(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る電動アシスト車両について
図1乃至
図8を参照して説明する。
図1は、電動アシスト車両としての電動アシスト自転車を示すシステム構成図であり、
図2は、電動アシスト自転車の制御ブロック構成図であり、
図3は、電動モータの制御を示す構成図である。
図4は、ペダリングトルクを推定する算出フローを示し、
図5は、ペダリングトルクとクランク角との関係を示し、
図6及び
図7は、推定されたペダリングトルクの
シミュレーション結果を示している。また、
図8は、電動モータによるアシスト比を示している。
【0020】
図1に示すように、電動アシスト自転車1は、フレーム2と、前輪3と、後輪4と、電動モータ5と、モータ制御手段としてのモータコントローラ6と、バッテリ7とを備えている。
【0021】
フレーム2は、ヘッドチューブ21、シートチューブ22及びダウンチューブ23が連結されて構成されている。ヘッドチューブ21は、前部に位置して上下方向に延びる部材であり、このヘッドチューブ21の中間部からは後方に向かって斜め下方に延びるダウンチューブ23が連結されている。また、ダウンチューブ23の後端部には、上下方向に延びるシートチューブ22が連結されている。
【0022】
ヘッドチューブ21の下端部には、下方に延びる一対のフロントフォーク24が接続されており、上端部には、ハンドルステム25を介して回転自在にハンドル26が保持されている。シートチューブ22の上端部には、サドル27を有するシートポスト28が上下位置を調整可能に装着されている。
前輪3は、フロントフォーク24の下端部に軸支されていて、ハンドル26を操作することにより操舵することができるようになっている。
【0023】
後輪4は、シートチューブ22の上端から後方に向かって斜め下方に延びる一対のシートステー41と、シートチューブ22の下端部から後方に延びる一対のリヤステー42とによって支持されている。
【0024】
また、シートチューブ22の下端部には、ペダル43を備えたクランク44が配設されている。電動アシスト自転車1に乗車した運転者よるペダル踏力は、クランク44に伝達され、これによりクランク44を回転することができる。この回転駆動力は、チェーン45により後輪4に伝達される。
【0025】
電動モータ5は、ブラシレスDCモータであり、永久磁石を回転子内に埋め込んだIPMSM(interior permanent magnet synchronous motor)構造であって、前輪3のハブの中に組込まれたダイレクトドライブ方式のものである。電動モータ5は、補助トルク(アシストトルク)発生源として機能する。
【0026】
なお、電動モータ5は、インナーロータ型のものであってもアウターロータ型のものであってもよく、適宜採用が可能である。また、電動モータ5の位置は、後輪4のハブの中に組込むようにしてもよく、さらに、クランク44付近に位置するセンターマウント方式であってもよい。
【0027】
モータコントローラ6は、回路基板及びこの回路基板に実装されたマイクロコンピュータやIC等の電子部品から構成されており、箱状のケースに収納されて一対のリヤステー42の下面側に配置されている。モータコントローラ6は、モータ5を全体的に制御する機能を有している。
【0028】
バッテリ7は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の充電可能な二次電池である。バッテリ7は、シートチューブ22の後面に着脱可能に取付けられる電池ケースに収納されている。バッテリ7は、前記モータ5やモータコントローラ6に接続されて、これらに電力を供給する。
【0029】
次に、
図2及び
図3を参照して電動アシスト自転車1の制御ブロック構成の概要を説明する。
図2は、主として駆動力の流れを示しており、
図3は、電動モータ5の制御構成を示している。
【0030】
図2に示すように、電動アシスト自転車1の運転者よるペダル踏力は、クランク44を介してぺダリングトルクτ
manとして後輪4へ伝達される。一方、このペダル踏力をアシストするモータトルクτ
motorは、バッテリ7から電力が供給されモータコントローラ6によって制御されるモータ5から前輪3へ伝達される。この場合、モータトルクτ
motorは、ぺダリングトルクτ
manに基づいて決定され、アシスト力が作用するようになる。
【0031】
したがって、ぺダリングトルクτ
manとモータトルクτ
motorとが合成されたトルク(τ
man+τ
motor)によって人力によるペダル踏力が軽減されて電動アシスト自転車1は走行される。
【0032】
本実施形態においては、ぺダリングトルクτ
manを検出するトルクセンサ等の検出機構が設けられていない。よって、ぺダリングトルクτ
