特許第6053768号(P6053768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053768
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】BCAT1阻害剤を使用する治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/20 20060101AFI20161219BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61K31/20
   A61P37/00
   A61P29/00
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P17/06
   A61P1/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-515915(P2014-515915)
(86)(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公表番号】特表2014-517037(P2014-517037A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】US2012042046
(87)【国際公開番号】WO2012173987
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】61/520,645
(32)【優先日】2011年6月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513312982
【氏名又は名称】エルゴン ファーマシューティカルズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パパサナスィウ アドニア イー.
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−509880(JP,A)
【文献】 特表2003−516379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/20
A61P 37/00
A61P 29/00
A61P 1/00
A61P 17/06
A61P 19/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む、自己免疫炎症性疾患を治療するための医薬組成物であって、
前記BCAT1阻害剤が、式(1):
【化1】
(式中、Rは水素、直鎖又は環状アルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基であり、Xが陽イオンを表す)で示される化合物群から選択される、医薬組成物。
【請求項2】
前記陽イオンが、H、Na、K、及びNHからなる群より選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記BCAT1阻害剤が、4−メチル−5−オキソヘキサン酸又はその塩である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ヒトに使用されるものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記自己免疫炎症性疾患が、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、乾癬、及び炎症性腸疾患からなる群より選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BCAT)は、ロイシン、イソロイシン、及びバリン等の分岐鎖アミノ酸(BCAA)の代謝における最初のステップの触媒を担う酵素である。このステップは、BCAAの対応する分岐鎖α−ケト酸(BCKA)への可逆的アミノ基転移を含む。BCATは2つの形態、即ち、サイトゾル型(BCAT1)及びミトコンドリア型(BCAT2)で存在する。2つのアイソザイムは、明確に異なった重複していない分布を呈する。BCST2が遍在するとされるのに対し、BCAT1は限定的な発現をし、胚組織、成人脳、卵巣及び胎盤、並びにc−myc誘導性脳腫瘍及びT細胞リンパ腫においてのみ見られ、c−myc誘導性乳腺腫瘍又はB細胞リンパ腫においては見られないとされている(非特許文献1)。
【0002】
BCAT1をコードする遺伝子(Bcatl/Eca39)の発現は、酵母における増殖に関連しており、ヒトがんにおける転移能を高める。Schuldinerらは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)におけるEca39ホモログの破壊により増殖の増大が生じることを示した(非特許文献2)。Eden及びBenvenistyは、BCAT1が、アポトーシスによる死を誘導することが示されているロイシン代謝産物であるα−ケトイソカプロエートの産生を介して、増殖を阻害することを示唆した(非特許文献3)。
【0003】
より効果的ながん治療の設計における最近の進歩にもかかわらず、がんはアメリカ合衆国における死亡原因の第2位のままであり、主な健康問題となっている。原発腫瘍増殖(primary tumor growth)とは対照的に、転移性疾患は、通常、がんによる死亡原因である。この周知の事実にもかかわらず、市場に参入する新たな抗がん薬の大半は、腫瘍量の低減に的を絞っている。必要とされているのは、がんの浸潤(invasion)を予防し、がん転移を阻害する新たな薬剤であることは明らかである。
