【実施例】
【0018】
本発明は、粗粒物層である礫層1の上部に細粒物層である砂層4を構築し、前記両層の保水性の差異から前記粗粒物層である礫層1の上層にある細粒物層である砂層4の保水力が一定の高さとなるまでは側方集排水が促進制御できる、いわゆるCB効果を発揮させた多層地盤における集排水制御構造の構築方法に関する。
【0019】
図1から理解されるように、
粗粒物層、すなわち例えば、礫層1の上部には、例えば礫材間に混入しない粒径の細粒物で前記礫材2の粒径より小径の粒径からなる細粒物、すなわち、例えば砂材からなる砂層4が構築される。
【0020】
尚、図には示してはいないが、前記の様な2層構造ではなく、細粒層を多層構造にし、3層構造、4層構造、5層構造に形成してもかまわないものである。しかし、これらの場合も、上層にある層の細粒層となる砂材の粒径は、その下の層に形成された層の砂粒径より小径で、かつ当該砂材の間に混入しない粒径に構成することが重要である。
【0021】
また、
図1に示す様に、本発明による多層地盤は、傾斜をもたせて形成されたもので、例えばCBによる側方集排水となる集積流11は下り傾斜側に向って流れ、集排水促進されるものとなる。
【0022】
いわゆるCB構造の構築については、下部に位置する礫層1、そして上層の砂層4と順次締め固めながら施工していく。
【0023】
尚、前記の如く、CB構造に傾斜をつけることにより、前述した
図1に示すように砂層4と礫層1の境界面上方で降下浸透水が捕捉されやすくなり、集積したものを、下り傾斜方向に流下させることが可能となるのである。
【0024】
ここで、
図2乃至
図6に本発明の実施例を示す。
【0025】
本実施例は前記粗粒物、すなわち少なくとも礫材について、貝殻7を使用するものであり、該貝殻7を施工現場、すなわち多層地盤構造建設箇所に直接巻き出し、その巻き出した貝殻7を例えば建設重機を用いて、粉砕、転圧して礫層1の代替層である
破砕貝殻層を形成した実施例を示したものである(
図4参照)。
【0026】
いわゆるCB構造を構築する際には、上層の砂層4を構成する砂材についても、下層の礫層1を構成する礫材についても、それらが、所定の粒径範囲のもので、その粒径範囲のものによる粒度分布が前記CB構造を構築するのに適切な粒度分布からなっていることが必要である。
【0027】
すなわち、上層にある砂層4における砂材の粒径は、その下の層に形成された礫層1を構成する礫材の粒径より小径で、かつ当該礫材の間に混入しない粒径及び粒度分布のものに構成すること、また、礫材についても、前記砂材が礫材間に混入しない粒径及び粒度分布のものに構成することが重要なのである。
【0028】
このように、砂材についても礫材についても所定の粒径のもの、及び所定の粒度分布のものが要求されることになる。
【0029】
ところで、この「砂材」や「礫材」が多層地盤構造建設箇所の近傍で容易に調達できないことがある。そこで、例えば沿岸域などの近傍位置における多層地盤構造建設箇所での「砂材」、特に「礫材」の調達に際しては、沿岸域に大量に存在する貝殻7を破砕し、これを「砂材」や特に「礫材」の代用とすることが考えられるのである。しかもそのことがいわゆる水産系副産物の再利用にもなり環境保全にも貢献しうる結果となる。なお、CB構造の構築箇所が沿岸域ではなく、貝殻が容易に入手できない場合であっても、本発明を実施し、礫層1の代替層として
破砕貝殻層を構築することは可能である。
【0030】
ここで、例えば、沿岸域に大量にある貝殻7を重機8などで収集する。すなわち、まず、これら貝殻7につき重機8を用いて一箇所に収集し、その後、収集した貝殻7を洗浄して、乾燥させる。
【0031】
次いで、前記洗浄し、乾燥させた貝殻7を直ちに施工現場、すなわち前述した多層地盤構造建設箇所まで運搬する。
