【文献】
Xiaogan Liang and Stephen Y. Chou,“Nanogap Detector Inside Nanofluidic Channel for Fast Real-Time Label-Free DNA Analysis”,NANO LETTERS,2008年,Vol.8, No.5,p.1472-1476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配線は、前記一対の電極端子の一方で終端する第1配線領域と、前記一対の電極端子の他方で終端する第2配線領域とで構成され、前記第1配線領域の延長線が前記溝部で交差し、該延長上に前記第2配線領域が配置されることを特徴とする請求項1に記載の流体解析デバイス。
前記溶液を前記溝部を通過させる際に、前記第1電極、もしくは前記第4電極の少なくとも一方に交流電圧を印加することを特徴とする請求項6に記載の流体解析デバイス。
前記溝部の底部の下方に設けられ前記溝部にフリンジ電界を与えるフリンジ電極を少なくとも1つ、または、前記溝部の上部に設けられ前記溝部にフリンジ電界を与えるフリンジ電極を少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1に記載の流体解析デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は可能な限り省略するようにしている。以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。実施例に記載するデバイス構造および材料は、本発明の思想を具現化するための一例であり、材料および寸法などを厳密に特定するものではない。
【実施例1】
【0017】
流路中を泳動するDNAの高さ方向の位置をそろえるために、
図14A,Bに示されるような、基板に電極を設ける構造を形成する。本実施例およびその他の実施例に記載するデバイス構造および材料は、本発明の思想を具現化するための一例であり、材料および寸法などを厳密に特定するものではない。
【0018】
図14Aは、本実施例のデバイスの断面図であり、
図14Bは上面図であり、
図14Aa)及びb)には、それぞれ
図14BのA−A’断面とB−B’断面を画いている。A−A’断面は、流路に沿った断面であり、B−B’断面は、流路に直交し、2対の電極に沿った断面である。図面中の符号100は、例えばSi基板であり、符号102は絶縁膜で、例えばシリコン窒化膜(以下、SiN膜と略記)であり、符号104は導電材料で構成され、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどの材料である。符号106は導電材料で構成され、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどの材料である。なお、符号104は、DNAの塩基を検出するための検出用電極であり、符号106は、絶縁膜を挟んで流路へ電界を及ぼす為の基板側電極である。
【0019】
本実施例では、C−C’断面で見た場合、検出用電極104の対と、検出用電極104の側壁に接するSiN膜102の間には、理想的には表面に段差がない、または極小である。そのため、流路上部へガラスなどを圧着し蓋118をする際、その圧着が容易となり、また、段差による流路部以外への空洞の形成や、段差による流路中の高さ方向のばらつきが抑制され、溶液の搬送精度や検出精度の向上を実現できる。
【0020】
DNAは通常KCl水溶液中で管理される。流路中へDNAを搬送するには、流路をDNAの入ったKCl水溶液で満たし、流路の入り口と出口において溶液中に電極を浸し、電圧差を設けることで、DNAを流路の入り口方向から出口方向へと搬送することが出来る。DNAは負の電荷を持っているため、電気的に泳動させることが出来るのである。DNAを流路中で泳動させているときに、基板側電極106に、流路入り口に印加されている電圧に対して正の電圧を印加することで、DNAを流路底部側に引き寄せることが出来、
図15Aのような、高さ方向に一定となる配置をDNAに採らせることが出来る。
【0021】
図15Aは、A−A’断面の一部を斜めから見た図である。図中の符号200は、DNAの模式図であり、それを構成する一つ一つの四角が、DNAの1塩基(201)の模式図である。同様に、基板側電極106に、流路入り口に印加されている電圧に対して負の電圧をかけることで、DNAを流路上部(ガラスなどで蓋をされる側)へ押しやることが出来、
図15Bのような、高さ方向に一定となる配置をDNAに採らせることが出来る。
【0022】
マイクロ・ナノ流体デバイスの製法の一例を
図5Aから
図14Aの断面図で示す。同時に、各断面図に対応する上面図を
図5Bから
図14Bに示す。
【0023】
先ず、
図5Aに示すように、Si基板100上に、基板側電極となる106を形成し、その上にSiN膜102を形成する。基板側電極106は、導電材料であり、例えば、Au、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどが挙げられる。その後、レジストをマスクにSiN膜102をエッチングすることで、後に検出用電極が配置される部分に溝を作る。
図5B中の溝のうち太い部分があるのは、電極へのコンタクトを容易にするための工夫である。基板側電極106は、後に流路となる部分の下部近傍にのみ配置するのでも良い。流路となる部分の下部近傍にのみ基板側電極106を配置する際は、Si基板100上に絶縁膜を形成し、その上で基板側電極106のパターンを形成することで、電圧印加時に電極部のみ局所的に電圧を掛けることが出来る。また高濃度Si基板をそのまま基板側電極106として用いても良い。SiNをエッチングすることよりパターニングする溝の幅は、次工程(
