【文献】
村岡浩一,高温熱処理によるZrO2/SiOx/Si構造のシリサイド化機構,第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,(社)応用物理学会,2002年 3月27日,No. 2,pp. 828, 29p-A-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0038】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0039】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の絶縁膜の特徴と、その作製方法について、図面を参照して説明する。
【0040】
[絶縁膜の構成例]
以下では、本発明の一態様の絶縁膜の構成例について、
図1を用いて説明する。
図1(A)は、基板111上に形成された、本発明の一態様の絶縁膜101の断面概略図である。
【0041】
絶縁膜101は、少なくともジルコニウムを含む酸化物絶縁膜である。
【0042】
絶縁膜101を構成する材料としては、酸化ジルコニウムの他、酸化ジルコニウムに酸化イットリウムを含む材料を用いると、熱的安定性が高まるため好ましい。このように酸化イットリウムを含む酸化ジルコニウムのことを、イットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria−Stabilized Zirconia)ともいう。YSZは、例えば酸化ジルコニウムと酸化イットリウムがmol数比で酸化ジルコニウムが0.57以上0.99以下、酸化イットリウムが0.01以上0.43以下とすればよく、好ましくはmol数比で酸化ジルコニウムが0.85以上0.98以下、酸化イットリウムが0.02以上0.15以下とすればよい。
【0043】
また、酸化イットリウムに代えて、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム(セリア)、酸化ハフニウム(ハフニア)または酸化アルミニウム(アルミナ)によって安定化ジルコニアを形成してもよい。
【0044】
また絶縁膜101は、非晶質領域を有することが好ましい。また、膜中には空隙103を有することが好ましい。
【0045】
通常、酸化ジルコニウム膜をスパッタリング法、蒸着法、プラズマ化学気相成長法(PCVD法)、パルスレーザ堆積法(PLD法)、原子層堆積法(ALD法)または分子線エピタキシー法(MBE法)などで形成する場合、形成された酸化ジルコニウム膜は、立方晶系の結晶構造を有し、(111)面に強く配向した結晶膜が形成される。また膜中には成長方向(被形成面に垂直な方向)に結晶粒界(グレインバウンダリともいう)が顕著に観測される。
【0046】
一方、以下で説明する本発明の一態様の絶縁膜の形成方法を用いて、スパッタリング法により形成された絶縁膜101は、完全な結晶膜にはならず、非晶質領域を有し且つ膜中に空隙(隙間、空間、鬆ともいう)を有する、低密度な膜である。
【0047】
空隙103は、絶縁膜101中に分散して形成されている。空隙103は、膜表面に概略平行方向に長く、垂直方向に短い断面形状を有する。またその大きさは均一ではなく様々な大きさの空隙103が膜中に分散している。例えば膜表面に概略平行方向に2nm以上500nm以下、好ましくは5nm以上500nm以下、概略垂直方向に1nm以上50nm以下、好ましくは1nm以上20nm以下の様々な大きさの空隙が分散している。また、空隙103は、膜中に均一に分散していてもよいし、厚さ方向の一部の領域(例えば被形成面に近い領域、または膜表面に近い領域)に局在していてもよい。
【0048】
また、絶縁膜101の一部の領域が結晶状態であってもよい。その場合、絶縁膜101の一部に、成長方向に結晶粒界が観測される領域を有していてもよい。
【0049】
このような空隙103は、絶縁膜101の断面形状をSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)法によって観測することで、確認することができる。
【0050】
また、絶縁膜101は低密度領域を有することにより、全体としての膜密度が小さい特徴を有する。例えば絶縁膜101としてYSZ膜を用いた場合の、X線反射率法(XRR:X−ray Reflectometry)によって測定される好ましい膜密度は、5.40g/cm
3以上5.95g/cm
3以下である。この範囲の膜密度を有するYSZ膜は、構造安定性及び熱的安定性と、高い酸素放出量を兼ね備えることができる。一方、これよりも高い膜密度を有するYSZ膜は、膜中の低密度な非晶質領域の割合が低く、後に説明する酸素放出量が不十分である。一方、上述の範囲よりも低い膜密度を有するYSZ膜は酸素放出量を高められるものの、構造安定性が低く、トランジスタなどの半導体装置へ適用するにはその安定性が不十分である。
【0051】
また、絶縁膜101は加熱により酸素を放出する特徴を有し、且つ、従来の酸化物膜に比べて高い温度での酸素放出が可能である。例えば、昇温脱離ガス分光法(TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)分析にて、酸素分子の質量数に相当する質量数32の検出強度が、350℃以上、好ましくは400℃以上にピークを有する。なお、質量数32のものとして他にCH
3OHがあるが、膜中や膜表面に存在する可能性が低いものとして、ここでは考慮しない。また、酸素原子の同位体である質量数17の酸素原子及び質量数18の酸素原子を含む酸素分子についても、自然界における存在比率が極微量であるため考慮しない。
【0052】
ここで、観測されるTDS分析結果の例を
図1(B)に示す。
図1(B)は基板温度に対する質量数32の検出強度を示している。
図1(B)には、絶縁膜101に対する検出強度121を実線で示している。また
図1(B)には比較として、極めて結晶性の高いジルコニアを含む酸化物絶縁膜の検出強度123を破線で示している。
【0053】
図1(B)に示すように、本発明の一態様の絶縁膜101に対する検出強度121は、少なくとも一つ以上のピークを有し、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上にピークを有する。一方、結晶性の高い絶縁膜ではほとんど酸素放出が生じず、いずれの温度においても明瞭なピークが観測されない。
【0054】
ここで例えば従来の酸化物絶縁膜として、酸素を過剰に含む酸化シリコン膜を用いた場合には、200℃から350℃といった比較的低い温度範囲に酸素の放出ピークが観測される。本発明の一態様の絶縁膜101は、このような従来の絶縁膜より高い温度で酸素放出ピークを有することを特徴とする。
【0055】
ここで、本発明の一態様の絶縁膜101からの酸素放出の過程について説明する。
【0056】
絶縁膜101は、その膜中の非晶質且つ低密度な領域において、過剰な酸素が取り込まれている。より具体的には、当該低密度な領域には化学量論的組成よりも過剰な酸素を含有している。また、膜中の空隙103には、後に説明する形成工程における成膜ガスに含まれる酸素が、酸素分子として存在している。
【0057】
このような絶縁膜101を加熱すると、その熱により原子の再配列が起こり、比較的動的自由度の高い膜表面から深さ方向に結晶化が進むため、その過程で絶縁膜101の基板111に近い領域に酸素過剰な層が形成される。このようにして形成された酸素過剰な層からは、過剰酸素が酸素分子として脱離し、絶縁膜101の上層の結晶粒界を通して、膜外に放出される。
【0058】
したがって、絶縁膜101からの酸素放出は、膜中の原子の再配列に起因して生じるため、低温では酸素が放出しにくく、且つ当該原子の再配列が生じる程度の高い温度以上で、特異的な酸素放出ピークがTDS分析にて観測される。また、その放出量は、形成直後における絶縁膜101中の過剰酸素含有量と、その膜厚のそれぞれに比例する。
【0059】
一方、高い結晶性を有する酸化ジルコニウムを含む絶縁膜では、その結晶性に起因して膜の形成直後の状態で化学量論的組成を越える過剰酸素が取り込まれにくいため、その後の加熱処理によって原子の再配列が生じる程度の温度以上に加熱したとしても、酸素の放出はほとんどみられない。
【0060】
以上が、本発明の一態様の絶縁膜の説明である。
【0061】
[絶縁膜の形成方法]
以下では、本発明の一態様の絶縁膜の形成方法について説明する。
【0062】
絶縁膜101は、基板111の被形成表面上にスパッタリング法を用いて酸素を含む雰囲気下で成膜することにより形成することができる。
【0063】
スパッタリングに用いるターゲットとしては、少なくともジルコニウムを含有するスパッタリングターゲットを用いる。好ましくは、酸化ジルコニウムを含有するスパッタリングターゲットを用いる。また特に、酸化ジルコニウムと酸化イットリウムを含有するスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。また、上記酸化イットリウムに代えて、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、または酸化アルミニウムを含有するスパッタリングターゲットを用いることもできる。
【0064】
絶縁膜101の成膜は、形成される絶縁膜101の結晶化が進行しない温度以下に被形成面の温度を制御して行う。より具体的には、基板111の被形成面における温度が20℃以上100℃以下に保持された状態で、スパッタリング法により成膜を行う。
【0065】
このような低い温度で絶縁膜101を成膜することにより、成膜途中における膜の結晶化を効果的に抑制し、且つ形成された膜中における低密度な領域の割合を大きくすることができる。
【0066】
一方、成膜中の被形成面の温度を100℃よりも高い温度とした場合では、膜の結晶化が急激に進行するため、その結果密度の高い結晶性を有する領域が膜中の大部分を占めてしまい、膜中の過剰酸素の含有量が低減してしまう。またこのような温度で形成した絶縁膜は、膜厚方向に成長した柱状結晶が密に凝集した膜となってしまう。
【0067】
また被形成面の温度を20℃よりも低く保持しても低密度な領域を有する膜を形成することができるが、成膜装置に冷却機構を備える必要があるため、好ましくない。
【0068】
また、絶縁膜101の成膜は、酸素を含む雰囲気下で行う。例えば、成膜に用いる成膜ガスとして、酸素と、アルゴンなどの希ガスからなる希釈ガスの混合ガスを用いることができるし、酸素のみを成膜ガスとして用いることもできる。
【0069】
ここで、成膜雰囲気中の酸素の割合が高いほど、形成された絶縁膜101中に取り込まれる過剰酸素の量を増大させることができるため好ましい。一方、特にスパッタリングターゲットとして金属ターゲットを用いた場合など、成膜雰囲気中の酸素の割合が低いと、膜中に金属元素の割合が過剰な領域が形成され、絶縁性を損なう恐れが生じる。成膜雰囲気としては、雰囲気中の酸素の分圧が25%以上100%未満、好ましくは50%以上100%未満とすることが好ましい。
【0070】
また、成膜時の圧力としては、圧力が高いほど低密度な領域を膜中に形成しやすいが、その一方で圧力が高いと、成膜速度の安定性や、形成後の膜の構造安定性に悪影響を及ぼす恐れがある。例えば成膜時の圧力として、0.1Pa以上5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上2Pa以下とすればよい。
【0071】
このような条件の下、スパッタリング法により形成することにより、上述したような酸素放出性が高く、且つ高温で酸素放出が起こる絶縁膜101を形成することができる。このような絶縁膜101を、酸化物半導体を有する半導体装置に適用することにより、信頼性の高い半導体装置を実現できる。
【0072】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【0073】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で例示した絶縁膜が適用された半導体装置と、その作製方法について、図面を参照して説明する。
【0074】
なお、本実施の形態において、上記実施の形態で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明する。
【0075】
[構成例1]
本構成例では、本発明の一態様の絶縁膜が適用された、トップゲート型のトランジスタの構成について説明する。
【0076】
図2(A)は、本発明の一態様のトランジスタ200の上面概略図であり、
