特許第6054249号(P6054249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6054249-成膜装置 図000002
  • 特許6054249-成膜装置 図000003
  • 特許6054249-成膜装置 図000004
  • 特許6054249-成膜装置 図000005
  • 特許6054249-成膜装置 図000006
  • 特許6054249-成膜装置 図000007
  • 特許6054249-成膜装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054249
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   C23C14/32 H
   C23C14/32 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-110963(P2013-110963)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-227597(P2014-227597A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】酒見 俊之
(72)【発明者】
【氏名】宮下 大
(72)【発明者】
【氏名】北見 尚久
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−026953(JP,A)
【文献】 特開平07−316793(JP,A)
【文献】 特開2005−042157(JP,A)
【文献】 特開昭63−047362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、前記成膜材料の蒸発粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、
前記真空チャンバー内で前記プラズマビームを生成するプラズマ源と、
蒸発源となる前記成膜材料が充填されると共に、前記プラズマビームを前記成膜材料へ導く、または前記プラズマビームが導かれる主陽極である主ハースと、
前記主ハースの周囲に配置されると共に、前記プラズマビームを誘導する補助陽極である輪ハースと、
前記蒸発源から蒸発する前記蒸発粒子の向きを所定時間ごとに変化させる蒸発方向調整部と、を含み、
前記プラズマ源、前記主ハース及び前記輪ハースを複数組備え、
前記蒸発方向調整部は、前記蒸発源から蒸発する前記蒸発粒子の広がり幅を周期的に調整し、隣接する前記蒸発源における前記広がり幅の変化の位相をずらすことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、前記成膜材料の蒸発粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、
前記真空チャンバー内で前記プラズマビームを生成するプラズマ源と、
蒸発源となる前記成膜材料が充填されると共に、前記プラズマビームを前記成膜材料へ導く、または前記プラズマビームが導かれる主陽極である主ハースと、
前記主ハースの周囲に配置されると共に、前記プラズマビームを誘導する補助陽極である輪ハースと、
前記蒸発源から蒸発する前記蒸発粒子の向きを所定時間ごとに変化させる蒸発方向調整部と、を備え、
前記蒸発方向調整部は、前記輪ハースの磁石に重畳された補助コイルを有し、
前記補助コイルにより形成される磁場を変えることで、前記蒸発源から蒸発する前記蒸発粒子の拡散中心の向きを変えることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
前記プラズマ源、前記主ハース及び前記輪ハースを複数組備え、
前記蒸発方向調整部は、前記拡散中心の向きを周期的に変化させ、隣接する前記蒸発源における前記拡散中心の向きの変化の位相を同一にすることを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記補助コイルは、前記輪ハースの軸線方向から見て、前記蒸発源を挟んで両側に配置された一対の内コイルと、前記一対の内コイルの外側に配置された一対の外コイルとを備え、
