(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054291
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】親油性化合物を高濃度で含有する液晶組成物の製造方法及びその方法によって製造された液晶組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/10 20060101AFI20161219BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20161219BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20161219BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20161219BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20161219BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20161219BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20161219BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20161219BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20161219BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20161219BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20161219BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/28
A61K47/02
A61K8/04
A61K8/49
A61K8/36
A61K8/63
A61K8/19
A61P17/00
A61Q19/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-518120(P2013-518120)
(86)(22)【出願日】2012年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2012063903
(87)【国際公開番号】WO2012165468
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-121820(P2011-121820)
(32)【優先日】2011年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506151235
【氏名又は名称】株式会社ナノエッグ
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(72)【発明者】
【氏名】山口 葉子
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳樹
【審査官】
今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/078366(WO,A1)
【文献】
特表2006−502245(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/118246(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/118245(WO,A1)
【文献】
特開2007−070303(JP,A)
【文献】
特開2002−145736(JP,A)
【文献】
特開昭63−150221(JP,A)
【文献】
特表平11−500456(JP,A)
【文献】
特開2009−179570(JP,A)
【文献】
特開平10−231229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00−31/80
A61K 33/00−33/44
A61K 47/00−47/48
A61P 1/00−43/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
B01J 13/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親油性化合物をその構造内に包接する単一のリオトロピック液晶である液晶組成物の製造方法であって、
両親媒性分子及び水を添加及び混合することを含む液晶調製過程で、両親媒性分子としてイオン性の解離基を有する親油性化合物又は該親油性化合物と界面活性剤との組み合わせを添加及び混合する工程を含んでおり、
その際、該親油性化合物をアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の形態で添加及び混合するか、又は該親油性化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物とを反応させる処理を含んでおり、
ここで、前記両親媒性分子は、前記リオトロピック液晶の15〜70重量%(w/w)の量であり、
それにより、前記親油性化合物をその構造内に包接する単一のリオトロピック液晶を調製することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
