(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【0006】
この発明は,炭素繊維製ペンダント索において,シンブルの溝部に炭素繊維ストランドを整列して掛けやすくすることを目的とする。
【0007】
この発明はまた,炭素繊維製ペンダント索において,シンブルの溝部に位置する炭素繊維ストランドに歪みを発生させないようにすることを目的とする。
【0008】
この発明によるペンダント索は,外周面に環状の溝部が形成された円筒形シンブル,所定間隔をあけて配置された2つの上記シンブルの上記溝部のそれぞれに交互に掛けられ,2つのシンブル間に掛け渡された,撚りが入れられた炭素繊維ストランド,および上記炭素繊維ストランドを被覆する被覆部材を備え,上記シンブルの溝部内に潤滑材が設けられていることを特徴とする。
【0009】
炭素繊維ストランドは,一般には熱硬化樹脂を含浸させた,多数本の炭素繊維の単繊維からなる炭素繊維ヤーンを複数本束ねることによって形成される。熱硬化樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維ヤーンを束ねることで中間部材を形成し,複数本の中間部材をさらに束ねたものを炭素繊維ストランドとしてもよい。いずれにしても,複数本の炭素繊維ヤーンの束が1本の炭素繊維ストランドとして扱われる。
【0010】
炭素繊維ストランドには撚りが入れられている。熱硬化樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維ヤーンをS撚りまたはZ撚りすることで炭素繊維ストランドを形成してもよいし,熱硬化樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維ヤーンをS撚りまたはZ撚りして中間部材を形成し,複数本の中間部材をそれぞれZ撚りまたはS撚りすることで炭素繊維ストランドを形成してもよい。
【0011】
所定間隔をあけて配置された2つのシンブルの溝部のそれぞれに上述した炭素繊維ストランドが交互に掛け渡される。炭素繊維ストランドが2つのシンブルの溝部に交互に掛け渡されることで,2つのシンブル間には炭素繊維ストランドが複数回にわたって張設される。
【0012】
好ましくは,2つのシンブル間の少なくとも中央部分において2つのシンブル間に掛け渡された複数の炭素繊維ストランドは結束部材によって束ねられる。結束部材としては,糸,テープ,その他の長尺物を用いることができる。複数の炭素繊維ストランドは好ましくはその断面が円形となるように上記結束部材によって束ねられる。
【0013】
炭素繊維ストランドは被覆部材によってその表面が被覆される。結束部材によって炭素繊維ストランドが束ねられる場合には結束部材の外側から被覆部材は被覆される。これにより外部からの力が直接に炭素繊維ストランドに加わることが防止され,ペンダント索の形状の安定化も図られる。被覆部材としてはたとえばウレタン樹脂が用いられる。
【0014】
炭素繊維および炭素繊維ストランドは,同一形状および同一寸法のスチールワイヤおよびこれを束ねたストランドよりも軽量である。炭素繊維ストランドを用いたこの発明によるペンダント索は,軽量であり,耐久性および強度に優れている。金属材料に特有の防錆のためのグリースを表面に塗布する必要もなく,作業者の作業着を汚してしまうことも少ない。
【0015】
またこの発明によると,炭素繊維ストランドが掛けられるシンブルの溝部内に潤滑材が設けられているので,炭素繊維ストランドはシンブルに直接には接触せずに,炭素繊維ストランドとシンブルとの間には潤滑材が介在する。炭素繊維ストランドとシンブルとの間の摩擦抵抗が小さくなるので,炭素繊維ストランドをシンブルの溝部に整列して配列しやすくなる。また,上述したように炭素繊維ストランドには熱硬化樹脂が含浸されているが,熱硬化樹脂とシンブルとの接着(貼り付き)も潤滑材によって抑制される。すなわち,炭素繊維ストランド(そこに含浸されている熱硬化樹脂)がシンブルに貼り付いてしまうことが無い。熱硬化樹脂を硬化させたときに熱硬化樹脂に収縮が発生しても,炭素繊維ストランドに歪みを生じにくくすることができる。ペンダント索の強度品質を安定させることができる。
