(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液体案内部の上端および下端と前記サブ液体供給室の内壁面との間に隙間が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
前記液体案内部と前記第2の液体案内部を前記フィルターの面と直交する方向から透視した場合、前記液体案内部と前記第2の液体案内部の下端が重なることを特徴とする請求項10ないし13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
前記液体流入部へ記録に用いる液体を供給すると共に、請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにより前記記録に用いる液体を吐出して記録を行なうことを特徴とする液体吐出記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態を適用可能な液体吐出記録装置(以下、単に記録装置ともいう)を模式的に示した正面図である。記録装置100はホストPC110と接続されている。そして記録装置100は、ホストPC110から送信される記録情報に基づいて4つの液体吐出ヘッド(以下、単にヘッドともいう)22K、22C、22M、22Yから記録媒体(以下、ロール紙ともいう)Pに液体を吐出して記録を行う。4つの液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yは、記録媒体Pの搬送方向(矢印A方向)に沿って配置されている。各液体吐出ヘッドは搬送方向に黒インク用の液体吐出ヘッ ド22K、シアンインク用の液体吐出ヘッド22C、マゼンタインク用の液体吐出ヘッド22M、イエローインク用の液体吐出ヘッド22Yの順で互いに平行に配置されている。液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yは、いわゆるラインヘッドであり、記録媒体搬送方向と交差する方向(幅方向)に沿ってノズルを所定の密度で配置したものとなっている。ノズルの配置幅(幅方向におけるノズルの配列範囲)は、使用する記録媒体の最大記録幅以上の幅となっている。記録装置が記録を行う際は、各ヘッドを移動させることなく、液体吐出ヘッドに設けられたヒーターを駆動することによってノズルから液体を吐出して記録を行う。
【0016】
液体吐出ヘッドは、記録に伴って、ノズルの開口部である吐出口が形成された面(以下、吐出口面ともいう)22Ks、22Cs、22Ms、22Ysにゴミやインク滴等の異物が付着することで吐出状態が変わり、記録に影響を与えることがある。そのため、各ヘッド22K、22C、22M、22Yから安定して液体を吐出できるように、記録装置100には回復ユニット40が組み込まれている。この回復ユニット40による吐出口面のクリーニングを定期的に行うことによって、液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yのノズルからの液体吐出状態を良好な吐出状態に回復させることができる。回復ユニット40には、クリ−ニング動作のときに4つの液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yの吐出口面22Ks、22Cs、22Ms、22Ysから液体および微細な気泡を除去する際に使用されるキャップ50が備えられている。このキャップ50は各液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yに独立して設けられている。
【0017】
記録媒体Pは、ロール紙供給ユニット24から供給され、記録装置100に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、ロ−ル紙Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。記録を行う際には、搬送中のロール紙Pがブラックの液体吐出ヘッド22Kの下に到達すると、ホストPC110から送られた記録情報に基づいて、液体吐出ヘッド22Kからブラックインクが吐出される。同様に液体吐出ヘッド22C、液体吐出ヘッド22M、液体吐出ヘッド22Yの順に、各色のインクが吐出されてロール紙Pへのカラー記録が完成する。
【0018】
