特許第6054232号(P6054232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054232
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/274 20110101AFI20161219BHJP
   B60R 21/272 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 7/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B60R21/274
   B60R21/272
   B01J7/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-84475(P2013-84475)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-205437(P2014-205437A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100076680
【弁理士】
【氏名又は名称】溝部 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】小林 睦治
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−018132(JP,A)
【文献】 特開平09−058394(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3035831(JP,U)
【文献】 特開平06−008789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/26−30
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁部にシールテープで内側から閉塞されたガス排出口を有しており、点火手段が収容された点火手段室と、
加圧ガスが充填された加圧ガス室を有したハウジング内で、
前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通孔を有する隔壁で分離されており、
前記隔壁が、前記点火手段室から前記加圧ガス室に向けて突き出された、底面と周壁面からなるカップ状のもので、開口部側にフランジ部を有しているものであり、
前記周壁面のみが前記連通孔を有しており、
前記フランジ部が、前記ハウジングに対して一体に形成されているものであり、
前記隔壁内部には、前記底面との間に間隔がおかれた状態でハウジングの軸方向に移動可能に取り付けられた円板閉塞部材が配置されており、
作動前においては、前記円板閉塞部材の周面により前記連通孔が閉塞されているものであり、
作動時においては、前記点火手段の作動によって発生した燃焼生成物によって前記閉塞部材が前記底面側に移動することで前記連通孔が開口され、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通される、ガス発生器。
【請求項2】
前記円板閉塞部材が、周面の厚さ方向中央部に環状溝部を有しており、周面の厚さ方向両側にそれぞれ第1環状周壁部と第2環状周壁部を有しているものであり、
作動前においては、前記円板閉塞部材の環状溝部が前記連通孔に正対され、第1環状周壁部および第2環状周壁部が前記隔壁周壁面に当接された状態で、前記環状溝部、第1環状周壁部および第2環状周壁部で囲まれた空間により前記連通孔が閉塞されている、請求項1記載のガス発生器。
【請求項3】
前記閉塞部材が、
第1円形基板部と第2円形基板部を有し、それらの間の周面に環状溝を有しており、厚さ方向に貫通孔を有しているものであり、
前記第2円形基板部の半径方向の断面積が、前記第1円形基板部の半径方向の断面積よりも大きなものであり、前記第1円形基板部が底面に対向するように配置されており、
作動前においては、前記第1円形基板部の周面により前記連通孔が閉塞されているものであり、
