【文献】
Journal of the American Chemical Society,2008年,Vol.130, No.18,p.5842-5843
【文献】
Journal of Organometallic Chemistry,2000年,Vol.600, No.1-2,p.198-205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機溶媒が、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレンおよびその混合物または組み合わせの群から選択される芳香族炭化水素溶媒である、請求項1に記載の方法。
前記第1有機溶媒および前記第2有機溶媒が、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレンおよびその混合物または組み合わせの群から選択される芳香族炭化水素溶媒である、請求項2に記載の方法。
【背景技術】
【0005】
[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体の構造および分析データは、先行技術からよく知られている。[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体のX線結晶構造解析から、この錯体が、架橋の形成により2個の臭素原子によって安定化された、Pd−Pd結合を有する二量体であることが示唆されている(例えば、(非特許文献1)および(非特許文献2)参照)。
【0006】
このPd錯体は、以下の構造(式I):
【化1】
を有する。
【0007】
この化合物は深緑色の結晶質物質である。二量体の各Pd原子が酸化状態+1を有する。塩素化溶媒中で錯体は急速に分解する((非特許文献3)参照)。
【0008】
[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2の触媒活性
深緑色の[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体は、溶解状態で非常に急速に触媒活性なシステムを形成することができる。非常に活性な単座配位12電子種、[Pd(P
tBu
3)]が形成され得る。この種の形成は、インサイツでの不均化反応によって、または基質および塩基の存在下でのPd錯体の直接還元によって生じる。
【0009】
先行技術から、式IのPd錯体の触媒活性を実証する、様々な反応が知られている。Pd錯体は主に、クロスカップリング触媒として使用される。科学文献において、Pd錯体0.5モル%が、単一の水酸化物塩基の存在下にて、鈴木反応ならびにC−N結合のカップリングを触媒することができると報告されている((非特許文献4)参照)。立体障害のある、多置換臭化アリールは、数分以内で高収率にて室温でホウ酸と反応することができる。本発明のPd触媒を使用して、塩化アリールと種々の第2級アミンとの反応が室温で迅速に行われた。Pd錯体はさらに、C−S結合に有用であり、かつ塩化亜鉛触媒と併用して、高い触媒活性を示す。
【0010】
先行技術の製造方法
先行技術において、ジ−μ−ブロモビス(トリ−t−ブチル−ホスフィン)−ジパラジウム(I)[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2を製造するための異なる経路が、Mingosら、およびVilarらによって詳細に考察されている(上記の参考文献)。最初の経路において、既知の合成方法では、Pd供給源として以下の式(I):
【化2】
によるPd−「dba」錯体が使用される。
【0011】
本明細書において、「dba」という略語は、ジベンジリデンアセトンを表す。
【0012】
この最初の経路によって、目的のPd(I)二量体がごく低い収率(最大18%)で得られ、したがって、それ以上の量の生成物の製造には適していない。
【0013】
第2の経路において、既知の合成方法ではさらに、Pd−dba錯体に加えて、Pdの供給源としてPd−COD化合物(式II参照):
【化3】
が使用される。
【0014】
「COD」という略語は、1,5−シクロオクタジエン、環状ジエン化合物を表す。この第2の経路によって、より高い収率(60%まで)が得られるが、同時に、Pd錯体[Pd
2(dba)
3]・C
6H
6に加えて高価な出発原料[PdBr
2(COD)]をさらに使用する必要がある。
【0015】
(特許文献1)に、アルカリ水酸化物の存在下にて溶媒中のPdBr
2(ジオレフィン)とP
tBu
3の混合物を使用して、[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体を製造する第3の経路が記載されている。このプロセスは、出発原料として[Pd
2(dba)
3]・C
6H
6を使用しないという利点を有する。したがって、合成中のこの反応物の結晶化が避けられ、最終生成物中の不純物も避けられる。
【0016】