【0016】
潤滑材は一実施態様では一方の片面に粘着材が塗布され,かつ他方の片面に潤滑材が塗布されたテープ部材である。テープ状潤滑材(その片面の粘着材がわ)をシンブルの溝部内に貼り付けることによって,シンブルの溝部内に潤滑材が設けられる。
【0017】
他の実施態様では,上記潤滑材はコーティング層である。たとえば粉体塗装(パウダーコーティング)によってシンブルの溝部内に潤滑材を吹き付けることで,潤滑材のコーティング層(塗膜)が設けられる。
【0018】
潤滑材には,たとえばポリテトラフルオロエチレンが用いられる。ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステル,ナイロン(ポリアミド)等を用いてもよい。
【0019】
一実施態様では,上記ペンダント索は半円弧状のカラーを備え,上記シンブルの溝部内に上記カラーを支持するための凸条部が周方向に形成されており,上記カラーはその湾曲外面に上記潤滑材が設けられており,上記カラーはその湾曲内面を上記凸条部の頂部に接して設けられ,上記炭素繊維ストランドが,上記溝部内に掛けられ,かつ上記カラーの湾曲外面上にも掛けられている。
【0020】
カラーおよび凸条部によってカラーの湾曲外面上に掛けられた炭素繊維ストランドからの押圧力を遮断することができるので,カラーの内側の溝部内に掛けられている炭素繊維ストランドに大きな押圧力がかからないようにすることができる。また,カラーの湾曲外面にも潤滑材が設けられているので,カラーの湾曲外面上に掛けられた炭素繊維ストランドとカラーとの間の摩擦抵抗も小さくすることができる。
【0021】
2つのシンブルの間には,Z撚りまたはS撚りの1本の炭素繊維ストランドを掛け渡してもよいし,Z撚りの炭素繊維ストランドとS撚りの炭素繊維ストランドを含む,2本以上の炭素繊維ストランドを掛け渡してもよい。炭素繊維ストランドに撚りを入れておくことによってシンブルに掛けられている部分における炭素繊維ストランドの形崩れを発生しにくくすることができる。Z撚りの炭素繊維ストランドとS撚りの炭素繊維ストランドを同数用いる,たとえばZ撚りの炭素繊維ストランドとS撚りの炭素繊維ストランドを1本ずつ(合計2本)を用いると,全体としての捩れが相殺されるので,ペンダント索の両端のシンブルを同じ姿勢に確実に保つ(回転させない)こともできる。
【実施例】
【0023】
図1は,ペンダント索1の斜視図であり,後述するウレタン樹脂5の一部を省略した状態で示している。
図2および
図3はそれぞれペンダント索1の正面図および側面図であり,後述するウレタン樹脂5,多孔質テープ4および集束用炭素繊維3を省略した状態で示している。
図4は
図1のIV−IV線に沿うペンダント索1の拡大断面図である。
図5は後述する炭素繊維ストランド2の拡大図である。
【0024】
ペンダント索1は,所定の間隔をあけて配置された2つのシンブル10,上記2つのシンブル10の間に掛け渡された炭素繊維ストランド2,炭素繊維ストランド2の両端部に巻き付けられ,炭素繊維ストランド2の両端部を束ねる集束用炭素繊維3,集束用炭素繊維3が巻き付けられた両端部以外の範囲の炭素繊維ストランド2にらせん状に巻き付けられ,炭素繊維ストランド2を束ねる多孔質テープ4,ペンダント索1のほぼ全体を被覆するウレタン樹脂5,および2つのシンブル10に接するようにそれぞれ設けられ,シンブル10と炭素繊維ストランド2の束との間の空間を埋める2つの中子6を備えている。ペンダント索1の長さは3m〜9m程度である。
【0025】
詳細は後述するが,シンブル10は,円筒状であり,その外周面に環状の溝部13を形成したものである。円筒状胴部13の両がわに,径方向にのびる環状のフランジ12が形成されていると表現することもできる。溝部13内(円筒状胴部13の外周面およびフランジ12の内がわ面)にポリテトラフルオロエチレン等の潤滑テープ(またはフィルム)14が貼られている(溝部13および潤滑テープ14は
図1において見えない。