作動時においては、前記点火手段の作動によって発生した燃焼生成物によって前記閉塞部材の第1円形基板部が前記底面側に移動することで前記連通孔が開口され、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通される、請求項1記載のガス発生器。
【請求項4】
前記閉塞部材の第1円形基板部が、周面の厚さ方向中央部に環状溝部を有しており、前記周面の厚さ方向両側にそれぞれ第1環状周壁部と第2環状周壁部を有しているものであり、
作動前においては、前記第1円形基板部の環状溝部が前記連通孔に正対され、第1環状周壁部および第2環状周壁部が前記隔壁周壁面に当接された状態で、前記環状溝部、第1環状周壁部および第2環状周壁部で囲まれた空間により前記連通孔が閉塞されている、請求項3記載のガス発生器。
【請求項5】
周壁部にシールテープで内側から閉塞されたガス排出口を有しており、点火手段が収容された点火手段室と、加圧ガスが充填された加圧ガス室を有したハウジング内で、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通孔を有する隔壁で分離されており、
前記隔壁が、前記加圧ガス室から前記点火手段室に向けて突き出された、底面と周壁面からなるカップ状のもので、開口部側にフランジ部を有しているものであり、
前記周壁面のみが前記連通孔を有しており、
前記フランジ部が、前記ハウジングに対して一体に形成されているものであり、
前記隔壁の外側には、前記フランジ部との間に間隔がおかれた状態で、ハウジングの軸方向に移動可能に取り付けられた、環状閉塞部材が配置されており、
作動前においては、前記環状閉塞部材の内周面が前記隔壁の外周壁面に当接されることで前記連通孔が閉塞されているものであり、
作動時においては、前記点火手段の作動によって発生した燃焼生成物によって前記閉塞部材が前記フランジ部側に移動することで前記連通孔が開口され、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通される、ガス発生器。
【請求項6】
前記環状の閉塞部材が、
内周面の厚さ方向中央部に内側環状溝部を有し、前記内周面の厚さ方向両側にそれぞれ第1内側環状周壁部と第2内側環状周壁部を有しており、
作動前においては、前記環状の閉塞部材の内側環状溝部が前記連通孔に正対され、第1内側環状周壁部および第2内側環状周壁部が前記隔壁周壁面に当接された状態で、前記内側環状溝部、第1内側環状周壁部および第2内側環状周壁部で囲まれた空間により前記連通孔が閉塞されている、請求項5記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は車両のエアバッグシステムの人員拘束装置用などに用いられるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧ガスを使用したガス発生器では、当該加圧ガスを封入するボトルの開口部が閉塞手段で閉塞されており、作動時にはこの閉塞手段を破壊することで加圧ガスを排出する構造が知られている。
【0003】
この閉塞手段は例えば薄い金属製の破裂板を用いる場合が多く、火薬等の燃焼(点火手段)によって発生する圧力や衝撃波によって、直接的にあるいは間接的に破壊や粉砕させて開裂させる。
破裂板には、ボトル内に封入されたガスの圧力(充填圧)がかかっているため、その状態で破裂板を破るときには、前記充填圧を超える力を発現させる火薬等(点火手段)を用いる必要がある。
【0004】
特許文献1は、加圧ガスを使用したガス発生器であり、上記破裂板に相当するプラグ18は薄い壁部分26を有しており、作動時には、可動体56により破壊されて開口されるようになっている。
そして、プラグ18は全面でガス圧を受けているため、それを破壊するためには大きな力が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,609,362号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、人員拘束装置用などに用いる加圧ガスを使用したガス発生器であり、破裂板(閉塞手段)を破壊することなくガスの排出経路を開放することができ、そのために必要な荷重も小さくすることができる、ガス発生器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、課題の解決手段として、
