化チタンは、例えば、塩基性物質(例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム等)の存在下で、TiCl
4等のチタン化合物の水溶液に過酸化水素水を添加することにより合成することができる。
【0053】
[光触媒塗料]
本発明の光触媒塗料は、光触媒としての棒状或いは針状の酸化チタン粒子とバインダー成分とを少なくとも含有する。
【0054】
光触媒塗料の調製方法としては、特に限定されることがなく、酸化チタン粒子とバインダー成分とを混合すればよく、例えば、酸化チタン粒子とバインダー成分とを分散媒中で混合してもよく、酸化チタン粒子とバインダー成分とをそれぞれ別個に分散媒と混合してゾル状態とし、ゾル状態の酸化チタン粒子とゾル状態のバインダー成分とを混合してもよい。例えば、酸化チタンゾルは、湿式媒体撹拌ミル等の周知慣用の分散装置を使用して、酸化チタン粒子を分散媒(例えば、水、エタノール等)に分散させることにより調製することができる。酸化チタンゾル中の酸化チタン粒子含有量としては、例えば1.0〜10.0重量%程度である。また、過酸化チタンゾル中の過酸化チタン含有量としては、例えば1.00〜1.60重量%程度である。過酸化チタンゾルとしては、例えば、商品名「ティオスカイコートC」((株)ティオテクノ製)等の市販品を使用してもよい。
【0055】
光触媒塗料中の酸化チタン粒子とバインダー成分の配合比率は、例えば、酸化チタン粒子とバインダー成分の配合比率[前者:後者(重量比)]が、1:6〜30:1程度、好ましくは1:1〜15:1、特に好ましくは1.5:1〜13:1となるように配合することが好ましい。酸化チタン粒子の配合量が上記範囲を下回ると、光触媒能が低下する傾向があり、一方、酸化チタン粒子の配合量が上記範囲を上回ると、被着体に対する接着性、被着体の劣化防止性が低下する傾向がある。
【0056】
また、本発明に係る光触媒塗料には、上記酸化チタン粒子、バインダー成分、及び分散媒以外にも、他の成分として通常光触媒塗料に配合される化合物を必要に応じて適宜配合することができる、他の成分としては、例えば、塗布助剤等を挙げることができる。他の成分の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であればよく、例えば、光触媒塗料全量(100重量%)に対して、10重量%以下程度(例えば、0.01〜10重量%)である。
【0057】
[光触媒塗膜]
本発明の光触媒塗膜は、上記棒状或いは針状の酸化チタン粒子と上記バインダー成分とを少なくとも含有する光触媒塗料を、上記棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量が0.5g/m
2以上となるように塗布、乾燥して得られる光触媒塗膜であって、単位体積(厚さ1μm×1m
2)当たりの上記棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量が3.0g未満であることを特徴とする。
【0058】
本発明の光触媒塗膜は、少なくとも下記工程を経て製造される。
工程1:棒状或いは針状の酸化チタン粒子とバインダー成分とを少なくとも含有する光触媒塗料を調製する工程
工程2:光触媒塗料を、棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量が0.5g/m
2以上となるように均一に塗り広げ、乾燥する工程
【0059】
光触媒塗料は、例えば、スプレー、刷毛、ローラー、グラビア印刷等を使用することにより均一に塗り広げることができる。塗り広げた後は、乾燥(分散媒を蒸発)させることよって、速やかに塗膜を形成することができる。乾燥方法としては、室温で乾燥させてもよく、加熱して乾燥させてもよい。
【0060】
本発明においては、酸化チタン粒子として遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を使用することが、光触媒塗膜に可視光応答性を付与することができる点で好ましい。遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を使用する場合は、上記工程1の前に、励起光照射下、棒状或いは針状の酸化チタン粒子に遷移金属化合物を担持させて、棒状或いは針状の遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を得る工程を設けることが好ましい。
【0061】
光触媒塗料の塗布量は、上記棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量が0.5g/m
2以上(例えば0.5〜5.0g/m
2程度、好ましくは0.5〜3.0g/m
2)となる量である。光触媒塗料の塗布量が上記範囲を下回ると、光触媒能が低下する傾向がある。
【0062】
本発明の光触媒塗膜の単位体積(厚さ1μm×1m
2)当たりの上記棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量は、3.0g未満(例えば0.5g以上、3.0g未満程度、好ましくは0.5〜2.5g、特に好ましくは0.7〜2.0g)である。本発明の光触媒塗膜は、上記棒状或いは針状の酸化チタン粒子を含有するため、粒状の(=アスペクト比が1.5未満の)酸化チタン粒子を使用する場合と比べて、バインダー成分と混合した場合の充填率が低く、空隙率が大きい光触媒塗膜を形成することができ、結果として、表面が粗く、多孔性構造を有するため著しく表面積が広く、光触媒が塗膜内部に埋もれることなく塗膜表面に多く露出した構造を有し、極めて優れた光触媒能を発揮することができる(
