特許第6054691号(P6054691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054691
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】除染装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   G21F9/28 531B
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-212154(P2012-212154)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-66610(P2014-66610A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505466642
【氏名又は名称】株式会社東洋ユニオン
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寅雄
(72)【発明者】
【氏名】長峰 春夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 真則
(72)【発明者】
【氏名】島田 曜輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘
【審査官】 関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−277116(JP,A)
【文献】 特開2008−110283(JP,A)
【文献】 特開2002−004234(JP,A)
【文献】 特開2013−224844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 − 9/36
E01H 1/08
B08B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染対象の表面から、放射性物質が付着した汚染物を剥離して吸引する、除染装置であって、
台車に搭載した容器であるフードと、
フード下面の底板と、
フード内に設置した吸引箱と、
底板に開口した集塵スリットと、
台車に取り付けた車輪と、
フードの一部を貫通してフード内へ挿入し、ノズル先端を集塵スリットに向けた状態とした単数または複数基のノズルと、より構成し、
ノズルにはドライアイス粒子を供給できるように構成し、
底板に開口した集塵スリットに接近して吸引箱の吸引口を位置させ、
吸引箱の他端は装置外の集塵機に接続可能とし、
集塵スリットの周囲に、除染対象の表面から剥離した汚染物が、再度表面に落下することを阻止する、落下防止手段を有することを特徴とする、
除染装置。
【請求項2】
落下防止手段が、底板に対し、集塵スリットの両側に下向きに間隔が狭くなるように設ける斜板と、斜板の下端から上方へと折り返してなる折り返し板と、からなることを特徴とする、請求項1に記載の除染装置。
【請求項3】
落下防止手段が、集塵スリットを谷側とするように傾斜させた底板の一部に設けた集塵溝からなることを特徴とする、請求項1に記載の除染装置。
【請求項4】
車輪の回転と連動するように、フードの移動方向と直交する方向へとノズル先端を往復動させる、首振り機構、をさらに含むことを特徴とする、
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は除染装置に関するものであり、特にドライアイス粒子を用いてアスファルト舗装面やコンクリート舗装面の汚染を除去する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドライアイス粒子を用いてアスファルト表面から汚染物を剥離して除染する技術は、特許文献1に示すようにすでに知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−300030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドライアイス粒子を使用して放射能で汚染されたアスファルト舗装面を除染する方法は文献だけでなく現場でも採用されているが、実際の方法では次のような問題点がある。
<1> まず除染の対象となる汚染物とは、セシウム等の放射性物質が付着した土砂の微粒子であって、主に舗装面の凹部に付着しているものである。
<2> ドライアイス粒子を、汚染された舗装面に吹き付けると、ドライアイスが気化し、その際のエネルギーで汚染物を持ち上げて剥ぎ取る、という作用を行うので、理論的には優れた除染装置である。