図6参照)。シンブル10は金属製であり,上述した溝部13は削り出しによってつくられる。所定の間隔をあけて配置された2つのシンブル10の溝部13に1本の上記炭素繊維ストランド2が複数回にわたって交互に掛け渡されており,これによって2つのシンブル10間には複数本(後述するように,この実施例では24本)の炭素繊維ストランド2が張設されている。溝部13に掛けられた炭素繊維ストランド2は,溝部13の両側の壁面(フランジ12)によってシンブル10からの脱落が防止される。シンブル10が備える貫通孔10aに連結ピン(図示略)が通されることによって,ペンダント索1同士の連結,ペンダント索1とクレーンのブームとの接続が行われる。
【0026】
図4を参照して,2つのシンブル10の間には24本の炭素繊維ストランド2がほぼ断面円形に束ねられた状態で張設されている。
図4ではほぼ断面円形に束ねられた箇所においては24本の炭素繊維ストランド2が含まれることを示すために,各炭素繊維ストランド2を真円によって示しているが,ほぼ断面円形に束ねられた状態において実際には各炭素繊維ストランド2の形状(断面形状)は変形し(断面円形とならない),多孔質テープ4の内がわには炭素繊維ストランド2がほぼ隙間の無い状態で配置される。
図5を参照して,炭素繊維ストランド2は直径約7μmの炭素繊維(単繊維)9を12,000〜50,000本程度束ねた炭素繊維ヤーン8を複数本用意し,これをZ撚りまたはS撚りすることで形成されている。詳細な図示は省略するが,炭素繊維ストランド2には熱硬化樹脂たとえばエポキシ樹脂が含浸されており,繊維体積含有率Vf(炭素繊維と樹脂の全体積に占める炭素繊維の体積分率)は40%〜70%程度とされる。一実施例では,直径7μmの炭素繊維9を12,000本束ねた炭素繊維ヤーン8に熱硬化樹脂を含浸し,これを24本Z撚りに撚り合わせた,直径約5mm,繊維体積含有率Vf約55%の炭素繊維ストランド2が用いられる。この直径約5mmの炭素繊維ストランド2を構成する炭素繊維ヤーン8の撚りピッチ(撚り合わされた炭素繊維ヤーン8が1回転するときの長手方向の長さ)はたとえば 110mm程度とされる。
【0027】
炭素繊維ストランド2はシンブル10の溝部13に掛けられ,溝部13にかけられている部分において大きく曲げられる。上述したように炭素繊維ストランド2には撚りが入れられているために,溝部13における曲げに追随して変形する。すなわち,炭素繊維ストランドを撚りを入れずに形成すると,その炭素繊維ストランドは平行にのびる炭素繊維9(または炭素繊維ヤーン8)から構成される。この場合,シンブル10の溝部13に掛けられて大きく曲げられる部分において,溝部13に近い箇所に存在する炭素繊維9と溝部13から離れた箇所に存在する炭素繊維9には曲率半径の差によって長さ(行路)に差が生じ,溝部13にかけられている部分において炭素繊維ストランドが型崩れする可能性がある。炭素繊維ストランド2に撚りを入れておくことで,溝部13に掛けられて大きく曲げられる部分の曲率半径の差による上述した長さの差が撚りの強弱(締め付けの緩急)によって吸収されるから,溝部13に掛けられている部分において炭素繊維ストランド2の形崩れは発生しにくい。炭素繊維ストランド2の形崩れによるペンダント索1の強度低下を防止することができる。
【0028】
図1に戻って,2つのシンブル10間に張設されている複数本の炭素繊維ストランド2は,2つのシンブル10のそれぞれから所定距離だけ離れた両端部において集束用炭素繊維3が巻き回されることでまとめられて一つの束とされている。また,2つのシンブル10のそれぞれに接するようにして,シンブル10と炭素繊維ストランド2の束との間の空間を埋めるようにしてくさび形の中子6が設けられている(中子6の詳細は後述する)。中子6が設けられている部分では炭素繊維ストランド2は中子6の両側面に沿っている。中子6の先端部分にも集束用炭素繊維3は巻き回されている。後述するように,炭素繊維ストランド2の末端部分2eが中子6の側面に位置しており,集束用炭素繊維3は炭素繊維ストランド2の末端部分2eにも巻き回され,これにより炭素繊維ストランド2の末端部分2eは,中子6および張設されている炭素繊維ストランド2と一体に結束されている。
【0029】
集束用炭素繊維3が巻き回されている炭素繊維ストランド2の両端部の間に,多孔質テープ(たとえば不織布テープ)4がらせん状に巻き付けられている。集束用炭素繊維3および多孔質テープ4によってペンダント索1の形状が安定する。