図2(B)は、
図2(A)中の切断線A−Bで切断した断面概略図である。なお明瞭化のため、
図2(A)には一部の構成要素(ゲート絶縁層など)は明示していない。
【0077】
トランジスタ200は、基板111上に設けられた絶縁層211の上面に接し、低抵抗化された領域201a及び領域201bを含む半導体層201と、半導体層201を覆うゲート絶縁層202と、ゲート絶縁層202の上面に接し、半導体層201と重なるゲート電極層203と、ゲート絶縁層202及びゲート電極層203を覆う絶縁層205と、絶縁層205及びゲート絶縁層202の一部に設けられた開口部を介して半導体層201とそれぞれ電気的に接続されるソース電極層204a、及びドレイン電極層204bと、を有する。
【0078】
ここで、半導体層201と接する絶縁層211に、実施の形態1で例示した本発明の一態様の絶縁膜101が適用されている。
【0079】
半導体層201の、ゲート電極層203と重なる領域は、チャネルが形成される活性層として機能する。また、半導体層201の、ゲート電極層203と重ならない領域には、不純物が添加されるなどして低抵抗化された領域201a及び201bが形成されている。したがって、半導体層201とソース電極層204a及びドレイン電極層204bとの接触抵抗が低減されている。また、ゲート電極層203と重なる領域以外が低抵抗化されることにより、ソース−ドレイン間の抵抗が低減され、オン電流などの電気的特性が向上する。
【0080】
ここで、半導体層201に適用可能な酸化物半導体膜について説明する。
【0081】
酸化物半導体膜は、単結晶、多結晶(ポリクリスタルともいう。)または非晶質などの状態をとる。
【0082】
好ましくは、酸化物半導体膜は、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)膜とする。
【0083】
CAAC−OS膜は、完全な単結晶ではなく、完全な非晶質でもない。CAAC−OS膜は、非晶質相に結晶部を有する結晶−非晶質混相構造の酸化物半導体膜である。なお、当該結晶部は、一辺が100nm未満の立方体内に収まる大きさであることが多い。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像では、CAAC−OS膜に含まれる非晶質部と結晶部との境界は明確ではない。また、TEMによってCAAC−OS膜には粒界(グレインバウンダリーともいう。)は確認できない。そのため、CAAC−OS膜は、粒界に起因する電子移動度の低下が抑制される。
【0084】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部は、c軸がCAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃い、かつab面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。また、単に平行と記載する場合、−5°以上5°以下の範囲も含まれることとする。
【0085】
なお、CAAC−OS膜において、結晶部の分布が一様でなくてもよい。例えば、CAAC−OS膜の形成過程において、酸化物半導体膜の表面側から結晶成長させる場合、被形成面の近傍に対し表面の近傍では結晶部の占める割合が高くなることがある。また、CAAC−OS膜へ不純物を添加することにより、当該不純物添加領域において結晶部が非晶質化することもある。
【0086】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部のc軸は、CAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃うため、CAAC−OS膜の形状(被形成面の断面形状または表面の断面形状)によっては互いに異なる方向を向くことがある。なお、結晶部のc軸の方向は、CAAC−OS膜が形成されたときの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向となる。結晶部は、成膜することにより、または成膜後に加熱処理などの結晶化処理を行うことにより形成される。
【0087】
CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気的特性の変動が小さい。よって、当該トランジスタは、信頼性が高い。
【0088】
また、結晶性を有する酸化物半導体では、よりバルク内欠陥を低減することができる。さらに、結晶性を有する酸化物半導体膜表面の平坦性を高めることによって、該酸化物半導体を用いたトップゲート構造のトランジスタは、アモルファス状態の酸化物半導体を用いたトランジスタ以上の電界効果移動度を得ることができる。酸化物半導体膜表面の平坦性を高めるためには、平坦な表面上に酸化物半導体を形成することが好ましく、具体的には、平均面粗さ(Ra)が0.15nm以下、好ましくは0.1nm以下の表面上に形成するとよい。
【0089】
なお、Raは、JIS B0601で定義されている算術平均粗さを面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現でき、以下の式にて定義される。
【0091】
ここで、指定面とは、粗さ計測の対象となる面であり、座標(x
1,y
1,f(x
1,y
1)),(x
1,y
2,f(x
1,y
2)),(x
2,y
1,f(x
2,y
1)),(x
2,y
2,f(x
2,y
2))の4点で表される四角形の領域とし、指定面をxy平面に投影した長方形の面積をS
0、基準面の高さ(指定面の平均の高さ)をZ
0とする。Raは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて測定可能である。
【0092】
また、酸化物半導体膜に用いる酸化物半導体としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、該酸化物半導体膜を用いたトランジスタの電気的特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド(例えば、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd))から選ばれた一種、または複数種が含まれていることが好ましい。
【0093】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、In−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、In−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−Zr−Zn系酸化物、In−Ti−Zn系酸化物、In−Sc−Zn系酸化物、In−Y−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、In−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0094】
ここで、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0095】
また、酸化物半導体として、InMO
3(ZnO)
m(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素、若しくは上記のスタビライザーとしての元素を示す。また、酸化物半導体として、In
2SnO
5(ZnO)
n(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0096】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1、In:Ga:Zn=3:1:2、あるいはIn:Ga:Zn=2:1:3の原子数比のIn:Ga:Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いるとよい。
【0097】
以上が半導体層201に適用可能な酸化物半導体膜についての説明である。
【0098】
ここで、基板111上に半導体層201と接する絶縁層211が設けられている。絶縁層211は、実施の形態1で例示した絶縁膜101を適用することができる。このように絶縁層211と半導体層201を接して設けることにより、加熱処理を施すことによって効果的に半導体層201に酸素を供給することができる。
【0099】
また、
図2(C)に示すように、ゲート絶縁層202にも実施の形態1で例示した絶縁膜101を適用することができる。このように、絶縁膜101が適用された絶縁層で半導体層201を挟持することにより、より効果的に半導体層201への酸素供給を行うことができる。なお、
図2(C)では、絶縁層211及びゲート絶縁層202の両方に、絶縁膜101を適用する構成を示したが、ゲート絶縁層202のみに適用することもできる。
【0100】
また、半導体層201に対して絶縁膜101を適用する絶縁層よりも外側に、酸素に対するバリア性の高い材料からなる層を適用することが好ましい。例えば基板111と絶縁層211との間にこのような層を設けることが好ましい。また、ゲート絶縁層202に絶縁膜101を適用する場合には、絶縁層205に酸素に対するバリア性を有する材料を適用する。このような構成とすることにより、絶縁膜101から放出される酸素が、半導体層201とは反対側に拡散することが抑制され、より効果的に、半導体層201に酸素を供給することができる。
【0101】
このような酸素に対するバリア性を有する絶縁膜としては、窒化珪素膜、窒化酸化珪素膜、窒化アルミニウム膜、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、又は窒化酸化アルミニウム膜などを用いることができる。
【0102】
以上が本構成例で例示するトランジスタ200についての説明である。
【0103】
[作製工程例1]
以下では、上記構成例1で例示したトランジスタ200の作製工程例について、図面を参照して説明する。
図3は、トランジスタ200の作製工程例を示す断面概略図である。
【0104】
まず、基板111を準備する。基板111に使用することができる基板に大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有していることが必要となる。例えば、バリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板などの基板を用いることができる。また、シリコンや炭化シリコンなどの単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウムなどの化合物半導体基板、SOI基板などを適用することも可能である。
【0105】
また、基板111として、可撓性基板を用いてもよい。可撓性基板を用いる場合、可撓性基板上に酸化物半導体を含むトランジスタを直接作製してもよいし、他の作製基板に酸化物半導体を含むトランジスタを作製し、その後作製基板から可撓性基板に剥離、転置してもよい。なお、作製基板から可撓性基板に剥離、転置するために、作製基板と酸化物半導体を含むトランジスタとの間に剥離層を設けるとよい。
【0106】
ここで、基板111上に上述した酸素に対するバリア性を有する絶縁膜を形成してもよい。当該絶縁膜は、スパッタリング法、又はCVD法を用いて形成することができる。また、絶縁膜の形成時、水素などの不純物が極力含まれないような雰囲気で形成することが好ましい。また、絶縁膜を形成後に加熱処理を行い、脱水素化を行うことが好ましい。
【0107】
続いて、基板111上に絶縁層211を形成する。絶縁層211は、実施の形態1で例示した絶縁膜101の形成方法を用いて形成することができる。
【0108】
続いて、絶縁層211上に酸化物半導体膜を形成し、その後フォトリソグラフィ法を用いて島状に加工して半導体層201を形成する。また、酸化物半導体膜はCAAC−OS膜とすることが好ましい。なお、絶縁層211及び酸化物半導体膜は大気に触れさせることなく連続して形成することが好ましい。
【0109】
また、酸化物半導体膜の成膜工程において、酸化物半導体膜に水素、または水がなるべく含まれないことが好ましい。例えば、酸化物半導体膜の成膜工程の前処理として、スパッタリング装置の予備加熱室で絶縁層211が形成された基板111を予備加熱し、基板111、及び絶縁層211に吸着した水素、水分などの不純物を脱離し排気することが好ましい。また、酸化物半導体膜の成膜時、残留水分が排気された成膜室(成膜チャンバーともいう)で行うことが好ましい。