<3> しかし実際には特許文献1に示すように、底面を開放した空き箱状のケースを舗装面にかぶせ、その天井部に切り開いたスリットにノズルを差し込んでドライアイス粒子を吹き付けるという程度の装置しか開発されていない。
<4> このような装置では、作業員の技量によって除染効果に大きなばらつきが生じる。
<5> またケースの一部に透明窓を設けてあっても、ドライアイス粒子が飛散している状態だからその内部の状態が見えず、除染の進行状態は作業員の勘と経験に頼らざるを得ない。
<6> そのために丁寧な作業員は確実に除染することはできるが、勘に頼っているのだから必要以上の時間を要する場合もあり、雑な作業員の場合には施工速度は速いがやり直しが生じるという場合もある。
<7> また上記の装置では施工しながら移動するということが困難であり、空き箱状のケースからの漏気も多い。
<8> さらに上記の点が改善されたとしても、フード内で舞い上がる塵を十分に集塵しきれないと、それが再度路面に落下して付着してしまい除染率が向上しないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決する本願の第1発明に係る除染装置は、台車に搭載した容器であるフードと、フード下面の底板と、フード内に設置した吸引箱と、底板に開口した集塵スリットと、台車に取り付けた車輪と、フードの一部を貫通してフード内へ挿入し、ノズル先端を集塵スリットに向けた状態とした単数または複数基のノズルと、より構成し、ノズルにはドライアイス粒子を供給できるように構成し、底板に開口した集塵スリットに接近して吸引箱の吸引口を位置させ、吸引箱の他端は装置外の集塵機に接続可能とし、集塵スリットの周囲に、除染対象の表面から剥離した汚染物が、再度表面に落下することを阻止する、落下防止手段を有することを特徴とするものである。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、落下防止手段が、底板に対し、集塵スリットの両側に下向きに間隔が狭くなるように設ける斜板と、斜板の下端から上方へと折り返してなる折り返し板と、からなることを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、前記第発明において、落下防止手段が、集塵スリットを谷側とするように傾斜させた底板の一部に設けた集塵溝からなることを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、前記第1発明乃至第3発明のうち何れか1つの発明において、車輪の回転と連動するように、フードの移動方向と直交する方向へとノズル先端を往復動させる、首振り機構、をさらに含むことを特徴とするものである。

【発明の効果】
【0006】
本発明の除染装置は以上説明したようになるから次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
<1>除染装置の移動速度とノズルの往復動の速度を連動させることができるので、作業員個人の技量差が影響することがない。
<2>汚染の状況は現場によって大きく異なるが、試験範囲を定めてそこで除染装置の移動速度とノズルの往復速度との最適量を確認しておけば、最適の除染効果を達成することができる。
<3>ドライアイスの噴射時のエネルギーにより舞い上がる粉塵をほぼ完全に集塵することができるから、再付着を阻止して効率よく吸引して集塵機へ搬送することができる。
<4>その結果、高い除染効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の除染装置の実施例の説明図。
図2】その平面による説明図。
図3】ノズルケースの説明図。
図4】首振り機構の説明図。
図5】吸引箱の斜視図。
図6】斜板の他の実施例の説明図。
図7】底板の他の実施例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の除染装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>全体の構成(図1
本発明の除染装置は、台車2に搭載したフード1と、フード1の下の底板6と、台車2を移動させる車輪21と、フード1の一部を貫通してフード1内へ挿入したノズル3と、粉じんを吸引する吸引箱4と、フード1の移動方向と直交する方向にノズル3先端を往復動させる首振り機構5とより構成する。
台車2の前後の両側にハンドル7を設け、このハンドル7に制御盤61を取り付ける。
制御盤61は取り外し自在として、信号線を長くしておくと、いずれのハンドル7にも取り付けることができる。
【0010】
<2>フード
フード1は、六面体の箱の底を抜いたような形状であり、下には底板6を配置する。
フード1の全部あるいは一部を透明材で構成すれば、作業員がフード1の内部の除染状態を把握できる。
