(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の三次元造形では、平面形状を積層して積層物である金属部材を形成するため、製造工程が増加し、金属部材の製造に要する時間が長くなる。
【0006】
一方、上述の粉体肉盛り溶接では、予め所定の形状を有する母材を用いるため、上述の三次元造形に比して、製造工程が少なくて済む。ところが、母材の表面に形成された凸状の溶接金属の高さを確保するためには、金属粉体の溶融物を積層する必要がある。従って、凸状の溶接金属の高さを確保する場合には、製造工程が増加し、金属部材の製造に要する時間が長くなる。
【0007】
そこで、本発明は、製造に要する時間を短くすることができる金属部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の金属部材の製造方法は、金属製の母材に
多数の金属粉体を接触させる粉体接触工程と、前記母材に前記
多数の金属粉体を接触させた状態で、前記母材及び前記
多数の金属粉体に向けて高エネルギービームを照射することにより前記母材の一部及び前記
多数の金属粉体の一部を溶融させて溶融物を生成すると共に、前記溶融物を固化させることにより前記母材に凸状の溶接金属を形成して金属部材を得る溶接工程と、を備えている。
【0009】
この金属部材の製造方法によれば、高エネルギービームが照射されることにより、母材の一部及び
多数の金属粉体の一部が溶融されて高エネルギービームの光軸方向を高さ方向(深さ方向)とする溶融物が生成される。そして、この溶融物が固化されることにより母材に凸状の溶接金属が形成されて金属部材が得られる。従って、凸状の溶接金属を母材に形成するために金属粉体の溶融物を積層する必要が無いので、従来の方法(例えば三次元造形や粉体肉盛り溶接など)に比して製造工程を少なくすることができる。これにより、金属部材の製造に要する時間を短くすることができる。
【0010】
しかも、金属製の母材に接触された
多数の金属粉体のうちの一部のみを溶融させるので、溶融物が固化される際には、残存した金属粉体が溶融物に対して型の役割(溶融物の形状保持及び放熱)を果たすようになる。従って、溶融物の形状(高エネルギービームの光軸方向を高さ方向とする形状)を維持することができるので、溶融物の形状を維持したまま溶融物を固化させることができる。これにより、凸状の溶接金属の高さを確保することができる。
【0011】
請求項2に記載の金属部材の製造方法は、請求項1に記載の金属部材の製造方法において、前記溶接工程では、前記母材及び前記
多数の金属粉体に対して前記高エネルギービームを相対移動させて、前記高エネルギービームの相対移動方向に沿って前記母材の一部及び前記
多数の金属粉体の一部を溶融させる方法である。
【0012】
この金属部材の製造方法によれば、母材及び
多数の金属粉体に対して高エネルギービームを相対移動させて、この高エネルギービームの相対移動方向に沿って母材の一部及び
多数の金属粉体の一部を溶融させるので、高エネルギービームの相対移動方向に連続して溶融物を生成することができる。これにより、この溶融物を固化させることで突条の溶接金属を母材に形成することができる。
【0013】
請求項3に記載の金属部材の製造方法は、請求項2に記載の金属部材の製造方法において、前記溶接工程では、前記高エネルギービームを照射することにより、前記母材の一部及び前記
多数の金属粉体の一部に前記溶融物としての溶融池を形成すると共に、前記溶融池にキーホールを形成しながら、前記高エネルギービームを相対移動させる方法である。
【0014】
この金属部材の製造方法によれば、母材の一部及び
多数の金属粉体の一部に形成された溶融池にキーホールを形成しながら、高エネルギービームを相対移動させる。従って、キーホールを通じて高エネルギービームを金属粉体の深い位置まで届かせることができるので、突条の溶接金属の高さをより高くすることができる。
【0015】
請求項4に記載の金属部材の製造方法は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の金属部材の製造方法において、前記粉体接触工程では、前記母材の一方側の面に前記
多数の金属粉体を接触させ、前記溶接工程では、前記高エネルギービームの焦点を前記母材の他方側の面から前記
多数の金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定した状態で、前記母材の他方側から前記母材及び前記
多数の金属粉体に向けて前記高エネルギービームを照射する方法である。
