(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054651
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】筆記具の軸筒
(51)【国際特許分類】
B43K 23/008 20060101AFI20161219BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
B43K23/008 100
B43K7/00 100
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-142325(P2012-142325)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-4772(P2014-4772A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】池田 明教
(72)【発明者】
【氏名】小林 均
【審査官】
砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−205979(JP,A)
【文献】
意匠登録第1432115(JP,S)
【文献】
実開昭56−144672(JP,U)
【文献】
実開昭60−5888(JP,U)
【文献】
意匠登録第1059738(JP,S)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 3/00 −8/24
B43K 23/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の把持部に、軟質材からなるグリップを装着してなる筆記具の軸筒であって、前記グリップが、前記グリップの表面に、円周状に形成した凹部と、前記グリップの前記表面に形成され前記凹部によって周囲を囲われた丘部と、を備えた滑止部を、前記グリップの長手方向及び周方向に離間して複数個、設けてあり、前記長手方向で異なる複数の滑止部が、前記軸筒の先端側に向かって、前記凹部及び前記丘部の外径を大きく、且つ前記凹部の幅を大きくして、前記凹部の開口面積を大きくしたことを特徴とする筆記具の軸筒。
【請求項2】
前記凹部の幅が、前記丘部の高さより大きいことを特徴とする請求項1に記載の筆記具の軸筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒の把持部に、軟質材からなるグリップを装着してなる筆記具の軸筒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸筒の把持部に装着する軟質材からなる筆記具のグリップにおいて、把持した時の滑り止め効果を向上させることを目的として、グリップの外壁面に凹状または凸状に形成された凹凸部を有する筆記具のグリップはよく知られている。
【0003】
こうした筆記具にグリップにあって、把持した時の滑り止め効果向上及び把持感触を向上させるために、特開平10−181274号公報「筆記具のグリップ」や特開2003−154782号「グリップ」等に開示されているように、グリップの外壁面に溝を形成している筆記具のグリップが開示されている。
【0004】
また、特開2000−326682号公報「筆記具の筆記軸体」では、適度なクッション効果を得るために、溝の形成位置や溝の深さや溝の幅等を特定することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−181274号公報
【特許文献2】特開2003−154782号公報
【特許文献3】特開2000−326682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1〜3のように、溝を形成したグリップにおいてより高い滑り止め効果及び良好な把持感触を得るには、溝を形成することによって得られる板状突起を変形し易く形成することが重要であり、板状突起を変形し易くするためには、溝の幅や深さを大きくすること、あるいは使用する材質を軟らかいものにすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、溝の幅や深さを大きくするには、グリップ外径を大きくする必要があり、このために、小径のグリップ部材では溝の幅や深さを大きくすることは困難であった。また、使用する材質を軟らかいものにするために硬度を特定すると使用できる軟質材が制限されてしまう等の問題があった。
【0008】
