(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1方式は、MUSIC(Multiple signal classification)方式であり、前記第2方式は、該MUSIC方式以外の到来方向推定方式であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の到来方向推定装置。
前記第2方式は、前記第1方式で用いるモードベクトルを、前記到来波のモードベクトルを微分したベクトルに置き替えて前記到来波の到来方向を推定する方式であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の到来方向推定装置。
前記第1方式または前記第2方式により推定された到来方向の角度範囲に基づいて、GAM−MUSIC(Generalized array manifold-MUSIC)方式の走査範囲を決定する到来方向限定部と、
前記走査範囲に対してGAM−MUSIC方式を用いて前記到来波の到来方向を推定する到来方向推定部と、を具備することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の到来方向推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本開示の一実施形態に係る到来方向推定装置および方法について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行なうものとして、重ねての説明を省略する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る到来方向推定装置について
図1のブロック図を参照して説明する。
第1の実施形態にかかる到来方向推定装置100は、アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、特徴量計算部105、推定方式切替部106、第1到来方向推定部107および第2到来方向推定部108を含む。
【0009】
アンテナ101は、複数のアンテナ素子により形成され、複数のアンテナ素子が到来波を受信して受信信号を得る。本実施形態では、アンテナ101がK個(Kは2以上の自然数)のアンテナ素子を含む場合を想定する。アンテナ101の形状は一般的なアレー形状であるので、ここでの説明は省略する。
行列計算部102は、アンテナ101から受信信号を受け取り、受信信号を用いて相関行列を計算する。
【0010】
固有値分解部103は、行列計算部102から相関行列を受け取り、相関行列を固有値分解して、固有値と固有値に対応する固有ベクトルとを得る。
波数推定部104は、固有値分解部103から固有値および固有ベクトルを受け取り、固有値に基づいて、受信信号に含まれる到来波の数である到来波数を推定する。
特徴量計算部105は、波数推定部104から到来波数および固有ベクトルを受け取り、到来波ごとに、到来波の第1特徴量を計算する。第1特徴量は、ベクトルの各要素のばらつきを示す値であり、本実施形態では、固有ベクトルの各要素のばらつきを示す値を第1特徴量(以下、ベクトル特徴量という)とする。なお、特徴量計算部105は、波数推定部104ではなく固有値分解部103から固有ベクトルを受け取るようにしてもよい。
【0011】
推定方式切替部106は、特徴量計算部105からベクトル特徴量を受け取り、ベクトル特徴量が閾値以下であるかどうかを判定する。ベクトル特徴量が閾値以下である場合は、第1到来方向推定部107に演算させるための演算指示を生成する。ベクトル特徴量が閾値よりも大きい場合は、第2到来方向推定部108に演算させるための演算指示を生成する。
第1到来方向推定部107は、推定方式切替部106から演算指示を受け取り、第1到来方向推定方式を用いて到来波の到来方向を推定する。
第2到来方向推定部108は、推定方式切替部106から演算指示を受け取り、第1到来方向推定方式よりも演算量は多いが、第1到来方向推定方式以上の到来方向の推定精度を有する第2到来方向推定方式を用いて到来波の到来方向を推定する。
【0012】
なお、本実施形態では、第1到来方向推定方式にMUSIC方式を、MUSIC方式からの切り替え対象である第2到来方向推定方式にGAM−MUSIC方式を、さらに第3の実施形態以降で後述する第3到来方向推定方式として偏微分モードベクトルMUSIC方式をそれぞれ用いるが、これらの方式に対し、その他の方式を用いても構わない。
例えば、ビームフォーマ方式やCAPON方式を用いても構わない。一般的に、MUSIC方式はビームフォーマ方式やCAPON方式よりも優れた性能を示すが、電力が高い場合には、ビームフォーマ方式やCAPON方式では到来波に含まれる素波の角度広がりの悪影響がMUSIC方式ほど影響しない場合もある。ビームフォーマ方式やCAPON方式はMUSIC方式よりも演算量の低い方式であるので、これらを用いて性能を向上させられる場合は、これらの方式を用いればよい。
