特許第6053722号(P6053722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053722
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】燃料電池車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0606 20160101AFI20161219BHJP
   F17C 13/02 20060101ALI20161219BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20161219BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20161219BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01M8/06 R
   F17C13/02 301Z
   F17C5/06
   H01M8/10
   B60L11/18 G
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-118910(P2014-118910)
(22)【出願日】2014年6月9日
(65)【公開番号】特開2015-232948(P2015-232948A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 暁
(72)【発明者】
【氏名】判田 圭
(72)【発明者】
【氏名】門脇 和幸
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−200019(JP,A)
【文献】 特開2009−131053(JP,A)
【文献】 特開2013−198294(JP,A)
【文献】 特開2009−76328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00−8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部充填装置から充填される燃料ガスを貯蔵する貯蔵容器と、
前記貯蔵容器に貯蔵された燃料ガスを燃料電池に供給し当該燃料電池で発電させる燃料電池システムと、
前記貯蔵容器内に充填されている燃料ガス量を把握するために必要な当該貯蔵容器に関する物理状態を検出する状態検出装置と、
当該状態検出装置の検出値に基づいて生成されたデータ信号を前記外部充填装置へ送信する送信装置と、
所定の操作が行われたことに応じて通信開始要求信号を発生する要求検出装置と、
前記状態検出装置、前記送信装置、及び前記要求検出装置を制御する制御装置と、を備え、前記燃料電池を電源として走行する燃料電池車両であって、
前記制御装置は、前記状態検出装置の検出値に基づいて前記物理状態を表す送信値を決定し当該送信値に応じたデータ信号を生成する信号生成手段と、前記通信開始要求信号を検出した場合には前記燃料電池システムの起動状態に関わらず前記送信装置をデータ信号の送信が可能な状態にする通信開始手段と、を備え、
前記信号生成手段は、前記燃料電池システムが起動されていない場合には前記状態検出装置の検出値に基づいて定められた基準値を送信値とし、前記燃料電池システムが起動されている場合には前記外部充填装置で把握される前記燃料ガス量が多くなるように前記基準値を補正した値を送信値とすることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
前記信号生成手段は、前記燃料電池システムが起動されておりかつ前記貯蔵容器内の圧力又は燃料ガス量が所定の閾値以上である場合には、前記外部充填装置で把握される前記燃料ガス量が多くなるように前記基準値を補正した値を送信値とすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項3】
前記物理状態は前記貯蔵容器の温度であり、前記信号生成手段は、前記基準値より小さく補正した値を送信値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池車両。
【請求項4】
前記物理状態は前記貯蔵容器の圧力であり、前記信号生成手段は、前記基準値より大きく補正した値を送信値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池車両。
【請求項5】
前記信号生成手段は、前記燃料電池の発電量又は前記燃料電池による燃料ガスの消費量が多くなるほど、前記基準値からの補正量を大きくすることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の燃料電池車両。
【請求項6】
外部充填装置から充填される燃料ガスを貯蔵する貯蔵容器と、
前記貯蔵容器に貯蔵された燃料ガスを燃料電池に供給し当該燃料電池で発電させる燃料電池システムと、
前記貯蔵容器内に充填されている燃料ガス量を把握するために必要な前記貯蔵容器に関する物理状態を検出する状態検出装置と、
少なくとも前記状態検出装置の検出値に基づいて生成されたデータ信号を前記外部充填装置へ送信する送信装置と、
所定の操作が行われたことに応じて通信開始要求信号を発生する要求検出装置と、
前記状態検出装置、前記送信装置、及び前記要求検出装置を制御する制御装置と、を備え、前記燃料電池を電源として走行する燃料電池車両であって、
前記制御装置は、前記通信開始要求信号を検出した場合には前記燃料電池システムの起動状態に関わらず信号の送信が可能な状態にする通信開始手段と、前記燃料ガス量に相当する充填量パラメータの値を算出する充填量パラメータ算出手段と、前記充填量パラメータの値が満充填と判断できる目標値に達したことに応じて、前記送信装置から燃料ガスの充填を停止させるための充填停止要求信号を送信させるか又は前記データ信号の送信を停止させる充填停止指令手段と、を備え、