【0016】
この金属部材の製造方法によれば、高エネルギービームの焦点を母材の他方側の面から
多数の金属粉体の内部までのいずれかの位置に設定するので、母材の一部及び
多数の金属粉体の一部を効果的に溶融させて溶融物を生成することができる。
【0017】
請求項5に記載の金属部材の製造方法は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の金属部材の製造方法において、前記母材として、筒体を用い、前記粉体接触工程では、前記筒体の内面に前記
多数の金属粉体を接触させ、前記溶接工程では、前記筒体の外側から前記母材及び前記
多数の金属粉体に向けて前記高エネルギービームを照射する方法である。
【0018】
この金属部材の製造方法によれば、筒体の内面に
多数の金属粉体を接触させた状態で、筒体の外側から母材及び
多数の金属粉体に向けて高エネルギービームを照射するので、筒体の内側に突出する溶接金属を形成することができる。
【0019】
請求項6に記載の金属部材の製造方法は、請求項5に記載の金属部材の製造方法において、前記粉体接触工程において、前記筒体の内側に前記
多数の金属粉体を充填することにより、前記筒体の内面に前記
多数の金属粉体を接触させる方法である。
【0020】
この金属部材の製造方法によれば、筒体の内側に
多数の金属粉体を充填するので、金属粉体の流動を抑制することができる。これにより、金属粉体の溶融物の形状が崩れることを抑制することができるので、溶融物の形状をより安定して維持したまま溶融物を固化させることができる。
【0021】
請求項7に記載の金属部材の製造方法は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の金属部材の製造方法において、前記母材と保持部材とで形成された二重構造体を用い、前記粉体接触工程では、前記母材と前記保持部材との間に前記
多数の金属粉体を充填させ、前記溶接工程では、前記二重構造体の外側から前記母材と前記保持部材と前記
多数の金属粉体に向けて前記高エネルギービームを照射する方法である。
【0022】
この金属部材の製造方法によれば、母材と保持部材との間に
多数の金属粉体を充填させた状態で、二重構造体の外側から母材と保持部材と
多数の金属粉体に向けて高エネルギービームを照射する。従って、例えば、保持部材に金属部材を用いた場合には、母材と保持部材とを連結する溶接金属を形成することができる。また、例えば、母材の外側に保持部材を配置した状態で母材に溶接金属を形成し、その後に保持部材を取り除けば、母材の外側に突出する溶接金属を形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上詳述したように、本発明によれば、金属部材の製造に要する時間を短くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0029】
図1に示されるように、本実施形態では、一例として、金属製の筒体12と、この筒体12の内側に突出する複数の溶接金属14とを有する金属部材10の製造方法について説明する。
以下の説明において、本発明における『多数の金属粉体』については、単に『金属粉体』と称する。
【0030】
この金属部材10の製造方法に用いる製造装置20は、高エネルギービームを出射する出射部24と、この出射部24から出射された高エネルギービームを対象物に向けて照射する照射部26と、筒体12を軸周りに回転及び軸方向に移動させる駆動部28と、これらを制御する制御部30とを備えている。
【0031】
出射部24は、レーザ発振器により構成されており、この出射部24から出射される高エネルギービームは、一例として、レーザビームとされている。この出射部24では、出射される高エネルギービームのエネルギーが調節可能となっている。照射部26は、レンズ等を含む光学系により構成されている。この照射部26では、レンズ等が移動されることにより、照射される高エネルギービームの焦点距離が調節可能となっている。
【0032】
そして、この製造装置20により、以下の要領にて金属部材10が製造される。すなわち、先ず、
図1(A)に示されるように、母材の一例である円筒状の筒体12が製造装置20にセットされる。
【0033】
続いて、