【0004】
転移性のコロニー形成は、腫瘍細胞と、細胞外マトリクス(ECM)及び線維芽細胞、内皮細胞、又は浸潤する炎症細胞等の正常な細胞からなるその宿主の微小環境との互いの相互作用(reciprocal interaction)により支配される。この相互作用の純粋な成果は、成長因子、ケモカイン、及び血管内皮増殖因子(VEGF)及び細胞外マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)等のプロテアーゼの産生であり、これらは、集団的に組織再形成を促して転移性の増殖を可能とする。腫瘍及び宿主細胞によるMMPの産生は、遍在的に発現する細胞表面糖タンパク質であるCD147によって大きく影響を受ける。また、CD147は、ベイシジン又は細胞外マトリクスメタロプロテイナーゼ誘導因子(EMMPRIN)としても知られ、がんにおいて大幅に上方制御され、多くの機能を介して浸潤、転移、増殖及び悪性細胞の生存を促進すると考えられている。具体的には、細胞表面に発現されたCD147は、a)腫瘍細胞、線維芽細胞、及び内皮細胞間の異型及び同型の両方の細胞−細胞相互作用を調節して、結果としてMMP及びVEGFの合成及び分泌を生じ、これらが腫瘍の血管新生を促進する、並びにb)がん細胞の足場非依存性の増殖を支持し、プロアポトーシスタンパク質であるBimを下方制御することによって腫瘍細胞にアノイキスに対する耐性を与える。また、CD147は、a)細胞骨格タンパク質と相互作用し、細胞骨格再構築及び細胞運動性に加わる、並びにb)モノカルボン酸トランスポーター(MCT)と連携し、原形質膜へのそれらの輸送を促すことが知られている。
【0005】
外傷に対する生理学的反応である炎症の調節不全は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、乾癬、及び炎症性腸疾患が挙げられるが、これらに限定されない多くの自己免疫疾患の顕著な特徴である。自己免疫炎症性疾患(Autoimmune inflammatory disease)は、しばしば、腫瘍壊死因子−アルファ(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−10(IL−10)、及びインターフェロン−アルファ(IFN−α)等の炎症性サイトカインの上昇を特徴とする。また、同じサイトカインがこれらの疾患の発症機序において役割を果たす可能性がある(非特許文献4)。
【0006】
RAは、世界の成人人口の0.5%〜1%(最も一般的には年齢が30歳〜55歳の女性)が発症する、慢性の全身性自己免疫炎症性疾患である。それは滑膜の顕著な変性を含み、筋骨格能力の低下及び死亡リスク増大をもたらす。滑膜は、滑膜関節腔(cavity of synovial joints)を包む薄い細胞層であり、関節潤滑のため滑液を産生する。それは2種の形態的に明らかに異なる細胞種、即ち、マクロファージ様滑膜細胞(MLS)及び線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)で構成される。RAの間、CD4T細胞はマクロファージと共に、またそれほど多くはないがB細胞、形質細胞、星状細胞及び肥満細胞と共に蓄積して滑膜を介し侵入する(これらの細胞は、炎症性シグナルを分泌し、滑膜細胞の活性化を補助する)。MLSからの炎症性サイトカインの分泌は、FLSの活性化をもたらす。活性化されたFLSは、単独で、又はMLSと連携して攻撃的に細胞外マトリクスを分解する。滑膜細胞の過形成は、滑膜表層の肥厚、及びそのパンヌス(関節軟骨及び軟骨下骨へと侵入する組織塊)への転換を生じる。FLSの侵入は、MMP及びカテプシンの分泌を介して軟骨を分解する。さらに、活性化FLS及びT細胞は、前駆体骨髄性細胞の破骨細胞への最終的な分化を担うタンパク質であるNF−κBリガンドの受容体活性化因子(RANKL)を放出する。進行性RAにおいて、破骨細胞形成の増加は、骨浸食をもたらす(非特許文献5)。
【0007】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、非生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、及び生物学的DMARDを含む、RAの治療のための多数の選択肢が存在する(非特許文献6)。しかしながら、これらの選択肢にはそれぞれ欠点がある。NSAIDは、疼痛及び硬直を迅速に緩和するが、この疾患の臨床的な進行を停止することはできない。TNFαの阻害を目的とするような生物学的DMARDは、長いt1/2を呈する注入可能で高価な薬剤であり、そのため、毒性に関しては容易に排除することができない。DMARDの使用に関連する毒作用として、生命を脅かすような感染症及び白血病の発症が含まれる。望まれているのは、経口投与が可能かつ安価であり、さらに、短いt1/2を呈する、新たな抗リウマチ薬の開発であることは明らかである。DMARDの大半が骨量減少に対する保護をせずに炎症を低減することによってRAを治療するため、骨損傷を阻害しながら炎症を阻害することが可能な抗関節炎薬が必要とされていることが、より一層明らかである。
【0008】