前記一対の内コイルによる磁場の向きと、前記一対の外コイルによる磁場の向きとを逆向きにすることを特徴とする請求項2または3に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、成膜材料の粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜対象物の表面に膜を形成する成膜装置として、例えばイオンプレーティング法を用いたものがある。イオンプレーティング法では、蒸発させた成膜材料の粒子を真空チャンバー内で拡散させて成膜対象物の表面に付着させる。このような成膜装置は、プラズマビームを生成するためのプラズマ源と、成膜材料を保持する主陽極である主ハースと、この主ハースを取り囲む補助陽極である輪ハースとを備えている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1に記載の成膜装置では、プラズマ源、主ハース及び輪ハースを例えば2組備え、これにより2箇所の蒸発源から成膜材料を蒸発させて、成膜される範囲を広げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−256147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、成膜対象物に付着した成膜材料の膜質を向上させることが求められている。例えば、真空チャンバー内の酸素濃度、プラズマの状態などの成膜条件を変化させて、ある成膜条件に設定することで、成膜対象物の特定の領域の膜質を向上させることができる。しかしながら、膜質が向上された特定の領域とその周辺の領域とで膜質の差が大きくなり、膜質の分布が不均一になるおそれがある。
【0005】
そこで、成膜対象物の成膜面内における膜質の分布の均一化を図ることができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の成膜装置は、真空チャンバー内でプラズマビームによって成膜材料を加熱して蒸発させ、成膜材料の蒸発粒子を成膜対象物に付着させる成膜装置であって、真空チャンバー内でプラズマビームを生成するプラズマ源と、蒸発源となる成膜材料が充填されると共に、プラズマビームを成膜材料へ導く、またはプラズマビームが導かれる主陽極である主ハースと、主ハースの周囲に配置されると共に、プラズマビームを誘導する補助陽極である輪ハースと、蒸発源から蒸発する蒸発粒子の向きを所定時間ごとに変化させる蒸発方向調整部と、を備える。
【0007】
この成膜装置は、蒸発源から蒸発する成膜材料の蒸発粒子の向きを所定時間ごとに変化させる蒸発方向調整部を備える構成であるので、蒸発源から蒸発する蒸発粒子の向きを時間的に変化させて、蒸発粒子の拡散の状態を変化させることができる。蒸発粒子の活性度は蒸発粒子によって異なるので、蒸発粒子の拡散の状態を変化させることで、活性度の高い蒸発粒子を分散させて膜質が良好な領域を広げることができる。これにより、活性度の高い蒸発粒子が付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0008】
ここで、蒸発方向調整部は、蒸発源から蒸発する蒸発粒子の広がり幅を調整してもよい。蒸発粒子の広がり幅を所定時間ごとに変化させて蒸発粒子の拡散の状態を変化させることができ、活性度の高い蒸発粒子が付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0009】
成膜装置は、プラズマ源、主ハース及び輪ハースを複数組備え、蒸発方向調整部は、広がり幅を周期的に調整し、隣接する蒸発源における広がり幅の変化の位相をずらしてもよい。これにより、蒸発粒子の広がり幅が、隣接する蒸発源において同一とならないように拡散の状態を変化させることができる。例えば、隣接する蒸発源の中央に対応する位置に相対する成膜対象物の領域において、一方の蒸発源から蒸発した蒸発粒子を付着させたあとに、他方の蒸発源から蒸発した蒸発粒子を付着させることができ、活性度の高い蒸発粒子が付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0010】
また、蒸発方向調整部は、蒸発源から蒸発する蒸発粒子の拡散中心の向きを調整してもよい。蒸発粒子の拡散中心の向きを所定時間ごとに変化させて蒸発粒子の拡散の状態を変化させることができ、活性度の高い蒸発粒子が付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。なお、拡散中心の向きとは、蒸発粒子の広がり幅の中央における蒸発粒子の進行方向をいう。
【0011】
成膜装置は、プラズマ源、主ハース及び輪ハースを複数組備え、蒸発方向調整部は、拡散中心の向きを周期的に変化させ、隣接する蒸発源における拡散中心の向きの変化の位相を同一にしてもよい。これにより、隣接する蒸発源から蒸発する蒸発粒子の拡散中心の向きを同一にするように拡散の状態を変化させることができる。例えば、隣接する蒸発源の中央に対応する位置に相対する成膜対象物の領域において、両方の蒸発源から同時に蒸発粒子が到達することが防止され、活性度の高い蒸発粒子が付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0012】
また、蒸発方向調整部は、輪ハースに重畳された補助コイルを有し、補助コイルにより形成される磁場を変えることで拡散中心の向きを変えてもよい。これにより、補助コイルに流れる電流の向きを変えて磁場を変えることができるので、蒸発粒子の拡散中心の向きを容易に変化させることができる。
【0013】
