特許第6054285号(P6054285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6054285セルロースおよびセルロースエーテル溶液ならびにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054285
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】セルロースおよびセルロースエーテル溶液ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C08B 1/00 20060101AFI20161219BHJP
   C08B 11/00 20060101ALI20161219BHJP
   C08B 13/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C08B1/00
   C08B11/00
   C08B13/00
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-259794(P2013-259794)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-118575(P2014-118575A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年7月7日
(31)【優先権主張番号】10 2012 024 727.3
(32)【優先日】2012年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509036584
【氏名又は名称】エスエー、テュローゼ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング、ウント、コンパニー、コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SE TYLOSE GMBH & CO.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(72)【発明者】
【氏名】マイク、クライナート
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、ハインツェ
(72)【発明者】
【氏名】ティム、リーベルト
(72)【発明者】
【氏名】マルク、コスタグ
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−148032(JP,A)
【文献】 米国特許第03355385(US,A)
【文献】 特開昭60−144332(JP,A)
【文献】 特開2009−209361(JP,A)
【文献】 Macromol. Biosci.,2009年,9,pp.836-841
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C09D
C08J
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースまたはセルロースエーテルの溶液であって、溶媒がトリエチルへプチル塩化アンモニウム、トリエチルオクチル塩化アンモニウム、トリエチルヘキシル酢酸アンモニウム、トリエチルへプチル酢酸アンモニウム、トリエチルオクチル酢酸アンモニウム、トリエチルノニル酢酸アンモニウムおよび/またはトリエチルデシル酢酸アンモニウムを含むことを特徴とする、溶液。
【請求項2】
前記溶媒が、
a)トリエチルへプチル塩化アンモニウム、トリエチルオクチル塩化アンモニウム、トリエチルヘキシル酢酸アンモニウム、トリエチルへプチル酢酸アンモニウム、トリエチルオクチル酢酸アンモニウム、トリエチルノニル酢酸アンモニウムおよび/またはトリエチルデシル酢酸アンモニウムと、
b)少なくとも1つの有機溶媒、との混合物を含んでなり、
前記少なくとも1つの有機溶媒の量が前記溶媒混合物の総重量に基づき70wt%までであることを特徴とする、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記有機溶媒が、ケトン、エーテル、環状エーテル、アミド、スルホキシドまたはヘテロ芳香族であることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶液。
【請求項4】
前記有機溶媒が、アセトンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
少なくとも1つの有機溶媒の割合が、溶媒の総重量に対して、20〜65wt%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
少なくとも1つの有機溶媒の割合が、溶媒の総重量に対して、30〜60wt%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項7】
前記溶液が、非イオン性セルロースエーテルを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項8】
前記溶液が、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)またはメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項9】
塗料層を木材、金属またはその他の基材から除去するための、ペースト状の請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースまたはセルロースエーテルの溶液の使用。
【請求項10】
反応媒体としての請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースまたはセルロースエーテルの溶液の使用であって、前記セルロースまたはセルロースエーテルが化学的に変性される、溶液の使用。
【請求項11】
前記セルロースまたはセルロースエーテルが、エーテル化および/またはエステル化される、請求項10に記載の溶液の使用。
【請求項12】
成形されたセルロース物品の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースまたはセルロースエーテルの溶液の使用。
【請求項13】
過剰な有機溶媒中の凝固による、成形されたセルロース物品の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースまたはセルロースエーテルの溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第4級テトラアルキルアンモニウム化合物中のセルロース溶液であって、更に有機溶媒を含むことができる溶液に関する。セルロースは、例えば、溶液からの再生によりアルキル化またはアシル化することにより繊維および他の造形品を形成することが可能であるため、溶液中のセルロースは化学的に修飾すること可能である。
【背景技術】
【0002】
セルロースを物理的に(すなわちビスコース法などにおいて、化学的誘導体の介入無く)溶解することのできる溶媒がわずかではあるが存在する。それらはアルキルピリジニウム塩を含む(US1943176)。しかし、アルキルピリジニウム塩は一般的に100℃以上の融点を有する。更には、溶液において、セルロース鎖の顕著な分解によりセルロースの平均重合度(DP)は減少する。これはこの工程における欠点である。
【0003】
US2010/0305249はテトラアルキルアンモニウムアルキルホスフェート中におけるセルロースの均質な溶液が開示されている。アルキル基は同一であっても異なっていてもよい。これらはそれぞれ、直鎖または分岐鎖C1〜C5アルキル基またはC2〜C20のアルコキシ基であることが好ましい。テトラアルキルアンモニウムアルキルホスフェートは、トリブチルメチルアンモニウムジメチルホスフェート、トリブチルエチルアンモニウムジエチルホスフェート、トリプロピルメチルアンモニウムジメチルホスフェートおよびトリプロピルエチルアンモニウムジエチルホスフェートであることが特に好ましい。溶液は、プロトン性もしくは非プロトン性形態の共溶媒またはヘキサメチルホスホラミド、N,N−ジメチルアセタミド、アセトニトリル、スルホラン、ジメチルスルホキシド、脂肪族カルボン酸、アミンもしくはイミダゾリウム塩のようなイオン液体(前記テトラアルキルアンモニウムアルキルホスフェート以外)を含むことができる。全溶媒の総重量に対する共溶媒の量は一般的には1〜15wt%である。溶液の総重量に対するセルロースの量は一般的には1〜40wt%である。セルロースはこれらの溶液において化学的に修飾、例えば、無水酢酸との反応によりアセチルセルロースへ変換することができる。
【0004】
US2012/0041080A1において開示されているセルロース溶液は、US2010/0305249において開示される溶液と同じテトラアルキルアンモニウムアルキルホスフェートを含む(アルキル基が直鎖または分岐鎖C1〜C5のアルキル基を除く)。アルコキシ基については言及されていない。同じ共溶媒を用いることは可能である。しかしながら、全溶媒の総重量に対する共溶媒の量は5〜90wt%である。
【0005】
また、カチオンが1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、1,1,2,3,3−ペンタメチルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン、1,2−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジンまたはイミノトリス(ジメチルアミノ)ホスホランのような有機強塩基由来およびアニオンがプロピオン酸、塩酸、メチルジヒドロゲンホスフェートまたはホスフィン酸(WO2011/161326A2)のようなブレンステッド酸(Bronstedt acid)に由来するイオン液体中のセルロースの溶液としても知られている。
【0006】
トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩も同様にセルロースのための溶媒として有用であることが知られている(S.Kohler,T.Liebert,T.Heinze,Ammonium−based Cellulose Solvents Suitable for HomogeneousEtherification,Macromol.Biosci.9[2009]836−841)。しかしながら、それは155℃という比較的高い融点を有し。それによりセルロース上の多くの反応に適さないこととなる。ギ酸を加えることは融点を調節する唯一の方法であるが、この系における可能な反応が大きく制限される。更に、溶解中に、ギ酸セルロースが生成されるため、セルロースの誘導体形成が起こる。これらの溶液中におけるセルロースの最大濃度は10wt%である。