ガス排出口を有しており、点火手段が収容された点火手段室と、
加圧ガスが充填された加圧ガス室を有したハウジング内で、
前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通孔を有する隔壁で分離されており、
前記隔壁が、前記点火手段室から前記加圧ガス室に向けて突き出された、底面と周壁面からなるカップ状のもので、開口部側にフランジ部を有しているものであり、
前記周壁面のみが前記連通孔を有しており、
前記フランジ部が、前記ハウジングに対して固定されているものであり、
前記隔壁内部には、前記底面との間に間隔がおかれた状態でハウジングの軸方向に移動可能に取り付けられた円板閉塞部材が配置されており、
作動前においては、前記円板閉塞部材の周面により前記連通孔が閉塞されているものであり、
作動時においては、前記点火手段の作動によって発生した燃焼生成物によって前記閉塞部材が前記底面側に移動することで前記連通孔が開口され、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通される、ガス発生器を提供する。
【0008】
ハウジングは、全体として1つのハウジングからなるものでもよいし、加圧ガス室を形成する加圧ガス室ハウジングと、点火手段室を形成する点火手段室ハウジングからなるものでもよい。
隔壁は、加圧ガス室と点火手段室の間に存在しており、ハウジングに対して固定されていてもよいし、一体成形されていてもよい。
ハウジングが、加圧ガス室ハウジングと点火手段室ハウジングからなるものであるときは、いずれか一方のハウジングに対して固定されていてもよいし、いずれか一方のハウジングと一体成形されていてもよい。
【0009】
円板閉塞部材は、カップ状隔壁内部において、底面との間に間隔がおかれた状態で軸方向に移動可能に取り付けられている。
作動前には、円板閉塞部材の周面により連通孔が閉塞されている。
また円板閉塞部材は、カップ状隔壁内部に対して直接圧入した状態で、溶接固定することができる。このときは、作動時において軸方向に移動可能なように溶接強度(例えば溶接面積)を調整する。
溶接を適用したときは、シール性を高める点からも好ましく、加圧ガスが加圧ガス室から点火手段室へ漏れないようにできれば、溶接箇所は限定されない。
なお、場合により、円板閉塞部材をカップ状隔壁内部に対して直接圧入することで取り付けることができるほか、シリコーンゴムのようなシール部材を介在させた状態で圧入して取り付けることもできる。
【0010】
隔壁の底面には連通孔はなく、作動前においては、隔壁の底面および周壁面に対して加圧ガス室側から高い圧力が加えられている。
しかし、閉塞部材周面にかかる荷重は、少なくとも連通孔の開口面積に相当する面が受けるものであり、隔壁が加圧ガスの充填ガス圧に十分耐えうる厚さであれば、作動時に閉塞部材の周面に掛かる荷重は閉塞部材の軸方向の移動に大きな妨げとはならない。
なお、加圧ガスの圧力が隔壁の周壁面に作用し、作動前における円板閉塞部材の固定強度および連通孔の閉塞強度を高めるようにも作用する。
【0011】
円形閉塞部材と底面との間隔は、作動時において円形閉塞部材が底面方向に移動したとき、連通孔が開口できる間隔である。
円形閉塞部材には、厚さ方向に貫通孔が形成されていてもよい。
円形閉塞部材に貫通孔を設けた場合には、円形閉塞部材が底面方向に移動したとき、円形閉塞部材と底面との間に存在する気体(組立時に入る空気)は前記貫通孔から点火手段室側に逃げるようにできるため、円形閉塞部材の移動が妨げられることはない。
貫通孔は、閉塞部材の一端面から他端面にかけて軸方向に貫通している限りは、その形成位置や数は特に問わないが、ガス発生剤が貫通孔を通り抜けることがないようにする。例えば、貫通孔の大きさを調整したり、点火手段室に面する側に金網などを配置したりすることができる。
なお、点火手段室で発生した圧力が十分に高いときには、前記十分に高い圧力を受けた円形閉塞部材は、円形閉塞部材と底面との間の空間を押し縮めて移動できる。そのため連通孔が開口されたとき、閉塞部材と隔壁の底面との間に間隔が形成されるような場合は、閉塞部材はその面に当接するまで移動する必要はない。よって、閉塞部材に貫通孔を設けなくても円形閉塞部材の移動が妨げられずに連通孔の開口が行われる。
【0012】
