【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
次世代パワーデバイス用半導体基板材料として、SiC単結晶が注目されている。その実用化には、高品質かつ大口径の基板が求められている。しかし、SiCの単結晶成長において、一般に種結晶が高品質になるほど、安定した成長の実現はより難しくなる。その理由の一つに、成長中の異種多形の混入が挙げられる。
【0003】
我々は、成長中の多形安定性を左右する重要な要素として、成長中の{0001}面ファセット(以下、単に「ファセット」という)と、結晶中の螺旋転位の位置関係が重要であることを発見した。その中で、成長中のファセットを螺旋転位発生可能領域に重ね合わせて、ファセット中にステップ供給源となる螺旋転位を存在させながら成長することで、効果的に異種多形の混入が抑制される方法を見出した(特許文献1)。
【0004】
しかし、近年、結晶の大口径化が進むにつれ、従来方法だけでは多形を安定化させるのに十分でないことがわかってきた。特に、異種多形が発生した結晶を詳細に解析した結果、大口径の種結晶を用いる場合、成長開始時のファセットの大きさ、形状、位置の制御が異種多形の抑制に重要な要素となることが分かった。
【0005】
種結晶がオフセット基板(成長面と{0001}面が非平行)である場合を例に挙げると、成長初期には、成長面のオフセット方向上流側({0001}面の成長方向上流側;結晶学的に{0001}面が最も高い箇所)近傍にファセットが形成される。その際、ファセットが形成される箇所は、{0001}面と完全に平行な部分(種結晶成長面の端部の点)だけでなく、{0001}面となす角度に、いくらかの許容範囲を有することが明らかとなってきた。
【0006】
これにより、円形状の種結晶のオフセット方向上流側近傍の円周に沿って、オフセット方向に垂直な方向の範囲であって、成長途中のファセット径よりも広い範囲で、ファセットが形成される。特に、種結晶の口径が大きくなると、外周部の曲率が大きくなるため、より広い領域でファセットが発生することになる。
【0007】
種結晶の外周に沿って、幅広い領域で、細長い形状のファセットが現れると、ファセット上において螺旋転位からのステップ供給にムラが生じたり、僅かな温度分布の揺らぎによって、ファセットが分断してしまい、異種多形が発生する可能性が高くなる。
また、上記の理由により、異種多形が発生するのを抑制するために、高密度に螺旋転位を発生できる螺旋転位発生可能領域をファセットが形成される領域を網羅するように導入することも考えられる。
【0008】
しかし、これにより二つの問題が生じる。一つは、螺旋転位発生可能領域は、ファセット内への螺旋転位の供給による異種多形抑制効果を持つと同時に、オフセット方向下流側への欠陥の漏れ出しの原因ともなる。そのため、幅広い領域に螺旋転位発生可能領域を設けると、オフセット方向下流側への欠陥の漏れ出し量も多くなり、結晶品質も大きく低下する。
もう一つは、オフセット方向上流側に螺旋転位発生可能領域を設けることで、螺旋転位発生可能領域以外の形状が楕円状となる。そのため、目的とする大きさの円状の高品質なウェハを取り出すには、より大きな直径を有する結晶を成長させる必要が生じる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 用語の定義]
「c面」とは、{0001}面をいう。
「c面に略平行な面」とは、c面に対するオフセット角が30°以下である面をいう。
「c面成長」とは、c面に略平行な面を成長面として、単結晶を成長させることをいう。
【0016】
「成長面」とは、種結晶又は単結晶の表面の内、その法線ベクトルが単結晶の成長方向成分を持つ面をいう。
「成長方向」とは、単結晶全体のマクロな成長の方向をいう。例えば、成長面が単一の平面からなる場合、成長方向とは、成長面に垂直な方向をいう。
【0017】
「オフセット角」とは、ある面の法線ベクトルと{0001}面の法線ベクトルとのなす角をいう。
「オフセット方向」とは、{0001}面の法線ベクトルをある面に投影したベクトルに平行な方向をいう。
「オフセット方向下流側」とは、{0001}面の法線ベクトルをある面に投影したベクトルの先端が向いている側とは反対の側をいう。
「オフセット方向上流側」とは、{0001}面の法線ベクトルをある面に投影したベクトルの先端が向いている側をいう。
【0018】
[2. SiC種結晶]
本発明に係るSiC種結晶は、以下の構成を備えている。
(1)前記SiC種結晶は、c面に対して略平行な面からなる成長面を備えている。
