(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば石積みなどの施工済みの擁壁の補強方法として、接着性を有する充填材を石積みの隙間や背面に注入する方法が知られている。この方法によれば、石積みの組み直しをすることなく、簡便に石積みの補強を行うことができる。しかしながら、その反面、この補強方法では、注入した充填材が自重により下方向に流れてしまう現象や、充填材の充填後のダレ(充填材を充填した後、固化までの間に、自重により空洞部の上部側の充填材が空洞部の下部側に移動し、上部側が薄く、下部側が厚くなる現象)により、石積みの背面の空洞部や、石と石との相接する部分(合羽)近傍の狭い部分の裏側には、充填材が十分に充填されないという問題があった。
【0003】
そこで、本発明の出願人は、既存の石積みの補強方法として、充填材を圧縮空気の圧力を用いて注入ノズルから石積みの間に吹き込み、充填材を石積みの隙間に満遍なく充填する方法を提案している(特許文献1参照)。この方法によれば、充填材を石積みの隙間に十分に充填することができ、石積みの背面側から受ける土圧に対する強度を回復することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載する方法では、合羽の狭い隙間からの充填材の注入は難しいため、このような部分においては注入孔を広げて施工を行わなければならない。また、圧縮空気の圧力を用いていても、石積みの前面から注入するのみでは、石積み前面の隙間には前面から充填材を注入できるものの、石積みの背面に形成された広い空洞部には十分に充填材が充填されないという問題があり、改良の余地があった。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、石積みなどの施工済みの擁壁を既存の状態で補強可能であるとともに、広い注入孔を形成することなく充填材を注入することができ且つ擁壁の狭い隙間や背面の空洞部にまで十分に充填材を注入することができるようにして、少ない工程で確実に擁壁を補強できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、既存の擁壁の隙間に充填材を注入する際に、擁壁を貫通する狭い貫通孔を形成して、その貫通孔に有孔管を挿入し、該有孔管を通して充填材を注入することにより、擁壁の背面の空洞部にまで十分に充填材が充填されるようにした。
【0008】
具体的には、第1発明に係る擁壁の補強方法は、背面に空洞部が形成されている擁壁の補強方法であって、前記擁壁に、前記空洞部に達する貫通孔を削孔し、前記貫通孔に、先端部周囲の壁部に吐出孔が貫通して開口された有孔管を先端部側から挿入し、
前記貫通孔と前記有孔管との間の隙間、及び、前記擁壁の隙間にそれぞれシール用充填材を注入することによって前記隙間をシールし、前記有孔管に注入ノズルを接続し、該注入ノズルから前記有孔管を通して前記空洞部に充填材を
吐出圧力0.1〜0.5MPaで加圧して注入し、前記充填材の注入後に前記有孔管を前記貫通孔から除去し、前記有孔管を除去した後の前記貫通孔を新たな充填材でシールする
方法であり、前記有孔管の内径は35〜45mm、前記有孔管の外径は40〜55mm、及び前記有孔管の長さは400〜600mmであり、前記有孔管は、該有孔管の円周方向に均等に配置された4〜8個の円形の前記吐出孔を備えており、前記吐出孔の径は25〜35mmであり、前記充填材を注入するときに、注入工程の初期において吐出圧力を上昇させ、該注入工程の後期において吐出圧力を減少させることを特徴とする。
【0009】
この第1発明では、加圧注入された充填材は、貫通孔に挿入された有孔管の吐出孔から、擁壁の背面の空洞部に直接充填されるため、充填材は、ポンプの圧力により擁壁背面の空洞部において上下・横方向に流動し、注入箇所の周辺の擁壁の背面にまで充填することができる。また、擁壁背面の空洞部において充填材の充填が完了すると、充填材が擁壁の背面から前面に上がってくるため、空洞部から擁壁前面の狭い隙間にまで充填材を充填することができる。さらに、貫通孔の径は、有孔管を挿入可能であれさえすれば十分であるため、広い注入孔を形成する必要がなく、比較的狭い径の貫通孔を形成するだけで施工可能であり、作業負担が軽減されて作業効率が向上する。また、有孔管を通して充填材を注入するため、注入時の充填材の飛散が抑えられ、少ない工程で簡便且つ確実に擁壁を補強することができる。
