(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に、従来例の電力変換装置のスイッチング素子短絡時の動作の一例を示す。以下、
図5を参照して、従来の電力変換装置の保護回路についてヒューズ溶断の事象を説明する。
【0006】
図5に示す電力変換装置55xは、電池20に接続されるスイッチ21、およびインバータ50xを備える構成である。また、インバータ50xは、相ごとに、直流安定化コンデンサC5a、複数のスイッチング素子51aおよびスイッチング素子51aと逆並列に接続されるダイオード52aを備えている。なお、
図5には、U相のみの構成を示している。図示しないその他のV相およびW相系統についても同様とする。
【0007】
電力変換装置55xは、運転通常時において、インバータ50xを用いて、電池20から供給される直流電力を交流電力に変換している。ここで、例えばスイッチング素子51aが故障してU相側の直流回路が短絡したとする。すなわち、スイッチング素子短絡事故が発生したとする。
【0008】
この場合に、直流安定化コンデンサC5aに蓄積された電荷によって、故障したU相側のスイッチング素子51aの経路に放電電流I
cxが流れる。また、電池20からスイッチ21を介して、故障したU相側のスイッチング素子51aの経路に電池電流I
Bxが流れる。したがって、故障したU相側のスイッチング素子51aの経路には、電池電流I
Bxおよび放電電流I
cxが加算された事故電流I
Sx(短絡電流)が流れることになる。
【0009】
上述したような電力変換装置は、スイッチング素子短絡事故が発生した時に、保護ヒューズがないため、電池から大電流I
Bxが流れ込み、電池内部のヒューズ溶断または電池を損傷または劣化することがあった。電池の損傷を防ぐために、従来の方法ではスイッチング素子51aと直流安定化コンデンサC5aとの間に保護回路用のヒューズ30を設けている。そのため、電池電流I
Bxが過電流に到る大電流となる前に、保護回路のヒューズ30aは直流安定化コンデンサC5aから供給される放電電流I
cxにより溶断されるため、電池内部のヒューズ溶断または電池を損傷または劣化を防ぐことが可能となる。
【0010】
しかし、例えば、インバータ50xがユニット化されている場合、ユニットを改造して保護回路を設ける場合、スイッチング素子51aと直流安定化コンデンサC5aとの間にヒューズを設けるために、既存のユニットの改造作業や製品の設計変更等を行わなければならず、コストアップの要因となる課題があった。
【0011】
また、スイッチング素子51aと直流安定化コンデンサC5aとの間にヒューズを設けた場合に、直流安定化コンデンサC5aとスイッチング素子51a間とのインピーダンスが大きくなるため、直流成分にのるリップル(脈動分)が大きくなるという課題があった。
【0012】
そのため、
図5に示す回路の部品配置においてユニットを改造せずに保護回路を設けるためには、スイッチ21とインバータ50xとの経路間に、ヒューズ30aを設けざるを得ない。しかし、この場合はヒューズ30aの溶断の有無は、電池20から供給されてヒューズ30aを流れる電池電流I
Bxに依存する。このため、電池電流I
Bxが過電流に到る大電流となって、電池内部のヒューズ溶断または電池を損傷または劣化する可能性がある。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、電力変換装置でスイッチング素子短絡事故が発生した場合に、簡易な保護回路で直流側の保護用ヒューズを速やかに溶断させることができ
ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る電力変換装置は、直流電源に接続され、当該直流電源から供給される直流を交流に変換する電力変換装置であって、スイッチング制御可能な複数のスイッチング素子を有し、直流から交流に電力を変換するインバータと、前記直流電源と前記インバータとの間に接続されて所定の電流値以上が継続して流れることにより溶断可能であるヒューズと、前記直流電源と前記ヒューズとの間に設けられ、前記直流電源を保護するヒューズ溶断アシスト回路において、前記直流電源から充電される充電電流の上限値を制限する第1の分圧抵抗と、前記直流電源から充電される前記充電電流による電荷を蓄積するコンデンサと、前記コンデンサに蓄積された前記電荷を放電可能な第2の分圧抵抗とを備え、前記第1の分圧抵抗および前記第2の分圧抵抗は直列に接続され、直列に接続された前記第1の分圧抵抗および前記第2の分圧抵抗は前記直流電源に対して並列に接続されて、前記コンデンサは前記第2の分圧抵抗に対して並列に接続され、前記コンデンサに蓄積された前記電荷を放電する場合に、前記ヒューズを溶断可能な放電電流を供給するヒューズ溶断アシスト回路と、を具備し、前記ヒューズ溶断アシスト回路は、前記直流電源と前記ヒューズとの間に設けられ、前記スイッチング素子の短絡事故発生時に前記ヒューズを溶断して前記直流電源を過電流から保護するように構成されてい