点火手段が作動したとき、点火手段室の圧力が上昇して、ガス排出口が開口され、ガスが排出される。
それと同時に円形閉塞部材は軸X方向(隔壁の底面方向)に移動して、隔壁周壁面の連通孔を開口させるため、加圧ガス室と点火手段室が連通され、加圧ガスは点火手段室に流れ込み、ガス排出口から排出される。
このように本発明のガス発生器で使用する閉塞部材は、移動するだけでガスの排出経路を開放するものであることから、従来のガス発生器で使用されている破裂板のように破壊されて破壊片を生じることが全くなく、前記破壊片によりガスの排出経路が閉塞されるようなおそれも全くない。
【0013】
本発明のガス発生器では、加圧ガス室内の圧力は、隔壁の周壁部を介して円形閉塞部材の周面から中心部方向にかかっている(すなわち、閉塞部材を外側から押し縮めようとする)だけである。
一方、従来の閉塞部材(破裂板)は、加圧ガスの圧力を正面から受けるものであることから、閉塞部材には非常に高い圧力がかかった状態になっており、これを開裂させようとすると非常に大きな力(点火器の出力)が必要になる。
このため、本発明のガス発生器では、従来の閉塞部材を破壊するために要する力と比べると、閉塞部材を移動するために要する力は小さなものでよく、点火手段の出力を小さくすることができ、その分だけ、ガス発生器全体を小型軽量化することができる。
【0014】
請求項2の発明は、課題の他の解決手段として、
前記円板閉塞部材が、周面の厚さ方向中央部に環状溝部を有しており、周面の厚さ方向両側にそれぞれ第1環状周壁部と第2環状周壁部を有しているものであり、
作動前においては、前記円板閉塞部材の環状溝部が前記連通孔に正対され、第1環状周壁部および第2環状周壁部が前記隔壁周壁面に当接された状態で、前記環状溝部、第1環状周壁部および第2環状周壁部で囲まれた空間により前記連通孔が閉塞されている、請求項1記載のガス発生器を提供する。
【0015】
円板閉塞部材は、隔壁周壁面に対して第1環状周壁部および第2環状周壁部において当接固定されており、円板閉塞部材の周面全体で当接固定されている場合と比べると、接触面積が小さくなっている。
このため、作動時において円形閉塞部材を移動させるために必要な力を小さくすることができる。
また、隔壁周壁面に対して第1環状周壁部および第2環状周壁部を溶接固定した場合であっても、溶接部分の面積を小さく一定幅にできるため、固定強度を維持したままで、作動時において円形閉塞部材を移動させるために必要な力を小さく、かつ一定にすることができる。
このため閉塞部材の移動に必要な荷重が安定し、再現性のよい出力がえられるガス発生器となる。
【0016】
請求項3の発明は、課題の他の解決手段として、
前記閉塞部材が、
第1円形基板部と第2円形基板部を有し、それらの間の周面に環状溝を有しており、厚さ方向に貫通孔を有しているものであり、
前記第2円形基板部の半径方向の断面積が、前記第1円形基板部の半径方向の断面積よりも大きなものであり、前記第1円形基板部が底面に対向するように配置されており、
作動前においては、前記第1円形基板部の周面により前記連通孔が閉塞されているものであり、
作動時においては、前記点火手段の作動によって発生した燃焼生成物によって前記閉塞部材の第1円形基板部が前記底面側に移動することで前記連通孔が開口され、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通される、請求項1記載のガス発生器を提供する。
【0017】
閉塞部材は、第2円形基板部の半径方向の断面積が前記第1円形基板部の半径方向の断面積よりも大きくなっている。
このため、作動時にはより大きな受圧面を有する第2円形基板部で圧力を受けることになり、閉塞部材に大きな荷重がかかり、移動が容易になる。
このガス発生器は、請求項1のガス発生器と同様の動作がなされる。
【0018】
請求項4の発明は、課題の他の解決手段として、
前記閉塞部材の第1円形基板部が、周面の厚さ方向中央部に環状溝部を有しており、前記周面の厚さ方向両側にそれぞれ第1環状周壁部と第2環状周壁部を有しているものであり、
作動前においては、前記第1円形基板部の環状溝部が前記連通孔に正対され、第1環状周壁部および第2環状周壁部が前記隔壁周壁面に当接された状態で、前記環状溝部、第1環状周壁部および第2環状周壁部で囲まれた空間により前記連通孔が閉塞されている、請求項3記載のガス発生器を提供する。