【0013】
次に、直接波および散乱波の一例について
図2の概念図を参照して説明する。
図2は、送信機201からの信号を、受信機の等間隔円形アレーアンテナ202で受信する例を示す。
図2(a)は、信号から直接波が受信機に到来している状態であり、
図2(b)は、散乱体により信号が散乱して受信機に到来している状態である。
MUSIC方式では、モードベクトルとチャネル応答ベクトルとが一致する角度を推定することにより、到来方向の推定を行なう。
【0014】
図2(a)に示す通信環境における到来波のモードベクトルは、式(1)で表せる。
【数1】
【0015】
式(1)中のλは波長を表し、rは等間隔円形アレーアンテナ202の半径を表す。また、Tは転置を表す。
【0016】
一方、
図2(b)に示すように、散乱体203、204および205に囲まれた送信機201の状況で送信された信号は、散乱体203、204および205と衝突することにより散乱波となる。この散乱波を受信する際の到来波のモードベクトルは、テイラーの一次近似を用いて式(2)で表せる。なお、
図2(b)の状況の場合、散乱波が到来角度に対し狭い角度広がりを有して多数到来する構成となるが、全散乱波をまとめた1つのモードベクトルで表す。
【数2】
【0017】
式(2)中、Mは散乱波数、c
pは到来波に含まれる素波の振幅、e
jψpは素波の位相である。また、Δθ
p206は仰角方向の中心角度であるθ0 207からの角度広がりに相当し、Δφ
p208は
図2の方位角方向の中心角度であるφ0 209からの角度広がりに相当する。
【0018】
次に、第1の実施形態に係る到来方向推定装置の動作について
図3のフローチャートを参照して説明する。
ステップS301では、行列計算部102が、受信信号を用いて受信相関行列を計算する。具体的に、受信信号をy(t)=As(t)とすると、受信相関行列はRxx=E[yy
H]で表せる。ここで、Aは各到来波のモードベクトルを列に並べた行列であり、s(t)は時間tの各信号成分を要素に持つベクトルである。i番目のモードベクトルをa
iとした場合、N信号到来時にはA=[a
1,a
2,…,a
N]となる。また、E[・]はアンサンブル平均であり、Hは共役転置を表す。
【0019】
ステップS302では、固有値分解部103が、受信相関行列Rxxを固有値分解し、算出した固有値と固有ベクトルとを降順にソートしてRxx=EΛE
Hを得る。なお、Λは降順にソートした固有値を対角成分に並べた対角行列であり、Eは固有値に対応する固有ベクトルを列に並べた行列である。
ステップS303では、波数推定部104が、固有値分解部103で計算した固有値を用いて到来波数Nの推定を行なう。到来波数推定はAIC(Akaike Information Criteria)法やMDL(Minimun Description Length)法など一般的な手法を用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0020】
ステップS304では、特徴量計算部105が、受信相関行列から固有ベクトルを計算する。受信相関行列は、到来波数が決定された後は、Rxx=EsΛsEs
H+EnΛnEn
Hの形式で表すことができる。Λsは第1から第N個の固有値を対角成分に並べた対角行列であり、EsはΛsに対応する固有ベクトルを列に並べた行列である。Λnは第N+1から第K個の固有値を対角成分に並べた対角行列であり、EnはΛnに対応する固有ベクトルを列に並べた行列である。すなわち、特徴量計算部105は、受信相関行列Rxx=EsΛsEs
H+EnΛnEn
Hから、到来波ごとの固有ベクトルを計算することができる。
【0021】
ステップS305では、特徴量計算部105が、到来波ごとに、固有ベクトルの行列Esに基づいて各列のベクトル特徴量を計算する。一例として、固有ベクトルの行列Esの振幅(以下、固有ベクトル振幅という)の各要素の分散値をベクトル特徴量として用いることとする。なお、ベクトル特徴量は、固有ベクトル振幅の分散値に限定するものではなく、例えば、固有ベクトル振幅の要素中の最大値と最小値との差を用いてもよい。さらに、固有ベクトル振幅の各要素の標準偏差をベクトル特徴量として用いてもよい。すなわち、固有ベクトル振幅の各要素が一定値を取らずに、ばらついて分布することを識別可能な値であればベクトル特徴量として用いてもよい。
i番目の信号における固有ベクトル振幅の分散値var
iは、式(3)により算出することができる。
【数3】
【0022】
なお、e
ikは、i番目の信号の固有ベクトルのk番目の要素であり、e
im=1/KΣ|e
ik|である。
さらに、アンテナ形状が円形の場合のi番目の信号の固有ベクトルは式(4)のように表せる。
【数4】
【0023】
