(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.電極体
本発明の電極体は、基板、及び当該基板の少なくとも一方の面上に配向層を備え、前記配向層が、<00l>方向に対し垂直な方向に最も高いイオン伝導性を有する結晶構造を有する活物質粒子を含み、前記配向層中の前記活物質粒子に関する、前記基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図において、前記赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最大となる点における当該点と(00l)極点図の中心とを結ぶ線に垂直な赤道断面をA面、前記赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最小となる点における当該点と(00l)極点図の中心とを結ぶ
線に垂直な赤道断面をB面としたとき、A面のロットゲーリングファクターf
a(00l)、及びB面のロットゲーリングファクターf
b(00l)が、下記式(1)及び(2)をいずれも満たすことを特徴とする。
f
a(00l)>0.3 式(1)
f
a(00l)−f
b(00l)<1.0 式(2)
【0019】
活物質粒子を基板に塗布しそのまま焼結して製造される従来の焼結体は、電池に使用された際、高いエネルギー密度を有するものの、導電性及び放電容量がいずれも低いという問題があった。これは、活物質粒子同士でイオン伝導が速い方向が揃っていないためであると考えられる。
一方、上述した特許文献1に開示されたような、c軸が活物質粒子同士で所定の方向に揃って配向している焼結体は、電池に使用された際、放電容量が低く、且つ、充放電時の電圧降下(IRドロップ)が大きいという問題がある。これは、c軸の方向が活物質粒子同士で揃うことにより、イオンの吸蔵及び放出に伴う活物質粒子の膨張収縮の方向も揃うため、充放電のたびに活物質粒子同士が互いに応力を与え合うためであると考えられる。
【0020】
本発明者らは、電極体中の活物質粒子の配向方向を制御し、活物質粒子におけるリチウム伝導の速い方向を揃えると共に、活物質粒子の膨張収縮の方向をあえてランダムにすることにより、高い放電容量及びIRドロップの抑制を両立できることを見出した。本発明者らは、鋭意努力の結果、(00l)極点図の赤道面の外周におけるロットゲーリングファクターの最大値及び最小値が上記式(1)及び式(2)をいずれも満たす電極体について、電池に使用された際、放電容量を向上させることができると共に、充放電に伴う膨張収縮による応力を緩和することができ、IRドロップを抑制でき、その結果レート特性も向上可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
本発明の電極体は、基板及び配向層を備える。以下、配向層及び基板の順に説明する。
【0022】
1−1.配向層
本発明に使用される配向層は、基板の少なくとも一方の面上に設けられ、且つ、活物質粒子を含む。
本発明に使用される活物質粒子は、<00l>方向に対し垂直な方向に最も高いイオン伝導性を有する結晶構造を有する。ここで、<00l>方向とは、互いに等価な面方向である[00l]方向(すなわち、+c軸方向)及び[00−l]方向(すなわち、−c軸方向)をまとめて示す方向である。
また、本発明に使用される活物質粒子は、磁場配向性を有していることが好ましい。
【0023】
本発明に使用される活物質粒子は、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)粒子、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)粒子、ニッケルマンガン酸リチウム(LiNi
1/2Mn
1/2O
2)粒子、又はニッケル−マンガン−コバルト系酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)粒子であることが好ましい。これらの活物質粒子は、<00l>方向のイオン伝導性が低く、且つ、<00l>方向に対し垂直な方向に最も高いイオン伝導性を有する。これらの活物質粒子は、1種類のみ使用されていてもよいし、2種類以上使用されていてもよい。
【0024】
極点図とは、試料を仮想の球の中心に置き、当該試料表面における所定の結晶面の法線ベクトルが当該球の面を貫く位置をプロットし、当該プロットの分布を球面上の等高線で表した図である。極点図は、分子の方向や結晶の結晶面の配向状態を記述する際に利用される。
本発明における(00l)極点図は、基板に対し平行な面を赤道面とする。したがって、本発明における(00l)極点図は、基板に対する法線方向の座標をND、基板に平行な方向の座標をTD及びRDとしたとき、RD−TD面の極点図に相当する。
本発明における(00l)極点図の算出方法は特に限定されない。本発明における(00l)極点図としては、例えば、電子線後方散乱により得られる菊池パターンをもとに微小領域の方位測定を行うEBSD(electron back scattering diffraction)法によるマッピングから算出される(00l)極点図や、XRD測定結果から算出される(00l)極点図等が挙げられる。
【0025】
図9はEBSD法による測定の概要を示した斜視模式図である。電子線発生装置51から電極体サンプル53の測定表面(本発明の場合には配向層側表面)に電子線52が照射され、電子線後方散乱回折により発生する菊池パターンを蛍光スクリーン54に投影しTVカメラ等で取り込み、さらに指数付けを行いその照射点の結晶方位の測定を行う方法である。得られた各結晶粒の結晶方位の分布を極点図により示すことも可能である。
【0026】
ロットゲーリングファクターfは、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、下記式(A)より求まる。
f=(ρ−ρ
0)/(1−ρ
0) 式(A)
【0027】
上記式(A)中のρ
0は、無配向サンプルのX線の回折強度(I
0)を用いて計算される。例えばc軸配向の場合、ρ
0は、全回折強度の和に対する、(00l)面(c軸と垂直な全ての面)の回折強度の合計の割合として、下記式(B)より求まる。
ρ
0={ΣI
0(00l)}/{ΣI
0(hkl)} 式(B)
(上記式(B)中、ΣI
0(hkl)は、無配向サンプルのX線の全回折強度の和である。)
【0028】
上記式(A)中のρは、配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算される。例えばc軸配向の場合、ρは、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、上記式(B)と同様に、下記式(C)より求まる。
ρ={ΣI(00l)}/{ΣI(hkl)} 式(C)
(上記式(C)中、ΣI(hkl)は、配向サンプルのX線の全回折強度の和である。)
【0029】
下記式(1)は、配向層中の活物質粒子の(00l)配向の強さを規定する。
f
a(00l)>0.3 式(1)
f
a(00l)が0.3よりも高いということは、すなわち電極表面と平行な面内に活物質粒子のc軸が配向していることを意味する。本発明に使用される活物質粒子は、<00l>方向に対して垂直な方向に最も高いイオン伝導性を有することを踏まえると、上記式(1)を満たす電極体は、イオン伝導性の高い方向が基板に対して垂直となる。したがって、当該電極体を備える電池は放電容量に優れる。
f
a(00l)は、0.4を超えることが好ましく、0.5を超えることがより好ましい。
【0030】
一方、下記式(2)は、配向層中の活物質粒子同士のランダムさを規定する。
f
a(00l)−f
b(00l)<1.0 式(2)
f
a(00l)とf