図1(B)に示されるように、筒体12の内側に金属粉体32が充填されると共に、筒体12の両側の開口部が一対の蓋34により閉塞される。このとき、金属粉体32が筒体12の内面12Aの全体に亘って接触されるように、筒体12の内側には十分な量の金属粉体32が充填される(以上、粉体接触工程)。本実施形態では、一例として、金属製の筒体12と同一の金属である金属粉体32が使用される。この金属としては、例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム、銅などが適宜選択される。
【0034】
そして、
図1(C)に示されるように、筒体12の内側に金属粉体32が充填された状態で、筒体12の径方向外側に位置する照射部26から筒体12及び金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射される。
【0035】
このとき、より具体的には、制御部30によって照射部26が制御されて照射部26内のレンズ等が移動されることにより、高エネルギービーム22の焦点距離が調節される。そして、
図2(A)に示される如く、高エネルギービーム22の焦点22Aが筒体12の内面12A(母材の一方側の面)よりも金属粉体32側(内面12Aよりも筒体12の内側)の位置に設定される。また、この状態で、筒体12の外側(母材の他方側)から筒体12及び金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射される。
【0036】
このように高エネルギービーム22が照射されると、筒体12の一部及び金属粉体32の一部に溶融物としての溶融池36が形成される。この高エネルギービーム22のパワー密度が高い場合、溶融池36の表面では金属の蒸発が生じ、金属の蒸気38が発生する。また、この蒸気38によって溶融池36の表面に反発力が発生し、溶融池36の中央部にくぼみが生じる。そして、このくぼみが深くなると、この溶融池36にキーホール40が形成される。このように溶融池36にキーホール40が形成されると、このキーホール40を通じて高エネルギービーム22が金属粉体32の深い位置まで届くようになる。
【0037】
そして、
図2(B)に示されるように、溶融池36にキーホール40を形成しながら、筒体12及び金属粉体32に対して高エネルギービーム22が相対移動される。この高エネルギービーム22の相対移動方向は、筒体12の周方向とされる。また、この筒体12及び金属粉体32に対する高エネルギービーム22の相対移動は、
図1に示される制御部30によって駆動部28が作動されると共に、この駆動部28によって筒体12が軸周りに回転されることにより行われる。
【0038】
そして、このようにして高エネルギービーム22が相対移動されると、
図2(B)に示されるように、この高エネルギービーム22の相対移動方向に沿って溶融池36が生成される。このとき、相対移動する高エネルギービーム22の照射位置Pでは溶融池36が形成されるが、溶融池36が広がる前に高エネルギービーム22が相対移動されるので、高エネルギービーム22の相対移動方向における照射位置Pよりも後側Rでは溶融池36が冷却されて固化される。
【0039】
このように、本実施形態では、相対移動する高エネルギービーム22の照射位置Pでは溶融池36が形成されるが、高エネルギービーム22の相対移動方向における照射位置Pよりも後側Rでは溶融池36が冷却されて固化されるように、高エネルギービーム22の相対移動速度が設定される。
【0040】
そして、このようにして溶融池36が冷却されて固化されることにより、
図2(C)に示されるように、筒体12の内側に突出する凸状の溶接金属14が形成される。この溶接金属14は、筒体12の一部及び金属粉体32の一部が溶融されて生成された溶融池36が固化されることで形成されたものであるので、筒体12に一体に形成される。また、上述のように高エネルギービーム22は筒体12の周方向に相対移動されるので、溶接金属14は、筒体12の周方向に延びる突条に形成される。
【0041】
なお、本実施形態では、
図2(C)に示されるように、筒体12の内側に充填された金属粉体32のうちの一部のみが溶融され、金属粉体32のうち溶融されなかった部分は残存する。この残存した金属粉体32は、溶融池36が冷却されて固化される際には、溶融池36に対して型の役割(溶融池36の形状保持及び放熱)を果たすようになる。このため、本実施形態では、溶融池36の形状(高エネルギービーム22の光軸方向を深さ方向とする形状)が維持された状態で、溶融池36が固化されて溶接金属14が形成される。
【0042】
そして、本実施形態では、
図1(C)に示されるように、制御部30によって駆動部28が作動されて筒体12が軸方向に移動された後、上記動作が繰り返されることにより、筒体12の軸方向に離間した複数の箇所に溶接金属14がそれぞれ形成される(以上、溶接工程)。その後、筒体12から一対の蓋34が取り外されると共に、この筒体12の内側に残存する金属粉体32が筒体12の両側の開口部から筒体12の外部に排出される(粉体除去工程)。
