特許第6054100号(P6054100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054100
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】電力測定装置および電力測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 21/00 20060101AFI20161219BHJP
   G01R 22/06 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   G01R21/00 E
   G01R22/06 110A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-187820(P2012-187820)
(22)【出願日】2012年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-44170(P2014-44170A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】池田 大桂
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 浩一
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−343109(JP,A)
【文献】 特開2010−025918(JP,A)
【文献】 特開2008−101927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 22/06
G01R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電路に印加されている交流電圧を当該導電路に非接触の状態で検出して電圧検出信号として出力する電圧検出部と、
前記導電路を流れる交流電流を当該導電路に非接触の状態で検出すると共に当該交流電流の振幅に比例して振幅が変化する電流検出信号を出力する電流検出部と、
前記電圧検出信号および前記電流検出信号に基づいて前記導電路を介して供給されている交流電力を測定する処理部とを備え
前記電圧検出部は、前記導電路と非接触の状態で対向する検出電極、当該検出電極と前記導電路との間の静電結合容量を介して一方の入力端子が当該導電路に接続されると共に前記静電結合容量を介して前記導電路と前記一方の入力端子との間に流れる静電誘導電流を電圧に変換して変換信号として出力する演算増幅器、および前記変換信号に基づいて前記演算増幅器の他方の入力端子に供給する供給電圧信号を生成すると共に前記変換信号の振幅が減少するように当該供給電圧信号の電圧値を制御する電圧制御回路を有して、当該供給電圧信号を前記電圧検出信号として出力し、
前記処理部は、前記電圧検出信号と前記電流検出信号との間の位相差を検出する位相差検出処理と、前記電流検出信号に基づいて前記交流電流の実効値を算出する電流実効値算出処理と、入力操作によって入力された前記交流電圧の実効値、前記算出した交流電流の実効値、および前記検出した位相差に基づいて、前記交流電力を測定する電力測定処理とを実行する電力測定装置であって、
前記演算増幅器および前記電圧制御回路は同じグランドを基準電位とする同じプラス電圧および同じマイナス電圧で作動し、前記電圧検出部は、前記交流電圧が前記プラス電圧を超える電圧範囲では当該プラス電圧で一定となり、当該交流電圧が前記マイナス電圧を下回る電圧範囲では当該マイナス電圧で一定となり、かつ当該交流電圧が当該マイナス電圧以上当該プラス電圧以下の電圧範囲では当該交流電圧と一致する状態で前記電圧検出信号を出力する電力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電路を介して供給されている交流電力を測定する電力測定装置および電力測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電力測定装置として、導電路(例えば、電線の芯線)に接続して測定した導電路に印加されている交流電圧と、クランプセンサを用いて非接触で測定した導電路に供給されている交流電流とに基づいて、導電路を介して供給されている交流電力を測定する電力測定装置が一般的に知られている。しかしながら、この電力測定装置では、電圧を入力するための電圧コードを導電路に接続する必要があるため、作業者が、電圧コードの導電路への接続時において、導電路や電圧コードの金属部分に接触して感電するおそれがある。