【0007】
イオン液体中のセルロースの溶液は一般的に非常に高いレベルの粘度を示す。更に、セルロース用の多くのイオン液体は比較的高い融点(明らかに100℃以上)を有している。セルロースのポリマー鎖の分解は必用とされる溶解温度においてよく観察される。更に、イオン液体は比較的高価であり、その再利用のための回収可能性は制限されている。特に、ヘテロ環に基づいたイオン液体は、セルロース上の均質な反応において、開環または求核置換のような二次反応を受ける傾向にある。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明は、比較的低い温度(80℃未満)においてセルロースが均質に溶解した状態のセルロース溶液を提供することを課題とする。解決策は低粘度とすることである。セルロース鎖は、さらに溶液中で分解を受けるとしてもほとんど受けない。溶解工程において、溶媒は回収可能であり、再利用可能である。更に、溶媒は高価ではない。
【0009】
驚くべきことに、セルロースおよびセルロースエーテルは、トリエチルへプチル塩化アンモニウム、トリエチルオクチル塩化アンモニウム、トリエチルヘキシル酢酸アンモニウム、トリエチルへプチル酢酸アンモニウム、トリエチルオクチル酢酸アンモニウム、トリエチルノニル酢酸アンモニウムおよびトリエチルデシル酢酸アンモニウム中において均質な溶液を形成することがわかった。
【0010】
ヘキシル、へプチル、オクチル、ノニルおよびデシル基はそれぞれ直鎖であることが好ましい。
【0011】
したがって、本発明は、セルロースまたはセルロースエーテルの溶液であって、溶媒がトリエチルへプチル塩化アンモニウム、トリエチルオクチル塩化アンモニウム、トリエチルヘキシル酢酸アンモニウム、トリエチルへプチル酢酸アンモニウム、トリエチルオクチル酢酸アンモニウム、トリエチルノニル酢酸アンモニウムおよび/またはトリエチルデシル酢酸アンモニウムを含むことを特徴とする、溶液を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一つの好ましい実施形態において、トリエチルへプチル塩化アンモニウム、トリエチルオクチル塩化アンモニウム、トリエチルヘキシル酢酸アンモニウム、トリエチルへプチル酢酸アンモニウム、トリエチルオクチル酢酸アンモニウム、トリエチルノニル酢酸アンモニウムおよび/またはトリエチルデシル酢酸アンモニウムは、有機溶媒との混合物である。
【0013】
有機溶媒の量は、溶媒混合物の総重量に対し、70wt%までである。
【0014】
純第4級アンモニウム塩に比べ、第4級アンモニウム塩と有機溶媒との混合物は明らかに低い融点を有する。
【0015】
この種の混合物は、室温において液体であるセルロース溶液の製造にさえ用いることができる。
【0016】
溶媒混合物に溶解しているセルロースの量は、溶液の総重量に対し25wt%までにすることができる。これは、例えば、ビスコース紡糸液(約7〜8wt%)中に存在するより明らかに多い。
【0017】
有機溶媒は、ケトン(アセトン、エチルメチルケトン、tert−ブチルメチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノンまたはシクロペンタノンのような)、エーテル(例えば、ジアルキルエーテル(二つのアルキル基は同じであっても異なっていてもよい)またはテトラヒドロフラン)、アミド(N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンのような)、スルホキシド(ジメチルスルホキシドのような)またはヘテロ芳香族(ピリジンのような)が好ましい。前記溶媒の混合物もまた用いることができる。驚くべきことに、アセトンが特に適切な溶媒であることが判明した。有機溶媒の量は、それぞれ全溶媒の総重量に対し、好ましくは20〜65wt%、より好ましくは30〜60wt%である。溶媒混合物中のアセトンの量が70wt%以上に上昇した時、セルロースは沈殿する。この現象は、押出成形物をアセトンで満たされた凝固浴槽内へ通過させることによってセルロース繊維を凝固させる紡糸工程において生かすことができる。この手順の特別な利点は、更なる溶媒を必用としないことである。これは、第4級アンモニウム塩の回収を大幅に促進する。
【0018】
第4級アンモニウム塩および前記1以上の有機溶媒の他に、本発明のセルロース(エーテル)溶液は更なる溶媒を含まないことが好ましい。例えば、セルロースは結晶セルロースである。これらは、木材パルプまたはコットンリンターを使用することも可能である。セルロースの平均重合度(DP)は好ましくは300〜2900の範囲であり、より好ましくは500〜1200の範囲である。
【0019】