骨恒常性は、明らかに異なる2種の細胞集団、即ち、骨吸収をする破骨細胞、及び骨形成をする骨芽細胞によって維持されている。正常な骨再形成は、RANKL/RANK経路を含むいくつかの因子によって影響を受ける。RANKLは骨芽細胞によって放出され、単球/マクロファージ等の前駆破骨細胞上に提示される、そのコグネイト受容体(cognate receptor)RANKに結合し、それらを成熟破骨細胞へと分化誘導する(非特許文献7)。RANKLの過剰産生は、破骨細胞によって除去される骨と骨芽細胞によって形成される骨の量に不均衡を生じ、骨格の完全性を低下し、骨折リスクを招く。RANKLによって調節される骨疾患として、骨関節炎、骨粗鬆症、及び歯周病、骨巨細胞腫、並びに慢性閉塞性肺疾患と関連する骨量減少が挙げられるが、これらに限定されない。これらの病態は、循環RANKL濃度の上昇と関連することが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Benvenisty N. et al., An embryonically expressed gene is a target for c-Myc regulation via the c-Myc-binding sequence. Genes Dev. (1992) 6:2513-2523
【非特許文献2】Schuldiner O. et al., ECA39, a conserved gene regulated by c-Myc in mice, is involved in Gl/S cell cycle regulation in yeast. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1996) 93:7743-7748
【非特許文献3】Eden A. and Benvenisty N., Involvement of branched-chain amino acid aminotransferase (Bcatl/Eca39) in apoptosis. FEBS Let. (1999) 457:255-261
【非特許文献4】Postal M, Appenzeller S, The role of tumor necrosis factor-alpha (TNF-α) in the pathogenesis of systemic lupus erythematosus. Cytokine (2011) 56:537-543
【非特許文献5】Pettit AR et al., RANKL protein is expressed at the pannus-bone interface at sites of articular bone erosion in rheumatoid arthritis. Rheumatology (Oxford) (2006) 45: 1068-1076
【非特許文献6】Quan LD et al., Expert Opin Ther Pat (2008) 18(7):723-738
【非特許文献7】Silva I, Branco JC, Rank/Rankl/opg: literature review. Acta Rheumatol. Port. (2011) 36(3):209-218
【発明の概要】
【0010】
第1の実施の形態において、本発明は、がんを治療する方法であって、治療的に有効な量のBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を、がんを有する被験体に投与することを含む、方法を提供する。この実施の形態の態様において、BCAT1阻害剤は、式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Rは水素、直鎖又は環状アルキル基、アルキレン基、置換又は非置換の芳香環、アルコキシ又はアルキルアミノ基であり、XはNa、K、及びNHを含むがこれらに限定されない陽イオンを表す)
によって包含される化合物群から選択される化合物である。
【0013】
この実施の形態の態様において、がんはCD147の過剰発現を特徴とし、よって、本発明はCD147を過剰発現するがんを治療する方法を提供する。本態様又は他の態様において、がんは、乳がん、前立腺がん、肺がん、脳腫瘍、卵巣がん、結腸直腸がん、膵臓がん、腎臓がん、皮膚がん、肝臓がん、頭頸部がん、消化器がん、口腔癌及び白血病からなる群より選択される。
【0014】
第2の実施の形態において、本発明は、自己免疫炎症性疾患を治療する方法であって、治療的に有効な量のBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を、自己免疫炎症性疾患を有する被験体に投与することを含む、方法を提供する。この実施の形態の態様において、BCAT1阻害剤は、上記の式(1)により包含される化合物群から選択される化合物である。
【0015】
この実施の形態の態様において、自己免疫炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、乾癬、及び炎症性腸疾患からなる群より選択される。
【0016】
第3の実施の形態において、本発明は、被験体において病態を治療する方法であって、RANKLの過剰発現及び骨量減少を特徴とする病態を有する被験体に治療的に有効な量のBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を投与することを含む、方法を提供する。この実施の形態の態様において、BCAT1阻害剤は、上記の式(1)により包含される化合物群から選択される化合物である。
【0017】
この実施の形態の態様において、病態は、骨関節炎、骨粗鬆症、歯周病、骨巨細胞腫、及び慢性閉塞性肺疾患に関連する骨量減少からなる群より選択される。
【0018】