しかし、(特許文献1)には、好ましいジオレフィン種として2,5−ノルボルナジエン(NBD)に加えて1,5−シクロオクタジエン(COD)が記載されている。PdBr
2(COD)ならびにPdBr
2(NBD)は取り扱いが難しい(例えば、保管は、不活性ガス雰囲気下にて低温でのみ可能である)。(特許文献1)に開示されるプロセスの出発原料は、臭化カリウムを用いるハロゲン置換によって、相当する塩素化誘導体から生成しなければならない。この方法に伴う高い費用および貴金属の相当な損失は、大規模な工業用途を考慮すると深刻な欠点である。その他の欠点として、ジオレフィン出発原料からの有機残留物が存在する可能性があり、そのため生成物が汚染される。
【0017】
J.F.Hartwigらは、Pd(P
tBu
3)
2へのブロモベンゼンの自己触媒酸化的付加を記述しており、[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体は、(P
tBu
3)Pd(Ph)Brおよび(P
tBu
3)
2Pd(H)Brなどの他のPd化合物との混合物中で16%までの低収率で形成される(非特許文献5)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一般に、その有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン異性体(o−、m−およびp−キシレン)、およびその混合物または組み合わせの群から選択される芳香族炭化水素溶媒である。さらに、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサンまたはデカリンなどの脂肪族炭化水素溶媒ならびにアニソールまたはメチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル溶媒を使用してもよい。芳香族炭化水素溶媒と脂肪族炭化水素溶媒との混合物を使用してもよく;芳香族炭化水素溶媒が好ましい。特に好ましい溶媒はトルエンである。
【0031】
一般に、式Iのパラジウム錯体が、得られた溶媒または溶媒混合物に十分に可溶性であり、かつ分解、変化または修飾を受けない限り、他の溶媒を使用してもよい。
【0032】
本発明の方法の簡単なバージョンでは、Pd出発原料のうちの1つ(PdBr
2またはPd(P
tBu
3)
2のいずれか)を計量し、固体状態で反応容器に装入する。その後に、もう1つのPd成分を添加し、有機溶媒を含む溶液に溶解する。好ましくはこのバージョンにおいて、PdBr
2が最初に反応容器に装入され、ホスフィン錯体Pd(P
tBu
3)
2が溶液状態で(つまり、溶解状態で)添加される。本発明の方法の非常に簡単なバージョンでは、工程(a)および(b)を組み合わせて、単一段階で行うことができる。
【0033】
本発明の方法の好ましいバージョンにおいて、工程(a)は、以下の副工程:
(a1)第1有機溶媒中でPdBr
2を混合する工程と、
(a2)第2有機溶媒中でPd(P
tBu
3)
2を混合する工程と、
(a3)PdBr
2および第1有機溶媒ならびにPd(P
tBu
3)
2および第2有機溶媒を含有する混合物を調製する工程と、
を含む。
【0034】
その後、Pd化合物:PdBr
2およびPd(P
tBu
3)
2を工程b)において反応させて、式(I)のパラジウム錯体が形成される。
【0035】
この好ましいバージョンにおいて、第1および/または第2有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン異性体(o−、m−およびp−キシレン)、およびその混合物または組み合わせの群から選択される芳香族炭化水素溶媒であってもよい。さらに、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサンまたはデカリンなどの脂肪族炭化水素溶媒ならびにアニソールまたはメチル−t−ブチルエーテルなどのエーテル溶媒を使用してもよい。
【0036】
上述の好ましいバージョンにおいて、工程(a1)および(a2)で使用される第1および第2有機溶媒は同じである。特に好ましい第1および第2有機溶媒はトルエンである。
【0037】
工程(a1)において、出発原料PdBr
2を第1有機溶媒と混合する。使用する溶媒の種類に応じて、かかる混合物から懸濁液または完全な溶液が生じ得る。一般に、第1有機溶媒との混合物/懸濁液/溶液中のPdBr
2の濃度は、約0.01〜0.5モル/L、好ましくは0.03〜0.2モル/Lの範囲である。
【0038】
本発明の方法の工程(a2)において、Pd(P
tBu
3)
2を第2有機溶媒と混合する。これも、使用する溶媒の種類に応じて、かかる混合物から懸濁液または完全な溶液が生じ得る。したがって、第2有機溶媒との混合物/懸濁液/溶液中のPd(P
tBu
3)
2の濃度は、0.01〜1モル/L、好ましくは0.03〜0.5モル/Lの範囲にある。
【0039】
