(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054139
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】電気自動車のパワートレインの振動低減装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-235978(P2012-235978)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-39451(P2014-39451A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年8月17日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0087687
(32)【優先日】2012年8月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 忠
【審査官】
武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−040201(JP,A)
【文献】
特開2005−020831(JP,A)
【文献】
特開2007−261477(JP,A)
【文献】
特開2009−274698(JP,A)
【文献】
特開2000−102107(JP,A)
【文献】
特開2011−098709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00−3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
B60K 6/20−6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面上の凹凸部通過によるパワートレインの振動発生の有無を判定する振動発生判定部と、
前記振動発生判定部で路面上の凹凸部通過によってパワートレインの振動が発生したと判定した場合に、パワートレインの振動低減のための補正トルク量を算出し、前記補正トルク量に基づいてモータトルクを制御するモータ逆トルク制御部と、
を含んで構成され、
前記振動発生判定部は、車体加速度センサが感知した車両の加速度信号をバンドパスフィルタによって処理し、所定の周波数帯域の加速度信号のみを通過させ、通過した加速度信号の動的成分の変化率を算出し、前記変化率に基づき路面上の凹凸部通過によるパワートレインに振動が発生したか否かを判定して、
前記モータ逆トルク制御部は、パワートレインの振動によるモータトルク変動量を算出して補正モータトルク量を算出し、前記モータトルク変動量が所定の臨界値未満となるように前記補正モータトルク量を加えるネガティブフィードバック制御を通じてモータトルクを制御することを特徴とする電気自動車のパワートレインの振動低減装置。
【請求項2】
前記振動低減装置は、パワートレインの振動及び駆動軸の振動の影響を算入しないでモータのモデル速度を算出するモデル速度算出部を更に含み、
前記モータ逆トルク制御部は、前記モータのモデル速度と実際速度との間の速度偏差が零となるようにネガティブフィードバック制御を通じてモータトルクを制御することを特徴とする請求項1に記載の電気自動車のパワートレインの振動低減装置。
【請求項3】
車両の加速度信号を車体加速度センサからバンドパスフィルタに伝達するステップと、
伝達された車両の加速度信号を前記バンドパスフィルタにより処理し、所定の周波数帯域の加速度信号のみを通過させるステップと、
前記バンドパスフィルタを通過した所定の周波数帯域の加速度信号の動的成分の大きさを測定し、前記加速度信号の動的成分の大きさの所定時間あたりの変化率が所定の臨界値を超えた場合に、パワートレインに振動が発生したと判定するステップと、
路面上の凹凸部通過によって前記パワートレインに振動が発生したと判定されると、前記パワートレインの振動を低減するための補正モータトルク量を算出するステップと、
算出された前記補正モータトルク量を前記パワートレインに印加して前記パワートレインの振動を低減させるステップと、
からなり、
モータトルク変動量の大きさが所定の臨界値未満の場合に、前記パワートレインの振動が相殺されたと判断し、前記パワートレインの振動に対する補償を終了することを特徴とする電気自動車のパワートレインの振動低減方法。
【請求項4】
前記補正モータトルク量を算出するステップは、
モータ測定トルク信号を収集するステップと、
検出されたモータ測定トルク信号を前記バンドパスフィルタによって処理し、所定の周波数帯域の加速度信号のみを通過させるステップと、