本実施形態の液体吐出記録装置は、記録用紙Pの記録領域の幅方向の全域に亘って延在する長尺な液体吐出ヘッド22を用いた記録装置としての適用例である。しかし本発明は、液体吐出ヘッドの主走査方向の記録走査と、その主走査方向と交差する副走査方向における記録用紙の所定量の搬送と、を繰り返すシリアルスキャン方式の記録装置にも適用することができる。
【0019】
次に
図2を用いて、記録装置に組み込まれる液体吐出ヘッドの形態について説明する。
図2(a)は、本実施形態を適用可能な液体吐出ヘッドを示した正面図であり、(b)は、4本組の液体吐出ヘッドを示した側面図である。本実施形態を適用可能な記録装置には各色のインクに対応した液体吐出ヘッドが4本搭載されるが、それらの液体吐出ヘッドは各々のノズル列が精密に位置決めされた状態で一体化されている(以下、この状態の4本組のヘッド形態を組みヘッドという)。すなわち、各液体吐出ヘッドのノズル列間ピッチ、ノズル列方向ずれ、ノズル列高さずれ及びノズル列間平行度が規定の精度内で組みヘッド化されるよう結合されている。本実施形態において4つの液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Y間は連結されている。ノズル列が形成された吐出チップ(図示せず)を接着しているベースプレート22Kb、22Cb、22Mb、22Ybの両端部に形成された貫通穴を同軸上に配列し、2本のシャフト50を貫通させでストッパー52にて固定することで組ヘッドを構成している。各液体吐出ヘッドのノズル列22Kn、22Cn、22Mn、22Ynは、別途用意した組みヘッド化冶具により互いに高精度に位置決めされている。
【0020】
ところで昨今、記録装置の超小型化、すなわち設置領域の省スペース化に対する要望が非常に高まっている。そのため、上述したような組みヘッドを記録装置に搭載する形態とする場合では、液体吐出ヘッド単体の小型化、特に液体吐出ヘッド間のピッチを低減させるための液体吐出ヘッドの薄型化が重要な課題となる。本実施形態においては上述した組みヘッド形態と後述する構成とを採用することで、液体供給性能と気泡除去機能を満足させながら板状形状化された液体吐出ヘッド単体の厚み(
図2(b)における左右方向の寸法)を10.5mmとすることが可能になっている。なお、各々の液体吐出ヘッドの複数のノズルの吐出口は、板状形状化された液体吐出ヘッドの端部に設けられている。
【0021】
図3は、本実施形態の記録装置における液体タンク28から液体吐出ヘッド22までの液体供給系および回復系を模式的に示した図である。各液体吐出ヘッドは同じ構造であるため、以下、1つの液体吐出ヘッド22について説明を行う。
【0022】
記録装置100は、液体吐出ヘッド22、本体から着脱自在な液体タンク28、液体タンク28と液体吐出ヘッド22とをつなぐ液体流路40、液体吐出ヘッド内部を介して液体流路40と連通するエア流路41、エア流路41に設けられたポンプ42を有する。ポンプ42がエア流路41及び液体吐出ヘッド22内を減圧するように駆動することによって、液体タンク28より液体流路40を介して液体吐出ヘッド22内に液体が供給される。液体吐出ヘッド22内には供給フィルター18が配設されており、液体吐出ヘッド22に供給された液体は、供給フィルター18を介してメイン液体供給室26に流入する。メイン液体供給室26内の液体はやがてノズル内に供給され吐出されるが、液体吐出ヘッド内の液体供給系詳細については後述する。
【0023】
メイン液体供給室26の一部には液面検知センサ21が取り付けられており、その測定結果で液体供給の制御が行われる。すなわち、メイン液体供給室26の液面が一定レベル以下であると検知された時は、ポンプ42を駆動させて液体タンク28から液体を吸引する。そして、吸引した液体が液面検知センサ21により一定レベル以上であると検知された時は、ポンプ42が停止し、液体の供給が停止される。
【0024】
一方、各液体吐出ヘッドが安定して液体を吐出するためのクリーニング動作には、ポンプ44が使用される。クリーニング動作とはノズル内に残留した微細な気泡やごみを除去し、ノズル内を液体で満たす動作である。液体吐出ヘッド吐出口面の対向には回復キャップ43(以下、キャップともいう)が設けられており、キャップ43とポンプ44をつなぐ回復流路49がある。回復流路49のうちキャップ43が接続された側とは反対側には、クリーニング動作によって発生した廃液を貯留するための廃液タンク46が接続されている。
【0025】