さらに、特許文献1〜3では、板状突起をグリップの円周方向など一定方向に並んで設けられており、板状突起が変形してグリップの軸線方向に倒れ込むことで滑り止め効果を得ているが、グリップの軸方向の抵抗が得られず、グリップの円周方向の一定方向の抵抗しか得られないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高い滑り止め効果及び安定した把持感触が得られることを可能にする筆記具の軸筒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、軸筒の把持部に、軟質材からなるグリップを装着してなる筆記具の軸筒であって、前記グリップが、前記グリップの表面に、円周状に形成した凹部と、前記グリップの前記表面に形成され前記凹部によって周囲を囲われた丘部と、を備えた滑止部を、前記グリップの長手方向及び周方向に離間して複数個、設けてあ
り、前記長手方向で異なる複数の滑止部が、前記軸筒の先端側に向かって、前記凹部及び前記丘部の外径を大きく、且つ前記凹部の幅を大きくして、前記凹部の開口面積を大きくしたことを特徴とする。
【0012】
また、前記凹部の幅が、前記丘部の高さより大きいことを特徴とする。
【0013】
また、前記丘部の表面が、径方向で隣接する他のグリップ表面と、略同一円状に位置することを特徴とする。
【0014】
本発明の軟質材には、弾性変形可能なシリコーンゴム、天然ゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、塩化ビニル樹脂、ブタジエンゴム、ウレタンゴム、ポリエチレン樹脂、その他合成ゴム、熱可塑性エラストマー等、筆記具のグリップとして一般的に知られているゴム状弾性を示す軟質材のなかから適宜選定して用いることができる。
【0015】
本願発明の第1の構成によれば、前記グリップの表面に、円周状に形成した凹部と、前記グリップの前記表面に形成され前記凹部によって周囲を囲われた丘部と、を備えた滑止部を、前記グリップの長手方向及び周方向に離間して複数個、設けているので、グリップを把持する指の面に、凹部が円周状に当接するために、長手方向及び周方向の何れの方向、すなわち360度方向において高い滑り止め効果を奏することが可能となる。また、グリップを把持する指の面に、凹部と丘部が同時に当接することで凹凸による滑り止め効果も高く、丘部が指で把持され把持力により変形しても、円周状の凹部によって周囲を囲われているため、360度方向において安定した把持感触を得ることができる。これらの結果、グリップを把持する指の面を円滑に確実になじませることが可能となり、360度方向において、高い滑り止め効果及び安定した把持感触を得ることが可能になる。
【0016】
尚、凹部は、長手方向において、同一幅で円周状に設けることが好ましく、楕円形や長円形などで周設してあっても良いが、略正円形とすることが最も好ましい。また、丘部の形状も裁頭円錐形や円柱など適宜選定して用いることができる。
【0017】
本願発明の第2の構成によれば、前記長手方向で異なる複数の滑止部が、前記軸筒の先端側に向かって凹部の開口面積を大きくしてあるので、実際の使用状態において効果的に滑り止め作用を得ることができる。これは、グリップを筆記具の軸筒に装着して、使用者がグリップを把持して筆記すると、使用者の指の筆圧は、グリップを握ろうとする軸筒求心方向への力と、筆記先端部を紙面に押し付けようとする筆記具の先端側への力とが必要となる。そのため、使用者の指は、軸筒に対し筆記具の先端側に滑ろうとするが、筆記具の先端側に向かって凹部の開口面積が大きくなるため、指の面が凹部に潜り込み、凹部と指との接触面積が増加し、前方への指の滑りを効果的に防ぐことができるためである。尚、凹部の開口面積を大きくするには、同一外径で溝幅を大きくすること及び/または同一溝幅で外径を大きくする等が挙げられるが、指の滑りを効果的に防ぐには、溝幅及び外径を大きくすることが好ましい。
【0018】
本願発明の第3の構成によれば、前記凹部の幅が、前記丘部の高さより大きくしてあるので、丘部が指で把持され把持力により変形しても、凹部を超えて他のグリップの外面と接触することがないため、安定した把持感触を得ることが可能になる。尚、前記丘部の高さとは、凹部の底面から前記丘部の表面までの最大高さを示すものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、高い滑り止め効果及び安定した把持感触が得られることを可能にする筆記具の軸筒を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願発明の筆記具の軸筒の一実施形態を示す図である。
【
図3】
図2における一部省略した要部拡大外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の軸筒を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
次に
図1〜
図4を参照して、本実施形態に係る筆記具の軸筒1について説明する。