前記バンドパスフィルタを通過した所定の周波数帯域のモータ測定トルク信号の動的成分の大きさを測定して前記パワートレインの振動による前記モータトルク変動量を算出し、アクセルペダルの開度を通じて算出されたモータトルク量から前記パワートレインの振動による前記モータトルク変動量を引くことによって前記補正モータトルク量を算出するステップと、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車のパワートレインの振動低減方法。
【請求項5】
前記所定の臨界値は、[臨界値=ゲイン(gain)*(車両が路面の凹凸を通過した直後のモータトルク変動量のピーク値)]によって決定されることを特徴とする請求項3に記載の電気自動車のパワートレインの振動低減方法。
【請求項6】
本発明の電気自動車のパワートレインの振動低減方法は、
パワートレインの振動及び駆動軸の振動の影響を算入しないでモータのモデル速度を計算するステップと、
モータの実際速度を計算するステップと、
前記モータのモデル速度と前記モータの実際速度との間の速度偏差を求めて速度偏差の平均値を計算するステップと、を更に含み、
前記パワートレインの振動を補償するステップは、
前記パワートレインの振動低減のための補正モータトルク量を決定するステップと、
前記モータのモデル速度と前記モータの実際速度との間の速度偏差が零となるように前記補正モータトルク量を印加するネガティブフィードバック制御を通じて前記パワートレインの振動を補償するステップと、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車のパワートレインの振動低減方法。
【請求項7】
前記補正モータトルク量は、[補正モータトルク量=ゲイン(gain)*((モデル速度−実際速度)−速度偏差の平均)]によって決定されることを特徴とする請求項6に記載の電気自動車のパワートレインの振動低減方法。
【請求項8】
本発明の電気自動車のパワートレインの振動低減方法は、能動型安全装置(traction control system)、ABS(anti−lock brake system)、電子制御サスペンション(electronic controlled suspension)、及びチップイン/アウト時のアンチジャークのためのモータ制御の中の何れか1以上が既に実行中の場合には、パワートレインの振動低減のためのモータトルク制御を実施しないことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車のパワートレインの振動低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車のパワートレインの振動制御装置及び方法に係り、より詳しくは、路面上の凹凸部通過時にパワートレインに発生する振動を、モータトルクを制御して積極的に減衰させる電気自動車のパワートレインの振動低減装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、化石燃料を燃料として用いるガソリンエンジンとディーゼルエンジンとは、排気ガスによる環境汚染、二酸化炭素による地球温暖化、及びオゾンの生成などによる呼吸器疾患の誘発などといった多くの問題を抱えている。また、地球上に存在する化石燃料は限定されているため、いつかは枯渇するという問題も抱えている。
【0003】
これらの問題を解決するために、モータを駆動させて走行する純粋な電気自動車(Electric Vehicle、EV)、エンジンとモータで走行するハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、及び燃料電池で生成される電力でモータを駆動させて走行する燃料電池自動車(Fuel Cell Electric Vehicle、FCEV)などのような電気自動車が開発されてきている。
【0004】
前記のような電気自動車は、車両を駆動させるためのモータと共に、モータに電力を供給する蓄電手段としてバッテリを含み、また、モータを回転させるためのインバータを備える。
【0005】
燃料電池自動車の場合にも、バッテリのような蓄電手段が、主動力源の燃料電池と並列に連結されて補助動力源として用いられる。補助動力源としては、バッテリ以外に、スーパーキャパシタ(super capacitor)が備えられた燃料電池ハイブリッドシステムも開発されている。
インバータは、印加される制御信号によって蓄電手段(又は燃料電池)から供給される電源を相変換させて駆動モータを駆動させる。
【0006】
一方、電気自動車が路面上の凹凸、特に、突起物などを通過する時には衝撃による振動が発生し、この振動はサスペンションを介して車体とパワートレインに伝達される。このような振動は、最終的にはシートとステアリングホイールを介して乗客に伝達されて不快感をもたらす。