b(00l)との差が1.0未満であることは、すなわち、電極断面の活物質粒子のc軸が特定の断面に集中していないことを示す。上記式(2)を満たす電極体を電池に適用した場合、配向層における充放電の膨張収縮が特定の方向に集中しないため、配向層中の活物質粒子同士が与えあう応力を緩和でき、その結果電池の出力が向上すると考えられる。また、当該電極体を備える電池は、電極全体が受ける応力を緩和でき、電極の割れを減らせる結果、サイクル特性も向上すると考えられる。
f
a(00l)とf
b(00l)との差は、0.7未満であることが好ましく、0.5未満であることがより好ましい。
【0031】
以下、本発明に該当しない電極体を簡略化した例(
図10〜
図12)、及び本発明に該当する電極体を簡略化した例(
図1)を示す。
図10(a)は、単結晶試料を(RD,TD,ND)座標を有する球の中心に置いた模式図である。なお、
図10(a)中においては、単結晶試料のc軸方向が、RD軸方向に重なるものとする。
図10(b)は、当該単結晶試料の斜視模式図である。
図10(b)中、矢印で示した面がC面(c軸に垂直な面)である。
図10(c)は、当該単結晶試料の(00l)極点図(RD−TD面)である。
図10(c)に示されるように、単結晶試料の場合には、(00l)極点図において、RD軸の両極に一点ずつプロットが現れる。このような単結晶試料は、上記式(1)を満たすものの、上記式(2)は満たさない。
【0032】
図11(a)は、配向性のない多結晶試料中の微結晶を(RD,TD,ND)座標を有する球の中心に置いた模式図である。
図11(b)は、各微結晶をそれぞれ取り出して並べた斜視模式図である。なお、
図11(b)中の矢印は、各微結晶のc軸方向を示す。
図11(b)に示すように、微結晶のc軸方向は互いにランダムであり、何らの配向性もない。
図11(c)は、当該多結晶試料の(00l)極点図である。なお、
図11(b)に示す微結晶のc軸方向と、
図11(c)に示す(00l)極点図とは、必ずしも対応するとは限らない。
図11(c)に示されるように、配向性に乏しい多結晶試料の場合には、(00l)極点図において、RD−TD面内にプロットがまばらに現れる。このような配向性に乏しい多結晶試料は、上記式(2)を満たすものの、上記式(1)は満たさない。したがって、このような配向性に乏しい多結晶試料を電極活物質層に用いた電池は、イオンの出入りに伴う活物質粒子の膨張収縮は緩和されるものの、イオン伝導性の高い方向が揃っていないため、放電容量が低いと考えられる。このような多結晶試料を用いた電極体及び電池については、後述する比較例1及び比較例3において詳細に説明する。
【0033】
図12(a)は、多結晶試料中においてc軸方向が所定の方向に揃った微結晶を(RD,TD,ND)座標を有する球の中心に置いた模式図である。なお、
図12(a)中においては、微結晶のc軸方向が、RD軸方向にほぼ重なるものとする。
図12(b)は、各微結晶をそれぞれ取り出して並べた斜視模式図である。なお、
図12(b)中の矢印は、各微結晶のc軸方向を示し、大きな白い平行四辺形は、RD−TD面に平行な面を示す。
図12(b)に示すように、微結晶のc軸方向は、RD−TD面に平行であり、且つ、所定の方向にほぼ揃っている。
図12(c)は、当該多結晶試料の(00l)極点図である。なお、
図12(b)に示す微結晶のc軸方向と、
図12(c)に示す(00l)極点図とは、必ずしも対応するとは限らない。
図12(c)に示されるように、配向性の高い多結晶試料の場合には、(00l)極点図において、RD軸の両極にプロットが集中する。このような配向性の高い多結晶試料は、上記式(1)を満たすものの、上記式(2)は満たさない。したがって、このような高い配向性を有する微結晶同士からなる多結晶試料を電極活物質層に用いた電池は、イオン伝導性は高くなるものの、微結晶がイオンの出入りに伴い互いにほぼ同じ方向に膨張収縮を繰り返すため、放電容量が低いと考えられる。このような多結晶試料を配向層とする電極体及び電池については、後述する比較例2及び比較例4において詳細に説明する。
【0034】
図1(a)は、多結晶試料中において、c軸方向が基板に対して平行であり、且つ、c軸同士が互いにランダムである微結晶を、(RD,TD,ND)座標を有する球の中心に置いた模式図である。なお、
図1(a)中においては、基板がRD−TD面に略平行であるものとする。
図1(b)は、各微結晶をそれぞれ取り出して並べた斜視模式図である。なお、
図1(b)中の矢印は、各微結晶のc軸方向を示し、大きな白い平行四辺形は、RD−TD面に平行な面を示す。
図1(b)に示すように、微結晶のc軸方向は、RD−TD面に平行であるが、互いにランダムな方向を向いている。
図1(c)は、当該多結晶試料の(00l)極点図である。なお、
図1(b)に示す微結晶のc軸方向と、
図1(c)に示す(00l)極点図とは、必ずしも対応するとは限らない。
図1(c)に示されるように、c軸方向がRD−TD面に平行であるものの、c軸同士がランダムな方向を向く微結晶からなる多結晶試料の場合には、RD−TD面の外周にプロットが分散する。このような配向性を有する多結晶試料は、上記式(1)及び式(2)をいずれも満たす。したがって、このような配向性を有する多結晶試料を用いた電池は、イオン伝導性に優れ、且つ、イオンの出入りに伴う微結晶の膨張収縮の方向が互いにランダムであるため、放電容量が高く、且つレート特性に優れると考えられる。このような多結晶試料を配向層とする電極体及び電池については、後述する実施例1及び実施例2において詳細に説明する。
【0035】
1−2.基板
本発明に使用される基板は、上述した配向層を少なくとも一方の表面に備える。
本発明に使用される基板は、配向層を層状に維持できる平面を提供できるものであれば、特に限定されない。本発明に使用される基板は、導電性基板であってもよく、導電性を示さない基板であってもよい。具体的には、電極体製造に使用するのみの基板であれば、導電性の有無は問わない。電池における集電体としても基板を使用する場合には、基板が導電性を有することが好ましい。
本発明に使用される基板としては、例えば、アルミニウム基板、アルミナ基板、SUS基板、ニッケル基板、鉄基板、チタン基板、ガラス基板、銅基板、及び固体電解質基板等が挙げられる。また、本発明には多孔体基板を用いてもよい。
【0036】
本発明の電極体は、電池の正極として使用されてもよいし、電池の負極として使用されてもよい。
本発明の電極体が正極として使用されるか、負極として使用されるかは、使用する電極活物質の電位によって決まる。例えば、上述したコバルト酸リチウムはリチウムの酸化還元電位(Li
++e
−→Liの反応、及びその逆反応の電位)に対し4Vの電位を有するが、当該酸化還元電位に対し5Vの電位を有する電極活物質と組み合わせて電池に使用する場合、コバルト酸リチウムを負極活物質として使用し、当該5Vの電位を有する電極活物質を正極活物質として使用することとなる。また、コバルト酸リチウムをカーボンと組み合わせて電池に使用する場合、コバルト酸リチウムを正極活物質として使用し、カーボンを負極活物質として使用することとなる。
本発明の電極体は、リチウム電池の正極又は負極として使用されてもよい。
【0037】
2.電池
本発明の電池は、少なくとも、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する電解質層を備える電池であって、前記正極及び負極の少なくともいずれか1つが、上記電極体を備えることを特徴とする。
【0038】
図2は、本発明に係る電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係る電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
電池100は、正極活物質層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、正極6及び負極7に挟持される電解質層1を有する。