前記充填停止指令手段は、前記燃料電池システムが起動されている場合には、前記燃料電池システムが起動されていない場合よりも前記目標値を小さな値に設定することを特徴とする燃料電池車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池車両に関する。より詳しくは、燃料電池車両と外部の燃料ガス充填装置との間で燃料ガスの充填に関する通信を行うことが可能なものであって、通信を行いながら燃料電池で燃料ガスを消費することが可能な燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両は、その電源システムとして燃料電池システムを備える。燃料電池は、燃料ガスである水素ガスと酸化剤ガスである空気とが供給されると発電する。燃料電池車両には、燃料電池で発電に供するための水素ガスを貯蔵する水素タンクが搭載される。利用者は、水素ステーションで燃料電池による発電に必要な水素ガスを充填する。
【0003】
近年では水素タンク内に水素ガスを充填するための技術について、盛んに研究が進められている。例えば特許文献1の技術では、水素ステーションの水素充填装置と燃料電池車両とを接続し、その水素タンク内に水素ガスを充填する際、車両側からは水素タンクの温度や圧力等に関するデータ信号をステーション側に送信する。ステーション側では、車両側から受信したデータ信号やステーションに設けられたセンサの検出信号に基づいて充填中の水素タンクの状態(例えば、水素密度)を把握し、これによって満充填になるような適切なタイミングで水素ガスの充填を終了する。このように車両とステーションとで通信を行いながら水素ガスを充填する充填方法を、以下では通信充填という。また、車両とステーションとで通信を行わずに水素ガスを充填する方法を、以下では非通信充填という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−33068号公報
【特許文献2】特開2001−351667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上述のような水素タンクを備えた燃料電池車両は、従来では特許文献2に示されているように、燃料電池システムが起動している間(すなわち、燃料電池によって水素タンク内の水素ガスが消費される間)は、水素ガスの充填を禁止するものが多い。しかしながらこの場合、水素ガスの充填中に利用者によってエアコンがオンにされると、燃料電池システムが起動され、実行中の充填が停止してしまう場合がある。このため近年では、燃料電池システムの起動中であっても水素ガスの充填を行うことができるようにすることに対する要望が多い。
【0006】
ところが、このように燃料電池システムの稼働と水素ガスの充填とを並行して行うことができるようにすると、特に通信充填において以下のような課題が生じる。
【0007】
図5は、通信充填の実行中における燃料電池の発電量と、水素タンクの水素SOC(水素タンクに現に貯蔵されている水素量(又は水素密度)/水素タンクに充填できる最大水素量(又は水素密度)×100[%])との変化を模式的に示す図である。図5において、実線は実際の水素SOCの変化を示し、破線はステーションで把握する水素SOCの変化を示す。
【0008】
図5に示すように、燃料電池の発電量、すなわち水素タンクから取り出される水素ガスの流量が左程変化しない場合には、実際の水素SOCとステーションで把握する水素SOCとの間で大きな違いはない。ところが、例えば利用者がエアコンを操作することによって、充填中に燃料電池の発電量が大きく低下する場合がある。すると、これに合わせて水素タンクから取り出される水素ガスの流量も大きく減るが、ステーションの流量制御の遅れに起因して、図5に示すようにステーションで把握される水素SOCと実際の水素SOCとの間でずれが生じる。このため、ステーションは、適切なタイミングで充填を終了することができず、結果として過充填(規定の量より多くの量の水素ガスが充填されること)が生じてしまう。
【0009】
なお、イグニッションスイッチがオフにされても直ちに燃料電池システムを停止せずに所定の時間にわたって発電を継続し続けたりする場合や、イグニッションスイッチの操作によらず所定のタイミングで燃料電池システムを自動的に起動する場合等、上述の例とは異なるタイミングで水素タンク内の水素が消費される場合もある。このような場合も、通信充填を行っている間に、それまで実行していた処理が終了し、図5に示すように処理に伴う水素消費量が低下してしまい、過充填が生じるおそれもある。
【0010】
本発明は、通信充填を行うことができるものであって、ステーション側での充填流量制御の遅れに起因する過充填を防止できる燃料電池車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る燃料電池車両(例えば、後述の燃料電池車両V)は、外部充填装置(例えば、後述のステーション9)から充填される燃料ガスを貯蔵する貯蔵容器(例えば、後述の水素タンク31)と、前記貯蔵容器に貯蔵された燃料ガスを燃料電池(例えば、後述の燃料電池スタック12)に供給し当該燃料電池で発電させる燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)と、前記貯蔵容器内に充填されている燃料ガス量(例えば、後述の水素SOC)を把握するために必要な当該貯蔵容器に関する物理状態を検出する状態検出装置(例えば、後述のタンク温度センサ62、タンク圧力センサ63)と、当該状態検出装置の検出値に基づいて生成されたデータ信号を前記外部充填装置へ送信する送信装置(例えば、後述の赤外線送信器66)と、所定の操作が行われたことに応じて通信開始要求信号を発生する要求検出装置(例えば、後述のリッドセンサ65)と、前記状態検出装置、前記送信装置、及び前記要求検出装置を制御する制御装置(例えば、後述の通信充填ECU61)と、を備え、前記燃料電池を電源として走行する。前記制御装置は、前記状態検出装置の検出値に基づいて前記物理状態を表す送信値(TIR,PIR)を決定し当該送信値に応じたデータ信号を生成する信号生成手段(例えば、後述の通信充填ECU61のコンピュータ611のデータ信号生成機能)と、前記通信開始要求信号を検出した場合には前記燃料電池システムの起動状態に関わらず前記送信装置をデータ信号の送信が可能な状態にする通信開始手段(例えば、後述の通信充填ECU61のレギュレータ612)と、を備え、前記信号生成手段は、前記燃料電池システムが起動されていない場合には前記状態検出装置の検出値に基づいて定められた基準値(TIR_BS,PIR_BS)を送信値とし、前記燃料電池システムが起動されている場合には前記外部充填装置で把握される前記燃料ガス量が多くなるように前記基準値を補正した値(TIR_BS−ΔTIR,PIR_BS+ΔPIR)を送信値とする。