このような衝撃による振動は、サスペンションとパワートレインとをそれぞれの固有振動数で加振するが、パワートレインによる振動の場合には、パワートレインの慣性が大きいために振動を低減するのは容易ではない。
【0007】
従来は、このような振動の伝達を防止するために、パワートレインをエンジンルームに装着する時、連結部材のマウントにゴム製のマウントブッシュを用いたり(例えば特許文献1を参照)、流体を用いたハイドロマウントブッシュを用いたりする(例えば特許文献2を参照)ことにより、ゴム及び流体の緩衝作用を利用して振動を低減させる方法が取られてきた。
【0008】
このような方法は、緩衝部材を振動に対する絶縁部材として用いることにより、振動を室内に進入させないようにするものであって、発生した振動の伝達を防止する消極的な方法に過ぎなかった。また、ハイドロマウントブッシュは価格が高く、空間を多く占めるというレイアウト面での欠点があり、主に高価な車両に適用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−140055号公報
【特許文献2】特開平9−184535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の諸問題を解決するためになされたものであって、路面上の凹凸、特に、突起物などを通過する時に、加速度センサを用いて路面の凹凸部通過を判断し、電気自動車のモータ制御を用いてパワートレインの振動と逆方向にモータトルクを付加し、パワートレインの振動を短時間に相殺する電気自動車のパワートレインの振動低減装置及び方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の電気自動車のパワートレインの振動低減装置は、路面上の凹凸部通過によるパワートレインの振動発生の有無を判定する振動発生判定部と、前記振動発生判定部で路面上の凹凸部通過によってパワートレインの振動が発生したと判定した場合に、パワートレインの振動低減のための補正トルク量を算出し、前記補正トルク量に基づいてモータトルクを制御するモータ逆トルク制御部と、を含んで構成
され、前記振動発生判定部は、車体加速度センサが感知した車両の加速度信号をバンドパスフィルタによって処理し、所定の周波数帯域の加速度信号のみを通過させ、通過した加速度信号の動的成分の変化率を算出し、前記変化率に基づき路面上の凹凸部通過によるパワートレインに振動が発生したか否かを判定して、前記モータ逆トルク制御部は、パワートレインの振動によるモータトルク変動量を算出して補正モータトルク量を算出し、前記モータトルク変動量が所定の臨界値未満となるように前記補正モータトルク量を加えるネガティブフィードバック制御を通じてモータトルクを制御することを特徴とする。
【0014】
また本発明の電気自動車のパワートレインの振動低減装置は、パワートレインの振動及び駆動軸の振動の影響を算入しないでモータのモデル速度を算出するモデル速度算出部を更に含み、モータ逆トルク制御部は、モータのモデル速度と実際速度との間の速度偏差が零となるようにネガティブフィードバック制御を通じてモータトルクを制御することを特徴とする。
【0015】
また、本発明による電気自動車のパワートレインの振動低減方法は、車両の加速度信号を車体加速度センサからバンドパスフィルタに伝達するステップと、伝達された車両の加速度信号を前記バンドパスフィルタにより処理し、所定の周波数帯域の加速度信号のみを通過させるステップと、前記バンドパスフィルタを通過した所定の周波数帯域の加速度信号の動的成分の大きさを測定し、前記加速度信号の動的成分の大きさの所定時間あたりの変化率が所定の臨界値を超えた場合に、パワートレインに振動が発生したと判定するステップと、路面上の凹凸部通過によって前記パワートレインに振動が発生したと判定されると、前記パワートレインの振動を低減するための補正モータトルク量を算出するステップと、算出された前記補正モータトルク量を前記パワートレインに印加して前記パワートレインの振動を低減させるステップと、からなり、
モータトルク変動量の大きさが所定の臨界値未満の場合に、前記パワートレインの振動が相殺されたと判断し、前記パワートレインの振動に対する補償を終了することを特徴とする。
【0016】
前記補正モータトルク量を算出するステップは、モータ測定トルク信号を収集するステップと、検出されたモータ測定トルク信号を前記バンドパスフィルタによって処理し、所定の周波数帯域の加速度信号のみを通過させるステップと、前記バンドパスフィルタを通過した所定の周波数帯域のモータ測定トルク信号の動的成分の大きさを測定して前記パワートレインの振動による