クリーニング時、キャップ43が液体吐出ヘッド22の吐出口面を密閉するように覆う。その後、ポンプ44を駆動させることによってキャップ43内および回復流路49が減圧され、液体吐出ヘッド22のノズル面から液体とともに残留気泡およびごみを吸引する。吸引した液体や気泡等は廃液タンク46に導かれる。
【0026】
図4(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの構造例を説明するための正面図であり、
図4(b)は同図(a)のA−A線断面図であり、
図4(c)は同図(b)のB−B線断面図である。説明の便宜上、正面図において液体供給ケースカバーは省略している。また、
図4(a)における各部剤の上下位置関係は、液体吐出ヘッド22を記録装置100に組み込んだ際の上下位置関係と同一である。
【0027】
これらの図において、セラミック製のベースプレート10はシリコンにより形成されるヒーター基板11を支持している。ヒーター基板11には、液体の吐出エネルギー発生素子としての複数の電気熱変換体(ヒーターまたはエネルギー発生部)とこれらの電気熱変換体に対応するノズルを構成するための複数の流路壁とが形成されている。このノズルは、板状形状化された液体吐出ヘッド22の長手方向(
図4(a)の左右方向)に複数配置されており、この複数のノズルをノズル列と称す。また、ヒーター基板11には各ノズルに連通する共通液体供給室12を囲む液体供給室枠も形成されている。このように形成されたノズルの側壁および液体供給室枠の上には、共通液体供給室12を形成する天板13が接合されている。したがって、ヒーター基板11と天板13は互いに一体化した状態でベースプレート10に積層接着されている。このような積層接着は、銀ペーストなどの熱伝導率のよい接着剤によって行われる。ベースプレート10におけるヒーター基板11の後方には、実装済みのPCB(電気配線基板)14が両面テープ(図示せず)によりベースプレート10に固定されている。ヒーター基板11上の各吐出エネルギー発生素子とPCB14とは、各々の配線に対応するワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0028】
天板13上面には、液体供給部材15が接合されている。液体供給部材15は液体供給ケース16(第1ケース)と液体供給ケースカバー17(第2ケース)より構成されている。すなわち液体供給ケースカバー17が液体供給ケース16の正面を塞ぐことにより、後述する液体供給室や液体供給路が形成されると共に、液体吐出ヘッド22を薄板化(板状形状化)している。本実施形態においては、液体供給ケース16と液体供給ケースカバー17の接合は、熱硬化型の接着剤により行われる。また、液体供給ケース16には供給フィルター18および排出フィルター19が重力方向に沿って配設されている。すなわち、供給フィルター18および排出フィルター19は、その液体の通過面が重力方向と略平行になるように配置されている。供給フィルター18は液体供給部材15に供給された液体中の異物の除去を目的とし、排出フィルター19は液体吐出ヘッド外部からの異物の侵入を防止することを目的とする。各々のフィルターは熱溶着によって液体供給ケース16に固定されている。さらに液体供給ケース16の一部には、メイン液体供給室26に流入する液体と空気とを分離するスペースとしての気液分離部20が形成されている。この気液分離部20に外部に突出する形で液面検知センサ21が実装されており、上述したような液体供給室内の液体量の制御を行う。
【0029】
ここで、液体供給ケース16と液体供給ケースカバー17の2つの部品の接合により形成される液体供給室および液体供給路等の構成について説明する。液体供給ケース16の天板13との接合面には、ノズルの配列方向と略平行かつノズル列の幅に亘って矩形状の開口部(以下、液体供給口という)27が形成されており、液体供給口27の延長上にはメイン液体供給室26が形成されている。すなわち、メイン液体供給室26はノズル列と略平行かつノズル列の幅に亘って形成されている。また、液体供給口27と上部の天面は、ほぼ全域に亘って気液分離部20を最上部とした傾斜部(以下、メイン液体供給室傾斜部29ともいう)を成している。メイン液体供給室傾斜部29には2つの開口部が形成されており、1つはメイン液体供給室26へのインク供給経路である液体連通部31、他方は気液分離部20である。
【0030】