図1参照)。
【0063】
上記方法により形成された光触媒塗膜は極めて高い光触媒能を発揮することができ、光の照射によって有害化学物質を水や二酸化炭素にまで分解することが可能である。そのため、抗菌防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚等様々な用途に使用することができる。さらに、被着体表面に対する接着性及び耐久性に優れるため、優れた光触媒能を長期に亘って発揮することができる。
【0064】
また、従来の光触媒塗膜は紫外線の少ない室内では機能が充分に発揮できず、室内用途への応用はなかなか進まなかったが、本発明において、特に光触媒として棒状或いは針状の遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を使用する場合は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができるため、室内等の低照度環境でも高いガス分解性能や抗菌作用を示し、室内の壁紙や家具をはじめ家庭内や病院、学校等の公共施設内での環境浄化、家電製品の高機能化等、広範囲への応用が可能である。
【0065】
[光触媒塗装体]
本発明の光触媒塗装体は、上記光触媒塗膜と基材を備えていることを特徴とする。
【0066】
本発明の光触媒塗装体の製造方法としては、例えば、基材表面に光触媒塗料を、棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量が0.5g/m
2以上となるように塗布し、乾燥して光触媒塗膜を形成して製造する方法や、他の基材上に棒状或いは針状の酸化チタン粒子の含有量が0.5g/m
2以上となるように塗布、乾燥して得られた光触媒塗膜を基材表面に貼り合わせることにより製造する方法等が挙げられる。
【0067】
基材表面に光触媒塗料を塗布する際、光触媒塗料を基材表面に直接塗布してもよく、基材表面に予めバインダー成分(特に、過酸化チタン)を含むコーティング剤を塗布することにより下塗り層を設け、その上に光触媒塗料を塗布してもよい。下塗り層を設けた場合、基材と光触媒塗膜とが下塗り層により完全に隔てられるため、基材として有機素材から成る基材を使用しても、前記下塗り層が光触媒作用を完全にブロックし、酸化チタン粒子の酸化作用により基材が損傷するのを防止することができる。基材表面に下塗り層を設ける場合、その厚みとしては、例えば0.1〜1.0μm程度、好ましくは0.2〜0.5μmである。
【0068】
前記光触媒塗装体を構成する基材の素材としては、特に限定されることがなく、各種プラスチック材料[例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のα−オレフィンをモノマー成分とするオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC);酢酸ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等]、ゴム材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム等)、金属材料(例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス等)、紙質材料(例えば、紙、紙類似物質等)、木質材料(例えば、木材、MDF等の木質ボード、合板等)、繊維材料(例えば、不織布、織布等)、革材料、無機材料(例えば、石、コンクリート等)、ガラス材料、磁器材料等の各種の素材を挙げることができる。本発明の光触媒塗装体を構成する基材としては、なかでも、プラスチック材料で形成された基材が好ましい。
【0069】
用途からみた基材としては特に制限されることがなく、例えば、レンズ(例えば、眼鏡やカメラのレンズ等)、プリズム、自動車や鉄道車両等の乗物部材(窓ガラス、照明灯カバー、バックミラー等)、建築部材(例えば、外壁材、内壁材、窓枠、窓ガラス等)、機械構成部材、交通標識等の各種表示装置、広告塔、遮音壁(道路用、鉄道用等)、橋梁、ガードレール、トンネル、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、照明器具、浴室用品、浴室部材(例えば、鏡、浴槽等)、台所用品、台所部材(例えば、キッチンパネル、流し台、レンジフード、換気扇等)、空調、トイレ用品、トイレ部材(例えば、便器等)等の抗菌防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚効果が期待される物品や、前記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等を挙げることができる。
【0070】
本発明の光触媒塗装体は上記光触媒塗膜を有するため、光の照射によって有害化学物質を水や二酸化炭素にまで分解することが可能である。そのため、優れた抗菌防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚等の効果を発揮することができる。さらに、本発明の光触媒塗装体は基材に対して優れた接着性を有し、耐久性に優れる光触媒塗膜を備えるため、優れた光触媒能を長期に亘って発揮することができる。
【0071】
また、特に光触媒として棒状或いは針状の遷移金属化合物担持酸化チタン粒子を含有する光触媒塗膜を備える場合は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間の低照度環境でも優れた抗菌防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚等の効果を発揮することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0073】
