【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、これらの欠点を少なくとも部分的には克服することであり、下顎骨成長、上顎骨成長、及び下顎前方移動を促進する器具を提供することであり、この器具は、咬合している間、上顎骨に対して下顎骨が動かされることを可能にし、それによって口腔の適切な開放を可能にしつつ、上顎歯列弓に対して下顎歯列弓を効果的に再配置する。
【0015】
本発明の他の目的は、下顎骨成長、上顎骨成長、及び下顎前方移動を促進する器具を提供することであり、この器具は、上顎及び下顎歯列弓の成長欠陥が矯正されるように、十分な動きを確保しつつ、装着が楽である。
【0016】
本発明の他の目的は、下顎骨成長、上顎骨成長、及び下顎前方移動を促進する器具を提供することであり、この器具は、継続して一定かつ持続可能なやり方で治療に必要な力を印加することができる。
【0017】
本発明の他の目的は、下顎骨成長、上顎骨成長、及び下顎前方移動を促進する器具を提供することであり、この器具は、単純な構成を有し、安価に大量生産され得る一方で、治療を受けている患者に容易に合わせることができる。
【0018】
主題
本発明によれば、前記課題は、下顎骨成長、上顎骨成長、及び下顎前方移動を促進する器具によって解決され、この器具は、
前端及び後端を有する第1ロッド、
前端及び後端を有する第2ロッド、
前記第1ロッドの前記前端を患者の第1歯列弓に(すなわち上顎歯列弓に、又は下顎歯列弓に)接続できる第1旋回ジョイント、
前記第2ロッドの前記前端を患者の第2歯列弓に(すなわち下顎歯列弓に、又は上顎歯列弓に)接続できる第2旋回ジョイント、
ロッドの後端を互いに接続することによって、前記器具が開口位置(開放している位置とも呼ばれる)から閉口位置(閉鎖している位置とも呼ばれる)へと遷移でき、それによって開口及び閉口の動きに従うことができる第3旋回ジョイント(7)、
前記第1ロッド及び前記第2ロッドは、比較的剛性を有し、互いに異なる長さを有し、
器具が閉口位置に戻るようにし、それによってロッドが、顎の閉口位置において上顎歯列弓に対する下顎歯列弓の相対的移動を生じることができるよう、前記第3旋回ジョイントが弾性手段によって最短のロッドを支持する歯列弓に接続される。
【0019】
よって本発明の器具は、異なる長さを有する実質的に剛性のあるロッドを含み、これらロッドは、それぞれ、旋回ジョイント又はヒンジによって歯列弓のうちの一方に接続され、第3旋回ジョイント又はヒンジによって互いに接続されている。前端とは、ロッドの近心端を意味し、後端とは、ロッドの遠心端を意味する。これら第1及び第2ロッドは、口腔の一方の側だけに配置され得るが、そのようなロッドを、歯列弓の外側に、口腔のそれぞれの側に1つずつ、2セット配置することが好ましい。これは、器具によって行われる治療の間、口腔が良好に開口することを確実にできる。
【0020】
本発明によればより具体的には、器具を閉鎖位置に戻すために、第3旋回ジョイントは、弾性手段によって、最短のロッドを支持する歯列弓に接続されている。よって旋回ジョイントは、歯列弓に接続され、その最短のロッド又は収縮された(retracted)ロッド(後方位置において)と同じレベルにおいて、最短のロッドを旋回可能に支持する。これによって、治療の最適な効果のために閉口の間、上顎骨に対する下顎骨の強制的な前方・後方移動を確実に行うことができる。加えて、器具の第3関節が、最短ロッドを支持する顎の近傍に留まるので、開口動きの大きさは、その長さによって決定され、器具が快適に装着されることを可能にし、したがって開口位置から閉口位置への移動によって生じる不快感を防ぐことができる。
【0021】
好ましくは、第1旋回ジョイントの旋回軸は、歯列弓の犬歯の近傍に位置し、第2旋回ジョイントの旋回軸は、反対側の歯列弓の第1臼歯の近傍に位置し、第3旋回ジョイントの旋回軸は、顎の閉じた位置における閉口平面内に位置する。
【0022】
よってII級欠陥を治療するよう意図される器具の場合、本発明の器具は、上側上顎(upper maxilla)のための犬歯における前方取付具を有する第1ロッド、つまりより長いロッド、つまり上側ロッドと、第1下側臼歯における後方取付具を有する第2ロッド、つまりより短いロッドと、を有する。上側ロッドの長さは、下側ロッドの長さよりも長いので、下顎骨の前方移動を可能にする。2つのロッドの間のヒンジピンと、下顎骨支持物とを接続するスプリングは、咬合を前方位置で強制的に行うようにする。この装置の主要な生理学的優位性は、下顎骨における力の後方印加の点であり、これは下側切歯の頬側転位を制限する。同じ手法が、睡眠時無呼吸の状況において夜間の下顎骨前方移動のために用いられる。