各々の実施の形態の好ましい態様において、BCAT1阻害剤は、4−メチル−5−オキソヘキサン酸(MOHA)又はその塩である。各々の実施の形態の好ましい態様において、被験体はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】式(1)の化合物(RがCHであり、XがNaである)である、4−メチル−5−オキソヘキサン酸(MOHA)のナトリウム塩によるBCAT1の阻害を示す図である。
図2】MDA−MB−231細胞をMOHAで処理した後のCD147の細胞表面での発現の下方制御を示す図である。レーン1:表面ビオチン化タンパク質;0mMのMOHAで処理された細胞。レーン2:表面ビオチン化タンパク質;25mMのMOHAで処理された細胞。レーン3:総タンパク質;0mMのMOHAで処理された細胞。レーン4:総タンパク質;25mMのMOHAで処理された細胞。
図3】MOHAで処理されたヒト皮膚線維芽細胞(HDF)から分泌されたMMP2の下方制御を示す図である。
図4】MCF−7、MDA−MB−231、MDA−MB−435、及びHT−29がん細胞をMOHAで処理した後の細胞増殖の阻害を示す図である。
図5】段階的に増加する用量のMOHAを投与した後の4T1乳癌を有するマウスにおける原発腫瘍増殖の阻害を示す図である。
図6】MOHAで処理した後のTHP−1由来マクロファージからのTNFα分泌の阻害を示す図である。
図7】MOHAで治療したマウスにおけるコラーゲン誘発関節炎の減少を示す図である。
図8】MOHAで治療した後のコラーゲン誘発関節炎(CIA)を有するマウスにおける平均関節炎インデックス(AI)の減少を示す図である。
図9】MOHAで治療した後のCIAを有するマウスにおける進行性関節炎と関連する様々な組織学的パラメーターの減少を示す図である。
図10】MOHAで治療した後のCIAを有するマウスのRANKL循環濃度の減少を示す図である。
図11】MOHAによる細胞処理の後のマウス前骨芽細胞株MC3T3から分泌されたRANKL濃度の減少を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のその他の目的、特徴及び態様は、以下の発明を実施するための形態において開示されているか、又はそれから自明である。当業者によれば、本発明の考察は例示的な実施形態の説明に過ぎず、本発明のより広い態様の制限を意図するものではなく、より広い態様は例示的な解釈において具体化されることが理解される。
【0021】
第1の実施形態において、本発明は、がんを治療する方法であって、治療的に有効な量のBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を、がんを有する被験体に投与することを含む、方法を提供する。この実施形態の態様において、BCAT1阻害剤は、式(1):
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、Rは水素、直鎖又は環状アルキル基、アルキレン基、置換又は非置換の芳香環、アルコキシ又はアルキルアミノ基であり、XはNa、K、及びNHを含むがこれらに限定されない陽イオンを表す)
によって包含される化合物群から選択される化合物である。この実施形態の態様において、がんはCD147の過剰発現を特徴とし、よって、本発明はCD147を過剰発現するがんを治療する方法を提供する。特定の態様において、D147を過剰発現するがんは、乳がん、前立腺がん、肺がん、脳腫瘍、卵巣がん、結腸直腸がん、膵臓がん、腎臓がん、皮膚がん、肝臓がん、頭頸部がん、消化器がん、口腔癌及び白血病からなる群より選択されるがんである。
【0024】
第2の実施形態において、本発明は、自己免疫炎症性疾患を治療する方法であって、治療的に有効な量のBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を、自己免疫炎症性疾患を有する被験体に投与することを含む、方法を提供する。この実施形態の態様において、BCAT1阻害剤は、上記の式(1)により包含される化合物群から選択される化合物である。この実施形態の態様において、自己免疫炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、乾癬、又は炎症性腸疾患である。
【0025】
第3の実施形態において、本発明は、被験体において病態を治療する方法であって、RANKLの過剰発現及び骨量減少を特徴とする病態を有する被験体に治療的に有効な量のBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体を投与することを含む、方法を提供する。この実施形態の態様において、BCAT1阻害剤は、上記の式(1)により包含される化合物群から選択される化合物である。この実施形態の態様において、病態は、骨関節炎、骨粗鬆症、歯周病、骨巨細胞腫、又は慢性閉塞性肺疾患に関連する骨量減少である。
【0026】
また、本発明は、被験体においてがんを治療する医薬組成物の調製におけるBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体の使用を含む。BCAT1阻害剤は、本明細書に示される式(1)によって包含される化合物群から選択される化合物である。がんは、CD147の過剰発現を特徴とする。特定の態様において、がんは、乳がん、前立腺がん、肺がん、脳腫瘍、卵巣がん、結腸直腸がん、膵臓がん、腎臓がん、皮膚がん、肝臓がん、頭頸部がん、消化器がん、口腔癌及び白血病からなる群より選択されるがんである。
【0027】