図6A,B参照)で最終的に決定される溝の幅が最適となるよう決定される。
【0024】
次に、
図6A,Bで示す工程において、SiN膜102を堆積させることで、溝の幅および深さを減少させる。溝の幅および深さを減少させたあとの最終的な寸法は、DNAの塩基を検出するために、幅はなるべくDNAの1塩基の大きさと近い値であり、深さも好ましくは可能な限りDNAの1塩基の大きさと近い値となるよう形成する。
【0025】
次に、
図7A,Bで示す工程に示すように、後に検出用電極104となる電極材料を堆積する。検出用電極104は導電材料で構成され、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどの材料が挙げられる。
【0026】
引き続き、
図8A、Bで示す工程に示すように、CMPなどの平坦化プロセスによって、金属下部のSiN表面まで削り、平坦な、導電材料と絶縁膜からなる表面を形成する。このように、導電材料の配線を埋め込み型で形成することで、後にガラスプレート圧着などにより流路に蓋をする際、上記した通り有利となる。上記のような埋め込み型の配線でない場合、配線の高さ分だけ、周囲の絶縁膜との間に段差が生じる。その段差は蓋をする際または蓋をした後に、流路部以外への空洞の形成や、段差による流路中の高さ方向のばらつきの原因となる。本製法および本デバイスの特徴の一つは、検出用電極の配線と周囲絶縁膜の段差が、検出用電極の配線の高さ以下であり、きわめて平坦に近いということである。
【0027】
また、さらに平坦性を向上させるために、
図8A、Bのように平坦な、導電材料と絶縁膜からなる表面を形成した後、さらに絶縁膜を堆積して、電極表面を露出させること無くCMPなどの平坦化プロセスで平坦化すればよい。異種材料を露出させての平坦化よりも平坦性は向上する。なおこの場合、以後のプロセスを本実施例に沿って行っていくと、デバイス完成時には、流路の高さが対向電極の高さよりも高くなり、対向電極の上部に、絶縁膜が存在する。その場合、DNA測定の際には、基板側電極に電圧を印加しDNAを基板側に引き寄せれば、対向する電極の間に精度よくDNAを配置することが出来る。
【0028】
次に、
図9A、Bで示す工程では、シリコン酸化膜(以下、SiO
2膜と略記)101を堆積し、レジストをマスクにパターニングすることで、後に流路のパターンとなる部分に溝を作る。
図9Bで示す溝のうち太い部分があるのは、流路へのコンタクトを容易にするための工夫である。また同部分は、溶液注入を容易にするために、深く掘り込んでおいても良い。SiO
2101をエッチングすることよりパターニングする溝の幅は、次工程以降(すなわち、
図10A,B、
図11A,B)で最終的に決定される幅が最適となるよう決定される。
【0029】
さらに
図10A、Bで示す工程において、SiO
2膜101を堆積させることで、溝の幅を減少させる。溝の幅を減少させたあとの最終的な寸法は、流路の幅の寸法を決定するため、DNA搬送する際のDNAの方向制御の観点から、DNAの太さとなるべく同等程度の値となるよう形成する。
【0030】
引き続き、
図11で示す工程において、
図10A、Bにて堆積した厚さ分SiO
2膜101をエッチバックすることで、検出用電極104の表面を露出させる。エッチバック時に、
図9A,Bで形成した溝の側壁にサイドウォール上にSiO
2膜が残り、溝を細らせている。このとき、溝の幅は、流路の幅の寸法を決定するため、DNA搬送する際のDNAの方向制御の観点から、好ましくはDNAの太さと同等程度の値となるよう形成する。
【0031】
さらに、
図12A、Bで示す工程において、検出用電極の厚さ分、検出用電極とSiN膜をエッチングすることによって、DNAを搬送する流路を形成する。
【0032】
次に、
図13A、Bで示す工程では、SiO
2膜をHFなどを用いて、選択的にエッチングし除去する。
【0033】
次に、
図14A、Bで示す工程では、レジストをパターニングし、それをマスクとして、基板側電極106へのコンタクトホールを形成する。
【0034】
その後、デバイス表面の流路部分にガラスやその他絶縁膜などのプレートを圧着することで、流路上部に蓋をする。蓋は、一例として、溶液の入口部出口部および流路部に蓋をして、あとから溶液の入口部および出口部に相当する部分に穴を空けることで、溶液の入口部出口部を兼ね備えた流路を形成できる。
【0035】
なお、本デバイスの流路幅や電極幅を対象物に合わせ変化させることで、DNA以外の生体分子やウイルス、細菌などの検出器として使用することも出来る。
【0036】
本製法の特徴の一つとして、最終的な極細の流路及び電極を作る際に、まず、現在のリソグラフィ技術で正確な寸法(幅)が保障できるパターンをマスクに溝を形成し、そこにコンフォーマルかつナノメートルオーダで正確な制御が出来る膜堆積方法を用いて溝の幅を狭くすることが挙げられる。コンフォーマルかつ原子層レベルの膜厚制御が出来る膜堆積方法は、例えばALD(Atomic Layer deposition)などの手法が挙げられ、そのほかにも、半導体デバイス開発の中で古くから開発されてきた既知の技術がたくさんある。これにより、DNA大きさに近い幅を持つ流路の形成が可能となる。
【0037】
深さ方向の制御に関しては上述したとおり、基板側電極106によって流路へ電界を掛けることで、対象物であるDNAの高さ方向を制御することにより、検出信号の信頼性を向上させることが出来る。高さ方向制御に用いる電極と検出用電極104が独立していることで、高さ方向に最適な電圧と検出に最適な電圧をかけ分けることができる。例えば、流路入り口付近の溶液に印加する電圧を0Vとし、流路出口付近の溶液に印加する電圧をVout>0Vとし、基板側電極104の電圧をVsub>0Vとし、検出用電極104の一方を正電圧、もう一方を負電圧とすることで、デバイスを動作させる。