【0043】
以上の要領で、
図1(D)に示されるように、筒体12と、この筒体12の内側に突出する複数の溶接金属14とを有する金属部材10が得られる。
【0044】
なお、
図2(D)には、以上の要領で製造された金属部材10における溶接金属14及びその周辺部の側面断面図が示されており、
図2(E)には、この溶接金属14及びその周辺部の正面断面図が示されている。
【0045】
一方、
図3には、上述の
図2の場合に比して、高エネルギービーム22の相対移動速度を遅くした場合が示されている。
図3(A)〜
図3(D)に示される製造方法の要領は、上述の
図2(A)〜
図2(D)に示される製造方法の要領と同様である。また、
図3(D)には、高エネルギービーム22の相対移動速度を遅くして製造された金属部材10における溶接金属14及びその周辺部の側面断面図が示されており、
図3(E)には、この溶接金属14及びその周辺部の正面断面図が示されている。
【0046】
図2(D)に示されるように、高エネルギービーム22の相対移動速度を速めた場合には、高エネルギービーム22を中心にした熱の広がりが抑制されるので、溶接金属14における長さ方向の両端部に形成される曲面14Aの曲率は小さくなる。また、
図2(E)に示されるように、溶接金属14の幅は狭くなり、且つ、溶接金属14における両側の側部に形成された曲面14Bの曲率も小さくなる。
【0047】
これに対し、
図3(D)に示されるように、高エネルギービーム22の相対移動速度を遅くした場合には、高エネルギービーム22を中心にして熱が広がるので、溶融池36が形成される領域が拡大される。従って、溶接金属14における長さ方向の両端部に形成される曲面14Aの曲率は大きくなる。また、
図3(E)に示されるように、溶接金属14の幅は広くなり、且つ、溶接金属14における両側の側部に形成された曲面14Bの曲率も大きくなる。
【0048】
また、特に図示しないが、出射部24から出射される高エネルギービーム22のエネルギーが増加されると、高エネルギービーム22による加熱温度が上昇して溶融池36の生成が促進されるので、溶融池36の深さ、ひいては、溶接金属14の高さが増加される。また、高エネルギービーム22の焦点22Aが筒体12の内面12Aよりも金属粉体32側の遠い位置(深い位置)に設定されると、高エネルギービーム22によって金属粉体32のより深い位置まで加熱されるので、溶融池36の深さ、ひいては、溶接金属14の高さが増加される。
【0049】
このように、上述の金属部材10の製造方法では、金属部材10の仕様(要求される溶接金属14の高さや形状等)に応じて、高エネルギービーム22の相対移動速度、高エネルギービーム22のエネルギー、及び、高エネルギービーム22の焦点距離等が設定される。
【0050】
また、
図4には、以上の要領で製造された金属部材10における溶接金属14及びその周辺部が斜視図により示されている。この
図4に示されるように、溶接金属14の表面には、複数の粒状突起42が形成される。この複数の粒状突起42は、上述の溶融池36の固化時に溶融池36に付着した金属粉体32(
図2,
図3参照)が、完全に溶融しないまま固化したことにより形成されたものである。つまり、この粒状突起42は、金属粉体32の不完全溶融物であるので、粉体形状を残しているものである。なお、使用される金属粉体32の粒径を変えることにより、粒状突起42の大きさ(つまり、溶接金属14の表面粗さ)を変更することが可能である。
【0051】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0052】
以上詳述したように、本実施形態によれば、高エネルギービーム22が照射されることにより、筒体12の一部及び金属粉体32の一部が溶融されて高エネルギービーム22の光軸方向を深さ方向とする溶融池36が生成される。そして、この溶融池36が固化されることにより筒体12に凸状の溶接金属14が形成されて金属部材10が得られる。従って、凸状の溶接金属14を筒体12に形成するために金属粉体32の溶融物を積層する必要が無いので、従来の方法(例えば三次元造形や粉体肉盛り溶接など)に比して製造工程を少なくすることができる。これにより、金属部材10の製造に要する時間を短くすることができるので、金属部材10の製造コストを抑えることができる。
【0053】