イオン性の解離基は、カルボン酸基、スルホン酸基、スルフェン酸基、ヒドロぺルオキシド基よりなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
イオン性の解離基を有する親油性化合物は、α‐リポ酸、フェルラ酸、グリチルレチン酸、ナプロキセン、メフェナム酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、タミバロテン、クロロゲン酸、コレステリル硫酸よりなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
イオン性の解離基を有する親油性化合物は、前記リオトロピック液晶中、7.2%〜50%(w/w)の量で配合される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記親油性化合物のアルカリ金属塩はナトリウム塩である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
アルカリ金属の水酸化物は水酸化ナトリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
界面活性剤は非イオン界面活性剤である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記液晶調製過程は多価アルコールを混合することをさらに含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記液晶調製過程は油分を混合することをさらに含んでいる、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親油性化合物を高濃度で含有する液晶組成物を製造する方法、及び該方法によって製造された液晶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リオトロピック液晶は、界面活性剤と水とを主要構成要素とする流動性と分子配列の規則性とを保持する固体と液体の中間状態である。リオトロピック液晶は、医薬品、化粧料、洗浄料、塗料、インキ、油脂製品、合成ゴムなど各種産業分野で、エマルションの乳化安定化剤や、可溶化剤などとして使用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
また近年、リオトロピック液晶自体の生体への効果の報告もなされており、リオトロピック液晶の薬剤の経皮吸収性亢進効果や皮膚再生亢進効果が示唆されている(例えば特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−181789号公報
【特許文献2】WO 2006/118246
【特許文献3】WO 2006/118245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる背景の下、現在、リオトロピック液晶の構造的規則性を維持したままその構造内に各種化合物を包接する組成物が提案されている。
【0006】
リオトロピック液晶は、例えば、適切な両親媒性分子(例えば界面活性剤)、水溶性成分及び油溶性成分を適切な濃度で調整することにより形成することができる。しかし、リオトロピック液晶に薬剤等の化合物を包接する場合には、液晶の構造を損なわない化合物の配合濃度上限があり、特に親油性化合物は高濃度で包接させることができないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、親油性化合物の含有量が高められた、親油性化合物含有の液晶組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、両親媒性分子及び水を混合することを含む液晶調製過程で、両親媒性分子として親油性化合物又は親油性化合物と界面活性剤の組合せを添加・混合し、次いで、親油性化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物とを反応させることにより、親油性化合物を高濃度で含有する液晶組成物が調製できることを見出した。
【0009】
本発明は上記知見に基づくものであり、以下の特徴を包含する。
(1)親油性化合物を含有する液晶組成物の製造方法であって、両親媒性分子及び水を添加及び混合することを含む液晶調製過程で、両親媒性分子としてイオン性の解離基を有する親油性化合物又は該親油性化合物と界面活性剤との組み合わせを添加及び混合する工程を含んでおり、その際、該親油性化合物をアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の形態で添加及び混合するか、又は該親油性化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物とを反応させる処理を含んでいることを特徴とする、前記方法。
【0010】
(2)イオン性の解離基は、カルボン酸基、スルホン酸基、スルフェン酸基、ヒドロぺルオキシド基よりなる群から選択される、上記(1)記載の方法。
【0011】
(3)イオン性の解離基を有する親油性化合物は、α‐リポ酸、フェルラ酸、グリチルレチン酸、ナプロキセン、メフェナム酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、タミバロテン、クロロゲン酸、コレステリル硫酸よりなる群から選択される、上記(1)記載の方法。
【0012】
(4)前記親油性化合物のアルカリ金属塩はナトリウム塩である、上記(1)記載の方法。
