(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザ光を被測定物の被測定面に照射し、計測点での反射光の光軸と入射光の光軸が重なったときの前記計測点における法線ベクトルに基づいて前記被測定物の形状を測定する法線ベクトル追跡型超精密形状測定装置であって、
ベッドと、
前記ベッド上に設置され、レーザ測定系と被測定物との距離を設定するY軸方向に延びる案内面を有するベースと、
前記ベッド上に設置された門形フレームと、
前記ベース上にY軸方向に移動自在に設置され、制御軸Y軸を有するスライドと、
前記スライド上に設置され、前記被測定物を鉛直軸回りに回転させる回転運動の制御軸C1軸を有するC1軸回転装置と、
前記C1軸回転装置の上に第1のブラケットを介して水平な姿勢で支持され、前記被測定物を前記Y軸と水平面上で直交するX軸回りに回転させる回転運動の制御軸A1を有し、前記被測定物を前記C1軸の回転中心線と前記A1軸の回転中心線の交点の回転中心に保持する被測定物回転装置と、
前記門形フレームの横桁に設置され、前記レーザ測定系の構成されたレーザヘッドを鉛直軸回りに回転させる制御軸C2を有するC2軸回転装置と、
前記レーザヘッドを前記X軸回りに回転させる制御軸A2を有し、前記C2軸回転装置から垂設された第2のブラケットを介して水平な姿勢で支持され、前記C2軸の回転中心線と前記A2軸の回転中心線の交点の回転中心に前記レーザヘッドを保持するレーザヘッド回転装置と、
を具備したことを特徴とする超精密形状測定装置。
前記第1のブラケットは、前記C1軸回転装置上に設置されたサドル上に前記X軸方向に移動自在に搭載され、制御軸X軸を有するX軸テーブルに取り付けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の超精密形状測定装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による超精密形状測定装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
本実施形態による超精密形状測定装置の構成を説明する前に、特許文献1に記載されている法線ベクトル追跡型超精密形状測定法の原理について
図7に基づき説明する。
【0012】
この法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法は、レーザ光の直進性を利用して、被測定物の表面における任意の測定点での法線ベクトルを測定し、この法線ベクトルとレーザ光の光路長から被測定物の測定点における傾きと座標を計測して、これらから被測定物の形状を計算して求める測定法である。
【0013】
図7において、参照番号1は、被測定物の表面の曲面を表している。参照番号2は、被測定物1を保持して回転させる試料系を示し、参照番号3は、レーザ光を被測定物1に照射する光源と、その反射光を検出する検出器を備えたレーザ光学系を示している。
【0014】
図7に示すように、X軸、Y軸、Z軸を設定すると、試料系2は、X軸回りに任意の角度βで回転自在であるとともに、Z軸回りでも任意の角度αで回転自在である。ここでX軸回りの回転軸をA1軸、Z軸回りの回転軸をC1軸とする。ここでは、試料系2のA1軸、C1軸はゴニオメータによって構成されている。
【0015】
同様に、光学系3では、光源と検出器Dとを一体でX軸回りに任意の角度φだけ回転させるA2軸と、Z軸回りに任意の角度θで回転させるC2軸がゴニオメータによって構成されている。
【0016】
A1軸とC1軸の交点である試料系2の回転中心と、A2軸とC2軸の交点である光学系3の回転中心とがY軸上に設定されている。この場合は、試料系2の回転中心は不動であり、Y軸の直線運動によって、光学系3を移動させて回転中心間の相対距離を変えられるようになっている。なお、光学系3の回転中心の方を固定して、試料系2の方をY軸の直線運動で動かすようにしてもよい。
【0017】
まず、
図7において、試料系2のC1軸、A1軸の回転運動と光学系3のC2軸、A2軸の回転運動により、被測定物1の表面上における計測基準点P0への入射光とその点での反射光とが重なるように調整する。このとき、計測基準点P0での法線ベクトルは、レーザ光の光軸方向と等しくなる。そして最初の測定基準点P0は原点(0,0,0)とする。
【0018】
