特許第6054708号(P6054708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6054708荷電粒子ビームの偏向装置及びそれを備えた荷電粒子ビーム装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054708
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】荷電粒子ビームの偏向装置及びそれを備えた荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   H01J37/147 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-243466(P2012-243466)
(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公開番号】特開2014-93211(P2014-93211A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 光央
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−139007(JP,A)
【文献】 特開平07−110078(JP,A)
【文献】 特開平06−004033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/147
G21K 1/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを偏向するための偏向コイルと、一方の入力端子に走査信号が入力され、これに応じた駆動電流を偏向コイルの一端側に供給するための増幅器と、一方の入力端子に偏向コイルの他端側が接続され、増幅器の他方の入力端子に出力信号を帰還する帰還アンプと、帰還アンプの該入力端子と基準電位配線との間に介在し、直列接続された複数の抵抗素子からなる抵抗素子群と、抵抗素子群の各抵抗素子間の配線及び基準電位配線における何れか一つの配線を帰還アンプの他方の入力端子に選択的に接続可能な第1の切替手段と、抵抗素子群の各抵抗素子間の配線における何れか一つの配線を基準電位配線に選択的に接続可能な第2の切替手段とを備える荷電粒子ビームの偏向装置。
【請求項2】
帰還アンプの他方の入力端子と基準電位配線との間には、高抵抗素子が配置されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビームの偏向装置。
【請求項3】
偏向コイルに対して並列にノイズフィルターが接続されていることを特徴とする請求項1乃至何れか記載の荷電粒子ビームの偏向装置。
【請求項4】
第1の切替手段はシグナルリレーからなり、第2の切替手段はパワーリレーからなることを特徴とする請求項1乃至何れか記載の荷電粒子ビームの偏向装置。
【請求項5】
荷電粒子ビームは電子ビームであることを特徴とする請求項1乃至何れか記載の荷電粒子ビームの偏向装置。
【請求項6】
請求項1乃至何れか記載の荷電粒子ビームの偏向装置を備えた荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査透過電子顕微鏡(STEM)や走査電子顕微鏡(SEM)等の荷電粒子ビーム装置において用いられる荷電粒子ビームの偏向装置及びそれを備えた荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームとして電子ビームを用いた走査透過電子顕微鏡においては、集束された電子ビームを試料上で走査し、このとき試料を透過した透過電子を電子検出器により検出する。これによる透過電子の検出信号と電子ビームの走査信号とに基づき、STEM像の形成を行う。
【0003】
また、走査電子顕微鏡においては、集束された電子ビームを試料上で走査し、このとき試料から発生する2次電子又は反射電子等の被検出電子を電子検出器により検出する。これによる被検出電子の検出信号と電子ビームの走査信号とに基づき、SEM像の形成を行う。