【0013】
(5)アルカリ金属の水酸化物は水酸化ナトリウムである、上記(1)記載の方法。
【0014】
(6)界面活性剤は非イオン界面活性剤である、上記(1)記載の方法。
【0015】
(7)非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種である、上記(6)記載の方法。
【0016】
(8)前記液晶調製過程は多価アルコールを混合することをさらに含んでいる、上記(1)記載の方法。
【0017】
(9)前記液晶調製過程は油分を混合することをさらに含んでいる、上記(1)記載の方法。
【0018】
(10)上記(1)〜(9)のいずれか記載の方法によって製造された液晶組成物。
【0019】
(11)上記(10)記載の液晶組成物を含んでいる皮膚外用剤。
【0020】
(12)化粧料である上記(11)記載の皮膚外用剤。
【0021】
(13)医薬品である上記(11)記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、親油性化合物の含有量が高められた、親油性化合物含有の液晶組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、調製例1〜4で調製した実施例1(A)、実施例3(B)、実施例4(C)、及び実施例5(D)の組成物の外観を示す写真図である。
【
図2】
図2は、50℃で30日間保管後の、実施例1の組成物中のα‐リポ酸残存率を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で使用する用語「親油性化合物」とは、水溶媒に比較して油溶媒により溶け易い任意の有機化合物をいう。したがって、本発明で使用する親油性化合物は、親油性基と親水性基の両方を有している(すなわち厳密にいえば両親媒性である)が、油溶媒に対する溶解性が水溶媒に対するものより高い有機化合物を含んでいる。
【0025】
以下、親油性化合物を含有する液晶組成物の製造方法(以下、「本発明の方法」とも称する)、及び該方法によって製造された液晶組成物(以下、「本発明の組成物」とも称する)について説明する。
【0026】
本発明の方法は、両親媒性分子及び水を添加及び混合することを含む液晶調製過程で、両親媒性分子としてイオン性の解離基を有する親油性薬剤又は該親油性薬剤と界面活性剤との組み合わせを添加及び混合する工程を含んでいる。本明細書で使用する用語「液晶調製過程」とは、液晶を形成するために必要な両親媒性分子及び水、並びに他の任意成分(例えば多価アルコール、油分、補助界面活性剤)を適切な比率で添加・混合して液晶を調製するプロセスをいう。この関連で、「液晶形成過程において」又は「液晶形成過程で」という文言は、リオトロピック液晶を調製するプロセスのいずれかの段階をいう。
【0027】
本発明で使用できる親油性化合物は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属との塩形成に必要なイオン性の解離基を有するものである。イオン性の解離基として、これに限定されるものではないが、例えばカルボン酸基、スルホン酸基、スルフェン酸基、ヒドロぺルオキシド基などを挙げることができ、これらの解離基を有する親油性化合物であればいずれも本発明に好適である。好ましくは、イオン性の解離基はカルボン酸基である。
【0028】
本発明で使用できる親油性化合物としては、これに限定されるものではないが、例えばα‐リポ酸、フェルラ酸、レチノイン酸、インドメタシン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、ナプロキセン、メフェナム酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、タミバロテン、クロロゲン酸、コレステリル硫酸などを挙げることができる。
【0029】
本発明者らは、液晶調製過程で添加及び混合される親油性化合物について、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を形成させることにより、当該親油性化合物にリオトロピック液晶を構成する両親媒性分子に類似した物性を付与することができ、液晶を構成する両親媒性分子の全部又は一部を親油性化合物とする、親油性化合物高配合の液晶組成物を調製できることを見出した。
【0030】
したがって、本発明の方法は、親油性化合物を含む両親媒性分子と水とを添加及び混合することを含む液晶調製過程で、親油性化合物をアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の形態で添加するか、又は親油性化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物とを反応させる処理を含んでいることを特徴とする。
【0031】
本発明で使用できるアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、これらに属するものであれば特に制限されないが、好ましくはナトリウムである。
【0032】
本発明で使用できるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物として、これに限定されるものではないが、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどを挙げることができる。好ましくは、水酸化ナトリウムを使用する。
【0033】
