(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
採用された解決法は、光周波数が基準原子の超微細周波数からシフトした光子の放出を誘導する、光共振周波数での基準原子の照射を利用したラマン効果に基づく原子発振器の使用に基づいている。結果として得られる2つの信号を結合することにより、検出可能なうなりを得ることができ、このうなり信号の周波数は、腕時計のための時間基準としての役割を果たす。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態による、ラマン効果に基づく一原子発振器の光学部分を概略的に示したものである。この原子発振器は、直線偏光ビーム11を放出する、低消費のVCSELレーザダイオードであってもよいレーザダイオード1と、レーザから入射する光を入射円偏光ビーム12に従って偏光させる4分の1波長板2とを備えている。このビーム12は、セシウム原子またはルビジウム原子などの選択された原子をバッファガスと共に含んだ、任意選択で磁界Bの中に置かれるセル3を通過する。入射信号12は、このセル3を出ると、上で説明したラマン効果によって生成される第2の信号13と結合される。これらの2つの信号の組合せは、セシウム原子またはルビジウム原子から放出される、原子時間基準を含んだ信号の回復を可能にする光検出器4によって検出される。この出力信号14は、時間基準のために必要な信号の周波数を生成するために、マイクロ波分周器タイプの電子信号処理デバイス5によって解析される。出力15は、最終的には、以下で説明するように、腕時計によって利用されるこの時間基準を表すことになる。任意選択の無線周波増幅器6は、光検出器4の出力に配置されている。
【0014】
ついでながら、出力信号14の一部分は任意選択であるが、マイクロ波をレーザ1に注入することによってレーザ注入電流を変調するために使用されることが有利であり、この信号のこの部分は、矢印7によって示されている。この構造によれば、出力14に、品質がより良好で、かつ、より容易に利用することができる信号対雑音比を達成することができる。この原理は、レーザの振幅変調と等価である。
【0015】
セル3は磁界Bの中に配置されており、それにより原子のゼーマンサブステートの縮退を持ち上げることができることに留意されたい。一変形態様として、セルをゼロ磁界中に置き、それによりエネルギーレベルを重畳して、信号が大きく、かつ、単純な発振器を得ることも可能である。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態による、ラマン効果に基づく一原子発振器を機能的に示したものである。この原子発振器は、電源およびDC/DC変換器デバイス21と、低電力電子デバイスまたはプロセッサであってもよい処理ユニット23であって、その主な機能が、レーザ1の動作周波数およびレーザ1の注入電流を固定する機能、セル3およびレーザ1の温度を制御する機能、レーザの間欠モードを管理する機能、原子発振器の周波数を温度修正する機能、および水晶発振器などの精度がより低い追加発振器を設定する機能のうちのすべてまたはいくつかを含む処理ユニット23とを備えている。これらの機能の実施態様については、以下で詳細に説明する。また、発振器は、レーザ1のためのDC電流源24と、レーザ1を加熱するためのDC電流源25と、磁界Bを生成するためのソレノイド36のための電流源26と、セル3を加熱するための電流源27であって、関連する加熱器37と協同する電流源27とを備えており、加熱器37には温度センサを追加することも可能である。
【0017】
これらの様々なコンポーネントは、発振器の光デバイス10に作用するレーザ1の動作を可能にしており、その簡単な表現が
図1を参照して示されている。この実施形態では、任意選択の磁界Bを生成するための発生器36、加熱器37およびセル3によって形成されるアセンブリは、これらのコンポーネントを磁気遮蔽することができる遮蔽エンクロージャ38内に配置されている。一変形態様として、これらのコンポーネントのうちの一部のみをこの遮蔽エンクロージャ38内に組み込むことも可能である。他の変形態様として、この磁界はゼロであってもよく、また、発振器を上記したように単純化することも可能である。出力側では、高速光検出器4は、受け取った光強度に比例する信号を処理ユニット23に戻すためのDC出力を備えている。また、高速光検出器4は、さらに、RF信号と電流源24からのDCレーザ注入電流を結合することができるダイプレクサ34(バイアスティー)に再注入される前に、最初に増幅連鎖32によって増幅され、次に遅延線路および移相器33を通る信号のためのRF出力を備えている。増幅されたRF信号の一部は、処理ユニット23に戻される前に分周器5によって処理される。この処理ユニットは、出力として信号22をユーザ周波数(例えば32kHzまたは毎秒1パルス、等々)で引き渡す。最後に、この発振器は、腕時計環境と両立する実施態様のために低消費コンポーネントから製造される。