【0019】
閉塞部材の第1円形基板部は、隔壁周壁面に対して第1環状周壁部および第2環状周壁部において当接固定されており、円板閉塞部材の周面全体で当接固定されている場合と比べると、接触面積が小さくなっている。
このため、作動時において閉塞部材を移動させるために必要な力を小さくすることができる。
また、隔壁周壁面に対して第1環状周壁部および第2環状周壁部を溶接固定した場合であっても、溶接部分の面積を小さく一定幅にできるため、固定強度を維持したままで、作動時において閉塞部材を移動させるために必要な力を小さく、かつ一定にすることができる。
このため閉塞部材の移動に必要な荷重が安定し、再現性のよい出力がえられるガス発生器となる。
【0020】
請求項5の発明は、課題の他の解決手段として、
ガス排出口を有しており、点火手段が収容された点火手段室と、加圧ガスが充填された加圧ガス室を有したハウジング内で、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通孔を有する隔壁で分離されており、
前記隔壁が、前記加圧ガス室から前記点火手段室に向けて突き出された、底面と周壁面からなるカップ状のもので、開口部側にフランジ部を有しているものであり、
前記周壁面のみが前記連通孔を有しており、
前記フランジ部が、前記ハウジングに対して固定されているものであり、
前記隔壁の外側には、前記フランジ部との間に間隔がおかれた状態で、ハウジングの軸方向に移動可能に取り付けられた、環状閉塞部材が配置されており、
作動前においては、前記環状閉塞部材の内周面が前記隔壁の外周壁面に当接されることで前記連通孔が閉塞されているものであり、
作動時においては、前記点火手段の作動によって発生した燃焼生成物によって前記閉塞部材が前記フランジ部側に移動することで前記連通孔が開口され、前記点火手段室と前記加圧ガス室が連通される、ガス発生器を提供する。
【0021】
ハウジングは、全体として1つのハウジングからなるものでもよいし、加圧ガス室を形成する加圧ガス室ハウジングと、点火手段室を形成する点火手段室ハウジングからなるものでもよい。
隔壁は、加圧ガス室と点火手段室の間に存在しており、ハウジングに対して固定されていてもよいし、一体成形されていてもよい。
ハウジングが、加圧ガス室ハウジングと点火手段室ハウジングからなるものであるときは、いずれか一方のハウジングに対して固定されていてもよいし、いずれか一方のハウジングと一体成形されていてもよい。
【0022】
カップ状隔壁の突き出し方向が、請求項1〜4のガス発生器とは反対方向の点火手段室側になっている。
閉塞部材は点火手段室側に配置されているため、閉塞部材の形状が環状になっており、環状の閉塞部材の内周面が隔壁の外周壁面に当接されている。
作動前においては、隔壁の底面および周壁面に対して加圧ガス室側から高い圧力が加えられている。
しかし、閉塞部材内周面にかかる荷重は、少なくとも連通孔の開口面積に相当する面が受けるものであり、隔壁が加圧ガスの充填ガス圧に十分耐えうる厚さであれば、作動時に閉塞部材の内周面に掛かる荷重は、閉塞部材の軸方向の移動に大きな妨げとならない。
なお、加圧ガスの圧力が隔壁の周壁面に作用し、作動前における円板閉塞部材の固定強度および連通孔の閉塞強度を高めるようにも作用する。
このガス発生器は、請求項1のガス発生器と同様の動作がなされる。
【0023】
請求項6の発明は、課題の他の解決手段として、
前記環状の閉塞部材が、
内周面の厚さ方向中央部に内側環状溝部を有し、前記内周面の厚さ方向両側にそれぞれ第1内側環状周壁部と第2内側環状周壁部を有しており、
作動前においては、前記環状の閉塞部材の内側環状溝部が前記連通孔に正対され、第1内側環状周壁部および第2内側環状周壁部が前記隔壁周壁面に当接された状態で、前記内側環状溝部、第1内側環状周壁部および第2内側環状周壁部で囲まれた空間により前記連通孔が閉塞されている、請求項5記載のガス発生器を提供する。
【0024】
環状閉塞部材は、隔壁周壁面に対して第1内側環状周壁部および第2内側環状周壁部において当接固定されており、環状閉塞部材の内周面全体で当接固定されている場合と比べると、接触面積が小さくなっている。