【0030】
炭素繊維ストランド2,集束用炭素繊維3,多孔質テープ4および中子6にウレタン樹脂5が被覆されている。ウレタン樹脂5によってペンダント索1の表面が保護され,他物との接触や衝突による炭素繊維ストランド2のせん断破壊が防止される。
【0031】
炭素繊維はスチールワイヤと比べてその重量が1/5程度と軽量であり,かつスチールワイヤと同程度の強度を持つ。炭素繊維ストランド2を用いたペンダント索1は,複数本のスチールワイヤを束ねた同一長さおよび同一直径のワイヤロープ製ペンダント索とほぼ同等の強度を有しつつ,かつそれよりも軽い。
【0032】
図6はシンブル10の斜視図を示している。
図7は
図2のVII−VII線に沿う炭素繊維ストランド2が掛けられた状態のシンブル10の断面図である(
図7において上述した中子6の図示は省略されている)。
【0033】
シンブル10は,上述したように円筒状であり,その外周面には環状の溝部13が形成されており,溝部13の両がわに環状のフランジ12が位置する。溝部13内(フランジ12の内がわ面を含む)に,ポリテトラフルオロエチレンを素材とする0.08mm程度厚さを持つ,薄い潤滑テープ(またはフィルム)14が貼られている(
図7では潤滑テープ14の厚さが強調して示されている)。テープ(フィルム)に代えて,ポリテトラフルオロエチレンの粉体を塗装する(パウダーコーティングする)ことによって,溝部13内に潤滑材のコーティング層(塗膜)を形成してもよい。ポリテトラフルオロエチレンに代えて,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステル,ナイロン(ポリアミド)等を用いてもよい。いずれにしても,シンブル10に掛けられる炭素繊維ストランド2はシンブル10に直接には接触せず,炭素繊維ストランド2とシンブル10との間には潤滑テープ(潤滑層)14が介在する。これにより炭素繊維ストランド2とシンブル10との間の摩擦抵抗が小さくなり,炭素繊維ストランド2を溝部13に整列して配列しやすくなる。また,上述したように炭素繊維ストランド2にはエポキシ樹脂等の熱硬化樹脂が含浸されているが,この熱硬化樹脂とシンブル10との接着(貼り付き)も防止することができる。シンブル10の溝部13に炭素繊維ストランド2が貼り付いてしまうことが無いので炭素繊維ストランド2に歪みも生じにくい。ペンダント索1の強度品質を安定させることができる。
【0034】
図7に示すように,炭素繊維ストランド2は,たとえばシンブル10の溝部13(潤滑テープ14上)に6回整列して掛けられ,さらにそれに重ね合わせて6回整列して掛けられている。これによりシンブル10の一方側から12本の炭素繊維ストランド2がのび,シンブル10の他方側からも12本の炭素繊維ストランド2がのび,これにより合計24本の炭素繊維ストランド2が2つのシンブル10の間に張設されることになる。
【0035】
図8を参照して,
図8は2つのシンブル10の溝部13のそれぞれに炭素繊維ストランド2を交互に掛け,2つのシンブル10の間に炭素繊維ストランド2を張設するために用いられる張設装置を概略的に示している。
【0036】
細長い架台31の両端に円柱状の固定ピン33が立設されており,この固定ピン33に潤滑テープ14が貼り付けられた2つのシンブル10の貫通孔10aを差し込むことで,架台31の両端に2つのシンブル10がそれぞれ取り付けられる。架台31の中央には回転軸32が設けられており,回転軸32を中心にして架台31が回転することで2つのシンブル10は回転軸32を中心に回転する。
【0037】
炭素繊維ストランド2が巻き回されたボビン35から炭素繊維ストランド2が繰り出され,その先端部分(一方の末端部分)が一方のシンブル10に仮止めされる。その後回転軸32を中心にして架台31を回転させることで,ボビン35から繰り出された炭素繊維ストランド2が2つのシンブル10の溝部13のそれぞれに,整列させられつつ交互に掛けられる。2つのシンブル10の溝部13へ複数回にわたる炭素繊維ストランド2の掛け回しを終えると炭素繊維ストランド2は切断される。
【0038】
2つのシンブル10の溝部13に交互に掛けられる炭素繊維ストランド2は連続しており(1本の炭素繊維ストランド2),2つの末端部分2eを持つ。