本発明に係る電池における正極及び/又は負極は、上述した電極体を備える。上述した電極体を備える場合における正極の好適な態様は、上述した電極体における配向層が正極活物質層となり、基板が正極集電体となる態様である。また、上述した電極体を備える場合における負極の好適な態様は、上述した電極体における配向層が負極活物質層となり、基板が負極集電体となる態様である。以下、本発明に係る電池を構成する正極、負極、及び電解質層、並びに本発明に好適に使用されるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
【0039】
上記電極体を備える正極については、上述した通りである。上記電極体を備える正極は、基板に正極リードが接続されていることが好ましい。
以下、上述した電極体を備えない正極について説明する。なお、以下の正極の条件は、上記電極体の条件と矛盾しない限り、上記電極体にも適用できるものとする。
本発明に係る電池の正極は、好ましくは正極活物質を有する正極活物質層を備えるものであり、通常、これに加えて、正極集電体、及び当該正極集電体に接続された正極リードを備えるものである。
【0040】
本発明に使用される正極活物質としては、具体的には、LiCoO
2、LiNiO
2、LiNi
1/2Mn
1/2O
2、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、LiNiPO
4、LiMnPO
4、Li
3Fe
2(PO
4)
3及びLi
3V
2(PO
4)
3等を挙げることができる。オリビン系の活物質は、(010)方向にイオン伝導が速い。このような場合は、(010)方向が揃うように配向させることで、同様の効果が期待される。これらの中でも、本発明においては、LiCoO
2を正極活物質として用いることが好ましい。
【0041】
本発明に使用される正極活物質層の厚さは、目的とする電池の用途等により適宜調整できる。正極活物質層の厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質層の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
正極活物質の平均粒径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。また、正極活物質の平均粒径は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。正極活物質の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなるおそれがあり、正極活物質の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極活物質層を得るのが困難になる場合があるからである。なお、正極活物質の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0043】
正極活物質層は、必要に応じて導電化材及び結着剤等を含有していても良い。
本発明に使用される正極活物質層が有する導電化材としては、正極活物質層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。また、正極活物質層における導電化材の含有量は、導電化材の種類によって異なるものであるが、通常0〜10質量%の範囲内である。
【0044】
本発明に使用される正極活物質層が有する結着剤としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、正極活物質層における結着剤の含有量は、正極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着剤の含有量は、通常0〜10質量%の範囲内である。
【0045】
正極活物質層は、正極用電解質を含有してもよい。この場合、正極用電解質としては、後述する硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ポリマー電解質等、及びゲル電解質等が使用できる。
【0046】
本発明に使用される正極集電体は、上記の正極活物質層の集電を行う機能を有するものである。上記正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム及びSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
【0047】
本発明に使用される正極を製造する方法は、上記の正極を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。なお、正極活物質層を形成した後、電極密度を向上させるために、正極活物質層をプレスしても良い。
【0048】
上記電極体を備える負極については、上述した通りである。上記電極体を備える負極は、基板に負極リードが接続されていることが好ましい。
以下、上述した電極体を備えない
負極について説明する。なお、以下の負極の条件は、上記電極体の条件と矛盾しない限り、上記電極体にも適用できるものとする。
本発明に使用される負極は、好ましくは負極活物質を有する負極活物質層を備えるものであり、通常、これに加えて、負極集電体、及び当該負極集電体に接続された負極リードを備える。
【0049】
本発明に使用される負極活物質層は、金属、合金材料、及び/又は炭素材料を含む負極活物質を含有する。負極活物質に使用できる金属及び合金材料としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素;アルミニウム等の第13族元素;亜鉛、鉄等の遷移金属;又は、これらの金属を含有する合金材料や化合物が例示できる。負極活物質に用いることができる炭素材料としては、グラファイト等が例示できる。負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
リチウム元素を含有する化合物としては、リチウム合金、リチウム元素を含有する酸化物、リチウム元素を含有する窒化物、リチウム元素を含有する硫化物が例示できる。
リチウム合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。リチウム元素を含有する酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。リチウム元素を含有する窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。負極活物質層には、固体電解質をコートしたリチウムを用いることもできる。
【0050】
上記負極活物質層は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電化材及び結着剤の少なくとも一方を含有するものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極活物質層とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及び結着剤を有する負極活物質層とすることができる。
なお、導電化材及び結着剤については、上述した正極活物質層に使用される導電化材及び結着剤と同様である。
負極活物質層の厚さは特に限定されない。負極活物質層の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。また、負極活物質層の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
負極活物質層は、負極用電解質を含有してもよい。この場合、負極用電解質としては、後述する硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ポリマー電解質等、及びゲル電解質等が使用できる。
【0052】
