(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切替機構には、タンクから前記第1の油圧シリンダと前記第2の油圧シリンダの少なくとも一方へ流れる作動油の量を調整する絞りが設けられる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の作業機械。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は作業現場で稼働しているグラップル仕様機の側面図である。グラップル仕様機100は、ショベルのアームの先端に作業アタッチメントとしてグラップルを取り付けた作業機械である。作業機械としてショベルの本体を用いることに限定されず、駆動可能なアームを有する作業機械であればどのような作業機械を用いてもよい。
【0015】
図1に示す作業現場では、大きな切断機200により切断した廃材300を収容部400の取り出し口から拾い上げて運搬する作業が行なわれる。
【0016】
グラップル仕様機100の本体部分を構成するショベルは、走行するための駆動部として下部走行体1を有する。下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にグラップル6が取り付けられている。ブーム4及びアーム5は、ブームシリンダ7及びアームシリンダ8によりそれぞれ油圧駆動される。
【0017】
グラップル6は、対象物を把持できるように対向する2本を一組として、把持方向を9 0度ずらして設けられた2組(計4本)の把持爪6Aを含む。把持爪6Aの間に廃材300が挟まれて保持される。グラップル6はアーム5の先端に回動可能に取り付けられ、リンク9Aを介してバケットシリンダ9に接続されている。バケットシリンダ9に油圧を供給してバケット用ピストン9aを駆動することにより、アーム5に対するグラップル6の角度を変えることができる。グラップル6を駆動する油圧シリンダをバケットシリンダ9と称している。グラップル仕様にしない場合は、作業アタッチメントとしてバケットがアーム5の先端に取り付けられる。このため、バケットシリンダ9は特にバケットを駆動するための油圧シリンダのみを意味するものではない。グラップル仕様機100の場合は、バケットシリンダ9の代わりにグラップルシリンダ9と称することとしてもよい。本明細書では、グラップル6を駆動するための油圧シリンダをバケットシリンダ9と称する。
【0018】
上部旋回体3には、運転席及び操縦装置が配置された運転室としてキャビン10が設けられる。上部旋回体3には、キャビン10の後ろ側にエンジン等の動力源や油圧ポンプや油圧回路などが搭載される。
【0019】
本実施形態では、アーム5の先端に取り付けられたグラップル6を操作して廃材300を掴んだ後、アーム5を駆動してグラップル6を移動する前に、グラップル6が鉛直下方に向いた姿勢となるように設定する。すなわち、アーム6の先端を上昇させてグラップル6を持ち上げる際に、グラップル6がアーム5の先端の外方向に角度がつかないようにすることで、グラップル6が周囲の壁面等に接触しにくくする。
【0020】
なお、本実施形態では、被運搬物を掴むための作業アタッチメントとしてグラップル6を用いているが、作業アタッチメントはグラップルに限定されず、例えばフォークや、リフティングマグネット等を作業アタッチメントとして用いることとしてもよい。
【0021】
上述のようにグラップル6の角度はバケットシリンダ9により変えることができる。作業機械の運転者がバケットシリンダ9を操作してグラップル6を鉛直下方に向いた姿勢に設定してもよいが、操作者が目測を誤ったり、他の操作に集中してグラップル6の操作がおろそかになる場合がある。そこで、本実施形態では、グラップル6の角度を操作するバケットシリンダ9を非制御状態に設定することで、グラップル6がバケットシリンダ9により拘束されずに自由に動けるようにする。バケットシリンダ9による拘束が無くなると、操縦者が操作しなくてもグラップル6は自然と鉛直下方に向くこととなる。
【0022】
本実施形態で、バケットシリンダ9に油圧を供給する油圧回路に切替機構を設けて、バケットシリンダ9を制御状態(拘束状態)と非制御状態(非拘束状態)との間で切り替える。ここで、制御状態とは、コントロールバルブ17からバケットシリンダ9に油圧が供給されてバケットシリンダ9のロッドが駆動、又は保持されている状態である。制御状態でバケットシリンダ9を駆動することで、グラップル6の角度を変えることができる。一方、非制御状態とは、コントロールバルブ17からバケットシリンダ9への油圧供給は無くなり、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)が自由に動けるように油圧回路が設定された状態である。制御状態から非制御状態への切り替えは、コントロールバルブ17とバケットシリンダ9の間の油圧回路に設けられた切替機構により行なわれる。