ステップS306では、推定方式切替部106が、ベクトル特徴量が所定の閾値以下であるかどうかを判定する。ベクトル特徴量が閾値以下である場合、ステップS307に進み、ベクトル特徴量が閾値以下でない場合、すなわちベクトル特徴量の値が閾値よりも大きい場合、ステップS308に進む。なお、閾値は、到来方向推定装置を用いるシステムの設計に合わせて設定されればよい。また、ベクトル特徴量の設定方法によっては、固有ベクトル振幅がばらついているほどベクトル特徴量が小さくなる場合がある。この場合には、以上の操作の逆、すなわちベクトル特徴量が閾値以上である場合にステップS307に進み、ベクトル特徴量が閾値よりも小さい場合、ステップS308に進む。
ここで、第1の到来方向推定部107で用いられるMUSIC方式の評価関数を式(5)に示す。
【数5】
【0024】
MUSIC方式では、式(5)におけるθとφとを設定した振り幅ずつ変化させ、高いピークが生じる角度を到来方向として推定する。MUSIC方式で到来方向に高いピークが生じるのは、到来方向のモードベクトルと固有ベクトルEnとの内積が0に近づくためである。散乱体により角度広がりを有する
図2(b)の状況で、モードベクトルが式(2)で表される場合、角度広がりやc
pおよびe
jψpの状況によっては、固有ベクトルEnと式(1)の内積は0に近づかなくなる。このため、MUSIC方式の性能が低下する。到来方向のモードベクトルはEsの各固有ベクトルから等価的に求めることが可能であるので、ベクトル特徴量に基づいてMUSIC方式の性能が低下する環境を判定することができる。
【0025】
ステップS307では、推定方式切替部106が、到来方向推定方式としてMUSIC方式の推定アルゴリズムを用いるため、演算指示を生成し、第1到来方向推定部107に演算指示を送る。
ステップS308では、推定方式切替部106が、到来方向推定方式としてGAM−MUSIC方式の推定アルゴリズムを用いるため、演算指示を生成し、第2到来方向推定部108に演算指示を送る。
ステップS309では、推定方式切替部106から演算指示を受け取った第1到来方向推定部107または第2到来方向推定部108が、それぞれの推定方式を用いて到来波の到来方向を推定する。以上で第1の実施形態に係る到来方向推定装置100の動作を終了する。
【0026】
なお、以上に示した処理の流れは一例であり、各ステップの一部の順序が入れ替わってもよい。例えば、固有値を用いずに到来波数を推定する場合、固有値を計算する前に到来波数を推定してもよい。あるいは、固有ベクトルは固有値を算出する際に計算しても良い。
【0027】
次に、MUSIC方式における固有ベクトル振幅と到来方向推定の精度との関係について
図4を参照して説明する。
図4に示すグラフは、縦軸が固有ベクトル振幅を示し、横軸がアンテナ素子の素子番号を示す。グラフ401は、MUSIC方式の推定精度が良好な場合のグラフである。この場合、式(4)に示すVとZとの関係がV>>Zとなるため、固有ベクトル振幅は一定値Vとなり分散値が小さくなる。
一方、グラフ402は、MUSIC方式の推定精度が低下する場合のグラフである。この場合、式(4)に示すVとZとの関係がV<<Zとなり、固有ベクトル振幅は素子ごとに正弦関数に従い変化するため固有ベクトル振幅の分散値が大きくなる。
【0028】
なお、ここでは一例として、11個の素子の等間隔円形アレーにおける例を示すが、アンテナ素子数と形状ともに任意でもよい。アンテナ形状が円形でない場合、素子ごとの固有ベクトル振幅の変動は正弦波でなく、単調増加関数または単調減少関数となるが、固有ベクトル振幅の分散値とMUSIC方式の性能との関係は、等間隔円形アレーにおける関係と変わらない。
【0029】
以上に示した第1の実施形態によれば、ベクトル特徴量が閾値よりも大きい場合、到来方向推定方式をMUSIC方式よりも演算量が多いが推定精度が高いGAM−MUSIC方式に切り替えることで、推定精度が劣化した場合にのみ演算量は多いが推定精度が高いGAM−MUSIC方法を用いることができるので、推定精度を維持しつつ演算量を低減することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
到来方向推定方式としてMUSIC方式を用いる場合、MUSIC方式の性能が劣化していないにもかかわらず、ベクトル特徴量が大きくなる、すなわち固有ベクトル振幅の分散値が大きくなる場合がある。この場合、第1の実施形態では、ベクトル特徴量が閾値よりも大きい場合にGAM−MUSIC方式に切り替えるため、MUSIC方式の性能が劣化していない場合でも演算量の多い到来方向推定方式に切り替わってしまう可能性がある。
そこで第2の実施形態では、周期性を表す第2特徴量を用いることで、MUSIC方式の性能が良好な状況を高性能に識別することができる。
【0031】
MUSIC方式の性能が劣化せずに固有ベクトル振幅の分散値が大きくなる場合の一例について