manは、後述するように、モータコントローラ6によって電動モータ5の駆動状態から推定して決定されるようになっている。
【0033】
図3に示すように、電動モータ5の制御構成は、電動モータ5と、この電動モータ5を駆動するインバータ回路51と、マイクロコンピュータを中心に構成されたモータ制御手段としてのモータコントローラ6と、駆動信号生成回路系としての出力トランジスタ制御回路52とを備えている。また、電動モータ5とモータコントローラ6との間には、モータ駆動状態検出回路55が接続されている。
【0034】
電動モータ5は、三相巻線であるU相、V相及びW相を有し、永久磁石を埋め込んだ構造の回転子53、回転子53の回転位置を検出するホールIC54を備えている。
【0035】
インバータ回路51は、トランジスタQ1からQ6のスイッチング素子、例えば、IGBTを複数用いてブリッジ接続されている。このスイッチング素子が出力トランジスタ制御回路52から出力されるパルス幅変調(PWM)された信号、すなわち、駆動信号によって駆動される。
【0036】
また、出力トランジスタ制御回路52は、モータコントローラ6に接続されており、このモータコントローラ6の制御下において駆動されるようになっている。さらに、モータコントローラ6には、電動モータ5が接続されている。加えて、インバータ回路51の両端間には、電動モータ5に電力を供給するバッテリ7及び平滑コンデンサCが接続されている。
【0037】
このような構成において、バッテリ7からの電流を、モータコントローラ6からの出力信号に基づいてインバータ回路51のブロック内でトランジスタQ1からQ6で切換えて電動モータ5の巻線であるU相、V相及びW相に流し、回転子53にモータトルクτ
motorを発生させて回転駆動させる。例えば、トランジスタQ1とQ6をONにして他をOFFにすると、巻線のU相からV相に電流が流れ、U相とV相とが励磁される。
【0038】
また、モータ駆動状態検出回路55は、電動モータ5の駆動状態を検出する機能を有し、電動モータ5の電圧V、電流Iや角速度ωを検出し、これら各値をディジタル値の信号に変換してモータコントローラ6へ送出する。
【0039】
モータコントローラ6は、マイクロコンピュータを中心に構成されていて、メモリに記憶された動作プログラムに従って種々の制御を実行する。モータコントローラ6は、状態検出手段61と、人力トルク推定手段62と、モータトルク演算手段63と、モータトルク出力手段64とを備えている。
【0040】
状態検出手段6は、モータ駆動状態検出回路55から送られてきた情報を受信する。この受信する情報は、本実施形態においては、電動モータ5の電圧V及び角速度ωであり、具体的には、電機子巻線の電圧V(V
q)及び回転子53の角速度ωである。状態検出手段6は、受信された情報を人力トルク推定手段62へ送信する。
【0041】
人力トルク推定手段62は、ぺダリングトルク推定手段であり、状態検出手段6から送信される電動モータ5の電圧V及び角速度ωの情報を用いて、ぺダリングトルクを演算し推定する。そして、この推定されたぺダリングトルクτ
manの値をモータトルク演算手段63へ出力する。
【0042】
モータトルク演算手段63は、アシストトルクとしてのモータトルクτ
motorを演算する手段であり、人力トルク推定手段62から送信されるぺダリングトルクτ
manの値に基づいてモータトルクτ
motorが演算され決定される。この演算にあたっては、メモリに格納された走行速度(車両速度)と係数を参照して所定の演算式が用いられて実行される。演算されたモータトルクτ
motorはモータトルク出力手段64へ送られる。
【0043】
モータトルク出力手段64は、モータトルク演算手段63から送信されるモータトルクτ
motorをモータトルク指令として作成し、出力トランジスタ制御回路52へ送出する。したがって、出力トランジスタ制御回路52は、モータトルク指令に従いインバータ回路51を駆動し、電動モータ5はモータトルク指令に基づいたモータトルクτ
motorで駆動するようになる。
次に、
図4乃至
図8を参照して上記人力トルク推定手段62及びモータトルク演算手段63の動作について説明する。
【0044】
最初に、人力トルク推定手段62の動作について説明する。人力トルク推定手段62は、ぺダリングトルクτ
manを推定し、また、その瞬時値を推定する。このため、
図4に示すように、以下のような演算式が用いられて推定結果が導かれる。
まず、モータの定常状態の回路方程式、すなわち、電圧方程式は式(1)及び式(2)、運動方程式は式(3)、トルク方程式は式(4)で表わされる。
【0048】
【数4】
式(4)の右辺第1項は、磁石のトルクであり、第2項は、リラクタンストルクである。
【0049】
ここで、上式において、V
dは電機子巻線のd軸電圧、V
qは電機子巻線のq軸電圧、Rは電機子巻線の抵抗、L