【0110】
なお、予備加熱室、及び成膜室の水分を除去するためには、吸着型の真空ポンプ、例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。また、排気手段は、ターボポンプにコールドトラップを加えたものであってもよい。クライオポンプを用いて排気した、予備加熱室、及び成膜室は、例えば、水素原子、水(H
2O)など水素原子を含む化合物(より好ましくは炭素原子を含む化合物も)等が排気されるため、酸化物半導体膜に含まれる水素、水分などの不純物の濃度を低減できる。
【0111】
なお、本実施の形態では、酸化物半導体膜としてIn−Ga−Zn系酸化物膜をスパッタリング法により成膜する。また、酸化物半導体膜は、希ガス(代表的にはアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下、または希ガスと酸素の混合雰囲気下においてスパッタリング法により形成することができる。
【0112】
酸化物半導体膜として、In−Ga−Zn系酸化物をスパッタリング法で作製するためのターゲットとしては、例えば、原子数比がIn:Ga:Zn=1:1:1の金属酸化物ターゲットや、原子数比がIn:Ga:Zn=3:1:2の金属酸化物ターゲットや、原子数比がIn:Ga:Zn=2:1:3の金属酸化物ターゲットを用いることができる。ただし、酸化物半導体膜に用いることのできるターゲットは、これらのターゲットの材料、及び組成に限定されるものではない。
【0113】
また、酸化物半導体膜を上述した金属酸化物ターゲットを用いて形成した場合、ターゲットの組成と、基板上に形成される薄膜の組成と、が異なる場合がある。例えば、In
2O
3:Ga
2O
3:ZnO=1:1:1[mol比]の金属酸化物ターゲットを用いた場合、成膜条件にも依存するが、薄膜である酸化物半導体膜の組成は、In
2O
3:Ga
2O
3:ZnO=1:1:0.6〜0.8[mol比]となる場合がある。これは、酸化物半導体膜の成膜中において、ZnOが昇華する、またはIn
2O
3、Ga
2O
3、ZnOの各成分のスパッタリングレートが異なることに起因すると考えられる。
【0114】
したがって、所望の組成の薄膜を形成するため、予め金属酸化物ターゲットの組成を調整する必要がある。例えば、薄膜である酸化物半導体膜の組成を、In
2O
3:Ga
2O
3:ZnO=1:1:1[mol比]とする場合においては、金属酸化物ターゲットの組成を、In
2O
3:Ga
2O
3:ZnO=1:1:1.5[mol比]などとすればよい。すなわち、金属酸化物ターゲットのZnOの含有量を予め多くすればよい。ただし、ターゲットの組成は、上記数値に限定されず、成膜条件や、形成される薄膜の組成により適宜調整することができる。また、金属酸化物ターゲットのZnOの含有量を多くすることにより、得られる薄膜の結晶性が向上するため好ましい。
【0115】
また、金属酸化物ターゲットの相対密度は90%以上100%以下、好ましくは95%以上99.9%以下である。相対密度の高い金属酸化物ターゲットを用いることにより、成膜した酸化物半導体膜は緻密な膜とすることができる。
【0116】
また、金属酸化物ターゲットは純度の高いものを用いることが重要である。例えば6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、より好ましくは8N(99.999999%)以上の純度のものを用いる。
【0117】
また、酸化物半導体膜を成膜する際に用いるスパッタリングガスとしては、水素、水、水酸基、または水素化物などの不純物が除去された高純度ガスを用いることが好ましい。
【0118】
酸化物半導体膜として、CAAC−OS膜を適用する場合、該CAAC−OS膜を形成する方法としては、三つ挙げられる。
【0119】
一つめは、成膜温度を200℃以上450℃以下として酸化物半導体膜の成膜を行うことで、酸化物半導体膜に含まれる結晶部のc軸が、被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃った結晶部を形成する方法である。
【0120】
二つめは、酸化物半導体膜を薄い膜厚で成膜した後、200℃以上700℃以下の熱処理を行うことで、酸化物半導体膜に含まれる結晶部のc軸が、被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃った結晶部を形成する方法である。
【0121】
三つめは、一層目の酸化物半導体膜を薄く成膜した後、200℃以上700℃以下の熱処理を行い、さらに二層目の酸化物半導体膜の成膜を行うことで、酸化物半導体膜に含まれる結晶部のc軸が、被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃った結晶部を形成する方法である。
【0122】
また、基板111を加熱しながら成膜することにより、成膜した酸化物半導体膜に含まれる水素や水などの不純物濃度を低減することができる。また、スパッタリングによる損傷が軽減されるため好ましい。
【0123】
なお、酸化物半導体膜として、CAAC−OS膜以外の結晶性を有する酸化物半導体膜(単結晶または微結晶)を成膜する場合には、成膜温度や熱処理の温度は特に限定されない。
【0124】
なお、本作製工程例では、後の加熱処理によって絶縁層211からの酸素供給を行う温度未満、好ましくは500℃以下、さらに好ましくは400℃以下で酸化物半導体膜を形成する。特に大型の基板を用いる場合には、基板温度を高くすると基板の熱膨張に伴うパターンのずれや、クラック、膜剥がれ、もしくは基板の割れなどの問題が顕著になるため、低温で形成することが好ましい。
【0125】
続いて、ゲート絶縁層202を形成する。ここで、ゲート絶縁層202の膜厚は、例えば1nm以上500nm以下とすることができる。また、ゲート絶縁層202の作製方法に特に限定はないが、例えば、スパッタリング法、MBE法、CVD法、パルスレーザ堆積法、ALD法等を適宜用いてゲート絶縁層202を作製することができる。
【0126】
ゲート絶縁層202の材料としては、酸化シリコン、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化窒化アルミニウム、または窒化酸化シリコン等を用いることができる。ゲート絶縁層202は、酸化物半導体膜と接する部分において酸素を含むことが好ましい。特に、ゲート絶縁層202は、膜中に少なくとも化学量論的組成を超える量の酸素が存在することが好ましく、例えば、ゲート絶縁層202として、酸化シリコン膜を用いる場合には、SiO
2+α(ただし、α>0)とすることが好ましい。このような酸化シリコン膜をゲート絶縁層202として用いることで、酸化物半導体膜に酸素を供給することができ、電気的特性を良好にすることができる。
【0127】
また、ゲート絶縁層202の材料として酸化ハフニウム、酸化イットリウム、ハフニウムシリケート(HfSi
xO
y(x>0、y>0))、窒素が添加されたハフニウムシリケート(HfSiO
xN
y(x>0、y>0))、ハフニウムアルミネート(HfAl
xO
y(x>0、y>0))、酸化ランタンなどのhigh−k材料を用いることでゲートリーク電流を低減できる。さらに、ゲート絶縁層202は、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。
【0128】
また、ゲート絶縁層202に、実施の形態1で例示した絶縁膜101を適用することが好ましい。その場合は、実施の形態1で例示した形成方法にしたがって、ゲート絶縁層202を形成することができる。
【0129】
続いて、ゲート絶縁層202上に、ゲート電極層203となる導電膜223を形成する(
図3(A))。導電膜223に用いる材料としては、例えばモリブデン、チタン、タンタル、タングステン、アルミニウム、銅、ネオジム、スカンジウムなどの金属材料、またはこれらを主成分とする合金材料などが挙げられる。また、導電膜223として導電性の金属酸化物を用いてもよい。導電性の金属酸化物としては、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(In
2O
3−SnO
2)、インジウム亜鉛酸化物(In
2O
3−ZnO)、またはこれらの金属酸化物材料にシリコン、又は酸化シリコンを含有させたものを用いることができる。導電膜223は、上記の材料を用いて単層、または積層して形成することができる。形成方法は特に限定されず、蒸着法、CVD法、スパッタリング法、スピンコート法などの各種形成方法を用いることができる。
【0130】
次に、フォトリソグラフィ法を用いて導電膜223を選択的にエッチングし、ゲート電極層203を形成する。
【0131】
次に、ゲート電極層203をマスクとしてゲート絶縁層202を介して半導体層201にドーパント221を導入し、一対の低抵抗領域として機能する領域201a、及び201bを形成する(
図3(B))。
【0132】
ドーパント221は、酸化物半導体膜の導電率を変化させる不純物である。ドーパント221としては、15族元素(代表的には窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、およびアンチモン(Sb))、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、インジウム(In)、フッ素(F)、塩素(Cl)、チタン(Ti)、及び亜鉛(Zn)のいずれかから選択される一以上を用いることができる。
【0133】
ドーパント221の導入方法としては、イオン注入法、イオンドーピング法、プラズマイマージョンイオンインプランテーション法などを用いることができる。その際には、ドーパント221の単体のイオンあるいはフッ化物、塩化物のイオンを用いると好ましい。
【0134】
ドーパント221の導入工程は、加速電圧、ドーズ量などの注入条件、また通過させる膜の膜厚を適宜設定して制御すればよい。例えば、ドーパント221としてリンを用いて、イオン注入法でリンイオンの注入を行う。なおこのとき、ドーパント221のドーズ量は1×10
13ions/cm
2以上5×10
16ions/cm
2以下とすればよい。
【0135】
低抵抗領域に導入されたドーパント221の濃度は、5×10
18/cm
3以上1×10
22/cm
3以下であることが好ましい。
【0136】
また、ドーパント221を導入する際に、基板111を加熱しながら行ってもよい。
【0137】
なお、半導体層201にドーパント221を導入する処理は、複数回行ってもよく、ドーパント221の種類も複数種用いてもよい。
【0138】
また、ドーパント221の導入処理後、加熱処理を行ってもよい。加熱条件としては、温度300℃以上700℃以下、好ましくは300℃以上450℃以下で1時間、酸素雰囲気下で行うことが好ましい。また、窒素雰囲気下、減圧下、大気(超乾燥エア)下で加熱処理を行ってもよい。
【0139】
なお、この段階の加熱処理を、後に説明する絶縁層211から半導体層201への酸素供給のための加熱処理と兼ねてもよい。
【0140】
酸化物半導体膜を結晶性酸化物半導体膜、またはCAAC−OS膜とした場合、ドーパント221の導入により、一部非晶質化する場合がある。この場合、ドーパント221の導入後に加熱処理を行うことによって、酸化物半導体膜の結晶性を回復することができる。
【0141】
このようなドーパント221の導入工程により、チャネル形成領域として機能する領域を挟んで低抵抗領域として機能する領域201a、及び領域201bが設けられた半導体層201が形成される。
【0142】
続いて、ゲート絶縁層202及びゲート電極層203を覆い、後の絶縁層205となる絶縁膜225を形成する(
図3(C))。
【0143】
絶縁膜225としては、無機絶縁膜を用いることが好ましく、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、酸化ガリウム膜、酸化ハフニウム膜などの酸化物絶縁膜を単層、または積層して用いればよい。また、上述の酸化物絶縁膜上に、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜などの窒化物絶縁膜の単層、または積層をさらに形成してもよい。例えば、スパッタリング法を用いて、ゲート電極層203側から順に酸化シリコン膜、及び酸化アルミニウム膜の積層を形成する。
【0144】