【0018】
CPTタイプの原子時計には、すべて、複雑なアーキテクチャが使用されており、また、全体として高電力消費を示す、局部発振器を修正するためのVCO(電圧制御発振器)および発振器を制御するための電子デバイスが含まれていることに留意されたい。上で説明したラマンタイプの原子発振器は、電力消費を著しく低減するために極めて単純であるという利点を有している。
【0019】
ラマン効果を使用したこのような発振器の場合、第1の周波数の入射レーザビームと原子蒸気が相互作用し、したがって光−原子相互作用によって第2の周波数を有する第2のビームの放出がラマン効果を介して誘導される。上で言及したように、第1の周波数と第2の周波数の間のうなりによって第3の周波数、すなわちうなり周波数が生成され、このうなり周波数が時間基準として使用される。蒸気が例えばルビジウム85原子を含み、また、レーザが、波長の範囲が780nmまたは794nmの光ビームを放出するVCSEL(垂直共振器面発光半導体レーザ)タイプのレーザである場合、うなり周波数は約3GHzであり、帯域幅は約100kHz程度である。このうなり周波数は、一般的には極めて低レベルの周波数であり、また、極めて低いスペクトル内容を有している。発振器によって出力される、腕時計に使用されるこのようなうなり周波数の検出は、とりわけ電力消費が制限される場合、困難な技術的問題である。
【0020】
この技術的問題を解決するために、周波数(ω
C)が高い狭帯域信号(i
PD)を検出するための、電流消費が少ないシステムが提案されている。このシステムは、電流の形態の信号(i
PD)を引き渡すための発生器、および生成される信号の周波数の関数として発生器の出力インピーダンスを変化させ、かつ、電流を電圧に変換するための並列共振回路を備えている。システムには、さらに、ゲインをさらに大きくし、その一方で振幅が極めて小さい信号を検出することができるようにするために、システムの雑音の低減を最小にするための増幅段が含まれている。発生器は、上記で言及した、電磁放射によって誘導される光検出器4である。
【0021】
図3に示されている検出システムの一実施形態によれば、単純なインダクタL1が並列共振回路の構造に含まれており、また、光検出器は、フォトダイオードPDを備えたタイプの光検出器である。フォトダイオードPDは、電圧源に接続されたインダクタL1を介してバイアスされている。この構造によれば、フォトダイオードPDを適切に動作させるために必要な電流を供給することによってフォトダイオードPDを所望の電圧に維持することができる。検出すべき信号は、数ギガヘルツ程度の所定の周波数ω
Cを中心とするスペクトル内容を有しており、前記スペクトル内容は極めて狭い(10
−4ω
C程度)ことに留意されたい。
【0022】
検出すべき信号i
PDは、インダクタL1をフォトダイオードPDに接続しているノードNに電流の形態で出現する。このノードNは、増幅器MAMPの入力に電気結合されており、増幅された信号はこの増幅器MAMPの出力に出現する。したがってこのように構成されたノードNは、寄生コンデンサC
INに結合されている。この寄生コンデンサC
INは、インダクタL1と共に並列共振回路を形成している。インダクタのインダクタンスは、検出される信号の周波数におけるその誘導性リアクタンスが寄生コンデンサC
INの容量リアクタンスに等しくなるように決定される。言い換えると、ω
CL1=1/(ω
CC
IN)である。これらの条件により、Q値がQで、中央高さ幅が1/Qの低域通過フィルタが得られる。インダクタL1が回路内に統合されている場合、Q値Qとして約10が得られ、一方、インダクタL1が回路の外部に存在している場合、Q値Qとして約50が得られる。等価並列抵抗RpはωLQに等しい。Q値Qが大きいため、ゲインが大きい場合に一般的である消費を伴うことなく大きいゲインを達成することができる。本発明がない場合、提案されているシステムの代わりに、帯域幅が10GHzの広帯域トランスインピーダンス増幅器が使用されることになる。通常、この種の増幅器は約1ワットを消費し、一方、上で提案されている増幅器が消費するのは2ミリワット未満である。
【0023】
図5は、2つのタイプの増幅器に対する、周波数の関数としてのゲインの差を明確に示している。従来技術による広帯域トランスインピーダンス増幅器は、広範囲にわたる周波数をカバーすることができるが、大量の電力消費を余儀なくしており、また、帯域幅が広いほど雑音が大きいと仮定すると、かなり高い雑音レベルを余儀なくしている。広帯域トランスインピーダンス増幅器とは異なり、提案されている解決法によれば、共振素子を使用して、使用される光検出器技術の典型的な遮断周波数より著しく低い中心周波数を中心とする信号が選択される。示されているゲイン特性は、帯域幅が極めて狭く、信号の狭スペクトル内容(10