本発明のセルロースエーテル溶液は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)またはメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)のような非イオン性セルロースエーテルを含むことが好ましい。メチルヒドロキシエチルセルロースおよびメチルヒドロキシプロピルセルロース中において、DS(Me)は一般的に1.0〜2.5の範囲であり、好ましくは1.2〜2.5の範囲、より好ましくは1.4〜1.9の範囲であり、MS(HEまたはHP)は一般的に0.01〜1.0の範囲、好ましくは、0.05〜0.8の範囲、より好ましくは0.05〜0.6の範囲である。ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース中において、MS(HEまたはHP)は一般的に1.0〜4.0の範囲、好ましくは1.5〜3.3の範囲である。
【0020】
本発明は更にセルロースまたはセルロースエーテル溶液の調製方法を提供する。その方法は、有利には、まず溶媒混合物へセルロースを加えること、次いでセルロースまたはセルロースエーテルが溶解するまで混合物を加熱することおよび混合物を冷却し、必用があるところまで引き下げる。この溶液の貯蔵寿命は延びている。
【0021】
セルロース/セルロースエーテル溶液は、例えば、ペースト状であって、木材、金属などから塗料層を除去するのに用いることができる。
【0022】
溶液はセルロースまたはセルロースエーテルが化学的変化、例えばエーテル化またはエステル化された反応媒体となることもできる。
【0023】
最終的に、セルロース溶液は成形されたセルロース物品、例えばセルロース繊維または自己支持性セルロースフィルム/シートへと加工することもできる。押出加工による成形、例えば、押出加工工程において、押出成形物はセルロースが沈殿する凝固浴槽内を通過する。凝固浴槽内において、例えば、押出成形物のアセトン含有量は、溶液からセルロースが生じる程度まで上げることができる。本プロセスは公知のリヨセル工程に対応する。
【実施例】
【0024】
以下の実施例は、本発明を説明するものである。特に断りの無い限りまたは文脈から明らかでない限り、百分率は重量によるものである。実施例において用いられるセルロースは100℃において2時間真空乾燥したものである。トリエチルアミンおよびアセトニトリルを標準的な方法により精製および乾燥させた。ヒドロキシド担持強塩基イオン交換樹脂(PuroliteからのSGA550OH)を使用前にメタノールで繰り返し洗浄した。
【0025】
測定方法:
NMRスペクトルは、CDCl中への試料の溶解ならびにBruker Avance250および400MHzの分光計(HNMRスペクトルに対しそれぞれ16スキャン)または63もしくは101MHzの分光計(13CNMRスペクトルに対し1024スキャンまで)における測定により記録された。
【0026】
元素分析はCHNS932分析器(Leco)によって実施した。強吸湿性の試料を過塩素酸塩の形態で測定した。前記テトラアルキル塩化アンモニウムまたはテトラアルキル臭化アンモニウム塩の融点は標準的な方法により測定した。試料を小さなガラス製のチューブに導入し、乾燥機内において減圧条件下、24時間、五酸化リン上で乾燥させた。次いで、ガラス製のチューブを封止し、ビュッヒ融点測定装置B−545内で融点を測定した。
【0027】
合成は、マイクロ波照射の下、開閉式反応槽を使用するCEM Mars5により行った。反応混合物を15分間選択した温度まで加熱し、200Wの出力のマイクロ波を適用すると同時にこの温度で望ましい反応時間の間維持させた。
【0028】
溶媒およびポリマー溶液(1wt%溶液)上における粘度測定は、20℃において、Haake−MarsIIコーンプレートレオメーターにより行った。剪断速度は1〜1000s−1まで変化した。個々の測定は、5分間の間の剪断速度の増減サイクルにおいて行われ、再現性を確保し、チクソ性の有無を確認した。低粘度のシリコンオイル(η20 ℃=9.5mPas)の薄いフィルムを測定セルの縁に設置し、さらに窒素不活性化溶媒トラップ(nitrogen-inertized solvent trap)を用いて吸湿を防いだ。
【0029】
実施例1 トリエチルオクチル臭化アンモニウム(TECBr)−典型的方法
方法A
100mlフラスコを窒素でパージし、8.84g(0.087mol)のトリエチルアミン、20.33g(0.105mol)の1−ブロモオクタンおよび31.04gのアセトニトリルをフラスコ中へ導入した。
【0030】
混合物を48時間、80℃において保護窒素ガス(protective nitrogen gas)下で攪拌した。次いで、揮発性物質を減圧条件下で取り除いた。組生成物を酢酸エチル/アセトン混合物から結晶化し、18.55g(0.063mol)のトリエチルオクチル臭化アンモニウム(吸湿性白色結晶)を得た。トリエチルアミンに対する収率は72%であった。
【0031】
方法B
窒素でパージした500mLフラスコを21.84g(0.216mol)のトリエチルアミン、49.85g(0.258mol)のブロモオクタンおよび74.60gのアセトニトリルで満たした。混合物を15分間、電子レンジで80℃まで加熱し、次いで80℃、200Wのマイクロ波出力において、6時間以上攪拌した。次いで、反応混合物の揮発性成分を減圧条件下で取り除き、酢酸エチル/アセトンの混合物から残査を結晶化した。これは55.60g(0.190mol)のトリエチルオクチル臭化アンモニウムを含んでいた。トリエチルアミンに対する収率は88%であった。
【0032】