本発明は、被験体において自己免疫炎症性疾患を治療する医薬組成物の調製におけるBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体の使用を更に含む。BCAT1阻害剤は、本明細書に示される式(1)によって包含される化合物群から選択される化合物である。自己免疫炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、乾癬、又は炎症性腸疾患である。
【0028】
また、本発明は、被験体においてRANKLの過剰発現及び骨量減少を特徴とする病態を治療する医薬組成物の調製におけるBCAT1阻害剤及び薬学的に許容される担体の使用を更に含む。病態は、骨関節炎、骨粗鬆症、歯周病、骨巨細胞腫、又は慢性閉塞性肺疾患に関連する骨量減少である。
【0029】
I.定義
本明細書で使用される数量を特定していない単数形("a", "an" and "the")の用語は、1つ又は複数を意味すると定義され、文脈から不適当でない限り複数を包含する。
【0030】
「がん(cancer)」の用語は、CD147の過剰発現を特徴とする任意の制御不能な細胞増殖に関連する。具体的な例として、乳房、前立腺、肺、脳、卵巣、結腸直腸、膵臓、腎臓、皮膚、肝臓、頭頸部、消化器、口腔癌及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
「阻害剤」の用語は、酵素の活性を阻止又は抑制する基質を指し、可逆的、不可逆的、競合的及び非競合的な阻害剤を含む。
【0032】
「アルキル」の用語は、一価の炭化水素基を意味する。
【0033】
「アルキレン」の用語は、二価の炭化水素基を意味する。
【0034】
「アルコキシ」の用語は、−OR基(ここで、Rは上記のアルキルである)を意味する。
【0035】
「アルキルアミノ」の用語は、−NHR基(ここで、Rは上記のアルキルである)を意味する。
【0036】
本明細書において使用される「治療する(treat)」、「治療している(treating)」及び「治療(treatment)」の用語は、それらの通常かつ慣例の意味を有し、疾患症状の緩和、疾患症状の再発の阻止又は緩和、疾患症状の重症度及び/又は頻度の減少のうち1つ又は複数を含む。治療は、治療が施されていない被験体に対して約1%〜約100%緩和すること、阻止すること、低減すること、減少すること又は阻害することを意味する。好ましくは、緩和、阻止、低減、減少又は阻害は、約100%、約99%、約98%、約97%、約96%、約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%又は約1%である。治療は、疾患の臨床症状の前、臨床症状と同時、又は臨床症状の発現に際して開始されてもよい。したがって、被験体は、疾患を有していてもよく、又は単に疾患に易罹患性であってもよい。治療の結果は恒久的なものであってもよく、又は数日間(1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間又は7日間)、数週間(1週間、2週間、3週間又は4週間)又は数か月(1カ月間、2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間、又はそれ以上)に亘って持続するものであってもよい。
【0037】
「被験体」の用語は、ヒト、並びにイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、及びウシ等の獣医学上又は農業上重要な動物を含む、鳥類又は哺乳類等の動物を意味することが意図される。
【0038】
本発明の式(1)のBCAT1阻害剤の1種又は複数種を、本明細書に記載される様々な方法における阻害剤の使用に関する印刷された指示書と共に含むキットもまた、本発明の範囲内である。
【0039】
II.本発明を実施するための好適な方法
in vitroにおける腫瘍細胞増殖アッセイ
BCAT1阻害剤のがんの成長を抑制する能力を、細胞増殖アッセイを使用してin vitroで評価する。細胞増殖アッセイは、典型的には、適切な培地中でコンフルエント近くまで細胞株を通例の方法で培養することを含む。その後、細胞をトリプシン処理し、1ウェル当たり2000細胞又は5000細胞で96ウェルプレートに播種する。阻害剤の存在下又は不在下において、細胞を48時間〜96時間培養する。その後、分光光度法(MTTアッセイ、BrdUアッセイ)又は蛍光光度法(Cyquantアッセイ)を使用して細胞増殖を決定する。
【0040】
in vivo転移アッセイ
BCAT1阻害剤のがんの成長を抑制する能力を、転移性腫瘍の自然発症モデル(spontaneous metastatic tumor model)を使用してin vivoにおいて評価する。このモデルでは、転移誘発(pro-metastatic)細胞株(例えば、MDA−MB−231)の或る特定の細胞数を胸腺欠損ヌードマウスに皮下注射する。腫瘍細胞を成長させ、腫瘍が触診可能となった場合に治療を開始する。コントロール(治療されていない)マウスの平均腫瘍体積は1000mmにまで達し、麻酔下で腫瘍を外科的に摘出し、傷を閉じる。治療を更に数週間継続する。実験終了時に動物を屠殺し、標的器官を摘出して転移の存在を調べる。
【0041】
滑膜細胞の活性化
RAの病理は、滑膜細胞の持続的な活性による炎症性タンパク質の産生と関連する。抗リウマチ薬を、LPS等の炎症性刺激の存在下でのマクロファージ及び線維芽細胞からの炎症性タンパク質の分泌を阻害する能力についてin vitroにおいて試験する。実験終了時に、ELISA又はウェスタン免疫ブロッティング等の免疫学的アッセイを通じて、細胞の馴化培地中に分泌タンパク質が検出される。