負極集電体の材料としては、上述した本発明に係る正極中の正極集電体の材料と同様のものを用いることができる。また、負極集電体の形状としては、上述した本発明に係る正極中の正極集電体の形状と同様のものを採用することができる。
【0053】
本発明に使用される負極を製造する方法は、上記負極を得ることができる方法であれば特に限定されない。なお、負極活物質層を形成した後、電極密度を向上させるために、負極活物質層をプレスしても良い。
【0054】
本発明の電池中の電解質層は、正極及び負極の間に保持され、正極及び負極の間で金属イオンを交換する働きを有する。
電解質層には、電解液、ゲル電解質、及び固体電解質等が使用できる。これらは、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
電解液としては、非水系電解液及び水系電解液が使用できる。
非水系電解液の種類は、伝導する金属イオンの種類に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、リチウム電池に用いる非水系電解液としては、通常、リチウム塩及び非水溶媒を含有したものを用いる。上記リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4及びLiAsF
6等の無機リチウム塩;LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2(Li−TFSA)、LiN(SO
2C
2F
5)
2及びLiC(SO
2CF
3)
3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル(AcN)、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びこれらの混合物等を挙げることができる。非水系電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5〜3mol/Lである。
【0056】
本発明においては、非水系電解液又は非水溶媒として、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(PP13TFSA)、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(P13TFSA)、N−ブチル−N−メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(P14TFSA)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(DEMETFSA)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TMPATFSA)に代表されるような、イオン性液体等の低揮発性液体を用いても良い。
【0057】
水系電解液の種類は、伝導する金属イオンの種類に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、リチウム電池に用いる水系電解液としては、通常、リチウム塩及び水を含有したものを用いる。上記リチウム塩としては、例えばLiOH、LiCl、LiNO
3、CH
3CO
2Li等のリチウム塩等を挙げることができる。
【0058】
本発明に使用されるゲル電解質は、通常、非水系電解液にポリマーを添加してゲル化したものである。例えば、リチウム電池の非水ゲル電解質は、上述した非水系電解液に、ポリエチレンオキシド、
ポリプロピレンオキシド、
ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリウレタン、ポリアクリレート、セルロース等のポリマーを添加し、ゲル化することにより得られる。本発明においては、LiTFSA(LiN(CF
3SO
2)
2)−PEO系の非水ゲル電解質が好ましい。
本発明に使用される固体電解質としては、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、及びポリマー電解質等が例示できる。
硫化物系固体電解質としては、具体的には、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−P
2S
3、Li
2S−P
2S
3−P
2S
5、Li
2S−SiS
2、Li
2S−Si
2S、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−GeS
2、LiI−Li
2S−P
2S
5、LiI−Li
2S−SiS
2−P
2S
5、Li
2S−SiS
2−Li
4SiO
4、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
3PS
4−Li
4GeS
4、Li
3.4P
0.6Si
0.4S
4、Li
3.25P
0.25Ge
0.76S
4、Li
4−xGe
1−xP
xS
4等を例示することができる。
酸化物系固体電解質としては、具体的には、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、Li
1.3Al
0.3Ti
0.7(PO
4)
3、La
0.51Li
0.34TiO
0.74、Li
3PO
4、Li
2SiO
2、Li
2SiO
4等を例示することができる。
また、本発明には、ガーネット型固体電解質が使用できる。ガーネット型固体電解質としては、Li
5+xLa
3(Zr
x,Nb
2−x)O
12(x=0〜2)、Li
5La
3Ta
2O
12、Li
6BaLa
2Ta
2O
12等を例示することができる。
本発明に使用されるポリマー電解質は、通常、金属塩及びポリマーを含有する。本発明に係る電池がリチウム電池である場合には、金属塩としてリチウム塩が使用できる。リチウム塩としては、上述した無機リチウム塩及び有機リチウム塩の内の少なくともいずれか1つを使用できる。ポリマーとしては、リチウム塩と錯体を形成するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0059】
本発明に係る電池は、正極及び負極の間に、上記電解液を含浸させたセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及び樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0060】
本発明に係る電池は、上記正極、負極、及び電解質層等を収納する電池ケースを備えていてもよい。電池ケースの形状としては、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0061】
3.電極体の製造方法
本発明の電極体の製造方法は、基板、及び、<00l>方向に対し垂直な方向に最も高いイオン伝導性を有する結晶構造を有する活物質粒子を準備する準備工程、並びに、前記基板に略平行な方向に磁場を付与しながら、当該基板上に前記活物質粒子を含む層を積層させつつ、前記基板に対して略垂直な軸を中心として、前記基板に対する前記磁場の方向を相対的に回転させることにより、前記活物質粒子に関する、前記基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図において、前記赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最大となる点における当該点と(00l)極点図の中心とを結ぶ線に垂直な赤道断面をA面、前記赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最小となる点における当該点と(00l)極点図の中心とを結ぶ
線に垂直な赤道断面をB面としたとき、A面のロットゲーリングファクターf
a(00l)、及びB面のロットゲーリングファクターf