【0004】
このような電子ビームを用いた電子顕微鏡においては、電子ビームを偏向し、これにより試料上で電子ビームを走査するための偏向装置を具備している。
【0005】
図1に、従来技術における偏向装置の一例(要部)を示す。同図に示すように、この偏向装置は、電子ビームを偏向するための偏向コイル53と、この偏向コイル53の一端側にSCAN電流(駆動電流)を供給するための演算増幅器56を備えている。演算増幅器56は、前段側のオペアンプ51と後段側のパワーアンプ52とからなる。
【0006】
演算増幅器56を構成するオペアンプ51の非反転入力端子(+)には、図示しないスキャンジェネレータから、正負最大振幅±5V程度の鋸歯状波からなるSCAN信号が供給される。これによるオペアンプ51からの出力信号はパワーアンプ52に供給される。
【0007】
パワーアンプ52は、当該出力信号を増幅し、これによる増幅後の信号(SCAN電流)を偏向コイル53の一端側に供給する。これにより、演算増幅器56から偏向コイル53に駆動電流が供給される。
【0008】
また、偏向コイル53の他端側は、オペアンプ51の反転入力端子(−)に接続されている。オペアンプ51は、非反転入力端子(+)に入力されたSCAN信号と反転入力端子(−)に入力された偏向コイル53からの信号(フィードバック信号)との間で差異が生じないように出力信号を制御する。
【0009】
さらに、偏向コイル53の他端側と基準電位となる接地配線(GND配線)との間には、粗倍率切替回路57が設けられている。この粗倍率切替回路57は、抵抗値の異なる複数の抵抗素子R1〜R4と、これら各抵抗素子R1〜R4のうちの何れか一つを選択可能な切替器55とを備えている。この切替器55は、抵抗素子R1に接続された開閉スイッチRY1と、抵抗素子R2に接続された開閉スイッチRY2と、抵抗素子R3に接続された開閉スイッチRY3とを有している。
【0010】
切替器55には、図示しない制御手段から粗倍率切替信号が供給される。これにより、切替器55は、供給された粗倍率切替信号に基づいて開閉スイッチRY1〜RY3の開閉状態を制御する。この結果、その粗倍率に応じた電流検出抵抗が偏向コイル53の他端側と接地配線との間で設定される。
【0011】
電子顕微鏡が走査透過電子顕微鏡の場合、取得されるSTEM像の倍率は、10K倍〜150M倍程度と設定範囲が広いので、SCAN電流も最大電流の1/15000となる微小電流まで制御する必要がある。オペアンプ51に供給されるSCAN信号における電圧を下げるのみでは、それに対応する制御を行うことは不可能である、
従って、電流検出抵抗として、5Ω(Mag1:10K〜150K倍に対応)、50Ω(Mag2:200K〜1.5M倍に対応)、500Ω(Mag3:2M〜15M倍に対応)、5kΩ(Mag4:20M〜150M倍に対応)の何れかの抵抗値が設定されるように切替器55の制御が行われる。
【0012】
ここで、低倍の倍率範囲のMag1のときには、開閉スイッチRY1のみを閉じて(ON)、電流検出抵抗を「5Ω//5kΩ≒5Ω」とする。この場合、上記SCAN信号の正負最大振幅は±5V程度なので、偏向コイル53には、正負方向での最大電流として±1A程度の電流が流れる。ここで、「XΩ//YΩ」とは、XΩの抵抗とYΩの抵抗とを並列接続したときの合成抵抗値を表わす。
【0013】
また、次の倍率範囲となるMag2のときには、開閉スイッチRY2のみを閉じて、電流検出抵抗を「50.5Ω//5kΩ≒50Ω」とする。この場合、偏向コイル53には、正負方向の最大電流として±0.1A程度の電流が流れる。
【0014】
さらに、次の倍率範囲となるMag3のときには、開閉スイッチRY3のみを閉じて、電流検出抵抗を「555Ω//5kΩ≒500Ω」とする。この場合、偏向コイル53には、正負方向の最大電流として±0.01A程度の電流が流れる。
【0015】
そして、次の倍率範囲となるMag4のときには、全ての開閉スイッチRY1〜RY3を開いた状態(OFF)とし、電流検出抵抗を「5kΩ」とする。この場合、偏向コイル53には、正負方向の最大電流として±1mA程度の電流が流れる。
【0016】
