特許第6054184号(P6054184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6054184アーク溶接用電源装置及びアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054184
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】アーク溶接用電源装置及びアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20161219BHJP
   H02M 9/00 20060101ALI20161219BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20161219BHJP
【FI】
   B23K9/073 510
   H02M9/00 B
   H02M7/48 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-8608(P2013-8608)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-138948(P2014-138948A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2015年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】恵良 哲生
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−263813(JP,A)
【文献】 特開平03−094977(JP,A)
【文献】 特開2005−349406(JP,A)
【文献】 特開2009−195952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
H02M 7/48
H02M 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を高周波交流電力に変換するスイッチング回路と、該スイッチング回路からの高周波交流電力を電圧変換するトランスと、該トランスの二次側から出力された高周波交流電力を直流電力に変換する整流回路を含めアーク溶接に適した直流出力電力に変換する直流変換部とを備え、溶接機の溶接トーチの電極に前記直流出力電力を供給しその電極先端にてアークを生じさせて被溶接物のアーク溶接施工を行わせるアーク溶接用電源装置において、該電源装置の出力電圧と閾値電圧との比較に基づいてその出力電圧の低電圧異常の判定を行う電圧監視部を備えたアーク溶接用電源装置であって、
前記電圧監視部が用いる前記閾値電圧は、前記整流回路のその時々の出力電圧に基づいて設定されるものであることを特徴とするアーク溶接用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接用電源装置において、
前記電圧監視部が用いる前記閾値電圧は、前記整流回路の出力電圧に係数を乗じて設定されるものであることを特徴とするアーク溶接用電源装置。
【請求項3】
直流電力を高周波交流電力に変換するスイッチング回路と、該スイッチング回路からの高周波交流電力を電圧変換するトランスと、該トランスの二次側から出力された高周波交流電力を直流電力に変換する整流回路を含めアーク溶接に適した直流出力電力に変換する直流変換部とを備え、溶接機の溶接トーチの電極に前記直流出力電力を供給しその電極先端にてアークを生じさせて被溶接物のアーク溶接施工を行わせるアーク溶接用電源装置において、該電源装置の出力電圧と閾値電圧との比較に基づいてその出力電圧の低電圧異常の判定を行うアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法であって、
前記整流回路のその時々の出力電圧に基づいて設定される前記閾値電圧を用いて前記電源装置の出力電圧の低電圧異常を判定することを特徴とするアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多電極による溶接施工に好適なアーク溶接用電源装置、及びアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式、非消耗電極式といった溶接法によらず適正なアーク溶接の実施中においては、許容される短絡状態は数ms程度であり、この短絡状態を含めて電源装置の出力電圧が数[V]以下となる時間が数100[ms]以上継続すると、安定したアーク溶接施工が難しくなる。そのため、一旦アークが発生した後では、電源装置の出力電圧が数[V]の閾値電圧を下回る期間が一定期間(例えば500[ms])以上継続すると、出力電圧が低電圧異常であると判定して電源装置の出力動作を停止する等の制御を行うようにすれば、施工不良を予め防止することが可能である。