本発明において、例えば分子間の相互作用に起因して、濃度依存的に安定性が低下する親油性化合物を使用する場合には、両親媒性分子として親油性化合物と界面活性剤との組み合わせを使用することが好ましい。界面活性剤を使用することにより、親油性化合物同士の接触確率を低減させることができ、液晶組成物中の親油性化合物の安定性を顕著に高めることができるからである。
【0034】
また、親油性化合物の種類に応じて、適度に低い濃度(例えば本発明の組成物の総重量の15重量%以下)で親油性化合物を含む液晶組成物を所望する場合には、界面活性剤の使用により、親油性化合物の濃度を低めに調整することができる。
【0035】
本発明で使用できる界面活性剤は、水、及び必要に応じて油分、多価アルコール、補助界面活性剤と組み合わせることで液晶を形成できるものであれば特に制限されず、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤のいずれを用いてもよい。好ましくは、非イオン界面活性剤を使用する。界面活性剤としてイオン性界面活性剤を使用する場合、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物を添加した際に、界面活性剤と親油性化合物の間にイオン相互作用が発生し、その結果所望の液晶形成を阻害するおそれがある。
【0036】
本発明で使用される非イオン界面活性剤は、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型、及びアミノ酸系の非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。例えば、これに限定されるものではないが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0037】
本発明で使用されるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、酸化エチレンの平均重合度が任意のものであることができる。好ましくは、酸化エチレンの平均重合度の下限は約5以上であり、酸化エチレンの平均重合度の上限は約200以下である。好ましいポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80が挙げられる。なお、この数字は、酸化エチレンの平均重合度を表し、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40は、酸化エチレンの平均重合度が40であることを示す。
【0038】
本発明で使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、酸化エチレンの平均重合度が任意のものであることができる。好ましくは、酸化エチレンの平均重合度の下限は約5以上であり、酸化エチレンの平均重合度の上限は約30以下である。好ましいポリオキシエチレンアルキルエーテルの例としては、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(POEステアリルエーテルとも称する)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(POEオレイルエーテルとも称する)、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル(POEオクチルドデシルエーテルとも称する)及びポリオキシエチレンイソステアリルエーテル(POEイソステアリルエーテルとも称する)が挙げられる。
【0039】
本発明で使用されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、酸化エチレンの平均重合度が任意のものであることができる。酸化エチレンの平均重合度の下限は約5以上であり、酸化エチレンの平均重合度の上限は約30以下である。好ましいポリオキシエチレンソルビタン酸エステルの例としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(POEソルビタンモノオレエートとも称する)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(POEソルビタンモノラウレートとも称する)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(POEソルビタンモノステアレートとも称する)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(POEソルビタンモノパルミテートとも称する)及びポリオキシエチレンソルビタントリオレート(POEソルビタントリオレートとも称する)が挙げられる。
【0040】
本発明で使用されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルは、酸化エチレンの平均重合度が任意のものであることができる。好ましくは、ポリオキシエチレン部分の平均重合度の下限は約5以上であり、ポリオキシエチレン部分の平均重合度の上限は約30以下である。好ましくは、ポリオキシプロピレン部分の平均重合度の下限は約4以上であり、ポリオキシプロピレン部分の平均重合度の上限は約8以下である。好ましいポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの例としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル及びポリオキシエチレンイソステアリルエーテルが挙げられる。
【0041】