【0032】
そして、当該施工現場、すなわち多層地盤構造建設箇所において前記洗浄・乾燥させた貝殻7をそのまま所定の厚みに巻き出すのである。
【0033】
すなわち、
図1に示す様に傾斜を持たせた礫層1を形成すべく前記洗浄・乾燥させた貝殻7を傾斜してある施工箇所にそのまま所定の均一厚みにして巻き出すのである。
【0034】
なお、直接巻き出した貝殻の均一厚みの具体的数値であるが、例えば、振動転圧ローラ装置9を使用して振動を与えながら転圧し均質な破砕貝殻層を構築できる
。直接巻き出しの貝殻均一厚みの範囲を各種の実験により確認すると、当該貝殻の均一厚みの具体的数値は7.5cm乃至30cmの厚みの範囲が好ましいとの結果がもたらされたものである。
【0035】
その後、例えば振動転圧ローラ装置9などを使用し、前記巻き出した貝殻7をその箇所において直接粉砕すると共に転圧作業を行う(
図3、
図4参照)。そして、形成した
破砕貝殻層(礫層1)の厚さ等を確認して作業は終了となる。なお、必要に応じてならし作業を行うこともある。
【0036】
このように、本発明では、直接巻き出した貝殻7につき振動転圧ローラ装置9などを使用して振動を与えながら転圧して破砕し、もって破砕貝殻層となし、該破砕貝殻層を所定の均一厚みを有する
粗粒物層、すなわち礫層1の代替層として
破砕貝殻層を形成したものである。
【0037】
図3乃至
図4に示す様に、貝殻7を粉砕、転圧するための装置としては、前述したように、いわゆる振動転圧ローラ装置9などが使用される。
【0038】
該振動転圧ローラ装置9であれば、その場で直接貝殻7を効果的に破砕することが出来ると共に転圧することが出来、また礫層1の代替層として所望する粒径及び粒度分布のものにつきコストを安価にして生成することができるからである。
【0039】
なお、
図5は、貝殻7として実際にホタテ貝あるいは赤貝を使用して、それらを破砕し、礫材の代替材として使用できるかの実験を行ったものである。そして、前記ホタテ貝あるいは赤貝を粉砕、転圧あるいは粉砕機を使用して粉砕した場合における破砕貝殻の粒径分布を示した表とした。
【0040】
この
図5において、向かって左の縦方向の項目には篩の目の大きさを示してあり、この篩の目の大きさに対し、粉砕貝殻7が、例えば100g中何gがその篩の目を通過したかをそれぞれ数値にして表したものである。
【0041】
すなわち、例えば、海岸などに散乱しているホタテ貝の貝殻7につき、そのまま収集して取得した状態(
図5において「ホタテ貝0Ec」「Hの箇所」)では、53mmの篩の目を通過するのは、ホタテ貝100g中100gであり、37.5mmの篩の目を通過するのは100g中85.2g、26.5mmの篩の目を通過するのは100g中32.7g、19mmの篩の目を通過するのは8.9gであり、9.5mmの篩の目を通過するのは100g中0.5gであり、4.75mmの篩の目を通過するのは100g中0.2gであり、2mmの篩の目を通過するのは100g中0.1gであった。そして、0.85mm以下の篩の目を通過するものは
図5の「H」に示す様に皆無である。
【0042】
また、本実施例の振動転圧ローラ装置9などの重機で破砕した場合(
図5において「重機破砕した貝殻」「Fの箇所」)では、37.5mmの篩の目を通過するのは100g中100g、26.5mmの篩の目を通過するのは100g中97.0g、19mmの篩の目を通過するのは87.9gであり、9.5mmの篩の目を通過するのは100g中54.8gであり、4.75mmの篩の目を通過するのは100g中32.9gであり、2mmの篩の目を通過するのは100g中15.7gであり、0.85mmの篩の目を通過するのは100g中8.1g、0.425mmの篩の目を通過するのは4.5gであり、0.25mmの篩の目を通過するのは100g中2.9gであり、0.106mmの篩の目を通過するのは100g中1.5gであり、0.075mmの篩の目を通過するのは100g中1.3gであったことを示している。