一般に、工程(a)において、Pd(P
tBu
3)
2とPdBr
2を含有する混合物が調製される。したがって、この方法の好ましいバージョンでは、工程(a3)において、第1および第2有機溶媒中のPd(P
tBu
3)
2とPdBr
2との混合物が調製される。両方の工程において、混合後のPdBr
2対Pd(P
tBu
3)
2のモル比は、少なくとも0.8、好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも1.0(つまり、理論量)であるべきである。さらに、PdBr
2対Pd(P
tBu
3)
2のモル比は1.4の値を超えるべきではなく、好ましくは1.2の値を超えるべきではない。
【0040】
工程(b)において、パラジウム出発化合物を反応させて、式Iのパラジウム錯体が形成される。反応混合物中のPdの総濃度は、Pd約0.03〜0.5モル/L;好ましくはPd約0.05〜0.2モル/Lの範囲にあるべきである。
【0041】
反応混合物の攪拌は、範囲10〜60℃、好ましくは範囲20〜50℃の温度で、特に好ましくは室温(本明細書において、20+/−2℃の範囲の温度として定義される)で行われる。
【0042】
工程(b)において混合物を反応させる期間は、1〜20時間の範囲、好ましくは1〜16時間の範囲である。
【0043】
本発明の更なる実施形態において、反応期間後に、反応混合物から未反応PdBr
2が除去される。通常、未反応PdBr
2は濾過によって反応混合物から分離される。濾過されたPdBr
2は、適切な溶媒、好ましくは反応混合物で使用される有機溶媒で洗浄され、したがって更なる合成に再利用される。それにより高価なPd含有出発原料は、更なる生産操業に再利用することができる。
【0044】
一般に、有機溶媒の除去は、真空内での、つまり低圧および/または高温での溶媒蒸発によって行われる。一般に、100ミリバール未満の低圧がかけられる。
【0045】
溶媒を除去した後、目的のPd錯体は深緑色の固体物質として得られる。分離されたPd錯体をさらに、低沸点アルコールおよび/またはケトン溶媒などの適切な更なる溶媒で洗浄し、次いで乾燥させることができる。標準法によって、例えば範囲約20〜50℃の温度で真空下にて数時間、乾燥を行ってもよい。
【0046】
PdBr
2の活性化
一般に、本発明の方法に出発原料として市販のPdBr
2を使用してもよい。例えば、PdBr
2は、Umicore AG & Co.KG,Hanau/Germanyから入手することができる(製造番号68.2542.1340)。PdBr
2は、不溶性の黒色結晶質形態に変換される、緩慢な老化プロセスを受けやすいため、使用前に、化合物を長期間にわたって保管することは避けるべきである。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、PdBr
2は、本発明の方法に出発原料として使用する前に活性化プロセスによって処理される。この活性化には、RuCl
3・3H
2Oの活性化のためにGoosenらによって開発され、報告されているのと同様な手順が用いられる(L.J.Goosen et al.,Adv.Synth.Catal.2008,350,2701−2707参照)。その文献に記載の手順に従って、活性化プロセスは一般に、溶媒中で、好ましくはケトン、特に好ましくはアセトン中で物質を処理することを含む。
【0048】
かかる活性化プロセスは、分散プロセスであってもよい。この場合には、大きな、かつ不溶性のPdBr
2が、鎖構造を有する、小さな反応性のPdBr
2粒子へと変換される。かかる粒子は、拡大された表面積を有する。一般に、この活性化は、室温(=20+/−2℃)にて少なくとも1時間、好ましくは少なくとも5時間の期間行われる。活性化プロセスは、範囲20〜60℃のより高い温度で行ってもよく、したがって活性化時間が短縮される。
【0049】
未反応PdBr
2の再利用
本発明の方法の固有の特徴は、目的の反応生成物へのPd出発化合物の高度な転化である。生成物形成後の、残存する未反応Pd化合物、特にPdBr
2の再循環によって、本発明の方法は非常に経済的となる。生成物は、使用される有機溶媒(1種または複数種)の混合物に可溶性であるが、残存するPdBr
2は、生成物の溶液から分離され、再利用することができる。本発明に従って、他の生産操業に再度使用される前に、残りの未反応PdBr
2を適切な更なる有機溶媒で洗浄する。
【0050】
好ましい実施形態において、第1有機溶媒および第2有機溶媒はトルエンであり、PdBr
2は分離され、最終的にトルエンで洗浄される。
【0051】
最後に、本発明の方法は、簡単、単純であり、かつ二量体Pd触媒[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2の工業的な大規模製造に適用可能である。
【0052】
[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2でアリルエステルを異性化するプロセス