−4ω
C程度)と両立しており、したがってトランスインピーダンス増幅器と比較すると雑音が著しく小さくなっている。能動素子がシステムに含まれていないため、消費は極めて少ない。
【0024】
ノードNは極めて大きいインピーダンスを有しているため、ゲインをさらに大きくするためには、システムの雑音を最小化して、振幅が極めて小さい信号の検出を可能にすることにより、共通雑音源が小さい単純なMOS型増幅器を使用するだけで十分である。一実施形態では、増幅器は、出力上に抵抗性負荷を有している。他の実施形態では、検出される信号のスペクトル内容が極めて狭く、単一の非変調周波数であってもよいという利点により、増幅器の出力部分の負荷は第2のインダクタL2によって提供され、そのインダクタンスは、所定の周波数ω
Cの信号に対するゲインが最大化されるように選択される。
【0025】
増幅器の入力は、ノードNにACモードで結合することができ、つまり結合コンデンサCCを使用して結合することができ、したがって増幅器の入力は、増幅器の入力が最適電圧になるよう、抵抗器Rbを介して電圧源Vbによってバイアスすることができる。
【0026】
本発明による回路の製造に際しては、寄生コンデンサC
INのキャパシタンスまたはインダクタL1のインダクタンスが、バッチ毎に、あるいはコンポーネント毎に変化することがある。これは、場合によっては、共振回路の共振周波数を所定の周波数の信号を検出するのに適した周波数帯域外へシフトさせる効果を有することがある。そのために、ノードNと結合しているコンデンサのキャパシタンスを調整することが提案されている。この調整は様々な方法で達成することができ、例えばトリミングコンデンサを使用することによって、あるいは例えば製造中における金属の狙いを付けた堆積によってノードNに接続し、あるいはノードNから開放することができる複数のコンデンサを使用することによって達成することができる。また、ノードNがコンデンサに接続され、システムを試験する際にそのキャパシタンスがレーザ切除によって調整されるレーザトリミングシステムによって達成することも可能である。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、共振回路は、
図4に示されているBAW(バルク音波)タイプの電気機械共振器を備えている。BAW共振器は、よりいっそう選択的なフィルタリングを提供し、反共振では大きい実インピーダンスを有し、その一方で、中性化すべきノードNに結合される寄生キャパシタンスC
INを依然として許容する。一実施形態によれば、電気機械共振器は、300より大きいQの達成を可能にしている。この実施形態では、フォトダイオードは適応回路を使用してバイアスされており、その出力段は、低周波ダイオード上の固定バイアス電圧が保証されるよう、電流源CCS制御されている。
【0028】
ラマン効果を使用して腕時計の中に発振器を実施する際に遭遇するもう1つの技術的な問題は、十分な安定性を達成し、その一方で満足すべき時間期間にわたる正確な動作を達成することである。この問題は、
図1に関連して上で説明し、かつ、
図2に機能的に示した動作によって解決される。
【0029】
従来技術では、レーザの発光周波数を制御して、精度の高い安定した原子発振器、とりわけCPTタイプの原子時計のための原子発振器を得るために、光レーザ周波数で検出されるRF信号のフィードバックが常に推奨されている。この場合、レーザの光周波数に関して、ラマン発振器の動作を閉ループモードで高い信頼性で繰返し制御することはほとんど不可能であることが分かっている。閉ループモードのラマン発振器の場合、レーザの周波数を安定させるための同期検出は適切ではない。
【0030】
驚くべきことには、レーザの光周波数フィードバック制御がなくてもラマン発振器を動作させることが可能であり、つまりゼロ周波数フィードバック制御で、あるいは言い換えるとレーザの光周波数の能動制御を用いることなく、つまりレーザ周波数に対する開ループモードの動作でラマン発振器を動作させることができる。
【0031】
安定性試験は、著しい安定性を立証した上記原理に基づいて実施された。ラマン発振器は、87.5℃の温度では160年毎に1秒だけ変化し、数日間の間、少なくとも連続的に安定して動作する。
【0032】
また、5mmの有効長を有するセルの温度も、ルビジウムの融点(39.3℃)未満に下げられた。温度を90℃から35℃まで低くすることは、飽和蒸気圧を2桁小さくすることに対応している(〜10