また、有孔管を介しての充填材の加圧注入前に、貫通孔と有孔管との間の隙間、及び擁壁前面の隙間にシール用充填材を注入し、これらの隙間を予めシールしておくことにより、加圧注入時における充填材のこれらの隙間からの飛び出しを防ぐことができるとともに、充填圧の前記隙間からの抜けがなくなるため、充填材が、擁壁背面の空洞部においてより確実に奥まで広がるようになる。そして、吐出孔が有孔管に複数形成されており、これらの吐出孔が有孔管の円周方向に均等に配置されているため、注入された充填材は、これらの吐出孔から上下・横方向に均等に広がり、擁壁の背面の空洞部において充填材を均一且つ広範囲に充填させることができる。また、前記充填材を注入するときに、注入工程の初期において吐出圧力を上昇させ、該注入工程の後期において吐出圧力を減少させることにより、充填材の跳ね返りによる擁壁の隙間等からの充填材の飛び出しを防ぐことができる。
【0010】
本発明において、充填材は、注入時には流動性を有し、注入後に徐々に硬化する材料であればよい。具体的には、普通モルタル、無収縮モルタル若しくは樹脂モルタル等のモルタル又は土質材料と無機塩類と水和反応性硬化剤との混合物等を使用することができる。
【0011】
また、補強対象の擁壁として、石積み、ブロック積み又はコンクリート擁壁等の施工済みの擁壁に対し、本発明に係る擁壁の補強方法を施すことができる。
【0014】
本発明において、シール用充填材は、シール時に流動性を有し、シール後に徐々に硬化する材料であればよく、具体的には前記充填材と同様の材料を使用することができる。なお、シール用充填材は、前記充填材と同じ材料であってもよく、また異なる材料であってもよい。
【0015】
第3発明に係る擁壁の補強方法は、第1又は第2発明において、前記有孔管を前記貫通孔に挿入するときに、前記有孔管の先端部が前記擁壁の背面の空洞部又は栗石層の位置に達するように挿入させる構成とする。
【0016】
この第3発明では、有孔管に形成された吐出孔の位置が、擁壁背面の空洞部近傍に配置されるようになり、そのため、充填材の注入時に、吐出孔から直接空洞部の上下・横方向に充填材が広がり、より確実に擁壁の背面の空洞部を充填材で充填することができる。
【0019】
第5発明に係る擁壁の補強方法は、第1〜第4発明において、前記充填材がモルタルである構成とする。
【0020】
第6発明に係る擁壁の補強方法は、第2〜第5発明において、前記シール用充填材がモルタルである構成とする。
【0021】
第7発明に係る擁壁の補強方法は、第1〜第6発明において、前記擁壁は、石積み、ブロック積み又はコンクリート擁壁である構成とする。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、擁壁に、有孔管を挿入するに足りる比較的狭い径の貫通孔を形成して有孔管を挿入し、その有孔管を通して擁壁背面の空洞部に充填材を注入することにより、広い注入孔を形成することなく充填材を注入することができ且つ擁壁の狭い隙間や背面の空洞部にまで十分に充填材を注入することができ、石積みなどの施工済みの擁壁を既存の状態で且つ少ない工程で確実に補強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0025】
(第1実施形態)
図1〜
図8は、本発明の第1実施形態に係る擁壁の補強方法を示している。以下、
図1〜
図8を参照して、本実施形態に係る擁壁の補強方法を使用した補強作業工程について説明する。
【0026】
図1に示すように、補強対象の石積み1は、傾斜地2の前面に栗石層3を介在させて間知石4を積み上げて形成された間知石積みとされている。石積み1背面の間知石4と栗石層3との間や、隣接する間知石4の接合部分4aには、石積み1の劣化・空洞化により形成された空洞部5や隙間6がそれぞれ存在し、これら空洞部5及び隙間6は互いに連通している。
【0027】
補強作業を行う前に、下地処理として、高圧洗浄機を用いた石積み1の洗浄及び石積み1の隙間6に生えている雑草の除草を行う。
【0028】
次に、第1工程において、石積み1の隣接する間知石4の接合部分4aを、例えば電動ドリル、ジャックハンマー又はコアカッター等の削孔機を使用して削り、
図2に示す貫通孔7を削孔する。
【0029】
この貫通孔7は、後述する有孔管8を挿入するための孔であり、
図2に示すように、石積み1背面の空洞部5又は栗石層3に達するように削孔される。
【0030】
このとき、貫通孔7の径は、有孔管8が挿入可能となるようにその径よりも僅かに大きい径であれさえすれば十分であり、具体的には例えば55〜80mm、より好ましくは65〜75mmである。すなわち、本方法によれば、従来の方法のように広い注入孔を形成する必要がなく、比較的狭い径の貫通孔を形成するだけで施工可能であり、これにより作業負担が軽減されて作業効率が向上する。
【0031】
図3は、貫通孔7が形成された石積み1の正面図である。