なお、絶縁膜225上に、さらに平坦化絶縁膜を設けてもよい。平坦化絶縁膜としては、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾシクロブテン系樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂等の、耐熱性を有する有機材料を用いることができる。また上記有機材料の他に、低誘電率材料(low−k材料)、シロキサン系樹脂等を用いることができる。なお、これらの材料で形成される絶縁膜を複数積層させてもよい。
【0145】
ここで、実施の形態1で例示した絶縁膜101が適用された絶縁層211から、半導体層201に対して酸素を供給するための熱処理を行う。
【0146】
当該熱処理の温度としては、絶縁層211内の原子の再配列が生じる温度以上、基板111の歪み点未満、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上とする。
【0147】
当該熱処理によって、絶縁層211から放出された酸素が、これと接する半導体層201に導入され、半導体層201を構成する酸化物半導体膜中の酸素欠損を修復することができる。さらに、このように半導体層201を加熱しながら酸素導入を行うことにより、酸化物半導体膜中の原子の再配列を促し、より効果的に酸素欠損を修復することができる。
【0148】
なお、この熱処理の温度は、酸化物半導体膜の形成よりも後の工程内で、最も高い温度に設定することが好ましい。当該熱処理を行った後に、これよりも高い温度で熱処理を行うと、半導体層201に導入された酸素が脱離してしまう恐れがある。
【0149】
ここで、熱処理後の絶縁層211は、熱処理前と比較して、結晶性が高まり、またその膜密度が高くなっている場合がある。例えば、絶縁層211の一部または全部が完全結晶化し、その断面観察像において結晶粒界が観測される程度に結晶性を高めることができる。またその結晶化は、熱処理の温度が高いほど進行する。
【0150】
このように、熱処理後に酸化物半導体膜と接する絶縁層211の結晶性が高まることにより、水や水素といった不純物に対するバリア性が高まるため、酸化物半導体膜への不純物の拡散に対するバリア膜としても機能する。加えて、結晶性が向上することにより、酸素に対するバリア性を持たせることができるため、当該熱処理で酸化物半導体膜に供給した酸素が、絶縁層211を透過して再度脱離することを抑制する効果も奏する。
【0151】
当該熱処理は、例えば抵抗発熱体などを用いた電気炉に被処理物を導入し、不活性雰囲気下、または酸素を含む雰囲気下で行うことができる。ここで、加熱処理を行う雰囲気下に水や水素の混入ができるだけ生じないようにする。
【0152】
また、加熱処理に用いる装置は電気炉に限られず、加熱されたガスなどの媒体からの熱伝導、または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置等のRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて熱処理を行う装置である。ガスとしては、アルゴンなどの希ガス、または窒素のような、熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0153】
例えば、当該熱処理として、熱せられた不活性ガス雰囲気中に被処理物を導入し、数分間熱した後、当該不活性ガス雰囲気から被処理物を取り出すGRTA処理を行ってもよい。GRTA処理を用いると短時間での高温熱処理が可能となる。また、被処理物の耐熱温度を超える温度条件であっても適用可能となる。なお、処理中に、不活性ガスを酸素を含むガスに切り替えてもよい。
【0154】
なお、本作製工程例では、絶縁膜225を形成した後に当該熱処理を行う方法について説明したが、これに限定されず、少なくとも本発明の一態様の絶縁膜が適用された絶縁層と、これと接する酸化物半導体膜を形成した後の工程で、熱処理を行えばよい。例えば、酸化物半導体膜を島状の半導体層201に加工する前に、当該熱処理を行ってもよい。
【0155】
続いて、フォトリソグラフィ法を用いて、絶縁膜225及びゲート絶縁層202に半導体層201の領域201a及び201bに達する開口部を形成する。
【0156】
その後、後のソース電極層204a及びドレイン電極層204bとなる導電膜(図示しない)を形成する。次いでフォトリソグラフィ法を用いて導電膜を選択的にエッチングし、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bを形成する(
図3(D))。
【0157】
上記導電膜に用いる材料としては、例えば、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた元素を含む金属膜、または上述した元素を成分とする金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)等が挙げられる。また、アルミニウム、銅などの金属膜の下側、または上側の一方または双方にチタン、モリブデン、タングステンなどの高融点金属膜またはそれらの金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)を積層させた構成としてもよい。また、導電膜を導電性の金属酸化物で形成してもよい。導電性の金属酸化物としては酸化インジウム(In
2O
3)、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(In
2O
3−SnO
2)、インジウム亜鉛酸化物(In
2O
3−ZnO)などが挙げられる。また導電膜224は、上記の材料を用いて単層、または積層して成膜することができる。形成方法も特に限定されず、蒸着法、CVD法、スパッタリング法、スピンコート法などの各種形成方法を用いることができる。
【0158】
以上の工程により、トランジスタ200を作製することができる。
【0159】
なお、酸化物半導体膜を形成後に、当該酸化物半導体膜、または島状に加工された半導体層201に対して不活性ガス雰囲気下で熱処理を行ってもよい。当該熱処理により、過剰な水素を除去することができる。当該熱処理を、本明細書等において、脱水化処理(脱水素化処理)と記す場合がある。
【0160】
また、当該熱処理の温度は、300℃以上700℃以下の範囲で行えばよいが、上述した絶縁層211から半導体層201への酸素供給を行うための熱処理の温度よりも低い温度で行うことが好ましい。
【0161】
ここで、用いる不活性ガス雰囲気としては、窒素、または希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン等)を主成分とする雰囲気であって、水、水素などが含まれない雰囲気を適用するのが望ましい。例えば、熱処理装置に導入する窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(すなわち、不純物濃度が1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とする。
【0162】
なお、上述の脱水化処理(脱水素化処理)を行うと、酸化物半導体膜を構成する主成分材料である酸素が同時に脱離して減少してしまうおそれがある。酸化物半導体膜において、酸素が脱離した箇所では酸素欠損が存在し、該酸素欠損に起因してトランジスタの電気的特性変動を招くドナー準位が生じてしまう。よって、脱水化処理(脱水素化処理)を行った後に、上述した酸素導入のための熱処理を行うことはより有効である。
【0163】
また、上述の酸素導入のための熱処理に加えて、以下に示すような酸素を導入する方法を用いると、より信頼性の高いトランジスタを実現できる。
【0164】
酸化物半導体膜中の酸素欠損を修復する方法の他の一例としては、酸化物半導体膜に対して脱水化処理(脱水素化処理)を行った後、同じ炉に高純度の酸素ガス、高純度の一酸化二窒素ガス、高純度の亜酸化窒素ガス、又は超乾燥エア(CRDS(キャビティリングダウンレーザー分光法)方式の露点計を用いて測定した場合の水分量が20ppm(露点換算で−55℃)以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは10ppb以下の空気)を導入すればよい。酸素ガス、または一酸化二窒素ガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。または、熱処理装置に導入する酸素ガス、または一酸化二窒素ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち、酸素ガスまたは一酸化二窒素ガス中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0165】
また、酸化物半導体膜中の酸素欠損を修復する方法の他の一例としては、酸化物半導体膜に酸素(少なくとも、酸素ラジカル、酸素原子、酸素イオン、のいずれかを含む)を添加することで、酸化物半導体膜中に酸素を供給してもよい。酸素の添加方法としては、イオン注入法、イオンドーピング法、プラズマイマージョンイオンインプランテーション法、プラズマ処理などを用いる。
【0166】
上述のように、酸化物半導体膜の形成後において、脱水化処理(脱水素化処理)を行い酸化物半導体膜から、水素、または水分を除去して不純物が極力含まれないように高純度化し、脱水化処理(脱水素化処理)によって同時に減少してしまった酸素を酸化物半導体に加える、または過剰な酸素を供給し酸化物半導体膜の酸素欠損を補填することが好ましい。また、本明細書等において、酸化物半導体膜に酸素を供給する場合を、加酸素化処理、または過酸素化処理と記す場合がある。
【0167】
このように、酸化物半導体膜は、脱水化処理(脱水素化処理)により、水素または水分が除去され、加酸素化処理により酸素欠損を補填することによって、i型(真性)化またはi型に限りなく近い酸化物半導体膜とすることができる。このような酸化物半導体膜中には、ドナーに由来するキャリアが極めて少なく(ゼロに近く)、キャリア濃度は1×10
14/cm
3未満、好ましくは1×10
12/cm
3未満、さらに好ましくは1×10
11/cm
3未満、より好ましくは1.45×10
10/cm
3未満となる。
【0168】
またこのように、水素濃度が十分に低減されて高純度化され、十分な酸素の供給により酸素欠損に起因するエネルギーギャップ中の欠陥準位が低減された酸化物半導体層を備えるトランジスタは、極めて優れたオフ電流特性を実現できる。例えば、室温(25℃)でのオフ電流(ここでは、単位チャネル幅(1μm)あたりの値)は、100zA/μm(1zA(ゼプトアンペア)は1×10
−21A)以下、望ましくは、10zA/μm以下となる。また、85℃では、100zA/μm(1×10
−19A/μm)以下、望ましくは10zA/μm(1×10
−20A/μm)以下となる。このように、i型(真性)化または実質的にi型化された酸化物半導体層を用いることで、極めて優れたオフ電流特性のトランジスタを得ることができる。
【0169】
以上が、本作製工程例で例示するトップゲート型のトランジスタの作製工程例についての説明である。
【0170】
[構成例2]
本構成例では、本発明の一態様の絶縁膜が適用された、ボトムゲート型のトランジスタの構成例について説明する。
【0171】
なお、以下では、上記構成例で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明するものとする。
【0172】
図4(A)は、本発明の一態様のトランジスタ250の上面概略図であり、
図4(B)は、
図4(A)中の切断線C−Dで切断した断面概略図である。なお、明瞭化のため、
図4(A)には一部の構成要素(絶縁層205等)は明示していない。
【0173】
トランジスタ250は、基板111上に設けられた絶縁層211の上面に設けられたゲート電極層203と、ゲート電極層203を覆うゲート絶縁層202と、ゲート絶縁層202上にゲート電極層203と一部が重畳する半導体層201と、半導体層201上に形成され、当該半導体層201とそれぞれ電気的に接続されるソース電極層204a、及びドレイン電極層204bと、半導体層201、ソース電極層204a、及びドレイン電極層204bを覆い、且つ半導体層201の露出する領域と接する絶縁層205を有する。
【0174】
ここで、半導体層201と接する絶縁層205に、本発明の一態様の絶縁膜が適用されている。
【0175】
半導体層201の、ゲート電極層203と重なる領域は、チャネルが形成される活性層として機能する。また