【0038】
なお溶液流動の制御の観点から、流路部のうち、対向電極が存在する検出部以外の幅や深さを広く設計しても良い。
【実施例2】
【0039】
実施例1と同じく、検出用電極104対と、検出用電極104の側壁に接するSiN膜102の間に段差がない、または極小であり、かつ、流路へ電界を及ぼすことが出来る基板電極を設置しているデバイスの製法のもう一例を示す。
【0040】
先ず、
図16A,Bで示す工程において、Si基板100上に、基板側電極となる106を形成し、その上にSiN膜102を堆積し、その上にSiO
2膜101を形成する。その後SiO
2膜をレジストをマスクにパターニングする。
【0041】
次に、
図17A,Bで示す工程では、後に対の検出用電極104となる電極材料を堆積する。検出用電極104は、導電材料であり、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどが挙げられる。堆積する導電材料の厚さは、検出用電極の厚さとほぼ等しくなるので、好ましくはDNAの1塩基と同等程度の厚さとなるよう形成する。
【0042】
次に、
図18A,Bで示す工程において、パターニングされたSiO
2膜部分の角部を覆うように、レジストパターン103を形成する。
【0043】
さらに、
図19A,Bで示す工程において、
図17A,Bで堆積した厚さ分だけ電極材料をエッチバックし、SiO
2側壁に導電材料のサイドウォールを形成する。その後、レジストを除去する。サイドウォールの幅が検出電極の幅となるため、高精度な一塩基検出のためには、DNAの1塩基と同等程度の幅となるよう形成する。
【0044】
次に、
図20A,Bで示す工程において、不要部分のSiO
2膜および導電材料をエッチングプロセスにより除去する。
【0045】
引き続き、
図21A,Bで示す工程において、SiO
2膜を全面に堆積する。
【0046】
次に、
図22A,Bで示す工程において、CMPなどの平坦化プロセスによって、図に示すように電極材料の最表面まで削り、平坦化する。このとき、図のように導電材料の配線の細い部分(後に流路が横切る部分)の上部には絶縁膜が残っていてもよい。デバイス完成時には、流路の高さが対向電極の高さよりも高くなり、対向電極の上部に、絶縁膜が存在するが、DNA測定の際には、基板側電極に電圧を印加しDNAを基板側に引き寄せれば、対向する電極の間にDNAを配置することが出来る。また導電材料の配線の細い部分が露出するまで削らないことで、表面の平坦性は、配線まで露出させたときよりも向上する。平坦性が向上すれば、後にガラスプレート圧着などで流路上部に蓋をする際、実施例1にも書いた通り、その制御性が向上し、流路の高さばらつきや流路部以外の空洞の形成を回避できる。
【0047】
次に、
図23A,Bで示す工程において、アモルファスシリコン(a−Si)膜105を堆積し、その後図のように、サイドウォールの電極パターンに交差するように、パターニングする。
【0048】
さらに、
図24A,Bで示す工程では、SiN膜102を堆積する。このSiN膜の膜厚は、後に流路の幅を決定する膜厚となるので、DNA搬送する際のDNAの方向制御向上の観点から、DNAの太さと同等程度の膜厚となるよう形成する。その後、パターニングされたa−Si膜の角部を覆うようにレジストパターン103を形成する。
【0049】
次に、
図25A,Bで示す工程において、SiN膜102を
図24A,Bで堆積した膜厚分エッチバックし、a−Si側壁にSiNのサイドウォールを形成する。サイドウォール膜厚は、後に流路の幅を決定する膜厚となるので、DNA搬送する際のDNAの方向制御向上の観点から、DNAの太さと同等程度の膜厚となるよう形成する。
【0050】
次に、
図26A,Bで示す工程において、図のように不要部のSiN膜およびa−Si膜をレジストをマスクとしエッチング除去する。
【0051】
さらに、
図27A,Bで示す工程では、全面にa−Si膜を堆積する。
【0052】
引き続き、
図28A,Bでは、CMPなどの平坦化プロセスによって、図に示すようにSiNサイドウォールの最表面まで削り、平坦化する。
【0053】
次に、
図29A,Bで示す工程において、SiNを燐酸などを用いたウエットエッチや、その他a−Si膜との選択性のあるエッチングを用いて除去する。
【0054】
次に、
図30A,Bで示す工程において、SiO
2膜をa−Si膜をマスクとしてエッチングにより除去する。
【0055】
さらに、
図31A,Bで示す工程では、CMPなどの平坦化プロセスによって、検出用電極の最表面まで削り、平坦化する。
【0056】
次に、
図32A,Bで示す工程において、
図32Bのように、SiO
2をエッチングすることで、流路の入り口および出口の領域を大きくし、流路へのコンタクトを容易にする工夫を施す。同部分はさらに深く掘り込むことで、溶液注入をさらに容易にすることができる。
【0057】
また、
図33A,Bで示す工程では、
図33Bで示すように、検出用電極のコンタクト(パッド)となる部分を穴としたレジストパターンを形成する。
【0058】
次に、
図34A,Bで示す工程において、検出電極用のコンタクト(パッド)の導電材料を堆積し、その後レジストをリフトオフすることで、図のように、電極のコンタクトを形成する。レジストパターンをマスクに表面を少量エッチングした後にコンタクト(パッド)の導電材料を堆積して、リフトオフしても良い。
【0059】
最後に、
図35A,Bで示す工程において、基板電極へのコンタクトを、レジストをマスクにパターニングする。