【0042】
CIAモデル
CIAは、RAの動物炎症モデルとしてよく知られている。このモデルにおいて、関節炎はアジュバント中の異種II型コラーゲンによる免疫化を介してラット又はマウスにおいて誘発され、動物の体肢における紅斑及び浮腫の存在によって臨床的に明らかとなる。通常、抗リウマチ薬は、関節炎の発現時に又は臨床的な症状発現に際して投与される。実験の間、動物は関節炎の存在をスコアリングされる。
【0043】
投与
上述の組成物は、局所、経口、直腸又は非経口(静脈、皮下または筋肉内)経路によって投与されてもよい。また、徐放のため疾患部位に埋め込まれる生分解性ポリマーに組み込まれてもよい。組成物の用量は、治療される病状、使用される薬物の活性、投与経路、及び疾患の重症度及び患者の体重等のその他の臨床的因子に依存する。組成物は、具体的な投与経路に適した方法で製剤化される。
【0044】
経口投与に適した製剤としては、所定量の活性成分を含有するカプセル、カシェー又は錠剤、粉末又は顆粒、溶液、懸濁液、及び乳剤が挙げられる。口腔内の局所投与に適した製剤としては、薬用キャンディー、トローチ剤、及び洗口液が挙げられる。皮膚への局所投与に適した製剤としては、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、及び経皮貼布が挙げられる。直腸投与用製剤は、好適な基剤と共に坐剤として提供されてもよく、膣内投与用としては、適当な担体中に活性成分を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、及びスプレーとして提供されてもよい。非経口投与に適した製剤としては、単位用量容器又は反復投与容器中に提供される水性又は非水性滅菌注射液が挙げられる。また、上記成分に加え、本発明の製剤は、件の製剤タイプを考慮して当該分野において一般的なその他の作用物質を含んでもよいことが理解されるべきである。
【0045】
本発明の各実施形態において、BCAT1阻害剤は、単独で、又は薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて投与されてもよい。単独で投与されるか、又は賦形剤と組み合わせて投与されるかにかかわらず、1つ又は複数のBCAT1阻害剤を含む製剤は、特定の疾患又は病状を治療するために有効な量で被験体に投与される。一般に、1つ又は複数のBCAT1阻害剤を含む製剤は、約0.1mg/体重kg〜約10mg/体重kgの量で被験体に投与される。また、許容される範囲として、約0.1mg/kg〜約5mg/kg、0.1mg/kg〜約4mg/kg、0.1mg/kg〜約3mg/kg、0.1mg/kg〜約2mg/kg、0.5mg/kg〜約5mg/kg、1mg/kg〜約5mg/kg、1.5mg/kg〜約5mg/kg及び2mg/kg〜約5mg/kgが挙げられる。製剤中のBCAT1阻害剤の具体的な用量としては、0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、1mg/kg、1.1mg/kg、1.2mg/kg、1.3mg/kg、1.4mg/kg、1.5mg/kg、1.6mg/kg、1.7mg/kg、1.8mg/kg、1.9mg/kg、2mg/kg、2.1mg/kg、2.2mg/kg、2.3mg/kg、2.4mg/kg、2.5mg/kg、2.6mg/kg、2.7mg/kg、2.8mg/kg、2.9mg/kg、3mg/kg、3.1mg/kg、3.2mg/kg、3.3mg/kg、3.4mg/kg、3.5mg/kg、3.6mg/kg、3.7mg/kg、3.8mg/kg、3.9mg/kg、4mg/kg、4.1mg/kg、4.2mg/kg、4.3mg/kg、4.4mg/kg、4.5mg/kg、4.6mg/kg、4.7mg/kg、4.8mg/kg、4.9mg/kg、及び5mg/kgが挙げられる。しかしながら、被験体に投与される製剤中のBCAT1阻害剤の量は、疾患又は病状の位置、起源、属性、範囲及び重症度、治療される個人の年齢及び状態等によって幅広い範囲で変化する。最終的には、内科医が使用される適切な用量を決定する。また、1つ又は複数のBCAT1阻害剤を含む製剤の投与頻度も、治療される疾患又は病状、及び投与様式を含む因子により変化する。各製剤は、一日に4回、3回、2回独立して投与されるか、又は1日に1回投与されてもよく、隔日、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、1週間に1回、7日おき、8日おき、9日おき、隔週で、月に1回及び隔月で投与されてもよい。
【0046】
本発明は、その範囲に対して何らかの制限を課すものとは解釈されない、以下の非限定的な実施例により更に理解される。一方、本明細書の記載を読めば、本発明の精神及び/又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなくそれら自身が当業者に示唆され得る、多様なその他の実施形態、改良、及びそれらの等価物に対する手段を有し得ることが明確に理解される。
【実施例】
【0047】
実施例1
MOHAによるBCAT1酵素活性の阻害