前記モータトルク変動量を算出し、アクセルペダルの開度を通じて算出されたモータトルク量から前記パワートレインの振動による前記モータトルク変動量を引くことによって前記補正モータトルク量を算出するステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
また、
前記所定の臨界値は、[臨界値=ゲイン(gain)*(車両が路面の凹凸を通過した直後のモータトルク変動量のピーク値)]によって決定されることを特徴とする。
【0018】
また本発明の電気自動車のパワートレインの振動低減方法は、パワートレインの振動及び駆動軸の振動の影響を算入しないでモータのモデル速度を計算するステップと、モータの実際速度を計算するステップと、モータのモデル速度とモータの実際速度との間の速度偏差を求めて速度偏差の平均値を計算するステップと、を更に含み、
パワートレインの振動を補償するステップは、パワートレインの振動低減のための補正モータトルク量を決定するステップと、モータのモデル速度とモータの実際速度との間の速度偏差が零となるように補正モータトルク量を印加するネガティブフィードバック制御を通じてパワートレインの振動を補償するステップと、を含むことを特徴とする。
また本発明は、補正モータトルク量は、[補正モータトルク量=ゲイン(gain)*((モデル速度−実際速度)−速度偏差の平均)]によって決定されることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、能動型安全装置(traction control system)、ABS(anti−lock brake system)、電子制御サスペンション(electronic controlled suspension)、及びチップイン/アウト時のアンチジャークのためのモータ制御の中の何れか1以上
が既に実行中の場合には、パワートレインの振動低減のためのモータトルク制御を実施しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、電気自動車が路面上の凹凸部分を通過する時にパワートレインに発生する振動成分をモータトルク制御を通じて除去し、快適な乗車感を実現し、従来のパワートレインの振動除去のための高価なハイドロマウントを代替可能で、電気自動車の製造費用を節減できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る電気自動車のパワートレインの振動低減装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の1実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の1実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減方法を説明するフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電気自動車のパワートレインの振動低減装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、本発明のパワートレインの振動低減装置10は、車体に備えられた車体加速度センサ11で測定した加速度の周波数を分析し、車両が路面の凹凸部を通過した時にパワートレイン40に発生する振動の有無を判定する振動発生判定部20と、パワートレイン40の振動を低減するための補正トルク量を算出し、算出された補正トルク量をモータに印加してパワートレインを制御するモータ逆トルク制御部30と、を含む。
【0024】
振動発生判定部20は、車体加速度センサ11から伝達される加速度信号を処理し、所定の周波数帯の加速度信号のみを通過させるバンドパスフィルタ21と、バンドパスフィルタ21を通過した加速度信号の強度と所定時間内の変化率とを算出して路面の状態を把握し、路面の凹凸部通過によるパワートレインの振動が発生したか否かを判定する振動有無判定部22と、を含む。
【0025】
図2は、本発明の1実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減装置の構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示した電気自動車のパワートレインの振動低減装置10において、モータ逆トルク制御部30を具体的に示している。
【0026】
図2に示すように、モータ逆トルク制御部30は、モータトルク測定手段12から伝達されるモータトルク信号を処理し、所定の周波数帯の加速度信号のみを通過させるバンドパスフィルタ31と、アクセルポジションセンサ13から伝達されたアクセルペダルの開度を通じて運転者の要求トルク量を推定し、運転者の要求トルク量からバンドパスフィルタ31を通過した特定周波数帯域の加速度信号に対応するトルク量を差し引いて、パワートレイン40にトルクを印加するモータトルク補正部32と、を含む。