(2)前記SiC種結晶は、前記成長面の中に描ける最大内接円(前記最大内接円が複数個存在する場合には、前記最大内接円の内、オフセット方向の最も下流側に存在するもの)の外側に突出部を備えている。
(3)前記突出部は、オフセット方向上流側に存在し、かつ、前記オフセット方向下流側から前記オフセット方向上流側に向かっ
て前記成長面と平行な方向における幅が狭くなっている。
【0019】
[2.1. SiC種結晶の履歴]
本発明に係るSiC種結晶を切り出すためのSiC単結晶の履歴は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いて製造された単結晶を用いることができる。
SiC種結晶を切り出すためのSiC単結晶としては、例えば、
(1)a面成長させたSiC単結晶、
(2)互いに直交する方向にa面成長を繰り返すことにより得られるSiC単結晶、
(3)c面成長させたSiC単結晶
などがある。
特に、a面成長させたSiC単結晶(繰り返しa面成長法により得られるものを含む)は、螺旋転位密度が低いので、種結晶を切り出すための単結晶として好適である。
【0020】
[2.2. 成長面]
成長面は、c面に対して略平行な面からなる。成長面は、単一平面からなるものでも良く、あるいは、複数個の平面の集合体でも良い。大面積の単結晶を効率よく製造するためには、成長面は、単一平面が好ましい。
【0021】
成長面のオフセット角は、単結晶の品質に影響を与える。ここで、成長面が複数個の平面の集合体から成る場合、「成長面のオフセット角」とは、面積が最も大きい面のオフセット角をいう。異種多形の発生や螺旋転位発生可能領域からの転位の漏れ出しを抑制するためには、成長面のオフセット角は、0°超30°以下が好ましい。成長面のオフセット角は、好ましくは、2°以上10°以下である。
【0022】
成長面のオフセット方向は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なオフセット方向を選択することができる。ここで、成長面が複数個の平面の集合体から成る場合、「成長面のオフセット方向」とは、面積が最も大きい面のオフセット方向をいう。
成長面のオフセット方向は、特に、
(1)<11−20>方向に対して±10°の方向、又は、
(2)<1−100>方向に対して±10°の方向
が好ましい。成長面のオフセット方向をこのように設定すると、通常のウェハ規格と同じオフセット方向を持つ単結晶を製造することができる。
【0023】
[2.3. 突出部]
[2.3.1. 突出部の形状]
SiC種結晶は、前記成長面の中に描ける最大内接円(前記最大内接円が複数個存在する場合には、前記最大内接円の内、オフセット方向の最も下流側に存在するもの)の外側に突出部を備えている。
ここで、「突出部」とは、オフセット方向上流側に存在し、かつ、オフセット方向下流側からオフセット方向上流側に向かって幅が狭くなっている部分をいう。
【0024】
SiC種結晶の平面形状(すなわち、成長面の平面形状)の内、突出部が形成される部分以外の部分については、特に限定されない。
SiC種結晶の平面形状としては、例えば、以下のようなものがある。
(1)円の外周部に突出部が形成された形状(涙滴型)。
(2)多角形(多角形の角部を突出部としてそのまま利用するもの)。
(3)多角形の辺上に突出部が形成された形状。
(4)楕円形(楕円の長径方向の端部を突出部としてそのまま利用するもの)。
(5)楕円形の周囲に突出部が形成された形状。
【0025】
これらの中でも、涙滴型は、大面積の単結晶を効率よく製造できるので、SiC種結晶の平面形状として好適である。
ここで、「涙滴型のSiC種結晶」とは、
(1)直径の大きい大円の外周に直径の小さい小円形の突出部が配置され、かつ、大円−小円間の外周が接線で結ばれた形状(
図1(a)参照)、
(2)大円の外周部に多角形(例えば、三角形)状の突出部が配置され、かつ、多角形の辺が大円の接線となっている形状(
図1(b)参照)、又は、
(3)
図1(a)又は
図1(b)に示す種結晶の大円の外周部であって、小円、多角形、及び、接線以外の部分に、種々の形状を有する凹部又は凸部(本願において定義する「突出部」とは異なるもの)が形成されている形状、
をいう。
【0026】
[2.3.2. 突出部先端の曲率半径]
突出部の先端の曲率半径R
tは、結晶品質に影響を与える。ここで、「曲率半径R
t」とは、突出部の先端に接する内接円の半径をいう。R
tが過度に大きくなると、突出部の外周に沿って、幅広い領域で、細長い形状のファセットが現れる。その結果、ファセット上において螺旋転位からのステップ供給にムラが生じたり、僅かな温度分布の揺らぎによって、ファセットが分断され、異種多形が発生する可能性が高くなる。