このように粗倍率として設定された各倍率範囲において、さらに細かい倍率設定(ファイン制御)を行う際には、オペアンプ51に供給されるSCAN信号の最大振幅の絶対値を適宜下げることにより調整される。
【0017】
上記において、偏向コイル53に流れる最大電流の絶対値が大きいほど試料上での電子ビームによる走査範囲が広くなり、この結果、倍率の低い像が取得されることとなる。一方、偏向コイル53に流れる最大電流の絶対値が小さいほど試料上での電子ビームによる走査範囲が小さくなり、この結果、倍率の高い像が取得されることとなる。
【0018】
なお、上記の例では、走査透過電子顕微鏡における偏向装置の例として説明したが、走査電子顕微鏡における偏向装置でも同様の構成を備えたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−82438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
走査透過電子顕微鏡や走査電子顕微鏡において、上記構成の偏向装置が用いられた場合、粗倍率切替回路57内での電流検出抵抗を像の粗倍率に応じて切り替えるための切替器55としてリレーが用いられている。このリレーとしては、通常のシグナルリレーが使用されることが多い。
【0021】
ここで、最近では偏向コイル53に供給されるSCAN電流信号を低ノイズ化するために、図1のごとく偏向コイル53と並列接続されるノイズフィルター用のコンデンサ54が配置されている。
【0022】
このような場合において、粗倍率の変更に基づいて当該リレーの開閉状態が切り替わるときに、通常のシグナルリレーでは、ノイズ成分に応じてコンデンサ54を介して流れる突入電流等が何れかの開閉スイッチの接点に流れた際に、当該接点が溶着等してしまうことがある。
【0023】
この結果、当該リレーによる切り替えに支障が生じることとなり、粗倍率切替回路57が正常に動作しなくなるという問題が発生する。
【0024】
なお、この対策として、切替器55としてパワーリレー等の接点容量の大きなリレーを使用することも考えられる。
【0025】
しかしながら、市販のもので接点容量の大きなパワーリレーでは、接点の接触抵抗の安定性等が軽視されてしまうため、不安定となることがある。
【0026】
このような場合、粗倍率切替回路57の動作に基づき偏向コイル53からオペアンプ51にフィードバックされる電圧が、「(リレーの接触抵抗)+(電流検出抵抗)」で検出された電圧値となる。この結果、リレー接点の接触抵抗の変動がSCAN電流の変動を生じさせることとなり、安定した像の取得ができなくなる。
【0027】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、ノイズ成分に応じて流れる突入電流等が発生しても安定的に動作が行われる荷電粒子ビームの偏向装置及びそれを備えた荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係る一の荷電粒子ビームの偏向装置は、荷電粒子ビームを偏向するための偏向コイルと、入力端子に走査信号が入力され、これに応じた駆動電流を偏向コイルの一端側に供給するための増幅器と、一方の入力端子に偏向コイルの他端側が接続され、増幅器の入力端子に出力信号を帰還する帰還アンプと、帰還アンプの該入力端子と基準電位配線との間に介在し、直列接続された複数の抵抗素子からなる抵抗素子群と、抵抗素子群の各抵抗素子間の配線及び基準電位配線における何れか一つの配線を帰還アンプの他方の入力端子に選択的に接続可能な第1の切替手段と、抵抗素子群の各抵抗素子間の配線における何れか一つの配線を基準電位配線に選択的に接続可能な第2の切替手段とを備えることを特徴とする。
【0030】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、上記の偏向装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る一の荷電粒子ビームの偏向装置においては、偏向コイルからのフィードバックが誤差アンプを介して行われ、該誤差アンプの一方の入力端子と基準電位配線との間に介在された抵抗素子群の各抵抗素子間の配線及び基準電位配線における何れか一つの配線を該誤差アンプの他方の入力端子に選択的に接続可能な第1の切替手段を有し、さらに該抵抗素子群の各抵抗素子間の配線における何れか一つの配線を基準電位配線に選択的に接続可能な第2の切替手段を有している。