次に、法線ベクトルと一致しているレーザ光の光軸方向と、Y軸とを一致させるとともに、このY軸に試料系2の回転中心を設定する。このとき試料系2の回転中心の位置座標をS0(0,Ry,0)とすると、A1軸の回転角度β、C1軸の回転角度αはともにゼロである。また、光学系3の回転中心の位置座標をT0(0,Y0,0)とすると、A2軸の回転角度β、C2軸の回転角度αはともにゼロである。そして、光路長Lと、測定基準点P0と試料系2の回転中心のずれ量Ryを別の測定器を用いて測定しておく。
【0019】
次の測定点P1での法線ベクトルを求めるには、まず、光学系3のA2軸、C2軸の回転運動により、測定点P1近傍にレーザ光が入射するように調整する。しかる後に、光路長Lを一定に保ちながら、光学系3のY軸方向の位置を調整しながら試料系2のA1軸、C1軸の回転運動を行い、入射光と反射光を一致させ、4分割フォトダイオードを用いた零位法により法線ベクトルを計測する。
【0020】
ここで、第1測定点P1での法線ベクトルと、レーザ光の光軸が一致したときの光学系3の位置座標をT1(0,Y0+y01,0)(y01は光学系3の回転中心のY軸方向の変位量)、光学系3のC2軸、A2軸の変角量を(θ1,φ1)、試料系2のC1軸、A1軸の変角量を(α1,β1)とすると、このときの変位量・変角量(y01,θ1,φ1,α1,β1)を法線ベクトル計測値とする。第1測定点P1における法線ベクトルは、光学系3の変角量(θ1,φ1)と試料系2の変角量を(α1,β1)とから求まり、さらにこの法線ベクトルから被測定物表面の傾きが求まる。また、第1測定点P1の座標は、光学系3の変位量y01と、光学系3の変角量(θ1,φ1)と試料系2の変角量を(α1,β1)および試料系の回転中心ずれ量Ryから算出することができる。
【0021】
同様にして、任意の測定点Aiについても同様に法線ベクトル計測値(y0i,θi,φi,αi,βi)を求め、これらの実測値を用いて、特許文献2,3に記載されている形状導出アルゴリズムを利用して、コンピュータで被測定物1の形状を測定する。
【0022】
本発明の超精密形状測定装置は、以上のような法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法の原理に基づいて、被測定物の表面をレーザ光で走査して、任意の測定点で法線ベクトル計測値(y0i,θi,φi,αi,βi)の実測データを得るための装置である。
【0023】
次に、
図1乃至
図6を参照しながら、本実施形態の超精密形状測定装置の構成について説明する。
【0024】
図1並びに
図2において、参照番号10は、ベッドを示す。このベッド10は、3つのダンパ装置11によって支持されている。ダンパ装置11は、内蔵する空気ばねによって床を伝わってくる振動の伝播を遮断し、ベッド10から上の超精密形状測定装置の本体に振動が伝わらないようにする装置である。
【0025】
ベッド10の上には、ベース12と、門型フレーム14が設置されている。門型フレーム14は、ベース12の左右側で鉛直方向に直立した柱フレーム15と、左右の柱フレーム15、15の上部に水平に架け渡された横桁フレーム16とが一体構造のフレームである。
【0026】
本実施形態の超精密形状測定装置は、直線運動の制御軸としてのX軸、Y軸と、回転運動の制御軸としてのA1軸、A2軸、C1軸、C2軸の合計6軸を有し、これらの6軸が数値制御装置によって制御されるNC制御の測定装置である。
【0027】
ベース12の上面には、転がり案内からなるY軸ガイド17がY軸方向に延びるように設けられており、ベース12に移動可能に設置されているスライド18は、Y軸ガイド17によって精密に直線運動が案内される。この実施形態では、スライド18は図示しないリニアモータによって駆動される。
【0028】
スライド18の上には、回転テーブル型のC1軸回転装置20が固定されている。このC1軸回転装置20には、サーボモータや回転軸の空気軸受が組み込まれている。その回転テーブル21は、X軸、Y軸に直交する軸回りにX−Y平面上を水平な姿勢で回転することができる。
【0029】
回転テーブル21の上には、サドル22が設置されている。このサドル22の上面には、X軸方向に延びるX軸ガイド23が設けられており、このサドル22の上には、X軸テーブル24がX軸ガイド23に案内されて移動自在に設置されている。このX軸テーブル24も図示しないリニアモータによって駆動される。
【0030】