このフード1の内部で、ドライアイス粒子の噴射を行い、それによって剥離した汚染物、アスファルト、コンクリートなどの粉塵が舞い上がる。
その粉塵とドライアイスの混合体はフード1の一部に開口した吸引箱4から吸引ホース41によって吸引して外部で回収する。
フード1の一部にはドライアイス粒子を供給するノズル3を差し込む挿入口32を開口する。
この挿入口32に挿入したノズル3は、移動方向に直交する方向に首振り可能である。
なお、本明細書と特許請求範囲の記載では、装置全体の移動方向を前後方向、それと直交する方向を左右方向と表現する。
【0011】
<3>スカート
フード1の底面の周囲には、ドライアイス粒子や粉塵が外部に飛散することを阻止するためにスカート11を設ける。
このスカート11は、ブラシやゴム板で構成し、フード1の移動時にはスカート11の下面が除染対象の面上を滑動する。
移動中にスカート11がフード1の下に巻き込まれないように、ゴム板とブラシを使い分ける。
外部への飛散を阻止するために二重に設置することも可能である。
【0012】
<4>ノズル
ノズル3はドライアイス粒子を噴射するための装置であり、ドライアイス粒子の製造装置とは噴射ホース33で連結している。
ノズル3の先端はフード1に開口した挿入口32を貫通させて、フード1内に挿入してあり、その先端と舗装面との距離は調節が可能である。
ノズル3は直接フード1に取り付けるのではなく、ノズル容器31に挿入して取り付け、あるいは取り外すことができる。
ノズル3の噴射角度は、除染対象面に対して直角ではなくフード1の前進方向に向けて角度を有しているので、対象面に反射したドライアイス粒子の排気と粉塵をフード1内で方向を与えて流動させ、吸引箱4に導くことができる。
ノズル3を複数本、左右方向に平行に並べた場合には、対象面における各噴射範囲は重ならないように配置する。
ノズル3先端と対象面の距離は15〜20cmが適当であるが、その数値に限定するものではない。
【0013】
<5>ノズル容器(図3
ノズル容器31はフード1に開設した挿入口32の上面に設けた、上下方向に貫通した筒体である。
ノズル容器31はノズル3を着脱可能にセットするための容器であり、その内部に挿入したノズル3を側面からボルトで締めつけてその位置を固定でき、ボルトを緩めれば抜き出すことができる。
ノズル容器31自体はフード1に固定するのではなく、左右方向への首振りが可能であるように設置する。
そのために、フード1に固定したブラケット12とピン13で軸支してノズル容器31を取り付けるが、このピン13の方向は、フード1の移動方向と平行方向である。
したがってノズル容器31はピン13を軸心として左右方向に首振りが可能となる。
ノズル容器31は1基、または左右方向に平行に複数基をフード1に設置する。
【0014】
<6>首振り機構(図4
ノズル3の左右方向の往復動を首振りと称すると、そのための首振り機構5は車輪21の回転とノズル3先端の往復動を連動させる。
そのためにこの首振り機構5は、車輪21と一体のギヤなど、車輪21の一部に一端を軸支した前後動リンク51と、前後動リンク51に一端を軸支した上下動リンク52と、上下動リンク52に一端を軸支した左右動リンク53とで構成する。
この左右動リンク53の一端を、フード1にピン13で軸支したノズル容器31に取り付ける。
すると、車輪21の回転が前後動リンク51を前後動させ、その前後動は上下動リンク52を上下動させる。
この上下動リンク52の上下動は、左右動リンク53の左右動となり、この左右動がピン13で軸支したノズル容器31の左右方向の往復動となる。
するとノズル容器31に挿入してセットしたノズル3は、フード1の内部で左右動を繰り返すから、ノズル3からのドライアイス粒子は一定範囲でまんべんなく噴射することになる。
リンク駆動軸54の1回転で、ノズル3が1往復するようにリンクの長さを調整しておくと、ドライアイス粒子の噴射漏れの範囲が生じない。
【0015】
<7>底板(図5
フード1の下面は全面的に開放せず、フード1の下面に、路面とほぼ水平方向の底板6を配置する。
そして床板6の一部に、長溝である集塵スリット61を左右方向に向けて開口する。
集塵スリット61の両側の底板6は、下向きの斜板62で構成し、斜板62の下縁にはその縁に沿ってスカート63を設けることもできる。
集塵スリット61の両側の斜板62は、その間隔は下に行くほど狭くなるように配置する。
前記したノズル3の先端は、集塵スリット61に向けた状態で位置している。
【0016】
<8>斜板の他の構成(図6
除染作業に際して、噴射のエネルギーで底板6の上に載った汚染物が斜板62を伝わって集塵スリット61に落下すると舗装面を再度汚染してしまうことも考えられる。