【0032】
この構成により、偏向コイルに供給される駆動電流の安定度を左右する箇所には第1の切替手段が配置され、大電流の流入に対応すべき箇所には第2の切替手段が配置されることとなり、第1の切替手段を接点抵抗の安定した切替手段とするとともに、第2の切替手段を接点容量の大きな切替手段とすることができ、ノイズ成分に応じて流れる突入電流等が発生しても安定的に動作する荷電粒子ビームの偏向装置を提供することができる。
【0033】
また、本発明に係る他の荷電粒子ビームの偏向装置においても、偏向コイルからのフィードバックが誤差アンプを介して行われ、偏向コイルに供給される駆動電流の安定度を左右する箇所には第1の切替手段が配置され、大電流の流入に対応すべき箇所には第2の切替手段が配置されることとなるので、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】従来技術における荷電粒子ビームの偏向装置の一例(要部)を示す図である。
図2】荷電粒子ビーム装置の一例としての走査透過電子顕微鏡の概略構成を示す図である。
図3】本発明の第1実施例における荷電粒子ビームの偏向装置の要部を示す図である。
図4】本発明の第2実施例における荷電粒子ビームの偏向装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明における荷電粒子ビームの偏向装置及びそれを備えた荷電粒子ビーム装置について説明する。
【0036】
図2は、本発明における荷電粒子ビーム装置の構成を示す概略構成図である。当該荷電粒子ビーム装置は、本実施例において走査透過電子顕微鏡(STEM)の構成を備えている。
【0037】
電子銃1から加速されて放出された電子ビーム(荷電粒子ビーム)11は、集束レンズ2により集束され、さらに対物レンズ4の前段磁場により試料7上で集束される。これにより、試料7面上で集束電子ビームが形成される。
【0038】
このとき、偏向コイル3による偏向作用により、集束電子ビーム11は、試料7面上で設定された走査エリア内における各走査点を順次移動していき、試料7上を走査することとなる。これにより、偏向コイル3は、走査コイル(SCAN Coil)としての役割を果たす。
【0039】
偏向コイル3には、走査駆動手段8より走査用の駆動電流(SCAN電流)が供給される。走査駆動手段8には、スキャンジェネレータ9からSCAN信号が供給される。また、スキャンジェネレータ9は、当該SCAN信号を画像形成手段19に送る。
【0040】
集束電子ビーム11が走査された試料7の各走査点において、試料7を透過した電子(透過電子)12は、対物レンズ4の後段磁場及び投影レンズ5の磁場により電子検出器6の受光面に集光される。
【0041】
電子検出器6により検出された透過電子12の検出信号は、画像形成手段10に送られる。画像形成手段10は、当該検出信号と上記SCAN信号とを同期させて走査像(STEM像)の形成を行う。このようにして形成された走査像は、図示しない表示手段により表示される。
【0042】
なお、走査駆動手段8、スキャンジェネレータ9及び画像形成手段10等は、図示しない制御手段により動作制御される。
【0043】
次に、図3を参照して、本発明の第1実施例における荷電粒子ビームの偏向装置の構成について説明する。本発明の当該偏向装置は、上述した偏向コイル3と、偏向コイル3の一端側3aにSCAN電流を供給するための演算増幅器26を備えている。演算増幅器26は、前段側のオペアンプ21と、後段側のパワーアンプ22とからなる。
【0044】
演算増幅器26を構成するオペアンプ21の非反転入力端子(+)には、スキャンジェネレータ9(図2参照)から、正負最大振幅±5V程度の鋸歯状波からなるSCAN信号が供給される。これによるオペアンプ21からの出力信号は、パワーアンプ22に供給される。