て、前記直流電源の正極側に対して、前記第1の分圧抵抗と逆並列に接続されるダイオードをさらに備え、前記ダイオードは、前記放電電流が前記コンデンサから前記ヒューズに流れる経路に整流するように接続されていて、前記スイッチング素子の短絡事故発生時に、前記コンデンサに蓄積されていた電荷が前記ダイオードを介して前記ヒューズを経由して前記スイッチング素子の短絡箇所を流れることにより前記放電電流が発生し、それによって前記ヒューズが溶断するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係
る電力変換装置によれば、電力変換装置でスイッチング素子短絡事故が発生した場合に、簡易な保護回路で直流側の保護用ヒューズを速やかに溶断させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態のヒューズ溶断アシスト回路および電力変換装置について、図面を参照して具体的に説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。ここで説明する下記の実施形態はいずれも、蓄電池用電力変換装置の一例をとりあげて説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路および電力変換装置の実施形態の構成を示すブロック図である。
図2は、実施形態の電力変換装置のスイッチング素子短絡時の動作の一例を示す図である。また、
図3は
図2の電力変換装置をシミュレーションのための解析回路に置き換えた一例を示す図であり、
図4は
図3の解析回路でのスイッチング素子短絡事故時のシミュレーション解析結果を示す図である。
【0020】
本実施形態のヒューズ溶断アシスト回路10を用いる電力変換装置55は、電池20から供給される直流電力を交流電力に変換するインバータ、および、系統側からの交流電力を直流電力に変換して電池20を充電するコンバータからなる。
【0021】
電力変換装置55は、
図1に示すように、ヒューズ溶断アシスト回路10、スイッチ21、ヒューズ30、フィルタ回路40、およびインバータ50を備えている。なお、フィルタ回路40とインバータ50はユニット化されている構成とする。
【0022】
電池20は、直流を供給する電源である。電池20は、充電可能な蓄電池であり、例えばリチウム電池などである。
【0023】
スイッチ21は、電池20とインバータ50との接続を開閉可能に切り替える。また、
図1に示す電力変換装置55は、電池20以外の直流電源に接続されてもよく、この場合にはスイッチ21が選択可能に切り替えできる切り替え手段を備える構成であってもよい。
【0024】
ヒューズ溶断アシスト回路10は、スイッチ21とヒューズ30との間に設けられる。すなわち、ヒューズ溶断アシスト回路10は電池20とヒューズ30との間に設けられる。なお、ヒューズ溶断アシスト回路10の詳細については後述する。
【0025】
ヒューズ30は、ヒューズ溶断アシスト回路10とインバータ50との間に設けられる。ヒューズ30は、所定の電流値以上で継続して流れると、その接続を溶断可能な保護素子などである。すなわち、ヒューズ30は、ヒューズ溶断アシスト回路10とインバータ50との間の直流経路に、ヒューズ30の溶断特性に応じた所定の電流値以上の電流が所定の時間以上継続して流れると、接続箇所が溶断し、当該直流経路をオープンする。これにより、インバータ50のスイッチング素子短絡事故時などに、電池20はヒューズ溶断アシスト回路10およびヒューズ30によって過電流から保護される。
【0026】
インバータ50は、直流を交流に変換し(インバータ)、または交流を直流に変換する(コンバータ)電力変換器である。インバータ50は、
図1に示すように、直流のリップル(脈動分)を除去するフィルタ回路40と、U相、V相およびW相の交流側に接続されるU相インバータ50a、V相インバータ50bおよびW相インバータ50cとを備えている。
【0027】
U相インバータ50a、V相インバータ50bおよびW相インバータ50cは、各々、複数のスイッチング素子51を有している。スイッチング素子51は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であり、それと逆並列にダイオード52が接続されている。
【0028】
フィルタ回路40は、例えば直流安定化コンデンサ43および44、抵抗41および42を有している。直流安定化コンデンサ43および44は、各々が直列に接続されて、インバータ50の直流側の端子間に接続される。また、直流安定化コンデンサ43には抵抗41が並列に接続され、直流安定化コンデンサ44には抵抗42が並列に接続されている。
【0029】
直流安定化コンデンサ43および44に蓄えられた電荷は、主にフィルタ回路40内の抵抗41および42を介して、放電可能とされる。例えば、フィルタ回路40内の抵抗41および42は、インバータ50が停止した際(開放状態)などに直流安定化コンデンサ43および44に蓄えられた電荷を放電する。