図9は炭素繊維ストランド2の2つの末端部分2eの絡み合い構造を拡大して示している。
図9に示すように,炭素繊維ストランド2の一方の末端部分2e(巻き始めの炭素繊維ストランド2の末端部分)と,炭素繊維ストランド2の他方の末端部分2e(巻き終わりの炭素繊維ストランド2の末端部分)は,2つのシンブル10間に張設されている炭素繊維ストランドの束(
図9において一点鎖線で示す)のたとえば中央において互いに絡み合わされてかつ折り返され,2つのシンブル10にそれぞれ向けられて2つのシンブル10にテープ等でそれぞれ仮止めされる(最終的には,上述したように,末端部分2eの先端は中子6の側面に位置させられる)。炭素繊維ストランド2の2つの末端部分2eを互いに絡み合わせて折り返しておくことで,ペンダント索1を緊張させたときの炭素繊維ストランド2の抜けまたは緩みを防止することができる。
【0039】
2つのシンブル10に炭素繊維ストランド2を掛け終えた後に,あらかじめ用意される2つの中子6が,2つのシンブル10の溝部13に接するようにしてそれぞれ設けられる(
図1〜
図3参照)。
【0040】
図10は中子6の拡大斜視図である。中子6の全体形状はおおよそくさび形で,その底部(底面)6aは内がわに向けて湾曲しており,他方,底部6aと反対側の先端部6bは先細に形成されている。中子6の厚さは先端部6bよりも底部6aの方がわずかに厚く,底部6aにおける中子6の厚さはシンブル10の溝部13の幅(2つのフランジ12の間の間隔)にほぼ等しい。先細に形成された中子6の先端部6bの角度は10°〜30°程度である。中子6の材料には,任意の形状に加工することができ,軽量で,かつある程度の強度を有する材料,たとえばエポキシ樹脂や木材等が用いられる。
【0041】
中子6はその底部6aがシンブル10の溝部13に接するようにして設けられ,これにより中子6の底部6a側の一部がシンブル10のフランジ12によって挟まれる(
図1〜
図3参照)。その後,張設されている炭素繊維ストランド2の両端部のそれぞれに,中子6の先端部6bに至るまで集束用炭素繊維3を巻き付け,これにより2つのシンブル10間に張設されている炭素繊維ストランド2の両端部がひとまとまりの束にされる。中子6が設けられている範囲では炭素繊維ストランド2は中子6の両側面に沿う。また,2つのシンブル10に仮止めされている炭素繊維ストランド2の末端部分2eが集束用炭素繊維3によって中子6の側面に炭素繊維ストランド2とともに結束される(
図1参照)。
【0042】
集束用炭素繊維3が巻付けられた両端部以外の範囲の炭素繊維ストランド2に,多孔質テープ4がらせん状に巻かれてひとまとまりの束にされる。その後,加熱炉における加熱を行うことで炭素繊維ストランド2に含浸されている熱硬化樹脂を硬化させ,最後にウレタン樹脂5を吹き付けることでペンダント索1が完成する。加熱を行う前に,炭素繊維ストランド2,集束用炭素繊維3および多孔質テープ4に熱硬化樹脂を追加的に塗布するようにしてもよい。
【0043】
シンブル10と炭素繊維ストランド2の束との間に中子6を設けることによって,シンブル10と炭素繊維ストランド2の束との間において中子6が芯となり,ペンダント索1はその全体が中実(ソリッド)となる。中子6は,ペンダント索1の全体を加熱して熱硬化樹脂を硬化させるまでの間のペンダント索1の形状を保持する役目も果たす。
【0044】
図11は他の実施例のシンブル10Aおよびシンブル10Aとともに用いられるカラー20の斜視図である。
図12は
図11のXII−XII線に沿うシンブル10Aの断面図である。
図13は,炭素繊維ストランド2が掛けられた状態のシンブル10Aおよびカラー20の,
図7に相当する断面図である。
【0045】
シンブル10Aは,その溝部に周方向にのびる3つの環状凸条部15,16,17が形成されている点が,上述したシンブル10(
図6,