このため、作動時において環状閉塞部材を移動させるために必要な力を小さくすることができる。
また、隔壁周壁面に対して第1内側環状周壁部および第2内側環状周壁部を溶接固定した場合であっても、溶接部分の面積を小さく、溶接面積を一定にできるため、固定強度を維持したままで、作動時において環状閉塞部材を移動させるために必要な力を小さく、かつ一定にすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のガス発生器は、作動前においては、加圧ガス室と点火手段室を連通する連通孔が閉塞部材で閉塞されており、作動時においては、前記閉塞部材は破壊されることなく、軸方向に移動させるだけで前記連通孔が開口され、加圧ガス室と点火手段室とが連通され、ガスの排出経路が開放される。
このため、閉塞部材の破壊片が生じることが全くなく、前記破壊片によりガスの排出経路が閉塞されるおそれも全くない。
さらに閉塞部材は軸方向に移動させるだけであり、破壊することと比べるとより小さな力で済むことから、従来技術と比べると必要な荷重を小さくすることができるため、ガス発生器自体の小型軽量化もできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のガス発生器の軸方向への断面図。
図2図1の部分拡大図。
図3】(a)は、図1とは別実施形態の図2に相当する部分拡大図、(b)は、図3(a)の部分拡大図。
図4図1図3とは別実施形態の図2に相当する部分拡大図。
図5】(a)は、図1図3図4とは別実施形態の図2に相当する部分拡大図、(b)は、図5(a)の別実施形態の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)図1図2のガス発生器
ガス発生器10は、点火手段室ハウジング20と加圧ガス室ハウジング40が接続されることで、軸X方向に延びる外殻容器が形成されている。いずれも幅方向(軸Xに直交する方向)断面形状は円形であり、ステンレス製である。
点火手段室ハウジング20の内部は点火手段室21となっており、公知の電気式点火器22とガス発生剤23が充填されている。
電気式点火器22は、点火手段室ハウジング20の一端において、内側突起24とかしめ部25で軸X方向両側から固定されている。
点火手段室ハウジング20の周壁部にはガス排出口26が形成され、シールテープなどのシール部材で内側から閉塞されている。
【0028】
加圧ガス室ハウジング40内には、アルゴン、ヘリウムなどのガスが高圧充填された加圧ガス室41が形成されている。
加圧ガス室ハウジング40内には、底面42に設けられた充填孔から加圧ガスが充填され、前記充填孔はピン43と共に溶接されて閉塞されている。
【0029】
点火手段室ハウジング20と加圧ガス室ハウジング40の間は、隔壁30で閉塞されている。
隔壁30は、点火手段室21から加圧ガス室41に向けて突き出された、底面31と周壁面32からなるカップ状のもので、開口部側にフランジ部33を有している。
周壁面32は複数の連通孔34を有しているが、底面31には連通孔は形成されていない。周壁部32の径は、加圧ガス室ハウジング40の周壁部(内径)よりも小さく、連通孔34は加圧ガス室ハウジング40の内周壁面に対向している。
隔壁30は、点火手段室ハウジング20と同じ材質のものであり、フランジ部33において点火手段室ハウジング20と一体に形成されている。
【0030】
カップ状隔壁30の内部には、底面31との間に間隔(空間)35がおかれた状態で軸方向に移動可能に取り付けられた、円板閉塞部材36が配置されている。
円板閉塞部材36は、貫通孔37を有している。貫通孔37は、1または2以上を設けることができ、周面36aを除いた部分に設けることができ、例えば、図3の貫通孔137と同じ位置に設けることもできる。
貫通孔37は空間35と点火手段室21を連通するよう、円板閉塞部材36の一端面から他端面を貫通している。貫通孔37はガス発生剤が貫通しない程度の大きさである。なお、貫通孔37を設けない実施形態にすることもできる。
【0031】
作動前においては、円板閉塞部材36の周面36aが、連通孔34を含む周壁面32に当接されることにより連通孔34が閉塞されている。
周面36aは、連通孔34を含む周壁面32との当接部分において溶接されている。