【0003】
このため、下記の特許文献1において開示された非接触式の電圧測定装置の構成を、上記の電力測定装置における電圧測定の構成部分に適用することで、感電を防止可能に構成することも考えられる。この非接触式の電圧測定装置は、電圧を測定すべき導電路(配電線路)に絶縁距離を介して対向配置される検出電極と、検出電極に接続されると共に導電路の電圧によって検出電極に生じた電圧の変化を増幅する増幅器と、増幅器から出力されるアナログ信号の電圧値をデジタル信号に変換するA/D変換器と、CPUとを備えている。
【0004】
この非接触式の電圧測定装置では、CPUは、別の接触式電圧測定装置で測定された導電路の電圧についての電圧値を入力してRAMなどに記憶させる。また、CPUは、A/D変換器から出力されているデジタル信号に基づいて導電路の電圧についての電圧値を測定し、かつこの測定した電圧値(以後、「測定電圧値」ともいう)をRAMに記憶させた電圧値(接触式電圧測定装置で測定された電圧値)に較正すると共に、両電圧値の比である較正比を算出してRAMに記憶させる。
【0005】
その後、CPUは、A/D変換器から出力されているデジタル信号に基づいて導電路の電圧値を算出すると共に、この算出した電圧値をRAMに記憶されている較正比で較正することにより、導電路の電圧についての電圧値を測定する。この場合、この測定方法では、検出電極を介して検出したデジタル信号に基づいて算出される測定電圧値の変化が、導電路の電圧変化に正比例するということを前提にしている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−238466号公報(第2−4頁、第1−4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の非接触式の電圧測定装置を適用して構成される電力測定装置には、以下のような解決すべき課題が存在している。すなわち、非接触式の電圧測定装置における検出電極と導電路との間に形成される静電容量は、導電路に対する検出電極の位置ずれだけではなく、湿度や温度の変化に応じて変化する。このため、上記の非接触式の電圧測定装置では、導電路に印加されている電圧が既知の電圧値(一定の電圧値)の電圧のときであっても、湿度や温度の変化に応じて増幅器から出力されるアナログ信号の電圧値が変化するため、導電路の電圧についての電圧値を正確に測定することができない。したがって、この非接触式の電圧測定装置を適用して構成した電力測定装置には、導電路に既知の電圧値の電圧が印加されているときであっても、導電路を介して供給される交流電力を正確に測定することができないおそれがあるという解決すべき課題が存在している。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、既知の電圧値の交流電圧が印加されている電線を介して供給されている交流電力を正確に測定し得る電力測定装置および電力測定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電力測定装置は、導電路に印加されている交流電圧を当該導電路に非接触の状態で検出して電圧検出信号として出力する電圧検出部と、前記導電路を流れる交流電流を当該導電路に非接触の状態で検出すると共に当該交流電流の振幅に比例して振幅が変化する電流検出信号を出力する電流検出部と、前記電圧検出信号および前記電流検出信号に基づいて前記導電路を介して供給されている交流電力を測定する処理部とを備え、前記電圧検出部は、前記導電路と非接触の状態で対向する検出電極、当該検出電極と前記導電路との間の静電結合容量を介して一方の入力端子が当該導電路に接続されると共に前記静電結合容量を介して前記導電路と前記一方の入力端子との間に流れる静電誘導電流を電圧に変換して変換信号として出力する演算増幅器、および前記変換信号に基づいて前記演算増幅器の他方の入力端子に供給する供給電圧信号を生成すると共に前記変換信号の振幅が減少するように当該供給電圧信号の電圧値を制御する電圧制御回路を有して、当該供給電圧信号を前記電圧検出信号として出力し、前記処理部は、前記電圧検出信号と前記電流検出信号との間の位相差を検出する位相差検出処理と、前記電流検出信号に基づいて前記交流電流の実効値を算出する電流実効値算出処理と、入力操作によって入力された前記交流電圧の実効値、前記算出した交流電流の実効値、および前記検出した位相差に基づいて、前記交流電力を測定する電力測定処理とを実行する電力測定装置であって、前記演算増幅器および前記電圧制御回路は同じグランドを基準電位とする同じプラス電圧および同じマイナス電圧で作動し、前記電圧検出部は、前記交流電圧が前記プラス電圧を超える電圧範囲では当該プラス電圧で一定となり、当該交流電圧が前記マイナス電圧を下回る電圧範囲では当該マイナス電圧で一定となり、かつ当該交流電圧が当該マイナス電圧以上当該プラス電圧以下の電圧範囲では当該交流電圧と一致する状態で前記電圧検出信号を出力する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の電力測定装置では、電圧検出信号と電流検出信号との間の位相差を検出する位相差検出処理と、電流検出信号に基づいて交流電流の実効値を算出する電流実効値算出処理と、入力操作によって入力された交流電圧の実効値、算出した電流の実効値および算出した位相差に基づいて、交流電力を測定する電力測定処理とを実行する。
【0013】
したがって、この電力測定装置によれば、導電路に印加されている交流電圧を導電路に非接触の状態で検出するための検出電極と導電路との間に存在する静電結合容量の容量値が温度などによって変動した場合であっても、入力操作によって入力された電圧の実効値を用いて交流電力を正確に測定することができる。
【0014】
また、この電力測定装置によれば、交流電圧がプラス電圧を超える電圧範囲ではこのプラス電圧で一定となり、交流電圧がマイナス電圧を下回る電圧範囲ではこのマイナス電圧で一定となり、かつ交流電圧がこのマイナス電圧以上このプラス電圧以下の電圧範囲では交流電圧と一致する状態(交流電圧と電圧値がほぼ同じになる)状態で電圧検出信号生成されるため、処理部は、この電圧検出信号に基づいて、電圧検出信号と電流検出信号との間の位相差(つまり、導電路に印加されている交流電圧と交流電流との間の位相差)を正確に測定することができる結果、この電力測定装置によれば、正確な位相差に基づいて、交流電力をより正確に測定することができる。また、この電力測定装置によれば、電圧検出信号の振幅を交流電圧の振幅よりも低い状態に維持することができるため、電圧検出部での消費電力を大幅に低減することができ、この結果として電力測定装置全体の消費電力についても大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電力測定装置1の構成図である。
図2図1の電圧検出部2の回路図である。
図3図1の電圧検出部2の動作を説明するための波形図である。
図4図1の電圧検出部2Aの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、電力測定装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0017】
最初に、電力測定装置の構成について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示す電力測定装置1は、電圧検出部2、電流検出部3および本体部4を備えて、例えば電線100を介して供給されている交流電力Pを測定可能に構成されている。この場合、電線100は、被覆電線であって、図1,2に示すように、導電路の一例である導電材料で構成された芯線101と、芯線101の周囲を覆う絶縁材料製の絶縁被覆102とで構成されている。
【0019】
電圧検出部2は、図1に示すように、電線100を挟み込み可能なクリップ状に構成されて、挟み込んだ電線100の芯線101に印加されている交流電圧Vtを芯線102に非接触の状態で検出して、交流信号である電圧検出信号Svとして出力する。本例では一例として、電圧検出部2は、図1,2に示すように、クリップ状に構成されたケース11、検出電極12、演算増幅器13、バッファ14、絶縁回路15、電圧制御回路16および不図示の電源回路を備えている。電源回路は、本体部4から供給される電力に基づいて、図2において破線で囲まれた構成要素(演算増幅器13、バッファ14)に対する第1電源(一例として、グランドG1を基準電位とするプラス電圧およびマイナス電圧)と、電圧制御回路16に対する第2電源(一例として、グランドG2を基準電位とするプラス電圧およびマイナス電圧)とを生成して出力する。
【0020】
ケース11は、絶縁性を有する樹脂材料を用いてクリップ状に構成されて、検出電極12、演算増幅器13、バッファ14、絶縁回路15、電圧制御回路16および不図示の電源回路を内部に収容する。また、ケース11には、図2に示すように、電線100を挟み込むための凹部11a,11aが一対形成されている。この一対の凹部11a,11aは、同図に示すように、電圧検出部2が電線100を挟み込んだ状態において、電線100が挿通される孔部を形成する。