【0003】
ところで、溶接施工の高効率化が要求される場合、例えば特許文献1の開示技術のように、被溶接物の同一箇所を2以上の多電極による溶接施工を行う使用形態が知られている。この場合、例えば2つの電極を近接配置し、各電極に対応する電源装置同士を連携的に動作させることが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−233680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多電極によるアーク溶接において、隣接する2つの電極が互いに異なる極性に設定される場合、その時々の状況によって隣接の電極同士(対応する電源装置同士)が電気回路として干渉することがある。
【0006】
例えば自電極がマイナス極、他電極がプラス極に設定される場合では、自電極に他電極側からの電流の流れ込みが生じ、自電極側の電源装置の出力電流が見かけ上大きくなり、出力電流のフィードバックによる定電流制御が行われていると、出力電流が見かけ上大きくなる分、自電極側の電源装置の出力電圧(出力端子電圧)が低く設定されてしまう。
【0007】
すると、自電極側の電源装置において出力電圧が低電圧異常であると判定されることがあり、適正な電流値でアークが安定しているにもかかわらず、電源装置の出力動作が停止されてしまうことが懸念されるところである。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、多電極による溶接施工の際に他電極からの電流の流れ込みが生じる場合であっても、適正な出力電圧監視を行うことができるアーク溶接用電源装置、及びアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するアーク溶接用電源装置は、直流電力を高周波交流電力に変換するスイッチング回路と、該スイッチング回路からの高周波交流電力を電圧変換するトランスと、該トランスの二次側から出力された高周波交流電力を直流電力に変換する整流回路を含めアーク溶接に適した直流出力電力に変換する直流変換部とを備え、溶接機の溶接トーチの電極に前記直流出力電力を供給しその電極先端にてアークを生じさせて被溶接物のアーク溶接施工を行わせるアーク溶接用電源装置において、該電源装置の出力電圧と閾値電圧との比較に基づいてその出力電圧の低電圧異常の判定を行う電圧監視部を備えたアーク溶接用電源装置であって、前記電圧監視部が用いる前記閾値電圧は、前記整流回路のその時々の出力電圧に基づいて設定されるものである。
【0010】
この構成によれば、自身の溶接機と他の溶接機とを併用して多電極による溶接施工を行う際、他電極側から自電極側に電流の流れ込みが生じて電源装置の出力電圧が低下するような場合でも、電圧監視部が用いる閾値電圧はその出力電圧と同様に変動する整流回路の出力電圧に基づいて設定されるため、出力電圧が低電圧異常と誤判定することが防止される。これにより、低電圧異常で電源装置の出力動作を停止させるような制御を行うものにおいては、無用な出力動作の停止を防止でき、溶接施工の継続性を良好とする。
【0011】
また上記のアーク溶接用電源装置において、前記電圧監視部が用いる前記閾値電圧は、前記整流回路の出力電圧に係数を乗じて設定されるのが好ましい。
この構成によれば、電圧監視部が用いる閾値電圧は、整流回路の出力電圧に係数を乗じて設定されるため、その時々の閾値電圧の設定が容易である。
【0012】
また上記課題を解決するアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法は、直流電力を高周波交流電力に変換するスイッチング回路と、該スイッチング回路からの高周波交流電力を電圧変換するトランスと、該トランスの二次側から出力された高周波交流電力を直流電力に変換する整流回路を含めアーク溶接に適した直流出力電力に変換する直流変換部とを備え、溶接機の溶接トーチの電極に前記直流出力電力を供給しその電極先端にてアークを生じさせて被溶接物のアーク溶接施工を行わせるアーク溶接用電源装置において、該電源装置の出力電圧と閾値電圧との比較に基づいてその出力電圧の低電圧異常の判定を行うアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法であって、前記整流回路のその時々の出力電圧に基づいて設定される前記閾値電圧を用いて前記電源装置の出力電圧の低電圧異常を判定する。
【0013】