しかも、金属製の筒体12に接触された金属粉体32のうちの一部のみを溶融させるので、溶融池36が固化される際には、残存した金属粉体32が溶融池36に対して型の役割(溶融池36の形状保持及び放熱)を果たすようになる。従って、溶融池36の形状(高エネルギービーム22の光軸方向を深さ方向とする形状)を維持することができるので、溶融池36の形状を維持したまま溶融池36を固化させることができる。これにより、凸状の溶接金属14の高さを確保することができる。
【0054】
また、筒体12の内側に金属粉体32を充填することにより、筒体12の内面12Aに金属粉体32を接触させた状態で、筒体12の外側から筒体12及び金属粉体32に向けて高エネルギービーム22を照射するので、筒体12の内側に突出する溶接金属14を形成することができる。
【0055】
また、筒体12及び金属粉体32に対して高エネルギービーム22を相対移動させて、この高エネルギービーム22の相対移動方向に沿って筒体12の一部及び金属粉体32の一部を溶融させるので、高エネルギービーム22の相対移動方向に連続して溶融池36を生成することができる。これにより、この溶融池36を固化させることで突条の溶接金属14を筒体12に形成することができる。
【0056】
また、高エネルギービーム22の焦点22Aを筒体12の内面12Aよりも金属粉体32側(内面12Aよりも筒体12の内側)の位置に設定するので、筒体12の内面12Aよりも深い位置まで金属粉体32を溶融させて溶融池36を生成することができる。これにより、凸状の溶接金属14の高さをより高くすることができる。
【0057】
また、筒体12の一部及び金属粉体32の一部に形成された溶融池36にキーホール40を形成しながら、高エネルギービーム22を相対移動させる。従って、キーホール40を通じて高エネルギービーム22を金属粉体32の深い位置まで届かせることができるので、このことによっても、突条の溶接金属14の高さをより高くすることができる。
【0058】
また、筒体12の内側に金属粉体32を充填するので、金属粉体32の流動を抑制することができる。これにより、金属粉体32の溶融物である溶融池36の形状が崩れることを抑制することができるので、溶融池36の形状をより安定して維持したまま溶融池36を固化させることができる。
【0059】
なお、従来の粉体肉盛り溶接に対する本実施形態の有利な点は、次の通りである。つまり、従来の粉体肉盛り溶接では、以下の課題がある。(1)母材の表面に形成された凸状の溶接金属の高さを確保するためには、金属粉体の溶融物を積層する必要がある。従って、凸状の溶接金属の高さを確保する場合には、製造工程が増加し、金属部材の製造に要する時間が長くなる。(2)母材の表面に照射される高エネルギービームの照射領域に金属粉体を吹き付けることで金属粉体の溶融物を母材の表面に付着させると共に、この溶融物が固化させることで溶接金属を形成するので、溶接金属を母材の表面にしか形成することができない。
【0060】
これに対し、本実施形態に係る金属部材10の製造方法によれば、次の有利な点がある。つまり、(1)高エネルギービーム22の光軸方向を深さ方向とする溶融池36を生成するので、凸状の溶接金属14を筒体12に形成するために金属粉体32の溶融物を積層する必要が無い。このため、粉体肉盛り溶接に比して製造工程を少なくすることができるので、金属部材10の製造に要する時間を短くすることができる。(2)筒体12の内側に金属粉体32を充填することにより、筒体12の内面12Aに金属粉体32を接触させた状態で、筒体12の外側から筒体12及び金属粉体32に向けて高エネルギービーム22を照射するので、筒体12の内側に突出する溶接金属14を形成することができる。
【0061】
このように、本実施形態に係る金属部材10の製造方法は、従来の粉体肉盛り溶接に比して有利な点を有しており、利用価値の高い技術である。
【0062】
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0063】
[第一変形例]
上記実施形態では、
図1に示されるように、筒体12の内側に金属粉体32が充填されていた。しかしながら、
図5に示されるように、充填されるよりも少ない量の金属粉体32が筒体12の内側に収容されていても良い。つまり、
図5に示される変形例において、筒体12は、その中心軸が水平方向に延びるように配置されている。また、筒体12の側面断面視において筒体12の中心軸よりも低く且つ溶接金属14よりも高い位置に金属粉体32の表面が位置するように金属粉体32の量は設定されている。
【0064】