気液分離部20はメイン液体供給室26の一部を成し、メイン液体供給室26の他の部分よりも深さが大きくなっている。これは、後述するように液体供給室内の液体に混在する気泡を破泡する効果を高めるためである。本実施形態においては、気液分離部20の内部にステンレスの電極を3本実装しており、図中左側より上限検知電極23、グランド電極24、下限電極25である。グランド電極24と上限検知電極23間の通電、グランド電極24と下限検知電極間25の通電により、メイン液体供給室26内の液面を上限と下限の間に維持する構成となっている。本実施形態の液体吐出ヘッドにおいては、気液分離がなされた液体の液面を検知することで、検知の信頼性を向上させることが可能である。
【0031】
気液分離部20の延長上にはエア連通部30があり、その先はエア流路(空気室)41となる。さらに先には前述した排出フィルター19が配設されており、排出ジョイント33に連通する。排出フィルター19は撥水性を有する材質によって構成されている。このため、万が一エア流路41に液体が流入し、排出フィルター19にインクが付着してフィルター内部にインクのメニスカスが形成されても、その撥水性によってフィルター部の毛管力を低減することができ、インクのメニスカスを容易に除去することができる。
【0032】
一方、メイン液体供給室傾斜部29に設けられた液体連通部31を介して液体供給路37が設けられている。液体供給路37は、液体連通部31から供給フィルター18近傍まで管状を成しており、メイン液体供給室26と略同一平行平面上に形成される。供給フィルター18もまた、メイン液体供給室26と略同一平行平面上に配置されている。供給フィルター18はサブ液体供給室を二室に区画するように配設され、供給ジョイント32に連通する側の室、すなわち液体吐出ヘッド内の液体供給の流れにおける上流側の室が第1液体供給室34a、下流側が第2液体供給室34bとなっている。
【0033】
第2液体供給室34bは供給フィルター18上方に開口部36(以下、第2開口部36という)があり、これを介して液体供給路37に連通している。また、第2液体供給室34bの天面はこの開口を最上部(供給フィルターから最も離れた部分)とする傾斜(以下、第2液体供給室傾斜部38という)が形成されている。なお、供給フィルター18は、言い換えれば、ノズル列各々の吐出口と第2開口部36との間に配置されている。同様に、供給フィルター18は、ノズル列各々の吐出口と第2液体供給室傾斜部38との間に配置されている。
【0034】
以上のように、メイン液体供給室26、気液分離部20、液体供給路37、及び供給フィルター18は、各々ノズル配列面39と交差(本実施形態では直交)する同一平面上(この平面を平面Aとする)に設定される。一方でA−A断面に示すように、メイン液体供給室26、液体供給路37、供給フィルター18、気液分離部20は平面Aに交差する方向(液体吐出ヘッド22の厚み方向)において互いに重ならないように配置することが重要である。その理由について以下に述べる。
【0035】
高速記録を可能とする液体吐出ヘッドにおいては、液体吐出ヘッド内で液体が滞りなく流れることが重要であり、液体供給室や供給路の流路抵抗が過大にならないように設計する必要がある。また、液体供給室や供給路への気泡の残留を回避させなければならない。したがって、メイン液体供給室や供給路の液体の流れに対する断面積を大きくとることで、液体吐出ヘッド内の圧力損失を低減させ、気泡を移動し易くする必要がある。さらに、高速記録を可能とするためには液体吐出ヘッド内の流路抵抗増大の要因となるフィルターを大面積化することが有効である。上記の観点により、本実施形態では液体吐出ヘッド内流路抵抗計算および気泡の挙動確認により液体供給室厚みを2.2mm以上、フィルター面積をφ14相当とした。
【0036】
このような高速記録を可能とする液体吐出ヘッド開発においては、近年、記録装置の超小型化に対する要望に伴ってさらなる液体吐出ヘッドの小型化が求められている。特に複数の液体吐出ヘッドを並列に配列し、記録装置に組み込む形態とする場合、各液体吐出ヘッドの薄型化が重要な課題となる。よって、高速記録と薄型化を両立させるため、本実施形態では、メイン液体供給室26、気液分離部20、液体供給路37、供給フィルター18、第1,第2液体供給室34a,34bを、各々ノズル配列面39と交差する同一平面(平面A)に沿って設定する。そして、メイン液体供給室26、液体供給路37、供給フィルター18、気液分離部20は互いに平面Aと交差する方向(液体吐出ヘッド22の厚み方向)に重ならないように配置する構成とした。
【0037】