【0012】
(2)この場合、前記信号生成手段は、前記燃料電池システムが起動されておりかつ前記貯蔵容器内の圧力又は燃料ガス量(例えば、後述の水素SOC)が所定の閾値(例えば、後述の弱満充填閾値)以上である場合には、前記外部充填装置で把握される前記燃料ガス量が多くなるように前記基準値を補正した値を送信値とすることが好ましい。
【0013】
(3)この場合、前記物理状態は前記貯蔵容器の温度であり、前記信号生成手段は、前記基準値より小さく補正した値を送信値とすることが好ましい。
【0014】
(4)この場合、前記物理状態は前記貯蔵容器の圧力であり、前記信号生成手段は、前記基準値より大きく補正した値を送信値とすることが好ましい。
【0015】
(5)この場合、前記信号生成手段は、前記燃料電池の発電量又は前記燃料電池による燃料ガスの消費量が多くなるほど、前記基準値からの補正量(ΔTIR,ΔPIR)を大きくすることが好ましい。
【0016】
(6)本発明に係る燃料電池車両(例えば、後述の燃料電池車両V)は、外部充填装置(例えば、後述のステーション9)から充填される燃料ガスを貯蔵する貯蔵容器(例えば、後述の水素タンク31)と、前記貯蔵容器に貯蔵された燃料ガスを燃料電池(例えば、後述の燃料電池スタック12)に供給し当該燃料電池で発電させる燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)と、前記貯蔵容器内に充填されている燃料ガス量(例えば、後述の水素SOC)を把握するために必要な前記貯蔵容器に関する物理状態を検出する状態検出装置(例えば、後述のタンク温度センサ62、タンク圧力センサ63)と、少なくとも前記状態検出装置の検出値に基づいて生成されたデータ信号を前記外部充填装置へ送信する送信装置(例えば、後述の赤外線送信器66)と、所定の操作が行われたことに応じて通信開始要求信号を発生する要求検出装置(例えば、後述のリッドセンサ65)と、前記状態検出装置、前記送信装置、及び前記要求検出装置を制御する制御装置(例えば、後述の通信充填ECU61)と、を備え、前記燃料電池を電源として走行する。前記制御装置は、前記通信開始要求信号を検出した場合には前記燃料電池システムの起動状態に関わらず信号の送信が可能な状態にする通信開始手段(例えば、後述の通信充填ECU61のレギュレータ612)と、前記燃料ガス量に相当する充填量パラメータ(例えば、後述の水素SOC)の値を算出する充填量パラメータ算出手段(例えば、後述の通信充填ECU61のコンピュータ611の充填量算出機能)と、前記充填量パラメータの値が満充填と判断できる目標値に達したことに応じて、前記送信装置から燃料ガスの充填を停止させるための充填停止要求信号を送信させるか又は前記データ信号の送信を停止させる充填停止指令手段(例えば、後述の通信充填ECU61のコンピュータ611のアボート判断機能と、を備え、前記充填停止指令手段は、前記燃料電池システムが起動されている場合には、前記燃料電池システムが起動されていない場合よりも前記目標値を小さな値に設定する。
【発明の効果】
【0017】
(1)利用者が燃料ガスの充填を開始するための所定の操作を行うと、要求検出装置はこれを検出し通信開始要求信号を発生する。制御装置は、この通信開始要求信号を検出した場合には、燃料電池システムの起動状態に関わらず送信装置をデータ信号の送信が可能な状態にする。これにより利用者は、燃料電池で発電させながら外部充填装置によって通信充填を行うことができるので、商品性を向上できる。また、制御装置は、通信充填を行うためにデータ信号を生成するときに燃料電池システムが起動されている場合には、すなわち貯蔵容器内の燃料ガスが消費されている場合には、車両からの送信値によって外部充填装置で把握される燃料ガス量が多くなるように、基準値を補正した値を送信値とする。すなわち本発明の燃料電池車両に接続された外部充填装置は、燃料電池システムが起動されている時に通信充填を行う場合、基準値から補正した値に相当する分だけ早いタイミングで燃料ガスの充填を停止するので、上述のような過充填を防止できる。
【0018】
(2)上述の図5を参照して説明したような外部充填装置における流量制御の遅れに起因する過充填は、通信充填が終了する間際に燃料電池の発電量が変動した時に顕著となる。すなわち、本発明は、通信充填が終了する間際に発電量が変動した場合に特に効果的である。換言すれば、通信充填が終了するまでに時間の余裕がある時(具体的には、例えば水素SOCが目標に対し50%程度であるような時)に燃料電池の発電量が変動しても、上述のような流量制御の遅れに起因する過充填は生じにくい。この点を考慮し、制御装置は、燃料電池システムが起動されておりかつ貯蔵容器内の圧力又はガス量が所定の閾値以上である場合(すなわち、満充填に近い状態で燃料電池システムが起動されている場合)に、外部充填装置で把握される燃料ガス量が多くなるように基準値を補正した値を送信値とする。これにより、必要のないタイミングで基準値を補正してしまい、結果として必要以上に燃料ガスの充填量を少なくしてしまうのを防止できる。
【0019】
(3)状態検出装置は貯蔵容器の温度を検出し、制御装置は状態検出装置の検出値に基づいて定められた基準値より小さく補正した値を送信値とする。換言すれば、制御装置は、充填中の貯蔵容器の温度を実際の温度よりも低くなるように補正して、外部充填装置に報知する。これにより外部充填装置で把握される燃料ガス量を多くできるので、確実に過充填を防止できる。
【0020】
(4)状態検出装置は貯蔵容器の圧力を検出し、制御装置は状態検出装置の検出値に基づいて定められた基準値よりも大きく補正した値を送信値とする。換言すれば、制御装置は、充填中の貯蔵容器の圧力を実際の圧力よりも高くなるように補正して、外部充填装置に報知する。これにより外部充填装置で把握される燃料ガス量を多くできるので、確実に過充填を防止できる。