円板閉塞部材36は、溶接をしないときには、隔壁30と同じ材質のステンレスからなるものでもよいし、アルミニウムなどの前記ステンレスよりも硬度が小さい金属からなるものでもよい。
なお、加圧ガス室41内のガス圧を受けて、周壁面32に対しては外側から内側方向に圧力が加わっているため、円板閉塞部材36は周面36aから中心方向に押圧されている。
【0032】
次に図1図2に示すガス発生器をエアバッグ装置用のガス発生器として使用した場合の動作を説明する。
点火器22が作動すると点火手段室21内のガス発生剤23が着火燃焼されてガスが発生する。
それにより点火手段室21内の圧力が上昇するため、シールテープが破れてガス排出口26が開口され、ガスが排出されエアバッグが膨張される。
【0033】
また点火手段室21内の圧力が上昇すると、円形閉塞部材36は押されて、空間35を押し縮めながら軸X方向(底面31方向)に移動する。このとき、空間35内の空気(ガス発生器の製造時に混入した空気)は貫通孔37から点火手段室21に逃げるため、閉塞部材36の移動が阻害されることはない。
ここで、円形閉塞部材36の厚みTと空間35の長さL1の関係は、L1>Tであるため、円形閉塞部材36が底面31まで移動したとき、連通孔34は開口される。
このため、加圧ガス室41内のガスは連通孔34を通って点火手段室21内に流入した後、ガス排出口26から排出されエアバッグが膨張される。
ガスが排出されている間、点火手段室21内の圧力は高い状態で維持され、底面31に連通孔34が形成されていないため、底面31まで移動した円形閉塞部材36が点火手段室21方向に移動して連通孔34が再度閉塞されることはない。
なお、円形閉塞部材36に貫通孔37を設けない実施形態にするときは、L1の長さをTの厚さよりも十分に大きくする(例えば、L1がTの2倍以上になるようにする)ことが好ましい。その上で、点火手段室21内で発生する圧力が十分に高められるように調整することによって、円形閉塞部材36が空間35を押し縮めるように移動するが、底面31まで到達しない状態で連通孔34が完全に開口されるようにすることができる。
【0034】
(2)図3のガス発生器
図3(a)のガス発生器は、図1図2のガス発生器10の円形閉塞部材36に代えて、円板閉塞部材136を使用しているほかは同じものである。
なお、貫通孔137の形成位置が図1図2の円形閉塞部材36とは異なっているが、これは図1図2の円形閉塞部材36の貫通孔37と同じ位置であってもよい。
【0035】
円板閉塞部材136は、周面の厚さ方向(軸X方向)中央部に環状溝部138を有しており、環状溝部138の厚さ方向両側にそれぞれ第1環状周壁部139と第2環状周壁部140を有している。
作動前においては、円板閉塞部材136の環状溝部138が連通孔34に正対され、第1環状周壁部139および第2環状周壁部140が隔壁周壁面32に当接された状態固定されている。連通孔34の径は、環状溝部138の軸X方向の幅よりも小さい。
このため、連通孔34は、環状溝部138、第1環状周壁部139および第2環状周壁部140で囲まれた空間により閉塞されている。
第1環状周壁部139および第2環状周壁部140は、隔壁周壁面32に対して溶接されている。溶接されている場合には、溶接面積が小さくなるため、作動時の移動が阻害されることはない。また溶接幅(第1環状周壁部139および第2環状周壁部140の軸X方向の幅に相当する溶接幅)が一定であるため、閉塞部材の移動に必要な荷重が安定する(一定である)。
図3(a)のガス発生器は、図1のガス発生器10と同様の動作がなされる。
【0036】
(3)図4のガス発生器
図4のガス発生器は、図1図2のガス発生器10の円形閉塞部材36に代えて、貫通孔237を有する閉塞部材236を使用しているほかは同じものである。
【0037】
閉塞部材236は、第1円形基板部238と第2円形基板部239を有し、それらの間に環状溝240を有している。外径の大きさは、(第2円形基板部239)>(第1円形基板部238)>(環状溝240)である。
第1円形基板部238は円板形状であるが、図3(b)で示すような周面形状にすることもできる。
作動前においては、第1円形基板部238の周面により連通孔34が閉塞されている。
第1円形基板部238の厚み(図2のTに相当する厚み)は、空間35の長さL1よりも小さくなっている。