この構成によれば、上記と同様に、自身の溶接機と他の溶接機とを併用して多電極による溶接施工を行う際、他電極側から自電極側に電流の流れ込みが生じて電源装置の出力電圧が低下するような場合でも、出力電圧監視の際に用いる閾値電圧はその出力電圧と同様に変動する整流回路の出力電圧に基づいて設定されるため、出力電圧が低電圧異常と誤判定することを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアーク溶接用電源装置及びアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法によれば、多電極による溶接施工の際に他電極からの電流の流れ込みが生じる場合であっても、適正な出力電圧監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態における多電極アーク溶接システムの電気的構成図である。
図2】同形態における溶接システムの電極部を中心とした等価回路図である。
図3】同形態における出力電圧監視に用いる閾値電圧を説明するための図である。
図4】同形態における出力電圧監視態様を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、アーク溶接用電源装置及びアーク溶接用電源装置の出力電圧監視方法の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の多電極アーク溶接システム10は、1つの被溶接物Mに対して第1及び第2溶接機11,21の2つの溶接機を用いて構成され、各溶接機11,21のそれぞれの溶接トーチ12,22(電極13,23)が互いに近接配置されている。尚、図1には、第1溶接機11は全体が示され、第2溶接機21は溶接トーチ22の部分が示されている。
【0017】
第1溶接機11は、TIG溶接等の非消耗電極式アーク溶接機にて構成されている。第1溶接機11に備えられる溶接用電源装置15は、インバータ回路(INV)16、トランス17、及び整流回路18を備えている。インバータ回路16の前段では商用交流電力の直流電力への変換がなされており、該インバータ回路16にはその変換された直流電力が入力される。インバータ回路16は、例えば半導体スイッチング素子を用いるフルブリッジ回路よりなり、入力された直流電力を高周波交流電力に変換してトランス17の一次側に供給する。
【0018】
トランス17の二次側からは、電圧変換がなされた高周波交流電力が出力され、後段の整流回路18にて直流化される。整流回路18の後段では、直流リアクトル(後述の合成インダクタンスLに含まれる)等の平滑回路が備えられ、アーク溶接に適した直流出力電力への変換がなされる。TIG溶接等よりなる第1溶接機11では、電源装置15のプラス側出力端子に被溶接物Mが接続され、マイナス側出力端子に溶接トーチ12にて支持される電極13が接続されて、電極13がマイナス極性とされる。
【0019】
電源装置15の制御回路19は、出力電流Idをフィードバックしてインバータ回路16のPWM制御に反映する定電流制御を行っている。具体的に、制御回路19は、電流検出器(ID)19aにて検出された出力電流Idと、電流目標設定部(IS)19bにて設定された目標出力電流Isとの偏差を演算器19cにて算出し、PWM制御部19dにてその偏差に応じたPWMディーティに設定したPWM制御信号Spを生成し、PWM制御部19dからPWM制御信号Spをインバータ回路16に出力している。
【0020】
また、制御回路19は、電極13の先端電圧であるアーク電圧Vdが低電圧異常かの判定を行っている。この判定は、電源装置15の出力電圧でも可能であるが、本実施形態ではより高精度な判定が可能なアーク電圧Vdを用いている。しかしながら、アーク電圧Vdは直接検出するのが困難であるため、電圧検出器(VD)19eにおいて、整流回路18の出力電圧Eからアーク電圧Vdを算出することが行われている。その際、整流回路18の出力端子から電極13までの電路上の合成インダクタンスL及び合成抵抗Rが必要である。合成インダクタンスLは、先の直流リアクトルを含む電源装置15の内部インダクタンスと、電源装置15から電極13(溶接トーチ12)までの間のパワーケーブル等に起因する外部インダクタンスとを合成したものである。また同様に、合成抵抗Rは、電源装置15の内部抵抗と外部抵抗とを合成したものである。
【0021】
整流回路18の出力電圧Eは、アーク電圧Vd、合成インダクタンスL、合成抵抗R、及び溶接電流I(第1溶接機11単体では出力電流Id)で表すと、次式[数1]のようになる。
【0022】
【数1】
【0023】
従って、アーク電圧Vdは、次式[数2]のように表すことができる。
【0024】
【数2】
【0025】
電圧検出器19eは、上記算出式からアーク電圧Vdの算出を行っている。