【0045】
パワーアンプ22は、当該出力信号を増幅し、これによる増幅後の信号(SCAN電流)を偏向コイル3の一端側3aに供給する。これにより演算増幅器26から偏向コイル3に駆動電流が供給される。
【0046】
また、偏向コイル3の他端側3bは、誤差アンプ23を介して、オペアンプ21の反転入力端子(−)に接続されている。オペアンプ21は、非反転入力端子(+)に入力されたSCAN信号と反転入力端子(−)に入力された信号(フィードバック信号)との間で差異が生じないように出力信号を制御する。
【0047】
誤差アンプ23における一方の入力端子23aには、偏向コイル3の他端側3bが接続されており、この他端側3bと基準電位となる接地配線(GND配線)との間には、粗倍率切替回路27が設けられている。
【0048】
この粗倍率切替回路27は、直列接続された抵抗値の異なる複数の抵抗素子(抵抗)R10〜R40と、シグナルリレーからなる第1の切替手段28と、パワーリレーからなる第2の切替手段29とを備える。抵抗R10,R20,R30,R40の抵抗値は、それぞれ5Ω,45Ω,450Ω,4.5kΩとされている。
【0049】
第1の切替手段28は、各抵抗R10〜R40間の配線及び接地配線のうちの何れか一つの配線を、誤差アンプ23における他方の入力端子23bに選択的に接続する機能を備える。
【0050】
ここで、第1の切替手段28は、開閉スイッチRY1.1〜RY4.1を有している。開閉スイッチRY1.1は、抵抗R10,R20間の配線と当該入力端子23bとの間に配置されている。開閉スイッチRY2.1は、抵抗R20,R30間の配線と当該入力端子23bとの間に配置されている。開閉スイッチRY3.1は、抵抗R30,R40間の配線と当該入力端子23bとの間に配置されている。開閉スイッチRY4.1は、接地配線と当該入力端子23bとの間に配置されている。
【0051】
第1の切替手段28は、制御手段から供給される粗倍率信号に基づき、その内部に備える各開閉スイッチRY1.1〜RY4.1のうちの何れか一つのスイッチを閉じるように動作する。
【0052】
また、第2の切替手段29は、各抵抗R10〜R40間の配線のうちの何れか一つの配線を接地配線に選択的に接続する機能を備える。
【0053】
ここで、第2の切替手段29は、開閉スイッチRY1.2〜RY3.2を有している。開閉スイッチRY1.2は、抵抗R10,R20間の配線と接地配線との間に配置されている。開閉スイッチRY2.2は、抵抗R20,R30間の配線と接地配線との間に配置されている。開閉スイッチRY3.2は、抵抗R30,R40間の配線と接地配線との間に配置されている。
【0054】
第2の切替手段29は、制御手段から供給される粗倍率信号に基づき、その内部に備える各開閉スイッチRY1.2〜3.2のうちの何れか一つのスイッチを閉じる又は全てのスイッチを開くように動作する。
【0055】
なお、上記構成の走査駆動手段8において、誤差アンプ23における一方の入力端子23aとパワーアンプ22の出力端子との間には、ノイズフィルター用のコンデンサ24が配置されている。また、誤差アンプ23における他方の入力端子23bと接地配線との間には、1MΩ程度の高抵抗素子25が配置されている。
【0056】
以上が、本発明における荷電粒子ビームの偏向装置の構成である。次に、動作について説明する。
【0057】
制御手段は、装置の操作者により選択される粗倍率に基づき、走査駆動手段8内の第1及び第2の切替手段28,29の動作制御を行う。
【0058】
本実施例において、従来技術の例と同様に、電流検出抵抗として、5Ω(Mag1:10K〜150K倍に対応)、50Ω(Mag2:200K〜1.5M倍に対応)、500Ω(Mag3:2M〜15M倍に対応)、5kΩ(Mag4:20M〜150M倍に対応)の各抵抗値が設定されている。
【0059】
演算増幅器26を構成するオペアンプ21の非反転入力端子(+)には、スキャンジェネレータ9からSCAN信号が供給される。このSCAN信号は、従来技術と同様に、正負最大振幅±5V程度の鋸歯状波の信号からなる。
【0060】