ここで、補助コイルは、輪ハースの軸線方向から見て、蒸発源を挟んで両側に配置された一対の内コイルと、一対の内コイルの外側に配置された一対の外コイルとを備え、一対の内コイルによる磁場の向きと、一対の外コイルによる磁場の向きとを逆向きにする構成でもよい。蒸発源に近い位置に配置された一対の内コイルによる磁場の到達距離は、蒸発源から離れた位置に配置された一対の外コイルによる磁場の到達距離より短くなる。換言すれば、蒸発粒子の進行方向において、蒸発源に近い位置では一対の内コイルによる磁場を発生させ、蒸発源から遠い位置では一対の外コイルによる磁場を発生させるようにすることができる。これにより、蒸発源の近傍では、一対の外コイルによる磁場の影響をなくすように一対の内コイルによる磁場を生じさせ、蒸発源から離れた位置では、一対の外コイルによる磁場によって、蒸発粒子の拡散中心の向きを変えるようにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成膜対象物の成膜面内における膜質の分布の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の成膜装置の一実施形態の構成を示す断面図である。
図2】主ハース近傍の磁場を示す模式図である。
図3】成膜材料粒子の広がり幅の時間的な変化を示す模式図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る成膜装置の輪ハースを示す平面図である。
図5図3に示すV−V線に沿った断面図である。
図6】成膜材料粒子の拡散中心の向きの時間的な変化を示す模式図である。
図7】内コイル及び外コイルによる磁場強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明による成膜装置の一実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示される成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、説明の便宜上、図1には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する成膜対象物が搬送される方向である。X軸方向は、成膜対象物と後述するハース機構とが対向する方向である。Z軸方向は、X軸方向と軸方向とに直交する方向である。
【0018】
(第1実施形態)
成膜装置1は、成膜対象物11の板厚方向が水平方向(図1ではX軸方向)となるように、成膜対象物11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、成膜対象物11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の成膜装置である。この場合には、X軸方向は水平方向且つ成膜対象物11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。一方、本発明による成膜装置の一実施形態では、成膜対象物の板厚方向が略鉛直方向となるように成膜対象物が真空チャンバー内に配置されて搬送されるいわゆる横型の成膜装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、以下の実施形態では、縦型の場合を例に、本発明の成膜装置の一実施形態を説明する。
【0019】
成膜装置1は、ハース機構2、搬送機構3、輪ハース6、プラズマ源7、圧力調整装置8及び真空チャンバー10を備えている。
【0020】
真空チャンバー10は、成膜材料の膜が形成される成膜対象物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを拡散させる成膜室10bと、プラズマ源7から照射されるプラズマビームPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、成膜室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0021】
搬送機構3は、成膜材料Maと対向した状態で成膜対象物11を保持する成膜対象物保持部材16を搬送方向Aに搬送する。例えば保持部材16は、成膜対象物の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向Aに沿って等間隔に配置され、成膜対象物保持部材16を支持しつつ搬送方向Aに搬送する。なお、成膜対象物11は、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が用いられる。
【0022】
プラズマ源7は、圧力勾配型であり、その本体部分が成膜室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して成膜室10bに接続されている。プラズマ源7は、真空チャンバー10内でプラズマビームPを生成する。プラズマ源7において生成されたプラズマビームPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へ出射される。プラズマビームPは、プラズマ口10cに設けられたステアリングコイル(不図示)によって出射方向が制御される。