図5を参照して説明する。
図5は、MUSIC方式の性能の良好な状態で2つの到来波を受信する例を示す。
図5(a)は、MUSIC方式における仰角方向および方位角方向の2つのビームである、信号1および信号2の強度を示す。
図5(b)は、信号1を受信した際のアンテナ素子ごとの固有ベクトル振幅を示し、
図5(c)は、信号2を受信した際のアンテナ素子ごとの固有ベクトル振幅を示す。
本来であれば、
図5(a)に示すように、信号1および信号2ともに鋭いピークが立っていて精度良く推定できている、すなわち式(4)においてV>>Zの状態なので、固有ベクトル振幅は一定値となると想定される。
【0032】
しかし、信号間の電力差およびモードベクトルの内積によっては、各固有ベクトルに各信号のモードベクトル成分が混ざり合い、グラフ501およびグラフ502のように、素子ごとに固有ベクトル振幅が変動する場合がありえる。このような場合に、GAM−MUSIC方式を用いて到来方向推定が行われると、単に演算量の増加を招くこととなる。
第2の実施形態に係る到来方向推定装置について
図6のブロック図を参照して説明する。
第2の実施形態に係る到来方向推定装置600は、アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、第1到来方向推定部107、第2到来方向推定部108、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、推定方式第2切替部603、信号分離部604および特徴量計算部605を含む。なお、推定方式第1切替部601および推定方式第2切替部603を合わせて推定方式切替部とも呼ぶ。
【0033】
アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、特徴量計算部105、第1到来方向推定部107および第2到来方向推定部108については、第1の実施形態と同様の動作を行なうので、ここでの説明を省略する。
【0034】
推定方式第1切替部601は、特徴量計算部605からベクトル特徴量を受け取り、ベクトル特徴量が閾値以下であるかどうかを判定する。ベクトル特徴量が閾値以下である場合は、第1到来方向推定部107に演算させるための演算指示を生成する。ベクトル特徴量が閾値よりも大きい場合は、周期性算出部602に演算させるための演算指示を生成する。
【0035】
周期性算出部602は、推定方式第1切替部601から演算指示を受け取り、到来波ごとに、第2特徴量を算出する。第2特徴量は、到来波の固有ベクトル振幅の各要素が、周期性を有して変動しているかどうかを識別するための、固有ベクトルの要素の周期性を表す値であり、以下では周期特徴量という。周期特徴量の算出方法としては、例えば、固有ベクトル振幅にフーリエ変換を施し固有ベクトル振幅スペクトルを生成した後、その固有ベクトル振幅スペクトルの値を周期特徴量とすればよい。
【0036】
推定方式第2切替部603は、周期性算出部602から周期特徴量を受け取り、周期特徴量が閾値以下であるかどうかを判定する。周期特徴量が閾値よりも大きい場合は、第2到来方向推定部108への演算指示を生成する。周期特徴量が閾値以下の場合は、信号分離部604への演算指示を生成する。
【0037】
信号分離部604は、推定方式第2切替部603から演算指示を受け取った場合、ブラインド信号分離処理を行ない、到来波のモードベクトルを推定する。信号分離処理は例えばICA(Independent component analysis)を用いればよいが、信号の性質上その他の信号分離手段の方が高い分離性能を実現できる場合は、ICA以外の方式を用いてもよい。なお、信号分離部604は、図示しないが行列計算部102から相関行列を受け取って、相関行列に基づいて信号分離処理を行なってもよい。
【0038】
特徴量計算部605は、波数推定部104から到来波数および固有ベクトルを、信号分離部604から推定されたモードベクトルをそれぞれ受け取り、推定されたモードベクトルの振幅の分散値を計算し、ベクトル特徴量を生成する。
【0039】
次に、周期性算出部602における周期特徴量の算出方法の一例に
図7を参照して説明する。
図7(a)および
図7(c)はMUSIC方式の性能が低い場合の固有ベクトル振幅と固有ベクトル振幅スペクトルとの関連性を示し、
図7(b)および
図7(d)はMUSIC方式の性能が高い場合の固有ベクトル振幅と固有ベクトル振幅のスペクトルとの関連性を示す。
【0040】
図7(a)に示すグラフ701は、式(4)においてV<<Zとなるため、MUSIC方式の性能が低下し、固有ベクトル振幅の分散値が大きくなる例である。
一方、
図7(b)に示すグラフ702は、式(4)においてV>>ZとなるのでMUSIC方式の性能は良好だが、他の信号の影響を受けて固有ベクトル振幅の変動が大きい例である。