まず、低倍率の倍率範囲であるMag1において像を取得する際には、制御手段は、第1の切替手段28においてスイッチRY1.1のみを閉じるとともに、第2の切替手段29においてスイッチRY1.2のみを閉じるように制御を行う。
【0061】
この状態では、演算増幅器26のパワーアンプ22から偏向コイル3に供給されるSCAN電流は、電流検出抵抗5Ωとなる抵抗R10を経由して、接地配線に流れる。このとき、上記のごとくSCAN信号は正負最大振幅±5V程度なので、偏向コイル3には、正負方向の最大電流として±1A程度の電流が流れる。
【0062】
偏向コイル3には、この電流幅に応じた磁場が発生し、これに応じて電子ビーム11が偏向(走査)される。このときの電子ビーム11の偏向幅は、当該電流幅に対応して大きくなるので、低倍率の走査像が取得される。
【0063】
このとき、スイッチRY1.1が閉じているので、誤差アンプ23は、5Ωの電流検出抵抗(R10)両端間の電圧を検出し、当該電圧をオペアンプ21にフィードバックする。
【0064】
一方、次の倍率範囲であるMag2において像を取得する際には、制御手段は、第1の切替手段28においてスイッチRY2.1のみを閉じるとともに、第2の切替手段29においてスイッチRY2.2のみを閉じるように制御を行う。
【0065】
この状態では、演算増幅器26のパワーアンプ22から偏向コイル3に供給されるSCAN電流は、電流検出抵抗50Ωとなる抵抗R10及びR20の直列合成抵抗を経由して、接地配線に流れる。このとき、上記のごとくSCAN信号は正負最大振幅±5V程度なので、偏向コイル3には、正負方向の最大電流として±0.1A程度の電流が流れる。
【0066】
偏向コイル3には、この電流幅に応じた磁場が発生し、これに応じて電子ビーム11が偏向(走査)される。このときの電子ビーム11の偏向幅は、当該電流幅に対応した幅となり、これに応じた倍率の走査像が取得される。
【0067】
このとき、スイッチRY2.1が閉じているので、誤差アンプ23は、50Ωの電流検出抵抗(R10+R20)両端間の電圧を検出し、当該電圧をオペアンプ21にフィードバックする。
【0068】
さらに、次の倍率範囲であるMag3において像を取得する際には、制御手段は、第1の切替手段28においてスイッチRY3.1のみを閉じるとともに、第2の切替手段29においてスイッチRY3.2のみを閉じるように制御を行う。
【0069】
この状態では、演算増幅器26のパワーアンプ22から偏向コイル3に供給されるSCAN電流は、電流検出抵抗500Ωとなる抵抗R10,R20及びR30の直列合成抵抗を経由して、接地配線に流れる。このとき、上記のごとくSCAN信号は正負最大振幅±5V程度なので、偏向コイル3には、正負方向の最大電流として±0.01A程度の電流が流れる。
【0070】
偏向コイル3には、この電流幅に応じた磁場が発生し、これに応じて電子ビーム11が偏向(走査)される。このときの電子ビーム11の偏向幅は、当該電流幅に対応した幅となり、これに応じた倍率の走査像が取得される。
【0071】
このとき、スイッチRY3.1が閉じているので、誤差アンプ23は、500Ωの電流検出抵抗(R10+R20+R30)両端間の電圧を検出し、当該電圧をオペアンプ21にフィードバックする。
【0072】
そして、次の倍率範囲であるMag4において像を取得する際には、制御手段は、第1の切替手段28においてスイッチRY4.1のみを閉じるとともに、第2の切替手段29において全てのスイッチRY1.2〜RY3.2を開くように制御を行う。
【0073】
この状態では、演算増幅器26のパワーアンプ22から偏向コイル3に供給されるSCAN電流は、電流検出抵抗5kΩとなる抵抗R10,R20,R30及びR40の直列合成抵抗を経由して、接地配線に流れる。このとき、上記のごとくSCAN信号は正負最大振幅±5V程度なので、偏向コイル3には、正負方向の最大電流として±1mA程度の電流が流れる。
【0074】
偏向コイル3には、この電流幅に応じた磁場が発生し、これに応じて電子ビーム11が偏向(走査)される。このときの電子ビーム11の偏向幅は、当該電流幅に対応した幅となり、これに応じた倍率の走査像が取得される。