本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノオレート及びデカグリセリンモノステアレートが挙げられる。
【0042】
本発明に使用されるショ糖脂肪酸エステル類としては、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル及びショ糖ラウリン酸エステルが挙げられる。
【0043】
本発明に使用されるアミノ酸系界面活性剤は、これに限定されるものではないが、例えばラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデセス−2、ラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデセス−5、ラウロイルグルタミン酸ジステアレス−2、ラウロイルグルタミン酸ジステアレス−5、PCAイソステアリン酸PEG−30水添ヒマシ油、PCAイソステアリン酸PEG−40水添ヒマシ油、PCAイソステアリン酸PEG−60水添ヒマシ油、PCAイソステアリン酸グリセレス−25よりなる群から選択することができる。
【0044】
本発明で使用される非イオン界面活性剤は、好ましくは、約5以上のHLB値を有するものである。非イオン界面活性剤のHLB値が約5を下回る場合には、適切にリオトロピック液晶を調製できない虞がある。なお、本明細書で用いられる用語「HLB値」とは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)をいい、一般に、20×M
H/M(式中、M
H=親水基部分の分子量であり、M=分子全体の分子量である)により算出される。HLB値は、分子中の親水基の量が0%のとき0であり、100%のとき20である。HLB値は、界面活性剤では界面活性剤分子を形成する親水性および疎水性の基の大きさと強さを表し、疎水性の高い界面活性剤はHLB値が小さく、親水性の高い界面活性剤はHLB値が大きい。
【0045】
非イオン界面活性剤は上記の1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。本発明の組成物において、好ましい非イオン界面活性剤として、例えばポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテルなどが挙げられる。
【0046】
本発明で使用することができる陽イオン界面活性剤は、アミン塩型、アルキル4級アンモニウム塩型、環式四級アンモニウム塩型のいずれの陽イオン界面活性剤を用いてもよい。具体的に、これに限定されるものではないが、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどを挙げることができる。
【0047】
本発明に使用することができる陰イオン界面活性剤は、脂肪酸塩型、アルキルエーテルカルボン酸塩型、アシル乳酸塩型、N−アシルサルコシン酸塩型、N−アシルグルタミン酸塩型、N−アシルメチルアラニン塩型、N−アシルメチルタウリン塩型、アルカンスルホン酸塩型、α−オレフィンスルホン酸塩型、アルキルスルホコハク酸塩型、アシルイセチオン酸塩型、アルキル硫酸エステル塩型、アルキルエーテル硫酸エステル塩型、脂肪酸アルカノールアミド硫酸エステル塩型、モノアシルグリセリン硫酸エステル塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩型のいずれを用いてもよい。具体的に、これに限定されるものではないが、ヤシ油脂肪酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸カリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ラウロイルサルコシントリエタノールアミン、ミリストイルグルタミン酸カリウム、ヤシ油脂肪酸メチルアラニン、ラウロイルメチルアラニントリエタノールアミン、ココイルメチルアミノエチルスルホン酸ナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ヤシ油脂肪酸エチルエステルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、アルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸トリエタノールアミンから選択することができる。
【0048】
本発明において、配合する両親媒性分子(すなわち親油性化合物、及び任意の界面活性剤)の量は、使用する両親媒性分子の種類及びその組み合わせに応じて変化する場合があるが、本発明の組成物の総重量の15〜70重量%、好ましくは20〜60重量%、例えば40重量%とすることができる。
【0049】
また両親媒性分子として親油性化合物と界面活性剤との組み合わせを使用する場合、親油性化合物と界面活性剤の配合比は特に制限されないが、例えばα‐リポ酸など、濃度依存的に安定性が低下する親油性化合物を用いる場合には、界面活性剤の量が親油性化合物の量を下回らない量であることが好ましい。好ましくは、親油性化合物と界面活性剤の配合比は、1:1〜1:10の範囲、例えば1:3である。
【0050】
本発明の方法において、親油性化合物とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物とを反応させる場合、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又はリン酸化物の添加量は、添加する親油性化合物の濃度に応じて、添加する親油性化合物の全てがアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を形成するような量である。具体的に、添加する親油性化合物のイオン性解離基に対して、0.25〜1.5倍モル量の範囲で添加すればよい。