X軸テーブル24の上面には、L字形ブラケット32が固定されており、このL字形ブラケット32によって、被測定物WをX軸回りに回転させるA1軸を有する被測定物回転装置30が支持されている。被測定物回転装置30は、そのA1軸の回転中心線がC1軸回転装置20のC1軸の回転中心線と交わるように配置されている。
【0031】
この実施形態の場合、被測定物回転装置30は、L字形ブラケット32の鉛直部32aに取り付けられ、水平部32bはX軸テーブルの上面に固定されている。この水平部32bの端部には、被測定物回転装置30の重量とバランスさせるようにバランスウェイトのブロック34が複数個取り付けられており、これによって、被測定物回転装置30の偏荷重によるL字形ブラケット32の傾きを防止し、被測定物回転装置30の水平度が確保されている。被測定物回転装置30は、駆動源としてのサーボモータと、回転軸を支持する空気軸受を備えており、
図3に示すように、回転軸36には、被測定物Wを保持するホルダー37が取り付けられている。
【0032】
次に、門形フレーム14の横桁フレーム16は、
図1に示されるように、箱形のフレーム形状を有しており、この横桁フレーム16には、回転テーブル型のC2軸回転装置40が設置されている。
【0033】
このC2軸回転装置40は、回転テーブル42を回転駆動するサーボモータや回転軸の空気軸受が組み込まれており、回転テーブル42は本体の下側に設けられている。この回転テーブル42には、水平部44aと鉛直部44bからなるL字形ブラケット44が垂設されており、鉛直部44bによって、レーザヘッド46をX軸回りに回転させるA2軸を有するレーザヘッド回転装置48が水平な姿勢で支持されている。L字形ブラケット44の鉛直部44bの内側面は、L字形ブラケット32の鉛直部32bの内側面が向き合うように配置されている。レーザヘッド回転装置48は、そのA2軸の回転中心線がC2軸回転装置40のC2軸の回転中心線と交わるように配置されている。
【0034】
L字形ブラケット44の水平部44aの端部には、レーザヘッド回転装置48の重量とバランスさせるようにバランスウェイトのブロック49が複数個取り付けられ、これによって、レーザヘッド回転装置48の偏荷重によるL字形ブラケット44の傾きを防止し、レーザヘッド回転装置48の水平度を確保するようになっている。
【0035】
レーザヘッド回転装置48は、駆動源としてのサーボモータと、回転軸を支持する空気軸受を備えている。
図3に示すように、回転軸50には、ブラケット51を介してレーザヘッド46が支持されている。
【0036】
ここで、
図3は、被測定物回転装置30とレーザヘッド回転装置48との位置関係を示す平面図である。
図4は、被測定物Wとレーザヘッド46の位置関係をX軸方向から示した図である。
被測定物回転装置30とレーザヘッド回転装置48は、X軸と平行にかつY軸方向に間隔をあけるようにして配置されている。被測定物回転装置30のA1軸の回転中心線とレーザヘッド回転装置48のA2軸の回転中心線は同一平面上にある。
【0037】
被測定物回転装置30では、A1軸の回転中心線とC1軸の回転中心線の交点が被測定物Wの回転中心になるように、被測定物Wが保持されている。同様に、レーザヘッド回転装置48では、A2軸の回転中心線とC2軸の回転中心線の交点がレーザヘッド46の回転中心である。
【0038】
次に、
図5は、レーザヘッド46の内部に構成されている光学系を示している。
図5において、参照番号50は、レーザ光源である。レーザ光源50から出たレーザ光は、ビームスプリッター51により、90°方向を変えられ、集光レンズ52を通って被計測物Wの表面に入射する。被測定物Wの表面で反射した反射光は、集光レンズ52を通ってさらにスプリッター51を直進し、ハーフミラー53を通って、4分割フォトダイオードからなる光軸位置検知器54で受光される。また、ハーフミラー53で分光されたレーザ光は、4分割フォトダイオードからなる検知器55で受光される。この検知器55は、被測定物Wの表面の測定点から光軸位置検知器54までのY軸方向の距離の変化を検知し、光路長が一定になるようにY軸を制御するのに利用するものである。
【0039】
本実施形態による超精密形状測定装置は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
【0040】
図6は、本実施形態による超精密形状測定装置の制御軸の構成を模式的に示す図である。
図6に示されるように、被測定物回転装置30は被測定物WをA1軸回りに任意の角度βで回転させることができる。また、C1軸回転装置20は、被測定物WをC1軸回りに任意の角度αで回転されることができる。これらのA1軸とC1軸によって、
