特許第6054256号(P6054256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6054256ブレーキディスクの摩擦試験による熱き裂評価方法及びその評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054256
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ブレーキディスクの摩擦試験による熱き裂評価方法及びその評価装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/02 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   F16D66/02 Z
   F16D66/02 X
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-122329(P2013-122329)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-240665(P2014-240665A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮内 瞳畄
(72)【発明者】
【氏名】柿嶋 秀史
(72)【発明者】
【氏名】半田 和行
(72)【発明者】
【氏名】森本 文子
(72)【発明者】
【氏名】深貝 晋也
(72)【発明者】
【氏名】森 久史
(72)【発明者】
【氏名】高垣 昌和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康夫
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−105581(JP,A)
【文献】 特開昭58−017352(JP,A)
【文献】 特開2005−351910(JP,A)
【文献】 特開2008−224241(JP,A)
【文献】 特開平8−201256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクの摩擦試験機を用い、ブレーキディスクの摩擦表面に熱き裂を発生するために、このブレーキディスクの裏面に円周から中心に向かうスリットを形成し、このブレーキディスクとライニングを所定の試験条件で摩擦させ、試験後、このブレーキディスクの表面を研摩し、蛍光磁粉探傷法に基づいて傷を確認し、その部位を切断し、断面組織の観察により熱き裂の判断を行うブレーキディスクの熱き裂の評価方法であって、前記スリットの寸法は幅が15mm、厚さ1mm又は2mm、外周隅端部に丸みを有し、前記所定の試験条件が、摩擦速度22m/s、押付力1.8kN(1MPa)、1回の押付時間180s、試験開始のディスク温度を60℃で、試験を繰り返すことを特徴とするブレーキディスクの熱き裂の評価方法。
【請求項2】
(a)ブレーキディスクの裏面に円周から中心に向かうスリットと、
(b)このブレーキディスクとライニングを所定の試験条件で摩擦させ、試験後、該ブレーキディスクの表面を研摩し、
(c)蛍光磁粉探傷法に基づいて表面の傷を確認し、その部位を切断し、断面組織の観察により熱き裂の判断を行うき裂の評価装置とを具備するブレーキディスクの熱き裂の評価装置であって、前記スリットの寸法は幅が15mm、厚さ1mm又は2mm、外周隅端部に丸みを有し、前記所定の試験条件が、摩擦速度22m/s、押付力1.8kN(1MPa)、1回の押付時間180s、試験開始のディスク温度を60℃以下で、試験を繰り返すことを特徴とするブレーキディスクの熱き裂の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクの摩擦試験による熱き裂評価方法及びその評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキディスクの寿命を短縮する要因として熱き裂がある。
【0003】
かかるブレーキディスクの摩耗を測定する装置としては、下記の特許文献1,2に開示されるようなものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144870号公報
【特許文献2】特開2010−151221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、耐熱き裂性に優れたブレーキディスクを開発するにしても、実物大のブレーキ試験装置においては、現状では現車と同様の熱き裂を再現ることができず、ディスクの耐熱き裂性の評価が困難な状況にある。
【0006】
そこで、本発明では、上記状況に鑑みて、ブレーキディスクの摩擦試験機を使用して、試験条件やブレーキディスク形状を工夫することにより、ブレーキディスクの摩擦表面に熱き裂を発生させ、ブレーキディスクの熱き裂の評価方法及びその評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ブレーキディスクの熱き裂の評価方法において、ブレーキディスクの摩擦試験機を用い、ブレーキディスクの摩擦表面に熱き裂を発生するために、このブレーキディスクの裏面に円周から中心に向かうスリットを形成し、このブレーキディスクとライニングを所定の試験条件で摩擦させ、試験後、このブレーキディスクの表面を研摩し、蛍光磁粉探傷法に基づいて表面の傷を確認し、その部位を切断し、断面組織の観察により熱き裂の判断を行うブレーキディスクの熱き裂の評価方法であって、前記スリットの寸法は幅が15mm、厚さ1mm又は2mm、外周隅端部に丸みを有し、前記所定の試験条件が、摩擦速度22m/s、押付力1.8kN(1MPa)、1回の押付時間180s、試験開始のディスク温度を60℃で、試験を繰り返すことを特徴とする。
【0008】
〔2〕(a)ブレーキディスクの裏面に円周から中心に向かうスリットと、