さらに本実施形態の液体吐出ヘッドでは、液体供給室や供給路が形成された液体供給部材15に対して液体吐出ヘッド22の厚み方向に隣接してPCB14を配置している。A−A断面に示すようにPCB14は平面Aに交差する方向に関して、メイン液体供給室26と互いに少なくとも一部が重なり隣接する形で形成されている。さらにPCB14は、第1液体供給室34aおよび気液分離部20と平面Aに交差する方向で互い重ならないように配置され、隣接しない領域に収められる。前述したとおり気液分離部20は気泡を破泡するためにメイン液体供給室26よりも厚みが大きく設定されており、供給フィルター18が介在する第1液体供給室34aと第2液体供給室34bの平面Aに交差する方向も大きくなる(厚みが増える)。したがって、液体吐出ヘッド全体の厚みを抑えるには、第1液体供給室34aおよび気液分離部20に対してPCB14を平面Aに交差する方向に重ならないようにする。メイン液体供給室26に対して平面Aに交差する方向において互いに少なくとも一部が重なるように積層する形態にすることが有効である。
【0038】
次に同じく
図4を用いて、本実施形態における液体吐出ヘッドの機能について液体の流れに沿って説明する。
図3にて説明したポンプによる吸引動作によって、排出ジョイント33を介して液体吐出ヘッド22内が負圧に達する。そうすると、液体タンクから液体吐出ヘッドの供給ジョイント32を通って液体が第1液体供給室34aへ供給される。第1液体供給室34a内の液体は供給フィルター18を通過し、第2液体供給室34bを満たす。この時、第2液体供給室34b内の空気は液体の流入に伴って上方へ移動する。そして、液体及び空気供給フィルター18上端部を越えると第2液体供給室傾斜部38に沿って液体供給路37のほうへ導かれる。すなわち、液体が液体供給路37へ供給されるときには第2液体供給室34bは液体で満たされた状態となる。液体供給路37へ供給された液体及び空気はやがてメイン液体供給室26へ流出する。このように、第2液体供給室傾斜部38が構成されているため、第2液体供給室34bに空気が流入したとしても、空気は流入してくる液体に押されて、確実に空気をメイン液体供給室26に流入させることが可能となる。そして、メイン液体供給室26内に流入した空気は液体の供給に伴って上方へ移動し、やがてメイン液体供給室傾斜部29に沿って気液分離部20へ導かれる。液体と空気が混在した液体が気液分離部20に達すると、液体供給室の厚みが深くなっているため気泡が消滅する。さらに液体の供給が進むと、気液分離部20に設置された液面検知センサ21により、メイン液体供給室26内の液体量が上限に達したと判定される。その時点でポンプの吸引動作が停止され、液体の供給が止まる。
【0039】
次に記録動作中における液体吐出ヘッド内の液体の流れと気泡の挙動、および液体吐出ヘッドの機能に関して説明する。記録中、ノズル内の液体を使用して吐出面から液体滴が吐出されるが、吐出により液体吐出ヘッド内の内圧が下がり、ノズル内の毛細管現象により液体タンクから液体が補給される(以下、リフィルという)。この際、液体タンクから液体流路、供給室、供給フィルター、液体供給室、共通液体供給室等、ノズルに液体が達するまでの流路抵抗によりリフィル性能が決まる。特に供給フィルター18の圧損が支配的となるが、本実施形態においては供給フィルター18を大面積に設定可能な配置としているため、高速記録が可能となる。また、B−B線断面からわかるように、ノズル列全体に亘ってメイン液体供給室26から液体供給口27、共通液体供給室12、ノズルに至るまで略直線的に液体が供給される構成としているため、スムーズにノズルに向かって液体が供給される。
【0040】
ところで、本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体の吐出に発熱エネルギーを必要とする。すなわち、ヒーター基板上の電気熱変換体が発生する熱エネルギーにより液体を発泡させ、その発泡エネルギーを利用してノズルから液体を吐出させるように構成されている。そのため、記録動作が長時間連続した場合には、熱エネルギーが液体に蓄積され、液体の温度が上昇して液体中に溶存する気体が液体吐出ヘッド内に溜まってしまうおそれがある。この液体吐出ヘッド内の気泡を除去しなければ、液体の吐出が適正に行われなくなる。そのため、本実施形態の液体吐出ヘッドのような構成であれば、液体吐出ヘッド内に生じた気泡を効率的に除去することができる。なお、液体を吐出させるための吐出エネルギー発生手段は、電気熱変換体を用いる構成のみに特定されず任意であり、例えば、ピエゾ素子などを用いて液体吐出させる構成であってもよい。