【0030】
なお、インバータ50は、図示しないインバータ制御装置により制御され、当該制御に基づいて直流を交流に、または交流を直流に変換する。
【0031】
次に、本実施形態のヒューズ溶断アシスト回路10の構成について説明する。
【0032】
ヒューズ溶断アシスト回路10は、第1の分圧抵抗R1と、第2の分圧抵抗R2と、コンデンサC3と、ダイオードD4とを備えている。
【0033】
第1の分圧抵抗R1は、電池20から充電される充電電流を制限するための抵抗である。
【0034】
第2の分圧抵抗R2は、インバータ50が停止時に、コンデンサC3に充電された電荷を放電させるための抵抗である。また、コンデンサC3の両端にかかる電圧安定化の効果を有する。
【0035】
第1の分圧抵抗R1および第2の分圧抵抗R2は直列に接続されている。また、この直列に接続された第1の分圧抵抗R1および第2の分圧抵抗R2は、電池20に対して並列に接続されている。
【0036】
コンデンサC3は、第2の分圧抵抗R2に対して並列に接続されている。コンデンサC3は、蓄積された電荷を放電する場合に、ヒューズ30を溶断可能な放電電流を供給する。例えば、コンデンサC3では、インバータ50の通常運転時に、電池20から充電が行われる。コンデンサC3は、静電容量に応じたエネルギーを蓄える。この充電されたエネルギーにより、インバータ50のスイッチング素子短絡事故時などにヒューズ30をコンデンサC3の放電電流(以降ではアシスト電流I
Aaとも記す)によって溶断可能とする。
【0037】
ダイオードD4は、インバータ50のスイッチング素子短絡事故時などに、アシスト電流I
Aaがヒューズ30に流れるように電流方向を制限する整流素子である。ダイオードD4は、電池20の正極側に対して、第1の分圧抵抗R1と逆並列に接続されている。また、ダイオードD4は、アシスト電流I
AaがコンデンサC3からヒューズ30に流れる経路に制限されるように接続されている。
【0038】
ダイオードD4は、電池20、フィルタ回路40およびインバータ50などによる容量成分やインダクタンス成分、また、配線などによる浮遊容量や浮遊インダクタンスの影響による共振を抑制する効果を有している。
【0039】
また、ヒューズ溶断アシスト回路10により、直流安定化コンデンサ43および44を有するフィルタ回路40とインバータ50との間にヒューズを設けなくてもよいため、直流安定化コンデンサ43および44とスイッチング素子51との間のインピーダンスが大きくなることを回避できる。
【0040】
次に、
図2に示す電力変換装置55aのスイッチング素子短絡時の動作の一例について説明する。
【0041】
図2に示す電力変換装置55aは、ヒューズ溶断アシスト回路10、スイッチ21、ヒューズ30、インバータ50およびフィルタ回路40を備えている。
【0042】
図2に示すインバータ50は、スイッチ21を介して電池20に接続されている。ヒューズ溶断アシスト回路10が電池20とインバータ50との間に接続され、かつ、ヒューズ30がヒューズ溶断アシスト回路10とインバータ50との間に接続されている。
【0043】
図2において、インバータ50のスイッチング素子51が故障し、インバータ50にスイッチング素子短絡事故(X)が発生したとする。
【0044】
この場合に、ヒューズ溶断アシスト回路10のコンデンサC3に蓄積されていた電荷によるアシスト電流I
Aaは、ダイオードD4を介して、ヒューズ30を経由してインバータ50の短絡経路に流れる。コンデンサC3に蓄積されていた電荷は、ヒューズ30を溶断するのに十分なものであり、コンデンサC3は、予め少なくとも溶断可能な静電容量のものが選定されて取り付けられている。
【0045】
また、ヒューズ30溶断する前に、電池20からも電池電流I
Baが供給される。但し、電池20からヒューズ30までの間のインダクタンス成分は、ヒューズ溶断アシスト回路10のコンデンサC3からヒューズ30までの間のインダクタンス成分より大きいため、電池電流I
Baがアシスト電流I
Aaより立ち上がりが遅い。ヒューズ電流I
Faは、アシスト電流I
Aaおよび電池電流I
Baが加えられた電流であり、このヒューズ電流I
Faがヒューズ30を流れる。
【0046】
さらに、このヒューズ電流I
Faとフィルタ回路40の直流安定化コンデンサC5から放電される放電電流I
Caとが加わって、インバータ50でのスイッチング素子短絡事故の経路に事故電流I
Saが流れる。なお、
図2に示す直流安定化コンデンサC5は、
図1に示す直流安定化コンデンサ43および44に等価なコンデンサとして示す。
【0047】
ヒューズ30は、所定の電流値以上のヒューズ電流I
Faが継続して流れると、溶断する。インバータ50でのスイッチング素子短絡事故などには、所定の電流値以上の十分大きなアシスト電流I
Aaがヒューズ溶断アシスト回路10から速やかに継続的に供給されるため、ヒューズ30を速やかに(電池電流I