実施例及び比較例で得られた光触媒塗膜の接着性は、JIS K 5400(碁盤目試験方法)に準じて評価した。光触媒能(特に、可視光照射による触媒能)は、下記2つの方法にて評価した。
1.JIS R 1703−2(ファインセラミックス−光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法)に準じ、光源として紫外光照射装置に代えて蛍光灯を使用して評価した(セルフクリーニング性能試験)。
2.光触媒塗膜に光照射することで気相中のメチルメルカプタンを分解し、その分解量(%)から光触媒性能を評価した(メチルメルカプタンの分解能評価)。
メチルメルカプタンの分解量(%)は、実施例及び比較例で得られた光触媒塗膜(5cm×10cm)を反応容器(テドラーバッグ、材質:フッ化ビニル樹脂)の中に入れ、70ppmのメチルメルカプタンガス1Lを反応容器内に吹き込み、室温(25℃)で光照射(蛍光灯、1000ルクス)を行い、光照射開始から24時間後の反応容器内のメチルメルカプタン残量を炎光光度検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−2010」、(株)島津製作所製)を使用して測定し、初期メチルメルカプタン濃度との差から分解量(%)を算出した。
【0074】
調製例1(棒状酸化チタンの調製)
室温(25℃)にて、市販のTiCl
4水溶液(和光純薬工業(株)製試薬化学用、約16.5重量%Ti含有希塩酸溶液)を、Ti濃度が5.4重量%になるようにイオン交換水で希釈した。希釈後のTiCl
4水溶液56gをテフロン(登録商標)塗装された容量100mlのオートクレーブに入れ、密閉してオイルバスに投入し、30分間かけて、オートクレーブ内におけるTiCl
4水溶液の温度を180℃まで昇温した。その後、反応温度180℃、反応圧力1.0MPaの条件で10時間保持した後、オートクレーブを氷水で冷却した。3分後、オートクレーブ内におけるTiCl
4水溶液の温度が30℃以下になったことを確認した後、オートクレーブを開封し、反応物を取り出した。
10℃にて、得られた反応物を遠心分離した後、脱イオン水でリンスし、内温65℃の真空乾燥機(バキュームオーブン)で12時間減圧乾燥して、5.2kgの酸化チタン粒子(1)を得た。得られた酸化チタン粒子(1)を走査型電子顕微鏡(SEM)で確認したところ、結晶面(001)(110)(111)を有する棒状ルチル型酸化チタン粒子であった(アスペクト比:9.0、比表面積:76m
2/g、
図2参照)。
【0075】
得られた酸化チタン粒子(1)をイオン交換水に分散させ、1.0mW/cm
2に調節された高圧水銀ランプの光照射下で、撹拌しながら酸化チタン粒子(1)に対し鉄化合物が0.10重量%になるように調製された硝酸鉄(III)水溶液を加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6μS/cm
2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄化合物担持酸化チタン粒子(1)を得た(鉄化合物)。得られた鉄化合物担持酸化チタン粒子(1)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(110)(111)面を有する棒状ルチル型酸化チタン粒子の(001)と(111)面に鉄化合物(III)が選択的に担持されていた(
図3参照)。
【0076】
調製例2(酸化チタンゾルの作製方法)
調製例1で得られた鉄化合物担持酸化チタン粒子(1)を、分散媒としての水と混合し、湿式媒体撹拌ミル(商品名「ウルトラアペックミル UAM−015」、寿工業株式会社製)を使用して分散させ、酸化チタン濃度5重量%の酸化チタンゾル(1)を得た。
【0077】
実施例1
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)60gと過酸化チタンゾル(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)40gを混合して、酸化チタン/過酸化チタン(配合比)=3重量%/0.4重量%となる光触媒塗料(1)を得た。
得られた光触媒塗料(1)をスプレーガンを数回に分けて使用して、50g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(1)(酸化チタン粒子含有量:1.5g/m
2、1.5g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は4.7であった。膜厚は1.0μmであった(
図4参照)。
【0078】
実施例2
光触媒塗料(1)の塗布量を35g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして、光触媒塗膜(2)(酸化チタン粒子含有量:1.05g/m
2、1.31g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は4.2であった。膜厚は0.8μmであった。
【0079】
実施例3
光触媒塗料(1)の塗布量を20g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして、光触媒塗膜(2)(酸化チタン粒子含有量:0.6g/m