【0027】
図3は、本発明の他の実施形態に係るパワートレインの振動低減装置の構成を示すブロック図である。
図3は、
図1に示した電気自動車のパワートレインの振動低減装置10において、モータ逆トルク制御部30を具体的に示している。
【0028】
図3に示した本発明の他の好ましい実施形態に係るパワートレインの振動低減装置10は、パワートレイン40の振動及び駆動軸の振動の影響を算入しない状態(振動がない状態)におけるモータ速度であるモデル速度を算出するモデル速度算出部50を更に含んでいる。モデル速度は、好ましくは、モータトルク指令値からドラッグトルク量を差し引いた後、更に、駆動軸の総トルク量を差し引いたものを積分して計算される。
【0029】
また、
図3に示したモータ逆トルク制御部30は、モータのモデル速度と実際速度との偏差をリアルタイムに算出する速度偏差算出部33と、速度偏差の平均値を求めるために特定周波数帯域の加速度信号に対応する速度偏差を通過させるようにするローパスフィルタ(LPF)34と、モデル速度、実際速度及び速度偏差の平均値を通じてモータ補正トルク量を算出し、パワートレインの振動低減のためにモータトルクを制御する補正トルク演算部35と、を含む。
【0030】
図4は、本発明の1実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減方法を説明するフローチャートである。以下では、
図1及び
図2を参照し、
図4に示す電気自動車のパワートレインの振動低減方法を説明する。
路面の凹凸部通過によるパワートレインの振動の有無を判断するためのステップ(S10)として、バンドパスフィルタ21は、車体加速度センサ11から車両の加速度信号を受ける(S11)。車体加速度センサ11は、例えば車体姿勢制御装置(VDC)に用いられる加速度センサのような、既存の車両に備えられた加速度センサである。
【0031】
加速度信号は、車体加速度センサ11からバンドパスフィルタ21に伝達されて処理され、所定の周波数帯の加速度信号のみを通過させて加速度のAC成分(動的成分)を抽出する(S12)。通常、パワートレインの固有振動は5〜20Hzに分布しているので、バンドパスフィルタ21を通過する周波数帯域は5〜20Hzが好ましい。
【0032】
そして、バンドパスフィルタ21を通過した特定周波数帯域の加速度のAC成分の大きさを測定し、加速度成分の時間あたりの変化率を算出し、変化率の値が所定の臨界値を超えるか否かを判定する(S13)。
図4では、所定の臨界値として、例えば0.5G/100msを例示している。ここで、所定の臨界値を低くするほど、路面上の凹凸部分を通過する時に発生する振動に対して敏感に反応することができる。
【0033】
S13において、加速度のAC成分の変化率の値が所定の臨界値を超えるという条件を満たしていなければ、S11の過程にリターンして前述した手順を繰り返す。加速度のAC成分の変化率が所定の臨界値を超えた場合は、路面上の凹凸部通過によってパワートレインの振動が発生したと判定し、モータ逆トルク制御ステップ(S20)に入る。
【0034】
但し、
図4に示すように、本発明の好ましい実施形態によれば、モータ逆トルク制御ステップ(S20)に入る前に、他のモータトルク制御が実行中であるか否かを判断し、他のモータトルク制御が実施中の場合には、パワートレインの振動低減のための追加的なモータ逆トルク制御(S20)を行うことなく、S11の過程にリターンして前述の手順を繰り返す(S14)。
【0035】
即ち、パワートレインの振動低減操作以外に、例えばチップイン/チップアウト時のアンチジャークを除去するため、または、能動型安全装置(traction control system)、ABS(anti−lock brake system)、電子制御サスペンション(electronic controlled suspension)のような装置によるモータトルク制御が実施中の場合には、アンチジャーク制御干渉を防止するために、モータ逆トルク制御(S20)を実施しない。
【0036】
モータ逆トルク制御ステップ(S20)では、まず、モータトルク測定手段12からモータ測定トルク信号を収集する(S21)。
次いで、パワートレインの振動によるモータトルク変動量を抽出するために、モータ測定トルク信号をバンドパスフィルタ31に伝達して処理し、所定の周波数帯の加速度信号のみを通過させ、通過した所定の周波数帯域のモータ測定トルク信号の動的成分の大きさを測定し、パワートレインの振動によるモータトルク変動量を抽出する(S22)。
【0037】