【0043】
そして、貝殻を振動転圧ローラ装置9などの重機で破砕した場合(Fの場合)やホタテ貝を4Ecの締め固めエネルギーで締め固めて破砕した場合(Gの場合)などの粒径分布を
図5のA、B、C、D、E、F、Gに各々示した。
【0044】
ここで、Ecとは締め固めエネルギーの単位を示し、通常、1Ec=550kJ/m
3 とされる。
【0045】
図6は
図5に示すそれぞれの場合において、いずれの破砕貝殻の場合が礫層1の代替材形成に適合しているかを図示したものであり、向かって一番左側に位置する曲線は、ホタテ貝を粉砕したものを購入した場合の粒度分布を示す曲線であり、また一番右側に位置する曲線は、例えば、海岸などに散乱しているホタテ貝の貝殻7につき、そのまま収集して取得した状態の粒度分布を示す曲線である。
【0046】
そして、中央に位置する6つの曲線は、まず、左から1番目の曲線は、赤貝を2回粉砕機を使用して粉砕したものの粒度分布を示す曲線であり、左から2番目の曲線は、ホタテ貝を16Ecの締め固めエネルギーで締め固めたときの粒度分布を示す曲線、左から3番目の曲線は、粉砕機を使用して粉砕したときの粒度分布を示す曲線であり、左から4番目の曲線は、ホタテ貝を8Ecの締め固めエネルギーで締め固めたときの粒度分布を示す曲線であり、左から5番目の曲線は、ホタテ貝を例えば振動転圧ローラ装置9などの重機によって、貝殻厚さ20cmのものを24回、振動、転圧して約6cmの貝殻厚さにしたときの粒度分布を示す曲線であり、左から6番目の曲線は、ホタテ貝を4Ecの締め固めエネルギーで締め固めたときの粒度分布を示す曲線である。そして、この
図6から理解されるように、左側の曲線は、貝殻7の粒径が小さいもので粒度分布が構成され、右側に行くほど貝殻7の粒径が大きいもので粒度分布が構成されていることが分かる。
【0047】
そして、この中央の6つの場合が、礫層1の代替層である破砕貝殻層の形成に適合しているとの実験結果がもたらされた。
【0048】
すなわち、この中央の6つの曲線の場合における破砕貝殻で礫層1の代替層である
破砕貝殻層を形成したとき、上層の砂層4の砂材が礫層1の代替層である
破砕貝殻層内に入り込むことなく、砂層4と礫層1の代替層である
破砕貝殻層との境界面の上部で各々降下浸透水が捕捉され、集積され、集積流11が生じ、側方集排水が促進されるのが確認できたのである。
【0049】
その理由を
図6に示す粒度分布を表す曲線から判断してみると、礫層1の上層となる砂層4を構成する砂材は、すなわち、
図7から理解されるように、一例として硅砂6号が使用される。
【0050】
そして、この硅砂6号の砂材の粒度分布は、
図7に示す様に、0.85mmの篩の目を通過するのは100g中100g、0.425mmの篩の目を通過するのもほぼ100g中100g、0.25mmの篩の目を通過するのは60gであり、0.106mmの篩の目を通過するのは100g中約1gであり、0.075mmの篩の目を通過するのは100g中約0gであったことを示している。
【0051】
しかして、このような粒度分布を示す硅砂6号につき砂層4を形成する砂材として使用するものとなる。
【0052】
次に、その下層になる礫層1の代替層である
破砕貝殻層を構成する
破砕貝殻には、
図6から理解されるように、実施工を考慮して準備した砂混入のない6つタイプの貝殻を使用したものであり、これらの貝殻については、0.85mmの篩の目を通過する破砕貝殻の通過質量百分率が約5%から約25%程度存する粒度分布からなる破砕貝殻なのである。
【0053】