【0023】
圧力調整装置8は、真空チャンバー10に接続され、真空チャンバー10内の圧力を調整する。圧力調整装置8は、例えば、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の減圧部と、真空チャンバー10内の圧力を測定する圧力測定部とを有している。
【0024】
ハース機構2は、成膜材料Maを保持するための機構である。ハース機構2は、真空チャンバー10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3から見てX軸方向の負方向に配置されている。ハース機構2は、プラズマ源7から出射されたプラズマビームPを成膜材料Maに導く主陽極又はプラズマ源7から出射されたプラズマビームPが導かれる主陽極である主ハース17を有している。
【0025】
主ハース17は、成膜材料Maが充填されたX軸方向の正方向に延びた筒状の充填部17aと、充填部17aから突出したフランジ部17bとを有している。主ハース17は、真空チャンバー10が有する接地電位に対して正電位に保たれているため、プラズマビームPを吸引する。このプラズマビームPが入射する主ハース17の充填部17aには、成膜材料Maを充填するための貫通孔17cが形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔17cの一端において成膜室10bに露出している。
【0026】
輪ハース6は、プラズマビームPを誘導するための電磁石を有する補助陽極である。輪ハース6は、成膜材料Maを保持する主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石20は容器12に収容されている。輪ハース6は、コイル9に流れる電流の大きさに応じて、成膜材料Maに入射するプラズマビームPの向き、または、主ハース17に入射するプラズマビームPの向きを制御する。また、永久磁石20は、所望の膜厚分布を得ることができるように、磁力の調整を行うことができる。
【0027】
成膜材料Maには、ITOやZnOなどの透明導電材料や、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPからの電流によって主ハース17が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子(蒸発粒子)Mbが成膜室10b内に拡散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、主ハース17にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発し、プラズマビームPによりイオン化された成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に拡散する。成膜室10b内に拡散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10bのX軸正方向へ移動し、搬送室10a内において成膜対象物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、所定長さの円柱形状に成形された固体物であり、一度に複数の成膜材料Maがハース機構2に充填される。そして、最先端側の成膜材料Maの先端部分が主ハース17の上端との所定の位置関係を保つように、成膜材料Maの消費に応じて、成膜材料Maがハース機構2のX負方向側から順次押し出される。
【0028】
また、成膜装置1は、ハース機構2、輪ハース6及びプラズマ源7の組み合わせを複数組備えるものであり、複数の蒸発源を有する。複数のハース機構2は、Z軸方向に等間隔で配置され、ハース機構2に対応して輪ハース6及びプラズマ源7がそれぞれ配置されている。成膜装置1は、Z軸方向の複数個所から成膜材料Maを蒸発させて成膜材料粒子Mbを拡散させることができる。
【0029】
ここで、成膜装置1は、蒸発源の成膜材料Maから蒸発する成膜材料粒子Mbの向きを所定時間ごとに変化させる蒸発方向調整部21を備えている。蒸発方向調整部21は、輪ハース6の環状のコイル9と、このコイル9に電流を供給するハースコイル電源部22とを有する。ハースコイル電源部22は、直流に交流を重畳させた電流をコイル9に供給する。ハースコイル電源部22は、所定時間ごとに電流値を交互に20A又は30Aに切り替えることで、主ハース17近傍の磁場を変化させて成膜材料粒子Mbの広がり幅を変える。電流値を切替える周期は、成膜対象物11の搬送速度や、蒸発源から成膜対象物11までの成膜材料粒子Mbの移動時間に応じて選択してもよい。また、コイル9に供給される電流値は20A,30Aに限定されず、その他の値の電流値でもよい。
【0030】