【0021】
検出電極12は、図2に示すように、ケース11内部における凹部11aの近傍に配設されている。この構成により、検出電極12は、挟み込まれた状態の電線100の芯線101と非接触の状態で対向する。このため、検出電極12と、挟み込まれた状態の電線100の芯線101との間には、静電結合容量C0が形成される。この静電結合容量C0の容量値は、電力測定装置1が設置されている場所の温度や湿度、また一対の凹部11a,11aで構成される上記の孔部内での電線100の位置によって僅かに変動する。
【0022】
演算増幅器13は、一方の入力端子としての反転入力端子が検出電極12に接続されている。これにより、演算増幅器13の反転入力端子は、検出電極12と芯線101との間の静電結合容量C0を介して芯線101に交流的に接続される。また、演算増幅器13は、他方の入力端子としての非反転入力端子がグランドG1に接続されている。また、演算増幅器13の反転入力端子と出力端子との間には帰還抵抗13aが接続されている。この構成により、演算増幅器13は、電流電圧変換回路に構成されて、静電結合容量C0を介して芯線101と検出電極12との間に流れる電流(静電誘導電流)Iを電圧に変換して(具体的には、変換信号としての電圧信号V2に変換して)出力する。この場合、電圧信号V2は、電流Iの電流値に応じて振幅(電圧値)が変化すると共に、電流Iの流れる向きに応じて極性(グランドG1の電位を基準として決まる極性)が変化する。具体的には、電圧信号V2の極性は、芯線101から検出電極12に電流Iが流れるとき(検出電極12に対して芯線101が高電位のとき)には負極性になり、逆のときには正極性になる。
【0023】
バッファ14は、電圧信号V2を入力すると共に、電圧信号V2と同一電圧(同じ振幅)で、かつ同一位相の電圧信号V3を低インピーダンスで出力する。絶縁回路15は、一例としてパルストランスで構成されて、入力される電圧信号V3を、この電圧信号V3と電気的に絶縁された電圧信号V4(一例として、電圧信号V3と同じ振幅で、かつ同じ位相の電圧信号)に変換して電圧制御回路16に出力する。なお、絶縁回路15は、フォトトランジスタやフォトカプラといった光絶縁式アイソレータを用いて構成することもできる。
【0024】
電圧制御回路16は、入力している電圧信号V4に基づいて電圧検出信号Svを生成して、第1電源に基づいて作動する演算増幅器13およびバッファ14側の基準電位(グランドG1)に供給電圧信号として出力すると共に、電圧検出部2の外部に出力する。これにより、演算増幅器13およびバッファ14側の基準電位(グランドG1)の電圧、つまり、演算増幅器13の非反転入力端子の電圧、ひいては演算増幅器13の反転入力端子に接続されている検出電極12の電圧は、電圧検出信号Svの電圧値Vgの増減に伴って変化する。また、電圧制御回路16は、電圧検出信号Svの生成に際して、入力している電圧信号V4(ひいては電圧信号V4の元になる電圧信号V2)の振幅が減少するように、電圧検出信号Svの電圧値Vgをフィードバック制御する。
【0025】
この構成により、電圧検出部2では、電圧制御回路16による上記のフィードバック制御(電圧信号V2の振幅を減少させる制御)により、芯線101と検出電極12との間に電流Iが流れないように、すなわち、検出電極12の電圧(電圧値Vg)が交流電圧Vtの電圧値と一致するように(同一電圧で、かつ同一位相になるように)制御される。したがって、電圧検出部2は、温度などによって容量値が変化する静電結合容量C0を介して交流電圧Vtを検出する構成であっても、交流電圧Vtと同一電圧で、かつ同一位相の電圧検出信号Svを検出することが可能になっている。
【0026】
電流検出部3は、先端が開閉自在なクランプ型の電流検出器で構成されて、図1に示すように、電線100の周囲を取り囲んだ状態において、線100に流れている交流電流Itを非接触で検出して、交流信号である電流検出信号Siを出力する。具体的には、電流検出部3は、例えば、不図示のカレントトランスやホール素子を使用して構成されて、電線100に交流電流Itが流れているときに電線100の周囲に発生する磁束を検出することにより、この交流電流Itの電流値に比例して振幅(電圧値)が変化すると共に、交流電流Itの向きに応じて極性が変化する電圧信号としての電流検出信号Siを、交流電流Itの変化に対する遅延が殆ど生じない状態で生成して出力する。したがって、電流検出部3は、交流電流Itと同一位相の電流検出信号Siを生成して出力する。
【0027】