【0060】
その後、デバイス表面の流路部分にガラスやその他絶縁膜などのプレートを圧着することで、流路上部に蓋をする。蓋は、一例として、溶液の入口部出口部および流路部に蓋をして、あとから溶液の入口部および出口部に相当する部分に穴を空けることで、溶液の入口部出口部を兼ね備えた流路を形成できる。
【0061】
本製法は、流路の形成にサイドウォールプロセスを用いていることが特徴である。サイドウォールプロセスは、原理的に堆積膜厚分の細さの側壁を形成することが出来る。現在の半導体プロセスにおける薄膜堆積技術は、1nm以下までの制御が可能であり、そのため、DNAの太さに匹敵する側壁を形成することが可能となり、微細な幅の流路を形成できる。そのため、DNAの横方向の配置のばらつきができる。DNAの横方向の配置が制御されることで、検出信号の信頼性が向上する。また、検出用電極もサイドウォールプロセスを用いて形成しているので、DNAの1塩基分の大きさに近い幅の電極が形成可能である。電極幅がDNA1塩基分の大きさに近づくにつれ、読み取り対象と隣り合った読み取り対象以外の塩基による検出信号への影響が少なくなり、検出信号の分解能が向上する。
【0062】
さらに実施例1と同じく、基板側電極によって流路へ電界を掛けることで、対象物であるDNAの高さ方向を制御することにより、検出信号の信頼性を向上させることが出来る。高さ方向制御に用いる電極と検出用電極が独立していることで、高さ方向に最適な電圧と検出に最適な電圧をかけ分けることができる。
【0063】
なお、本デバイスの流路幅を対象物に合わせ変化させることで、DNA以外の生体分子やウイルス、細菌などの検出器として使用することも出来る。
また、溶液流動の制御の観点から、流路部のうち、対向電極が存在する検出部以外の幅や深さを広く設計しても良い。
【実施例3】
【0064】
本実施例では、流路の径を制御性よくDNAの太さと同等程度に出来、かつ、流路上部にガラスプレートなどで蓋をする必要がない流路デバイスの製法および構造を示す。流路上部にガラスプレートなどで蓋をする必要がないと、デバイス製造の工程が簡易になるほか、ガラスプレート圧着工程で生じる流路幅や深さの不均一性等の問題を解消することが出来る。
【0065】
図57Aに、本実施例にて示すデバイス構造の断面図を、
図57Bに、その上面図を示す。Si基板100上に、両側壁をSiN膜102で覆われた流路が形成されている。流路上部には、SiN膜102でカバーされている領域以外に、流路に交差するように検出用電極104が配置されている。検出用電極104は、流路から離れた部分にコンタクトできる大きさの領域を設けている。また流路領域も、検出用電極から離れた領域に、溶液に注入に十分な大きさの入り口および出口を設けている。測定の際には、検出用電極104とSi基板100間の間に電圧をかけて、検出用電極104とSi基板100間の間にトンネル電流を流す。そして検出用電極104とSi基板100間にDNAが通過した際、検出用電極104とSi基板100間に流れているトンネル電流の変化によってDNAの塩基配列を読み出す。または、検出用電極104とSi基板100間の容量変化により読み出す方法や、検出用電極104の表面電荷状態の違いを検出することで読み出す方法などがある。以下に、図に沿って本実施例のデバイスの製法例を示す。
【0066】
まず、
図36A,Bで示す工程において、Si基板100上に、SiO
2膜101を堆積し、レジストをマスクに図に示すようにパターニングする。Si基板は下部電極の役割も果たすので、高濃度基板が好ましい。
【0067】
次に、
図37A,Bで示す工程において、SiN膜102を全面に堆積する。SiN膜は、後に流路の幅を決定する膜厚となるので、DNA運動方向制御の観点から、なるべくDNAの太さと同等程度の値となるよう形成する。
【0068】
次に、
図38A,Bで示す工程では、パターニングされたSiO
2膜の角部分を覆うようにレジストパターンを形成する。
【0069】
さらに、
図39A,Bで示す工程では、SiN膜102を堆積した膜厚分エッチバックし、サイドウォールを形成する。サイドウォールの膜厚は、後に流路の幅を決定する膜厚となるので、DNA運動方向制御の観点から、なるべくDNAの太さと同等程度の値となるよう形成する。
【0070】
次に、
図40A,Bで示す工程において、不要部分のSiO
2膜およびSiN膜をエッチングにより除去する。
【0071】
次に、
図41A,Bで示す工程では、SiO
2膜をエッチングし、SiNのサイドウォールのラインを形成する。
【0072】
次に、
図42A,Bで示す工程では、SiN膜をマスクとし、Si基板をエッチングする。
【0073】
引き続き、
図43A,Bで示す工程では、SiN膜を全面に堆積する。
【0074】
次に、
図44A,Bで示す工程において、CMPなどの平坦化プロセスにより、Si基板表面まで削り、平坦化する。
【0075】
さらに、
図45A,Bで示す工程において、検出用電極104となる導電材料を堆積する。検出用電極104は、例えばAu、Ptなどの材料が挙げられる。好ましくは耐酸化性の強い材料がよい。
【0076】
次に、
図46A,Bで示す工程において、SiO
2膜101を堆積し、レジストをマスクにパターニングを行い、図のようなパターンを形成する。
【0077】
次に、
図47A,Bで示す工程において、SiN膜102を全面に堆積する。この膜厚は、後に、検出用電極の幅を決定する膜厚となるので、検出精度向上の観点から、なるべくDNAの1塩基に近い膜厚と同等程度の値となるよう形成する。
【0078】
次に、
図48A,Bで示す工程において、パターニングされたSiO
2膜の角部分を覆うようにレジストパターン103を形成する。