b(00l)が、下記式(1)及び(2)をいずれも満たす配向層が前記基板上に形成された電極体を製造する電極体製造工程、を有することを特徴とする。
f
a(00l)>0.3 式(1)
f
a(00l)−f
b(00l)<1.0 式(2)
【0062】
本発明は、(1)準備工程、及び(2)電極体製造工程を有する。本発明は、必ずしも上記2工程のみに限定されることはなく、上記2工程以外にも、例えば、加熱工程等を有していてもよい。
以下、上記工程(1)〜(2)及びその他の工程について、順に説明する。
【0063】
3−1.準備工程
本工程において準備する原料は、基板、及び、<00l>方向に対し垂直な方向に最も高いイオン伝導性を有する結晶構造を有する活物質粒子である。基板及び活物質粒子の詳細については、上述した通りである。本発明に使用される基板は、活物質粒子の磁場配向を妨げないものが好ましい。なお、上述したコバルト酸リチウム(LiCoO
2)粒子、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)粒子、ニッケルマンガン酸リチウム(LiNi
1/2Mn
1/2O
2)粒子、及びニッケル−マンガン−コバルト系酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)粒子は、本製造方法に好適に使用できる。
活物質粒子は、水などを適宜混ぜて、活物質スラリーを調製してもよい。活物質スラリーには、分散性を高めるために適宜分散剤を混合してもよい。また、次の工程における均一な配向層の形成を目的として、活物質スラリーを超音波攪拌し、真空脱泡を行ってもよい。
【0064】
3−2.電極体製造工程
本工程は、基板に略平行な方向に磁場を付与しながら、当該基板上に活物質粒子を含む層を積層させつつ、基板に対して略垂直な軸を中心として、基板に対する磁場の方向を相対的に回転させることにより、活物質粒子に関する、基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図において、前記赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最大となる点における当該点と(00l)極点図の中心とを結ぶ線に垂直な赤道断面をA面、前記赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最小となる点における当該点と(00l)極点図の中心とを結ぶ
線に垂直な赤道断面をB面としたとき、A面のロットゲーリングファクターf
a(00l)、及びB面のロットゲーリングファクターf
b(00l)が、上記式(1)及び(2)をいずれも満たす配向層が前記基板上に形成された電極体を製造する工程である。
【0065】
本工程においては、基板に対する磁場の付与と、活物質粒子を含む層の積層と、基板の向きと磁場の方向の相対的な回転を同時に行う。なお、活物質粒子を含む層は、磁場の付与により配向層へと変換される。
「基板に略平行な方向に磁場を付与する」とは、磁場の方向が、基板に平行な方向から若干ずれていてもよいことを意味する。具体的には、本工程における基板の面方向に対する磁場の方向のずれは、15°以内であってもよく、10°以内であることが好ましく、5°以内であることがより好ましい。
基板に磁場を付与する方法としては、超電導電磁石を用いる方法、ネオジム磁石のような強力な磁石を並べることにより磁場を印加する方法、電磁石を並べることにより磁場を印加する方法等が例示できる。基板に平行な方向に磁場を付与するためには、これらの磁石が形成する磁場に略平行に基板を設置すればよい。
【0066】
本工程における回転軸は、基板に対して略垂直な軸である。ここで、「基板に対して略垂直」とは、回転軸が基板の法線から若干ずれていてもよいことを意味する。具体的には、本工程における基板の法線に対する回転軸のずれは、15°以内であってもよく、10°以内であることが好ましく、5°以内であることがより好ましい。なお、回転軸は、必ずしも活物質粒子を含む層を貫いていなくてもよい。例えば、試料台の周縁部に活物質粒子を含む層を複数設け、試料台の中央に回転軸を設けるような態様も、本工程の態様に含まれる。
本工程においては、基板に対する磁場の方向を相対的に回転させる。ここで、「相対的に回転させる」とは、基板に対する磁場の方向の相対的な回転速度が0を超えればよいことを意味する。したがって、本工程においては、基板を回転させて磁場の方向を一定に保ってもよいし、磁場の方向を回転させて基板の向きを一定に保ってもよいし、基板及び磁場の方向を互いに異なる速度で回転させてもよい。
【0067】
本工程は、スリップキャスト法、すなわち、活物質粒子を含む層を基板表面に展開しながら形成する方法により行われることが好ましい。スリップキャスト法は公知の方法により実施できる。
【0068】
基板に対する磁場の方向の回転速度は、活物質粒子のc軸の向き(<00l>方向)が互いに十分にランダムになる速度であれば、特に限定されない。回転速度は、例えば、1〜100rpmが好ましい。
スリップキャストの時間は、活物質粒子のc軸が基板に対して平行な向きになり、且つ、活物質粒子のc軸の向きが十分にランダムになる時間であれば特に限定されない。スリップキャストの時間は、製造しようとする電極体の大きさにもよるが、例えば、1分間〜48時間程度でよい。また、活物質粒子を基板に展開し終えても、しばらく基板を回転させ続けてもよい。
【0069】
図3(a)及び(b)は、本発明における電極体製造工程の第1の典型例を示す斜視模式図である。
図3(a)は、スリップキャストを行う前の装置の斜視模式図である。電磁石11は、内部に磁場12を発生させ、且つ、当該電磁石内11においてスリップキャストが行えるように設計されている。なお、作図の都合上、電磁石11はその内部が説明できるように、片側半分のみ示す。回転試料台13の上に基板14aが静置され、当該基板14aの上に円筒状の型15が載置されている。基板14aは、磁場12の方向に対し略平行となるように設置される。
図3(b)は、スリップキャスト中の装置の斜視模式図である。円筒状の型15内に活物質スラリーを注ぎ、活物質粒子を含む層を基板上に積層させながら、回転試料台13を回転させ、基板14aの向きを磁場の方向に対して回転させる。矢印16は、円筒状の型15内に活物質スラリーを注ぐ様子を模式的に示す矢印である。一点鎖線17は、基板14aの回転軸を示す。ここで、基板14aの回転軸は、基板14aに対する法線である。矢印18は回転試料台13の回転方向を示す。
このように、基板14aを回転させながら活物質スラリーを基板14a上に展開することにより、基板14aの上に配向層14bが形成された電極体14が製造される。活物質粒子は<00l>方向に磁場配向性を有する結晶構造を有し、さらに磁場12の方向は常に基板14aに対し平行となるため、活物質粒子のc軸方向(<00l>方向)も基板14aに対し平行となる。一方、基板14aの向きは磁場12の方向に対して回転しているため、活物質粒子同士のc軸の向きは面内でランダムになる。したがって、当該配向層中の活物質粒子に関する、基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図における上述したロットゲーリングファクターf
a(00l)及びf
b(00l)の値は、常に上述した式(1)及び(2)を満たすこととなる。
【0070】
図4(a)及び(b)は、本発明における電極体製造工程の第2の典型例を示す斜視模式図である。
図4(a)は、スリップキャストを行う前の装置の斜視模式図である。電磁石21、磁場22、回転試料台23、基板24a、及び円筒状の型25は、上述した第1の典型例と同様である。