【0021】
(5)燃料電池の発電量が又はこれとほぼ等しい燃料ガスの消費量が多くなるほど、発電量が大きく変動してしまい、外部充填装置における流量制御の遅れの影響が大きくなり、その分だけ大きな過充填が生じてしまう可能性がある。この点を考慮して制御装置は、燃料電池の発電量又は燃料ガスの消費量が多くなるほど、基準値からの補正量を大きくするので、確実に過充填を防止できる。
【0022】
(6)本発明に係る燃料電池車両によれば、(1)と同じ理由によって、燃料電池で発電させながら外部充填装置によって通信充填を行うことができるので、商品性を向上できる。また、制御装置は、貯蔵容器内に充填されている燃料ガス量に相当する充填パラメータの値を算出し、この充填パラメータの値が満充填と判断できる目標値に達した場合には、これに応じて、送信装置から充填停止要求信号を送信させるか又は送信装置からのデータ信号を停止させる(以下では、送信装置から充填停止要求信号を送信すること又は通信充填の実行中にデータ信号の送信を停止することを、まとめて車両側のアボートアクションという)。外部充填装置には、通信充填を行っている間に、これら車両側のアボートアクションを検出した場合には、燃料ガスの充填を直ちに停止するアボート機能を備えるものがある。本発明に係る燃料電池車両によれば、このような外部充填装置のアボート機能を利用して、充填量パラメータの値が目標値に達した場合には燃料電池車両側の意思に基づいて充填を停止させることができる。また制御装置は、燃料電池システムが起動されている場合には、燃料電池システムが起動されていない場合よりも目標値を小さな値に設定する。すなわち本発明の燃料電池車両に接続された外部充填装置は、燃料電池システムが起動されている時に通信充填を行う場合、目標値を小さくした分だけ早いタイミングで車両側からのアボートアクションを検出し、燃料ガスの充填を停止するので、上述のような過充填を防止できる。
【0023】
ところで、外部充填装置には、通信充填の実行中にそれまで受信していたデータ信号が途絶えた場合には、充填方法を通信充填から非通信充填に切り替えて燃料ガスの充填を継続する機能を備えた機種も存在する。したがって、このような充填方法切換機能を備えた機種の外部充填装置に対しては、充填を停止させる場合、車両側の送信装置は充填停止要求信号を送信することが好ましい。また、このような充填方法切換機能を備えない機種の外部充填装置に対しては、充填を停止させる場合、車両側の送信装置は充填停止要求信号を送信するか又はデータ信号の送信を停止してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池車両を備える水素充填システムの構成を示す図である。
図2】上記実施形態に係る燃料電池車両において、IR通信によって送信するデータ信号を生成する手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の第2実施形態に係る燃料電池車両において、IR通信によって送信するデータ信号を生成する手順を示すフローチャートである。
図4】本発明の第3実施形態に係る燃料電池車両において、IR通信によって送信するデータ信号を生成する手順を示すフローチャートである。
図5】通信充填の実行中における燃料電池の発電量と、水素タンクの水素SOCとの変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る燃料電池車両Vを備える水素充填システムSの構成を示す図である。水素充填システムSは、水素ガスを燃料ガスとして走行する燃料電池車両Vと、この車両Vの水素タンク31に水素ガスを供給する水素ステーション9と、を組み合わせて構成される。
【0026】
始めに、水素ステーション9の構成について説明する。水素ステーション9は、水素ガスが高圧で貯蔵されている水素貯蔵タンク91と、水素貯蔵タンク91から供給される水素ガスを車両Vに充填するために利用者が操作するディスペンサ92と、を備える。この水素貯蔵タンク91内の水素ガスは、液体水素を気化したもの、改質装置により原料を改質することで製造されたもの、或いは電解装置によって製造されたものなどを圧縮機で圧縮したものが用いられる。
【0027】
ディスペンサ92は、その充填ノズル93が車両Vに設けられた導入口82に差し込まれると、水素貯蔵タンク91から水素供給管96を介して供給された水素ガスを所定の充填圧力まで減圧し、充填ノズル93から水素ガスを供給する。充填ノズル93から供給された水素は、車両Vの水素タンク31に充填される。
【0028】
水素供給管96には、充填圧力を調整するための装置として、水素ガスの流量を制御する流量制御弁97と、水素ガスを冷却する冷却装置98と、供給呉96内の圧力を検出するステーション側圧力センサ99と、流量制御弁97を開閉するステーション側制御装置94と、が設けられている。圧力センサ99は、供給管96のうち冷却装置98の下流側の圧力を検出し、検出値PSTに略比例した検出信号を制御装置94に送信する。このように圧力センサ99は、供給管96のうちノズル93に近い位置に設けられていることから、充填中に圧力センサ99によって検出される圧力は、車両Vの水素タンク31とほぼ等しい。
【0029】
充填ノズル93には、通信充填を行うため、赤外線通信器95が設けられている。赤外線通信器95は、充填ノズル93が導入口82に差し込まれることにより、車両Vに搭載された後述の通信充填システム6からの赤外線信号の受信が可能となっている。
【0030】
制御装置94は、通信充填中に赤外線通信器95によって受信した車両Vの水素タンク31の状態に関するデータ信号(後述の圧力送信値PIR及び温度送信値TIRに関する情報を含んだ信号)及び圧力センサ99の検出信号(圧力検出値PSTに略比例した信号)に基づいて水素タンク31の水素SOCの値を算出するSOC算出機能と、充填中における水素ガスの充填流量を制御する充填流量制御機能との少なくとも2つの機能を備える。
【0031】
