(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題から二酸化炭素排出量を削減するために、化石燃料から得られるエネルギーの割合を低減する技術への関心が益々増大しており、その1つとして未利用廃熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換し得る熱電半導体が挙げられる。
熱電半導体とは、火力発電のように熱を一旦運動エネルギーに変換しそれから電気エネルギーに変換する2段階の工程を必要とせず、熱から直接に電気エネルギーに変換することを可能とする材料である。
【0003】
そして、熱から電気エネルギーへの変換は熱電半導体から成形したバルク体の両端の温度差を利用して行われる。この温度差によって電圧が生じる現象はゼーベックにより発見されたのでゼーベック効果と呼ばれている。
この熱電半導体の性能は、次式で求められる性能指数ZTで表わされる。
ZT=α
2σT/κ(=Pf・T/κ)
【0004】
ここで、αは熱電半導体のゼーベック係数、σは熱電半導体の導電率、κは熱電半導体の熱伝導率である。α
2σの項をまとめて出力因子Pfという。そして、Zは温度の逆数の次元を有し、この性能指数Zに絶対温度Tを乗じて得られるZTは無次元の値となる。そしてこのZTを無次元性能指数と呼び、熱電半導体の性能を表す指標として用いられている。
【0005】
熱電半導体が幅広く使用されるためにはその性能をさらに向上させることが求められている。そして、熱電半導体の性能向上には前記の式から明らかなように、より高いゼーベック係数α、より高い導電率σ、より低い熱伝導率κが求められる。
【0006】
しかし、これらすべての項目を同時に改良することは困難であり、熱電半導体の前記項目のいずれかを改良する目的で多くの試みがなされている。
【0007】
半導体においては、ドーピング、すなわち半導体の物性を変化させるために少量の不純物を添加することがよく行われる。不純物の添加により、電子や正孔(キャリア)の濃度を調整する他、禁制帯幅などのバンド構造や物理的特性などを様々に制御することができる。
【0008】
例えば、特許文献1には、中温域用において高い熱電変換効率を示す熱電変換素子として知られているPbTe系の熱電変換素子を作製する場合、p型の熱電変換素子を得る場合においては、K,Naをドープしたp型PbTeの粉末材料を用いることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施態様によれば、母材を構成する母材元素と、前記母材元素の原子半径の1.09倍以上の原子半径を有するドーパント元素と、を含むことを特徴とする、熱電半導体が得られる。
【0015】
本発明者は、従来型の熱電半導体では、性能指数ZTが十分でない理由について、考察し、以下のように考えた。
【0016】
従来型の熱電半導体において、キャリア濃度を増加させ、電気伝導率σを向上させるため、元素置換やドープが行われている。しかしながら、置換またはドープされる異種元素が、キャリア伝導経路上に置換されるため、置換やドープをするほど、キャリア散乱が発生し、キャリア移動度が低下する。そのため、キャリア濃度を増加させても、移動度が低下するので、電気伝導率σがそれほど向上しない。結果として、性能指数ZTが十分でない。
【0017】
この理由について、以下でさらに詳しく説明する。
【0018】
半導体の分野では、概して、置換元素またはドープ元素は、半導体を構成する母材元素と元素周期表上で近接する元素から選択されることが多い。例えば、Siを母材とするシリコン半導体では、ドープ元素としてホウ素を混入してp型半導体が創られ、また、ドープ元素としてヒ素を混入しn型半導体が創られる。
【0019】
熱電半導体の分野では、例えば、Bi
2Te
3系の熱電半導体では、P型置換元素として、Sb、Sn、Inが用いられ、N型置換元素として、Seが用いられている。また(Bi,Sb)
2Te
3系の熱電半導体では、ドーパントとしてTeが微量添加され、Bi
2(Sb,Te)
3系の熱電半導体では、ドーパントとしてI等のハロゲンが添加される。さらに、PbTe系の熱電半導体では、P型ドーパントとしてNaが用いられ、N型ドーパントとしてIが用いられる。SiGe系熱電半導体では、ドーパントとしてBが用いられている。
【0020】
上記の例の熱電半導体の母材構成元素、および置換元素またはドープ元素の原子半径は以下のとおりである。
Bi:156pm(ピコメートル)
Te:140pm
Sb:140pm
Pb:175pm
Na:186pm
Sn:140pm