図2では、主ハース近傍の磁場及び成膜材料粒子Mbの向きを示している。図2(a)は、コイル9に20Aの電流が供給されている場合を示し、図2(b)は、コイル9に30Aの電流が供給されている場合を示している。コイル9に流れる電流値を上げてコイル9による磁場を強くすることで、成膜材料粒子Mbの直進方向(X軸方向)の指向性を強め成膜材料粒子Mbの広がり幅を狭めることができる。一方、コイル9に流れる電流値を下げてコイル9による磁場を弱めることで、成膜材料粒子Mbが進行する向きの指向性を弱め成膜材料粒子Mbの広がり幅を広げることができる。
【0031】
蒸発方向調整部21は、隣接する輪ハース6のコイル9において互いに異なる電流値となるように制御している。蒸発方向調整部21は、例えば、一方の輪ハース6のコイル9の電流値が20Aである場合には、一方の輪ハース6に隣接する他方の輪ハース6のコイル9の電流値を30Aとする。また、蒸発方向調整部21は、隣接するコイル9同士の電流値が同じにならないように、電流値を切替えるタイミングを同じにする。
【0032】
図3では、成膜材料粒子Mbの広がり幅の時間的な変化を示している。図3では、Z軸方向に3個の蒸発源を有する場合を示し、図3(a)〜図3(c)の順に時間が進行したときの状態を示している。図3(a)に示される状態(第1の状態)では、ハースコイル電源部22は、中央の輪ハース6のコイル9に20Aの電流を流し、隣接する外側の輪ハース6のコイル9に30Aの電流を流している。このとき、中央の20Aの場合の成膜材料粒子Mbの広がり幅Waは、隣接する外側の30Aの場合の成膜材料粒子Mbの広がり幅Wbより広くなっている。
【0033】
次に、図3(b)に示される状態(第2の状態)では、ハースコイル電源部22は、中央の輪ハース6のコイル9に30Aの電流を流し、隣接する外側の輪ハース6のコイル9に20Aの電流を流している。このとき、中央の30Aの場合の成膜材料粒子Mbの広がり幅Wbは、隣接する外側の20Aの場合の成膜材料粒子Mbの広がり幅Waより狭くなっている。そして、図3(c)に示される状態(第1の状態)は、図3(a)に示される状態と同じであり、このようにして、第1の状態及び第2の状態を繰り返すことで周期的に電流値を切替えて、成膜材料粒子Mbの広がり幅を変化させる。
【0034】
次に、本実施形態に係る成膜装置1の作用について説明する。
【0035】
成膜装置1は、成膜対象物11を搬送させながら成膜を行う。成膜を行う際には、成膜装置1は、プラズマ源7からプラズマビームPを照射して、成膜材料Maを加熱し蒸発させる。
成膜材料Maから蒸発した成膜材料粒子Mbは、蒸発源から所定の角度で広がり拡散する。ハースコイル電源部22は、コイル9に流す電流を周期的に切り替えることができるので、主ハース17近傍の磁場を調整して成膜材料粒子Mbの向きを変化させる。
【0036】
このような成膜装置1によれば、蒸発源から蒸発する成膜材料粒子Mbの向きを周期的に変化させて拡散の状態を変化させることができる。成膜材料粒子Mbの活性度は成膜材料粒子Mbによって異なるので、成膜材料粒子Mbの拡散の状態を変化させることで、活性度の高い成膜材料粒子Mbを分散させて膜質が良好な領域を広げることができる。これにより、活性度の高い成膜材料粒子Mbが付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0037】
膜質が良好な領域とは、例えば成膜対象物である基板に透明導電膜を成膜する場合、透明導電膜の抵抗値が低い領域や、透明度が高い領域をいう。従来の成膜装置では、例えば抵抗値の範囲が基準値から5%以内であったものを、成膜装置1では抵抗値の範囲を基準値から3%以内に抑えることができる。
【0038】
成膜装置1では、複数の蒸発源を有し、成膜材料粒子Mbの拡散の状態を、隣接する蒸発源同士で同一とならないように調整することができる。例えば、隣接する蒸発源の中央に対応する位置に相対する成膜対象物11の領域において、一方の蒸発源から蒸発した成膜材料粒子Mbを付着させたあとに、他方の蒸発源から蒸発した成膜材料粒子Mbを付着させることができ、活性度の高い成膜材料粒子Mbが付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0039】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る成膜装置が上記の第1実施形態に係る成膜装置1と異なる点は、蒸発方向調整部40の構成が違う点であり、主に輪ハース41の構成が異なっている。なお、第1実施形態と同様の説明は省略する。蒸発方向調整部40は、蒸発源から蒸発する成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを周期的に振ることができる。輪ハース41は、図4及び図5に示されるように、環状の永久磁石20に重畳された補助コイル46を備えている。補助コイル46は、一対の内コイル42,43と、一対の外コイル44,45とを有する。なお、図5では、輪ハース41のケース12の図示を省略している。輪ハース41は、ケース12内に、コイル9、永久磁石20及び補助コイル46を有する。