【0023】
次に、切替機構について説明する。
図2は
図1に示すグラップル仕様機100の油圧システムの構成を示すブロック図である。
図2において、機械的動力系が二重線、油圧ラインが実線、電気系が太線、制御系が破線でそれぞれ示されている。
【0024】
グラップル仕様機100は、内燃機関からなるエンジン11を備える。エンジン11には、可変容量式油圧ポンプ28(以下、第1の油圧ポンプ28と称する)及び可変容量式油圧ポンプ14(以下、第2の油圧ポンプ14と称する)が機械的に接続される。
【0025】
第1の油圧ポンプ28は、例えば可変斜板式油圧ポンプであり、斜板の角度を変更することでポンプ出力を変更することができる。すなわち、第1の油圧ポンプ28への制御電流を変更することにより斜板の角度を調整し、これにより第1の油圧ポンプ28の出力を変更することができる。第1の油圧ポンプ28は、エンジン11の出力により駆動されて高圧の作動油を吐出する。
【0026】
第2の油圧ポンプ14は、例えば可変斜板式油圧ポンプであり、斜板の角度を変更することでポンプ出力を変更することができる。すなわち、第2の油圧ポンプ14への制御電流を変更することにより斜板の角度を調整し、これにより第2の油圧ポンプ14の出力を変更することができる。第2の油圧ポンプ14は、エンジン11の出力により駆動されて高圧の作動油を吐出する。
【0027】
第1の油圧ポンプ28及び第2の油圧ポンプ14は、コントロールバルブ17を介して、それぞれ対応付けられた各種アクチュエータに油圧回路で接続される。
図2に示す例では、各種アクチュエータは、グラップル仕様機100の右側車輪を駆動するための走行右モータ1A、左側車輪を駆動するための走行左モータ1B、旋回機構2を駆動するための旋回モータ21、ブーム4の上げ・下げ駆動するためのブームシリンダ7、アーム5を開閉駆動するためのアームシリンダ8、及びグラップル6を駆動するためのバケットシリンダ9である。
【0028】
コントロールバルブ17は、複数の切換バルブ171−178を備える。複数の切換バルブ171−178は、第1の油圧ポンプ28の吐出側とリザーバタンク40を繋ぐ第1油路42に設けられる切換バルブ171−174と、第2の油圧ポンプ14の吐出側とリザーバタンク40を繋ぐ第2油路44に設けられる切換バルブ175−178とからなる。
【0029】
切換バルブ171は、走行左モータ1Bによる走行動作を実現するための作動油の供給状態を切り換える。切換バルブ173は、旋回モータ21による旋回動作を実現するための作動油の供給状態を切り換える。切換バルブ173は、ブームシリンダ7によるブーム上げ動作(2速)を実現するための作動油の供給状態を切り換える。切換バルブ174はアームシリンダ8によるアーム開閉動作(1速)を実現するための作動油の供給状態を切り換える。
【0030】
切換バルブ175は、走行右モータ1Aによる走行動作を実現するための作動油の供給状態を切り換える。切換バルブ176は、バケットシリンダ9によるバケット開閉動作を実現するための作動油の供給状態を切り換える。切換バルブ177、ブームシリンダ7によるブーム上げ・下げ動作(1速)を実現するための作動油の供給状態を切り換える。切換バルブ178は、アームシリンダ8によるアーム開閉動作(2速)を実現するための作動油の供給状態を切り換える。
【0031】
第1の油圧ポンプ28側の第1油路42において、切換バルブ174より下流側とリザーバタンク40との間には、ネガコン絞り46(負帰還用の絞り)が挿入されている。ネガコン絞り46を介して、ネガコン圧(ネガコン絞り46の上流側圧力)Pn1がレギュレータ54に負帰還される。第1油路42には、第1油路42のリリーフ圧を調整する可変リリーフ弁50が接続されている。コントローラ30及びレギュレータ54は、ネガコン圧Pn1に基づいて、リザーバタンク40に戻る第1の油圧ポンプ28の吐出流量の損失を低減する態様で、第1の油圧ポンプ28を制御する(いわゆるネガコン制御を行う)。
【0032】
同様に、第2の油圧ポンプ14の第2油路44において、切換バルブ178より下流側とリザーバタンク40との間には、ネガコン絞り48(負帰還用の絞り)が挿入されている。ネガコン絞り48を介して、ネガコン圧(ネガコン絞り48の上流側圧力)Pn2がレギュレータ56に負帰還される。第2油路44には、第2油路44のリリーフ圧を調整する可変リリーフ弁52が接続されている。コントローラ30及びレギュレータ56は、ネガコン圧Pn2に基づいて、リザーバタンク40に戻る第2の油圧ポンプ14の吐出流量の損失を低減する態様で、第2の油圧ポンプ14を制御する(いわゆるネガコン制御を行う)。このように、第1の油圧ポンプ28と第2の油圧ポンプ14とは機械的に分離されている。