Se:120pm
I :140pm
B : 90pm
Si:210pm
Ge:122pm
【0021】
これらの原子半径からわかるとおり、従来型の熱電半導体では、母材の構成元素と置換、ドープ元素の原子半径が近い、または小さいものしかない。
母材の構成元素と置換、ドープ元素の原子半径が近いものの例として、Bi
2Te
3系の熱電半導体(母材)における、P型置換元素として、Inがある。母材を構成する元素であるBiの原子半径が156pmに対して、置換元素Inの原子半径が167pmである。比率にすると、167÷156=1.07倍である。
もう一つの例は、PbTe系の熱電半導体における、P型ドーパントとしてNaである。母材を構成する元素であるPbの原子半径が175pmに対して、ドーパント元素Naの原子半径が186pmである。比率にすると、186÷175=1.06倍である。
【0022】
上記の熱電半導体では、置換元素またはドープ元素の原子半径は、熱電半導体の母材構成元素の原子半径と近い、またはそれ以下のものとなる。そのため、母材を構成する元素Aが、異種元素であるドープ元素Bによって、置換されやすい。これにより、ドープ元素Bがキャリア伝導経路上に置換され、キャリア散乱を生じさせ、キャリアの移動度の低下をもたらす。
【0023】
この移動度の低下について、
図1を用いて説明する。
図1は、キャリアの挙動について説明する図である。Aが熱電半導体の母材構成元素であり、Bが置換ドープ元素であり、そしてeはキャリア(電子または正孔)である。
図1では、もとは熱電半導体の母材を構成していた元素Aの一部が、ドープ元素Bで置換されている。このドープ元素は、キャリア供給源として働くものであり、ドープ元素が増加すれば、キャリア濃度も増加する。一方でこのドープ元素は、キャリア伝導経路上に置換されるため、伝導してくるキャリアを散乱させ、キャリア移動度は結果として低下してしまう。
【0024】
キャリア移動度の低下により、電気伝導率σも低下し、ひいては熱電半導体の性能指数ZTが低下する。
【0025】
まず、半導体における電気伝導率σ(S/cm)の低下について説明する。電気伝導率σは、次式によって計算される。
σ=enμ
ここで、eは素電荷(定数)であり、nがキャリア濃度であり、μが移動度である。
【0026】
上記の説明のとおり、ドーピング量すなわち置換量を増やすと、キャリア濃度が増加する一方、キャリア散乱も生じ、移動度が低下するので、結果として電気伝導度σはそれほど向上しない。その様子を
図2に示す。
【0027】
図2は、従来の熱電半導体において、キャリア濃度を増加、すなわち置換ドーピング量を増加させた場合の、熱電半導体の性能指数に関する係数、α(ゼーベック係数)、σ(電気伝導率)、およびα
2σ(出力因子)を模式的に示した図である。
【0028】
図2には、α(ゼーベック係数)も示されている。キャリア濃度が増加するにつれて、熱電半導体の母材構成元素が減少し、これに伴ってα(ゼーベック係数)は減少する。
【0029】
図2には、α
2σ(出力因子)も示されている。キャリア濃度を増加させていくと、α(ゼーベック係数)は低下していき、σ(電気伝導率)はそれほど増加しないので、結果としてα
2σ(出力因子)は、ピーク(極大点)を有する曲線となる。すなわち、α
2σ(出力因子)は、はじめのうちは増加するが、ピークに達すると、その後は低下する。しかも、そのピークがまだ十分に高いとはいえない。
【0030】
ここで、α
2σ(出力因子)は、熱電半導体の性能指数ZTの係数であり、すなわち、熱電半導体の性能指数ZTは、α
2σ(出力因子)に比例する。したがって、性能指数ZTは、キャリア濃度を増加させていくと、はじめのうちは増加するが、ピークに達すると、その後は低下する。しかも、そのピークがまだ十分に高いとはいえない。これが、従来型の熱電半導体の性能指数ZTが十分でない理由であると考えられる。
【0031】
そして、本発明者は、鋭意検討の結果、熱電半導体の性能指数ZTを向上させるために、母材構成元素よりも原子半径の大きな元素、より具体的には、母材元素のよりも原子半径の1.09倍以上の原子半径を有する大きい元素をドーパント元素をドープすることに想到した。この場合、
図3に示すように、ドープされる元素Bの原子半径が大きいので、母材構成元素Aと原子置換されない。これにより、従来型の熱電半導体においてドーパントが母材構成元素と置換されて生じていた、キャリア散乱の頻度が減少する。
【0032】
なお、
図3では、一般的な格子状の結晶構造の熱電半導体を模式的に示して、ドーパントが置換されないことを説明したが、層状の結晶構造の熱電半導体、例えば(Bi,Sb)