【0041】
本実施形態における液体吐出ヘッドは、ノズル列全体にわたってノズルから共通液体供給室12、メイン液体供給室26まで略直線的に連通する構成である。そのため、ノズルに気泡が残っても気泡自体の浮力によって気泡がノズルから除去され、メイン液体供給室26に導かれる。さらにメイン液体供給室26に導かれた気泡は、メイン液体供給室傾斜29にそって気泡が移動し、気液分離部20に達すると消滅するようになっている。そのため、気泡が液体のスムーズな供給を妨げることがない。すなわち、長時間安定した記録動作が可能である。
【0042】
このように、液体吐出ヘッドにおいて、メイン液体供給室26、気液分離部20、液体供給路37、供給フィルター18、第1液体供給室34a、第2液体供給室34bは各々ノズル配列面39と略平行平面上(平面A)に設定する。そして、メイン液体供給室26、液体供給路37、供給フィルター18、気液分離部20は互いに平面Aに交差する方向に重ならないように配置する。このように液体吐出ヘッドの構成を有することで、液体吐出ヘッド内におけるノズルに対する液体の供給速度を高め、液体吐出ヘッド内の気泡を効率的に除去することができると共に、液体吐出ヘッドの小型化、特に薄型化を向上させることが可能となる。なお、本実施形態では、ポンプによる吸引動作によって液体を液体吐出ヘッドに満す今回は吸引形態を例に記載したが、本発明は吸引形態に限定したものではない。例えば、ポンプによる加圧動作によって液体を吐出ヘッドに満たすようにすることも可能である。
【0043】
次に、
図5を用いて本実施形態の特徴の一つである液体流動促進構造について説明する。
図5(a)は、本実施形態における液体供給室の内部構造を示す拡大正面図、同図(b)は同図(a)のB−B線断面図である。なお、
図5(a)では、サブ液体供給室35の内部構造を示すため、サブ液体供給室35を第1供給液体供給室34aと第2供給液体供給室34bとに画成する供給フィルター18を取り外すと共に、液体供給ケースカバー17を取り除いた状態を示している。
【0044】
図5(a),(b)に示すように、サブ液体供給室35を構成する液体供給ケース(第1ケース)16の内面には、供給フィルター18に向けて、液体案内部としてのリブ(第1リブ)51が突設されている。本実施形態では、液体供給ケース16の内面と一体に形成されている。また、サブ液体供給室35の第2供給室34bを構成する供給ケースカバー17の内面には供給フィルター18に向けて第2液体案内部としてのリブ(第2リブ)52が突設されている。この第2リブ52も液体供給ケースカバー17の内面に一体に形成されている。なお、
図5(a)では、前述のように液体供給ケースカバー17を除いているが、第2リブ52だけは、その正面形状を示すため示してある。
【0045】
第1リブ51は、第1液体供給室の下方から各液体供給室の上方に形成されている供給ジョイント32の第1開口部32aと略同一の高さ位置まで延在している。また、第2リブ52は、第2液体供給室34bの下方から液体供給路37との連結部である第2開口部36と略同一の高さ位置まで延在している。
図5(a)に示すように、第1リブ51は供給ジョイント32から流入した液体がスムーズに下方へ導かれるように放物線を描くような湾曲形状をなしている。また、第2リブ52にあっても第2液体供給室34bの下方から上方の第2開口部36へと液体がスムーズに導かれるように放物線を描くような湾曲形状をなしている。
【0046】
さらに、本実施形態では、第1リブ51と第2リブ52とを正面側から透視したとき、両リブ51,52は互いに下端部で連なり、U字形状を描くように配置されている。また、両リブ51,52の上端部および下端部は、液体供給室内に空気溜まりが形成されるのを防ぐために、リブの上端および下端の各々と液体供給室の内壁面との間には隙間を設けている。なお、サブ液体供給室35の隅部では液体の滞留が発生し易く、液体の色剤、例えば顔料インクの顔料などが沈降する可能性がある。このため、
図5に示すように所定の部材53によって液体供給室供給室内の隅部を埋めることも、液体の流動性を高め、色剤の沈降などを防ぐ上で有効である。
【0047】