2、1.0g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は3.8であった。膜厚は0.6μmであった。
【0080】
実施例4
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)70gと過酸化チタンゾル(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)30gを混合して、酸化チタン/過酸化チタン=3.5重量%/0.3重量%となる光触媒塗料(2)を得た。
得られた光触媒塗料(2)をスプレーガンを数回に分けて使用して、43g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(4)(酸化チタン粒子含有量:1.5g/m
2、1.5g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は5.2であった。膜厚は1.0μmであった。
【0081】
実施例5
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)75gと過酸化チタンゾル(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)25gを混合して、酸化チタン/過酸化チタン=3.75重量%/0.25重量%となる光触媒塗料(3)を得た。
得られた光触媒塗料(3)をスプレーガンを数回に分けて使用して、30g/m
2塗布し、室温乾燥後、光触媒塗膜(5)(酸化チタン粒子含有量:1.05g/m
2、1.31g/μm×m
2)を作製した。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は5.0であった。膜厚は0.8μmであった。
【0082】
実施例6
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)90gにテトラエトキシシラン2gとエタノール8gを混合して、酸化チタン/テトラエトキシシラン=4.5重量%/2重量%となる光触媒塗料(4)を得た。
得られた光触媒塗料(4)をスプレーガンを数回に分けて使用して、30g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(6)(酸化チタン粒子含有量:1.35g/m
2、1.13g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は3.2であった。膜厚は1.2μmであった。
【0083】
実施例7
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)95gにテトラエトキシシラン1gとエタノール4gを混合して、酸化チタン/テトラエトキシシラン=4.75重量%/1重量%となる光触媒塗料(5)を得た。
得られた光触媒塗料(5)をスプレーガンを数回に分けて使用して、28g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(7)(酸化チタン粒子含有量:1.33g/m
2、1.02g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は3.5であった。膜厚は1.3μmであった。
【0084】
実施例8
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)70gにフッ素系樹脂(商品名「nafion」、デュポン製)を5重量%含有する水溶液30gを混合して、酸化チタン/フッ素系樹脂=3.5重量%/1.5重量%となる光触媒塗料(6)を得た。
得られた光触媒塗料(6)をスプレーガンを数回に分けて使用して、40g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(8)(酸化チタン粒子含有量:1.4g/m
2、0.93g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は3.5であった。膜厚は1.5μmであった。
【0085】
実施例9
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)80gにフッ素系樹脂(商品名「nafion」、デュポン製)を5重量%含有する水溶液20gを混合して、酸化チタン/フッ素系樹脂=4.0重量%/1.0重量%となる光触媒塗料(7)を得た。
得られた光触媒塗料(7)をスプレーガンを数回に分けて使用して、35g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(9)(酸化チタン粒子含有量:1.4g/m
2、1.08g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は3.8であった。膜厚は1.3μmであった。
【0086】
実施例10
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)60g、過酸化チタンゾル(商品名「ティオスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)10g、及びフッ素系樹脂(商品名「nafion」、デュポン製)を5重量%含有する水溶液30gを混合して、酸化チタン/過酸化チタン/フッ素系樹脂=3重量%/1.6重量%/1.5重量%となる光触媒塗料(8)を得た。
得られた光触媒塗料(8)をスプレーガンを数回に分けて使用して、50g/m
2塗布し、室温乾燥して、光触媒塗膜(10)(酸化チタン粒子含有量:1.5g/m