また、このように充填されるよりも少ない量の金属粉体32が筒体12の内側に収容された場合に、筒体12の鉛直方向下側から高エネルギービーム22が照射されると共に、駆動部28により筒体12が軸周りに回転されても良い。
【0065】
このようにすると、使用する金属粉体32の量を少なくすることができる。また、筒体12が軸周りに回転しても、金属粉体32は自重により筒体12における下部に位置するので、筒体12の鉛直方向下側から照射された高エネルギービーム22により筒体12の一部及び金属粉体32の一部を溶融させることができ、これにより突条の溶接金属14を形成することができる。
【0066】
[第二変形例]
また、上記実施形態では、
図1に示されるように、筒体12の中心軸が水平方向に延びるように筒体12が配置された状態で、この筒体12の周壁部に溶接金属14が形成されていた。しかしながら、
図6に示されるように、筒体12の中心軸が鉛直方向に延びるように筒体12が配置された状態で、この筒体12の周壁部に溶接金属14が形成されても良い。また、溶接金属14は、筒体12の軸方向に離間した複数個所に形成されても良い。
【0067】
このように、筒体12の軸方向に離間した複数個所に溶接金属14を形成する際に、筒体12の中心軸が鉛直方向に延びるように筒体12を配置した状態とすると、溶接金属14を形成したい領域に金属粉体32をその自重により留めておくことができるので好適である。
【0068】
つまり、筒体12の軸方向に離間した複数個所に溶接金属14を形成する際に、筒体12の中心軸が水平方向に延びるように筒体12を配置した状態(
図1参照)とすると、一の溶接金属14を形成した場合に、この一の溶接金属14の側に金属粉体32が偏ってしまい、他の溶接金属14を形成する場所において金属粉体32に空洞ができてしまう虞がある。
【0069】
しかしながら、筒体12の軸方向に離間した複数個所に溶接金属14を形成する際に、筒体12の中心軸が鉛直方向に延びるように筒体12を配置した状態とすると、溶接金属14を形成したい領域に金属粉体32をその自重により留めておくことができる。これにより、溶接金属14を形成したい領域において金属粉体32に空洞ができてしまうことを抑制することができるので、溶接金属14を安定して形成することができる。
【0070】
[第三変形例]
また、上記実施形態では、
図1に示されるように、金属部材10の母材である筒体12は、円筒状に形成されていた。しかしながら、
図7に示されるように、筒体12は、円錐台状に形成されていても良い。
図7(A)〜
図7(D)には、円錐台状の筒体12に複数の溶接金属14を形成して金属部材10を製造する流れが示されている。この
図7(A)〜
図7(D)に示される製造方法の要領は、上述の
図1(A)〜
図1(D)に示される製造方法の要領と同様である。
【0071】
この
図7に示される変形例において、筒体12は、その中心軸が鉛直方向に延びるように配置されている。また、筒体12の上端は、開口されているが、筒体12の下端は、蓋54により閉塞されている。そして、この筒体12の内側に金属粉体32が充填されると共に、この筒体12の外側から筒体12及び金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射されることにより、溶接金属14が形成されている。また、この変形例では、鉛直方向に対して傾斜する筒体12の周壁部に垂直に高エネルギービーム22が照射されており、これにより、筒体12の周壁部に溶接金属14が垂直に形成されている。
【0072】
この
図7に示される変形例においても、筒体12の内側には金属粉体32が充填されており、残存した金属粉体32が型の役割(溶融池の形状保持及び放熱)を果たすので、溶融池が固化する際には、溶融池の形状が崩れることが抑制される。これにより、鉛直方向に対して傾斜する筒体12の周壁部に溶接金属14を垂直に形成することができる。
【0073】
なお、
図7(C)に示されるように、筒体12は、放熱板56の上に載置された状態で製造装置20にセットされても良い。このようにすると、高エネルギービーム22の照射により生成された溶融池の熱を、残存する金属粉体32及び放熱板56を介して外部に放出することができるので、溶融池を円滑に固化させることができる。
【0074】
[第四変形例]
また、上記実施形態では、
図1に示されるように、筒体12の内側に金属粉体32が充填されることにより、筒体12の内面12Aに金属粉体32が接触されていた。しかしながら、例えば、