高品質の結晶を得るためには、前記突出部の先端の曲率半径R
tは、前記最大内接円の半径R
mより小さいことが好ましい。前記突出部の先端の曲率半径R
tは、さらに好ましくは、R
t≦R
m/3である。
【0027】
[2.3.3. 突出部先端近傍の稜線の角度α]
突出部先端近傍の稜線(接線)と{0001}面とのなす角αは、結晶品質に影響を与える。一般に、αが小さくなるほど、稜線上にファセットが形成されやすくなる。そのため、αが閾値以下である稜線の長さが長くなるほど、細長い形状のファセットが現れやすくなる。
【0028】
図2に、涙滴型の平面形状を有するSiC種結晶の平面図(
図2(a)、
図2(b))及び、突出部付近の立体図(
図2(c))を示す。SiC種結晶の平面形状が涙滴型であり、かつ、その成長面が単一平面からなる場合、次の(1a)式の関係が成り立つ。
β=cos
-1(sinα/sinγ) ・・・(1a)
但し、
αは、突出部と最大内接円とを結ぶ接線(突出部の稜線の一部)と{0001}面とのなす角、
βは、前記突出部の外周部と前記最大内接円とを結ぶ接線と、前記オフセット方向とのなす角、
γは、前記成長面のオフセット角。
【0029】
本願発明者らによる実験によれば、稜線上にファセットが形成されるか否かのαの臨界値は、2.3°である。従って、次の(1b)式が成り立つように突出部を形成すると、
図2(a)に示すように、突出部の先端部分(黒く塗りつぶした部分)に初期ファセットが形成されるだけでなく、突出部と最大内接円との接線上(ハッチングを施した部分)にも初期ファセットが形成されやすくなる。但し、突出部を形成することによって初期ファセットの幅は小さくなるため、一定の効果がある。
β>cos
-1(sin2.3°/sinγ) ・・・(1b)
【0030】
これに対し、次の(1)式が成り立つように突出部を形成すると、
図2(b)に示すように、突出部の先端部分(黒く塗りつぶした部分)にのみ初期ファセットが形成され、接線上には初期ファセットが形成されにくい。その結果、異種多形の発生が抑制される。
β≦cos
-1(sin2.3°/sinγ) ・・・(1)
但し、
βは、前記突出部の外周部と前記最大内接円とを結ぶ接線と、前記オフセット方向とのなす角、
γは、前記成長面のオフセット角。
【0031】
[2.4. 螺旋転位発生可能領域]
SiC種結晶が螺旋転位を多量に含む場合、ファセット内に十分な量の螺旋転位が供給されるので、異種多形は発生しにくい。しかしながら、SiC種結晶として螺旋転位の少ない高品質の結晶を用いると、ファセット内に十分な量の螺旋転位が供給されなくなる。このような場合には、前記突出部に、前記最大内接円内よりも密度が高い螺旋転位を発生可能な領域を形成するのが好ましい。
【0032】
このような螺旋転位発生可能領域としては、例えば、
(1)突出部の先端に導入された機械的なひずみ、
(2)突出部を成長方向と反対方向に後退させ、その表面を粗した後、予備成長し、螺旋転位を発生させたもの、
(3)螺旋転位を多く含む結晶を種結晶とし、a面成長させて螺旋転位を含まない部分を形成した後、種結晶部分を含み、そしてその部分が突出部となるように切り出したもの、
などがある。
螺旋転位発生可能領域の螺旋転位密度は、10個/cm
2〜1000個/cm
2の範囲にあることが好ましい。
【0033】
[2.5. SiC種結晶の大きさ]
SiC種結晶の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な大きさを選択することができる。本発明は、特に、大口径のSiC種結晶に対して適用すると、大きな効果が得られる。SiC種結晶は、具体的には、前記最大内接円の直径D
mが10cm以上であるものが好ましい。
【0034】
[3. SiC単結晶の製造方法]
本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、本発明に係るSiC種結晶を用いて、成長面上にSiC単結晶をc面成長させる工程を備えている。
SiC単結晶の成長方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。SiC単結晶の成長方法としては、例えば、昇華再析出法、CVD法、溶液法などがある。
【0035】
[4. 作用]
図3に、本発明に係るSiC種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。また、
図4に、従来のSiC種結晶を用いたSiC単結晶の製造方法の工程図を示す。