図3から判るように、貫通孔7の数は、後の工程で注入する充填材としてのモルタル12の硬さ・粘度等の条件や、補修対象の擁壁の種類・状態等の条件により適宜変更されるが、具体的には例えば0.5〜3本/m
2であり、より好ましくは1〜2本/m
2である。
【0032】
次に、第2工程において、
図4に示すように、貫通孔7に有孔管8を挿入する。
【0033】
有孔管8は、モルタル12を空洞部5に注入するためのものであり、
図6(a)に示すように、先端部8aと基端部8bとを有しこれらが開放された管形状である。先端部8a周囲の壁部には、複数の吐出孔8cが貫通して開口されている。
【0034】
吐出孔8cの数及び径は、補修対象の擁壁の種類、面積等の条件及び充填材の種類、硬さ、粘度等の条件等により適宜変更され得る。吐出孔8cの数は、具体的には例えば1〜16個、より好ましくは4〜8個である。また、吐出孔8cの径は、具体的には例えば15〜40mmであり、より好ましくは25〜35mmである。
【0035】
図6(a)には、有孔管8の前面に2個、側面に2個の吐出孔8cが示されているが、後面にも2個の吐出孔8cが形成されているため、本実施形態においては、全部で6個の吐出孔8cが形成されており、これらは有孔管8の円周方向に均等に配置されている。
【0036】
また、
図6(b)は有孔管8を先端部8a側から見た図である。
図6(b)から判るように、本実施形態において、有孔管8の先端部8aは開放されているため、基端部8b側からモルタル12が注入された場合には、モルタル12は吐出孔8c及び先端部8aの両方の孔を通って空洞部5内に注入される。
【0037】
有孔管8の内径は、モルタル12を通すために十分な大きさを有していればよい。具体的には例えば25〜50mmであり、より好ましくは35〜45mmである。また、有孔管8は一定の強度を要するため、有孔管8の壁部の厚さは、具体的には例えば5〜15mm、より好ましくは5〜10mmであり、従って、有孔管8の外径は、具体的には例えば30〜65mm、より好ましくは40〜55mmである。また、有孔管8の長さは、先端部8aが石積み1を貫通し石積み1の背面の栗石層3にまで達する長さが必要である。従って、補強対象の擁壁の種類、特に擁壁の厚さによって変更することができ、具体的には例えば200〜4000mm、より好ましくは400〜600mmである。
【0038】
また、有孔管8を構成する材料は、モルタル12等の充填材を通すために十分な強度を有した材料であればよい。具体的には例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の樹脂、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属であり、より好ましくはポリ塩化ビニルが使用される。これらはモルタル12等の充填材の種類等により適宜変更され得る。
【0039】
図4に示すように、貫通孔7に、この有孔管8を先端部8a側から挿入する。このとき、有孔管8の先端部8aが石積み1背面の空洞部5又は栗石層3の位置に達するように挿入させる。
【0040】
次に、第3工程において、貫通孔7と有孔管8との間の隙間7b及び貫通孔7が形成されていない間知石4間の隙間6に、それぞれ石積み1の表側からシール用モルタル9を注入することによってこれらの隙間6,7bをシールする。
【0041】
図5は、
図4において、貫通孔7に有孔管8が挿入され、隙間7bがシールされた後の貫通孔7の部分の拡大図である。貫通孔7のうち、間知石4の表面近傍の部分と有孔管8との隙間7bはシール用モルタル9によりシールされている。また、シール用モルタル9でシールされた隙間7bの裏側には、隙間7aが部分的に残されている。隙間7a,7bの割合は、シール用モルタル9の硬さ、粘度等の条件、補強対象の擁壁の条件、補強作業の状況等により変化する。
【0042】
また、
図4に示すように、シール用モルタル9によりシールされた間知石4間の隙間6は、隙間6の背面の空洞部5にまでシール用モルタル9が充填される部分もあれば、隙間6の間知石4表面近傍のみシール用モルタル9が充填される部分もある。これらもまた、シール用モルタル9の硬さ等により変化する。
【0043】
次に、第4工程において、
図7に示すように、有孔管8の基端部8bにモルタル12を注入するための注入ノズル10を接続し、この注入ノズル10から有孔管8を通して石積み1背面の空洞部5にモルタル12をモルタル供給ポンプ11により加圧して注入する。
【0044】
モルタル供給ポンプ11で圧送されたモルタル12は、注入ノズル10を通って注入ノズル10の先端に接続された有孔管8の基端部8bに供給され、有孔管8を通ってその吐出孔8cと先端部8aとに供給される。このとき、モルタル12は吐出孔8cから、空洞部5の上下・横方向に供給され、先端部8aから有孔管8の奥の空洞部5に供給される。