Baが大電流とならずに)溶断することができる。このため、インバータ50にヒューズ溶断アシスト回路10がない場合と比べて、電池電流I
Baが大きな電流になることがなく、電池20を過電流から保護することができる。
【0048】
以上により、インバータ50のスイッチング素子短絡事故において、ヒューズ溶断アシスト回路10の動作により電池20から損傷または劣化の恐れがあるような大電流を流すことなく、速やかにヒューズ30を溶断することができる。
【0049】
図3は電力変換装置をシミュレーションのための解析回路に置き換えた一例を示す図であり、
図4は
図3の解析回路でのスイッチング素子短絡事故時のシミュレーション解析結果を示す図である。詳しくは、
図2に示すヒューズ溶断アシスト回路10およびインバータ50の構成に基づいて、
図3に示す解析回路100に置き換えている。その解析回路100について、スイッチング素子短絡事故時のシミュレーション解析結果を
図4に示している。
【0050】
まず、
図2の構成に基づいて、ヒューズ30の溶断動作について説明する。ヒューズ30の溶断に必要なエネルギーPは電流二乗時間積で示され、例えばスイッチング素子短絡事故発生後の時間経過(通電時間)をt時間、ヒューズ30に流れるヒューズ電流I
Faを短絡電流I
Fa(t)とすると、溶断に必要なエネルギーPは、ヒューズ30のI
2・t特性(溶断特性)に基づいて求めることができる。
【0051】
ここで、
図3の解析回路100では、電池20の両端の電圧V(t)、インダクタンス成分のインダクタンスをZ
L、また、ヒューズ溶断アシスト回路10とインバータ50との間の等価抵抗分をRとする。なお、実際の解析において、解析回路100には、変圧器60、開閉器61などの他にも
図3に図示してない複数の回路や複数の素子が含まれている。
【0052】
図4に、
図3について解析波形の例を示す。なお、
図4において、横軸は時間であり、縦軸は電流値を示す。なお、(式1)、(式2)およびその他の解析の計算条件として、例えば電池20の両端の電圧V(t)=320(V)、インダクタンスZ
L=0.1(μH)(実回路より推定)等として求めたものである。
【0053】
図4において、解析より得られるヒューズ30に流れる電流I
Fa(t)、計算より得られる電流I
Fa(t)の実効値I
Fa(t)rms、推定した実電流I
R(t)、および実電流I
R(t)の実効値I
R(t)rms、電池電流I
Baの波形を示す。また、各電流の内容は、以下の通りである。
【0054】
電池電流I
Ba:電池20から供給される電流である。
【0055】
ヒューズ30に流れる電流I
Fa(t):解析より得られるヒューズ30に流れる電流である。電流I
Fa(t)は、ヒューズ溶断アシスト回路10から流れ込む電流I
Aa及び電池20から流れ込む電池電流I
Baが加算された電流である。
即ち、I
Fa(t)=I
Aa(t)+I
Ba(t)・・・(式1)
但し、解析ではヒューズの溶断特性を模擬できないため、
図4に示すヒューズ30に流れる電流I
Fa(t)はヒューズ30の溶断がないとした電流波形となる。
【0056】
電流I
Fa(t)の実効値I
Fa(t)rms:(式2)より求められた実効値である。同様に、ヒューズ30の溶断がないとした波形となる。
【0058】
仮にヒューズ30は溶断開始時間t
sから溶断開始とすると、溶断開始時間t
s時にヒューズ30に流れる電流の実効値は(式3)となる。
【0060】
選定したヒューズ30の溶断特性I
2t(溶断I
2tのIは実効値である)に基づく、(式4)よりヒューズの溶断開始時間t
sが求められる。例えば、ヒューズ30の溶断I
2tはY[A
2sec]とすると、
【0062】
以上の計算より、ヒューズ30の溶断開始時間t
sおよびその時点の各電流値が求められる。例えば、溶断開始時間t
s時の溶断アシスト回路から流れ込む電流I
Aa(t
s)及び電池20から流れ込む電池電流I
Ba(t
s)である。
【0063】
実電流I
R(t):ヒューズ30が溶断とした推定波形である。ヒューズ30は溶断開始時間t
sから溶断開始すると、ヒューズ内部エレメントの溶断により、ヒューズ30に流れる電流は徐々に下がり始め、最終的に時間te(
図4に示されない)で完全溶断となり、ヒューズ30に流れる電流も0になる。実電流I
R(t)はヒューズ30に流れる推定電流である。
【0064】
実電流I
R(t)の実効値I
R(t)rms:ヒューズ30に流れる実電流I
R(t)の実効値である。
【0065】
図4において、溶断開始時間tsからヒューズ溶断を開始し、例えば時間teで完全溶断となるが、解析の計算ではヒューズ30の溶断特性は模擬できないため、
図4に示す短絡電流(電流I
Fa(t))のような波形になる。
【0066】
実際のヒューズでは、一旦溶断を開始すると、ヒューズに流れる電流は、例えばヒューズ全遮断前の
図4に示す実電流I
R(t)のように下がることになる。
【0067】
以上の
図3の解析結果を、
図2の構成で説明すると、ヒューズ30に流れるヒューズ電流I