【0079】
さらに、
図49A,Bで示す工程において、SiN膜102を堆積した膜厚分エッチバックし、サイドウォールを形成する。この膜厚は、後に、検出用電極の幅を決定する膜厚となるので、検出精度向上の観点から、なるべくDNAの1塩基に近い膜厚と同等程度の値となるよう形成する。
【0080】
次に、
図50A,Bで示す工程では、不要部分の検出用電極およびSiO
2膜をエッチングにより除去する。
【0081】
次に、
図51A,Bで示す工程では、SiO
2膜をエッチングすることにより、SiNのサイドウォールのラインを形成する。
【0082】
次に、
図52A,Bで示す工程において、SiN膜をマスクに、検出用電極材料をエッチングする。
【0083】
次に、
図53A,Bで示す工程において、酸化プロセスにより、Si基板を酸化する。この酸化膜厚は、流路の深さを決定するので、検出精度向上およびDNA運動制御向上の観点から、なるべくDNAの太さに近い膜厚と同等程度の値となるよう形成する。
【0084】
なお図に示すとおり、検出電極下部のSi基板の酸化量は、検出電極下部以外のSi基板に比べ、検出電極でマスクされている分、酸化量は小さい。よって、この検出電極下部の部分の酸化量が、DNAの太さに近い膜厚と同等程度の値となるよう形成する。また、この酸化時に、SiN膜および、耐酸化性のSiO
2101の酸化量はきわめて小さい。そのため、Si基板を酸化した後、希フッ酸によるライトエッチを施すことで、Si基板上SiO
2膜と選択的にSiN膜上および導電材料の酸化膜を除去することが出来る。
【0085】
次に、
図54A,Bで示す工程では、SiN膜102を堆積した後、CMPなどの平坦化プロセスにより、SiN表面を平坦化する。
【0086】
さらに、
図55A,Bで示す工程では、検出電極用のコンタクト部分を、レジストをマスクにエッチングし開口する。その後導電材料を埋め込むことでコンタクトを形成する。
【0087】
次に、
図56A,Bで示す工程では、流路部分の入り口および出口の部分をSiNをエッチングすることにより形成し、流路部分へのコンタクトを形成する。
【0088】
最後に、
図57A,Bで示す工程において、Si基板上SiO
2膜を、HFなどの選択的なウエットエッチおよびドライエッチによりエッチングし、流路203を形成する。
【0089】
本製法は、流路の形成にサイドウォールプロセスを用いていることが特徴である。サイドウォールプロセスは、原理的に堆積膜厚分の細さの側壁を形成することが出来る。半導体プロセスにおける薄膜堆積技術は、1nm以下までの制御が可能であり、そのため、DNAの太さに匹敵する側壁を形成することが可能となり、微細な幅の流路を形成できる。それにより流路中のDNAの横方向の配置のばらつきが減り、検出信号の信頼性が向上する。また、流路の深さを決定するのに、Si基板を酸化して、後でエッチングにより選択的に除去するという製法を採っている。上記したとおり、半導体プロセスにおける薄膜形成技術は1nm以下までの制御が可能であり、そのため、極浅の深さの流路を形成できる。ゆえに、DNAの高さ方向の制御に優位である。
【0090】
検出用電極もサイドウォールプロセスを用いて形成しているので、DNAの1塩基分の大きさに近い幅の電極が形成可能である。電極幅がDNA1塩基分の大きさに近づくにつれ、読み取り対象と隣り合った読み取り対象以外の塩基による検出信号への影響が少なくなり、検出信号の分解能が向上する。
【0091】
また、流路上部は絶縁膜で覆われているため、ガラスプレートなどで蓋をする必要がなく、デバイス製造の工程が簡易になるほか、ガラスプレート圧着工程で生じる流路幅や深さの不均一性等の問題を解消することが出来る。
【0092】
また、本製法では、検出電極下部以外の流路の深さは、検出電極下部の深さより深くなる。そのため、検出部以外におけるDNAの搬送は、流路断面積が大きい分、滑らかな搬送が可能である。
【0093】
また別製法として、
図44A,Bの工程後に、
図58A,Bで示すように、DNAの厚みに近い膜厚分だけSi基板の酸化を行ってしまってもよい。そうすることで、
図52A,Bの工程時には、
図59A,Bで示すようにすでにSi基板は酸化されていることになる。よってこの時点で酸化の必要はない。そのため、検出用電極の表面酸化を気にする必要はない。よって検出用電極に耐酸化性の弱い材料を用いても検出用電極を酸化することなく、材料選択の幅を広げることが出来る。そのため、例えば従来CMOSプロセスの半導体プロセスで用いられる導電材料を選択することで、従来CMOSプロセスとの親和性や、従来半導体プロセスとの相性を向上でき、集積化回路との混載も容易となる。最終的には、
図60A,Bで示すような完成図となる。
【0094】
また、
図42A,Bで示す流路部となるSiの壁の製法は、始めに幅の広いSi壁をエッチングにより形成し、それを酸化してHF洗浄することで、幅の狭いSi壁を形成するのでも良い。半導体プロセスにおける薄膜形成技術の制度は1nm以下までの制御が可能である。
【0095】
また、本デバイスにおいては、流路を挟んで両脇に離れた検出用電極があるわけではなく、流路をまたぐように流路上部に繋がった配線が配置されている。よって、本実施例では流路を挟んで両脇にパッドを設けているが、片側だけでもよく、デバイスの面積縮小に有利である。
【0096】
さらに、本デバイスの特徴として、流路下の基板100は、流路の幅と同等程度の幅で基板が凸型に掘られており、その周囲は絶縁膜102で埋められている。そのため、流路部中を基板から検出用電極104(もしくは検出用電極から基板)へと流れる検出すべき電流以外のリーク電流、すなわち基板から検出用電極(もしくは検出用電極から基板)へ流路部以外を通過して流れるリーク電流を抑えることができる。