2Te
3系熱電半導体、でも同様にキャリア散乱の頻度が減少する。
図4を用いて、このことを説明する。
図4では、層状の結晶構造の熱電半導体を模式的に示している。層状熱電半導体では、母材構成元素が層を形成し、複数の層が積み重なって層状熱電半導体を形成している。そして、各層がキャリア伝導経路として働く。
図4では、実線(太線)部が、層状熱電半導体の各層を表わしている。ドーパントとして添加された元素は、層を構成する元素(母材構成元素)より原子半径が大きいため、層を構成する元素とは置換されず、層間に存在することになる。したがって、キャリア伝導経路は維持されたままであり、キャリア散乱の頻度は、従来のもの(ドーパントの原子半径が母材構成元素の原子半径に近い、またはそれ以下のもの)と比べて減少する。
【0033】
結果として、本発明の熱電半導体では、キャリア移動度が低下しにくくなり、
図5に示すとおり、電気伝導率σが
図2の従来型と比べて大きく向上する。
図5には、α(ゼーベック係数)も示されており、これは従来型の
図2とほぼ同様に、キャリア濃度が増加するにつれて、熱電半導体の母材構成元素が減少するので、これに伴ってα(ゼーベック係数)も減少する。
【0034】
図5には、性能指数ZTの比例係数となる、α
2σ(出力因子)も示されている。キャリア濃度を増加させていくと、αは低下していくが、σが大きく増加するので、α
2σ(出力因子)も、大きく向上したピーク(極大点)を有する曲線となる。すなわち、性能指数ZTの大幅な向上が実現される。
【0035】
上記のとおり、熱電半導体において、母材を構成する母材元素と、前記母材元素の原子半径の1.09倍以上の原子半径を有するドーパント元素と、を含むことにより、得られた熱電半導体の性能指数ZTが大幅に向上する。
【0036】
本発明の熱電半導体に用いる母材は特に限定する必要はなく、複数の母材元素から構成されてもよい。母材が複数の母材元素から構成される場合、ドーパント元素による置換は、概して存在比率の多い母材元素との間で生じやすいと考えられる。したがって、ドーパント元素による置換を抑制するためには、存在比率の多い母材元素との置換を抑制することが効果的である。そのため、ドーパント元素の原子半径は、存在比率の多い母材元素の原子半径の1.09倍以上とすることが好ましい。これにより、存在比率の多い母材元素と、ドーパント元素との置換が生じず、従来型の熱電半導体においてみられた、キャリア散乱の頻度が減少する。
【0037】
本発明の熱電半導体に用いる複数の母材元素は、特に限定する必要はなく、望ましい母材元素としては、Bi、Sb、Te、Ti、Ni、Sn、Zr、Co、Pb、Si、Ge、Mg、Siなどが挙げられる。特に好ましい、複数の母材元素は、Bi、Sb、Teである。
【0038】
本発明の熱電半導体に用いる母材は特に限定する必要はなく、望ましい母材としては、(Bi,Sb)
2Te
3系、(Bi,Sb)
2(Te,Se)
3系、TiNiSn系、ZrNiSn系、CoSb
3系、PbTe系、SiGe系、MgSi系などが挙げられる。特に、好ましい組成系としては、(Bi,Sb)
2Te
3系である。
【0039】
本発明の熱電半導体に用いるドーパントは、母材を構成する元素よりも原子半径の1.09倍以上の原子半径を有する元素であれば、特に限定されない。そのドーパントの原子半径が、母材を構成する元素の原子半径の1.1倍以上であることが、より好ましい。さらに好ましくは、約1.2倍以上である。原子半径が近接していると、母材元素とドーパント元素の置換が生じる可能性が高まり、性能指数の向上が十分でない場合があるからである。
【0040】
本発明の熱電半導体に用いるドーパントは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の少なくとも一つであってもよい。一般に、周期律表において、同じ周期であれば、小さい族、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属、の元素の原子半径が大きいからである。
【0041】
具体的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の元素の原子半径は、以下のとおりである。
アルカリ金属元素 アルカリ土類金属元素
Li 152pm Be 112pm
Na 186pm Mg 160pm
K 227pm Ca 197pm
Rb 248pm Sr 215pm
Cs 265pm Ba 222pm
Fr 260pm Ra 221pm