そこで集塵スリット61の両側に設置する斜板62を単なる板体ではなく、下端で折り返した構造を採用することもできる。
すなわち図6に示すように、斜板62の集塵スリット61側に折り返し板64を取り付けて、断面をV字状に形成する。
すると斜板62の先端のV字状の折り返し部分で汚染物を捕捉するから、汚染物のスリット61からの再度の落下を阻止することができる。
【0017】
<9>底板の他の構成(図7
底板を路面に平行ではなく、集塵スリット61に向けて全体に傾斜させた傾斜底板6Aとして構成することもできる。
その場合には傾斜底板6Aの一部に、左右方向に向けた集塵溝65を形成しておくこともできる。
すると図6の実施例と同様に、集塵溝65で汚染物を捕捉するから、汚染物のスリット61からの再度の落下を阻止することができる。
【0018】
<10>吸引箱(図5
フード1内の底板6の上には吸引箱4を設置する。
この吸引箱4は、一端の面に吸引口41を開口し、吸引口41と反対側は除染装置とは別の、外部の集塵機に吸引ホース42を介して連結する。
この吸引箱4の吸引口41を集塵スリット61のすぐ上に開口し、吸引ホースは台車2の前方方向から引き出す。
前方方向とは、集塵スリット61からみると、ノズル3の設置側と反対側である。
そのように配置すると、ノズル3は真下向きではなく、多少前方方向へ向けて角度を備えて配置してあるから、ノズル3からのエネルギーを効率よく前方の吸引口41に導入することができる。
こうしてフード1内で舞い上がった汚染物を、その流れの方向を変えずに吸引口41から吸引して外部の集塵機のタンクへ誘導する。
ここで吸引するのは、気化した炭酸ガスと、剥離した汚染物の粉塵だから、汚染水の回収の場合とは異なり集塵機の収納タンクのフィルターで容易に回収することができる。
さらに吸引口41を交換可能の構造としておけば、除染対象物や汚染状況に応じて開口の大きさの異なったものに交換して吸引流速を調整することができる。
【0019】
<11>走行機構
上記の台車2の一部にギヤードモータを装備する。
このモータの回転はギヤを介して車輪21に伝達するから、インバーター制御やギヤの切り替えによって任意の速度による自走が可能である。
モータの回転を正転、逆転することで台車2を前進、後退させることができる。
前記したように車輪21の回転はギヤとリンクを介して首振り機構5を駆動するから、走行速度と首振り速度を制御することができる。
すなわち台車2をゆっくり走行させれば、ノズル3の首振りもゆっくりとなり、ドライアイス粒子によって丁寧な剥離作業を行うことができる。
汚染の程度が低い場所では台車2の走行速度を上げれば、首振り速度も速くなり、一定個所へのドライアイス粒子の噴射量は減少する。
【0020】
<12>使用方法
次に上記した本発明の装置を利用して、例えば放射能で汚染されたアスファルト舗装やコンクリート舗装の汚染物を除去する方法を説明する。
【0021】
<13>エアーの流れ
コンプレッサーで加圧して製造した圧縮空気は、市販のドライアイス供給機からホース33を通って、ノズル3に到達する。
【0022】
<14>吹き付け速度の決定
本発明の除染装置から噴出するドライアイス粒子で表面の汚染を除去する原理は、前記したようにドライアイス粒子が気化する際のエネルギーで汚染物を持ち上げて剥ぎ取る機能による。
そこで除染範囲の一部を試験範囲として、除染装置の速度を数段階に変えて走行させ、除去作業の前後の放射能の量を測定する。
その結果からその現場での最適の速度を決定し、この数値を操作盤71においてインバータ制御の周波数として設定する。
【0023】
<15>除染作業
上記のテストによって、その現場での除染装置の最適速度が決定するから、その後は同一速度を保たせて台車2を走行するだけで、どの位置でも単位面積あたり同一量のドライアイス粒子をノズル3から噴射することができる。
したがって、作業員の勘や熟練が影響することがない。
ノズル3から噴射したドライアイスは、集塵スリット61を通して汚染した路面を直撃する。
その衝撃で舞い上がった粉塵は、集塵スリット61の両側のスカート63によって拡散する進路をさえぎられ、吸引箱4の吸引口41に強く引かれて吸引される。
このようにドライアイス粒子の噴射によって舗装面から剥離した粉塵はフード1内であまり舞い上がることがなく、ノズル3からの噴射の方向に沿って移動するから、そのまま吸引口41を通して外部の集塵機に効率よく誘導することができる。
吸引ホース42を介して集積した汚染物は、集塵機のフィルターに吸着するから、このフィルターを廃棄処理する。
【符号の説明】
【0024】
1:フード
2:車輪
3:ノズル
31:ノズル容器
4:吸引箱
41:吸引口
5:首振り機構
6:底板
61:集塵スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7