【0097】
また動作例として、Si基板に正電圧、検出電極部に負電圧、流路の入り口付近の溶液に0Vまたは負電圧、出口付近の溶液に正電圧を掛けることで、DNAは、極浅のみぞの中で、さらに基板側に引き寄せられながら流路中を移動できる。そのため、検出電極と基板間でえられる信号の信頼性は、高さ方向の移動が非常に制御されている分、向上する。つまり、Si基板は信号検出電極の片側としての役割も果たしながら、同時にDNAの高さ方向制御も行う。また、基板側電極を別に設けない分、デバイス面積の縮小に有利となる。
【0098】
なお、本デバイスの流路幅や電極幅を対象物に合わせ変化させることで、DNA以外の生体分子やウイルス、細菌などの検出器として使用することも出来る。
なお溶液流動の制御の観点から、流路部のうち、対向電極が存在する検出部以外の幅や深さを広く設計しても良い。
【実施例4】
【0099】
DNAの検出を、Si基板100と検出用電極104間に流れるトンネル電流で行えるデバイスの製法および構造について示す。
【0100】
先ず、
図61で示す工程において、Si基板100上にSiO
2膜101を形成し、その上部にSiN膜を堆積し、パターニングする。Si基板は電極としても用いるので高濃度である方が好ましい。
【0101】
次に、
図62で示す工程において、検出用電極となる導電性材料を堆積し、その堆積膜厚分だけエッチバックすることで、検出用電極のサイドウォールを形成する。サイドウォールの膜厚は、後に検出用電極の幅を決定する膜厚となるので、検出精度向上の観点から、なるべくDNAの1塩基と同等程度の値となるよう形成する。
【0102】
次に、
図63で示す工程において、SiN膜を堆積し、CMPなどの平坦化プロセスによって、表面を平坦化する。
【0103】
次に、
図64で示す工程において、ウエハを、図面に記載の断面が出るようにへき開し、その後、HFなどのウエットエッチを用いて酸化膜をエッチングし、流路部分203を形成する。その後、へき開面の流路部分にガラスプレートなどで蓋をし、流路を形成する。
トンネル電流は、検出用電極104と基板の間に流れ、流路を通るDNAを検出する。
【0104】
本プロセスにて、SiO
2膜101の膜厚は流路の幅に相当し、ウエハへき開後のHFエッチによるSiO
2膜の後退量は、流路の深さに相当する。そのため、SiO
2膜101の膜厚はDNAの太さと同等程度となるよう形成する。また、HFエッチによるSiO
2膜の後退量もDNAの太さと同等程度となるよう形成する。
【0105】
本プロセスは、プロセス工程数が非常に少なく簡易であるうえ、流路の幅や深さを従来半導体プロセスで成熟している酸化プロセスやHFなどによるエッチングプロセスを用いているため、1nm単位の制御が可能である。酸化プロセスは1nm以下の膜厚制御が可能であるし、HFエッチングも1nm以下の膜厚制御が可能である。そのため、太さ2nm程度以下のDNA太さに相当する流路を形成できるため、DNA進行方向(流路に沿った方向)以外の運動をほぼなくすことができ、検出信号の信頼性をよく向上させることができる。検出用電極もサイドウォールプロセスを用いて形成しているので、DNAの1塩基分の大きさに近い幅の電極が形成可能である。電極幅がDNA1塩基分の大きさに近づくにつれ、読み取り対象と隣り合った読み取り対象以外の塩基による検出信号への影響が少なくなり、検出信号の分解能が向上する。なお、本デバイスの流路幅や電極幅を対象物に合わせ変化させることで、DNA以外の生体分子やウイルス、細菌などの検出器として使用することも出来る。
【0106】
なお溶液流動の制御の観点から、流路部のうち、対向電極が存在する検出部以外の幅や深さを広く設計しても良い。
【実施例5】
【0107】
本実施例では、基板側電極106を備え、かつ流路上部に蓋を必要としないデバイス構造を示す。
図69A,Bに、デバイス構造を示す。Si基板100上に基板側電極106を設け、その上にSiN膜102を設け、その上に、流路および対向電極が配置される。流路および対向電極上にSiN膜102がある。
【0108】
デバイスの製法の一例を
図65A,Bから
図69A,Bで示す。それぞれ、各図のAに断面図を示し、Bに上面図を示す。なお、本製法はあくまで一例であり、これに限定するものではない。
【0109】
先ず、
図65A,Bで示す工程において、
図5A,Bから
図12A,Bに示したプロセスを経た後、SiO
2膜101を堆積し、CMPによる平坦化およびエッチングプロセスを用いることで、
図65A,Bのような形状を形成する。
【0110】
次に、
図66A,Bで示す工程において、SiN膜を堆積する。
【0111】
次に、
図67A,Bで示す工程において、レジストをパターニングし、それをマスクとして、検出用電極への導通のため、コンタクトホールを形成し、メタル材料を埋め込む。
【0112】
さらに、
図68A,Bで示す工程において、レジストをパターニングし、それをマスクとして、基板側電極へのコンタクトホールを形成する。
【0113】
最後に、
図69A,Bで示す工程において、HFなどの選択的なウエットエッチおよびドライエッチにより酸化膜をエッチングし、流路を形成する。
【0114】
プロセスは実施例1より増え複雑だが、本デバイスによれば、基板側電極によって流路へ電界を掛けることで、対象物であるDNAの高さ方向を制御することにより、検出信号の信頼性を向上させることが出来る。位置方向制御に用いる電極と検出用電極が独立していることで、高さ方向に最適な電圧と検出に最適な電圧をかけ分けることができる。
【0115】
また、流路上部は絶縁膜で覆われているため、ガラスプレートなどで蓋をする必要がなく、蓋を圧着する工程で生じる流路幅や深さの不均一性等の問題を解消することが出来る。