制御装置94の水素SOC算出機能について説明する。制御装置94は、通信充填中は、温度送信値TIRと、圧力送信値PIRと、圧力センサ99の検出値PSTとを取得し、これらを引数として所定のアルゴリズムによって水素タンク31の水素SOCの値を算出する。例えば、制御装置94は、圧力送信値PIRと圧力検出値PSTとを比較し、大きい方を用いて水素SOCの値を算出する。これにより、算出される水素SOCは、常に多めに見積もられることとなるので、過充填が抑制される。
【0032】
制御装置94の充填流量制御機能について説明する。ステーション9から水素タンク31に水素ガスを充填すると、水素タンク31の水素SOCが上昇するとともに内部の圧力、ひいては水素供給管96内の圧力も上昇する。制御装置94は、圧力センサ99の圧力検出値PSTが予め定められた態様で上昇するように流量制御弁97の開度を調整する。また制御装置94は、通信充填中は、上述のようにして算出された水素SOCの値と、満充填を判断するために設定された所定の満充填閾値とを比較し、水素SOCの値が満充填閾値を超えた場合には、水素タンク31は満充填になったと判断し、流量制御弁97を閉じ、通信充填を終了する。
【0033】
また制御装置94は、通信充填を行っている間に、赤外線通信器95を介してデータ信号を受信できなくなった場合、又は赤外線通信器95を介してアボート信号を受信した場合には、水素SOCの値が満充填閾値に達していない場合であっても、通信充填を中断又は終了する。以下では、このようにして車両Vからの所定の要求操作に応じて通信充填を中断又は終了する機能のことを、ステーション9のアボート機能という。
【0034】
次に、燃料電池車両Vの構成について説明する。燃料電池車両Vは、ステーション9との間で通信充填を行う通信充填システム6と、燃料電池で発電させる燃料電池システム1と、を備える。
【0035】
燃料電池システム1は、燃料電池スタック12と、水素ガス供給装置13と、エアコンプレッサ14と、イグニッションスイッチ15と、水素タンク31と、これらの電子制御ユニット(以下、「FCV−ECU」という)11と、を備える。
【0036】
燃料電池スタック(以下、単に「スタック」という)12は、例えば、数十個から数百個のセルが積層されたスタック構造である。各燃料電池セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成される。膜電極構造体は、アノード電極(陰極)及びカソード電極(陽極)の2つの電極と、これら電極に挟持された固体高分子電解質膜とで構成される。通常、両電極は、固体高分子電解質膜に接して酸化・還元反応を行う触媒層と、この触媒層に接するガス拡散層とから形成される。このスタック12は、アノード電極側に形成されたアノード流路に水素ガスが供給され、カソード電極側に形成されたカソード流路に酸素を含んだ空気が供給されると、これらの電気化学反応により発電する。
【0037】
水素ガス供給装置13は、水素タンク31からスタック12に至る流路に設けられた遮断弁、水素タンク31から排出される高圧の水素ガスを適切な圧力まで減圧するレギュレータ、及び減圧された水素ガスをスタック12のアノード流路へ供給するインジェクタ等で構成される。エアコンプレッサ14は、外気を圧縮しスタック12のカソード流路へ供給する。
【0038】
イグニッションスイッチ15は、FCV−ECU11に接続されている。イグニッションスイッチ15は、OFFの状態からONにされると、燃料電池システム1に対する起動要求信号を発生し、ONの状態からOFFにされると、燃料電池システム1に対する停止要求信号を発生する。
【0039】
FCV−ECU11は、燃料電池システム1を構成する各種装置を制御する電子制御ユニットであり、CPU、ROM、RAM、及び各種インターフェースなどの電子回路を含んで構成されるマイクロコンピュータ111と、図示しないバッテリからの電力をコンピュータ111に供給するレギュレータ112と、を備える。
【0040】
レギュレータ112は、イグニッションスイッチ15からの起動要求信号を検出すると、コンピュータ111への電力の供給を開始し、コンピュータ111を、以下の機能が発揮できる状態にする。
【0041】
コンピュータ111は、イグニッションスイッチ15からの起動要求信号を契機として起動されると、エアコンプレッサ14及び水素ガス供給装置13を駆動することによって、スタック12に空気及び水素タンク31に貯蔵された水素ガスを供給し、スタック12で発電させる。これにより、燃料電池システム1は起動される。またコンピュータ111は、イグニッションスイッチ15からの停止要求信号を検出すると、必要に応じてシステム停止処理を実行した後、停止する。これにより、燃料電池システム1は停止される。
【0042】
ここでシステム停止処理とは、スタック12の劣化の抑制やスタック12内に滞留した水分を排出させるための処理であり、水素タンク31内の水素ガスが適宜用いられる。このシステム停止処理は、停止要求信号の検出時におけるスタック12の状態や外気環境に応じて実行される。
【0043】
またコンピュータ111には、スタック12の発電電流を検出する電流センサ(図示せず)が設けられている。コンピュータ111は、この電流センサの検出値に基づいてスタック12における発電量又はスタック12による水素ガスの消費量を算出する。
【0044】
またコンピュータ111と後述の通信充填ECU61のコンピュータ611とは、通信線Lで接続されており、これらコンピュータ111,611の間で通信(以下、例えばCAN通信とするが、本発明はこれに限らない)が可能となっている。コンピュータ111は、CAN通信によってコンピュータ611で取得した情報(例えば、後述のタンク温度センサ62やタンク圧力センサ63に関する情報)を取得することができる。
【0045】
水素タンク31は、ステーション9から充填される水素ガスを高圧で貯蔵するタンク本体311と、タンク本体311から水素導入口82に至る水素導入管313と、水素導入管313に設けられた逆止弁314と、を備える。水素導入口82は、車両Vの側部後方のリッドボックス81内に設けられている。リッドボックス81には、リッド83が回動可能に設けられている。水素ステーション9では、利用者はリッド83を開き、水素導入口82を外部に露出させ、ディスペンサ92の充填ノズル93を導入口82に差し込み、水素を充填する。