通常、パワートレインの固有振動は5〜20Hzに分布しているので、パワートレインの振動によるモータトルク変動量を抽出するために、バンドパスフィルタ31を通過する加速度信号の周波数帯域は5〜20Hzにすることが好ましい。
【0038】
そして、アクセルポジションセンサ13で測定されたアクセルペダルの開度を通じて運転者の要求トルク量を推定し、運転者の要求トルク量からS22で抽出されたモータトルク変動量を差し引いてモータに印加する補正トルク量を算出し、算出された補正トルク量をモータに印加してパワートレインに発生した振動を低減させる(S23)。
【0039】
最後に、モータトルクの変動量を路面上の凹凸部と、通過した直後に抽出されたモータトルク変動量のピーク値と、を比較し、設定された振動相殺条件を満たすか否かを判断する(S24)。設定された振動相殺条件は、例えばモータトルク変動量が所定の臨界値未満であるか否かによって判断する。
もし振動相殺条件を満たしていなければ、S21の過程にリターンして前述した手順を繰り返すというネガティブフィードバック制御を通じてモータトルクを制御する。
モータトルク変動量が所定の臨界値未満の条件を満たしていれば、モータトルク変動補償のための逆トルク制御を完了し、現在の運転条件を維持する。これにより、路面上の凹凸部通過によりパワートレインに発生した振動を効果的に減衰させることができる。
【0040】
ここで、所定の臨界値は、[ゲイン(gain)*(車両が路面の凹凸を通過した直後のモータトルク変動のピーク値)]によって決定される。
図4に示すように、ゲイン値は、例えば0.3である。ここで、ゲイン値を低く設定するほど小さい振動まで相殺可能であるが、振動制御のための時間が長くなる。
【0041】
図5は、本発明の他の実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減方法を説明するフローチャートである。以下では、
図1及び
図3を参照して、
図5に示す電気自動車のパワートレインの振動低減方法を説明する。
図5に示すように、本発明の他の好ましい実施形態に係る電気自動車のパワートレインの振動低減方法において、路面上の凹凸部通過によるパワートレインの振動の有無を判断するためのステップであるS10は、前述した
図4に示したパワートレインの振動有無を判断するためのステップと同様であるのでこれに関する説明は省略し、モータ逆トルク制御ステップS30を構成するステップS31乃至S34について説明する。
【0042】
図5に示した電気自動車のパワートレインの振動低減方法において、モータ逆トルク制御ステップS30は、まずモデル速度算出部50で、パワートレイン40及び駆動軸の振動の影響を算入しない状態でのモータ速度であるモデル速度を算出する(S31)。モデル速度は、好ましくは、モータトルク指令値からドラッグトルク量を差し引いた後、駆動軸の総トルク量を差し引いたものを積分して計算する。
【0043】
次に、モータのモデル速度と実際速度との間の速度偏差をリアルタイムに算出し、この速度偏差をローパスフィルタ34を通過させて速度偏差の平均値を算出する(S32)。
次に、補正トルク演算部35で、パワートレインの振動低減のためのモータ補正トルク量を算出し、モータトルク補正量をパワートレインに印加するネガティブフィードバック制御により、パワートレインの振動低減のためのモータトルク制御を実行する(S33)。
【0044】
補正モータトルク量は、[補正モータトルク量=ゲイン(gain)*((モデル速度−実際速度)−速度偏差の平均)]によって決定され、ゲインは、クラッチ解除時、ギヤ変速時、チップイン/アウト時、及びブレーキング時に応じて、予め異なる値を定める。
次に、モータのモデル速度と実際速度との間の速度偏差が0になるか否かを判定し、パワートレインの振動が相殺されたか否かを判断する。
【0045】
モータのモデル速度と実際速度との間の速度偏差が0を満たしていない場合には、S31の過程にリターンして前述した手順を繰り返すというネガティブフィードバック制御を実施し、モータのモデル速度と実際速度との間の速度偏差が0になるという条件を満たした場合に、モータトルク変動補償のための逆トルク制御(S30)を終了し、現在の運転条件を維持する。これにより、路面上の凹凸部通過によるパワートレインの振動を効果的に減衰することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 パワートレインの振動低減装置
11 車体加速度センサ
12 モータトルク測定手段
13 アクセルポジションセンサ
20 振動発生判定部
21 バンドパスフィルタ
22 振動有無判定部
30 モータ逆トルク制御部
31 バンドパスフィルタ
32 モータトルク補正部
33 速度偏差算出部
34 ローパスフィルタ
35 補正トルク演算部
40 パワートレイン
50 モデル速度算出部