(Fr、Raについては、原子半径のデータが見つからなかったので、共有結合半径の値である。一般に、原子半径は、共有結合半径よりもやや大きい。)
【0042】
本発明の熱電半導体に用いるドーパントの濃度は、10〜7,000ppmであってもよく、好ましくは50〜5,000ppmであってもよい。この範囲より、ドーパント濃度が低いと、ドーピングによる効果、例えば、キャリア供給源としての作用等、が得られない。逆に、この範囲より、ドーパント濃度が高いと、熱電半導体の母材を構成する元素が減少し、ゼーベック係数が減少するので、結果として性能指数の向上が十分とならないことがある。
【0043】
図6を用いて、本発明の熱電半導体の製造する方法を説明する。
図6を参照すると、熱電半導体の母材の原料の一例として、塩化ビスマス、塩化テルルおよび塩化アンチモンを含むスラリー(溶媒はエタノール)に還元剤であるNaBH
4のエタノール溶液を滴下することによって、ドーパントの一例としてNaを添加した熱電半導体の前駆体を化学還元合成する。
次いで、合成された前駆体を含んだエタノールスラリーを、水でろ過洗浄し、その後エタノールでろ過洗浄する。この際、ろ過洗浄のための水の量を種々調整し、試料中のNa濃度を調整する。
その後、密閉の加圧容器中、例えば密閉のオートクレーブ中で200〜400℃の温度、10時間以上、例えば10〜100時間、その中でも24〜100時間程度水熱処理を行って、合金化させ得る。
次いで、通常は非酸化雰囲気下、例えば窒素等の不活性雰囲気下で、乾燥させて粉末状の熱電半導体の前駆体を得ることができる。
さらに、前記の粉末状の熱電半導体の前駆体を300〜600℃の温度でSPS焼結(放電プラズマ焼結:Spark Plasma Sintering)することによって、(BiSb)
2Te
3焼結体を得ることができる。
【0044】
熱電半導体の母材の原料となる塩としては、例えば、Bi、Sb、Ag、Pb、Ge、Cu、Sn、As、Se、Te、Fe、Mn、Co、Siから選択される少なくとも1種以上の元素の塩、例えばBi、Sb、Te、Co、Ni、Sn又はGeの塩、例えば前記元素のハロゲン化物、例えば塩化物、フッ化物、臭素化物、好適には塩化物や、硫酸塩、硝酸塩などが挙げられる。
【0045】
また、前記のスラリーを与える溶媒としては、前記熱電半導体の母材の原料を均一に分散し得るもの、特に溶解し得るものであれば特に制限はなく、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、好適にはメタノール、エタノールなどのアルコールが挙げられる。
【0046】
前記の還元剤としては、前記熱電半導体の母材の原料となる塩を還元し得るものであれば特に制限はなく、例えば第三級ホスフィン、第二級ホスフィンおよび第一級ホスフィン、ヒドラジン、ヒドロキシフェニル化合物、水素、水素化物、ボラン、アルデヒド、還元性ハロゲン化物、多官能性還元体などが挙げられ、その中でも水素化ホウ素アルカリ、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム等の物質の1種類以上が挙げられる。
【0047】
この還元剤は、ドーパント源となり得るものであり、ドーパント元素を含んだものを利用するのが便利である。ただし、ドーパントは別途混入されてもよい。例えば、その他のドーパント元素の水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等を添加してもよく、Kをドーパントとして用いる場合は、KOHを前記スラリーに添加してもよい。また、Teをドーパントとして用いる場合は、熱電半導体の母材の原料となる塩の一つとして用いた、塩化テルルの混合量を調節してもよい。
【0048】
前記のSPS焼結は、パンチ(上部、下部)、電極(上部、下部)、ダイおよび加圧装置を備えたSPS焼結機を用いて行うことができる。
また、焼結の際に、焼結機の焼結チャンバのみを外気から隔離して不活性の焼結雰囲気にしてもよくあるいはシステム全体をハウジングで囲んで不活性雰囲気にしてもよい。
【実施例】
【0049】
実施例1
図6に示すフローチャートに従って、Naをドープした熱電半導体を作製した。
【0050】
原料スラリーの調製
エタノール100mLに、下記原料を混合してスラリーを調製した。
母材原料
塩化ビスマス(BiCl
3) 2.0g
塩化テルル(TeCl
4) 12.8g
塩化アンチモン(SbCl
3)5.8g
【0051】
還元
エタノール100mlに還元剤としてNaBH
42.4gを溶解した溶液を上記原料スラリーに滴下した。
還元により析出したナノ粒子を含んだエタノールスラリーを、水500〜5000mlでろ過・洗浄し、更にエタノール300mLでろ過・洗浄した。