MOHAのBCAT1酵素活性を阻害する能力を、分光光度法により確認した。この実験において、0.1mgのMDA−MB−231腫瘍細胞において見出されるBCAT1を、0.25μLの抗BCAT1抗体及び5μLのプロテインAアガロースビーズ(Invitrogen)を使用して免疫沈降した。ビーズをピリドキサール5’−リン酸(PLP)5μL、硫酸アンモニウム50mM、NADH0.05mM、DTT5mM、α−ケトグルタル酸5mM、ロイシン10mM、及びロイシンデヒドロゲナーゼ(EMD Chemicals)0.95U、並びに様々な濃度のMOHAを含有する反応緩衝液95μLに添加した。BCAT1結合ビーズの反応混合物への添加は、NADHの消費を導き、これは分光光度法により測定された(励起:330nm〜370nm;発光:450nm)。その後、10分間に亘って蛍光発光の変化率を推定した(10サイクル;1サイクル/分)。アッセイを、96ウェルプレートにおいて3回繰り返し行った。図1は、MOHAが>100nMの濃度でBCAT1の酵素活性を阻害することを示している。
【0048】
実施例2
CD147の細胞表面での発現の阻害
MDA−MB−231細胞を35mm培養皿に播種し、約80%培養密度になるまで成長させた。その後、それらを25mMのMOHAで24時間処理した。実験の終わりに、細胞を、使用説明書に従ってEZ−Link Sulfo−NHS−Biotin(Pierce, Thermo Scientific)を使用した表面ビオチン化に供した。細胞溶解に続き、Immobilized Neutravidin Biotin Binding Protein(Pierce, Thermo Scientific)を使用して、ビオチン化タンパク質を等量(約0.4mg)の細胞溶解物から免疫沈降させ、75℃で10分間加熱することによって還元条件下でローディングバッファー中に溶出した。溶出されたビオチン化タンパク質を、SDS−PAGE電気泳動、及びCD147に対するウェスタン免疫ブロッティングに供した。また、この実験は、MOHA処理がん細胞に存在するCD147の総濃度を決定する手段として、非ビオチン化細胞溶解液0.2mgを含んでいた。図2は、MOHAで処理されたMDA−MB−231細胞は、CD147の細胞表面での発現の下方制御を生じることを示している。
【0049】
実施例3
MMP2分泌の阻害
ヒト腫瘍におけるMMPの大半が、腫瘍細胞よりも間質線維芽細胞により産生されることから、がんにおけるMMP産生に対するBCAT1阻害剤の効果は、線維芽細胞を使用することによってより良く理解される。96ウェルプレートに播種されたコンフルエントなHDF単層を、2%BSAを含有する無血清DMEM中において、0mM、10mM、又は25mMのMOHAで処理した。培養上清を24時間後に採取した。存在する細胞数に対して標準化した後、馴化培地を非還元条件下でゼラチン酵素電気泳動解析に供した。50mM Tris緩衝溶液(pH7.5)中の2.5%Triton X−100において短い(30分の)インキュベーションを行って分解されたタンパク質を復元した後、ゲルを1%Triton X−100、CaCl 5mM及びZnCl 10μΜを含有する50mM Tris(pH7.5)において37℃で16時間インキュベートした。その後、ゲルをBlue Stain Reagent(Thermo Scientific)を使用して染色した。濃く染色されたタンパク質バックグラウンドに対する消化されたゼラチンの明るい領域として、MMPを可視化した。MMP2は、分子量によって決定される、HDFによって分泌される主要なゼラチナーゼである。図3は、25mMのMOHAでHDFを処理した後にMMP2の濃度が70%まで減少していることを示している。
【0050】
実施例4
がん細胞増殖の阻害
MCF−7、MDA−MB−231、MDA−MB−435、又はHT−29がん細胞を、1ウェル当たり2000細胞の細胞密度で96ウェルプレートに播種した。様々な濃度のMOHAで処理する前に、細胞を一晩接着させた。その後、それらを72時間に亘って増殖させた。Cyquant proliferation kit(Invitrogen)を使用してアッセイの最後に細胞数を決定した。図4は、MOHAが、5mM〜10mMのIC50値で腫瘍細胞の細胞増殖を阻害することを示している。
【0051】
実施例5
MOHAによる治療後の4T1乳癌を有するマウスの腫瘍成長の抑制
Balb/c雌マウスの乳腺脂肪体に、2×10のマウス4T1乳がん細胞を注入した。腫瘍細胞の接種から3日後に治療を開始し、9日間に亘って継続した。この調査は2つの動物群(n=8/群)を含む。コントロールマウスはビヒクル(PBS)を受け、治療マウスは表示される用量のMOHAの腹腔内投与を毎日受けた。腫瘍細胞の接種から12日後に治療を終了し、MOHAの最後の処置から2日後に終わらせた。図5より、調査の終了時において、MOHAを受けたマウスは、約50%にも及ぶ原発腫瘍増殖の低減を経験していることが示された。
【0052】
実施例6
MOHAによる処理後のLPS刺激マクロファージのTNFα分泌の阻害
ヒト単球THP−1細胞(7.5×10細胞/96ウェルプレートのウェル)に由来するマクロファージを、200nMのPMAで96時間に亘って刺激した後に、MOHA不在下及び種々の濃度のMOHAの存在下において無血清培地中で6時間に亘って1μg/mLのLPSで活性化した。その後、馴化培地を採取し、細胞数当たりに標準化して、Biolegendから入手したELISAキットを使用してTNFαの存在を解析した。図6は、THP−1由来マクロファージをMOHAで処理した後のTNFα分泌の抑制を示している。
【0053】
実施例7
CypA活性化の存在下又は不在下におけるマクロファージのMOHAによる処理後のMMP9分泌の阻害