−4トールから10
−6トール)。安定性はセルの温度に依存するが、この安定性は、最大35℃の温度まで許容可能である。それは、ラマン発振器は40℃の温度でも依然として16年毎に1秒の安定性で満足に動作することによるものであり、非常に驚くべきことである。ラマン信号は、35℃でも依然として存在し、十分に安定している。一実施形態によれば、この予期せぬ観察は、セルの周囲の温度が十分に高く、例えば約35℃、好ましくは約40℃の場合にのみ動作し、セルを加熱しない原子発振器の想定を可能にしている。したがって一実施形態によれば、40℃以下の温度、さらには35℃以下の温度で原子発振器を動作させることができる。また、Rbの代わりにCsをセル内に使用することによって動作温度の低減を想定することも可能であり、セシウムの融点はルビジウムの融点よりさらに低い(39.3℃ではなく28.5℃である)。したがって原子発振器を使用した腕時計内で時間信号を送るためのプロセスには、上で言及した温度範囲内でその動作が維持される温度フィードバック制御、および/または時間信号の温度依存修正を含むことができる。
【0033】
発振器は、動作中、別の技術的な問題に遭遇する。詳細には、上記で説明した解決法は、発振器が
図1および2に関連して説明したデバイスに基づいてクルーズモードにある場合に、その安定した高い性能の動作を得る方法を示している。完全な開ループモードでの動作、つまり
図1のフィードバック7がない動作は、想定可能な代替実施形態であるが、得られる信号が比較的小さく、また、スペクトル的に純粋性が劣るため、性能がより低い代替実施形態である。
【0034】
そのために、セルに対するレーザ照射が開ループモードで開始されると、その次に、発振器を共振させて上で説明した最適動作レジームを達成するために、上で説明した閉ループモードへの切換えを可能にする、セル内のガスの光吸収ピークに近い狭いレーザ注入電流範囲、つまり対応する周波数範囲が存在することが分かっている。したがって、上で説明したレーザ注入電流に関して、レーザをプライミングし、次に閉回路モードに置く際のレーザ注入電流を賢明に選択することにより、発振器は自然にその最適動作レジームに到達する。この現象によって発振器の自己プライミングが得られ、発振器を間欠的に使用することができる。
【0035】
この動作範囲は、天然ルビジウムの場合の
図6により精密に示されている。
図6は、ルビジウム光吸収曲線50をフォトダイオード6上で得られる信号によって、レーザ注入電流の関数として示したものである。有利な電流範囲は、最も高い吸収ピーク51の一部を示し、また、このピークの2つの最大値および最小値V
maxおよびV
minから若干の距離を隔てた領域52に位置している。これらの最大値および最小値から十分に離れた狭い範囲[V
1;V
2]を選択することにより、そこから有利な電流範囲[i
1;i
2]が演繹される。
【0036】
上記考察により、本発明による原子発振器によって時間信号を送るプロセスの一部を形成している、ラマン効果に基づく腕時計のための発振器を使用したプライミング
(始動)プロセスを実施することができる。
【0037】
第1のフェーズは、最適レーザ注入電流i、つまりi
1からi
2までの範囲を探求するステップからなっている。この第1のフェーズには以下のステップが含まれている。
− ラマン効果発振器を開ループモードに置くステップ。
− レーザ周波数を走査し、かつ、最大吸収点V
maxおよび対応する注入電流I
max、ならびに関連するピーク51の最小吸収点V
minおよび対応する注入電流I
minを識別するステップ。
− I
minに特定の閾値を加えることによって、あるいはI
maxから特定の閾値を引くことによって、i
1とi
2の間で注入電流ILDを決定するステップ。例えばi
1に近い値を選択することができる。
【0038】
一例を示すと、実験に使用されたルビジウムおよびVCSELレーザの場合、レーザ注入電流は、2.25760mAと2.25824mAの間になるように選択しなければならず、V
1は、V
minよりV
max−V
minの15%分大きく、また、V2は、V
minよりV
max−V
minの67%分大きい。
【0039】
プライミングプロセスのこの第1のフェーズは、最大可能精度が得られ、それによりデバイスまたは測定条件のあらゆる変動に応じてその前の値を常に修正することができるよう、発振器の個々のプライミングの前に実施することができる。一変形態様として、このフェーズは、デバイスを較正するために一回だけ実施され、個々のプライミングで使用するためにデータが記憶される。
【0040】
また、このプライミングプロセスは、とりわけレーザおよび発振器をプライミングするために以下のステップを実施する。