図4(B)に示すように、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bを、ゲート電極層203と重なるように設けることにより、半導体層201に低抵抗な領域を設けなくとも、オン電流を向上させることができる。なお、半導体層201の、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bと接する領域に、低抵抗な領域を設けてもよい。また、意図的に低抵抗な領域を設けなくても、半導体層201のうち、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bと接する領域とその近傍では、その他の部分より抵抗の低い領域となることがある。
【0176】
半導体層201と接する絶縁層205に、本発明の一態様の絶縁膜を適用することにより、その作製工程において半導体層201に効果的に酸素を供給することができ、酸素欠損が低減され、電気的特性に優れたトランジスタ250とすることができる。
【0177】
なお、ここでは絶縁層205に本発明の一態様の絶縁膜を適用する場合を説明したが、
図4(C)に示すように、ゲート絶縁層202にも適用してもよい。また、基板111上に設けられた絶縁層211に適用することもできる。
【0178】
また、絶縁層205上に、酸素に対するバリア性の高い絶縁膜を形成してもよい。
【0179】
トランジスタ250は、その作製工程においてソース電極層204a及びドレイン電極層204bをエッチングにより形成する際に、半導体層201の上面の一部がエッチングされる、いわゆるチャネルエッチ型のトランジスタである。このようなチャネルエッチ型のトランジスタは、作製に用いるフォトマスクの数を少なくすることができるため、工程を簡略化できるため好ましい。
【0180】
また、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bをエッチングにより形成する際に、半導体層201の上面がエッチングされないように、エッチング保護層としての絶縁層を半導体層201の上面に設ける、いわゆるチャネルストップ型(チャネル保護型とも言う。)のトランジスタとしてもよい。
【0181】
図5(A)に示すトランジスタ260は、半導体層201とソース電極層204a及びドレイン電極層204bの間に設けられ、半導体層201の上面に接し、且つソース電極層204a及びドレイン電極層204bのそれぞれの端部と重畳する絶縁層251を備える、チャネルストップ型のトランジスタである。
【0182】
ここで、半導体層201と接する絶縁層251に、本発明の一態様の絶縁膜が適用されている。当該絶縁層251を形成した後に熱処理を施すことにより、半導体層201の少なくともチャネルを形成する領域に酸素を供給し、酸化物半導体膜中の酸素欠損を修復することができ、電気的特性に優れたトランジスタとすることができる。
【0183】
図5(B)に示すトランジスタ270は、上記トランジスタ260の絶縁層251が半導体層201の端部を覆う点で相違している。
【0184】
ここで、半導体層201に用いる酸化物半導体膜が結晶性を有する場合、半導体層201の端部、特にテーパ形状を有する半導体層201の端部では、酸素欠損が形成しやすいため、当該端部に生じるキャリアによって意図しない電流が生じ、電気的特性に悪影響を及ぼす場合がある。このように絶縁層251によって半導体層201の端部を覆う構成とすることにより、当該端部における酸素欠損をも効果的に修復することができるため、より電気的特性に優れたトランジスタとすることができる。
【0185】
また、絶縁層251を、半導体層201とソース電極層204a及びドレイン電極層204bが電気的に接続するための開口部以外の領域を覆って形成することにより、絶縁層251を構成する絶縁膜の形成以降、半導体層201が露出する領域の面積を最小限に抑えることができるため、作製工程中における半導体層201への意図しない汚染などの影響を抑制する効果を奏する。
【0186】
ここで、トランジスタ260及びトランジスタ270は、トランジスタ250と同様にゲート絶縁層202や絶縁層211にも本発明の一態様の絶縁膜を適用することができる。
【0187】
以上が本構成例で例示するボトムゲート型のトランジスタについての説明である。
【0188】
[作製工程例2]
本作製工程例では、上記構成例2で例示したボトムゲート型のトランジスタの作製工程例について、図面を参照して説明する。ここでは、トランジスタ270を例に挙げてその作製方法例を説明する。
図6は、トランジスタ270の作製工程例を示す断面概略図である。
【0189】
なお、以下では上記作製工程例1で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明する。
【0190】
まず、基板111上に絶縁層211を形成する。
【0191】
絶縁層211は、基板111からの水素や水分などの不純物の拡散を抑制するために設けられ、無機絶縁材料を用いて形成する。絶縁層211に用いる無機絶縁材料としては酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコンなどが挙げられる。絶縁層211はこれら材料からなる膜を単層、または積層して用いることができる。
【0192】
絶縁層211は、例えばスパッタリング法またはCVD法を用いて形成する。また絶縁層211中に水素や水などの不純物が含まれないことが好ましい。そのため絶縁層211に対して、上述した脱水化処理や加酸素化処理を施してもよい。特にCVD法を用いて形成された絶縁膜は水素を含む場合があるため、このような処理を施すことは特に有効である。
【0193】
また、絶縁層211の形成前に基板111に対してプラズマ処理等を行ってもよい。プラズマ処理としては、例えば、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタリングを行うことができる。逆スパッタリングとは、アルゴン雰囲気下で基板111側にRF電源を用いて電圧を印加して基板111近傍にプラズマを形成して表面を改質する方法である。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウム、酸素などを用いてもよい。逆スパッタリングを行うと、基板111表面に付着している粉状物質(パーティクル、ごみともいう)を除去することができる。
【0194】
続いて、絶縁層211上にゲート電極層203となる導電膜(図示しない)を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いて当該導電膜を選択的にエッチングしてゲート電極層203を形成する。
【0195】
続いて、ゲート電極層203を覆うゲート絶縁層202を形成する。
【0196】
ゲート絶縁層202は、上記作製工程例1で例示した方法で形成することができる。また、ゲート絶縁層202として、本発明の一態様の絶縁膜を適用する場合には、実施の形態1で例示した形成方法を用いて形成する。
【0197】
続いて、ゲート絶縁層202上に後に半導体層201となる酸化物半導体膜271を形成する(
図6(A))。
【0198】
その後、フォトリソグラフィ法を用いて酸化物半導体膜271を選択的にエッチングし、島状の半導体層201を形成する。
【0199】
次いで、半導体層201に接して絶縁膜101を形成する(
図6(B))。絶縁膜101は、実施の形態1で例示した形成方法により形成することができる。
【0200】
絶縁膜101を形成した後、絶縁膜101から半導体層201に酸素を供給するための熱処理を行う。当該熱処理により、半導体層201内に酸素が供給され、これを構成する酸化物半導体膜中の酸素欠損が効果的に修復される。
【0201】
続いて、フォトリソグラフィ法を用いて絶縁膜101を選択的にエッチングし、半導体層201に達する開口部を有する絶縁層251を形成する。このとき、絶縁層251は、少なくとも半導体層201のチャネルを形成する領域、および半導体層201の端部を覆うように形成する。
【0202】
その後、絶縁層251上に後にソース電極層204a及びドレイン電極層204bとなる導電膜224を形成する(
図6(C))。
【0203】
続いて、フォトリソグラフィ法を用いて導電膜224を選択的にエッチングし、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bを形成する。
【0204】
なお、導電膜224のエッチング処理の際、半導体層201の上面は絶縁層251によって保護されているため、エッチングの影響を効果的に抑制することができる。例えばチャネルエッチ型のトランジスタのように、エッチングによる半導体層201の膜減りを考慮して、あらかじめ酸化物半導体膜271を厚く形成しておく必要がないため好ましい。また例えば大型の基板を用いる場合など、当該膜減り量が基板面内で分布を持つ場合には特に、絶縁層251を設けることにより、当該分布に起因するトランジスタの電気的特性のばらつきを低減することができるため好ましい。
【0205】
ソース電極層204a及びドレイン電極層204bを形成した後、これらを覆う絶縁層205を形成する(
図6(D))。
【0206】
以上の工程により、トランジスタ270を作製することができる。
【0207】
なお、本作製工程例では、本発明の一態様の絶縁膜から酸化物半導体膜へ酸素を供給する熱処理を、絶縁層251を構成する絶縁膜101の形成後に行ったが、これに限られず、酸化物半導体膜及び絶縁膜を形成した後の段階であれば、どの段階で行ってもよい。例えば、ゲート絶縁層202にも本発明の一態様の絶縁膜を適用する場合では、酸化物半導体膜の形成後、及び絶縁層251を構成する絶縁膜101の形成後の2回に渡って熱処理を行ってもよい。
【0208】
また、酸化物半導体膜に対して脱水素化処理や加酸素化処理を行う場合には、酸化物半導体膜の形成後であればどの段階で行ってもよい。なお、脱水素化処理の後に加酸素化処理を行うことが好ましい。
【0209】
なお、
図5(A)に示すトランジスタ260を作製する場合には、絶縁膜101の加工の際に用いるマスクのパターンを適宜変更することにより作製することができる。
【0210】
また、
図4(B)に示すトランジスタ250を作製する場合には、絶縁層251の作製工程を省略することにより、作製することができる。その場合、絶縁層205を構成する絶縁膜として、本発明の一態様の絶縁膜の作製方法を用いる。また、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bのエッチングの際に、半導体層201がエッチングにより消失してしまわないように、エッチング条件を適宜調整して形成することが好ましい。
【0211】
以上が、本作製工程例で例示するボトムゲート型のトランジスタの作製工程例についての説明である。
【0212】
本実施の形態で例示したトランジスタは、酸化物半導体膜からなる半導体層と接して、本発明の一態様の絶縁膜が設けられ、またその作製工程における熱処理によって絶縁膜から酸素が供給されることにより酸素欠損が効果的に修復され、電気的特性に優れ、且つ信頼性の高いトランジスタである。また、その作製工程において、本発明の一態様の絶縁膜からの酸素供給工程にかかる熱処理の温度を、他の工程よりも高い温度とすることにより、一度供給された酸素が脱離してしまうことが抑制されるため、十分に酸素欠損が低減された酸化物半導体膜を備えるトランジスタを作製することができる。
【0213】
また本実施の形態で例示したトランジスタの作製方法は、大型の基板に適用することが可能であるため、例えば液晶素子や有機EL(エレクトロルミネセンス)素子などの表示素子が適用された表示装置の表示部(画素や駆動回路を含む)を代表として、さまざまな薄膜デバイスに適用することができる。また優れたオフ電流特性を有するため、適用されたデバイスの消費電力を効果的に低減することが可能である。
【0214】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【0215】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の絶縁膜が適用され、且つ微細化に適した半導体装置およびその作製方法について、図面を参照して説明する。
【0216】
本発明の一態様の絶縁膜が適用された酸化物半導体を備える半導体装置は、その優れた電気的特性から集積回路(IC)、中央演算装置(CPU)などの半導体回路にも適用することができる。本実施の形態で例示する酸化物半導体を備える半導体装置は微細化または高集積化が可能であるため、特にこのような半導体回路への応用に適している。