1HNMR (300MHz; CDCl3 as solvent; -scale; t = triplet, q = quadruplet, m = multiplet): 3.53 (q, 6H, ethyl-NCH2-), 3.29 (t, 2H, octyl-NCH2-), 1.39 (t, 9H, ethyl-CH3), 1.27 (m, 10H, octyl-CH2-), 0.88 (t, 3H, octyl-CH3);
13CNMR (62.5MHz; CDCl3 as solvent; -scale): 57.5 (C1), 53.5 (C1´), 31.6 (C6), 29.1, 29.0 (C4, C5), 26.5 (C3), 22.6 (C7), 22.1 (C2), 14.1 (C8), 8.1 (C2´)
元素分析:
1432ClNOについての計算値:C:53.57%、H:10.28%、N:4.46%;
実測値:C:53.76%、H:10.14%、N:4.33%
融点:107℃
【0033】
トリエチルオクチル塩化アンモニウム(TECCl)の合成−典型的方法
方法A
窒素でパージした500mLフラスコを28.96g(0.286mol)のトリエチルアミン、55.23g(0.371mol)の1−クロロオクタンおよび78.11gのアセトニトリルで満たした。混合物を96時間、窒素下、80℃において攪拌した。次いで、反応混合物の揮発性成分を減圧条件下で取り除き、残査をヘプタンおよび酢酸エチルで洗浄し、10.34g(0.069mol)のトリエチルオクチル塩化アンモニウム(吸湿性の白色塩)を得た。トリエチルアミンに対する収率は24%であった。
【0034】
トリエチルプロピル塩化アンモニウム〜トリエチルへプチル塩化アンモニウム(TECCl,TECCl,TECCl,TECClおよびTECCl)は同じような方法で調製した。
【0035】
方法B
マグネチックスターラー(magnetic stirrer)および圧力計に適したステンレス鋼オートクレーブを窒素でパージし、次いで、36.13g(0.357mol)のトリエチルアミン、46.28g(0.311mol)の1−クロロオクタンおよび81.40gのアセトニトリルで満たした。オートクレーブを封止し、25barの窒素で加圧した。次いで、オートクレーブ中の混合物を80℃まで加熱し、48時間攪拌した。その後、超大気圧を開放し、反応混合物の揮発性成分を減圧条件下において取り除いた。粗生成物をヘプタンおよび酢酸エチルで連続的に洗浄し、8.30g(0.033mol)のトリエチルオクチル塩化アンモニウム(吸湿性の白色塩)を得た。1−クロロオクタンに対する収率は11%であった。
【0036】
方法C
480mlのメタノール(=0.1モル溶液)中の14.11g(0.048mol)のトリエチルオクチル臭化アンモニウムの溶液を、強塩基性アニオン交換樹脂で包んだイオン交換カラムに適用し、メタノールで溶出した。溶出液を希塩酸で中和し、溶媒を取り除き、11.92g(0.048mol)のトリエチルオクチル塩化アンモニウム(吸湿性の白色塩)を残させた。収率は99%であった。
【0037】
1HNMR (250MHz; CDCl3 as solvent; -scale): 3.48 (q, 6H, ethyl-N-CH2-), 3.22 (t; 2H, octyl-N-CH2-), 1.68 (m, 2H, octyl-CH2-), 1.38 (t, 9H, ethyl-CH3), 1.26 (m, 10H, octyl-CH2-), 0.68 (t, 3H, octyl-CH3);
13CNMR (62.5MHz; CDCl3 as solvent; -scale): 57.4 (C1), 53.4 (C1´), 31.6 (C6), 29.1, 29.0 (C4, C5), 26.5 (C3), 22.5 (C7), 22.0 (C2), 14.0 (C8), 8.0 (C2´).
元素分析:
1432ClNOについての計算値:C:53.57%、H:10.28%、N:4.46%;
実測値:C:53.47%、H:10.31%、N:4.44%
融点:81℃
【0038】
トリエチルオクチル酢酸アンモニウム(TECAc)の合成−典型的方法:
1Lのメタノール(=0.1モル溶液)中の29.35g(0.1mol)のトリエチルオクチル臭化アンモニウム溶液を強塩基性アニオン交換樹脂で包んだイオン交換カラムに適用し、メタノールで溶出した。溶出液を酢酸で中和し、溶媒を取り除き、26.60g(0.097mol)のトリエチルオクチル酢酸アンモニウム(吸湿性の黄色液体)を残させた。収率は97%であった。
【0039】
1HNMR (250MHz; CDCl3 as solvent; -scale): 3.34 (q, 6H, ethyl-N-CH2-), 3.11 (t; 2H, octyl-N-CH2-), 1.86 (s, 3H, acetat-CH3-), 1.56 (m, 2H, octyl-CH2-), 1.25 (t, 9H, ethyl-CH3), 1.17 (m, 10H, octyl-CH2-), 0.77 (t, 3H, octyl-CH3);
13CNMR (62.5MHz; CDCl3 as solvent; -scale): 176.0 (C=O), 57.1 (C1), 53.0 (C1´), 31.5 (C6), 29.0, 28.9 (C4, C5), 26.3 (C3), 24.1 (C7), 22.4 (C2), 21.3 (acetat-CH3), 13.9 (C8), 7.6 (C2´).