− 上で説明したフィードバック7を追加することによって発振器を閉ループモードに置くステップ。
− 第1のフェーズによって識別された値ILDにレーザ注入電流を調整するステップ。
− 発振器の共振現象が出力に得られたことを検証するステップ。
− 共振現象が得られない場合、注入電流ILDを[i
1;i
2]の範囲内で定義済みの増分だけわずかに修正するステップと、共振の現象が得られるまでこのステップを反復するステップ。
【0041】
実施態様の有利な方法によれば、発振器の周波数は、場合によっては原子と相互作用する光パワーに依存することがあるため、このプロセスには、レーザの光パワーを測定する先行ステップが含まれている。この動作は、デバイスのフォトダイオードによって光パワーを測定し、かつ、このようにして生成される光電圧を安定基準電圧源と比較することによって実施することができる。したがってレーザ注入電流およびレーザ温度を調整することにより、発振器の公称光パワーおよび公称光周波数を得ることができる。このプロセスは、レーザのパワーを調整するステップを含むことができる。
【0042】
実施態様の他の有利な方法によれば、既に言及したように発振器の動作は温度に依存するため、このプロセスには、ガスセルの温度およびレーザの温度を設定する先行ステップが含まれている。閉ループ形態のラマン発振器の周波数とセルの温度との間には相関が存在している。この特性により、発振器の始動フェーズおよび停止フェーズの間、単一の温度測定によって周波数を制御することができる。
【0043】
したがってラマン発振器には、選択される実施形態に応じて温度フィードバック制御ループが含まれている。そのためにラマン発振器には、フォトダイオードであってもよい温度センサ、および前記フォトダイオードの温度が設定点未満になるとその温度を高くするための加熱器が含まれている。
【0044】
プライミングプロセスの上記で説明したステップは、上記で言及した処理ユニット23のハードウェア手段およびソフトウェア手段に基づいて、とりわけマイクロプロセッサ制御の下で、発振器によって自動的に制御される。
【0045】
したがって上記原子発振器は腕時計の中で実施される。
【0046】
第1の腕時計実施形態によれば、ラマン発振器は、従来技術による従来の発振器、例えば水晶発振器を補足するために間欠的に使用される。この実施形態では、原子発振器は、水晶発振器を設定し、水晶発振器を修正し、かつ、水晶発振器の精度を常に著しく向上させることができる時間基準を送信している。原子発振器のこの間欠動作は、従来の腕時計と比較すると、追加消費が制御される利点を有している。この発振器のプライミングは上で説明したプロセスによって制御されるため、腕時計におけるこの第1の実施態様の性能は極めて高い。原子発振器プライミング期間は、腕時計の電力消費と精度の間の妥協に従って選択され、この発振器がより多く使用されるほど、時計はより正確になるが、より多くの電力が消費されることになる。精度がより劣る追加発振器が原子発振器によって修正されると、原子発振器はターンオフされる。
【0047】
第2の腕時計実施形態によれば、ラマン発振器は、単一の時間基準として、単独で従来の通常の発振器の置換として使用され、したがって永久的に動作するために使用される。この実施形態によれば最も高い精度が得られるが、その代わりにより大量の電力が消費される。
【0048】
また、上記で説明した原子発振器は、腕時計の中へのその挿入を容易にするコンパクトな構造で製造される。したがって
図7ないし14には、腕時計の中への統合と両立する体積の達成を可能にする原子発振器の光学部分のいくつかの実施形態が示されている。そのために、これらの実施形態は、すべて、セルを2回通過するレーザビームに基づいており、それにより微小体積内におけるレーザビームの長い総距離の達成を可能にしている。
【0049】
図7ないし9は、ガスセル106の2回通過を同時に許容し、かつ、あらゆる反射からレーザ源102を保護するための3つの異なる実施形態を示したものである。これらの様々な実施形態の共通点の1つは、セルの温度を制御する役割を果たしている光検出器109に到達するよう、ガスセル106を通過したレーザビームの一部を透過させる半透明鏡107が存在していることである。一変形態様として、光検出器109を省略し、非透明鏡を使用することによってこれらの実施形態を単純化することも可能である。
【0050】
これらの3つの実施形態は、ビームをセルおよび光検出器に導くために使用される手段、および鏡で反射したビームがレーザ源を妨害するのを防止するために使用される手段が異なっている。
【0051】