【0040】
補助コイル46は、永久磁石20のコイル9とは反対側の面(成膜対象物が配置される側の面)上に配置されている。一対の内コイル42,43は、輪ハース41の軸線方向から見て、蒸発源を挟んでZ軸方向の両側に配置されている。図4及び図5では、左側に内コイル42が配置され、右側に内コイル43が配置されている。内コイル42,43は、環状の永久磁石20の周方向に沿う略扇型の平面コイルである。内コイル42,43の軸線方向は、X軸方向に沿って配置されている。
【0041】
一対の外コイル44,45は、輪ハース41の軸線方向から見て、蒸発源を挟んでZ軸方向の両側であり、一対の内コイル42,43の外側に配置されている。図4及び図5では、左側に外コイル44が配置され、右側に外コイル45が配置されている。外コイル44,45は、環状の永久磁石20の周方向に沿う略扇型の平面コイルである。外コイル44,45の軸線方向は、X軸方向に沿って配置されている。
【0042】
また、蒸発方向調整部40は、補助コイル46に交流電流を供給する補助コイル電源部47を備えている。補助コイル電源部47は、一対の内コイル42,43間と、一対の外コイル44,45間とで、逆向きの起磁力を生じさせるように交流電流を供給する。
【0043】
例えば、内コイル42の上側(成膜対象物側)がN極で下側がS極であり、内コイル43の上側がS極で下側がN極である場合には、補助コイル電源部47は、外コイル44の上側がS極で下側がN極、且つ、外コイル45の上側がN極で下側がS極となるように、電流を供給する。このとき、一対の内コイル42,43によって、内コイル42から内コイル43への右向きの磁場が形成され、一対の外コイル44,45によって、外コイル45から外コイル44への左向きの磁場が形成される。これにより、輪ハース41の中心軸CL上において、補助コイル46の付近では内コイル42,43により形成される磁場と外コイル44,45により形成される磁場とが打ち消し合う。そして、輪ハース41の中心軸CL上において、補助コイル46から上方方向)に離れた場所では、外コイル44,45により形成される磁場の影響を強く受けるため左向きの磁場が形成される。蒸発源から蒸発する成膜材料粒子MbはX軸方向から左側へ傾斜して進むので、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを左に向けることができる。
【0044】
また、内コイル42の上側がS極で下側がN極であり、内コイル43の上側がN極で下側がS極である場合には、補助コイル電源部47は、外コイル44の上側がN極で下側がS極、且つ、外コイル45の上側がS極で下側がN極となるように、電流を供給する。このとき、一対の内コイル42,43によって、内コイル43から内コイル44への左向きの磁場が形成され、一対の外コイル44,45によって、外コイル44から外コイル45への右向きの磁場が形成される。これにより、輪ハース41の中心軸CL上において、補助コイル46の付近では内コイル42,43により形成される磁場と外コイル44,45によ形成される磁場とが打ち消し合う。そして、輪ハース41の中心軸CL上において、補助コイル46から上方に離れた場所では、外コイル44,45により形成される磁場の影響を強く受けるため右向きの磁場が形成される。蒸発源から蒸発する成膜材料粒子MbはX軸方向から右側へ傾斜して進むので、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを右に向けることができる。
【0045】
図6では、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きの時間的な変化を示している。図6では、Z軸方向に3個の蒸発源を有する場合を示し、図6(a)〜図6(c)の順に時間が進行したときの状態を示している。図6(a)に示される状態では、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きは左に向けられている。次に、図6(b)に示される状態では、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きは右に向けられている。そして、図6(c)に示される状態では、図6(a)に示す場合と同じ状態であり、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きは左に向けられている。蒸発方向調整部40は、隣接する複数の蒸発源において、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きが同じとなるように変化の位相を同一として、タイミングを合わせている。このようにして、蒸発方向調整部40は、補助コイル46に供給する電流を周期的に切り替えることで、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを左右(Z軸方向)に振ることができる。