元素分析:
1432ClNOについての計算値:C:53.57%、H:10.28%、N:4.46%;
実測値:C:53.50%、H:10.33%、N:4.41%
融点:常温において液体
【0040】
さらに、トリエチルアルキル塩化アンモニウムおよびトリエチルアルキル臭化アンモニウムの融点、トリエチルオクチル塩化アンモニウム(TMCCl)、トリプロピルオクチル塩化アンモニウムおよびトリプロピルオクチル臭化アンモニウム(それぞれTMCClおよびTMCBr)ならびにトリブチルオクチル塩化アンモニウムおよびトリブチルオクチル臭化アンモニウム(それぞれTBCClおよびTBCBr)の融点、また溶液の総重量に対する、塩中のセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC;MS(HE)=1.97;SE Tylose GmbHからのH27NG4)およびヒドロキシプロピルセルロース(HPC;MS(HP)=1.16)の溶解度(wt%)は下の表1に表す。
【表1】
【0041】
実施例2 有機溶媒を添加しないセルロース溶液の調製−典型的方法:
窒素でパージした50mlフラスコ内において、4.5gのTECClを120℃に加熱した。融成物を0.5gのセルロースと混合し、この温度で30分間機械的に攪拌し、半透明の溶液を得た。
【0042】
実施例3 有機溶媒の添加を伴うセルロース溶液の調製−典型的方法:
方法A
窒素でパージした50mlフラスコを5.10gのTECCl、0.56gのセルロースおよび1.86gのN,N−ジメチルアセトアミドで満たした。混合物を60℃で2時間機械的に攪拌し、透明な溶液を得た。
【0043】
方法B
窒素でパージした50mlフラスコを4.5gのTECCl、0.5gのセルロースおよび5gのアセトンで満たした。混合物を60℃で3時間機械的に攪拌し、半透明な溶液を得た。
【0044】
実施例4 有機溶媒の添加を伴うセルロースエーテル溶液の調製−典型的方法:
窒素でパージした50mlフラスコを2.27gのTECCl、0.11gのヒドロキシエチルセルロース(MS(HE)=1.97;SE Tylose GmbHからのH27NG4)および2.51gのアセトンで満たした。混合物を50℃で3時間機械的に攪拌し、透明な溶液を得た。
【0045】
実施例5 有機溶媒の添加を伴うセルロース溶液からのセルロースの再生−典型的方法:
アセトンを実施例3の方法Bで得られた溶液に徐々に滴下し、温度を60℃までに調節した。7.5gのアセトンを加えた後、セルロースは沈殿し始めた。沈殿は総量で20gのアセトンが加えられた時に完了する。続いて、減圧条件下、20gのアセトンを取り除くことによって、半透明のセルロース溶液を再度得ることができた。
【0046】
表2は、測定温度20℃における、様々な溶媒および溶媒混合物の粘度ならびにこれら溶媒/溶媒混合物中の1wt%セルロース/ヒドロキシエチルセルロース溶液の粘度についての下記一覧を与える。
【表2】
【0047】
実施例6 トリエチルオクチル塩化アンモニウム中のトシルセルロースの合成:
窒素でパージした50mlのフラスコにおいて、2.01gのTECClを120℃まで加熱した。融成物を0.25gのセルロースと混合し、この温度において30分間機械的に攪拌し、半透明の溶液を得た。室温まで冷却した後、1.3mlのピリジン中の0.75gの4−塩化トルエンスルホニルを徐々に滴下し、室温で24時間攪拌した。反応溶液は200mlの冷水中に沈殿した。沈殿物を100mlの水および100mlのエタノールで3回洗浄し、次いでジエチルスルホキシド/イソプロパノールから再沈殿させた。60℃、減圧条件下で3日間の乾燥により、0.37gのトシルセルロース(98%、DS=0.5、DSCl=0.2)が残った。
元素分析:
実測値:C:46.58%、H:4.91%、N:0.00%、S:6.63%、Cl:3.22%