図7は、本発明の第1の実施形態を示したものである。レーザ源102は直線偏光レーザビームを生成しており、この直線偏光レーザビームは、レーザビームを通過させるようにその透過軸が配向された偏光子103へ導かれ、次に、定義済み分割比を有するスプリッタ101へ導かれる。したがってビームの一部は、任意選択の光検出器108bへ向かって透過し、一方、スプリッタは、ビームの他の部分を4分の1波長板105に向かって反射する。直線偏光の「P」は、偏光子の透過軸に対して平行の部分(透過部分)を表しており、また、「S」は、偏光子の透過軸に対して直角の部分(つまり偏光子によって吸収される部分)を表している。図には、「P」部分は、3つの塗りつぶされた円のセットによって記号で示されており、また、「S」部分は、3本の短い線のセットによって記号で示されている。板105の役割は、レーザビームの直線偏光を円偏光に変化させることであり、この板は、円偏光が生成されるように偏光子に対して配向されている。実際、光が円偏光ビームによって生成されると、ガスセル106内の光と原子の間には最適相互作用が存在する。ガスセル106から射出したビームの一部は、次に、その円偏光の方向を反転させる鏡107で反射し、したがってもう一度ガスセル106を通過する。ガスセル106から射出したビームは4分の1波長板105に到達する。このビームは、次に、スプリッタ101の定義済み分割比に応じて一部が透過し、光検出器108aに到達する。このビームの他の部分はスプリッタ101によって偏向し、また、ビームの偏光が偏光子103の透過軸のビームの偏光に対して直角であるため、偏光子103によって著しく減衰し、したがってレーザ源102は後方反射から保護される。ガスセル106を通過したビームの他の部分は鏡107を透過し、光検出器109によって集光される。
【0052】
図8は、第2の実施形態を示したものである。この実施形態は、第1の偏光のビームを反射し、かつ、第2の偏光のビームを透過させるスプリッタ101が使用されている点で、上で説明した第1の実施形態とは異なっている。したがってレーザ源102によって出力されたビームは、その偏光に応じて分割され、反射したビームに同じ原理が適用される。したがって、反射したビームはすべて光検出器108aに向かって透過するため、スプリッタ101とレーザ源の間に偏光子を置く必要はない。直線偏光の「P」は、スプリッタの偏光軸に対して平行の部分(
図8の直角構成で透過する部分)を表しており、また、「S」は、スプリッタの偏光軸に対して直角の部分(90°偏向した部分)を表している。
図10には、「P」部分は、3本の短い線によって記号で示されており、また、「S」部分は、3つの塗りつぶされた円によって記号で示されている。ガスセル106を通過したビームの微小部分は鏡107を透過し、光検出器109によって集光される。
【0053】
図9は、本発明の第3の実施形態を示したものである。この図では、レーザビームは、レーザビームの軸に対して非直角の角度で配置される半透明鏡107によって偏向する。したがって反射したビームはレーザ源102には到達せず、光検出器108aに向かって直接導かれる。有利には鏡107は凹形の鏡であり、したがって反射した光ビームを光検出器108a上に集束させる。ガスセル106を通過したビームの微小部分は鏡107を透過し、光検出器109によって集光される。この凹形の鏡は、
図7および8に示されている2つの実施形態に使用することも可能であり、上記で説明した利点が提供される。
【0054】
図10は、第2の実施形態に対応するより完全な実施形態例を示したものである。スプリッタ101は、PBSC(偏光ビームスプリッタキューブ)の形態である。このキューブにより、ビームはガスセル106を2回通過することができ、それによりレーザ光と原子媒体の間の相互作用が2倍になる。そのため、より良好な原子信号が得られ、延いては原子発振器のより良好な周波数安定性が得られる。
【0055】
図10では、光アセンブリは、スプリッタとして作用する、辺が好ましくは1mm以下の小形スプリッタキューブ101に基づいている。標準の実施形態によれば、キューブのスプリッタ体積は、通常、1mm
3である。レーザダイオード102からの光ビームは、キューブ101の面のうちの1つに入射する。一実施形態によれば、レーザダイオードは、795nmの発散光ビームを放出するVCSELレーザダイオードである。他の実施形態では、典型的には780nmから894nmまで変化する波長を有する他のタイプのレーザダイオードを、ルビジウムまたはセシウムを含んだガスセル106のために使用することができる。この選択は、ガスセルの原子組成で決まる。一実施形態によれば、非発散レーザビームを生成するために、レーザダイオードの前面に平行化レンズを追加することができる。
【0056】