図4(b)は、スリップキャスト中の装置の斜視模式図である。円筒状の型25内に活物質スラリーを注ぎ、活物質粒子を含む層を基板上に積層させながら、電磁石21全体を回転させる。このとき、基板24aは外界に対し静止したままとする。矢印26は、円筒状の型25内に活物質スラリーを注ぐ様子を模式的に示す矢印である。一点鎖線27は、電磁石21の回転軸を示す。ここで、電磁石21の回転軸は、基板24aに対する法線である。矢印28は電磁石21の回転方向を示す。
このように、電磁石21を回転させながら活物質スラリーを基板24a上に展開することにより、基板24aの上に配向層24bが形成された電極体24が製造される。活物質粒子は<00l>方向に磁場配向性を有する結晶構造を有し、さらに磁場22の方向は常に基板24aに対し平行となるため、活物質粒子のc軸方向(<00l>方向)も基板24aに対し平行となる。一方、磁場22の方向は基板24aに対し常に回転しているため、活物質粒子同士のc軸の向きは面内でランダムになる。したがって、当該配向層中の活物質粒子に関する、基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図における上述したロットゲーリングファクターf
a(00l)及びf
b(00l)の値は、常に上述した式(1)及び(2)を満たすこととなる。
【0071】
図5は、本発明における電極体製造工程の第3の典型例を示す模式図である。
図5には、基板34aの上に載置された円筒状の型35、及び当該円筒状の型35内に形成された配向層34b、並びに、これら基板34a、円筒状の型35、及び配向層34bを取り囲むコイル31a〜31dを、真上から見た様子が模式的に示されている。なお、電極体34は、基板34a及び配向層34bからなる。また、コイルの制御と共に、活物質スラリーが円筒状の型35内に注がれるものとする。
コイル31a〜31dの制御例は以下の通りである。(A−1)まず、コイル31aの電極体34に面する側がS極に、コイル31cの電極体34に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル31a及びコイル31cに電流を流す。(A−2)次に、コイル31a及びコイル31cに流していた電流を遮断する。(A−3)続いて、コイル31bの電極体34に面する側がS極に、コイル31dの電極体34に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル31b及びコイル31dに電流を流す。(A−4)次に、コイル31b及びコイル31dに流していた電流を遮断する。(A−5)続いて、コイル31cの電極体34に面する側がS極に、コイル31aの電極体34に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル31c及びコイル31aに電流を流す。(A−6)次に、コイル31c及びコイル31aに流していた電流を遮断する。(A−7)続いて、コイル31dの電極体34に面する側がS極に、コイル31bの電極体34に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル31d及びコイル31bに電流を流す。(A−8)次に、コイル31d及びコイル31bに流していた電流を遮断する。以上の一連の工程(A−1)〜(A−8)を繰り返すことにより、電極体34の水平方向に対して、磁場を擬似的に回転させることができる。本第3の典型例においては、電流のON/0FFの周期を変化させることにより、回転速度に相当する条件を変化させることもできる。なお、上記一連の工程(A−1)〜(A−8)は、帯磁方向及びコイルの通電の順番の一例であり、本第3の典型例は必ずしも上記一連の工程(A−1)〜(A−8)に限定されるものではなく、帯磁方向及び通電の順番を変えてもよい。帯磁方向及び通電の順番を変えることにより、磁場の回転方向を変えることができる。なお、コイル31a、コイル31b、コイル31c、コイル31dの順番に通電することによっても、上記一連の工程(A−1)〜(A−8)と同様の磁場の回転の効果が得られると考えられる。しかし、このように単にコイル1つ1つを順番に通電するだけでは、基板34aに平行な磁場を十分に印加できなくなるおそれがある。
【0072】
図6は、本発明における電極体製造工程の第4の典型例を示す模式図である。
図6には、基板44aの上に載置された円筒状の型45、及び当該円筒状の型45内に形成された配向層44b、並びに、これら基板44a、円筒状の型45、及び配向層44bを取り囲むコイル41a〜41hを、真上から見た様子が模式的に示されている。なお、電極体44は、基板44a及び配向層44bからなる。また、コイルの制御と共に、活物質スラリーが円筒状の型45内に注がれるものとする。
本第4の典型例においては、上述した第3の典型例と比較してコイル数が多い。したがって、本第4の典型例においては、第3の典型例よりも、より回転磁場に近い磁場の印加が可能となる。コイル数が増えると、回転磁場を模した磁場の印加が可能になる一方で、相対的にコイルの設置スペースが減るため、配向層44bに印加できる磁束密度が減るおそれがある。したがって、本第4の典型例におけるコイル数は、印加する磁場強度を考慮の上決定することが好ましい。
コイル41a〜41hの制御例としては、上述した一連の工程(A−1)〜(A−8)と同様に、対向するコイル1組について、電極体34に面する側が互いに逆の磁性となるように各コイルに電流を流し、その後電流を遮断する、といった制御を、4組の対向するコイルについて順番に行うという例が考えられる。
【0073】
コイル41a〜41hについて、対向する2組ずつのコイルを順番に使用する制御例は以下の通りである。(B−1)まず、コイル41a及びコイル41bの電極体44に面する側がS極に、コイル41e及びコイル41fの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41a、コイル41b、コイル41e、及びコイル41fに電流を流す。(B−2)次に、コイル41a及びコイル41eに流していた電流を遮断する。コイル41b及びコイル41fについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(B−3)続いて、コイル41b及びコイル41cの電極体44に面する側がS極に、コイル41f及びコイル41gの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41b、コイル41c、コイル41f、及びコイル41gに電流を流す。(B−4)次に、コイル41b及びコイル41fに流していた電流を遮断する。コイル41c及びコイル41gについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(B−5)続いて、コイル41c及びコイル41dの電極体44に面する側がS極に、コイル41g及びコイル41hの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41c、コイル41d、コイル41g、及びコイル41hに電流を流す。(B−6)次に、コイル41c及びコイル41gに流していた電流を遮断する。コイル41d及びコイル41hについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(B−7)続いて、コイル41d及びコイル41eの電極体44に面する側がS極に、コイル41h及びコイル41aの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41d、コイル41e、コイル41h、及びコイル41aに電流を流す。(B−8)次に、コイル41d及びコイル41hに流していた電流を遮断する。コイル41e及びコイル41aについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(B−9)〜(B−16):以下、磁性を逆にして、もう一度(B−1)〜(B−8)を実行する。以上の一連の工程(B−1)〜(B−16)を繰り返すことにより、電極体44の水平方向に対して、磁場を擬似的に回転させることができる。このような方法は、対向するコイル1組ずつを使用するよりも、配向層44bに印加できる磁束密度を増やすことができる。