【0046】
通信充填システム6は、タンク温度センサ62と、タンク圧力センサ63と、リッドセンサ65と、赤外線送信器66と、これらの電子制御ユニット(以下、「通信充填ECU」という)61と、を備える。
【0047】
タンク温度センサ62は、水素タンク31のうち例えばタンク本体311内の水素ガスの温度を検出し、検出値Tに略比例した検出信号を通信充填ECU61に送信する。タンク圧力センサ63は、水素タンク31のうち例えばタンク本体311内の圧力を検出し、検出値Pに略比例した検出信号を通信充填ECU61に送信する。これら水素タンク31の温度及び圧力は、水素タンク31の水素SOCを把握するために必要な物理状態である。
【0048】
リッドセンサ65は、リッドボックス81に設けられており、リッド83の開閉状態を検出する。リッドセンサ65は、利用者が水素ガスを充填するためにリッド83を開くと、これに応じて開信号を通信充填ECU61に送信する。またリッドセンサ65は、利用者がリッド83を閉じると、これに応じて閉信号を通信充填ECU61に送信する。
【0049】
以上のように、水素ガスを充填するためには、リッド83を開かなければならない。したがって、リッド83の開閉操作は、利用者が水素の充填を開始又は終了するための予備的な行為となっている。したがって、以下では、リッドセンサ65から出力される開信号は、通信充填システム6に対する通信開始要求信号ともいう。また、リッドセンサ65から出力される閉信号は、通信充填システム6に対する通信終了要求信号ともいう。
【0050】
赤外線送信器66は、赤外線LED67とそのドライバ68で構成される。ドライバ68は、通信充填ECU61によって生成される後述のデータ信号やアボート信号に応じた態様で赤外線LED67を点滅させる。これにより、赤外線送信器66は、通信充填ECU61で生成されるデータ信号やアボート信号を、赤外線の点滅信号としてステーション9の赤外線通信器95に送信する。以下では、車両Vの赤外線送信器66とステーション9の赤外線通信器95との間の通信を、IR通信という。
【0051】
通信充填ECU61は、通信充填システム6を構成する各種装置を制御する電子制御ユニットであり、CPU、ROM、RAM、及び各種インターフェースなどの電子回路を含んで構成されるマイクロコンピュータ611と、図示しないバッテリからの電力をこのコンピュータ611及び赤外線送信器66に供給するレギュレータ612と、を備える。
【0052】
レギュレータ612は、リッドセンサ65からの通信開始要求信号を検出すると、燃料電池システム1の起動状態に関わらずコンピュータ611及び赤外線送信器66のドライバ68への電力の供給を開始する。これにより、コンピュータ611は、以下の機能で説明する機能を発揮できる状態になり、赤外線送信器66は、データ信号やアボート信号の送信が可能な状態となる。
【0053】
コンピュータ611は、タンク温度センサ62及びタンク圧力センサ63の検出信号に基づいて、水素タンク31の物理状態を示すデータ信号を生成する送信データ信号生成機能と、ステーション9のアボート機能を利用して水素ガスの充填を停止させるアボート判断機能と、の少なくとも2つの機能を備える。
【0054】
また、コンピュータ611は、上述のようにFCV−ECU11のコンピュータ111とCAN通信が可能となっている。したがってコンピュータ611は、CAN通信によって燃料電池システム1の起動状態、スタック12の発電量、及びスタック12における水素ガスの消費量に関する情報等を取得することができる。以下、コンピュータ611におけるデータ信号生成機能及びアボート判断機能について詳細に説明する。
【0055】
図2は、IR通信によって送信するデータ信号を生成する手順を示すフローチャートである。図2に示す処理は、コンピュータ611において、通信充填を実行する間に繰り返し実行される。
【0056】
S1では、コンピュータ611は、タンク温度センサの検出値T及びタンク圧力センサの検出値Pを取得し、これらを送信基準値TIR_BS,PIR_BSとする。S2では、コンピュータ611は、これら送信基準値TIR_BS,PIR_BSを引数として、所定のアルゴリズムに基づいて水素SOCの値を算出する。
【0057】
S3では、コンピュータ611は、例えばCAN通信を利用して燃料電池システムが起動されているか否か、すなわち水素タンク内の水素ガスが消費されている状態であるか否かを判別する。この判別がNOである場合には、S4に移る。S4では、コンピュータ611は、S1で算出した送信基準値TIR_BS,PIR_BSを送信値TIR,PIRとして確定する。
【0058】
S3の判別が、YESである場合には、S5に移る。S5では、コンピュータ611は、水素タンクが満充填に近い状態であるか否かを判別する。より具体的には、コンピュータ611は、S2で算出した水素SOCの値が、満充填を判断するために設定された満充填閾値よりもやや小さな値に設定された弱満充填閾値を超えたか否かを判別する。S5の判別がNOである場合には、S4に移り、上述のように送信基準値TIR_BS,PIR_BSを送信値TIR,PIRとして確定する。
【0059】
S5の判別がYESである場合、S6に移る。S6では、コンピュータ611は、例えばCAN通信を利用してスタックの発電量又はスタックによる水素ガスの消費量を取得する。S7では、コンピュータ611は、S6で取得した発電量又は消費量に応じて温度送信基準値TIR_BSに対する正の減算補正値ΔTIRを算出する。発電量又は消費量が多くなるほど温度送信基準値TIR_BSから大きく補正されるように、減算補正値ΔTIRは発電量又は消費量が多くなるほど大きな値に設定される。
【0060】
S8では、コンピュータ611は、圧力送信基準値PIR_BSを圧力送信値PIRとする。またS8では、コンピュータ611は、ステーションで把握される水素SOCが多くなるように、温度送信基準値TIR_BSから減算補正値ΔTIRを減算して得られる値を温度送信値TIRとする。S9では、コンピュータ611は、算出された温度送信値TIR及び圧力送信値PIRに応じたデータ信号を生成する。