【0033】
また、第1油路42及び第2油路44には、油圧回路の最高圧を制限するリリーフ弁60が接続されている。リリーフ弁60は、油圧回路内の圧力が所定の設定圧を超えると作動し、リザーバタンク62に油圧回路を連通させる。
【0034】
次に、切替機構について説明する。切替機構80は、
図2に示す油圧システムにおいて、コントロールバルブ17とバケットシリンダ9との間の油圧回路に設けられる。切替機構80は、上述のように、バケットシリンダ9を制御状態と非制御状態との間で切り替えるための機構である。
【0035】
図3は切替機構80を構成する油圧回路の一例を示す図である。
図3に示す例では、切替機構80は、短絡用開閉弁82と、タンク側開閉弁84と、これら開閉弁を切り替え操作する切替スイッチ86とを含む。短絡用開閉弁82と、タンク側開閉弁84とは、油圧、又は電気で開閉制御が行なわれる開閉弁であり、制御用の油圧は切替スイッチ86から供給される。
【0036】
短絡用開閉弁82は、コントロールバルブ17とバケットシリンダ9のロッド側とを接続する油圧ライン90Aと、コントロールバルブ17とバケットシリンダ9のボトム側とを接続する油圧ライン90Bとの間に設けられる。短絡用開閉弁82を開くと、油圧ライン90Aと油圧ライン90Bとが接続され、バケットシリンダ9のロッド側とボトム側を繋ぐ閉回路が形成される。
【0037】
タンク側開閉弁84は、油圧ライン90Aとリザーバタンク40との間に設けられる。タンク側開閉弁84を開くと、油圧ライン90Aとリザーバタンク40とが接続される。これにより、油圧ライン90Aからリザーバタンク40に作動油を流すことができ、逆にリザーバタンク40から油圧ライン90Aに作動油を供給することができる。タンク側開閉弁84を接続する位置は、油圧ライン90Aに限られない。短絡用開閉弁82を開いて形成される上述の閉回路であれば、タンク側開閉弁84をどこに接続してもよい。
【0038】
ここで、切替スイッチ86を操作して、バケットシリンダ9を非制御状態に切り替えた際のバケットシリンダ9への作動油の流れについて説明する。
【0039】
図3−(a)は、非制御状態に切り替えられたときにグラップル6が機体側に回動して鉛直下方につり下がるようになる際の作動油の流れを矢印で示す図である。すなわち、
図3−(a)は、グラップル6が鉛直方向より前側に位置するような角度にバケットシリンダ9で支持されている状態で、切替スイッチ86が操作されてバケットシリンダ9が非制御状態に設定された場合の作動油の流れを示している。この場合、まず、短絡用開閉弁82が開くので、バケットシリンダ9のロッド側とボトム側とを接続する閉回路が形成される。このとき、グラップル6が重力により機体側に戻るように回動しようとして、バケットシリンダ9のロッドに引張り方向の外力が加わっている。このため、
図3−(a)の矢印で示すように、閉回路を通じてバケットシリンダ9のロッド側の作動油は、短絡用開閉弁82を通じてボトム側に流れる。
【0040】
ここで、ロッドがシリンダから延出していくときにシリンダのロッド側の容積変化量は、ボトム側の容積変化量より少ない。したがって、ロッド側から流出する作動油に、容積変化の差分に相当する量の作動油を加える必要がある。そこで、
図3に示す例では、タンク側開閉弁84を開くことで、リザーバタンク40から作動油を供給できるようになる。したがって、バケットシリンダ9のロッドが延出する方向に移動してロッド側から流出した作動油に、リザーバタンク40から供給された作動油が加わり、バケットシリンダ9のボトム側に流入する。すなわち、ロッド側の容積変化量とボトム側の容積変化量の差分に相当する量の作動油がリザーバタンク40から閉回路に吸い込まれる。これにより、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)は、グラップル6により引っ張られることで、ほとんど抵抗無く延出方向に移動することができる。
【0041】