【0217】
[構成例3]
本構成例では、本発明の一態様の絶縁膜が適用され、高集積化が可能な、トップゲート型のトランジスタの構成について説明する。
【0218】
なお、以下では上記構成例で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明する。
【0219】
図7(A)は、本構成例で例示するトランジスタ300の上面概略図であり、
図7(B)は、
図7(A)中の切断線E−Fで切断した断面概略図である。なお、明瞭化のため、
図7(A)には一部の構成要素(ゲート絶縁膜など)は明示していない。
【0220】
トランジスタ300は、基板111上に設けられた絶縁層211の上面に接し、低抵抗化された領域201a及び領域201bを含む半導体層201と、半導体層201を覆うゲート絶縁層202と、ゲート絶縁層202の上面に接し、半導体層201と重なるゲート電極層203と、ゲート絶縁層202及びゲート電極層203を覆う絶縁層205と、絶縁層205及びゲート絶縁層202に設けられた開口部を介して半導体層201とそれぞれ電気的に接続するコンタクトプラグ302a及び302bと、コンタクトプラグ302a及び302bにそれぞれ電気的に接続されるソース配線304a及びドレイン配線304bと、を備える。
【0221】
ここで、半導体層201と接する絶縁層211に、本発明の一態様の絶縁膜が適用されている。なお、これに限られず、半導体層201と接するゲート絶縁層202に適用することもできる。
【0222】
ここで、絶縁層205、並びにコンタクトプラグ302a及び302bの各々の上面は平坦化され、その上部にソース配線304a及びドレイン配線304bが設けられている。
【0223】
このように、トランジスタ300の上面が平坦化されているため、同一構成のトランジスタ300を、ソース配線304a及びドレイン配線304bが設けられる層よりも上層に積層して設けることができ、高集積化が可能となる。
【0224】
また、後に示すようにトランジスタ300は平坦化処理を用いて形成するため、同様の平坦化処理が用いられる単結晶シリコンを用いたプロセスとの相性がよい。そのため例えば、単結晶シリコンを用いた半導体回路上に、トランジスタ300を用いた半導体回路を積層して形成することも可能である。
【0225】
このように、半導体層201と接する絶縁層に本発明の一態様の絶縁膜を適用することにより、その作製工程において半導体層201に効果的に酸素を供給することができ、膜中の酸素欠損が低減され、電気的特性に優れたトランジスタ300とすることができる。
【0226】
以上が本構成例で例示するトランジスタ300についての説明である。
【0227】
[作製工程例3]
本作製工程例では、上記構成例3で例示したトランジスタの作製工程例について、図面を参照して説明する。
図8は、トランジスタ300の作製工程例を示す断面概略図である。
【0228】
なお、以下では、上記作製工程例で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明する。
【0229】
まず、基板111上に絶縁層211を形成する。ここでは、絶縁層211として、本発明の一態様の絶縁膜を適用する。絶縁層211の形成方法としては、実施の形態1で例示した形成方法を用いることができる。なお、基板111と絶縁層211との間に、水素や水分などの不純物や、酸素に対してバリア性を有する絶縁層を設けてもよい。
【0230】
ここで、トランジスタ300を微細に形成する場合には、基板111として作製工程にかかる熱処理を経たときの熱収縮の量が比較的小さい基板を用いることが好ましい。例えば石英基板や、シリコンなどの単結晶基板などを用いることが好ましい。また、ガラス基板を用いる場合には、事前に工程にかかる温度以上の熱処理を行うことが好ましい。また、基板111に用いる基板として、実施の形態2で例示した基板に加え、半導体回路が形成された絶縁表面を有する基板を用いることができる。当該基板としては、シリコンなどの単結晶基板などが挙げられる。
【0231】
続いて、絶縁層211の上面に接して酸化物半導体膜を形成し、フォトリソグラフィ法を用いて選択的にエッチングし、島状の半導体層201を形成する。
【0232】
その後、絶縁層211の露出した部分及び半導体層201を覆うゲート絶縁層202を形成する。
【0233】
続いて、後のゲート電極層203となる導電膜223を形成する(
図8(A))。
【0234】
その後、フォトリソグラフィ法を用いて導電膜223を選択的にエッチングし、ゲート電極層203を形成する。
【0235】
ここで、ゲート電極層203のエッチングに用いるマスクに対してスリミング処理を行い、より微細なパターンを有するマスクとすることが好ましい。スリミング処理としては、例えばラジカル状態の酸素(酸素ラジカル)などを用いるアッシング処理を適用することができる。ただし、スリミング処理はフォトリソグラフィ法などによって形成されたマスクをより微細なパターンに加工できる処理であれば、アッシング処理に限定する必要はない。また、スリミング処理によって形成されるマスクによって、トランジスタのチャネル長が決定されることになるため、制御性の良好な処理を適用することが好ましい。スリミング処理の結果、フォトリソグラフィ法などによって形成されたマスクを、露光装置の解像限界以下、好ましくは、1/2以下、より好ましくは1/3以下の幅にまで微細化することが可能である。例えば、形成されたマスクの幅は、30nm以上2000nm以下、好ましくは50nm以上350nm以下を達成することができる。
【0236】
続いて、ゲート電極層203をマスクとして、ゲート絶縁層202を介して半導体層201にドーパント221を導入し、一対の低抵抗領域として機能する領域201a及び201bを形成する(
図8(B))。
【0237】
ここで、絶縁層211から半導体層201に酸素を供給するための熱処理を行う。当該熱処理により、半導体層201内に酸素が供給され、これを構成する酸化物半導体膜中の酸素欠損が効果的に修復される。
【0238】
またこのように、ドーパント221を導入した後の段階で熱処理を行うことにより、ドーパントの活性化のための熱処理と、酸素供給のための熱処理を兼ねることができる。
【0239】
続いて、ゲート絶縁層202及びゲート電極層203を覆い、後の絶縁層205となる絶縁膜225を形成する。ここで、絶縁膜225は後の平坦化処理による膜減りを考慮して十分な厚さに形成する。
【0240】
次いで、絶縁膜225及びゲート絶縁層202に、半導体層201に達する開口部を形成する。
【0241】
ここで、開口部を形成する際、ゲート電極層203を挟んで設けられる一対の開口部を2回に分けて個別に形成することにより、露光装置の解像限界よりも開口部間の距離を小さく形成することができる。例えば、ゲート電極層203に限りなく近づけて一方の開口部を形成した後、同様にゲート電極層203に限りなく近づけて他方の開口部を形成する。特に、ゲート電極層203の加工の際にスリミング処理を行った場合では、ゲート電極層203の幅が露光機の解像限界よりも小さいため、このような方法を用いて開口部間の距離を解像限界よりも近づけることにより、より微細なトランジスタを形成することができる。
【0242】
その後、開口部が設けられた絶縁膜225上に、後のコンタクトプラグ302a及びコンタクトプラグ302bとなる導電膜322形成する(
図8(C))。ここで、導電膜322は、後の平坦化処理を考慮して少なくとも上記開口部を埋める程度に厚く形成する。なお、
図8(C)には導電膜322の上部の一部を明示していない。
【0243】
導電膜322は、上記ゲート電極層203、又はソース電極層204a及びドレイン電極層204bを構成する導電膜(導電膜223又は導電膜224)と同様の材料及び方法により形成することができる。
【0244】
続いて、絶縁膜225及び導電膜322の上部に対して平坦化処理を行う。平坦化処理としては少なくとも、それぞれ電気的に絶縁されたコンタクトプラグ302a及び302bが形成されるように導電膜322を分断する深さまで処理する。ここで、ゲート電極層203の上面が露出しないように、ゲート電極層203上の絶縁膜225の一部が残存した状態で処理を終えることが好ましい。
【0245】
平坦化処理としては、エッチング処理や化学的機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理を用いることができる。CMP処理を用いる場合には、複数回に分けて行うことが好ましい。例えば、高い研磨速度の一次研磨を行った後に、低い研磨速度の仕上げ研磨を行う。このように研磨速度の異なる研磨を組み合わせることにより、平坦性を高めることができる。
【0246】
平坦化処理を行うことにより、絶縁層205並びにコンタクトプラグ302a及び302bが形成される。
【0247】
その後、絶縁層205上に、それぞれコンタクトプラグ302a及び302bと電気的に接続するソース配線304a及びドレイン配線304bを形成する(
図8(D))。
【0248】
ソース配線304a及びドレイン配線304bは、導電膜を形成した後にフォトリソグラフィ法を用いて選択的にエッチングすることにより形成することができる。また当該導電膜は、上記ゲート電極層203、又はソース電極層204a及びドレイン電極層204bを構成する導電膜(導電膜223又は導電膜224)と同様の材料及び方法により形成することができる。
【0249】
以上の工程により、トランジスタ300を作製することができる。
【0250】
なお、本作製工程例では、本発明の一態様の絶縁膜から酸化物半導体膜へ酸素を供給する熱処理を、ドーパント221の導入後に行ったが、これに限られず、酸化物半導体膜及び絶縁膜を形成した後の段階であれば、どの段階で行ってもよい。例えば、ゲート絶縁層202にも本発明の一態様の絶縁膜を適用する場合では、酸化物半導体膜の形成後、及びゲート絶縁層202の形成後の2回に渡って熱処理を行ってもよい。
【0251】
また、酸化物半導体膜に対して脱水素化処理や加酸素化処理を行う場合には、酸化物半導体膜の形成後であればどの段階で行ってもよい。なお、脱水素化処理の後に加酸素化処理を行うことが好ましい。
【0252】
以上が本作製工程例で例示するトランジスタ300の作製工程例についての説明である。
【0253】
[構成例4]
本構成例では、上記構成例3とは異なるトップゲート型のトランジスタの構成について説明する。
【0254】
なお、以下では上記構成例で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明する。
【0255】
図9(A)は、本構成例で例示するトランジスタ350の上面概略図であり、
図9(B)は、
図9(A)中の切断線G−Hで切断した断面概略図である。なお、明瞭化のため
図9(A)には、一部の構成要素(絶縁層205a、絶縁層205bなど)は明示していない。
【0256】
トランジスタ350は、基板111上に設けられた絶縁層211の上面に接し、低抵抗化された領域201a及び領域201bを含む半導体層201と、半導体層201上にゲート絶縁層202を介して形成されたゲート電極層203と、ゲート電極層203の上面に接する絶縁層352と、ゲート電極層203の側面を覆う絶縁層351と、絶縁層351の側面及び半導体層201の上面とそれぞれ接するソース電極層204a及びドレイン電極層204bと、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bを覆う絶縁層205aと、絶縁層205a及びゲート電極層203を覆う絶縁層205bと、絶縁層205a及び絶縁層205bに設けられた開口部を介してソース電極層204a及びドレイン電極層204bにそれぞれ電気的に接続するコンタクトプラグ302a及びコンタクトプラグ302bと、コンタクトプラグ302a及びコンタクトプラグ302bにそれぞれ電気的に接続するソース配線304a及びドレイン配線304bと、を備える。
【0257】
ここで、半導体層201と接する絶縁層211に、本発明の一態様の絶縁膜が適用されている。なお、これに限られず、半導体層201と接するゲート絶縁層202に適用することもできる。
【0258】
ここで、ゲート電極層203の側面に設けられる絶縁層351の側面に接するソース電極層204a及びドレイン電極層204bは、平坦化処理によって電気的に分断されている。また、ゲート電極層203と、ソース電極層204a又はドレイン電極層204bの距離は、絶縁層351の幅によって決定されるため、これらを自己整合的に近づけて形成することができ、極めて微細化されたトランジスタとすることができる。