ヒト単球THP−1細胞に由来するマクロファージを、200nMのPMAで96時間刺激した後に、200ng/mLのシクロスポリンA(CypA)の不在下又は存在下において、無血清培地中で24時間に亘り10mMのMOHAで処理した。接着した細胞に等しい数に対応する馴化培地を、SDS−PAGE電気泳動、及びMMP9に対するウェスタン免疫ブロッティングに供した。タンパク質発現レベルを、Image Jにより推定した。図7は、10mMのMOHAで処理された後の非刺激及びCypA刺激THP−1−由来マクロファージからのMMP9分泌の阻害を示している。
【0054】
実施例8
MOHAによる治療後のコラーゲン誘発関節炎(CIA)を伴うマウスにおける関節炎の阻害
6〜8週齢のDBA/1マウスの尾の付け根に、完全フロイントアジュバント中に乳化されたウシII型コラーゲン100mgを皮下注射した。免疫化から21日目に、マウスに不完全フロイントアジュバント中に乳化されたウシII型コラーゲン100mgの追加抗原注射を与えた。この実験には2つの群(n=10)が含まれ、各群は4週間に亘って週末を除き毎日、経口で1000mg/KgのMOHA又はビヒクル(Cremophor El)コントロールを受けた。関節炎の臨床症状が視認され、疾患が確立した場合に治療を開始した。
【0055】
関節炎の進行は隔日で評価され、以下の0〜4のスケールに基づいてスコア付された:0=浮腫又は腫れがない、1=僅かな浮腫、及び足又は足首に限定される紅斑、2=中等度から重度の浮腫、及び足又は足首に限定される紅斑、3=浮腫及び手足全体の紅斑、並びに4=複数の関節を含む四肢の最大の炎症。動物当たりの関節炎の最大スコアは16であった。
【0056】
試験の終わりに、最終的な血清を採取し、炎症性サイトカイン及び骨びらんに関与するタンパク質の存在を解析した。さらに、組織学的評価のため各群より3本の前足及び4本の後ろ足を選択した。切片を盲検的に評価し、ここに示されるスケールに従って炎症、パンヌス浸潤、軟骨損傷、及び骨びらんをスコア付した。
【0057】
炎症:0=正常、1=発症した関節の滑膜及び関節周囲組織における炎症細胞の最少の浸潤、2=手足が発症した関節に限定される場合、軽度の浸潤;3=手足が発症した関節に限定される場合、中等度の浮腫を伴う中等度の浸潤、4=顕著な浮腫を伴うほとんどの領域に影響を及ぼす顕著な浸潤、5=重度の浮腫を伴う重度のびまん性浸潤。
【0058】
パンヌス:0=正常;1=軟骨及び軟骨下骨におけるパンヌスの最少浸潤;2=発症した関節における硬組織の辺縁帯破壊を伴う軽度の浸潤;3=発症した関節における中等度の硬組織破壊を伴う中等度の浸潤;4=関節構造の顕著な破壊を伴う顕著な浸潤、ほとんどの関節;5=全て又はそれに近い関節構造の破壊と関連する重度浸潤、全ての関節に影響を及ぼす。
【0059】
軟骨損傷:0=正常、1=最少=発症した関節における明白な軟骨細胞の減少又はコラーゲン破壊を伴わないトルイジンブルー染色の最少から軽度の減少;2=軽度=発症した関節における限局性の軽度の(表在性)軟骨細胞の減少及び/又はコラーゲン破壊を伴うトルイジンブルー染色の軽度の減少;3=中等度=発症した関節における多発性の軽度の(中間層までの深さ)軟骨細胞の減少及び/又はコラーゲン破壊を伴うトルイジンブルー染色の中等度の減少;4=顕著=ほとんどの関節における多発性の顕著な(深層までの深さ)軟骨細胞の減少及び/又はコラーゲン破壊を伴うトルイジンブルー染色の顕著な減少;5=重度=全ての関節における多発性の重度の(石灰化線までの深さ)軟骨細胞の減少及び/又はコラーゲン破壊を伴うトルイジンブルー染色の重度びまん性減少。
【0060】
骨再吸収:0=正常;1=最少=小さい再吸収領域、低倍率ではすぐに明らかではない、発症した関節において稀な破骨細胞;2=軽度=より多くの再吸収領域、低倍率ではすぐに明らかではない、発症した関節におけるより多くの破骨細胞;3=中等度=皮質における全層欠損を伴わない骨髄海綿(medullary trabecular)骨及び皮質骨の明白な再吸収、一部の骨髄海綿骨の減少、低倍率で明らかな傷害、発症した関節におけるより多くの破骨細胞;4=顕著=皮質骨における全層欠損、しばしば、残存する皮質表面のプロファイルの歪みを伴う、髄骨の顕著な減少、多数の破骨細胞、ほとんどの関節に影響を及ぼす;5=重度=皮質骨における全層欠損及び全ての関節の関節構造の破壊。
【0061】
図8は、MOHAによる治療後のコラーゲン誘発関節炎CIAを伴うマウスにおける関節炎の症状発現の実質的な阻害を示している。図9は、CIAを有するマウスのMOHAによる治療後に検査された全ての組織学的パラメーターの実質的な阻害を示している。骨再吸収に対するMOHAの効果は、最も明白であり、MOHAが骨びらんの低減に特に効果的であることを示している。図10は、CIAを有するマウスのMOHAによる治療後の循環RANKL濃度の減少を示す。
【0062】
実施例9
MOHAによる処理後のMC3T3前駆破骨細胞のRANKL分泌の阻害
MC3T3前駆破骨細胞を、7.5×10細胞/ウェルの細胞密度で96ウェルプレートに播種し、一晩接着させた。その後、それらを1μg/mLのLPSで刺激し、種々の濃度のMOHAで24時間に亘って処理した。その後、馴化培地を採取し、細胞数当たりに標準化し、Abcamから入手したELISAキットを使用してRANKLの存在を解析した。図11は、MOHAによる処理後のLPS刺激MC3T3細胞のRANKL分泌の阻害を示している。
【0063】
本明細書において参照される全ての記録、論文及び出版物には、書籍、学術論文、取扱説明書、特許出願、公開特許出願及び特許が含まれ、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11