本発明の更なる目的は、触媒として[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体を用いての、アリルエステルを異性化する新規なプロセスを提供することである。かかる異性化反応において、エノールエステルが製造される。エノールエステルは、不斉水素化および重合反応などの有機合成において非常に汎用性のある重要な中間体である。
【0053】
以下で本明細書で使用される「アリルエステル」という用語は、一般的なタイプR
1−C(O)−O−CH(R
2)−C(R
3)=CH
2の置換および未置換アリルエステルを意味する。好ましい実施形態において、本発明は、安息香酸アリルエステルなどの芳香族カルボン酸のアリルエステルを異性化するプロセスを意味する。
【0054】
従来の無駄が多い多段方法と比較して、アリルエステルは、容易に入手可能なカルボン酸およびアリル型アルコールから、広い構造的多様性で入手することができることから、アリルエステルの貴金属触媒異性化は、原子経済的かつ環境に優しい代替法である。
【0055】
一般に、アリルエステルの異性化は、副反応および低収率などの様々な問題を伴う。
【0056】
多量の鉄またはルテニウム触媒を使用して、アリルエステルの異性化に成功した、ごくわずかな例が知られている(Iranpoor et al.,J.Organomet.Chem.,1992,423,399−404およびKrompiec et al.J.Mol.Cat.A:Chemical,2006,253,132−146参照)。
【0057】
以下の式(II):
【化6】
の種々のカルボン酸アリルエステルを異性化するための強力な触媒として、[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体を使用できることが、本発明の発明者らによって発見された。
【0058】
式IIにおいて、置換基R
1は、メチル、エチル、C
3〜C
15アルキル、フェニル、アルキル置換フェニル、アルコキシ置換フェニル、ハロゲン置換フェニル、チオフェニル、C
5〜C
10アリール、またはC
4〜C
10ヘテロアリール基を表し、置換基R
2およびR
3は独立して、水素、メチル、エチル、C
3〜C
10アルキル基またはC
5〜C
10アリール基から選択される。
【0059】
好ましくは、置換基R
1は、C
3〜C
15アルキル、フェニル、アルキル置換フェニルまたはC
4〜C
10ヘテロアリール基を表し、置換基R
2およびR
3は独立して、水素、メチル、エチルまたはC
3〜C
10アルキル基から選択される。
【0060】
特に好ましい実施形態において、置換基R
1は、C
3〜C
15アルキル、フェニル、o−、m−またはp−トリル、チオフェニル、フリル、ピリジルまたはピリル基を表し、置換基R
2およびR
3は独立して、水素、メチル、エチルまたはC
3〜C
10アルキル基から選択される。
【0061】
一般に、触媒量の[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体の存在下でのカルボン酸アリルエステルの異性化反応は、以下の反応(式IV):
【化7】
によって示すことができる。
【0062】
等式IVにおいて、物質4は、アリルエステル基質を示し、物質5は得られたエノールエステルのトランス異性体を示し、物質6は得られたエノールエステルのシス異性体を示す。
【0063】
一例として、文献からのデータと比較して、ベンゾイルアリルエステル(R
1=フェニル、R
2=R
3=水素)の異性化反応の結果を表1に示す。
【0064】
分かるように、Skrydstrup et al.J.Am.Chem.Soc.2010,132,7998−8009により報告されるPd(dba)
2に基づく方法(エントリー1)およびKrompiecらにより報告されるRuに基づく方法(上記;エントリー2)から、22%以下の低収率で相当するエノールエステル(5)および(6)が形成される(エントリー1参照)。エントリー1および2において、触媒濃度は0.5モル%であり、反応時間は3時間である。
【0065】
比較すると、Pd触媒[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2によれば、使用されるPd触媒の量がごく少ない場合でさえ、穏やかな条件(50℃)下にてアリルベンゾエートがエノールエステル5および6にほぼ完全に転化することが可能となる(エントリー3および4参照)。
【0066】
これらの実験において、触媒濃度は0.25モル%であり、反応時間は3時間(エントリー3)および2時間(エントリー4)である。プロセス時間が2時間に減少しても、ほぼ同一の結果を示す。エノールエステル生成物は一般に、(E/Z)選択比1:2を有する。異性化反応は、ほぼ定量的に起こり、物質4の1%のみが生成物混合物中に残る。
【0067】