【0074】
コイル41a〜41hについて、対向する3組ずつのコイルを順番に使用する制御例は以下の通りである。(C−1)まず、コイル41a、コイル41b、及びコイル41cの電極体44に面する側がS極に、コイル41e、コイル41f、及びコイル41gの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41a〜コイル41c、及びコイル41e〜コイル41gに電流を流す。(C−2)次に、コイル41a及びコイル41eに流していた電流を遮断する。コイル41b、コイル41c、コイル41f、及びコイル41gについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(C−3)続いて、コイル41b、コイル41c、及びコイル41dの電極体44に面する側がS極に、コイル41f、コイル41g、及びコイル41hの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41b〜コイル41d、及びコイル41f〜コイル41hに電流を流す。(C−4)次に、コイル41b及びコイル41fに流していた電流を遮断する。コイル41c、コイル41d、コイル41g、及びコイル41hについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(C−5)続いて、コイル41c、コイル41d、及びコイル41eの電極体44に面する側がS極に、コイル41g、コイル41h、及びコイル41aの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41c〜コイル41e、及びコイル41g、コイル41h、及びコイル41aに電流を流す。(C−6)次に、コイル41c及びコイル41gに流していた電流を遮断する。コイル41d、コイル41e、コイル41h、及びコイル41aについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(C−7)続いて、コイル41d、コイル41e、及びコイル41fの電極体44に面する側がS極に、コイル41h、コイル41a、及びコイル41bの電極体44に面する側がN極に、それぞれ帯磁するように、コイル41d〜コイル41f、及びコイル41h、コイル41a、及びコイル41bに電流を流す。(C−8)次に、コイル41d及びコイル41hに流していた電流を遮断する。コイル41e、コイル41f、コイル41a、及びコイル41bについては、電流を維持してもよいし、遮断してもよい。(C−9)〜(C−16):以下、磁性を逆にして、もう一度(C−1)〜(C−8)を実行する。以上の一連の工程(C−1)〜(C−16)を繰り返すことにより、電極体44の水平方向に対して、磁場を擬似的に回転させることができる。このような方法は、対向するコイル1組〜2組ずつを使用するよりも、配向層44bに印加できる磁束密度をさらに増やすことができる。
【0075】
なお、本発明における電極体製造工程は、上記第1の典型例〜第4の典型例のみに限定されるものではない。
【0076】
3−3.その他の工程
本発明の製造方法においては、上述した電極体製造工程後、さらに電極体を加熱する加熱工程を有することが好ましい。加熱温度は、配向層を焼結でき、さらに分散剤等の不純物を除去できる程度の温度であることが好ましく、配向層に含まれる材料(活物質粒子)の種類によって適宜調節できる。本工程における加熱温度は300〜1500℃であることが好ましい。また、本工程における加熱時間は0.5〜60時間であることが好ましい。
加熱は、1段階加熱でもよいし、2段階以上に分けて行ってもよい。
【0077】
本発明の製造方法は、電池の正極又は負極の製造方法であってもよく、より具体的には、リチウム電池の正極又は負極の製造方法であってもよい。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
1.電極体の製造
[実施例1]
活物質粒子としてLiCoO
2粒子10g、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(東亜合成株式会社製、型番:A6114)0.015g、及び蒸留水8gを混合し、活物質スラリーを調製した。当該活物質スラリーをスターラーで攪拌しながら、超音波を当該活物質スラリーに5分間照射し、真空脱泡を行った。
基板としてアルミナ多孔体基板を準備した。
次に、
図3(a)に示すような装置を用い、スリップキャスト法により成型体を製造した。具体的には、回転試料台の上にアルミナ多孔体基板を載せ、当該アルミナ多孔体基板の上に、円筒の口が上を向くように、円筒状の型を置いた。当該アルミナ多孔体基板の面方向に略平行な方向に12Tの磁場を付与し、且つ、円筒の型の対称軸を中心として、回転試料台を30rpmで回転させながら、円筒状の型の中に活物質スラリーを流し込み、アルミナ多孔体基板上に配向層が形成された成型体を製造した。
【0080】
スリップキャスト法により得られた成型体を、500℃で1時間焼成し、分散剤を除去した(仮焼成工程)。仮焼成後の成型体を、LiCoO
2粉末を敷いたアルミナるつぼに加え、950℃で8時間焼成を行い(本焼成工程)、実施例1の電極体を製造した。
【0081】
[比較例1]
実施例1と同様に、活物質スラリー及びアルミナ多孔体基板を準備した。
次に、アルミナ多孔体基板の上に、円筒の口が上を向くように、円筒状の型を置いた。当該円筒状の型の中に活物質スラリーを流し込み、アルミナ多孔体基板上に活物質粒子含有層が形成された成型体を製造した(スリップキャスト法)。すなわち、比較例1においては、成型の際にアルミナ多孔体基板を回転させず、また、磁場を付与しなかった。
あとは、実施例1と同様に仮焼成工程及び本焼成工程を行い、比較例1の電極体を製造した。
【0082】
[比較例2]
実施例1と同様に、活物質スラリー及びアルミナ多孔体基板を準備した。
次に、
図3(a)に示すような装置を用い、スリップキャスト法により成型体を成型した。具体的には、回転試料台の上にアルミナ多孔体基板を載せ、当該アルミナ多孔体基板の上に、円筒の口が上を向くように、円筒状の型を置いた。当該アルミナ多孔体基板の面方向に略平行な方向に12Tの磁場を付与しながら、円筒状の型の中に活物質スラリーを流し込み、アルミナ多孔体基板上に配向層が形成された成型体を製造した。すなわち、比較例2においては、成型の際に回転試料台を回転させなかった。
あとは、実施例1と同様に仮焼成工程及び本焼成工程を行い、比較例2の電極体を製造した。
【0083】
2.電極体の配向性の評価
実施例1、比較例1、及び比較例2の電極体について、電子線後方散乱により得られる菊池パターンをもとに微小領域の方位測定を行うEBSD法により測定し、得られた結晶粒の結晶方位より極点図を作成した。
【0084】
まず、比較例1の電極体について検討する。
図13(a)は、比較例1の電極体の活物質粒子含有層表面における、アルミナ多孔体基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図である。
図13(a)中の実線の丸は、当該赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最大となるA面を、破線の丸は、当該ピークのXRD強度が最小となるB面を、それぞれ表す。
図13(a)より、比較例1の電極体の活物質粒子含有層において、(00l)面はランダムに分布していることが分かる。
図13(b)は、A面及びB面のXRDを並べて示した図である。
図13(b)より、A面のロットゲーリングファクターf
a(00l)は0.06である。一方、B面のロットゲーリングファクターf
b(00l)は、−0.13である。したがって、