この際、水の量を種々調整し、試料中のNa濃度を調整した。
【0052】
熱処理(合金化)
その後、密閉式のオートクレーブに装入し、240℃×48hrの水熱処理を行なって合金化させた。
次いで、N
2ガスフロー雰囲気で乾燥させ、粉末を回収した。
【0053】
焼結
回収した粉末を350℃で放電プラズマ焼結(SPS)し、(Bi,Sb)
2Te
3から成る母材中に、ドーパントとして、母材を構成する元素Bi、Sb、Teよりも大幅に原子半径の大きいNa(原子半径186pm)をドープした熱電半導体を得た。
【0054】
物性測定
得られたNaをドープした熱電半導体の、ゼーベック係数α、電気伝導率σ、および出力因子Pfを測定した。結果を
図7に示す。
なお、測定方法は下記のとおりである。
1.ゼーベック係数αの測定
アル
バック理工製ZEMを用いて、ゼーベック係数を測定。具体的には、熱電半導体の一部を切り出した試料片に熱電対線を押し付け、昇温炉中で試料片に温度差を設けて、この際に発生する熱起電力を測定することにより求めた。ゼーベック係数はΔV/ΔTを3点フィッティングした。
2.電気伝導率σの測定
アル
バック理工製ZEMを用いて、電気伝導率を測定。電気伝導率は四端子法により測定を行った。
3.出力因子Pfの算出
出力因子Pfは、α
2σとして求められるので、上記のゼーベック係数αおよび電気伝導率σの測定値をかけ合わせることにより求めた。
図7に示されるように、Na濃度が高くなるにつれて、電気伝導率σが大きく向上した。これに伴い、出力因子Pfも大きく向上した。ただし、Na濃度が7000ppm以上では、ゼーベック係数αが低下したため、出力因子Pfも低下した。
【0055】
比較例
ドーパントとして、Na(原子半径186pm)の代りにTe(原子半径140pm)を用いた熱電半導体を作製した。
【0056】
母材原料である塩化テルル(TeCl
4)の量を 13.03g、13.24g、13.46g、13.67gとしたことを除いて、実施例1と同様の方法により、Teをドープした熱電半導体を得た。
【0057】
物性測定
得られたTeをドープした熱電半導体の、ゼーベック係数α、電気伝導率σ、および出力因子Pfを測定した。結果を
図8に示す。
図8には、実施例1のNaをドープした熱電半導体の物性も併記した。
図8に示されるように、比較例のTeドープした熱電半導体に比べて、実施例1のNaドープした熱電半導体では、電気伝導率σが大きく改善した。これに伴い、出力因子Pfも大きく向上した。
【0058】
実施例2
図9に示すフローチャートに従って、Kをドープした熱電半導体を作製した。
原料スラリーの調製
エタノール100mLに、下記原料を混合してスラリーを調製した。
母材原料
塩化ビスマス(BiCl
3) 2.0g
塩化テルル(TeCl
4) 12.8g
塩化アンチモン(SbCl
3)5.8g
【0059】
還元
エタノール100mlに還元剤としてNaBH
42.4gを溶解した溶液を上記原料スラリーに滴下した。
還元により析出したナノ粒子を含んだエタノールスラリーを、水5000mlでろ過・洗浄し、更にエタノール300mLでろ過・洗浄した。
【0060】
ドーパント(K)添加
ドーパント元素Kを、KOHの形態で、ドープ量に応じて0.05〜0.3gの範囲で、前記ナノ粒子を含んだエタノールスラリーに添加した。
【0061】
熱処理(合金化)
その後、密閉式のオートクレーブに装入し、240℃×48hrの水熱処理を行なって合金化させた。
次いで、N
2ガスフロー雰囲気で乾燥させ、粉末を回収した。
【0062】
焼結
回収した粉末を350℃で放電プラズマ焼結(SPS)し、(Bi,Sb)
2Te
3から成る母材中に、ドーパントとして、母材を構成する元素Bi、Sb、Teよりも大幅に原子半径の大きいK(原子半径227pm)をドープした熱電半導体を得た。
【0063】
物性測定
得られたKをドープした熱電半導体の、ゼーベック係数α、電気伝導率σ、および出力因子Pfを測定した。結果を
図10に示す。
図10に示されるように、K濃度が高くなるにつれて、電気伝導率σが大きく向上した。これに伴い、出力因子Pfも大きく向上した。ただし、Na濃度が7000ppm以上では、ゼーベック係数αが低下したため、出力因子Pfも低下した。これは、Naをドープした場合と同様の結果であり、KでもNaと同様の効果があることが示された。
比較例のTeをドープした熱電半導体での結果も踏まえて、母材を構成する元素よりも原子半径の大きい元素をドーパントとした熱電半導体では、電気伝導率が向上し、性能指数が向上することが示された。