MUSIC方式の性能が低下する場合は、固有ベクトル振幅はアンテナ素子に対し周期的に変動するが、MUSIC方式の性能が低下しない場合は、固有ベクトル振幅は周期的な変動は生じない。
【0041】
図7(c)は、
図7(a)の固有ベクトル振幅にフーリエ変換処理を施した図であり、
図7(d)は、
図7(b)の固有ベクトル振幅にフーリエ変換処理を施した図である。
図7(c)に示すように、MUSIC方式の性能が低下する場合には、固有ベクトル振幅のスペクトルにおける中心周波数の両側の周波数の値が高くなる。一方、
図7(d)に示すように、MUSIC方式の性能が低下しない場合は、固有ベクトル振幅のスペクトルにおいて、中心周波数を除いて特定の周波数に高い値が発生しない。
よって、例えば、中心周波数の両側の周波数の固有ベクトル振幅のスペクトル値の和と中心周波数とその両側の周波数の値を除いた固有ベクトル振幅のスペクトル値の和との差分を周期特徴量として用いればよい。この値が大きいほど、その固有ベクトル振幅は周期性を有する可能性が高いので、MUSIC方式の性能が低下する環境に近いことが推測できる。
【0042】
なお、この周期特徴量は一例であって、例えば、固有ベクトル振幅のスペクトルの中心周波数の両側の値の和のみを用いるなど、周期性を識別可能ならばどのような特徴量を用いてもよい。なお、固有ベクトル振幅の周期性を識別可能ならば、フーリエ変換以外の手段を用いてもよい。例えば、アレーの形状が円形でない場合は、固有ベクトル振幅は線形的に変動するため、単回帰分析を用いて固有ベクトル振幅の直線の傾きを推定後、その傾き係数を周期特徴量として用いればよい。
【0043】
次に、第2の実施形態に係る到来方向推定装置600の動作について
図8のフローチャートを参照して説明する。
なお、
図8は、
図3に示すステップS301からステップS304までは同様の処理であるので、固有ベクトルの計算以降の処理を説明する。
【0044】
ステップS801では、特徴量計算部605が、固有ベクトルに基づいてベクトル特徴量を計算する。
ステップS802では、推定方式第1切替部601が、ベクトル特徴量が閾値以下であるかどうかを判定する。ベクトル特徴量が閾値以下である場合、ステップS803に進み、ベクトル特徴量が閾値よりも大きい場合、ステップS804に進む。
【0045】
ステップS803では、推定方式第1切替部601が、第1到来方向推定方式としてMUSIC方式の推定アルゴリズムを用いるため、演算指示を生成し、第1到来方向推定部107に演算指示を送る。
ステップS804では、周期性算出部602が、固有ベクトルの周期特徴量を算出する。
ステップS805では、推定方式第2切替部603が、周期特徴量が閾値よりも大きいかどうかを判定する。周期特徴量が閾値よりも大きい場合は、ステップS806に進み、周期特徴量が閾値以下である場合は、ステップS807に進む。
【0046】
ステップS806では、推定方式第2切替部603が、第2到来方向推定方式としてGAM−MUSIC方式の推定アルゴリズムを用いるため、演算指示を生成し、第2到来方向推定部108に演算指示を送る。
ステップS807では、信号分離部604が、信号分離処理を行い、各到来波のモードベクトルを推定する。その後ステップS801へ戻り、推定されたモードベクトルを用いて同様の処理を繰り返す。すなわち、ステップS801では、特徴量計算部605が、推定されたモードベクトルに基づいてベクトル特徴量を計算すればよい。
ステップS808では、推定方式切替部106から演算指示を受け取った第1到来方向推定部107または第2到来方向推定部108が、それぞれの推定方式を用いて到来波の到来方向を推定する。以上で第2の実施形態に係る到来方向推定装置600の動作を終了する。
【0047】
以上に示した第2の実施形態によれば、MUSIC方式の性能の低下する環境の識別が第1の実施形態よりも正確に行えるため、MUSIC方式の性能が高い場合に演算量が多いGAM−MUSIC方式へ切り替えられる回数を低減することができる。したがって、より低演算量で到来方向推定の性能を向上させることができる。
【0048】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、方位角方向および仰角方向の角度広がりを考慮し、MUSIC方式と同程度の演算量で性能が低下しない到来方向推定の推定アルゴリズムを用いることにより、MUSIC方式の性能が低下する場合に、推定精度を維持しつつGAM−MUSIC方式よりも演算量を低減する。
【0049】
第3の実施形態に係る到来方向推定装置について
図9のブロック図を参照して説明する。
第3の実施形態に係る到来方向推定装置900は、アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、第1到来方向推定部107、第2到来方向推定部108、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、信号分離部604、特徴量計算部605、推定方式第2切替部901および第3到来方向推定部902を含む。