この筆記具の軸筒1は、前軸2と後軸3を螺着して軸筒本体を形成する。前軸2の把持部は、外径が小径に形成してあり、この把持部に、グリップ4を装着してある。
【0023】
また、軸筒本体内に、インキ収容筒11の先端部に、ボールペンチップ12を装着したボールペンレフィルをコイルスプリング8によって後方に付勢して収納してあり、後軸3内に具備した回転カム7による出没機構によって、ノック体6を押圧することで、ボールペンチップ12の先端部を前軸2の先端開口部2Aから出没可能とした出没式筆記具の軸筒としてある。尚、図示はしてないが、インキ収容筒11内には、剪断減粘性を有する水性ボールペン用インキと、このインキ後端に、グリース状のインキ追従体を直詰めしてある。また、後軸3には、クリップ9をコイルスプリング10によって、クリップ9の先端部を後軸3の外周面に圧接して配設してある。
【0024】
グリップ4は、ショアー硬度がHs(JIS A)70の着色透明のオレフィン系熱可塑性エラストマーを軟質材として用い射出成形で形成したものである。グリップ4はほぼ円筒形状を有する。
【0025】
グリップ4の表面には、周方向で非連続、長手方向において円周状に形成した凹部5Aと、この凹部5Aによって周囲を囲われた丘部5Bと、を備えた滑止部5を設けてある。この滑止部5は、所定ピッチPで長手方向に4箇所配列し、周方向に所定角度αピッチで6個、形成されている。
【0026】
また、本実施の形態では、周方向では、凹部5A及び丘部5Bが同形の滑止部5を6個、設けてあり、長手方向では、凹部5Aの溝幅(M、N)及
び外径(G、H)を先端方向に向かって大きく(M>N、G>H)、及び丘部5Bの外径も先端方向に向かって大きくしてある。また、個々の滑止部5において、凹部5Aの幅(M、N)は、丘部5Bの高さLより大きくしてある。尚、本実施の形態では、凹部5Aの深さは同一としてある。
【0027】
また、丘部5Bの表面は、径方向において隣接する滑止部5間の他のグリップ表面と、略同一円周状としてある。尚、長さピッチPとは、
図1に示すように、長手方向に隣接する2つの滑止部5間の間隔を示し、角度ピッチ(α)は、
図4に示すように周方向で隣接する2つの滑止部5間の間隔を示す。
【0028】
滑止部5について詳述すると、実際の筆記時には軸方向Jが紙面に対し垂直ではなく筆記角度が生じるため、筆圧は軸方向Jに対して平行又は垂直に加わるだけでなく、親指と人差し指が閉じる方向等、様々な把持力が加わる。このために、長手方向において円周状に形成した凹部と、この凹部によって周囲を囲われた丘部と、を備えた滑止部によって、360度方向において滑り止め効果が高い。また、滑止部5において、凹部5Aと丘部5Bとの段差を有するために、表面積(接触面積)が増加し、さらに、例えば軸心方向Jにおいて、先端開口部2A側に把持力が加わっても、滑止部5の2箇所の段差S、Tにて滑り止め効果を高めることができる。
【0029】
尚、本実施形態では、軸筒本体の把持部に装着するのに、グリップと軸筒本体と2色成形により一体に形成しているが、予めグリップを成形して、その後、軸筒本体と装着してもよい。グリップと軸筒本体とを2色成形する場合には、グリップのゲート位置を滑止部にすることで、外観からゲート跡を目立ちにくくすることができ、丘部の表面にゲート位置を設けることで、ゲート切れを良化することが可能となる。
【0030】
また、グリップ4の形状としては、軸方向Jに同じ径を有する厳密に円筒形状であることに限定されず、軸方向Jに対して半径が多少変動している場合、例えば、樽状等の場合であってもよい。また、円筒形状に限らず、角筒形状であってもよい。
【0031】
更に、所定長さピッチ(P)、所定角度ピッチ(α)は、グリップの全長や外径等を考慮して適宜選択することができるが、把持した指が当接する間隔を考慮して、試行実験を行った結果によれば、個人差等をも考慮すると、滑止部の外径は1.0mm〜3.0mm、所定長さピッチは2.0mm〜5.0mm、所定傾斜角度は30度から60度の範囲にあることが好ましいことが確認された。また、凹部の溝幅や深さも特に限定されるものではないが、凹部の幅が、丘部の高さより大きくすることが好ましく、凹部の底面は平坦状や円弧状等、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の筆記具の軸筒は、筆記体の種類やノック式、キャップ式に限定されることなく、軸筒の軸筒として広く実施可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 筆記具の軸筒
2 前軸
2A 先端開口部
3 後軸
4 グリップ
5 滑止部
5A 凹部
5B 丘部
6 ノック体
7 回転カム
8 コイルスプリング
9 クリップ
10 コイルスプリング
11 インキ収容筒
12 ボールペンチップ
13 チップホルダー
J 軸心
P 長手方向のピッチ
α 周方向の角度
G、H 滑止部の外径
M、N 滑止部の凹部の幅
S、T 段差