【0061】
図1に戻って、コンピュータ611のアボート判断機能について説明する。上述のように、ステーション9は、通信充填を実行している間にアボート信号を受信した場合又はデータ信号が途絶えた場合には、実行中の通信充填を終了又は中断するアボート機能を有する。コンピュータ611は、通信充填の実行中に水素タンク31の過充填又は過昇温を防止するために設定された所定の条件を満たした場合には、アボート信号を生成し赤外線送信器66から送信させるか又は赤外線送信器66からのデータ信号の送信を強制的に停止する(以下、これらをまとめて「アボートアクション」という)ことにより、実行中の通信充填を終了又は中断させる。より具体的には、コンピュータ611は、タンク温度センサの検出値Tが水素タンク31の過昇温を防止するために設定された過昇温防止閾値Tmaxを超えた場合、タンク圧力センサの検出値Pが水素タンク31の過充填を防止するために設定された過充填防止閾値Pmaxを超えた場合、又は検出値T,Pに基づいて算出された水素SOCの値が満充填と判断できる所定の目標値を超えた場合には、上述のアボートアクションを実行する。なお、上述の事象に限らず、例えば通信充填の実行中にタンク温度センサ及びタンク圧力センサの何れかが故障したと判断した場合にもアボートアクションを実行してもよい。
【0062】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお以下では、上記第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。本実施形態に係る燃料電池車両は、通信充填ECUのコンピュータで実行されるデータ信号生成機能が第1実施形態に係る燃料電池車両と異なる。
【0063】
図3は、本実施形態に係る燃料電池車両において、IR通信によって送信するデータ信号を生成する手順を示すフローチャートである。図3に示す処理は、通信充填ECUのコンピュータにおいて、通信充填を実行する間に繰り返し実行される。なお、図3のS11〜S16及びS19は、それぞれ図2のS1〜S6及びS9と同じであるので、詳細な説明を省略する。図2の処理は、燃料電池システムの起動中は水素タンクの温度を補正するのに対し、図3の処理は、燃料電池システムの起動中は水素タンクの圧力を補正する点が異なる。
【0064】
S17では、コンピュータは、S16で取得した発電量又は消費量に応じて圧力送信基準値PIR_BSに対する正の加算補正値ΔPIRを算出する。発電量又は消費量が多くなるほど圧力送信基準値PIR_BSから大きく補正されるように、加算補正値ΔPIRは発電量又は消費量が多くなるほど大きな値に設定される。S18では、コンピュータは、温度送信基準値TIR_BSを温度送信値TIRとする。またS18では、コンピュータは、ステーションで把握される水素SOCが多くなるように、圧力送信基準値PIR_BSに加算補正値ΔPIRを加算して得られる値を圧力送信値PIRとする。S19では、コンピュータは、算出された温度送信値TIR及び圧力送信値PIRに応じたデータ信号を生成する。
【0065】
なお上記第1実施形態では、燃料電池システムが起動されている場合には、温度送信基準値TIR_BSを補正し、ステーションで水素SOCを実際よりも少なめに見積もらせることによって、その分だけ早めに通信充填を終了させる。これに対し本実施形態では、図3を参照して説明したように、燃料電池システムが起動されている場合には、圧力送信基準値PIR_BSを補正し、ステーションで水素SOCを実際よりも多めに見積もらせることによって、その分だけ早めに通信充填を終了させる。したがって、本実施形態では、上記第1実施形態のように、温度送信基準値TIR_BSを補正する必要はない。ただしこれは、本実施形態と上記第1実施形態との組み合わせを阻害するものではない。
【0066】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお以下では、上記第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。本実施形態に係る燃料電池車両は、通信充填ECUのコンピュータで実行されるデータ信号生成機能及びアボート判断機能が第1実施形態に係る燃料電池車両と異なる。
【0067】
始めに、通信充填ECUのコンピュータのアボート判断機能について説明する。
図4は、本実施形態に係る燃料電池車両において、アボートアクションを実行するタイミングを判断する手順を示すフローチャートである。図4に示す処理は、通信充填ECUのコンピュータにおいて、通信充填を実行する間に繰り返し実行される。
【0068】
S21では、コンピュータは、タンク温度センサ及びタンク圧力センサの何れかが故障していないか否かを判別する。S21の判別がNOの場合、S22に移る。S22では、コンピュータは、タンク温度センサの検出値T及びタンク圧力センサの検出値Pを取得する。S23では、コンピュータは、温度検出値Tが所定の過充填防止閾値Tmaxを超えたか否かを判別する。S23の判別がNOである場合、S24に移る。S24では、コンピュータは、圧力検出値Pが所定の過充填防止閾値Pmaxを超えたか否かを判別する。S24の判別がNOである場合、S25に移る。
【0069】
S25では、コンピュータは、検出値T,Pに基づいて所定のアルゴリズムに従って水素タンクの水素SOCを算出する。S26では、コンピュータは、例えばCAN通信を利用して燃料電池システムが起動されているか否か、すなわち水素タンク内の水素ガスがスタックによって消費されている状態であるか否かを判別する。この判別がNOである場合には、S30に移り、YESである場合には、S27に移る。
【0070】
S27では、コンピュータは、例えばCAN通信を利用してスタックの発電量又はスタックによる水素ガスの消費量を取得する。S28では、コンピュータは、S27で取得した発電量又は消費量に応じて水素SOCの目標値に対する減算補正値を算出する。発電量又は消費量が多くなるほど、目標値が小さく補正されるように、この減算補正値は発電量又は消費量が多くなるほど大きな値に設定される。