図1と同様に試料系の回転軸2軸が構成されている。
【0041】
光学系については、レーザヘッド回転装置48は、レーザヘッド46をC1軸回りに任意の角度φだけ回転させることができる。C2軸回転装置40は、レーザヘッド46をC2軸回りに任意の角度θで回転させることができる。これらのA2軸とC2軸によって、
図1と同様に光学系の回転軸2軸が構成されている。
【0042】
さらに、本実施形態の超精密形状測定装置では、A2軸とC2軸の交点であるレーザヘッド46の回転中心は固定であり、A1軸とC1軸の交点である被測定物Wの回転中心は可動であり、Y軸の直線運動によって、被測定物Wを移動させて回転中心間の距離を変えることができる。
【0043】
なお、X軸の直線運動は、初期設定の際に、被測定物Wの回転中心をX軸に動かして、Y軸上にレーザヘッド46の回転中心と被測定物Wの回転中心がともにY軸上に位置するように調整するのに利用する。
【0044】
次に、法線ベクトル追跡型超精密形状測定の手順について簡単に説明する。
まず、
図6において、C1軸、A1軸による被測定物Wの回転運動と、C2軸、A2軸によるレーザヘッド46の回転運動により、被測定物Wの表面上における測定基準点P0への入射光とその点での反射光とが同一光軸上に重なるように調整する。このとき、測定基準点P0における法線ベクトルの方向は、レーザ光の光軸方向であるY軸に一致している。また、Y軸上に被測定物Wの回転中心が設定される。最初の測定基準点P0は原点(0,0,0)となる。そして、光路長Lと、測定基準点A0と被測定物Wの回転中心のずれ量Ryを別の測定器を用いて測定しておく。
【0045】
次の測定点P1での法線ベクトルを求めるには、まず、A2軸、C2軸によるレーザヘッド46の回転運動により、測定点P1の近傍にレーザ光が入射するように調整する。しかる後に、光路長Lを一定に保つように被測定物WのY軸方向の位置を調整しながらA1軸、C1軸の回転運動を行い、入射光と反射光を一致させ、4分割フォトダイオードを用いた零位法により法線ベクトルを計測する。
【0046】
ここで、計測点P1での法線ベクトルと、レーザ光の光軸が一致したときの被測定物Wの回転中心のY軸方向の変位量をy01、C2軸、A2軸の変角量を(θ1,φ1)、C1軸、A1軸の変角量を(α1,β1)とすると、このときの変位量・変角量(y01,θ1,φ1,α1,β1)を各軸のエンコーダの出力より取り込み法線ベクトル計測値とする。
【0047】
以下、同様にして、任意の測定点Piについてレーザ光を走査し、同様に法線ベクトル計測値(y0i,θi,φi,αi,βi)を求め、これらの実測値を用いて、特許文献2,3に記載されている形状導出アルゴリズムを利用して、コンピュータで被測定物1の形状を測定することができる。
【0048】
このように本実施形態による超整精密形状測定装置によれば、回転運動のA1軸、C1軸、A2軸、C2軸の位置決め精度は、例えば、1.8×10
−7rad以下の高精度を有しており、さらに直線軸Y軸の測定精度を、例えば、特許文献3に記載された測定方法を利用して確保することによって、ナノメートルオーダーの形状測定に必要な各測定点における法線ベクトル計測値を得ることができ、しかも従来の接触式の形状測定に比べてはるかに短時間で形状測定を行うことができる。
【0049】
さらに、本実施形態による超精密形状測定装置によれば、C1軸回転装置20は、スライド18の上に載置され、C2軸回転装置40は、門形フレーム14の横桁フレーム16に載置するというように被測定物Wを上下に挟むように配置した上で、被測定物回転装置30はL字形ブラケット32によって水平な姿勢で支持し、レーザヘッド回転装置48についてもL字形ブラケット44によってC2軸回転装置40からつり下げるようにして水平な姿勢で支持している。これによって、レーザ光軸が水平な横形の形式でありながら、C1軸回転装置20、C2軸回転装置40、被測定物回転装置30、レーザヘッド回転装置48を狭いスペースを合理的に活用して配置することができ、測定装置全体をコンパクトな実際の超精密加工現場で実用可能な構造にすることができる。しかも、横形であるので、C1軸、C2軸が安定して測定精度を高めることができる。
【0050】
なお、以上のような超精密形状測定装置は、恒温室内で温度を一定に保って形状測定が行われる。また、外部の振動は、ダンパ装置11によって遮断されるので、測定には影響を及ぼすことはない。