本体部4は、図1に示すように、一例として、入力部21、処理部22、記憶部23、操作部24、表示部25および不図示の電源回路を備えて構成されている。この場合、電源回路は、上記した第2電源のグランドG2と同じ電位のグランドを基準電位とする電圧(例えば、プラス電圧およびマイナス電圧)を生成して、入力部21、処理部22、記憶部23、操作部24および表示部25に作動用電圧として供給する。
【0028】
入力部21は、バッファ、レンジアンプおよびA/Dコンバータ(いずれも図示せず)を一例として2系統備えて構成されている。この構成により、入力部21は、この2系統のうちの1系統で、電圧検出部2から出力される電圧検出信号Svをサンプリングすることにより、電圧検出信号Svの波形を示す電圧波形データDvに変換して出力すると共に、他の1系統で、電流検出部3から出力される電流検出信号Siをサンプリングすることにより、電流検出信号Siの波形を示す電流波形データDiに変換して出力する。
【0029】
処理部22は、CPUなどで構成されて、記憶処理、電流実効値算出処理、位相差検出処理、電力測定処理および表示処理を実行する。この場合、記憶処理では、処理部22は、操作部24から出力される交流電圧Vtの実効値Vrms(以下、「電圧実効値Vrms」ともいう)、並びに入力部21から出力される電圧波形データDvおよび電流波形データDiを取得して記憶部23に記憶させる。また、電流実効値算出処理では、処理部22は、電流検出信号Siに基づいて(本例では、電流検出信号Siの波形を示す電流波形データDiに基づいて)、交流電流Itの実効値Irms(以下、「電流実効値Irms」ともいう)を算出して、記憶部23に記憶させる。また、位相差検出処理では、処理部22は、電圧検出信号Svと電流検出信号Siとの間の位相差φを検出して、記憶部23に記憶させる。また、電力測定処理では、処理部22は、電圧実効値Vrms、電流実効値Irmsおよび位相差φに基づいて、交流電力P(=Vrms×Irms×cosφ)を算出(測定)して、記憶部23に記憶させる。また、表示処理では、処理部22は、算出した交流電力Pなどを表示部25に表示させる。
【0030】
記憶部23は、例えば、ROMおよびRAMなどの半導体メモリや、HDD(Hard Disk Drive )などを用いて構成されている。操作部24は、数値入力キーなどを備え、操作者による入力操作によって入力された電圧実効値Vrmsを処理部22に出力する。表示部25は、出力部の一例であって、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイ装置で構成されている。この構成により、表示部25は、処理部22で測定された交流電力Pを画面に表示する。
【0031】
次いで、電力測定装置1による電線100の交流電力Pについての測定動作について説明すると共に、併せて電力測定方法について説明する。
【0032】
まず、操作者は、電力測定装置1の電圧検出部2および電流検出部3を図1に示すように、測定対象である電線100に装着する。これにより、電圧検出部2は、電線100の芯線101に印加されている交流電圧Vtを検出して、電圧検出信号Svを出力する動作を開始する。また、電流検出部3も、芯線101に流れている交流電流Itを検出して、電流検出信号Siを出力する動作を開始する。これにより、本体部4では、入力部21が、電圧検出信号Svを電圧波形データDvに、また電流検出信号Siを電流波形データDiにそれぞれ変換して、処理部22に出力する。
【0033】
次いで、操作者は、操作部24に対する入力操作を実行することにより、電線100に印加されている交流電圧Vtについての既知の電圧実効値Vrmsを操作部24に入力する。例えば、電線100に印加されている交流電圧VtがAC100V(既知)であるときには、その電圧実効値Vrmsとして「100V」を示す数値「100」を入力する。操作部24は、入力された電圧実効値Vrmsを処理部22に出力し、処理部22は、この操作部24から出力された電圧実効値Vrmsを取得すると共に記憶処理を実行する。これにより、電圧実効値Vrmsが記憶部23に記憶される。
【0034】
処理部22は、このようにして電圧実効値Vrmsの記憶部23への記憶が完了した後、引き続いて記憶処理を実行して、入力部21から出力されている電圧波形データDvおよび電流波形データDiを一定量(例えば、交流電圧Vtの1周期分)だけ取得して、記憶部23に記憶させる。
【0035】