dは電機子巻線のd軸インダクタンス、L
qは電機子巻線のq軸インダクタンス、Pは微分演算子d/dt、I
dは電機子巻線のd軸電流、I
qは電機子巻線のq軸電流、pは極対数、ωは回転子の角速度、Ψは永久磁石界磁(鎖交磁束)、Jは回転子の慣性モーメント、τ
motorはモータの発生トルク(>0)、τ
manは人のペダリングトルク(>0)、τ
loadは走行負荷トルク(>0)、
後述のτ
disはモータからみた外乱トルクである。
【0050】
次いで、簡単化するため、電気的時定数が十分短く、また、I
d=0、L
d=L
qと仮定すると、電圧方程式、運動方程式及びトルク方程式は、下式で表わされる。
【0053】
【数6】
τ
dis=τ
load−τ
man、K=pΨとおいて上式を整理すると、制御対象モデルは、式(7)で表わされる。
【0054】
【数7】
この制御対象モデルを用いて、外乱トルクτ
disを推定するため、外乱オブザーバを構築する(式(8))。
【0056】
gは外乱オブザーバのゲイン(外乱推定の遮断角周波数)であり、十分大きく設定する。τ
disはモータからみた外乱トルクの推定値(時刻tの関数)である。
つまり、τdisは、モータからみた場合に、モータの外から加わる力としての外乱トルクであり、全負荷トルクである。したがって、この全負荷トルクには、走行負荷トルクτload及びペダリングトルクτmanが含まれる。また、sはラプラス変換を示している。
【0057】
外乱オブザーバでは、外乱トルクτ
disの瞬時値を式(9)に示すように推定することができる。この外乱トルクτ
disはモータからみた外乱トルクの推定値(クランク角度θの関数)であり、これを後述するクランク角θの関数としてメモリに保存する。
【0059】
上記のような外乱トルクτ
disの推定値には,走行負荷トルクτ
loadと人のペダリングトルクτ
manが混在しているため,ここから人のペダリングトルクτ
manを分離して取り出する必要がある。人のペダリングトルクτ
manは通常、クランク角θに対して
図5に示すような2周期の周期関数となっている。
【0060】
図5は、ぺダリングトルクτ
manとクランク角θとの関係を示したグラフである。縦軸はトルク(N・m)を示し、横軸はクランク角度(θ)を示している。また、クランク角度に対応してクランク44の回転位置をグラフの上部に表わしている。
【0061】
電動アシスト自転車1の走行に際し、例えば、一方のペダル43にペダル踏力を加えるとクランク44は時計方向に回転する。ぺダリングトルクτ
manの大きさは、一方のペダル43が上死点又は下死点に達したとき、すなわち、クランク角θが0度又は180度のときに略0となり、クランク角θが90度又は270度のときに略最大となる傾向にある。
そこで、次の計算を行うことでクランク角θの2倍の周期のトルク成分を取り出すことができる。
【0065】
式(12)において求めたτ
manは、直前のクランク角360度分(1回転分)から推定したぺダリングトルクの近似推定値を表わしている。したがって、式(12)を用いてぺダリングトルクτ
manを推定し、これに基づいてモータトルクτ
motorを決定することが可能となる。
【0066】
しかしながら、この推定値は,直前のクランク角1回転分から推定されたペダリングトルクτ
manなので、走行中に急にペダリングトルクτ
manを増加させた場合等には、増加分はすぐには推定値に反映されない。このため、増加分の推定値への反映がタイムリーに行われることが好ましい。
【0067】
そこで、さらに推定を発展させて、走行負荷、例えば、路面の傾斜や空気抵抗等は急激には変化しないと仮定し、下式のように、直前のクランク角1回転分のペダリングトルクτ
manの推定値から走行負荷トルクτ
loadを推定しておき、外乱トルクτ
disの推定値と走行負荷トルクτ
loadの推定値の差から、瞬時のペダリングトルクτ
manを推定する。
直前のクランク角1回転分の平均走行負荷トルクτ
loadを式(13)のように求める。
【0068】
【数13】
この走行負荷トルクτ
loadは、直前のクランク角360度分(1回転分)から推定した走行負荷トルクの近似推定値(平均値)を表わしている。
そして、式(14)によって、瞬時のペダリングトルクτ
manを推定する。
【0070】
このように推定される瞬時のペダリングトルクτ
manに基づいて
シミュレーションを実施した。その結果を
図6及び
図7を参照して説明する。図は、モータによるアシストなしで自転車を漕いだときの状態を示しており、
図6は、車両速度を示しており、
図7は、ペダリングトルクτ
manを示している。
図6において、縦軸は速度(km/h)を示し、横軸は時間(s)を示している。スタートから徐々に速度が増加している状態が示されている。
【0071】
図7において、縦軸はペダリングトルクτ