【0071】
S29では、コンピュータは、予め設定された目標値から減算補正値だけ減算したものを、新たな目標値と再定義する。S30では、コンピュータは、S25で算出した水素SOCの値が目標値を超えたか否かを判別する。S30の判別がNOである場合には、この処理を直ちに終了する。一方、S21の判別、S23の判別、S24の判別、及びS30の判別の何れかがYESである場合には、アボートアクション(データ信号の送信停止又はアボート信号の送信)を実行し、この処理を終了する。
【0072】
次に、通信充填ECUのコンピュータのデータ信号生成機能について説明する。上記第1、第2実施形態では、燃料電池システムが起動されている場合には、温度送信基準値TIR_BS又は圧力送信基準値PIR_BSを補正し、ステーションで水素SOCを実際よりも多めに見積もらせることによって、その分だけ早めに通信充填を終了させた。これに対し本実施形態では、図4を参照して説明したように、燃料電池システムが起動されている場合には、車両側で算出する水素SOCに対する目標値を小さく補正することによって、その分だけ早めに通信充填を終了させる。したがって、本実施形態では、上記第1、第2実施形態のように、温度送信基準値TIR_BSや圧力送信基準値PIR_BSを補正する必要はない。すなわち、本実施形態では、タンク温度センサ及びタンク圧力センサの検出値T,Pをそのまま送信値TIR,PIRとすることができる。ただしこれは、本実施形態と上記第1、第2実施形態との組み合わせを阻害するものではない。
【0073】
以上、本発明の3つの実施形態について説明したが、本発明はこれらに限るものではない。すなわち、燃料電池システムが起動されている場合には、通常よりも確実に速やかに通信充填を終了させるため、3つの実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0074】
また、上記第1、第2実施形態では、燃料電池システムが起動中でありかつ水素SOCが弱満充填閾値を超えたことに応じて基準値を補正したが、本発明はこれに限らない(図2のS5、及び図3のS15参照)。水素タンクの圧力が高くなるほど、水素タンクの水素SOCも上昇する。したがって、燃料電池システムが起動中でありかつ圧力検出値Pが、満充填を判断するために設定された所定の閾値よりもやや小さな値に設定された閾値を超えたことに応じて基準値を補正してもよい。
【0075】
また、上記第1、第2実施形態では、ステーションにおける充填流量制御の遅れに起因する過充填は、満充填の近傍でスタックの発電量又は水素ガスの消費量が大きく変化した場合に顕著となることを考慮して、水素SOCが弱満充填閾値を超えたことを契機として基準値を補正したが、本発明はこれに限らない。例えば、水素SOCが弱満充填閾値を超えた後でありかつ、実際にスタックの発電量又は水素ガスの消費量が所定の閾値を超えて変動したことを契機として、基準値を補正してもよい。
【0076】
また、上記第1〜第3実施形態では、リッドボックス81に設けられたリッドセンサ65から開信号が出力されたことに応じて通信充填ECU61のコンピュータ611及び赤外線送信器66を起動したが、本発明はこれに限らない。例えば、ステーション9のノズル93が導入口82に接続されたことを契機として、通信充填ECU61のコンピュータ611及び赤外線送信器66を起動してもよい。また、運転席に通信充填の開始を許可するために利用者が操作可能なボタンを設け、このボタンが操作されたこと契機として、通信充填ECU61のコンピュータ611及び赤外線送信器66を起動してもよい。
【0077】
また上記第1〜第3実施形態では、FCV−ECU11と通信充填ECU61とを、別体で構成した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。これらECU11,61は1つのECUに統合してもよい。
【0078】
また上記第1〜第3実施形態では、アボートアクションとして、赤外線送信器66からアボート信号を送信するか又は赤外線送信器66からのデータ信号の送信を強制的に停止する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば水素ステーションには、通信充填の実行中にそれまで受信していたデータ信号が途絶えた場合には、充填方法を通信充填から非通信充填に切り替えて水素ガスの充填を継続する機能を備えた機種も存在する。したがって、このような充填方法切換機能を備えた機種の水素ステーションに対しては、充填を停止させる場合、車両側の赤外線送信器からはアボート信号を送信することが好ましい。また、このような充填方法切換機能を備えない機種の水素ステーションに対しては、充填を停止させる場合、上述のようにアボート信号を送信してもよいし、データ信号の送信を停止してもよい。
【0079】
なお、第1〜第3実施形態では、燃料電池システムが起動されているか否かを判断する手段として、通信充填ECUとFCV−ECUのCAN通信を利用した場合について説明したが(例えば、図2のS3、図3のS13、図4のS26等参照)、本発明はこれに限らない。上述のように、これら燃料電池システムの起動状態に関する判断は、燃料電池システムが起動されている間は、水素タンク内の水素ガスが消費されている、という前提に基づく。したがって上記燃料電池システムの起動状態に関する判断は、現に水素タンク内の水素ガスが消費されているか否かの判断に置き換えてもよい。なお水素タンク内の水素ガスが現に消費されているか否かは、例えば、水素タンクから延びる水素ガスの流路に設けられた流量センサや、スタックの起電力を検出する電圧センサ等を用いて間接的に判断することができる。
【符号の説明】
【0080】
V…燃料電池車両
12…燃料電池スタック
31…水素タンク
61…通信充填ECU(制御装置)
611…コンピュータ(信号生成手段、充填量パラメータ算出手段、充填停止指令手段)
612…レギュレータ(通信開始手段)
62…タンク温度センサ(状態検出装置)
63…タンク圧力センサ(状態検出装置)
65…リッドセンサ(要求検出装置)
66…赤外線送信器(送信装置)
図1
図2
図3
図4
図5