【0023】
下顎骨後退を促進するIII級欠陥を治療するよう意図される器具の場合、本発明の器具は、下顎犬歯における前方取付具を有する第1ロッド、つまりより長いロッド、つまり下側ロッドと、上側第1臼歯における後方取付具を有する第2ロッド、つまりより短いロッドとを有する。下側ロッドの長さは、上側ロッドの長さより長いので、下顎骨の後退を可能にする。2つのロッドの間のヒンジピンと、上顎骨トレイとを接続するスプリングは、咬合を後方位置で強制的に行うようにする。この装置の主要な生理学的優位性は、上顎骨における力の後方印加の点であり、これは上側切歯の頬側転位を制限する。
【0024】
3つの旋回軸は、互いに平行であり、下顎骨の旋回軸と平行であり、これによって自然な顎の開口及び閉口の動きが確保される。
【0025】
有利には、第2ロッドは、より短く、それが配置された位置において測定された口腔の開口の大きさに実質的に等しい長さを有する。
【0026】
このより短いロッドは、顎の閉じた位置における傾斜した位置から、顎が開いた時の実質的に垂直な位置へと、旋回動作を行い、これは、弾性戻り手段の動きの大きさ及びコースを規定する。
【0027】
好ましくは、上顎歯列弓に対する下顎歯列弓の動きは、器具の閉じた位置における実質的に水平な平面内で起こる。
【0028】
3つの旋回ジョイントは、顎の閉じた位置においては、第1及び第2ジョイントが実質的に同じ平面内に配置されるよう、配置される。これによって、顎の閉じた位置における、咬合平面内においては、歯列弓群の互いに対する動きが可能になり、これは本発明の器具で達成される治療の効果を改善する。
【0029】
有利には2つのロッドの長さの比は、0.3〜0.5である。多くの試験が研究所で行われた結果、この比が効果的な治療及び口腔の最適な開口を実現することを可能にしたと認められる。実際、最も短いロッドが実質的に垂直な動きをする間、最も長いロッドは、器具の開口位置からの変化の間、実質的に水平な動きをする。
【0030】
好ましくは、前記ロッドのうちの少なくとも1つの長さは調整され得る。
【0031】
II級欠陥の治療において、上側ロッドの長さは、下顎骨成長の漸進的矯正を可能にするよう、好ましくは調整可能である。2つの上側ロッドの異なる調整は、下顎骨成長における非対称性を調整することを可能にする。
【0032】
III級欠陥の治療において、下側ロッドの長さは、上顎骨成長の漸進的矯正、及び下顎骨成長の鈍化を可能にするよう、好ましくは調整可能である。2つの上側ロッドの異なる調整は、下顎骨成長における非対称性を調整することを可能にする。
【0033】
上顎骨の成長は、ヘッドギアを追加することによって助長され得る(Delaire)。力の印加の点は、上顎トレイの前方部分上に(側切歯及び犬歯の間)有利には配置される。
【0034】
有利には、前記弾性手段は、テンションスプリングを含む。エラストマー弾性体のような弾性体が、第3旋回ジョイントを歯列弓に接続するのに用いられ得る。しかし、機械的頑丈さ、及び器具の使用期間の間にわたって印加される力の一定さというその特性から、テンションスプリングを用いることが好ましい。
【0035】
好ましくは、本発明の器具は、前記スプリングの力を調整する手段を含む。これによって、復元力を個々人の敏感さに合わせることができる。
【0036】
本発明の目的は、上顎歯列弓に取り付けられる上側トレイ、下顎歯列弓に取り付けられる下側トレイ、及び第1ロッドによって上側トレイに接続され、第2ロッドによって下側トレイに接続される、本発明による器具を備える歯科用装置によっても達成することもできる。
【0037】
そのような歯科用装置は、2つのトレイ、及びトレイ上に旋回可能に配置された本発明の器具を含む。これによって、口腔から装置を容易に取り外すことを可能にしつつ、歯列弓への良好な取付を確実にすることができる。このような装置は、まだ永久歯列を持っていない小児に、より具体的には適している。
【0038】
有利には、本発明の歯科用装置の上側トレイ及び下側トレイのうちの少なくとも1つは、好ましくは液体、半液体、又はゼリー状ポリマーのうちの少なくとも1つである充填材料を含み、その壁を貫通する1つ以上の排出孔を有することによって、トレイの拡張が可能であり、前記充填材料が入れられた後に、前記充填材料が囲む歯列弓の大きさにトレイを合わせることが可能である。
【0039】
これによって、本発明の歯科用装置を、それを使う患者の顎の構造に、より正確に合わせることができる。