図8(A)に示されるように、例えば接着剤等のペースト剤58に金属粉体32が含有されると共に、この金属粉体32を含有するペースト剤58が筒体12の内面12Aに貼り付けられることにより、筒体12の内面12Aに金属粉体32が接触されても良い。
【0075】
そして、
図8(B),(C)に示されるように、上記と同様の要領で、筒体12及び金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射されることにより筒体12の一部及び金属粉体32の一部が溶融されて溶融池が生成されると共に、この溶融池が固化されることにより筒体12に凸状の溶接金属14が形成されても良い。
【0076】
このように、金属粉体32を含有するペースト剤58が用いられると、使用する金属粉体32の量を少なくすることができる。
【0077】
なお、筒体12の内面12Aに金属粉体32を接触させることができれば、どのような方法が用いられても良い。例えば、金属粉体32が筒体12の内面12Aに山形に盛られることで、筒体12の内面12Aに金属粉体32が接触されても良い。また、例えば、テープやフィルムなどの保持材が用いられることで、筒体12の内面12Aに金属粉体32が接触されても良い。
【0078】
[第五変形例]
また、上記実施形態において、金属部材10は、筒体12及び溶接金属14によって構成されていた。しかしながら、
図9に示されるように、金属部材10は、母材としての筒体12(外管)と、保持部材としての内管62と、溶接金属14とによって構成されていても良い。内管62は、筒体12の内側に挿入されている。この筒体12及び内管62は、二重構造体としての二重管64を構成しており、筒体12及び内管62の間には、空間が設けられている。
【0079】
図9(A)〜
図9(D)には、二重管64に複数の溶接金属14を形成して金属部材10を製造する流れが示されている。この
図9(A)〜
図9(D)に示される製造方法の要領は、上述の
図1(A)〜
図1(D)に示される製造方法の要領と同様である。
【0080】
また、この
図9に示される変形例では、筒体12の内側(筒体12及び内管62の間)に金属粉体32が充填された状態で、二重管64の外側から筒体12と内管62と金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射される。このとき、二重管64の外側から筒体12と内管62と金属粉体32に高エネルギービーム22が照射されるように(内管62まで高エネルギービーム22が届くように)、高エネルギービーム22のエネルギー、及び、高エネルギービーム22の焦点距離等が設定される。そして、このようにして筒体12と内管62と金属粉体32に高エネルギービーム22が照射されることにより、筒体12と内管62とを連結する溶接金属14が形成されている。
【0081】
このように、上述の金属部材10の製造方法は、筒体12及び内管62を有する二重管64と、筒体12の内側に突出して筒体12及び内管62を連結する溶接金属14とを有する金属部材10の製造に適用されても良い。
【0082】
なお、本変形例では、筒体12と内管62を有する二重管64を備えた金属部材10の製造方法について説明したが、例えば、筒状以外の形状(例えば、板状など)を有する母材及び保持部材によって構成された二重構造体に対して上述の金属部材10の製造方法が適用されても良い。
【0083】
[第六変形例]
また、上記実施形態において、溶接金属14は、筒体12の内側に突出して形成されていた。しかしながら、
図10に示されるように、溶接金属14は、筒体12の外側に突出して形成されても良い。
【0084】
つまり、この変形例では、
図10(A)に示されるように、先ず、筒体12の外側に同心円状に保持部材としての外管72が配置される。外管72は、高エネルギービーム22を透過する材料の一例として、ガラス製とされている。また、筒体12及び外管72は、二重構造体としての二重管74を形成している。
【0085】
そして、
図10(B)に示されるように、筒体12と外管72との間に金属粉体32が充填される。また、二重管74の外側から外管72と筒体12と金属粉体32に向けて高エネルギービーム22が照射されることにより筒体12の一部及び金属粉体32の一部が溶融されて、筒体12の外側に突出する溶接金属14が形成される。そして、
図10(B),
図10(C)に示されるように、溶接金属14が形成された後に、外管72及び残存する金属粉体32が取り除かれる。
【0086】
このように、上述の金属部材10の製造方法を応用することにより、筒体12の外側に突出する溶接金属14が形成されても良い。
【0087】