第2円形基板部239の半径方向の断面積は、第1円形基板部238の半径方向の断面積よりも大きくなっているため、作動時にはより大きな圧力を受けることができる。
なお、第2円形基板部239の外周面は、点火手段室ハウジング20の内壁面から離れている。
【0038】
作動時においては、圧力を受けた第2円形基板部239が軸X方向に押されることから、閉塞部材236の第1円形基板部238が底面31側に移動して連通孔34が開口される。
なお、第2円形基板部239とフランジ部33との距離L2は、空間35の長さL1よりも大きいため、閉塞部材236の移動により第2円形基板部239がフランジ部33に当接することはなく、ガスの排出経路は確保される。
図4のガス発生器は、図1のガス発生器10と同様の動作がなされる。
【0039】
(4)図5のガス発生器
図5(a)のガス発生器は、図1図2のガス発生器10の隔壁30に代えて隔壁330を使用し、さらに図1図2のガス発生器10の円形閉塞部材36に代えて、貫通孔337を有する環状閉塞部材336を使用しているほかは同じものである。
【0040】
隔壁330は、加圧ガス室41から点火手段室21に向けて突き出された、底面331と周壁面332からなるカップ状のもので、開口部側にフランジ部333を有している。
周壁面332は、連通孔334を有している。
フランジ部333は、点火手段室ハウジング20と一体に形成されている。
【0041】
カップ状隔壁330の外側には、フランジ部との間に間隔(環状空間)335がおかれた状態で、軸方向に移動可能に取り付けられた、貫通孔337を有する環状閉塞部材337が配置されている。
作動前においては、環状の閉塞部材336の内周面が隔壁の周壁面332に当接されることで連通孔334が閉塞されている。
なお、環状の閉塞部材336の外周面が点火手段室ハウジング20の内壁面に当接されていてもよい。
環状の閉塞部材336は、連通孔334を含む周壁面332との当接部分において溶接されている。
なお、加圧ガス室41内のガス圧を受けて、周壁面332に対しては内側から外側方向に圧力が加わっているため、環状閉塞部材336は内周面から外周面方向に押圧されている。
【0042】
環状閉塞部材336は、図5(a)に示すものに代えて、図5(b)に示すように、内周面の厚さ方向中央部に内側環状溝部340を有し、外周面の厚さ方向中央部に外側環状溝部350を有しており、内側環状溝部340の厚さ方向両側にそれぞれ第1内側環状周壁部341と第2内側環状周壁部342を有し、外側環状溝部350の厚さ方向両側にそれぞれ第1外側環状周壁部351と第2外側環状周壁部352を有しているものを使用することができる。
【0043】
作動前においては、環状の閉塞部材336の内側環状溝部340が連通孔334に正対され、第1内側環状周壁部341および第2内側環状周壁部342が隔壁周壁面332に当接された状態で、内側環状溝部340、第1内側環状周壁部341および第2内側環状周壁部342で囲まれた空間により連通孔334が閉塞されている。
【0044】
第1内側環状周壁部341および第2内側環状周壁部342は、隔壁周壁面332に対して溶接されている。
第1外側環状周壁部351と第2外側環状周壁部352は、点火手段室ハウジング20に対して圧入されていてもよいし、溶接されていてもよい。
【0045】
作動時においては、圧力を受けた環状の閉塞部材336が軸X方向に押されることから、閉塞部材336がフランジ部333側に移動して連通孔334が開口される。
環状の閉塞部材336の厚みT3は、空間335の長さL3よりも小さくなっている。このため、環状の閉塞部材336がフランジ部333まで移動したとき、連通孔334は開口される。
図5(a)のガス発生器は、図1のガス発生器10と同様の動作がなされる。
なお、図5において環状の閉塞部材336が外周面と点火手段室ハウジング20との間に間隙がある場合、貫通孔337は設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 ガス発生器
20 点火手段室ハウジング
21 点火手段室
22 点火器
23 ガス発生剤
26 ガス排出口
30 隔壁
31 底面
32 周壁面
33 フランジ部
36 閉塞部材
40 加圧ガス室ハウジング
41 加圧ガス室
図1
図2
図3
図4
図5