【0050】
アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、特徴量計算部105、第1到来方向推定部107、第2到来方向推定部108、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、信号分離部604および特徴量計算部605については、上述の実施形態と同様の動作を行なうので、ここでの説明を省略する。
【0051】
推定方式第2切替部901は、周期性算出部602から周期特徴量を受け取り、周期特徴量を2つの閾値aおよび閾値bと比較する。ここで、閾値aおよび閾値bの両方とも実数であり、閾値a>閾値bとする。推定方式第2切替部901は、周期特徴量が閾値aよりも大きい場合、第3到来方向推定部902への演算指示を生成し、周期特徴量が閾値a以下でありかつ閾値bよりも大きい場合、第2到来方向推定部108への演算指示を生成し、閾値b以下である場合、信号分離部604への演算指示を生成する。
【0052】
第3到来方向推定部902は、推定方式第2切替部901から演算指示を受け取り、偏微分モードベクトルMUSIC方式を用いて受信信号の到来方向を推定する。偏微分モードベクトルは、モードベクトルを偏微分した値をMUSIC方式に用いる方式である。
【0053】
次に、偏微分モードベクトルMUSIC方式が適用される一例について
図10を参照して説明する。
図10は、1つの到来波について、(a)から(c)の伝搬環境に対し、式(6)から式(8)をMUSIC方式に適用した場合のビーム強度を示す。
【0054】
MUSIC性能が低下するのは、角度広がりの増加や、到来波の素波の位相が逆相に近づくことで、上述の式(2)の第2項目以降の値が大きくなるためである。この場合、式(1)のモードベクトルと雑音部分空間行列Enとの直交性は崩れ、式(2)の第2項目と第3項目を足したベクトルとEnが直交することとなる。以上の特性を利用し、式(2)の第2項目のモードベクトルa(θ,φ)をθおよびφで偏微分したベクトルを式(5)のa(θ,φ)に代入する。ここで、Enと完全に直交するベクトルを求めるには、素波の位相や振幅、角度広がりの項(式(2)のe
jψp、c
p、Δθ
p、Δφ
pの項)も考慮すべきであるが、演算量が増大するのでこれらの項は無視している。
【0055】
偏微分したモードベクトルa(θ,φ)を代入した式(5)を2次元アレーに拡張する場合、式(5)のa(θ,φ)に代入するベクトルa
s(θ,φ)は、式(6)、式(7)および式(8)の3つである。
【数6】
【0056】
MUSIC方式のモードベクトルを式(6)から式(8)までのベクトルに置き換えて、到来波の到来方向を推定する方式を偏微分モードベクトルMUSIC方式と呼ぶ。
【0057】
図10に示すように、式(6)、式(7)および式(8)のベクトルを用いる場合の推定性能は、伝搬環境によって性能が変動する。仰角方向の角度広がりが大きく、方位角方向の角度広がりが小さい伝搬環境では、式(6)が適しており、他の式(7)および式(8)と比較して所望波1001の推定精度が高いことがわかる。反対に、仰角方向の角度広がりが小さく、方位角方向の角度広がりが大きい伝搬環境では、式(7)が適しており、所望波1002の推定精度は他の式に比べて式(7)が最も高くなる。仰角方向と方位角方向との角度広がりが同等の環境では、式(8)が適しており、所望波1003の推定精度は他の式に比べて式(8)が最も高くなる。
【0058】
なお、式(6)から式(8)までのうち、どのベクトルを用いるかは、到来方向推定装置を利用する環境でどの状況が発生しやすいかをユーザの指示により決定すればよい。
このように、偏微分モードベクトルMUSIC方式を用いることで、MUSIC性能が低下する環境においてMUSIC方式と同等の演算量で高い性能を実現できる。
【0059】
また、式(4)においてV≒Zという環境に対しては、式(2)において第1項目成分と第2項目以降の成分との双方が混合された状態であるので、MUSIC性能と偏微分モードベクトルMUSIC性能の双方共に満たすべき性能に達しない可能性がある。そのため、このような場合の推定方式としては、GAM−MUSIC方式を用いればよい。
【0060】
次に、第3の実施形態に係る到来方向推定装置の動作について
図11のフローチャートを参照して説明する。
なお、
図8に示すステップS803までは同様の処理であるので、それ以降の処理を以下に説明する。
【0061】
ステップS1101では、周期性算出部602が、固有ベクトルの振幅から周期特徴量を算出する。