図4(a)に示すように、SiC単結晶を製造するための種結晶には、通常、平面形状が円であり、かつ、成長面が単一面からなるものが用いられる。
【0036】
このような種結晶を用いてc面成長を行うと、
図4(b)に示すように、成長初期に種結晶のオフセット方向上流側の端部に初期ファセット(黒く塗りつぶした部分)が形成される。成長面のオフセット角が比較的大きい場合、初期ファセットも相対的に小さい。しかしながら、大口径の種結晶では、成長面のオフセット角を大きくすると、ウェハ取り出しの歩留まりが低下する。よって、オフセット角は、ある程度小さくせざるを得ない。そのため、オフセット方向に対して垂直方向に細長い初期ファセットが形成されやすい。
【0037】
このような細長い初期ファセットが形成された状態からさらに結晶成長を続行すると、
図4(c)に示すように、ファセットから異種多形が発生しやすい。すなわち、ファセットの形状が不安定であるため、多形安定性が低い。しかも、このような現象は、比較的螺旋転位密度の高い低品質結晶を用いた場合であっても生ずる。
これは、ファセットが細長くなることによって、ファセット上で螺旋転位によるステップ供給が十分に行われなくなる領域が発生しやすくなるためである。また、ファセットが分離すると、異種多形が発生しやすくなるためである。
【0038】
一方、種結晶として螺旋転位密度の低い高品質結晶を用いる場合、異種多形の発生を抑制するためには、初期ファセットが形成される領域が網羅されるように螺旋転位発生可能領域を形成する必要がある。しかしながら、細長い初期ファセットが形成される場合には、
図4(d)に示すように、螺旋転位発生可能領域A(クロスハッチングを施した部分)もそれに応じて広くする必要がある。その結果、オフセット方向下流側への欠陥の流れ込みも多くなり、結晶品質が低下する。
また、成長する単結晶の大きさと、取り出せるウェハの大きさ(
図4(d)中、破線で示した円)の差が大きくなる。その結果、歩留まりが低下し、大きい結晶を成長することにより単結晶も割れやすくなる。
【0039】
これに対し、本発明においては、
図3(a)に示すように、SiC種結晶として、オフセット方向上流側端部に突出部が形成されたものが用いられる。これを用いてSiC単結晶をc面成長させると、
図3(b)に示すように、オフセット方向上流側端部に初期ファセット(黒く塗りつぶした部分)が形成される。突出部の先端の曲率半径R
tは、最大内接円の曲率半径R
mより小さいので、初期ファセットのオフセット方向に対して垂直方向の長さは、
図4(b)に比べて短くなる。
【0040】
そのため、SiC種結晶が比較的螺旋転位密度の高い低品質結晶である場合、この状態からさらに結晶成長を続行しても、
図3(c)に示すように、ファセットから異種多形が発生しにくい。すなわち、ファセットの形状が安定であるため、多形安定性も高い。
これは、ファセット上で螺旋転位によるステップ供給が行きわたりやすいためである。また、ファセットが分離しにくく、異種多形が発生しにくいためである。
【0041】
一方、SiC種結晶が比較的螺旋転位密度の低い高品質結晶である場合、異種多形の異種多形の発生を抑制するためには、初期ファセットが形成される領域が網羅されるように螺旋転位発生可能領域を形成する必要がある。本発明においては、細長い初期ファセットが形成されないため、
図3(d)に示すように、螺旋転位発生可能領域A(クロスハッチングを施した部分)を狭くすることができる。その結果、オフセット方向下流側への欠陥の流れ込みも少なくなり、品質低下を抑制することができる。
また、成長する単結晶の大きさと、取り出せるウェハの大きさの差が小さくなる。その結果、歩留まりが向上し、取り出すウェハの大きさに対し、成長する結晶の大きさが必要以上に大きくないため、単結晶も割れにくくなる。
【0042】
以上のように、種結晶のオフセット方向上流側端部に突出部を形成すると、以下のような効果が得られる。
(1)オフセット方向上流側端部の外周部と{0001}面とのなす角αが小さい領域を狭くすることができるので、初期ファセットが形成される範囲を狭くすることができる。その結果、多形安定性が向上する。
(2)ファセットが形成される領域に螺旋転位発生可能領域を設けて多形安定性を更に向上させる場合においても、螺旋転位発生可能領域を小さくすることができる。そのため、オフセット方向下流側への欠陥の漏れ出し量が少なくなり、高品質な結晶が得られる。
(3)オフセット方向上流側に螺旋転位発生可能領域を設ける場合、成長する結晶の大きさをオフセット方向にのみ拡大すれば良く、必要以上に結晶口径を大きくする必要がない。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。