【実施例6】
【0116】
DNAの高さ方向の制御に加え、横方向の電界による制御も可能となるデバイスを示す。記載するデバイス構造および材料は、本発明の思想を具現化するための一例であり、材料および寸法などを厳密に特定するものではない。
図70Aは、本実施例のデバイスの断面図であり、
図70Bは上面図であり、
図70Aのa)、b)には、それぞれ
図70BのA−A’、B−B’断面を画いている。A−A’断面は、流路に沿った断面であり、B−B’断面は、流路に直交し、2対の電極に沿った断面である。
【0117】
図面の符号100は、例えばSi基板であり、符号102は絶縁膜で、例えばSiN膜であり、検出用電極104は導電材料で構成され、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどが挙げられる。基板側電極部106は導電材料で構成され、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどが挙げられる。符号107はDNA横方向制御電極であり、例えばAu、Pt、Cr、Ta、Ti、TiN、Wなどの材料が挙げられる。本実施例では、C−C’断面で見た場合、検出用電極104と、DNA横方向制御電極107と、検出用電極104およびDNA横方向制御電極107の側壁に接するSiN膜102の間には、理想的には表面に段差がない、または極小である。そのため、流路上部へガラスなどを圧着し蓋をする際、その圧着が容易となり、また、段差による流路部以外への空洞の形成や、段差による流路中の高さ方向のばらつきが抑制され、溶液の搬送精度や検出精度の向上を実現できる。
【0118】
DNA横方向制御電極107のうち、例えば流路を挟んで片側の電極に正電圧、もう片側に負電圧を印加することにより、流路のうち正電圧印加されている側にDNAは引き寄せられる。
図71A,Bは、検出電極付近の流路の上面図である。
図71Aに示すとおり、DNA横方向制御電極が無い場合、またはDNA横方向制御電極による電界を印加しない場合で、流路幅がDNAよりも十分太い場合は、DNAは流路中を横方向(図中矢印で記載)に動くことができる。この場合、DNAが流路の中心付近を通過するか、あるいは流路の端を通過するかで、検出される信号にばらつきが生じる。一方で
図71Bのように、DNA横方向制御電極による電界を印加することで、DNAを片側の壁方向に押しやると、検出電極対を通じて得られる信号のばらつきは低減させることができる。よって、DNA横方向制御電極107と、基板側電極106による高さと横方向の制御により、検出信号の信頼性を非常に向上することができる。
【0119】
また、DNA横方向制御電極107の両側に、同じ値の負電圧を印加することで、横方向に関しては、DNAを流路の中心に配置することができる。これでも、横方向のDNAの配置のばらつきを低減でき、検出信号の信頼性を向上することができる。
【0120】
DNA横方向制御電極107と流路の間には、電極間のリーク防止のためのSiN膜102が存在する。また検出用電極104とDNA横方向制御電極107の間にも、リーク防止のための絶縁膜が存在する。検出用電極104とDNA横方向制御電極107の間にリーク防止のための絶縁膜があるため、検出部分である対向電極の間での横方向制御電界の効果は、弱まってしまう。そのため、なるべく絶縁膜厚はリーク防止が可能な範囲で薄くするのが良い。
【実施例7】
【0121】
溶液を注入するために面積を広く設けている溶液の入り口と出口部(
図72A中の112)の下には基板側電極は無く、検出用電極を備えた微細流路部の下(113)に基板側電極106が備えられているデバイスを示す。
【0122】
図72A−Cは、流路に沿った断面図である。
図72Aは、基板側電極が全面にある場合で、図中の符号111は負電荷およびDNAが受ける電界による力の向きであり、符号112は溶液の入り口または出口となる広い面積の領域を示す矢印であり、符号113は検出部を備えた微細流路部である。符号114は、DNAを泳動させる電界を作り出すための電極棒である。図は流路入り口に浸かっている電極棒に0V、流路出口に浸かっている電極棒に正電圧を印加し、基板側電極に正電圧を印加したときの、負電荷およびDNAが受ける力の向きの例を示している。
図72Aの場合、点線で囲った部分のように、電界よる力の向きが出口方向へ向かわない、あるいは、出口方向へ向けた力が小さい領域が存在し、DNAがうまく出口へと搬送されない可能性がある。
【0123】
対して
図72Bは、基板側電極106は領域113の範囲内に収まっている。この場合、流路入り口に浸かっている電極棒に0V、流路出口に浸かっている電極棒に正電圧を印加し、基板側電極106に正電圧を印加したときの、負電荷およびDNAが受ける力の向きは、特に点線で囲った部分において
図72Aとは違う。電界の向きは効果的に出口方向へと誘導される。そのため、
図72Aとくらべ、DNAはスムーズに出口方向へ誘導される。また検出部を備えた微細流路部内において、基板側へ引き寄せる力の成分は確かに存在しており、DNAの基板側への誘導効果もよく保持されている。検出用電極は、基板側へDNAが効果的に誘導されている領域が好ましく、領域113の中でも基板電極上の領域にあることが好ましい。
【0124】
また、さらにDNAの基板への誘導効果を高め、検出信号の信頼性を高めるために、絶縁膜を挟んで流路上部に上部電極115を設ける構造を
図72C示す。図は、流路入り口に浸かっている電極棒に0V、流路出口に浸かっている電極棒に正電圧を印加し、基板側電極に正電圧を印加し、上部電極に0Vを印加したときの、負電荷およびDNAが受ける力の向きの例を示している。上部電極と基板側電極に挟まれた領域における電界の向き(負電荷およびDNAが受ける力の向き)は