グラップル6の自重による回動力によりバケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)が引っ張られて、グラップル6が回動可能に取り付けられた位置に対して鉛直下方に吊り下げられた状態となると、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)を引っ張る力は無くなる。したがって、グラップル6は、鉛直下方に吊り下げられた状態で停止する。バケットシリンダ9を非制御状態に維持しておけば、アーム5が移動してその角度が変わっても、グラップル6は常に鉛直下方に吊り下げられた状態を維持することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、タンク側開閉弁84とリザーバタンク40との間の油圧ラインに絞り92が設けられる。リザーバタンク40から閉回路に流入する作動油の量、又はリザーバタンク40に流出する作動油の量を、絞り92により調整することで、バケットシリンダ9のロッド側とボトム側との間での作動油の移動速度を調整することができる。結果としてグラップル6の移動速度が調整される。バケットシリンダ9を非制御状態に設定したときにグラップル6が急激に移動すると、アーム5に衝撃が伝わったり、グラップル6が振り子のように揺動するおそれがある。そのような現象の発生を防止するため、グラップル6がゆっくりと回動するように絞り92でグラップル6の回動速度を調整する。
【0043】
絞り92を設ける位置は、タンク側開閉弁84とリザーバタンク40との間の油圧ラインに限られない。閉回路の途中のどの位置に絞り92を配置しても、グラップル6の回動速度を調整することができる。また、絞り92を設けることで、グラップル6が吊り下げ状態となったときのグラップル6の揺動を抑制することができる。
【0044】
図3−(b)は、グラップル6が鉛直方向より機体側に位置するような角度にバケットシリンダ9で支持されている状態で、切替スイッチ86が操作されてバケットシリンダ9が非制御状態に設定された場合の作動油の流れを示している。この場合、まず、短絡用開閉弁82が開くので、バケットシリンダ9のロッド側とボトム側とを接続する閉回路が形成される。このとき、グラップル6が重力により前側に戻るように回動しようとして、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)に押し込む方向の外力が加わっているため、
図3−(b)の矢印で示すように、閉回路を通じてバケットシリンダ9のボトム側の作動油は、短絡用開閉弁82を通じてロッド側に流れることとなる。
【0045】
ここで、ロッドがシリンダから延出していくときにシリンダのボトム側の容積変化量は、ロッド側の容積変化量より多い。したがって、ボトム側から流出する作動油から、容積変化の差分に相当する量の作動油を減じる必要がある。そこで、
図3−(b)に示す例では、タンク側開閉弁84を開くことで、閉回路からリザーバタンク40に作動油を流すことができるようになる。したがって、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)が押し込まれる方向に移動してボトム側から流出した作動油の一部は、リザーバタンク40へと流れ、残りの作動油がバケットシリンダ9のロッド側に流入する。すなわち、ボトム側の容積変化量とロッド側の容積変化量の差分に相当する量の作動油が閉回路からリザーバタンク40に流出する。これにより、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)は、グラップル6により押し込まれることで、ほとんど抵抗無く押し込む方向に移動することができる。
【0046】
グラップル6の自重による回動力によりバケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)は押し込まれて、グラップル6が回動可能に取り付けられた位置に対して鉛直下方に吊り下げられた状態となると、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)を押し込む力は無くなる。したがって、グラップル6は、鉛直下方に吊り下げられた状態で停止する。バケットシリンダ9を非制御状態に維持しておけば、アーム5が移動してその角度が変わっても、グラップル6は常に鉛直下方に吊り下げられた状態を維持することができる。
【0047】
以上のように、
図3に示す構成の切替機構80により、バケットシリンダ9を非制御状態に設定することで、グラップル6は自重の作用により鉛直下方に吊り下げられた状態に維持される。この状態は、グラップル6がアーム5の先端から鉛直方向に降ろした線から横にはみ出す部分の長さが最も短くなる状態であり、アーム5の移動中にグラップル6が側壁等に接触する可能性が最も低くなる。
【0048】
次に、本願発明を用いた作業機械の動作について説明する。
【0049】