f
a(00l)−f
b(00l)=0.06−(−0.13)=0.19<1.0
であるから、比較例1の電極体は、上述した式(2)を満たす。これは、比較例1の電極体の活物質粒子含有層において、LiCoO
2粒子のc軸同士の配向性はランダムであることを示す。しかし、
f
a(00l)=0.06<0.3
であるから、比較例1の電極体は、上述した式(1)を満たさない。これは、比較例1の電極体の活物質粒子含有層において、LiCoO
2粒子のc軸は、基板に対して平行でないことを示す。
以上より、比較例1の電極体は、リチウムの出入りによるLiCoO
2粒子の膨張収縮の方向はランダムであるが、LiCoO
2粒子のリチウム伝導性の高い方向が基板に対して垂直となっていないことが分かる。
【0085】
次に、比較例2の電極体について検討する。
図14(a)は、比較例2の電極体の配向層表面における、アルミナ多孔体基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図である。
図14(a)中の実線の丸は、当該赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最大となるA面を、破線の丸は、当該ピークのXRD強度が最小となるB面を、それぞれ表す。
図14(a)より、比較例2の電極体の配向層において、(00l)面は極点図のRD軸の両極に集中していることが分かる。
図14(b)は、A面及びB面のXRDを並べて示した図である。
図14(b)より、A面のロットゲーリングファクターf
a(00l)は1.00である。したがって、
f
a(00l)=1.00>0.3
であるから、比較例2の電極体は、上述した式(1)を満たす。これは、比較例2の電極体の配向層において、LiCoO
2粒子のc軸は、基板に対して平行に配向していることを示す。しかし、B面のロットゲーリングファクターf
b(00l)は−0.37であり、
f
a(00l)−f
b(00l)=1.00−(−0.37)=1.37>1.0
であるから、比較例2の電極体は、上述した式(2)を満たさない。これは、比較例2の電極体の配向層において、LiCoO
2粒子のc軸同士がRD軸方向、すなわち、磁場をかけた方向に揃っていることを示す。
以上より、
比較例2の電極体は、LiCoO
2粒子のリチウム伝導性の高い方向が基板に対して垂直に揃い、且つ、リチウムの出入りによるLiCoO
2粒子の膨張収縮の方向も揃っていることが分かる。
【0086】
続いて、実施例1の電極体について検討する。
図7(a)は、実施例1の電極体の配向層表面における、アルミナ多孔体基板に対し平行な面を赤道面とする(00l)極点図である。
図7(a)中の実線の丸は、当該赤道面の外周において(00l)面に帰属されるピークのXRD強度が最大となるA面を、破線の丸は、当該ピークのXRD強度が最小となるB面を、それぞれ表す。
図7(a)より、実施例1の電極体表面において、(00l)面は極点図の赤道面外周にほぼ均一に分布していることが分かる。
図7(b)は、A面及びB面のXRDを並べて示した図である。
図7(b)より、A面のロットゲーリングファクターf
a(00l)は0.54である。したがって、
f
a(00l)=0.54>0.3
であるから、実施例1の電極体は、上述した式(1)を満たす。これは、実施例1の電極体の配向層において、LiCoO
2粒子のc軸は、基板に対して平行に配向していることを示す。また、一方、B面のロットゲーリングファクターf
b(00l)は、0.41であり、
f
a(00l)−f
b(00l)=0.54−0.41=0.13<1.0
であるから、実施例1の電極体は、上述した式(2)も満たす。これは、実施例1の電極体の配向層において、LiCoO
2粒子のc軸同士の配向性はランダムであることを示す。
以上より、実施例1の電極体は、LiCoO
2粒子のリチウム伝導性の高い方向が基板に対して垂直に揃っているものの、リチウムの出入りによるLiCoO
2粒子の膨張収縮の方向はランダムであることが分かる。
【0087】
3.リチウム電池の製造
[実施例2]
実施例1の電極体について、適宜ダイヤモンドカッターで切断し、約130μmの厚さとなるまで研磨した。研磨した電極体の片面に、電極集電体として白金を真空蒸着させ、正極を作製した。
負極としてリチウム金属を準備した。
電解質層として、エチレンカーボネート(EC)、及びジメチルカーボネート(DMC)を、EC:DMC=1:1の体積比で混合した溶媒に、支持塩であるLiPF
6を濃度1mol/Lで溶解させた電解液を用いた。
上記電解液層を正極及び負極で挟持して、実施例2のリチウム電池を製造した。
【0088】
[比較例3]
比較例1の電極体について、適宜ダイヤモンドカッターで切断し、約130μmの厚さとなるまで研磨した。研磨した電極体の片面に、電極集電体として白金を真空蒸着させ、正極を作製した。
あとは、実施例2と同様の負極及び電解質層を用いて、比較例3のリチウム電池を製造した。
【0089】
[比較例4]
比較例2の電極体について、適宜ダイヤモンドカッターで切断し、約130μmの厚さとなるまで研磨した。研磨した電極体の片面に、電極集電体として白金を真空蒸着させ、正極を作製した。
あとは、実施例2と同様の負極及び電解質層を用いて、比較例4のリチウム電池を製造した。
【0090】
4.充放電実験
実施例2、比較例3、及び比較例4のリチウム電池について、充放電実験を行った。具体的には、各リチウム電池について、4.2Vまで0.4mAの電流でCC充電を行い、10分間休止した後、4mAで2.5VまでCC放電を行った。
【0091】
図8は、実施例2、比較例3、及び比較例4のリチウム電池の放電曲線を重ねて示したグラフである。
図8中、太線のグラフは実施例2の放電曲線を、破線のグラフは比較例3の放電曲線を、二重線のグラフは比較例4の放電曲線を、それぞれ示す。
図8の比較例3のグラフより、比較例3のリチウム電池の放電容量は52mAh/gである。したがって、活物質粒子の配向を制御することなく焼成した電極体(比較例1)を用いた比較例3のリチウム電池は、極めて低い放電容量を示す。また、
図8の比較例4のグラフより、比較例4のリチウム電池の放電容量は62mAh/gである。この結果は、比較例3のリチウム電池の放電容量よりは高いものの、
図8から分かるように、比較例4のグラフはIRドロップ(電圧降下)が大きい。したがって、配向層中の活物質粒子の結晶方位の配向を制御して、リチウムイオンの伝導性が高い方向を基板に対して略垂直にし、且つ、活物質粒子の膨張収縮の方向を基板に略平行な一定の方向に配向させた電極体(比較例2)を用いた比較例4のリチウム電池は、IRドロップが大きくなることが分かる。活物質粒子の配向方向が揃うと、活物質粒子が膨張収縮した際、全て同じ方向に膨張収縮し、隣り合う活物質粒子同士の膨張収縮が、互いの膨張収縮により制限されると考えられる。活物質粒子の膨張収縮が制限されると、活物質粒子中に出入りするリチウムイオンの伝導性に悪影響が及ぶ結果、IRドロップが大きくなると推測される。もっとも、IRドロップは、リチウムイオン伝導に起因する場合の他に、電子伝導に起因する場合も考えられる。したがって、本比較例4におけるIRドロップについて、上記推測はあくまでも要因の1つとして考えられるものであって、電子伝導によるIRドロップや、他の原因も否定できない。
【0092】
一方、
図8の実施例2のグラフより、実施例2のリチウム電池の放電容量は90mAh/gである。この結果は、従来のリチウム電池(比較例3)の放電容量の1.7倍である。また、実施例2のグラフは、比較例4のグラフよりもIRドロップが小さい。したがって、配向層中の活物質粒子の結晶方位の配向を制御して、リチウムイオンの伝導性が高い方向を基板に対して略垂直にし、且つ、活物質粒子の膨張収縮の方向をランダムにした電極体(実施例1)を用いた実施例2のリチウム電池は、極めて高い放電性能を示すことが分かる。