次いで、処理部22は、電流実効値算出処理を実行する。この電流実効値算出処理では、処理部22は、記憶部23に記憶されている電流波形データDi、電流検出部3での交流電流Itから電流検出信号Siへの変換率(既知)、および入力部21のレンジアンプでの増幅率(既知)に基づいて、交流電流Itの電流実効値Irmsを算出して、記憶部23に記憶させる。
【0036】
続いて、処理部22は、位相差検出処理を実行する。この位相差検出処理では、処理部22は、処理部22に記憶されている電圧波形データDvおよび電流波形データDiに基づいて、電圧検出信号Svおよび電流検出信号Si間の位相差φを検出して、記憶部23に記憶させる。一例として、処理部22は、まず、電圧波形データDvに基づいて電圧検出信号Svの立ち上がりゼロクロス点(または、立ち下がりゼロクロス点)を検出すると共に、電流検出信号Siに基づいて電流検出信号Siの立ち上がりゼロクロス点(または、立ち下がりゼロクロス点)を検出して、両ゼロクロス点の時間差を算出する。また、処理部22は、電圧検出信号Svの立ち上がりゼロクロス点間(または、立ち下がりゼロクロス点間)の時間(電流検出信号Siの立ち上がりゼロクロス点間(または、立ち下がりゼロクロス点間)の時間でもある)を検出して、電圧検出信号Svの周期(電流検出信号Siの周期でもある)を算出する。次いで、処理部22は、算出した両ゼロクロス点の時間差と周期とに基づいて、電圧検出信号Svおよび電流検出信号Si間の位相差φを検出する。このようにして処理部22で検出された位相差φは、電圧検出信号Svが交流電圧Vtと同一位相であり、かつ電流検出信号Siが交流電流Itと同一位相であるため、交流電圧Vtと交流電流Itとの間の位相差に相当する。
【0037】
次いで、処理部22は、電力測定処理を実行する。この電力測定処理では、処理部22は、記憶部23に記憶されている電圧実効値Vrms、電流実効値Irmsおよび位相差φに基づいて、交流電力P(=Vrms×Irms×cosφ)を算出(測定)して、記憶部23に記憶させる。最後に、処理部22は、表示処理を実行して、算出した交流電力Pを表示部25に表示させる。これにより、電力測定装置1による電線100の交流電力Pについての測定が完了する。
【0038】
このように、この電力測定装置1および電力測定方法では、処理部22が、電圧検出信号Svと電流検出信号Siとの間の位相差φを検出する位相差検出処理と、電流検出信号Siに基づいて交流電流Itの電流実効値Irmsを算出する電流実効値算出処理と、入力操作によって入力された交流電圧Vtの電圧実効値Vrms、算出した電流実効値Irmsおよび算出した位相差φに基づいて交流電力Pを測定する電力測定処理とを実行する。
【0039】
したがって、この電力測定装置1および電力測定方法によれば、電圧検出部2の検出電極12と電線100の芯線101との間に存在する静電結合容量C0の容量値が温度などによって変動した場合であっても、入力操作によって入力された電圧実効値Vrmsを用いて交流電力Pを正確に測定することができる。
【0040】
また、この電力測定装置1の電圧検出部2は、検出電極12、演算増幅器13、および演算増幅器13から出力される変換信号としての電圧信号V2(具体的には、バッファ14から出力される電圧信号V2と同一電圧で、かつ同一位相の電圧信号V3)に基づいて演算増幅器13の非反転入力端子に供給する供給電圧信号としての電圧検出信号Svを生成すると共に電圧信号V3の振幅が減少するように電圧検出信号Svの電圧値を制御する電圧制御回路16を備えて構成されている。
【0041】
したがって、この電力測定装置1の電圧検出部2によれば、電圧信号V2(電圧信号V3でもある)の振幅をほぼゼロにする(つまり、芯線101と検出電極12との間に流れる電流(静電誘導電流)Iをほぼゼロにする。すなわち、交流電圧Vtと電圧値がほぼ同じになる)状態で電圧検出信号Svを生成して出力することができる。このため、処理部22はこの電圧検出信号Svに基づいて、電圧検出信号Svと電流検出信号Siとの間の位相差φ(つまり、芯線101に印加されている交流電圧Vtと交流電流Itとの間の位相差)を正確に検出することができる結果、この電力測定装置1によれば、正確な位相差φに基づいて、交流電力Pをより正確に測定することができる。
【0042】
なお、この電力測定装置1では、交流電力Pの測定に際して必要な交流電圧Vtの実効値は、上記したように操作部24を介して入力された電圧実効値Vrmsを使用している。このため、電圧検出部2では、処理部22が位相差φを正確に検出できるように、少なくとも交流電圧Vtと同位相の電圧検出信号Svを生成できれば十分であり、図3に示すように、位相差の検出に必要なゼロボルトを含む所定の電圧幅の電圧範囲W1内においてのみ電圧値が交流電圧Vtの電圧値に一致し、この電圧範囲W1以外では電圧値が交流電圧Vtの電圧値に一致しない状態で電圧検出信号Svを生成する構成を採用することもできる。