アタッチメントを収容部400の外から収容部400の中へ入れる際には、把持する対象物にグラップル6を精度よく近づけるため、運転者は切替スイッチ86を操作してバケットシリンダ9を制御状態にする。その後、通常は、グラップル6で対象物を把持する際には、対象物をグラップル6で押し付けた状態で把持している。このため、グラップル6で対象物を把持する際も、運転者はバケットシリンダ9を制御状態に維持している。このように、バケットシリンダ9を押し付けて把持することができるので、一回の動作で大量の対象物を把持することができる。グラップル6による把持後、運転者はブーム4及び旋回機構2を操作して、把持した対象物を収容部400の中から収容部400の外へ取り出す。この際に、運転者は切替スイッチ86を操作してバケットシリンダ9を非制御状態にする。これにより、グラップル6の位置が、アーム5の下方で定まった状態となるので、アーム5を移動させてもグラップル6が収容部400の側壁等に接触することを防止することができ、収容部400からの取り出し作業の効率を向上させることができる。
【0050】
対象物を収容部400から取り出した後、対象物を遠くに放出したい場合には、運転者はバケットシリンダ9を非制御状態にしたまま、ブーム等を操作し、対象物を遠くへ放出する。逆に、対象物をトラックの荷台などに精度よく配置したい場合には、運転者は切替スイッチ86を操作してバケットシリンダ9を制御状態にする。これにより、トラックの荷台にグラップル6を近づけた後、グラップル6から精度よく対象物を放すことができる。
【0051】
図4は切替機構80を構成する油圧回路の他の例を示す図である。
図4において、
図3に示す構成部品と同等の部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
図4に示す例では、切替機構80は、短絡用開閉弁82の代わりにもう一つのタンク側開閉弁88を含む。タンク側開閉弁88は、油圧で開閉制御が行なわれる開閉弁であり、制御用の油圧は切替スイッチ86から供給される。
【0052】
図4に示す例では、タンク側開閉弁84を第1のタンク側開閉弁84と称し、タンク側開閉弁88を第2のタンク側開閉弁88と称する。第1のタンク側開閉弁84は
図3に示すタンク側開閉弁84と同等の機能を有するが、接続位置は油圧ライン90Aとリザーバタンク40との間に限定される。
【0053】
第2のタンク側開閉弁88は、油圧ライン90Bとリザーバタンク40との間に設けられる。第2のタンク側開閉弁88を開くと、油圧ライン90Bとリザーバタンク40とが接続される。これにより、油圧ライン90Bからリザーバタンク40に作動油を流すことができ、逆にリザーバタンク40から油圧ライン90Bに作動油を供給することができる。
【0054】
ここで、切替スイッチ86を操作して、バケットシリンダ9を非制御状態に切り替えた際のバケットシリンダ9への作動油の流れについて説明する。
【0055】
図4−(a)は、非制御状態に切り替えられたときにグラップル6が機体側に回動して鉛直下方につり下がるようになる際の作動油の流れを矢印で示す図である。すなわち、
図4−(a)は、グラップル6が鉛直方向より前側に位置するような角度にバケットシリンダ9で支持されている状態で、切替スイッチ86が操作されてバケットシリンダ9が非制御状態に設定された場合の作動油の流れを示している。この場合、第1のタンク側開閉弁84及び第2のタンク側開閉弁88の両方が開き、バケットシリンダ9のロッド側は油圧ライン90A及び第1のタンク側開閉弁84を通じてリザーバタンク40に接続され、バケットシリンダ9のボトム側は油圧ライン90B及び第2のタンク側開閉弁88を通じてリザーバタンク40に接続された状態となる。
【0056】
このとき、グラップル6が重力により機体側に戻るように回動しようとして、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)に引張り方向の外力が加わっているため、
図4−(a)の矢印で示すように、バケットシリンダ9のロッド側の作動油は、油圧ライン90A及び第1のタンク側開閉弁84を通じてリザーバタンク40に流出する。一方、バケットシリンダ9のロッド側には、第2のタンク側開閉弁88及び油圧ライン90Bを通じてリザーバタンク40から作動油が流れ込む。したがって、バケットシリンダ9のロッドが延出する方向に移動してロッド側から流出した作動油はリザーバタンク40に流出し、且つリザーバタンク40内の作動油がボトム側に流入する。これにより、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)は、グラップル6により引っ張られることで、ほとんど抵抗無く延出方向に移動することができる。