2、1.25g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は4.7であった。膜厚は1.2μmであった。
【0087】
比較例1
可視光応答型酸化チタン(商品名「TPS−201」、住友化学(株)製、アスペクト比:1.0)を、分散媒としての水と混合し、湿式媒体撹拌ミル(商品名「ウルトラアペックミル UAM−015」、寿工業株式会社製)を使用して分散させ、酸化チタン濃度5重量%の酸化チタンゾル(2)を得た。
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)に代えて、酸化チタンゾル(2)を使用した以外は実施例1と同様にして光触媒塗膜(11)(酸化チタン粒子含有量:1.5g/m
2、3.0g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は2.0であった。膜厚は0.5μmであった(
図5参照)。
【0088】
比較例2
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)に代えて、酸化チタンゾル(2)を使用した以外は実施例3と同様にして光触媒塗膜(12)(酸化チタン粒子含有量:0.6g/m
2、3.0g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は1.9であった。膜厚は0.2μmであった。
【0089】
比較例3
可視光応答型酸化チタン(商品名「MPT−623」、石原産業(株)製、アスペクト比:1.0)を、分散媒としての水と混合し、湿式媒体撹拌ミル(商品名「ウルトラアペックミル UAM−015」、寿工業株式会社製)を使用して分散させ、酸化チタン濃度5重量%の酸化チタンゾル(3)を得た。
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)に代えて、酸化チタンゾル(3)を使用した以外は実施例1と同様にして光触媒塗膜(13)(酸化チタン粒子含有量:1.5g/m
2、3.0g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は0.5であった。膜厚は0.5μmであった(
図6参照)。
【0090】
比較例4
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)に代えて、酸化チタンゾル(3)を使用した以外は実施例3と同様にして光触媒塗膜(14)(酸化チタン粒子含有量:0.6g/m
2、3.0g/μm×m
2)を得た。碁盤目試験では、100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は0.4であった。膜厚は0.2μmであった。
【0091】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0092】
実施例11
調製例2で得られた過酸化チタンゾル(1)69.4gと過酸化チタンゾル(商品名「ティオテクノスカイコートC」、(株)ティオテクノ製、過酸化チタン濃度:1重量%)30.1gとフッ素系界面活性剤(商品名「FC−4330」、住友スリーエム(株)製)0.58gを混合して、酸化チタン/過酸化チタン/フッソ系界面活性剤(配合比)=3重量%/0.26重量%/0.5重量%となる光触媒塗料(9)を得た。これをワイヤーバー(巻線No.#10)を用いてコロナ処理を施した透明PET表面に塗布することにより光触媒塗膜付きプラッスチック基板(1)を得た。得られた光触媒塗膜付きプラッスチック基板(1)における光触媒塗膜の酸化チタン粒子含有量は0.6g/m
2、1.5g/μm×m
2、膜厚は
0.4μmであった。碁盤目試験では100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は4.4であった。メチルメルカプタンの分解能評価においては、24時間後の分解量(%)は100%であった。
【0093】
実施例12
ワイヤーバー(巻線No.#10)に代えて、ワイヤバー(巻線No#20)を使用した以外は実施例11と同様にして、光触媒塗膜付きプラスチック基板(2)を得た。得られた光触媒塗膜付きプラッスチック基板(2)における光触媒塗膜の酸化チタン粒子含有量は1.2g/m
2、1.7g/μm×m
2、膜厚は
0.7μmであった。碁盤目試験では100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は4.6であった。メチルメルカプタンの分解能評価においては、24時間後の分解量(%)は100%であった。
【0094】
比較例5
調製例2で得られた酸化チタンゾル(1)に代えて比較例1で得られた酸化チタンゾル(2)を使用した以外は実施例11と同様にして光触媒塗膜付きプラスチック基板(3)を得た。得られた光触媒塗膜付きプラッスチック基板(3)における光触媒塗膜の酸化チタン粒子含有量は0.8g/m
2、3.5g/μm×m
2、膜厚は
0.23μmであった。碁盤目試験では100/100で接着していた。セルフクリーニング性能試験の活性値は1.7であった。メチルメルカプタンの分解能評価においては、24時間後の分解量(%)は55%であった。
【0095】
上記実施例及び比較例より、本発明に係る光触媒塗膜、及び光触媒塗装体は、優れた光触媒能と被着体表面に対する優れた接着性を併せ持つことが分かった。一方、光触媒としてアスペクト比が1.5未満の酸化チタン粒子を使用した光触媒塗膜は、被着体表面に対する接着性を担保できる厚みを有する場合、光触媒能が著しく劣ることが分かった。