【0045】
なお、本工程において、モルタル供給ポンプ11によるモルタル12の吐出圧力は、空洞部5等のモルタル12を充填する空間の広さ等に応じて適宜変更されるが、具体的には例えば0.1〜2MPa、より好ましくは0.1〜0.5MPaである。
【0046】
また、空洞部5がモルタル12により十分に充填された後は、モルタル12は間知石4の表面側に上昇していき、やがて隙間6の裏側、及び間知石4と有孔管8との間の隙間7aがモルタル12により充填される。
【0047】
また、モルタル12の注入工程の初期において空洞部5を充填するために吐出圧力を上昇させ、モルタル12の注入工程の後期においては吐出圧力を減少させて、モルタル12の跳ね返りによる石積み1の隙間6等からのモルタル12の飛び出しを防ぐようにすることが好ましい。
【0048】
こうしてモルタル12の充填が完了した後、第5工程において、
図8に示すように、モルタル12が硬化する前に有孔管8を貫通孔7から除去し、有孔管8を除去した後の貫通孔7の空洞部分7cを新たなモルタル12でシールする。その後、刷毛等を使用して、目地を仕上げることにより補強作業の工程は終了する。
【0049】
以上述べたように、本実施形態に係る擁壁の補強方法によれば、特に前記第4工程において、モルタル12は、有孔管8の円周方向に均等に配置され且つ前記石積み1背面の空洞部5近傍に配置された吐出孔8cと、開放された先端部8aとの両方から、前記空洞部5に直接充填されるため、モルタル供給ポンプ11の圧力によって空洞部5の上下・横方向及び奥方向に流動し、注入箇所の周辺の石積み1の背面にまで均一且つ広範囲に充填され得る。
【0050】
このとき、特に前記第3工程によれば、有孔管8を介してのモルタル12の加圧注入前に、前記隙間6,7bを予めシールしておくことにより、加圧注入時におけるモルタル12のこれらの隙間6,7bからの飛び出しを防ぐことができるとともに、充填圧の前記隙間6,7bからの抜けがなくなるため、モルタル12が、石積み1背面の空洞部5においてより確実に奥まで広がるようになる。
【0051】
そして、前記空洞部5が充填された後は、モルタル12は間知石4の表面側に上昇するため、石積み1背面の空洞部5のみならず、石積み1前面側の狭い隙間6,7aにまで石積み1の背面側からモルタル12を充填させることができる。
【0052】
従って、本方法によれば、注入時のモルタル12の飛散を抑えながら、少ない工程で簡便且つ確実に石積み1を補強することができる。
【0053】
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態を示し、本発明をコンクリート擁壁21の補強作業に適用したものである。以下、本実施形態の説明において、第1実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0054】
図9(a)に示すように、コンクリート擁壁21は、コンクリートブロック24が規則正しく積み上げられて形成されている。
図9(b)は、
図9(a)のIXb−IXb断面図であり、この
図9(b)に示すように、コンクリート擁壁21は、傾斜地2の前面に栗石層3を介してコンクリートブロック24が積層されることにより形成されている。
【0055】
本実施形態では、
図9(a)に示すように、互いに隣接するコンクリートブロック24の接合部分24cの一部に、第1実施形態と同様に貫通孔7を形成する。
【0056】
次いで、
図9(b)に示すように、貫通孔7に有孔管8を挿入した後、有孔管8とコンクリートブロック24との間の隙間にシール用モルタル9を注入してシールする。また、コンクリート擁壁21表面のクラック(図示せず)等にもシール用モルタル9を注入してシールする。
【0057】
次に注入ノズル10を有孔管8に接続し、空洞部5に充填材を注入する。その他は第1実施形態と同様である。
【0058】
本実施形態に係る擁壁の補強方法によれば、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。特に、コンクリート擁壁21の内部においてクラック(図示せず)が生じている場合であっても、モルタル12等の充填材をこれらクラックにより空洞が生じている部分に十分充填することができ、効果的に補強することができる。
【0059】
(他の実施形態)
なお、有孔管8の先端部8aは閉じた構成とすることもできる。これにより、モルタル12等の充填材は吐出孔8cのみから排出されるので、横方向により速く広がり得ることとなる。