【0043】
この構成では、上記した構成のような第2電源のグランドG2と異なるグランドG1を基準とする第1電源を別途用意して、演算増幅器13およびバッファ14側に供給するという構成に代えて、図2において破線で囲まれた構成要素(演算増幅器13、バッファ14)に対しても電圧制御回路16と同じ第2電源(グランドG2を基準電位とするプラス電圧およびマイナス電圧)を供給して作動させる。この構成においては、図3に示すように、電圧検出信号Svは、交流電圧Vtが第2電源のプラス電圧V+を超える電圧範囲では、ほぼプラス電圧V+で一定となり(プラス電圧V+で飽和し)、交流電圧Vtが第2電源のマイナス電圧V−を下回る電圧範囲では、ほぼマイナス電圧V−で一定となる(マイナス電圧V−で飽和する)が、交流電圧Vtが電圧範囲W1内(マイナス電圧V−以上であってプラス電圧V+以下の電圧範囲内)のときには、電圧制御回路16によるフィードバック制御により、電圧検出信号Svは交流電圧Vtに一致させられる。
【0044】
したがって、この構成の電圧検出部2を採用した電力測定装置1においても、処理部22は、上記の位相差検出処理を実行することにより、図3中の期間T1において電圧検出信号Svの立ち上がりゼロクロス点(または、期間T2において立ち下がりゼロクロス点)を検出し、この検出したゼロクロス点に基づいて、電圧検出信号Svと電流検出信号Siとの間の位相差φを正確に検出することができるため、この位相差φと、流実効値算出処理で算出した電流実効値Irmsと、入力操作によって入力された電圧実効値Vrmsとに基づいて、交流電力Pを正確に測定することができる。また、この構成の電圧検出部2によれば、電圧検出信号Svの振幅を交流電圧Vtの振幅よりも低い状態に維持することができるため、電圧検出部2での消費電力を大幅に低減することができ、この結果として電力測定装置1全体の消費電力についても大幅に低減することができる。また、絶縁回路15を不要にできるため、構成の簡略化を図ることができる結果、装置コストの低減を図ることができる。
【0045】
また、上記の電力測定装置1では、電圧検出部2において、電圧制御回路16がフィードバック制御を実行して、電圧検出信号Svの電圧値を交流電圧Vtの電圧値に少なくとも電圧範囲W1内において一致させることで、電圧検出信号Svの位相を交流電圧Vtの位相に一致させて(具体的には、電圧検出信号Svのゼロクロス点を交流電圧Vtのゼロクロス点に一致させて)、交流電圧Vtと交流電流Itの位相差φをより正確に検出するというより好ましい構成を採用しているが、交流電圧Vtに起因して静電結合容量C0を介して検出電極12に誘起される電圧は、その電圧値は静電結合容量C0の容量値の変化に応じて大きく変動するが、この電圧値の変動に比べて、交流電圧Vtとの間の位相差の変動は僅かである。つまり、静電結合容量C0の容量値の変化による位相差への影響は少ない。このため、この僅かな位相差の変動を許容できる場合には、図4に示す電圧検出部2Aのように、検出電極12およびバッファ14(または、図示しないが、ボルテージフォロワに構成された演算増幅器)のみで構成することもできる。
【0046】
この電圧検出部2Aを備えた電力測定装置1においても、バッファ14から出力される電圧検出信号Svは、図3に示す電圧検出信号Svのように、プラス側がプラス電圧V+で飽和し、マイナス側がマイナス電圧V−で飽和する電圧信号になるが、処理部22は、この電圧検出信号Svのゼロクロス点を検出することができる。したがって、処理部22は、このようにして検出した電圧検出信号Svのゼロクロス点(つまり、交流電圧Vtのゼロクロス点でもある)に基づいて、交流電流Itとの間の位相差φを検出することができ、この位相差φと、流実効値算出処理で算出した電流実効値Irmsと、入力操作によって入力された電圧実効値Vrmsとに基づいて、交流電力Pを正確に測定することができる。また、この電圧検出部2Aを備えた電力測定装置1では、装置構成をより一層簡略することができるため、装置コストの大幅な低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 電力測定装置
2 電圧検出部
3 電流検出部
22 処理部
101 芯線
Irms 電流実効値
It 交流電流
P 交流電力
Si 電流検出信号
Sv 電圧検出信号
Vrms 電圧実効値
Vt 交流電圧
φ 位相差
図1
図2
図3
図4