図72A、Bと比べて揃っており、また基板側へDNAを引き寄せる力の成分の値も大きい。また、上部電極のみを用意して、そこに電圧を印加することにより掛かる電界によるDNAの高さ方向の運動制御も、基板側電極で行える制御と同様に、効果が得られる。構造の例として
図60A,Bの構造に上部電極をつけた構造を
図73A,Bに示す。このように、DNA高さ制御用の基板側電極を独立に持っていない構造に対しては特に有用である。
【0125】
また
図74A,Bに示すように、複数本の検出電極対に対して、その下近傍に独立に基板側電極を複数配置することで、DNAをよりスムースに泳動することができる。流路中で、DNAが基板側電極の電界によって底面に引き寄せられて移動する領域を検出電極部近傍のみとすることで、それ以外の領域におけるDNAと底面間の摩擦などの相互作用が低減されるためである。そうすると、DNAが底面から受ける摩擦力などの相互作用によって生じるDNAの流路方向への運動速度の揺らぎを低減でき、また運動停止などの可能性を低くできる。そのため、検出信号の信頼性は向上する。
【0126】
また、異なる検出電極対の下部に複数存在する基板側電極に、異なる電圧を印加することで、検出精度を上げることも可能である。つまり、各検出電極対が存在する近傍の流路形状のばらつきに対応して、検出精度向上に最適な電圧を掛け分けられる。最適な電圧とは例えば、各検出場所で十分な検出精度が得られるだけDNAを基板側に引き寄せながら、かつ、DNAが底面から受ける摩擦力などの相互作用によって生じるDNAの流路方向への運動速度の揺らぎの効果や、運動停止などの可能性をなるべく最小にする電圧である。
【0127】
また上部電極115の配置についても、複数本の検出電極対に対して独立に、その上部近傍のみに配置することで、上記と同様の理由で同様の効果が得られる。例として
図75A,Bに、上部電極を検出電極部の上部近傍のみに配置した図を示す。また、
図76A,Bに、
図60A,Bの構造に上部電極を検出電極部の上部近傍のみに配置した図を示す。
本手法らは、本明細書記載の実施例のデバイスおよび、それ以外の形態のデバイスにも適用可能である。
【実施例8】
【0128】
基板側電極を設けた上記デバイスにおいて、基板側電極に交流電圧を印加することにより、流路とDNAの間の摩擦を低減し、スムースにDNAを泳動させることができる。例えば、流路入り口付近の溶液に印加する電圧を0V、流路出口に印加する電圧をV(正電圧)とし、基板側電極に印加する電圧をV(正電圧)を中心とした微小振幅のある電圧とすることで、スムースにDNAを泳動させることができる。また同様に、上部電極を設けたデバイスにおいては、上部電極に交流電圧を与えても、同様の効果を得ることができる。
【実施例9】
【0129】
上記実施例のデバイスにて測定する際、DNAの進行方向と逆方向に溶液を送液することで、DNAの各塩基間の距離を伸ばすことができる。つまり、DNAは流路入り口および出口に印加する電圧で形成される電界で電気泳導させる一方、泳動方向と逆方向に、圧力により溶液を送液する。溶液の圧力に起因した力により、各塩基間の距離を広げることができる。
図77中の符号108は、DNA進行方向(電界による泳動方向)を表し、符号109は外部圧力の印加による溶液の送液方向を表し、符号110は溶液中の水分子やその他の分子、イオンなどが衝突することによって、DNAの各塩基間の距離を伸ばす力をあらわす。
【0130】
DNAの各塩基間の距離が長くなることで、信号検出の際に、検出対象とする塩基と、その隣にある塩基の情報が混ざりにくくなり、検出信号の信頼性が向上する。DNAが伸びることで、
図3Bのような縮まった配置は採らず、
図4Aのような配置に近づく。
【0131】
なお本手法は、上記実施例以外の形態のデバイスにも適用可能である。
【実施例10】
【0132】
フリンジ電界をもちいて、流路中のDNAの高さ方向および横方向の配置制御を行うデバイスを示す。記載するデバイス構造および材料は、本発明の思想を具現化するための一例であり、材料および寸法などを厳密に特定するものではない。
図78Aは、絶縁膜中に流路203を有するデバイスの、流路を横切った断面図である。断面図は、検出用電極対がない場所での断面図である。SiN膜102中に流路があり、流路底部に絶縁膜を挟んでフリンジ電極116があり、116の脇に絶縁膜を挟んでフリンジ電極117がある。117の電圧(V117)を116の電圧(V116)よりも低くすることで、DNAおよび負電荷が受ける力の向きは電気力線111のようになる。電気力線111は、流路203の中央部かつ底部へ向かうので、DNAも流路203の中央部でかつ底部へ配置される。よってDNAの流路中での配置ばらつきが抑制され、検出電極対によって測定される信号の信頼性が向上する。
【0133】
また
図78Bのように、フリンジ電極117を流路上部に配置しても、同様の効果が得られる。また
図78Cに示すように、
図78Aに示すフリンジ電極116および117の配置を逆にして、流路の上面側に配置しても同様の効果が得られることは、言うまでもない。あるいは、
図78Dに示すように、
図78Bに示すフリンジ電極116および117のそれぞれの配置を逆にして、フリンジ電極117を流路の上面側に、フリンジ電極116を流路の下面側に配置しても同様の効果が得られることは、言うまでもない。
【0134】
また、フリンジ電極は、片側だけの場合も、117と116の間に電界を掛けることで流路中の高さ方向および横方向の電界が決まるので、DNA配置固定の効果はある。ただし、よりよい制御のためには、両脇にフリンジ電極117を設けるのが良い。