異性化反応の典型的な反応時間は、0.5〜16時間、好ましくは1〜5時間の範囲である。典型的な反応温度は、20〜120℃の範囲、好ましくは20〜100℃の範囲である。
【0068】
適切な溶媒は、芳香族または脂肪族炭化水素、エーテル、エステルまたはケトン溶媒またはその混合物などの有機溶媒である。好ましい溶媒は、ベンゼン、トルエン、メシチレンおよびキシレン異性体(o−、m−およびp−キシレン)、およびその混合物または組み合わせの群から選択される芳香族炭化水素である。
【0069】
しかしながら、THF、ジグライム、ジエチルエーテルなどの非プロトン性極性または非極性溶媒、またはn−ヘキサンなどの脂肪族溶媒も適している。これらの実験において、反応時間は2時間であり、エントリー6に関してのみ、40分である。これらの溶媒に関して、全収率94〜98%に対して、(E/Z)選択比1:2.2であることが判明した(エントリー4〜8)。
【0070】
本発明の異性化反応の幅広い用途範囲を強調する更なる実施例が、以下の実験セクションに、特に実施例7〜11に記述される。本明細書において、Pd触媒[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2を使用した、フリルアリルエステル、置換アリルベンゾエートおよびアリルデカノエートなどの様々な基質の異性化反応が詳細に説明される。
【0071】
表1の結果によって実証されるように、パラジウム錯体[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2は、多種多様なアリルエステルを異性化するための、優れた触媒である。
【0072】
本発明の反応条件下にて、一般に使用される官能基は反応条件に耐え、芳香族、脂肪族および複素環式カルボン酸のアリルエステルは高収率で転化される。これらの生成物は不斉水素化において基質としての役割を果たし、高eeを有するキラルエステルが得られる。
【0074】
以下の実施例によって、本発明の範囲を制限することなく、本発明がさらに例証される。
【実施例】
【0075】
備考:すべての作業は、不活性ガス雰囲気(アルゴン、窒素)下にて行われる。使用されるすべての溶媒が無水溶媒であり、かつ酸素を含有しない。
使用されるすべてのアリルエステルが、文献に記載の手順に従って、相当するカルボン酸と相当するアルコールのエステル化によって合成される。
【0076】
実施例1:PdBr
2の製造
PdBr
2は容易に入手可能であり、かつ文献に従って、元素Pd粉末と、臭素(Br
2)とブロモ水素酸(HBr)の混合物との反応によって製造することができる。その生成物は、Umicore AG & Co KG,Hanau/Germanyから市販されている(製造番号68.2542.1340)。PdBr
2が不溶性の黒色結晶質形態に変換される、連続的な老化プロセスを受けるため、化合物の長期間の保管は避けるべきである。
【0077】
実施例2:活性化PdBr
2の製造
活性化PdBr
2を製造するために、RuCl
3・3H
2Oの活性化のために開発および報告された手順と同様な手順を用いる(Goosen et al.,Adv.Synth.Catal.2008,350,2701−2707参照)。それにしたがって、アセトン100ml中のPdBr
23.99g(15.0ミリモル)を室温(20℃)で12時間攪拌する。代替方法としては、温度40℃で、攪拌を4時間行うことができる。真空内でアセトンを除去した後、茶色がかった化合物が得られる。
【0078】
実施例3:[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2の合成
PdBr
2(15.0ミリモル;供給元Umicore AG & Co KG,Hanau,Germany)3.99gをトルエン350mlに攪拌によって懸濁する。Pd(P
tBu
3)
2(15.0ミリモル,供給元Umicore AG & Co KG,Hanau/Germany;製造番号68.1844.5221)7.66gをトルエン150mlに溶解する。その深紅色の溶液をPdBr
2/トルエン懸濁液に添加する。混合物が緑色に変化し、これはPd(I)種の形成を意味する。混合物を室温(20℃)で16時間攪拌する。その後、残存する未反応PdBr
2を濾過によって除去する。さらに150mLのトルエンでPdBr
2を洗浄する。次いで、溶媒を合わせ、真空内で除去する(圧力<100ミリバール)。結果として、収率70%に相当する、深緑色の固体生成物8.1g(10.5ミリモル)が得られる。
【0079】
実施例4:活性化PdBr
2を用いた、[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2の合成
PdBr
2(15.0ミリモル;供給元Umicore AG & Co KG,Hanau,Germany;実施例1に記載のように活性化されている)3.99gをトルエン350mlに攪拌によって懸濁する。[Pd(P