図7)と異なる。環状凸条部15が溝部のほぼ中央(2つのフランジ12の中間)に位置しており,環状凸条部16,17は,環状凸条部15と間隔をあけて,2つのフランジ12のそれぞれに接して(一体に)形成されている。3つの環状凸条部15,16,17の高さ(頂部の位置)は等しく,フランジ12の端部よりも低い位置にある。環状凸条部15,16の間,および環状凸条部15,17の間には同一幅の環状の溝部13a,13bが周方向にそれぞれ形成されている。環状溝部13a,13b,およびフランジ12の内面には,シンブル10と同様に,潤滑テープ14が貼られている。
【0046】
2つの環状溝部13a,13bのそれぞれに,炭素繊維ストランド2が6回ずつ2層に重ね合わされて合計6×2(=12)回掛けられる。環状溝部13a,13bのそれぞれに炭素繊維ストランド2を掛けた後に,炭素繊維ストランド2が掛けられた部分の環状溝部13a,13bを覆うようにして金属製のカラー20が被せられる。カラー20は半円弧状に湾曲しており,シンブル10Aの2つのフランジ12の間の間隔にほぼ等しい幅を持つ。カラー20の厚さは先端部分を除いてほぼ一定(10mm程度)であり,先端部分の厚さはやや薄い。シンブル10Aの湾曲外面にも潤滑テープ14が貼られている。カラー20はその湾曲内面が環状凸条部15,16,17の頂部に接して支持される。カラー20を設けた後に,カラー20の湾曲外面(潤滑テープ14上)に炭素繊維ストランド2が16回ずつ2層に重ね合わされて合計16×2(=32)回掛けられる。シンブル10Aに掛けられる炭素繊維ストランド2の数が多いので,2つのシンブル10A間に張設される炭素繊維ストランド2の数も多くなり,引張強度の高いペンダント索を作成することができる。また,環状凸条部15,16,17とカラー20とによって,環状溝部13a,13bに掛けられる炭素繊維ストランド2と,カラー20の湾曲外面に掛けられる炭素繊維ストランド2とが分離されるので,環状溝部13a,13bに掛けられている炭素繊維ストランド2に加わる外側からの押圧力が軽減され,ペンダント索の耐久性が向上する。
【0047】
引張試験を行ったところ,
図6および
図7に示すシンブル10を用いたペンダント索1(
図1)の引張強度は 850kNであった。他方,
図11〜
図13に示すシンブル10Aを用いたペンダントロープ索の引張強度は3,400kNであった。
【0048】
上述した実施例では,1本の炭素繊維ストランド2を用いて作成したペンダント索1を説明したが,Z撚りの炭素繊維ストランドと,S撚りの炭素繊維ストランドの2本の炭素線ストランドを用いてペンダント索を作成してもよい。たとえば,シンブル10の溝部13の中央を境にして一方側にZ撚りの炭素繊維ストランドを掛け,他方側にS撚りの炭素繊維ストランドを掛ける。Z撚りの炭素繊維ストランドとS撚りの炭素繊維ストランドを2本1組として,これをシンブル10の溝部13に掛けるようにしてもよい。特に同径,同ピッチのZ撚りの炭素繊維ストランドとS撚りの炭素繊維ストランドを組み合わせて用いることで全体として捩れのない仕上がりとすることができる。炭素繊維ストランドに含浸されている熱硬化樹脂は一般に硬化するときに収縮するが,このとき撚りが入れられた炭素繊維ストランドには撚り間隔を狭める力が働き,撚りが詰まる方向に捩れが入る。同径,同ピッチのZ撚りとS撚りの2種類の炭素繊維ストランドを用いることで,熱硬化樹脂の収縮のときの捩れを相殺することができ,これにより両端の2つのシンブル10を同じ姿勢に保つことができる。ペンダント索同士の連結やペンダント索をブームに固定するときの連結ピンのピン通し作業がしやすくなる。
【0049】
また,上述した実施例では,炭素繊維ストランド2に集束用炭素繊維3および多孔質テープ4を巻きつけることで,2つのシンブル10の間に張設された炭素繊維ストランド2を両端部を除いて断面円形に形成したペンダント索1を説明したが,集束用炭素繊維3および多孔質テープ4を用いずに(2つのシンブル10の間に張設された炭素繊維ストランド2をひとまとめにしない),2つのシンブル10の両側から平行に炭素繊維ストランド2を張設した状態で,熱硬化樹脂を硬化させ,かつその後に炭素繊維ストランド2の表面にウレタン樹脂5を吹き付けたものを最終状態としてもよい。この場合には,上述した中子6は用いられない。なお,この場合にも,炭素繊維ストランド2の末端部分2eについては,絡み合わせた後に2つのシンブル10の間に張設された炭素繊維ストランド2に炭素繊維糸等によって結束しておくのが好ましい。