【0057】
グラップル6の自重による回動力によりバケットシリンダ9のロッドが引っ張られて、グラップル6が回動可能に取り付けられた位置に対して鉛直下方に吊り下げられた状態となると、バケットシリンダ9のロッドを引っ張る力は無くなる。したがって、グラップル6は、鉛直下方に吊り下げられた状態で停止する。バケットシリンダ9を非制御状態に維持しておけば、アーム5が移動してその角度が変わっても、グラップル6は常に鉛直下方に吊り下げられた状態を維持することができる。
【0058】
図4−(b)は、グラップル6が鉛直方向より機体側に位置するような角度にバケットシリンダ9で支持されている状態で、切替スイッチ86が操作されてバケットシリンダ9が非制御状態に設定された場合の作動油の流れを示している。この場合、第1のタンク側開閉弁84及び第2のタンク側開閉弁88の両方が開き、バケットシリンダ9のロッド側は油圧ライン90A及び第1のタンク側開閉弁84を通じてリザーバタンク40に接続され、バケットシリンダ9のボトム側は油圧ライン90B及び第2のタンク側開閉弁88を通じてリザーバタンク40に接続された状態となる。
【0059】
このとき、グラップル6が重力により機体側に戻るように回動しようとして、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)に押し込む方向の外力が加わっているため、
図4−(b)の矢印で示すように、バケットシリンダ9のボトム側の作動油は、油圧ライン90B及び第2のタンク側開閉弁88を通じてリザーバタンク40に流出する。一方、バケットシリンダ9のロッド側には、第1のタンク側開閉弁84及び油圧ライン90Aを通じてリザーバタンク40から作動油が流れ込む。これにより、バケットシリンダ9のロッドは、グラップル6により押し込まれることで、ほとんど抵抗無く延出方向に移動することができる。
【0060】
グラップル6の自重による回動力によりバケットシリンダ9のロッドは押し込まれて、グラップル6が回動可能に取り付けられた位置に対して鉛直下方に吊り下げられた状態となると、バケットシリンダ9のロッド(ピストン9a)を押し込む力は無くなる。したがって、グラップル6は、鉛直下方に吊り下げられた状態で停止する。バケットシリンダ9を非制御状態に維持しておけば、アーム5が移動してその角度が変わっても、グラップル6は常に鉛直下方に吊り下げられた状態を維持することができる。
【0061】
なお、
図4に示す例では、第2のタンク側開閉弁88とリザーバタンク40との間の油圧ラインにも絞り94が設けられている。絞り94は絞り92と同じ作用を有するものであり、絞り92及び絞り94のいずれか一方が設けられていれば、グラップルの回動速度を調整することができる。また、絞り92及び絞り94は無くてもよい。
【0062】
以上のように、
図4に示す構成の切替機構80により、バケットシリンダ9を非制御状態に設定することで、グラップル6は自重の作用により鉛直下方に吊り下げられた状態に維持される。この状態は、グラップル6がアーム5の先端から鉛直方向に降ろした線から横にはみ出す部分の長さが最も短くなる状態であり、アーム5の移動中にグラップル6が側壁等に接触する可能性が最も低くなる。
【0063】
上述の実施形態では、バケットシリンダ9の油圧回路に対して切替機構80を設けてバケットシリンダを非制御状態にしているが、
図5に示すように、同様な切替機構80をアームシリンダ8の油圧回路にも設けることとしてもよく、いずれか一方に設けることとしてもよい。
【0064】
切替機構80をアームシリンダ8の油圧回路に設けた場合、アームシリンダ8を非制御状態とすることで、ブーム4の先端からアーム5を鉛直下方に吊り下げられた状態にすることができる。ブーム4を上昇させてグラップル6をアーム5と共に持ち上げるような場合には、アーム5も吊り下げられた状態にしておくことで、グラップル6を接触し難くすることができる。
【0065】
なお、本実施形態では油圧ショベルのシステム構成図をもとに説明したが、本発明は油圧ショベルに限らず、エンジンの動力をもとに発電した電力を蓄電器に蓄電し、蓄電した電力をもとに電動機によりポンプを駆動するハイブリッド型ショベルにも適用することができる。
【0066】
本明細書では油圧ショベルの実施形態により本発明を説明したが、本発明は具体的に開示された上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変形例及び改良例がなされるであろう。
【0067】
本出願は、2011年9月22日出願の優先権主張日本国特許出願第2011−208149号に基づくものであり、その全内容は本出願に援用される。