tBu
3)
2](15.0ミリモル,Umicore AG & Co KG,Hanau/Germany;製造番号68.1844.5221)7.66gをトルエン150mlに溶解する。その溶液をPdBr
2/トルエン懸濁液に添加する。添加を開始した直後に、混合物が緑色に変化し、これはPd(I)種の形成を意味する。混合物を室温(20℃)で16時間攪拌する。その後、残存する未反応PdBr
2を濾過によって除去する。さらに150mLのトルエンでPdBr
2を洗浄する。次いで、その溶液を溶媒蒸発(圧力<100ミリバール)によって除去する。最後に、収率87%に相当する、深緑色の物質10.1g(13.0ミリモル)が得られる。
【0080】
実施例5:一部未反応のPdBr
2を用いた、[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2の合成
PdBr
2(PdBr
2(15.0ミリモル,実施例1に記載のように活性化されている)3.0gと、PdBr
2(先の反応からの未反応物質)1.0gとの混合物で構成される)4.0gを攪拌によってトルエン350mlに懸濁する。並行して、[Pd(P
tBu
3)
2](15.0ミリモル,Umicore AG & Co KG,Hanau/Germany;製造番号68.1844.5221)7.66gをトルエン150mlに溶解する。その溶液をPdBr
2/トルエン懸濁液に添加する。混合物を室温(20℃)で16時間攪拌する。その後、残存する未反応PdBr
2を濾過によって除去する。さらに150mLのトルエンでPdBr
2を洗浄する。次いで、合わせた溶媒を蒸発(圧力<100ミリバール)によって除去する。結果として、収率82%に相当する、深緑色の物質9.5g(12.2ミリモル)が得られる。
【0081】
生成物の分析:実施例3、4および5で得られた生成物の分析を
31P−NMRおよび
1H−NMR法によって行う。文献に記述されるように、本発明の方法に従って製造された生成物に関して、
31P−NMRスペクトルは、86.4ppmで単一シグナルを示し、
1H−NMRスペクトルは1.26〜1.36ppmでシグナルを示す。したがって、本発明のプロセスは、範囲70〜90%の高収率で[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2錯体を提供する。
【0082】
実施例6:アリルエステルの異性化(基本手順)
試験される規定量(5.0または2.5μmol)の触媒錯体(つまり[Pd(dba)
2]+配位子P
tBu
3+iPrCOCl;RuClH(CO)(PPh
3)
3;または[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2)を反応容器に入れる。20mm電磁攪拌子を加える。反応容器をセプタムキャップで空気密閉し、排気し、窒素で3回フラッシングする。次の工程で、内標準として無水トルエン2.0mlおよびn−ドデカン50μlを注入によって添加する。得られた混合物を室温(20℃)で数分間攪拌する。
【0083】
アリルエステル化合物(1.0ミリモル,物質4)を添加し、温度50℃でさらに2または3時間、混合物をさらに攪拌する。冷却後、反応容器を注意深く開け、反応混合物を酢酸エチル2mlで希釈する。目盛り付きピペットを使用して、体積0.25mlの試料を採取し、酢酸エチル2ml中で希釈し、2n NaCl水溶液(ブライン)で洗浄し、MgSO
4上で濾過し、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析する。
【0084】
表1の結果によって実証されるように、パラジウム(I)トリ−t−ブチルホスフィンブロミド二量体[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2は、アリルエステルの異性化のための優れた触媒である。
【0085】
実施例7:アリルベンゾエートの異性化
この反応は実施例6に記載のように行われる。以下の式:
【化8】
の安息香酸アリルエステルを反応させる:
オーブン乾燥され、窒素でフラッシングされた20mL容器に、脱気トルエン(1.5mL)、アリルベンゾエート(162mg,1.00ミリモル)およびトルエン中の[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2のストック溶液(0.5mL,2.5μmol)を添加する。得られた混合物を50℃で16時間攪拌する。その反応時間が終わったら、粗混合物をH
2O(10mL)で希釈し、ジエチルエーテル(3×10mL)で抽出する。合わせた有機層をブライン(2n NaCl水溶液,10mL)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過し、揮発性物質を真空内で除去して、相当するエノールエステルが得られ、さらにそれをカラムクロマトグラフィー(SiO