すなわち、0.85mmの篩の目を通過する破砕貝殻の通過質量百分率が約5%から約25%程度存する破砕貝殻により礫層1の代替層である
破砕貝殻層を構成すると、上層の砂層4の砂材が礫層1の代替層である
破砕貝殻層内に入り込むことなく、砂層4と礫層1の代替層である
破砕貝殻層との境界面の上部で各々降下浸透水が捕捉され、集積され、集積流11が生じ、側方集排水が促進されるCB構造が構築できるのである。
【0054】
ここで、
図6に示す中央の6つの曲線のうち、左から5番目の曲線は、前述の如く、ホタテ貝を振動転圧ローラ装置9によって、貝殻厚さ20cmの貝殻層を24回転圧して約6cmの
破砕貝殻層の厚さにしたときの粒度分布を示す曲線であり、この振動転圧ローラ装置9を使用することにより、本発明の礫層1の代替層である
破砕貝殻層を施工現場で確実に構築することが出来る。従って、実際の多層地盤構造建設箇所において、好適な礫層1の代替層である
破砕貝殻層を構築するガイドラインとして前記した
図5及び
図6を使用することが出来る。
【0055】
前述したように、CB構造を構築する際には、上層の砂層4を構成する砂材についても、下層の礫層1を代替する破砕貝殻層の破砕貝殻についても、それらが、所定の粒径範囲のもので、その粒径範囲のものによる粒度分布が前記CB構造を構築するのに適切な粒度分布からなっていることが必要なのである。
【0056】
すなわち、上層にある砂層4における砂材の粒径は、その下の層に形成された礫層1を構成する礫材の粒径より小径で、かつ当該礫材の間に混入しない粒径及び粒度分布のものに構成すること、また、破砕貝殻についても、前記所定の粒径及び所定の粒度分布からなる前記砂材(硅砂6号)が、礫材間に混入しない様、貝殻7を破砕して所定の粒径及び粒度分布の破砕貝殻に構成することが重要なのである。
【0057】
このように、砂材についても破砕貝殻についても所定の粒径のもの、及び所定の粒度分布のものが要求されることになる。
【0058】
なお、
図3,
図4は、具体的に振動転圧ローラ装置9を使用して貝殻層を粉砕及び転圧を行っている具体例であり、貝殻の厚さ20cmのときで、振動転圧を24回行ったとき、その厚さは約6cmとなり、これが礫層1の代替層としての
破砕貝殻層の形成に適合していることが理解できるのである。
【0059】
なお、前述の様に直接巻き出した貝殻の均一厚みは、例えば、振動転圧ローラ装置9を使用して振動を与えながら転圧して均質な破砕貝殻層を構築できることを各種の実験により確認した、いわゆる7.5cm乃至30cmの厚みの範囲であることが好ましい。
【0060】
ここで、本実施例では振動転圧ローラ装置9を使用して貝殻層を粉砕及び転圧を行ったが、当該振動転圧ローラ装置9に限定されるものではなく、本発明における代替層である
破砕貝殻層を施工現場で確実に構築することが出来る重機であればよく、前記の振動転圧ローラ装置9に限定されるものではない。
【0061】
なお、礫層1の代替層である
破砕貝殻層の構築に際しては、その全てを破砕貝殻で形成することが困難な場合も考えられ、このような場合には、実際の礫材で礫層1の例えば下半分を構成し、その上に破砕貝殻を重ね合わせて所定の厚みに調整し、それを礫層1の代替層としての
破砕貝殻層としても構わないものである。
【0062】
しかして、このように形成された礫層1の代替層としての
破砕貝殻層上方に、例えば2層の多層地盤の構築であれば、砂層4を所定の厚さにほぼ均等になるように構築し、いわゆるCB構造を完成させるのである。
【0063】
尚、前記砂層4の構築に際しては、大量の砂材がある場合、破砕した貝殻7をあえて代用しなくともよいが、さらに細かく破砕した貝殻7などを砂材に代えて使用してもかまわないものである。
【0064】
さらに、
破砕貝殻層の透水性を活かして、細粒分の混入がない長期的に安定した貝殻排水層としても構わない。