ステップS1102では、推定方式第2切替部901が、周期特徴量が閾値aよりも大きいかどうかを判定する。周期特徴量が閾値aよりも大きい場合は、ステップS1103に進み、周期特徴量が閾値a以下である場合は、ステップS1104に進む。
ステップS1103では、推定方式第2切替部901が、到来方向推定方式として偏微分モードベクトルMUSIC方式を用いるため、演算指示を生成し、第3到来方向推定部902に演算指示を送る。
【0062】
ステップS1104では、推定方式第2切替部901が、周期特徴量が閾値a以下でありかつ閾値bよりも大きいかどうかを判定する。周期特徴量が閾値a以下でありかつ閾値bよりも大きい場合、ステップS1105に進み、周期特徴量が閾値b以下である場合、ステップS1106に進む。
ステップS1105では、推定方式第2切替部901が、到来方向推定方式としてGAM−MUSIC方式を用いるため、演算指示を生成し、第2到来方向推定部108に演算指示を送る。
ステップS1106では、信号分離部604が、信号分離処理を行い、各到来波のモードベクトルを推定し、ステップS1101に戻って同様の処理を繰り返す。
【0063】
ステップS1107では、演算指示を受け取った第1到来方向推定部107、第2到来方向推定部108および第3到来方向推定部902のいずれかが、それぞれの推定方式を用いて受信信号の到来方向を推定する。以上で第3の実施形態に係る到来方向推定装置900の動作を終了する。
なお、第1の実施形態に適用する場合は、ベクトル特徴量に2つの閾値を設定し、同様の処理を行えばよい。
【0064】
以上に示した第3の実施形態によれば、MUSIC方式と同程度の演算量で性能が低下しない推定アルゴリズムを適用するため、GAM−MUSIC方式を適用する場合と比較して演算量を低減しつつ、MUSIC方式の性能低下を回避することができる。
【0065】
(第4の実施形態)
到来方向推定装置を利用する環境によっては、仰角と方位角の角度広がりがランダムに変化し、仰角と方位角との角度広がりの差が不明なため、第3の実施形態における3つの偏微分モードベクトル(式(6)から式(8))のどのベクトルを用いるべきかを事前に判定できない場合がある。第4の実施形態では、式(6)から式(8)までの全てのベクトルを用いる点が異なる。
【0066】
第4の実施形態に係る到来方向推定装置について
図12のブロック図を参照して説明する。
第4の実施形態に係る到来方向推定装置1200は、アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、第1到来方向推定部107、第2到来方向推定部108、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、信号分離部604、特徴量計算部605、推定方式第2切替部901、第3到来方向推定部1201を含む。
第3到来方向推定部1201は、第1ビーム計算部1202、第2ビーム計算部1203、第3ビーム計算部1204および到来方向選択部1205を含む。
【0067】
アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、第1到来方向推定部107、第2到来方向推定部108、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、信号分離部604、特徴量計算部605および推定方式第2切替部901については、上述の実施形態と同様の動作を行なうのでここでの説明を省略する。
【0068】
第1ビーム計算部1202は、推定方式第2切替部901から第3到来方向推定部1201に演算指示が入力されたあと、仰角方向で偏微分したベクトルを用いて到来方向を推定する。すなわち、式(6)に示すモードベクトルを用いて、偏微分モードベクトルMUSIC方式の処理を行なう。
【0069】
第2ビーム計算部1203は、推定方式第2切替部901から第3到来方向推定部1201に演算指示が入力されたあと、方位角方向で偏微分したベクトルを用いて到来方向を推定する。すなわち、式(7)に示すモードベクトルを用いて、偏微分モードベクトルMUSIC方式の処理を行なう。
【0070】
第3ビーム計算部1204は、推定方式第2切替部901から第3到来方向推定部1201に演算指示が入力されたあと、仰角方向および方位角方向でそれぞれ偏微分したベクトルを用いて到来方向を推定する。すなわち、式(8)に示すモードベクトルを用いて、偏微分モードベクトルMUSIC方式の処理を行なう。
【0071】
到来方向選択部1205は、第1ビーム計算部1202、第2ビーム計算部1203および第3ビーム計算部1204から計算結果を受け取り、周期特徴量が閾値よりも大きいベクトルの数だけ、ビーム入力値の高い順にビームを選択して、選択したビームの到来方向を得る。
【0072】