2,ジエチルエーテル/n−ペンタン勾配)によって精製する。プロプ−1−エニルベンゾエートが、(E/Z)選択比1:2と共に収率90%(146mg)で無色の液体として得られる。
【0086】
実施例8:フロイルアリルエステルの異性化
以下の式:
【化9】
の1−フリル−3−カルボン酸アリルエステルを反応させる:
この反応は実施例6に記載のように行われる。オーブン乾燥され、窒素でフラッシングされた20mL容器に、脱気トルエン(1.5mL)、アリルフラン−3−カルボキシレート(152mg,1.00ミリモル)およびトルエン中の[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2のストック溶液(0.5mL,2.5μmol)を添加する。得られた混合物を50℃で16時間攪拌する。その反応時間が終わったら、粗混合物をH
2O(10mL)で希釈し、ジエチルエーテル(3×10mL)で抽出する。合わせた有機層をブライン(10mL)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過し、揮発性物質を真空内で除去して、相当するエノールエステルが得られ、さらにそれをカラムクロマトグラフィー(SiO
2,ジエチルエーテル/n−ペンタン勾配)によって精製する。プロプ−1−エニルフラン−3−カルボキシレートが、(E/Z)選択比1:2と共に収率76%(115mg)で無色の液体として得られる。
【0087】
実施例9:アリルデカノエートの異性化
以下の式:
【化10】
のデカン酸アリルエステルを反応させる:
この反応は実施例6に記載のように行われる。オーブン乾燥され、窒素でフラッシングされた20mL容器に、脱気トルエン(1.5mL)、アリルデカノエート(212mg,1.00ミリモル)およびトルエン中の[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2のストック溶液(0.5mL,2.5μmol)を添加する。得られた混合物を50℃で16時間攪拌する。その反応時間が終わったら、粗混合物をH
2O(10mL)で希釈し、ジエチルエーテル(3×10mL)で抽出する。合わせた有機層をブライン(10mL)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過し、揮発性物質を真空内で除去して、相当するエノールエステルが得られ、さらにそれをカラムクロマトグラフィー(SiO
2,ジエチルエーテル/n−ペンタン勾配)によって精製する。プロプ−1−エニルデカノエートが、(E/Z)選択比1:2と共に収率89%(189mg)で無色の液体として得られる。
【0088】
実施例10:ブト−3−エン−2−イルベンゾエートの異性化
以下の式:
【化11】
のアリルエステルを反応させる:
この反応は実施例6に記載のように行われる。オーブン乾燥され、窒素でフラッシングされた20mL容器に、脱気トルエン(1.0mL)、ブト−3−エン−2−イルベンゾエート(176mg,1.00ミリモル)およびトルエン中の[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2のストック溶液(1.0mL,5.0μmol)を添加する。得られた混合物を50℃で16時間攪拌する。その反応時間が終わったら、粗混合物をH
2O(10mL)で希釈し、ジエチルエーテル(3×10mL)で抽出する。合わせた有機層をブライン(10mL)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過し、揮発性物質を真空内で除去して、相当するエノールエステルが得られ、さらにそれをカラムクロマトグラフィー(SiO
2,ジエチルエーテル/n−ペンタン勾配)によって精製する。ブト−2−エン−2−イルベンゾエートが、(E/Z)選択比1:3と共に収率83%(146mg)で無色の液体として得られる。
【0089】
実施例11:2−メタリルベンゾエートの異性化
以下の式:
【化12】
のベンゾイルアリルエステルを反応させる:
この反応は実施例6に記載のように行われる。オーブン乾燥され、窒素でフラッシングされた20mL容器に、脱気トルエン(2.0mL)、2−メチルアリルベンゾエート(176mg,1.00ミリモル)および[Pd(μ−Br)(P
tBu
3)]
2(10μmol)を添加する。得られた混合物を50℃で16時間攪拌する。その反応時間が終わったら、粗混合物をH
2O(10mL)で希釈し、ジエチルエーテル(3×10mL)で抽出する。合わせた有機層をブライン(10mL)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過し、揮発性物質を真空内で除去して、相当するエノールエステルが得られ、さらにそれをカラムクロマトグラフィー(SiO
2,ジエチルエーテル/n−ペンタン勾配)によって精製する。2−メチルプロプ−1−エニルベンゾエートが、収率77%(136mg)で無色の液体として得られる。