(b)このブレーキディスクとライニングを所定の試験条件で摩擦させ、試験後、該ブレーキディスクの表面を研摩し、
(c)蛍光磁粉探傷法に基づいて表面の傷を確認し、その部位を切断し、断面組織の観察により熱き裂の判断を行うき裂の評価装置とを具備するブレーキディスクの熱き裂の評価装置であって、前記スリットの寸法は幅が15mm、厚さ1mm又は2mm、外周隅端部に丸みを有し、前記所定の試験条件が、摩擦速度22m/s、押付力1.8kN(1MPa)、1回の押付時間180s、試験開始のディスク温度を60℃以下で、試験を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摩擦試験機で実物大のブレーキディスクの熱き裂の評価を行うことができる。
【0010】
このように、摩擦試験機でブレーキディスクの熱き裂の評価ができるので、開発コストの削減を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るスリットディスクの形状を示す図である。
図2】本発明の実施例におけるSlit15−1R、50回後の外観および磁粉探傷を示す図である。
図3】本発明の実施例におけるSlit15−2R、50回後の外観および磁粉探傷を示す図である。
図4図2(b)の実線断面の組織を示す図である。
図5図3(b)の実線断面の組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ブレーキディスクの熱き裂の評価方法は、ブレーキディスクの摩擦試験機を用い、ブレーキディスクの摩擦表面に熱き裂を発生するために、このブレーキディスクの裏面に円周から中心に向かうスリットを形成し、このブレーキディスクとライニングを所定の試験条件で摩擦させ、試験後、このブレーキディスクの表面を研摩し、蛍光磁粉探傷法に基づいて表面の傷を確認し、その部位を切断し、断面組織の観察により熱き裂の判断を行うブレーキディスクの熱き裂の評価方法であって、前記スリットの寸法は幅が15mm、厚さ1mm又は2mm、外周隅端部に丸みを有し、前記所定の試験条件が、摩擦速度22m/s、押付力1.8kN(1MPa)、1回の押付時間180s、試験開始のディスク温度を60℃で、試験を繰り返す。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明に係るスリットディスクの形状を示す図であり、図1(a)はスリット(Slit)ディスク15mm−1mm(厚み)、円周隅端部のR(アール)の裏面(1B)図、図1(b)はスリット(Slit)ディスクの幅15mm−1mm(厚み)、円周隅端部のR(アール)の側面図、図1(c)はスリット(Slit)ディスク15mm−2mm(厚み)、円周隅端部のR(アール)の側面図である。
【0015】
ここで、ディスク1:S35C、ライニング(相手材):銅系焼結合金であり、ディスク1の裏面1Bには円周から中心に向かうスリット2が形成される。このスリット2の寸法は、幅が15mm、厚さ1mm又は2mm、外周隅端部に丸みR(アール)を有する。
【0016】
試験条件としては、摩擦速度22m/s、押付力1.8kN(1MPa)、1回の押付時間180s、試験開始のディスク温度を60℃以下、試験回数50回である。
【0017】
以下、熱き裂の評価方法について説明する。
【0018】
50回後の加工部の摩擦表面を研摩し、摩擦試験によってディスク摩擦表面に付着したライニング材を除去し、発生した傷(き裂)を見えやすくし、蛍光磁粉探傷法により傷の確認を行った。さらに、熱き裂が発生したと思われるスリット(Slit)15−1Rとスリット(Slit)15−2Rについては、熱き裂と考えられる箇所の断面を切断し、断面組織観察を行った。
【0019】
次に、熱き裂の評価結果について説明する。
【0020】
Slit15−1R(1)、Slit15−2R(11)には熱き裂と考えられる傷が発生したため、その部位(2,12)の詳細観察を行った。
【0021】
図2は本発明の実施例におけるSlit15−1R、50回後の外観および磁粉探傷を示す図であり、図2(a)はSlit15−1Rの外観を示す図、図2(b)はSlit15−1Rの磁粉探傷を示す図である。図3は本発明の実施例におけるSlit15−2R、50回後の外観および磁粉探傷を示す図であり、図3(a)はSlit15−2Rの外観を示す図、図3(b)はSlit15−2Rの磁粉探傷を示す図である。
【0022】
図2(b)及び図3(b)に示す蛍光磁粉探傷後のディスク表面には、半径方向に微細な傷が認められた。実線の部位(3,13)で切断し、断面組織観察を行った。
【0023】
図4図2(b)の実線断面の組織を示す図、図5図3(b)の実線断面の組織を示す図である。ここで、図4(a),図5(a)は実物大の実線断面の組織図、図4(b),図5(b)は拡大された実線断面の組織図、図4(c),図5(c)は溶液を用いて組織を見やすくした図である。
【0024】
このように、図2(b)の実線断面の組織を図4に、図3(b)の実線断面の組織を図5ににそれぞれ示しており、実物大のブレーキディスクに認められる熱き裂と類似のき裂が認められ、今回の試験で認められたき裂は熱き裂であると考えられる。
【0025】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のブレーキディスクの熱き裂の評価方法は、ブレーキディスクの小型の摩擦試験機で実物大のブレーキディスクの熱き裂の評価を行うことができ、開発コストの削減を行うことができるブレーキディスクの熱き裂の評価方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 Slit15−1R(ブレーキディスク)
11 Slit15−2R(ブレーキディスク)
1A,11A ブレーキディスクの表面
1B ブレーキディスクの裏面
2,12 熱き裂が発生する部位
3,13 実線の部位
図1
図2
図3
図4
図5