なお、第3の実施形態に係る到来方向推定装置900および第4の実施形態にかかる到来方向推定装置1200は、周期特徴量に2段階の閾値を設定し、3つの到来方向推定方式を用いる場合を想定するが、2段階の閾値を設定せず、MUSIC方式と偏微分モードベクトルMUSIC方式との2方式のみの切り替えに適用してもよい。
【0073】
以上に示した第4の実施形態によれば、到来波の仰角と方位角の角度広がりがランダムに変化する場合でも、MUSIC方式の性能低下を回避しつつ演算量を低減することができる。
【0074】
(第5の実施形態)
第3の実施形態および第4の実施形態で示した、偏微分モードベクトルMUSIC方式は、式(2)におけるΔθ
pとΔφ
pの項を考慮しない構成であるため、GAM−MUSIC方式と比較すると到来方向推定の推定誤差が大きくなる。第5の実施形態では、走査範囲を限定してGAM−MUSIC方式により到来方向を推定することで、到来方向推定の性能低下を回避しつつ演算量を低減することができる。
【0075】
第5の実施形態にかかる到来方向推定装置について
図13を参照して説明する。
第5の実施形態に係る到来方向推定装置1300は、アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、第1到来方向推定部107、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、信号分離部604、特徴量計算部605、推定方式第2切替部901、第3到来方向推定部1301、到来方向限定部1302および第2到来方向推定部1303を含む。
【0076】
アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、第1到来方向推定部107、推定方式第1切替部601、周期性算出部602、信号分離部604、特徴量計算部605および推定方式第2切替部901については、上述の実施形態と同様の動作を行なうのでここでの説明を省略する。
【0077】
第3到来方向推定部1301は、推定方式第2切替部901から演算指示を受け取り、偏微分モードベクトルMUSIC方式を用いて到来方向を推定し、到来角度を得る。
到来方向限定部1302は、第3到来方向推定部1301から推定角度を受け取り、推定角度に基づいてGAM−MUSIC方式の走査範囲を決定する。走査範囲の決定方法としては、例えば、推定される到来方向にビームを向けた際にメインビームが3dB落ちする角度(半値幅)を走査範囲とすればよい。また、到来仰角方向が変化すると半値幅も変化するので、仰角に応じた半値幅をテーブルとして保持しておき、入力された到来仰角に応じてテーブルから半値幅を選択してもよい。
第2到来方向推定部1303は、到来方向限定部1302から走査範囲を受け取り、走査範囲のみに対してGAM−MUSIC方式による到来方向推定を行なう。
【0078】
以上に示した第5の実施形態によれば、走査範囲を限定した上でGAM−MUSIC方式により到来方向を推定することで、到来方向推定の性能低下を回避しつつ演算量を低減することができる。
【0079】
(第6の実施形態)
第6の実施形態では、ベクトル特徴量および周期特徴量を用いずに、到来方向推定を行なう点が異なる。
【0080】
第6の実施形態に係る到来方向推定装置について
図14のブロック図を参照して説明する。
第6の実施形態に係る到来方向推定装置1400は、アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、到来方向限定部1302、第2到来方向推定部1303および第4到来方向推定部1401を含む。
第4到来方向推定部1401は、第1方式ビーム計算部1402、第2方式ビーム計算部1403および到来方向選択部1404を含む。
【0081】
アンテナ101、行列計算部102、固有値分解部103、波数推定部104、到来方向限定部1302および第2到来方向推定部1303については、上述の実施形態と同様の動作を行なうのでここでの説明を省略する。
【0082】
第1方式ビーム計算部1402は、波数推定部104から到来波数を受け取り、MUSIC方式によりビーム値を計算する。
第2方式ビーム計算部1403は、波数推定部104から到来波数を受け取り、偏微分モードベクトルMUSIC方式によりビーム値を計算する。
到来方向選択部1404は、第1方式ビーム計算部1402および第2方式ビーム計算部1403からビーム値を受け取り、MUSIC方式と偏微分モードベクトル方式とにより計算されたビームの中で高いビームピークを有するビームを、ピークが高い順に上から到来波数分選択する。到来方向選択部1404は、選択したビームの到来方向を得る。
なお、第6の実施形態において、第2到来方向推定部1303における到来方向推定処理を行わず、到来方向選択部1404からの出力を推定された到来方向として出力してもよい。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。