【0051】
本発明において、液晶調製に使用される水は、当業者に公知の任意の水であることができる。例えば、これに限定されるものではないが、水道水、蒸留水、イオン交換水、殺菌水などを使用することができる。
【0052】
本発明において、水の配合量は、両親媒性分子の種類及びその組み合わせ等、使用する他の構成成分の種類や存否に応じて、当業者は適宜適切な量を設定することができる。そのような量の例示的範囲は、本発明の組成物の総重量の3〜85重量%である。
【0053】
本発明の方法は、液晶調製過程で多価アルコールを添加することをさらに含んでもよい。多価アルコールを添加することにより、液晶の形成容易化(相領域の拡大など)や安定化を図ることができる点で有用である場合がある。本発明で使用することができる多価アルコールとしては、これに限定されるものではないが、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,5−ジオール、ペンタン−1,2−ジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。多価アルコールは1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
多価アルコールの添加量は、70重量%以下、好ましくは50重量%以下である。多価アルコールを使用する場合、好ましくは、水及び多価アルコールの合計量が本発明の組成物の総重量の85%を超えないことが好ましい。水及び多価アルコールの合計量が本発明の組成物の総重量の85%を超えると、リオトロピック液晶が適切に形成されない虞があるからである。
【0055】
本発明の方法は、液晶調製過程で油分を添加することをさらに含んでもよい。油分を添加することにより、リオトロピック液晶の形成容易化(相領域の拡大)及び安定に親油性化合物を界面に配向することができる。本発明で使用できる油分としては、小麦胚芽油やトウモロコシ油やヒマワリ油やダイズ油などの植物油、シリコーン油、エステル油(例えば、イソプリピルミリステート、エチルヘキサン酸セチル、グリセリルトリオクタノエート、ジエチレングリコールモノプロピレンペンタエリスリトールエーテル、ペンタエリスリチルテトラオクタノエートなど)、スクアラン、スクアレン、流動パラフィン、ポリブテン、ビタミン類(例えばビタミンD、ビタミンE)などが挙げられる。油分は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明の組成物に油分を配合する場合、その配合量は両親媒性分子及び親油性化合物の種類に応じて変化する場合があるが、好ましくは、本発明の組成物の総重量の0.01〜30重量%の範囲である。
【0057】
本発明の方法は、液晶調製過程で補助界面活性剤を添加することをさらに含んでもよい。補助界面活性剤を添加することによって、界面膜曲率を低減させて、安定なリオトロピック液晶の形成の容易化を図ることができる点で有用である場合がある。本発明で使用することができる補助界面活性剤としては、これに限定されるものではないが、例えばコレステロール、フィトステロール、高級アルコールなどを挙げることができる。
【0058】
補助界面活性剤の配合量は、リオトロピック液晶の形成を妨げない限り特に制限されない。例えば、補助界面活性剤は、本発明の組成物の総重量の0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の範囲で配合することができる。
【0059】
本発明の方法は、上記成分の他に、液晶調製過程で、化粧料、医薬品、工業製品で一般的に用いられる水性又は油性の付加成分を、液晶構造を損なわない範囲で添加することを含んでもよい。そのような付加成分の例には、これに限定されるものではないが、保湿剤や防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、美容成分、ビタミン類(例えばビタミンB
1、ビタミンC)、香料、保香剤、増粘剤、着色顔料、光輝性顔料、有機粉体、金属酸化物、タール色素などを挙げることができる。
【0060】
本発明の方法において、添加・配合成分の混合を容易化するために、液晶調製過程で適宜、添加・配合成分の加熱処理を含んでもよい。
【0061】
本発明の方法において、上記各成分の添加・混合順序は特に制限されない。例えば、親油性化合物を除く全ての成分の混合物を調製し、該混合物に親油性化合物を添加・混合して本発明の液晶組成物を製造してもよいし、全ての成分を同時に添加・混合してもよい。
【0062】
本発明の方法によれば、総重量の0.01〜70重量%の範囲で親油性化合物を含有した液晶組成物を製造することができる。
【0063】
また、こうして製造される本発明の組成物は、また、液晶が本来的に有する物性(例えば乳化の安定化能、成分の可溶化能)の他、親油性化合物に基づく薬理効果も有しているため、皮膚外用剤、例えば、化粧料、医薬品、又はその原料として使用することができる。
【0064】
更に、上述したような付加成分を含ませることもできるため、工業製品、例えば、塗料、インキ、油脂製品、合成ゴム、又は、その原料として使用することもできる。
【0065】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0066】
(調製例1)