【0259】
また、ゲート電極層203及び絶縁層351と重ならない領域におけるゲート絶縁層202が除去されており、当該領域で半導体層201とソース電極層204a及びドレイン電極層204bとが電気的に接続している。このような構成とすることにより、半導体層201とソース電極層204a及びドレイン電極層204bが接続する面積を増大させることができ、これらの接触抵抗を低減することができる。
【0260】
また構成例3と同様に、コンタクトプラグ302a及びコンタクトプラグ302bの上面は平坦化されており、平坦化された上面にソース配線304a及びドレイン配線304bが設けられている。したがって、上述のように、単結晶シリコンを用いたプロセスと相性がよいため、単結晶シリコン基板を用いた半導体回路と組み合わせて形成することができる。
【0261】
このように、半導体層201と接する絶縁層に本発明の一態様の絶縁膜を適用することにより、その作製工程において半導体層201に効果的に酸素を供給することができ、膜中の酸素欠損が低減され、電気的特性に優れたトランジスタ350とすることができる。
【0262】
以上が本構成例で例示するトランジスタ350についての説明である。
【0263】
[作製工程例4]
本作製工程例では、上記構成例4で例示したトランジスタの作製工程例について、図面を参照して説明する。
図10は、トランジスタ350の作製工程例を示す断面概略図である。
【0264】
なお、以下では、上記作製工程例で説明した内容と重複する部分については、説明を省略するか、簡略化して説明する。
【0265】
まず、基板111上に絶縁層211を形成する。ここでは、絶縁層211として、本発明の一態様の絶縁膜を適用する。絶縁層211の形成方法としては、実施の形態1で例示した形成方法を用いることができる。なお、基板111と絶縁層211との間に水素や水分などの不純物や、酸素に対してバリア性を有する絶縁層を設けてもよい。
【0266】
また基板111としては、上記作製工程例3で例示した基板を用いることができる。
【0267】
続いて、絶縁層211の上面に接して酸化物半導体膜を形成し、フォトリソグラフィ法を用いて選択的にエッチングし、島状の半導体層201を形成する。
【0268】
その後、絶縁層211の露出した部分及び半導体層201を覆うゲート絶縁層202を形成する。
【0269】
続いて、ゲート絶縁層202上に後のゲート電極層203となる導電膜223を形成する。次いで、導電膜223上に後の絶縁層352となる絶縁膜362を形成する(
図10(A))。
【0270】
続いて、フォトリソグラフィ法を用いて絶縁膜362と導電膜223を選択的にエッチングし、ゲート電極層203と、当該ゲート電極層203上の絶縁層352を形成する。
【0271】
なお、このとき、上述したスリミング処理を行い、微細なゲート電極層203としてもよい。
【0272】
ここで、絶縁層352は、後の平坦化処理でソース電極層204a及びドレイン電極層204bを形成する際に、確実にゲート電極層203と、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bのそれぞれを電気的に分断するために設ける。なお、平坦化処理の制御性が極めて高い場合には、絶縁層352を設けなくてもよい。
【0273】
その後、ゲート電極層203をマスクとして、ゲート絶縁層202を介して半導体層201にドーパント(図示しない)を導入し、一対の低抵抗領域として機能する領域201a及び領域201bを形成する。
【0274】
ここで、絶縁層211から半導体層201に酸素を供給するための熱処理を行う。当該熱処理により、半導体層201内に酸素が供給され、これを構成する酸化物半導体膜中の酸素欠損が効果的に修復される。
【0275】
またこのように、ドーパントを導入した後の段階で熱処理を行うことにより、ドーパントの活性化のための熱処理と、酸素供給のための熱処理を兼ねることができる。
【0276】
続いて、ゲート絶縁層202、ゲート電極層203の側面、及び絶縁層352を覆う絶縁膜361を形成する(
図10(B))。なお、
図10(B)には絶縁膜361の上部の一部を明示していない。
【0277】
ここで、絶縁膜361及び絶縁膜362としては、上述した絶縁膜225と同様の無機絶縁材料を用いて形成することができる。
【0278】
その後、絶縁膜361に対してマスクを用いることなく異方性のエッチングを行うことにより、ゲート電極層203の側面を覆う絶縁層351を形成する。また、このときゲート電極層203及び絶縁層351に覆われない領域のゲート絶縁層202は同時にエッチングされることにより、当該領域の半導体層201の上面が露出した状態となる。
【0279】
続いて、半導体層201の露出した部分に接し、絶縁層351及びゲート電極層203を覆うように、後のソース電極層204a及びドレイン電極層204bとなる導電膜224を形成する(
図10(C))。
【0280】
その後、導電膜224を覆い、後の絶縁層205aとなる絶縁膜(図示しない)を形成する。ここで、絶縁膜は、その上面の高さが少なくともゲート電極層203の上面の高さよりも高くなるように形成する。
【0281】
続いて平坦化処理を行い、絶縁膜の上層を除去して絶縁層205aを形成する。また同時に、導電膜224のゲート電極層203と重畳する部分と、絶縁層351の上層の一部を除去することにより、それぞれ電気的に分断されたソース電極層204a及びドレイン電極層204bを形成する(
図10(D))。
【0282】
当該平坦化処理は、少なくとも絶縁層351の上面が露出するように処理を行う。またここで、ゲート電極層203と重畳して絶縁層352が設けられているため、当該絶縁層352の厚さの分だけ、平坦化処理における深さ方向の許容範囲を大きくとることができる。また当該平坦化処理は、ゲート電極層203の上面が露出しないように行うことが好ましい。
【0283】
その後、絶縁層205a及びソース電極層204a及びドレイン電極層204bの露出した部分を覆い、後の絶縁層205bとなる絶縁膜(図示しない)を形成する。
【0284】
続いて、フォトリソグラフィ法を用いて絶縁膜及び絶縁層205aを選択的にエッチングし、ソース電極層204a及びドレイン電極層204bに達する開口部を形成する。
【0285】
その後、当該開口部を埋めるように、後のコンタクトプラグ302a及びコンタクトプラグ302bとなる導電膜(図示しない)を形成する。
【0286】
続いて、再度平坦化処理を行い、導電膜の上部を除去すると共に絶縁膜の上層を除去し、絶縁層205b、並びにコンタクトプラグ302a及びコンタクトプラグ302bを形成する。
【0287】
その後、絶縁層205b上に、それぞれコンタクトプラグ302a及び302bと電気的に接続するソース配線304a及びドレイン配線304bを形成する(
図10(E))。
【0288】
以上の工程により、トランジスタ350を作製することができる。
【0289】
なお、本作製工程例では、本発明の一態様の絶縁膜から酸化物半導体膜へ酸素を供給する熱処理を、ドーパントの導入後に行ったが、これに限られず、酸化物半導体膜及び絶縁膜を形成した後の段階であれば、どの段階で行ってもよい。例えば、ゲート絶縁層202にも本発明の一態様の絶縁膜を適用する場合では、酸化物半導体膜の形成後、及びゲート絶縁層202の形成後の2回に渡って熱処理を行ってもよい。
【0290】
また、酸化物半導体膜に対して脱水素化処理や加酸素化処理を行う場合には、酸化物半導体膜の形成後であればどの段階で行ってもよい。なお、脱水素化処理の後に加酸素化処理を行うことが好ましい。
【0291】
以上が本作製工程例で例示するトランジスタ350の作製工程例についての説明である。
【0292】
本実施の形態で例示したトランジスタは、酸化物半導体膜からなる半導体層と接して、本発明の一態様の絶縁膜が設けられ、またその作製工程における熱処理によって絶縁膜から酸素が供給されることにより酸素欠損が効果的に修復され、電気的特性に優れ、且つ信頼性の高いトランジスタである。また、その作製工程において、本発明の一態様の絶縁膜からの酸素供給工程にかかる熱処理の温度を、他の工程よりも高い温度とすることにより、一度供給された酸素が脱離してしまうことが抑制されるため、十分に酸素欠損が低減された酸化物半導体膜を備えるトランジスタを作製することができる。
【0293】
また本実施の形態で例示したトランジスタは、極めて微細化が可能であるため、ICやCPUなどと言った半導体回路に適用することができる。また、その極めて優れたオフ電流特性を利用し、DRAMやSRAMなどの記憶素子に応用することにより、実質的に不揮発性の記憶素子とすることもできる。
【0294】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【0295】
(実施の形態4)
本明細書に開示する半導体装置は、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、遊技機(パチンコ機、スロットマシン等)、ゲーム筐体が挙げられる。これらの電子機器の具体例を
図11及び
図12に示す。
【0296】
図11(A)は、表示部を有するテーブル9000を示している。テーブル9000は、筐体9001に表示部9003が組み込まれており、表示部9003により映像を表示することが可能である。なお、4本の脚部9002により筐体9001を支持した構成を示している。また、電力供給のための電源コード9005を筐体9001に有している。
【0297】
本発明の一態様の半導体装置は、表示部9003に用いることが可能であり、電子機器に高い信頼性を付与することができる。
【0298】
表示部9003は、タッチ入力機能を有しており、テーブル9000の表示部9003に表示された表示ボタン9004を指などで触れることで、画面操作や、情報を入力することができ、また他の家電製品との通信を可能とする、又は制御を可能とすることで、画面操作により他の家電製品をコントロールする制御装置としてもよい。
【0299】
また、筐体9001に設けられたヒンジによって、表示部9003の画面を床に対して垂直に立てることもでき、テレビジョン装置としても利用できる。狭い部屋においては、大きな画面のテレビジョン装置は設置すると自由な空間が狭くなってしまうが、テーブルに表示部が内蔵されていれば、部屋の空間を有効に利用することができる。
【0300】
図11(B)は、テレビジョン装置9100を示している。テレビジョン装置9100は、筐体9101に表示部9103が組み込まれており、表示部9103により映像を表示することが可能である。なお、ここではスタンド9105により筐体9101を支持した構成を示している。
【0301】
テレビジョン装置9100の操作は、筐体9101が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機9110により行うことができる。リモコン操作機9110が備える操作キー9109により、チャンネルや音量の操作を行うことができ、表示部9103に表示される映像を操作することができる。また、リモコン操作機9110に、当該リモコン操作機9110から出力する情報を表示する表示部9107を設ける構成としてもよい。
【0302】
図11(B)に示すテレビジョン装置9100は、受信機やモデムなどを備えている。テレビジョン装置9100は、受信機により一般のテレビ放送の受信を行うことができ、さらにモデムを介して有線又は無線による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)又は双方向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信を行うことも可能である。
【0303】
本発明の一態様の半導体装置は、表示部9103、9107をはじめ、筐体9101やリモコン操作機9110内の制御回路に用いることが可能であり、テレビジョン装置、及びリモコン操作機に高い信頼性を付与することができる。
【0304】
図11(C)はコンピュータであり、本体9201、筐体9202、表示部9203、キーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングデバイス9206等を含む。コンピュータは、本発明の一態様の半導体装置をその表示部9203、筐体9202内の集積回路や記憶装置に用いることにより作製される。先の実施の形態に示した半導体装置を利用すれば、信頼性の高いコンピュータとすることが可能となる。
【0305】