【0046】
図7では、一対の内コイル42,43により輪ハース41の中心軸CL上に形成される磁場の強度H、一対の外コイル44,45により輪ハース41の中心軸CL上に形成される磁場の強度H、及び輪ハース41の中心軸CL上に形成される合成磁場の強度Hを示している。合成磁場の強度Hは、磁場強度Hと磁場強度Hとを合成したものである。図7に示す縦軸は、補助コイル46からの距離を示し、横軸は、Z軸方向に沿う磁場の強度を示している。図7の状態では、一対の内コイル42,43による磁場は左向きであり、一対の外コイル44,45による磁場は右向きである。
【0047】
例えば、一対の内コイル42,43による磁場強度HのピークH1Pは、蒸発源から6cm離れた位置であり、一対の外コイル44,45による磁場強度HのピークH2Pは、蒸発源から10cm離れた位置となっている。磁場強度H,Hを比較すると、一対の内コイル42,43による磁場は、蒸発源に近い方で作用し、一対の外コイル44,45による磁場は、蒸発源に遠い方で作用している。
【0048】
そして、合成磁場の強度Hは、蒸発源の近傍では、ほぼゼロであり、蒸発源から15cmのことで、最大となり右に向いている。これにより、蒸発源の近傍では補助コイル46により形成される横方向の磁場はほぼゼロでありながら、蒸発源からある程度離れた場所における補助コイル46により形成される横方向の磁場を成膜材料粒子Mbに印加することができる。そして、蒸発源から蒸発する成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを右に向けることができる。なお、拡散中心の向きを左に向ける場合の磁場強度については、左右対称であり説明は省略する。
【0049】
このような第2実施形態に係る成膜装置によれば、蒸発源の近傍では、一対の外コイル44,45による磁場の影響をなくすように一対の内コイル42,43による磁場を生じさせ、蒸発源から15cm程度離れた位置では、一対の外コイル44,45による磁場によって、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを変えるようにすることができる。蒸発方向調整部40によって、成膜材料粒子Mbの拡散中心の向きを周期的に左右に(成膜対象物の幅方向に)、振ることで、活性度の高い成膜材料粒子Mbが付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0050】
隣接する蒸発源の中央に対応する位置に相対する成膜対象物の領域において、両方の蒸発源から交互に成膜材料粒子Mbが到達することができ、活性度の高い蒸発粒子が付着する位置の偏りを抑制して、膜質の分布の均一化を図ることができる。
【0051】
また、一対の外コイル44,45による起磁力は、一対の内コイル43,44による起磁力の2.5倍程度としてもよい。これにより、蒸発源の近傍では補助コイル46により形成される横方向の磁場はほぼゼロでありながら、永久磁石20によるカスプ磁場付近の位置に横方向(Z軸方向)の磁場を発生させることができる。
【0052】
また、補助コイル46に供給される交流電流の周波数は、例えば、10Hz以上170Hz以下とすることができる。この周波数は、成膜対象物の搬送速度に応じて適宜選択する。また、周波数が高すぎると、ケース12から磁力が出なくなり適切な磁場を形成することができなくな
【0053】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、下記のような種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態では、複数の蒸発源を備える成膜装置に、蒸発方向調整部を設けているが、一つの蒸発源を備える成膜装置に、蒸発方向調整部を設けてよい。
【0055】
また、上記実施形態では、成膜材料粒子の広がり幅を変えたり、拡散中心の向きを変えたりしているが、広がり幅を変えると共に拡散中心の向きを変えてもよい。
【0056】
また、蒸発方向調整部40は、一対の内コイル及び一対の外コイルを備える構成であるが、例えば、一対のコイルのみを備える構成でもよい。また、一対の補助コイルの形状は、限定されず、円形や矩形などその他の形状でもよい。
【0057】
また、蒸発方向調整部40によって、例えば、左右方向に成膜材料粒子の拡散中心の向きを変えているが、その他の方向に拡散中心の向きを変えるようにしてもよい。例えば、X軸方向から見た場合に、磁石30の周方向に旋回するように拡散中心の向きを変えてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…成膜装置、6,41…輪ハース、7…プラズマ源、10…真空チャンバー、11…成膜対象物、17…主ハース、20…永久磁石21,40…蒸発方向調整部、42,43…一対の内コイル、44,45…一対の外コイル、46…補助コイル。
図1
図2
図4
図5
図7
図3
図6