本調製例では、親油性化合物としてα‐リポ酸(製品名 α-リポ酸:立山化成社製)、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(製品名 NIKKOL BS−20:日光ケミカルズ社製)、多価アルコールとしてグリセリン(製品名 濃グリセリン:花王社製)、油分としてエチルヘキサン酸セチル(製品名 CIO:日光ケミカルズ社製)又はビタミンE(製品名 dl-α-トコフェロール:DSM社製)を用いて本発明の液晶を調製した例を示す。
【0067】
まず、純水(1.39g)およびグリセリン(3.09g)の混合溶液にポリオキシエチレンアルキルエーテル(2.98g)を添加し、均一になるまで加熱・混合した。次いで、α‐リポ酸(0.83g)を添加し、50〜55℃に加熱しながら分散・溶解した。次いで、2.5mol/L水酸化ナトリウム(1.61g)を徐々に添加・撹拌し、透明な溶液を得た。この溶液にエチルヘキサン酸セチル(0.1g)又はビタミンE(0.1g)を徐々に添加し、約80℃で加熱・混合し、透明なゲル状組成物(実施例1、2)を調製した。
【0068】
これらゲル状組成物が液晶であることは、偏光顕微鏡及び小角X線散乱によって確認した。本調製例に従って調製した実施例1の組成物の写真図を
図1Aに示す。
【0069】
(調製例2)
本調製例では、親油性化合物としてフェルラ酸(製品名 フェルラ酸:築野食品工業社製)、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(製品名 NIKKOL BS−20:日光ケミカルズ社製)、多価アルコールとしてグリセリン(製品名 濃グリセリン:花王社製)を用いて本発明の液晶を調製した例を示す。
【0070】
まず、純水(1.37g)およびグリセリン(3.05g)の混合溶液にポリオキシエチレンアルキルエーテル(3.01g)を添加し、均一になるまで加熱・混合した。次いで、フェルラ酸(0.84g)を添加し、約50℃に加熱しながら分散・溶解した。2.5mol/L水酸化ナトリウム(1.73g)を徐々に添加し、加熱・混合して透明なゲル状組成物(実施例3)を調製した。
【0071】
このゲル状組成物が液晶であることは、偏光顕微鏡及び小角X線散乱によって確認した。本調製例に従って調製した実施例3の組成物の写真図を
図1Bに示す。
【0072】
(調製例3)
本調製例では、親油性化合物としてグリチルレチン酸(製品名 グリチルレチン酸:丸善製薬社製)、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(製品名 NIKKOL BS−20:日光ケミカルズ社製)、多価アルコールとしてグリセリン(製品名 濃グリセリン:花王社製)、油分としてエチルヘキサン酸セチル(製品名 CIO:日光ケミカルズ社製)を用いて本発明の液晶を調製した例を示す。
【0073】
まず、純水(1.44g)およびグリセリン(3.21g)の混合溶液にポリオキシエチレンアルキルエーテル(3.26g)を添加し、均一になるまで加熱・混合した。次いで、グリチルレチン酸(0.72g)を添加し、約50℃に加熱しながら分散・溶解した。2.5mol/L水酸化ナトリウム(0.68g)を徐々に添加・撹拌し、透明な溶液を得た。この溶液にエチルヘキサン酸セチル(0.69g)を徐々に添加し、約80℃で加熱・混合し、透明なゲル状組成物(実施例4)を調製した。
【0074】
このゲル状組成物が液晶であることは、偏光顕微鏡及び小角X線散乱によって確認した。本調製例に従って調製した実施例4の組成物の写真図を
図1Cに示す。
【0075】
(調製例4)
本調製例では、親油性化合物としてα‐リポ酸(製品名 α-リポ酸:立山化成社製)を用いて本発明の液晶を調製した例を示す。
【0076】
まず、α-リポ酸(10g)を0.26mol/L水酸化ナトリウム(193.9g)で完全に溶解し、この溶液を24〜48時間凍結乾燥して粉末のα-リポ酸ナトリウム塩を作製した。得られたα-リポ酸ナトリウム(0.5g)と精製水(0.5g)を正確に秤量し、約80℃で加熱・混合し、透明なゲル状組成物(実施例5)を調製した。
【0077】
これらゲル状組成物が液晶であることは、偏光顕微鏡によって確認した。本調製例に従って調製した実施例5の組成物の写真図を
図1Dに示す。
【0078】
調製例1〜4で調製した実施例1〜5の各成分組成(w/w%)を表1に示す。
【表1】
【0079】
(試験例)
本試験例では、実施例1の組成物中のα‐リポ酸の安定性を評価した。
【0080】
実施例1の組成物を1ヶ月間50℃の恒温漕に保管し、保管後30日目のリポ酸含有濃度はHPLCを用いて定量し、調製時点でのα‐リポ酸に対する残存率を算出した。なお、本試験例では、対照として等濃度のα‐リポ酸を含有する水溶液を用いた。その結果を
図2に示す。
【0081】
図2の結果から明らかな通り、液晶に包接されたα‐リポ酸は、30日間の保管後、水溶液中のα‐リポ酸に比較して顕著に高安定で維持されていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、親油性化合物の含有量が高められた、親油性化合物含有の液晶組成物が提供される。
【0083】
本発明の液晶組成物は、液晶が本来的に有する物性(例えば乳化の安定化能、成分の可溶化能)の他、親油性化合物に基づく薬理効果も有しているため、皮膚外用剤、例えば、化粧料、医薬品、又はその原料として使用することができる。
【0084】
また、増粘剤、着色顔料、光揮性顔料、有機粉体、金属酸化物、色素などの付加成分を含ませることもできるため、工業製品、例えば、塗料、インキ、油脂製品、合成ゴム、又は、その原料として使用することもできる。