man(N・m)を示し、横軸は時間(s)を示している。また、実際のペダリングトルクτ
manを破線で示し、上記で推定されたペダリングトルクτ
manを実線で示している。また、走行負荷トルクτ
loadを一点鎖線で示している。
【0072】
図7は、
図6に対応したペダリングトルクτ
manの状態を示しており、t=3(s)の時点で実際のペダリングトルクτ
manを増加させているが、この変動にほとんど誤差なく推定されたペダリングトルクτ
manが追随しており、安定して良好な精度で推定されていることが分かる。
【0073】
以上のように導かれた式(14)を用いて人力トルク推定手段62では、瞬時のペダリングトルクτ
manが推定される。そして、この推定値は、モータトルク演算手段63に送出される。
【0074】
具体的には、処理に必要な演算式がメモリに格納されていて、人力トルク推定手段62は、状態検出手段6から送信される電動モータ5の電機子巻線のq軸電圧V
q及び回転子53の角速度ωの駆動状態における情報を用いて、外乱オブザーバによって外乱トルクτ
disを推定し、最終的に瞬時のペダリングトルクτ
manを推定する。
【0075】
次に、モータトルク演算手段63の動作について説明する。モータトルク演算手段63は、人力トルク推定手段62から送信された瞬時のぺダリングトルクτ
manの推定値に基づいてモータトルクτ
motorを演算し決定する。
【0076】
詳しくは、メモリに格納された走行速度と係数(アシスト比)を参照して決定する。
図8に示すように、電動アシスト自転車におけるアシストトルクとしてのモータトルクの上限値は、道路交通法等の法規によって規定されている。
【0077】
図8は、電動モータによるアシスト比を示すグラフであり、縦軸は出力の割合を示しており、横軸は走行速度(km/h)を示している。また、グラフに対応して電動アシスト自転車における駆動力の伝達関係を示している。
【0078】
規定では、人の力(クランク回転出力(ぺダリングトルク))とモータの力(駆動補助出力(モータトルク))の大きさは、1:2、比率でいえばモータの力は約67%までが許容されている。但し、この比率が適用できるのは、走行速度が10km/hまでに限られている。
【0079】
また、走行速度が10km/hから24km/hまでは徐々にモータの力を減少させて、走行速度が24km/hに達するとモータの力を0にするように規定されている。
したがって、このような規定の範囲内でモータトルクτ
motorが決定されるようにメモリには走行速度と係数が格納されている。
【0080】
以上のように構成された電動アシスト自転車1を運転すると、電動モータ5の駆動状態が電動モータ5の電圧V及び角速度ωを検出することによって把握され、瞬時のペダリングトルクτ
manが推定されてモータトルクτ
motorが決定される。
【0081】
したがって、ぺダリングトルクτ
manと、これをアシストするモータトルクτ
motorとが合成されたトルクによって人力によるペダル踏力が軽減されて快適な走行性能を得ることができる。
【0082】
なお、ホールIC54を用いないで回転子53の磁極位置を推定する技術を適用する場合には、角速度ωを推定して求めることが可能となる。したがって、この場合には、ぺダリングトルクτ
manを推定するに際し、角速度ωの検出は不要となり、電動モータ5の駆動状態は、電動モータ5の電圧Vを検出することによって把握されることになる。
【0083】
以上のように本実施形態によれば、人力によるトルク、すなわち、ぺダリングトルクτ
manを電動モータ5の駆動状態から推定するようにしたので、ぺダリングトルクτ
manを検出するトルクセンサ等を省略することができ、コストが高くなるのを回避することが可能となる。
【0084】
また、ペダリングトルクτ
manを推定するにあたって、外乱オブザーバによって外乱トルクτ
disを推定するようにしたので、検出が困難な外乱の状態量を推定することが可能となる。
【0085】
さらに、推定されるペダリングトルクτ
manは瞬時値なので、ペダリングトルクτ
manの増減が遅れが少なくタイムリーに反映され、適切な走行状態の実現が可能となる。
さらにまた、通常の自転車の前輪を、上記実施形態のモータ制御装置を組込んだモータ付の車輪に交換することで電動アシスト自転車を構成することができる。
【0086】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0087】
例えば、上記実施形態においては、電動アシスト自転車を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、人力による駆動力を電動によってアシストする様々な車両に応用が可能である。人力駆動の車椅子、荷物運搬車、3輪車や4輪車、フィットネス機器等に適用が可能である。