制御回路19の電圧監視部(VW)19fは、算出したアーク電圧Vdが数[V]の閾値電圧を下回り、且つその下回る期間が一定期間(例えば500[ms])以上継続すると、アーク電圧Vdが低電圧異常であると判定する。つまり、アーク溶接においては、許容される短絡状態は数ms程度であり、アーク電圧Vdが数[V]以下となる時間が数100[ms]以上継続すると、安定したアーク溶接施工が難しくなるため、低電圧異常と判定するようにしている。そして、電圧監視部19fは、アーク電圧Vdが低電圧異常であると判定すると、エラー表示又は報知を行うためのエラー信号Erを出力するとともに、PWM制御部19dに対してインバータ回路16の動作停止、即ち電源装置15の出力動作を停止させて施工不良を予め防止するための停止指令信号Stを出力する。
【0026】
第2溶接機21は、MIG溶接等の消耗電極式アーク溶接機にて構成されている。第2溶接機21の電極23は、アーク溶接時の消耗に応じて送給がなされるワイヤ電極よりなり、溶接トーチ22にて支持されている。第2溶接機21に備えられる溶接用電源装置(図示略)の構成としては、第1溶接機11の電源装置15と同様の構成をなしているが、このMIG溶接等よりなる第2溶接機21では、電源装置のプラス側出力端子に溶接トーチ22にて支持される電極23が接続され、マイナス側出力端子に被溶接物Mが接続されて、電極23がプラス極性とされる。
【0027】
そして、多電極アーク溶接システム10としては、第1及び第2溶接機11,21の各溶接トーチ12,22、即ち電極13,23が近接配置され、例えば溶接方向前側に第1溶接機11の電極13が、溶接方向後側に第2溶接機21の電極23が位置するように配置される。つまり、溶接方向前側に位置する第1溶接機11が被溶接物Mに対して余熱を行い、溶接方向後側の第2溶接機21での溶着効率向上が図られ、高効率な溶接施工が可能な溶接システム10となっている。
【0028】
ところで、本実施形態の多電極アーク溶接システム10では、第1溶接機11の電極13はマイナス極性、第2溶接機21の電極23はプラス極性であり、近接する電極13,23の極性が異なっている。
【0029】
そのため図2に示すように、第1及び第2溶接機11,21の各電極13,23にて生じるアークのタイミングによっては、各電極13,23間が抵抗にて接続される状態となり、第1溶接機11の電極13に第2溶接機21の電極23からの電流Ioの流れ込みが生じ得る。すると、第1溶接機11の溶接電流Iは、次式[数3]に示すように、自身の電源装置15の駆動により生成される出力電流Idに、第2溶接機21側から流れ込む電流Ioが加わったものとなる。
【0030】
【数3】
【0031】
第1溶接機11単体では電流Ioがゼロとして考えればよい。
制御回路19の定電流制御は、出力電流Idのフィードバック制御であり、第2溶接機21側から流れ込む電流Ioのない第1溶接機11単体での使用を想定しての制御となっている。
【0032】
ここで、例えばインバータ回路16のPWM動作のオフ期間で整流回路18の出力電圧Eがゼロとなる状況で、第2溶接機21側から電流Ioが流れ込むと、第1溶接機11側の回路上に電流Iが流れる。従って、上記[数2]にE=0を代入すると、
【0033】
【数4】
【0034】
となる。定電流制御にて目標出力電流Isに一致する制御が行われているとすると、Lの項が略ゼロとみなすことができ、アーク電圧Vdは、次式[数5]、
【0035】
【数5】
【0036】
となり、負値を示すこととなる。
つまり、多電極アーク溶接システム10としての第1溶接機11の挙動と、第1溶接機11単体の挙動とは異なり、第2溶接機21側からの電流Ioの流れ込みでアーク電圧Vdが低くなりがちな状況となり得る。そのため、制御回路19の電圧監視部19fにてアーク電圧Vdが低電圧異常と判定され易くなり、場合によってはアークが安定していてもかかわらず、電圧監視部19fがPWM制御部19dに対して停止指令信号Stを出力し、インバータ回路16の動作停止、即ち電源装置15の出力動作を停止させることが考えられる。
【0037】
これを踏まえ、本実施形態の電圧監視部19fにおいては、アーク電圧Vdと比較する閾値電圧Vsを以下の[数6]に従って設定することとした。
【0038】
【数6】
【0039】
但し、αは次式[数7]、
【0040】
【数7】
【0041】
を満たす値を選択する。例えばR=0.1、E=80、I=350とすると、α>0.4375であり、これに基づいてα=0.45を選択したとすると、係数(1−α)は0.55、即ちVs=E×0.55となる。つまり、図3及び図4に示すように、閾値電圧Vsは、整流回路18の出力電圧Eの55%に設定され、整流回路18の出力電圧Eの変動に追従する。
【0042】
次に、本実施形態の多電極アーク溶接システム10における第1溶接機11側の電源装置15の制御回路19での出力電圧監視動作(作用)を図4を参照しつつ説明する。