標準の実施形態によれば、レーザ102によって生成された光112は、中性吸収剤フィルタ104aによって直線偏光され、かつ、減衰する。他の実施形態では異なるタイプのフィルタを使用することができる。本発明の場合、このフィルタを存在させる必要はない。2分の1波長板104bを使用してレーザ源の直線偏光の角度を修正することができる。2分の1波長板104bは、小形スプリッタキューブ101と相俟って可変減衰器として作用する。他の実施形態では、2分の1波長板104bの使用を省略することができ、スプリッタキューブ101を透過するビームとスプリッタキューブ101で反射するビームの光強度の比率は、スプリッタキューブに対する、レーザによって放出される光の直線偏光軸の適切な配向によって調整される。4分の1波長板105は、スプリッタキューブの出力側に置かれており、4分の1波長板105の面と対向する面から、スプリッタ101によって偏向したレーザビームが出力され、つまりスプリッタキューブに入射するビームに対して直角に出力される。4分の1波長板105の速い軸は、入射直線偏光113が第1の回転方向の円偏光114に修正される方法で配向されている。他の実施形態では、4分の1波長板105は、入射直線偏光113が第1の回転方向とは逆の回転方向の円偏光に修正される方法で配向されている。円偏光されたレーザビーム114は、ガスセル106を通過して鏡107に到達する。鏡107は、一部のビームのみを反射し、また、ビームの一部は鏡107を通過して光検出器109へ導かれる。標準の実施形態によれば、ガスセルは、MEMS(超小型電気機械システム)技法によるガラス−ケイ素−ガラスでできており、典型的な内部体積は1mm
3で、アルカリ金属(ルビジウムまたはセシウム)原子蒸気タイプの吸収剤媒体およびバッファガス混合物が充填される。標準の実施形態によれば、ガスセルには、天然ルビジウムおよびバッファガスとして窒素/アルゴン混合物が充填される。他の実施形態では、他のタイプのセルに異なるバッファガスを充填することができる。特定の一実施形態によれば、小形円筒セルを使用することができる。他の特定の実施形態では、ガスセルをPBSC101の中に統合することができる。セル106には、他のタイプのアルカリ金属蒸気(例えばルビジウム85、ルビジウム87またはセシウム133)、および他のタイプのバッファガス(例えばXeまたはNe)を充填することも可能である。
【0057】
図11は、
図8に対応する第2の実施形態に基づく光2パス設計を示したもので、厳密な幾何学は、
図10に示されている直角2パス設計に極めて類似している。主な相違は、「ガスセル206、4分の1波長板205、半透明鏡207および光検出器209」構成要素の位置、および光検出器208bの位置にある。
図11に示されているモデルの場合、ガスセル206はPBSC201の上方に置かれており、したがってレーザ202とは反対側に位置している。この方法によれば、PBSCを透過し、次に、4分の1波長板205によって円偏光ビームに修正されたP偏光の光ビーム213は、原子媒体と相互作用する。S偏光の光ビーム217はPBSC201で反射し、また、直角に置かれた光検出器208bを使用してレーザパワーが測定される。これらの相違とは別に、この実施形態の動作原理は、上記モデルの動作原理と同じである。
【0058】
図12は、
図7に対応する第1の実施形態によるラマン発振器の実施形態の直角幾何学の2パスモジュールを概略的に示したものである。この設計では、数字参照は201で始まっており、
図7ないし9で使用されている構成要素と同じ構成要素は、100を加えた数字を有している。約2%の小さい反射率および約98%の大きい透過率をそれぞれ有する(+/−2%)よう、その分割比が予め定義済みのスプリッタキューブ201が使用されている。この場合、後方反射ビーム216は、主として光検出器208aに向かって偏向する。この実施形態では、ガスセル構成要素206はスプリッタキューブ201の上方に置かれており、したがってレーザ202とは反対側に位置している。光検出器208bは直角に置かれており、したがってレーザ202によって放出された光ビーム212はスプリッタキューブ201で反射218し、例えばレーザパワーを測定するために使用される。この設計の動作原理も上で説明した動作原理と同様である。
【0059】