Faは、ヒューズ溶断アシスト回路10から供給されるアシスト電流I
Aaと電池20から供給される電池電流I
Baとが加わった電流である。
【0068】
図3の解析条件としては、ヒューズ溶断アシスト回路10とヒューズ30との間はブスなどにより近距離で接続されているため、インダクタンス成分が小さい。一方、電池20とヒューズ30との間はそれよりも長い距離であり、さらにその間にはケーブルなどで接続される箇所が多く、
図3の解析条件としては、その分、インダクタンス成分は大きくなる。
【0069】
このため、スイッチング素子短絡事故時、
図4に示すように、ヒューズ溶断アシスト回路10から大電流であるアシスト電流I
Aaが電池電流I
Baよりも先んじてヒューズ30へ流れる。実回路のインダクタンスに基づいて、適切にヒューズ30を選定することにより、電池20から流れ込む電池電流I
Baが大電流になる前に、ヒューズ溶断アシスト回路10から流れ込む電流I
Aaによりヒューズ30を溶断することが可能である。これにより、ヒューズ30が溶断するため、電池20から供給される電池電流I
Baが過大な電流とならない。
【0070】
以上説明したように、本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路および電力変換装置は、インバータの短絡故障などの事故時に速やかにヒューズを溶断することができるため、電池などの直流電源を過電流から保護することができる。
【0071】
また、本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路および電力変換装置によれば、電力変換装置が備える直流安定化コンデンサとインバータとの間にヒューズを設けなくてもよいため、直流安定化コンデンサとスイッチング素子との間のインピーダンスが大きくなることを回避することができる。
【0072】
一方、電力変換装置の小型化の一つの手段として、スイッチング素子と、直流回路安定化用のコンデンサ一体化の技術が進んでいる。このような場合に、電力変換装置における故障時の電源側への影響を低減するために、前述したように、ヒューズと本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路を外付けにして、簡易に保護回路を構成することが有効となる。
【0073】
具体例として、インバータ50に、家庭用小容量蓄電池システムなどに適用可能なIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いた汎用型インバータ(量産ベース、標準品として製作されているインバータ等を言うものとする)である。
【0074】
このような汎用インバータの容量は、例えば100kW〜500kW程度が用いられている。電池20として用いられるのは、例えばリチウム電池などである。ヒューズ30は、例えば定格数百A程度の速断ヒューズなどである。
【0075】
ヒューズ溶断アシスト回路10は、汎用型インバータのスイッチング素子などに直列に挿入する保護回路ではないため、汎用型インバータに外付けして用いることができる。また、例えば、汎用型インバータ内には直流短絡故障時の保護回路を既に備えているが、電池の過電流保護に対しては十分な保護でない場合に、さらにヒューズ溶断アシスト回路10を適用することができる。
【0076】
なお、以上の説明において、インバータを構成する複数個のスイッチング素子は各々が1個で構成される場合を説明したが、各々のスイッチング素子は複数個のスイッチング素子を並列接続したものでもよく、直列接続したものでもよく、また並列と直列を組み合わせたものであってもよい。
【0077】
本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路によれば、簡易な回路構成であるため、既存のインバータ装置や電力変換装置に適用する場合に、容易に取り付けることができる。例えば既存のIGBTスタック構成で、本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路を追加するだけで、スタックの変更は不要である。また、既設のIGBTスタック構成を有する電力変換装置などに、本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路を追加するだけでよく、スタックの変更を必要としない。
【0078】
また、本発明に係るヒューズ溶断アシスト回路によれば、簡易な回路や部品で構成できるため、製造コストを低減することができる。また、補助的な電源や、外部装置が不要なため、故障率を低減することができる。
【0079】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。例えば、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形には、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。