なお、本変形例では、保持部材の一例として、筒体12の外側にガラス製の外管72が用いられていたが、金属製の外管が用いられても良い。このように保持部材として金属製の外管が用いられる場合、この外管は、高エネルギービーム22が外管を貫通して金属粉体32及び筒体12に照射されるように薄肉であることが好ましい。この外管は、溶接金属14が形成された後に旋盤加工やブラスト処理などの機械加工により除去される。
【0088】
[その他の変形例]
また、上記実施形態では、金属製の筒体12と同一の金属である金属粉体32が使用されていたが、金属製の筒体12と異なる金属である金属粉体32が使用されても良い。なお、金属製の筒体12と異なる金属である金属粉体32が使用された場合、溶接金属14は、異種金属の合金により形成される。この異種金属として、例えば、耐食性の良い金属と伝熱性の良い金属などの組み合わせが用いられると、溶接金属14における耐食性及び伝熱性を確保することができるので好適である。
【0089】
また、上記実施形態において、出射部24は、レーザ発振器により構成され、高エネルギービーム22は、一例として、レーザビームとされていた。しかしながら、出射部24は、例えば、電子ビームやプラズマビームなどレーザ以外の高エネルギービームを出射する構成とされていても良い。そして、このレーザ以外の高エネルギービームを用いて溶接金属14が形成されても良い。
【0090】
また、上記実施形態では、高エネルギービーム22の焦点22Aが筒体12の内面12Aよりも金属粉体32側(内面12Aよりも筒体12の内側)の位置に設定されていた。しかしながら、例えば、筒体12の一部及び金属粉体32の一部を溶融させることができるのであれば、高エネルギービーム22の焦点22Aは、筒体12の外面(他方側の面)から金属粉体32の内部までのいずれかの位置に設定されても良い。つまり、高エネルギービーム22の焦点22Aは、筒体12の外面に設定されても良いし、筒体12の外面よりも内側から内面までのいずれかの位置に設定されても良いし、上述の通り、筒体12の内面よりも金属粉体32側の位置(金属粉体32の内部)に設定されても良い。また、このように高エネルギービーム22の焦点22Aが筒体12の外面から金属粉体32の内部までのいずれかの位置に設定された場合に、筒体12の一部及び金属粉体32の一部に溶融池36が形成されると共に、この溶融池36にキーホール40が形成されても良い。
【0091】
また、上記実施形態では、溶接金属14が筒体12の周壁部に垂直に形成されていた。しかしながら、筒体12の周壁部に対して斜めに高エネルギービーム22が照射されることにより、溶接金属14が筒体12の周壁部に対して斜めに形成されていても良い。
【0092】
また、上記実施形態では、溶接金属14が筒体12の周方向に沿って突条に形成されていた。しかしながら、例えば、筒体12における周方向以外の方向(例えば、軸方向など)に高エネルギービーム22が相対移動されることにより、溶接金属14が筒体12における周方向以外の方向に沿って突条に形成されていても良い。また、溶接金属14は、突条以外の形状、例えば、突起状に形成されても良い。
【0093】
また、上記実施形態において、筒体12は、円筒状に形成されていたが、円筒状以外の形状(例えば、断面四角形状や断面楕円形状など)で形成されていても良い。また、上記実施形態では、母材として筒体12が用いられていたが、筒状以外の形状の部材が母材として用いられても良い。また、溶接金属14は、直線状に延びる以外に曲線状や屈曲線状に延びるように形成されても良く、また、らせん状など他の形状に形成されても良い。
【0094】
また、上記実施形態において、溶接金属14は、高さが略一定に形成されていたが、高エネルギービーム22の相対移動速度、高エネルギービーム22のエネルギー、及び、高エネルギービーム22の焦点距離の少なくともいずれかが変更されることにより、溶接金属14の形状(例えば高さ及び幅の少なくとも一方)が変更されても良い。
【0095】
また、上記実施形態では、駆動部28によって筒体12が軸周りに回転されることにより、高エネルギービーム22が筒体12及び金属粉体32に対して相対移動されていたが、駆動部28によって照射部26が移動されることにより、高エネルギービーム22が筒体12及び金属粉体32に対して相対移動されても良い。
【0096】
なお、上記複数の変形例のうち組み合わせ可能な変形例は、適宜、組み合わされて実施されても良い。
【0097】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。