本実施形態における液体吐出ヘッドのサブ液体供給室35において、供給ジョイント32から第1液体供給室34aに流入した液体は、リブ51に沿って同サブ液体供給室35の下方へと流れた後、供給フィルター18を透過して第2液体供給室34bへと透過する。そして、下流側液体供給室34bの下方から透過してきた液体は、上方の第2開口部36へ向かって延在するリブ52に沿って流れる。このように、液体供給液体供給室35内では上方から下方へ、下方から上方へと室内全体に液体の流れが形成されるため、サブ液体供給室35内の液体に含まれる色剤などの沈降を大幅に軽減することが可能になる。
【0048】
これに対し、リブ51,52が全く形成されていない場合には、第1液体供給室34aの上方に形成されている第1開口部32aから流入した液体が下方へと流下せず、最短経路を通って第2液体供給室34bの上方に形成されている開口部32bに到達する。つまりサブ液体供給室35内には、上方部のみで液体が流動することとなり、サブ液体供給室35の下方部では液体が十分に流動しない。このため、液体に含まれる色剤がサブ液体供給室35の下方部に沈降してしまい、ノズルへ供給すべき液体の色剤濃度が低下したり、濃度ムラが発生したりする可能性がある。本実施形態では、このようなサブ液体供給室35内での色剤の沈降を軽減することができる。なお、サブ液体供給室35に形成する開口部32a,36をサブ液体供給室35の下方に設けるようにすれば、サブ液体供給室35の下方に色剤が沈降するのを軽減することも可能ではある。しかし、この場合には、液体供給室内の上部に貯留された空気を排出させる際に、液体供給室内に貯留されている液体を全て排出させなければ空気を排出することができないため、液体の消費量が増大し、ランニングコストの増大を招くこととなる。すなわち、サブ液体供給室35の上方に溜まった空気を排出する際に無駄な液体の排出を伴わずに空気のみを排出させるためには、開口部32a,36を各液体供給室34a,34bの上部に形成する必要がある。本実施形態によれば、サブ液体供給室35から空気を効率的に排出させ得るよう、開口部を上部に形成した構成を採用しつつ、色剤の沈降も大幅に軽減することが可能である。従って、本実施形態に係る液体吐出ヘッドを用いることにより、吐出する液体として色材の沈降が発生し易い顔料インクなどを用いる場合にも、ノズルに供給される色剤濃度のむらの発生を軽減可能となり、画像の品質向上にも大きく貢献する。
【0049】
(他の実施形態)
上記実施形態では、第1リブ51と第2リブ52とを正面側から透視したとき、両リブ51,52が互いに下端部で連なり、U字形状を描くように配置した場合を例に採り説明したが、両リブをその他の形状または配置とすることも可能である。例えば、両リブの形状を湾曲のない平板状の形状としても良い。また、両リブを正面側から透視したとき、両リブ51,52がU字形状以外の形状、例えばJ字形状をなすように両リブの形状、配置を定めても良い。
【0050】
さらに、上記実施形態では、第1液体供給室34aと第2液体供給室34bとにリブ51と52とをそれぞれ設けた場合を例にとり説明したが、第1液体供給液体供給室34aにのみ第1リブ51を設けるようにしても良い。この場合、第2液体供給室内にはリブが形成されていないため第2液体供給室内での液体の流動抵抗は実施形態よりは大きくなる可能性はある。しかし、第1液体供給室内34aに流入した液体は第1リブ51によって下方へと導かれるため、この場合にもサブ液体供給室35の下方に液体の色材などが沈降を軽減する効果は十分に得られる。
【0051】
また、以上の説明では、第1液体供給室および第2液体供給室において液体の流動を案内する案内部を、液体供給室の内面と一体に形成されたリブによって構成した。しかし、液体供給室の内面とは別体の板状部材を液体供給室の内面に固定することによって液体案内部を形成することも可能である。勿論、この場合には板状部材の形状は、平板状、放物線を描く湾曲形状、あるいはその他の湾曲形状などに定めることも可能である。すなわち、第1液体供給室内に設ける第1案内部では、流入した液体を上から下へと案内できる形状に第1案内部が形成されていれば良く、また、第2液体供給室内に設ける第2案内部材にあっては、流入した液体を下から上へと案内できる形状であれば良い。さらに、各案内部を構成する板状部材の材質、固定方法などは状況に応じて適宜定めることが可能である。
【0052】
また、液体吐出ヘッドから液体を吐出させるためのエネルギーを発生させるエネルギー発生素子として電気熱変換体を用いた場合を例に採り説明したが、エネルギー発生素子としては、ピエゾなどの電気機械変換体を用いた構成を採ることも可能である。