時間t1にて、第2溶接機21側からの電流Ioの流れ込みが生じると、アーク電圧Vdは図4の破線にて示すように低下する。
【0043】
制御回路19の電圧監視部19fにおいて、アーク電圧Vdの低電圧異常の判定に用いる閾値電圧Vsが図4の一点鎖線にて示すように従前の固定値(数[V]固定)とした場合、時間t2にてアーク電圧Vdが閾値電圧Vs以下となる。電圧監視部19fは、アーク電圧Vdが閾値電圧Vsを下回った時間t2から監視時間Tの計時を行う。監視時間Tは、例えば500[ms]である。
【0044】
そして、監視時間Tが経過した時間t3においてアーク電圧Vdが閾値電圧Vs以下のままであると、電圧監視部19fは、PWM制御部19dに対して停止指令信号Stを出力し、インバータ回路16の動作停止を図る。つまり、従前では、単に第2溶接機21側からの電流Ioの流れ込みによるアーク電圧Vdの低下であり、溶接電流Iとしては十分でアークが安定していてもかかわらず、電源装置15の出力動作が停止となってしまう。
【0045】
これに対し、本実施形態の電圧監視部19fにおいては、整流回路18の出力電圧E、即ち第2溶接機21側からの流れ込み電流Ioを含む溶接電流Iと相関のある電圧Eに係数(1−α)を乗じて閾値電圧Vsが設定されている。
【0046】
従って時間t1にて、第2溶接機21側からの電流Ioの流れ込みが生じてアーク電圧Vdが低下、整流回路18の出力電圧Eも低下するのに追従して、閾値電圧Vsも図4の破線にて示すように低下する。そのため、単に第2溶接機21側からの電流Ioの流れ込みによるアーク電圧Vdの低下が生じても本実施形態の電圧監視部19fでは低電圧異常と判定せず、電源装置15の出力動作が継続され、アーク溶接施工の継続が可能となっている。
【0047】
尚、第2溶接機21側では、第1溶接機11側に電流Ioが流出する分、第2溶接機21のアーク電圧は高くなりがちである。そのため、第2溶接機21側では、従前のような閾値電圧固定値による出力電圧監視でも足りる。
【0048】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)溶接機11,21を併用して多電極による溶接施工を行う際、第2溶接機21側の電極23から第1溶接機11側の電極13に電流Ioの流れ込みが生じて電源装置15の出力電圧(アーク電圧Vd)が低下するような場合でも、制御回路19の電圧監視部19fが用いる閾値電圧Vsはそのアーク電圧Vdと同様に変動する整流回路18の出力電圧Eに基づいて設定されため、電圧監視部19fにてアーク電圧Vdが低電圧異常と誤判定することを防止することができる。これにより、アーク電圧Vdが低電圧異常で電源装置15の出力動作を停止させる制御において無用な出力動作の停止を防止でき、溶接施工の継続性を良好とすることができる。
【0049】
(2)制御回路19の電圧監視部19fが用いる閾値電圧Vsは、整流回路18の出力電圧Eに係数(1−α)を乗じて設定されるため、その時々の閾値電圧Vsの設定が容易であり、制御回路19の演算負荷の軽減に貢献する。
【0050】
尚、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・整流回路18の出力電圧Eは、整流回路18の出力端子間に電圧検出器を設置して取得してもよく、また電源装置15の出力端子間に電圧検出器を設置して、その出力端子電圧から整流回路18の出力電圧Eを算出するようにしてもよい。
【0051】
・電極13の先端のアーク電圧Vdにて低電圧監視を行ったが、電源装置15の出力電圧(出力端子電圧)にて低電圧監視を行う態様でもよい。
・整流回路18の出力電圧Eに単に係数(1−α)を乗じて閾値電圧Vsを設定したが、これ以外の算出を行って閾値電圧Vsの設定を行ってもよい。
【0052】
・上記実施形態の各数値は一例であり、適宜変更してもよい。
・上記実施形態の電源装置15の回路構成は一例であり、適宜変更してもよい。例えば、インバータ回路16を他のスイッチング回路としてもよい。
【0053】
・上記実施形態の溶接システム10として溶接機11(TIG溶接等)及び溶接機21(MIG溶接等)を用いる組み合わせは一例であり、適宜変更してもよい。また、3以上の溶接機を用いる溶接システムであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
11 第1溶接機
12 溶接トーチ
13 電極
15 電源装置
16 インバータ回路(スイッチング回路)
17 トランス
18 整流回路(直流変換部)
19f 電圧監視部
E 出力電圧(整流回路の出力電圧)
L 合成インダクタンス(直流変換部の直流リアクトルを含む)
M 被溶接物
Vd アーク電圧(電源装置の出力電圧)
Vs 閾値電圧
図1
図2
図3
図4