図12(A)及び
図12(B)は2つ折り可能なタブレット型端末である。
図12(A)は、開いた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、表示部9631a、表示部9631b、表示モード切り替えスイッチ9034、電源スイッチ9035、省電力モード切り替えスイッチ9036、留め具9033、操作スイッチ9038、を有する。なお、当該タブレット端末は、本発明の一態様の半導体装置を表示部9631a、表示部9631bの一方又は両方をはじめ、これらを制御する制御部に用いることにより作製される。
【0306】
表示部9631aは、一部をタッチパネルの領域9632aとすることができ、表示された操作キー9637にふれることでデータ入力をすることができる。なお、表示部9631aにおいては、一例として半分の領域が表示のみの機能を有する構成、もう半分の領域がタッチパネルの機能を有する構成を示しているが該構成に限定されない。表示部9631aの全ての領域がタッチパネルの機能を有する構成としてもよい。例えば、表示部9631aの全面をキーボードボタン表示させてタッチパネルとし、表示部9631bを表示画面として用いることができる。
【0307】
また、表示部9631bにおいても表示部9631aと同様に、表示部9631bの一部をタッチパネルの領域9632bとすることができる。また、タッチパネルのキーボード表示切り替えボタン9639が表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで表示部9631bにキーボードボタン表示することができる。
【0308】
また、タッチパネルの領域9632aとタッチパネルの領域9632bに対して同時にタッチ入力することもできる。
【0309】
また、表示モード切り替えスイッチ9034は、縦表示または横表示などの表示の向きを切り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイッチ9036は、タブレット型端末に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
【0310】
また、
図12(A)では表示部9631bと表示部9631aの表示面積が同じ例を示しているが特に限定されず、一方のサイズともう一方のサイズが異なっていてもよく、表示の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネルとしてもよい。
【0311】
図12(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池9633、充放電制御回路9634、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636を有する。なお、
図12(B)では充放電制御回路9634の一例としてバッテリー9635、DCDCコンバータ9636を有する構成について示している。
【0312】
なお、タブレット型端末は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630を閉じた状態にすることができる。従って、表示部9631a、表示部9631bを保護できるため、耐久性に優れ、長期使用の観点からも信頼性の優れたタブレット型端末を提供できる。
【0313】
また、この他にも
図12(A)及び
図12(B)に示したタブレット型端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
【0314】
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、または映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面または両面に設けることができ、バッテリー9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。なおバッテリー9635としては、リチウムイオン電池を用いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0315】
また、
図12(B)に示す充放電制御回路9634の構成、及び動作について
図12(C)にブロック図を示し説明する。
図12(C)には、太陽電池9633、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9638、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9638、スイッチSW1乃至SW3が、
図12(B)に示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
【0316】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、バッテリー9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧または降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9638で表示部9631に必要な電圧に昇圧または降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにしてバッテリー9635の充電を行う構成とすればよい。
【0317】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段によるバッテリー9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
【0318】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例1】
【0319】
本実施例では、基板上にYSZ膜及びSiO
x膜を形成し、TDS分析を行った結果を示す。
【0320】
まず、シリコンの単結晶基板上にスパッタリング法を用いてYSZ膜とSiO
x膜を形成し、3種類のサンプルを作製した。作製した各サンプルについての概要を表1に示す。
【0321】
【表1】
【0322】
YSZ膜は、ZrO
2とY
2O
3の含有比が92:8であるYSZターゲットを用い、アルゴンと酸素を流量比1:1で流しながら、圧力0.4Paで約100nmの厚さになるように成膜を行った。このとき、成膜時の基板温度を室温としたものをサンプル1、300℃に加熱して成膜したものをサンプル2とした。
【0323】
SiO
x膜は、SiO
2ターゲットを用い、アルゴンと酸素を流量比1:1で流しながら、圧力0.4Paで約300nmの厚さになるように成膜を行った。このとき、成膜時の基板温度を100℃として成膜したものをサンプル3とした。
【0324】
続いてサンプル1乃至3をそれぞれ約1cm角に切り出し、TDS分析を行った。TDS分析は、50℃から600℃の温度範囲で圧力1.2×10
−7Pa、昇温速度30℃/min.として行った。
【0325】
図13に各サンプルにおけるTDS分析の結果を示す。
図13には温度に対する酸素分子に相当する質量数32の検出強度を示している。
【0326】
サンプル1では、400℃より高い温度範囲で急激に酸素の放出量が増加し、約500℃にピークを有する。
【0327】
サンプル2では、測定温度範囲でほとんど酸素の放出がみられなかった。
【0328】
サンプル3では、200℃付近から徐々に放出量が増加し、320℃付近にピークを有するものの、その放出量は、サンプル1と比較して、その厚さが約3倍であるにも関わらず、ピーク値の値で1/9程度であった。
【0329】
以上の結果から、酸素雰囲気下のもと低温で成膜したYSZ膜からの酸素放出量が、高温で成膜したYSZ膜、及びSiO
x膜に比べて極めて高いこと、またその放出する温度が極めて高いことが分かった。
【実施例2】
【0330】
本実施例では、実施例1で作製したサンプル1及びサンプル2と、サンプル1に対してTDS分析を行った後のサンプル4について、断面観察を行った結果を示す。
【0331】
サンプル1、サンプル2は、観察に用いたサンプルはいずれも、TDS分析を行う前の時点のサンプルである。また、サンプル4は、実施例1において600℃まで昇温し、酸素が放出された後の状態のものを用いた。また、観察の前処理として各サンプルの上層にカーボン及びPtをコーティングした。
【0332】
断面観察は、STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)法を用いて行った。
【0333】
サンプル1についての断面観察結果を
図14に示す。
図14(A)は位相コントラスト像(TE像)であり、
図14(B)はZコントラスト像(ZC像)である。サンプル1のYSZ膜は完全に結晶化しておらず、部分的に非晶質の領域が形成されていることが分かった。また、膜中に空隙が多数分散して存在していることが確認できた。当該空隙の断面形状は、被成膜面に対して横長な形状であり、平行方向に1nm以上50nm以下、垂直方向に1nm以上20nm以下の様々な大きさのものが確認された。
【0334】
サンプル2についての断面観察結果を
図15に示す。
図15(A)は位相コントラスト像(TE像)であり、
図15(B)はZコントラスト像(ZC像)である。サンプル2のYSZ膜は、ほぼ完全に結晶化しており、被成膜面に対して概略垂直方向に明瞭な結晶粒界が確認できた。
【0335】
サンプル4についての断面観察結果を
図16に示す。
図16(A)は位相コントラスト像(TE像)であり、
図16(B)はZコントラスト像(ZC像)である。サンプル4のYSZ膜は、その上層はほぼ完全に結晶化しており、被成膜面に対して垂直方向に明瞭な結晶粒界が確認できた。また、被成膜面に近い下層の領域は完全に結晶化していない非晶質領域が存在し、またサンプル1に比べてサイズの大きな、横長な形状の空隙が該領域に集中して存在していることが確認できた。
【0336】
以上の結果から、酸素雰囲気下のもと低温で成膜したYSZ膜には、非晶質で低密度な領域が形成されていること、及び膜中に空隙が多数形成されていることが確認できた。またこのYSZ膜に対して加熱処理を行い、酸素放出が成された後では、表面に近い上層は結晶化が進行し、また下層に非晶質な領域及び空隙が集中して残存していることが確認できた。
【0337】
また、酸素雰囲気下のもと低温で成膜したYSZ膜では酸素放出前と比較して酸素放出後では結晶領域が広がっていること、及び、結晶性の極めて高いYSZ膜では酸素放出がほとんどみられないことから、酸素放出が成される以前の非晶質な領域には、化学量論的組成を越えた過剰な酸素が含有していることが分かった。
【実施例3】
【0338】
本実施例では、YSZ膜に対して、膜密度を測定した結果について説明する。
【0339】
膜密度の測定は上記サンプル1、サンプル2、及び新たに作製したサンプル5の、3サンプルについて行った。なお、サンプル1及びサンプル2はいずれも、TDS分析を行う前の時点のものである。
【0340】
サンプル5としては、上記サンプル1と同様の条件でSi基板上にYSZ膜を形成し、その後、窒素雰囲気下、550℃で160分保持するように加熱処理を行ったものを用いた。
【0341】
続いて、サンプル1、サンプル2、及びサンプル5について、X線反射率法(XRR:X−ray Reflectometry)を用いて、膜密度を測定した。膜密度は測定された反射率の入射角に対するプロファイルに対して、各種パラメータを最適化してフィッティングを行うことにより算出した。ここで、膜密度の値として、YSZ膜の表面及び下層との界面を除いた領域における値を膜密度とした。測定された膜密度の結果を表2に示す。
【0342】
【表2】
【0343】
膜密度は、高温で成膜されたサンプル2よりも、低温で成膜されたサンプル1の方が小さいことが確認された。また、加熱処理を行い、酸素放出が成された後の状態であるサンプル5は、サンプル2に比べて低密度であるものの、サンプル1に比べて若干膜密度が大きくなっている。これは、実施例1及び実施例2の結果を考慮すると、加熱処理により結晶化が進行したこと、また膜中に含まれる過剰酸素が膜外に放出されたことに起因して、その密度が増大したと推察できる。
【0344】
以上の結果から、酸素雰囲気下のもと低温で成膜したYSZ膜は、高温で成膜したYSZ膜に比べ、低密度な膜であることが確認できた。また、これを加熱して酸素が放出された状態でも、高温で成膜し完全結晶化したYSZ膜に比べて低密度な状態であることが確認できた。