図13は、直角幾何学を使用した第1の実施形態によるデバイスを示したものである。スプリッタ101の分割比は、約2%の小さい透過率および約98%の大きい反射率をそれぞれ有する(+/−2%)ように予め定義されている。それらがアルカリ金属蒸気原子と相互作用した後、入射光ビーム114aおよび誘導ラマン散乱によって生成された光ビーム(ラマンビームと呼ばれている)114bが鏡107で反射する。標準のラマン実施形態では、鏡107は、銀でコーティングされ、傾斜し(一般的には2°ないし20°)、および/またはその対称の軸および入射レーザビームによって画定される軸に対して中心が外れており、また、後方反射した光ビーム115(入射ビームおよびラマンビーム)を光検出器108a上に集束させるように選択された焦点距離を有する凹形の形をしている。鏡107は、典型的に数パーセントの光透過率を有している。光検出器109の表面に到達するこの透過した光を使用して吸収スペクトルが測定される。異なるラマン実施形態では、ガスセル106の出力窓は、凹状であり、銀(または例えば金などの他の金属)でコーティングされており、反射体として作用している。他の実施形態では、鏡の出力窓を誘電薄膜でコーティングすることができる。
【0060】
後方反射(入射およびラマン)光ビーム115は、通過して、もう一度原子媒体と相互作用する(2パス構造)。4分の1波長板105は、これらの円偏光光ビームを直線偏光光ビーム116に変換する。これらの(入射およびラマン)光ビーム119は、そのほとんどが反射して第1の光検出器108aに到達し、この第1の光検出器108aによって入射ビームとラマンビームの間のうなり周波数が記録される。標準のラマン実施形態では、第1の光検出器108aは、凹状鏡107の焦点に配置される高速半導体(ケイ素またはヒ化ガリウム)光検出器である。他のラマン実施形態では、様々なタイプの高速光検出器を使用することができる。第2の光検出器108bは、レーザ102から直接入射し、小形スプリッタキューブ101を最初に透過した光118を記録する。この方法によれば、レーザダイオード102の出力パワーを測定し、かつ、調整することができる。オプションとして、光検出器121は、スプリッタ101を透過した後方反射ビーム117を記録する。ダイヤフラム110および111は、光検出器の寸法が小形スプリッタキューブ101の寸法より大きい場合に、望ましくない光が光検出器に到達するのを防止するために使用される。
【0061】
図14は、スプリッタキューブには基づいていないが、単純な二重パス幾何学に基づくラマン発振器の第3の実施形態を示したものである。レーザ源102によって放出された光は、直線偏光され、セル106を通過する前に4分の1波長板105によって円偏光に変換され、鏡107で反射してもう一度セルを通過し、第1の光検出器108a上で検出される。鏡107は半透明であり、第2の光検出器109は、この鏡の後方に置かれている。半透明鏡107を使用することにより、セルの原子と相互作用した光を光検出器109によって検出することができる。また、鏡で後方反射したビームがレーザ源102を妨害するのを防止するために、レーザ源102の前面に偏光子103を配置し、透過軸をレーザ源102によって放出されるビームの偏光に対して平行にすることも有利である。
【0062】
オプションとして以下のエレメントを使用することも可能である。
− レーザ源102と4分の1波長板105の間に置かれた、レーザビームのパワーを調整するための中性フィルタ104。
− レーザ源102と4分の1波長板105の間に置かれた、レーザビームの一部を反射し、かつ、レーザビームのパワーを調整するための傾斜した反射型フィルタ104。
− 傾斜した反射型フィルタ104で反射した光を記録してレーザ102の光パワーを制御するために置かれた第3の光検出器108b。
【0063】
図7ないし14に関連して説明したこれらの実施形態では、光検出器108a、208aは、セル106、206の中に存在するガスのラマン効果によって誘導されるうなりを検出する機能を有しており、したがってこれらは、マイクロ波を検出するのに適した光検出器であることに留意されたい。第1の光検出器108aは、その信号検出効率を最大化するために、原子の共振周波数を中心とする極めて狭い帯域幅を有している。高い原子共振周波数(通常>1GHz)は、サイズが小さい光検出器108aを有することを意味することになる。このような仕様は、例えば、光検出器109、209および/または光検出器108b、208bによって実施される、セルの温度を調整するためにセルの原子と相互作用した信号の検出とは両立しない。後者の光検出器108b、208bの場合、低遮断周波数(通常<100kHz)、さらにはDC動作が示される。1つが、クロック信号を検出するように作用する108aと、もう1つが、セルの温度を制御するための109の少なくとも2つの検出器を有することが好ましいのは、そのためである。セルの原子と相互作用した信号のこの第2の検出を実行するための理想的な手段は、反射のための半透明鏡107を使用すること、および図に示されているようにこの鏡の後方に光検出器109を置くことである。また、
図14に示されているように鏡107の形を凹状にすることも有利であり、この凹状の形には、反射した光ビームを光検出器108a上に集束させることが意図されている。後者の光検出器は任意選択であることに留意されたい。