【0075】
このとき、スイッチRY4.1が閉じているので、誤差アンプ23は、5kΩの電流検出抵抗(R10+R20+R30+R40)両端間の電圧を検出し、当該電圧をオペアンプ21にフィードバックする。
【0076】
以上が、粗倍率に基づく切替制御である。さらに細かい倍率設定を行う際には、上記のごとく粗倍率の設定を行うとともに、制御手段の制御に基づきスキャンジェネレータ9からオペアンプ21に供給されるSCAN信号における最大振幅の絶対値を適宜下げることにより調整される。
【0077】
上記の構成において、誤差アンプ23の入力インピーダンスは無限大と言えるほど大きいため、第1の切替手段28の各スイッチRY1.1,RY2.1,RY3.1,RY4.1のうちの何れかをON(閉)しても、ONとされたスイッチを介して接地配線側に電流は殆ど流れることなく、突入電流等によるリレー接点の溶着の発生等を心配する必要がない。
【0078】
従って、第1の切替手段28としては、接点の接触抵抗が安定しているシグナルリレーを用いることができる。
【0079】
また、第2の切替手段29の各スイッチRY1.2,RY2.2,RY3.2は、ONしたときに突入電流等の大電流が流れる。
【0080】
従って、第2の切替手段29としては、突入電流等が流れても接点の溶着が発生しないようにするため、接点容量が十分大きなリレーを用いる必要があるので、パワーリレーを用いる。
【0081】
ここで、第2の切替手段29としてパワーリレーを用いた場合、その接点の接触抵抗が上昇することも考えられる。
【0082】
先に述べたとおり、図1の従来例では、オペアンプ51にフィードバックされる電圧が「(リレーの接触抵抗+電流検出抵抗)」で検出された電圧値であったため、リレー接点の接触抵抗の変動分がSCAN電流の変動を生じさせる。
【0083】
その点、本実施例では、誤差アンプ23は電流検出抵抗の両端に発生する電圧のみを検出するため、オペアンプにフィードバックされる電圧は、パワーリレーの接点の接触抵抗の変動による影響を受けない。
【0084】
そのため、第2の切替手段29(パワーリレー:RY1.2,RY2.2,RY3.2)の接点における接触抵抗が上昇あるいは変動しても、フィードバック制御が接触抵抗の上昇あるいは変動による影響を受けずに安定して行われる。
【0085】
この結果、当該入力端子23a,23b間の電圧に影響を及ぼすことがなく、オペアンプ21へのフィードバックが良好に行われることとなる。
【0086】
なお、上記の実施例においては、走査透過電子顕微鏡に当該偏向装置を適用した例であったが、これに限定されるものではない。この他にも、例えば、走査電子顕微鏡に当該偏向装置を適用することができる。
【0087】
このように、本発明における一の荷電粒子ビームの偏向装置は、荷電粒子ビーム11を偏向するための偏向コイル3と、入力端子(+)に走査信号が入力され、これに応じた駆動電流を偏向コイル3の一端側3aに供給するための増幅器(演算増幅器)26と、一方の入力端子23aに偏向コイル3の他端側3bが接続され、増幅器26の入力端子(−)に出力信号を帰還する誤差アンプ23と、誤差アンプ23の入力端子23aと基準電位配線(接地配線)との間に介在し、直列接続された複数の抵抗素子R10〜R40からなる抵抗素子群100と、抵抗素子群100の各抵抗素子R10〜R40間の配線及び基準電位配線における何れか一つの配線を誤差アンプ23の他方の入力端子23bに選択的に接続可能な第1の切替手段28と、抵抗素子群の各抵抗素子R10〜R40間の配線における何れか一つの配線を基準電位配線に選択的に接続可能な第2の切替手段29とを備えている。
【0088】
ここで、偏向コイル3に対して並列にノイズフィルター24が接続されている。また、 誤差アンプ23の他方の入力端子23bと基準電位配線との間には、高抵抗素子25が配置されている。
【0089】
次に、図4を参照して、本発明の第2実施例における荷電粒子ビームの偏向装置の構成について説明する。
【0090】
同図に示すように、当該偏向装置は、荷電粒子ビームを偏向するための偏向コイル3と、入力端子に走査信号が入力され、これに応じた駆動電流を偏向コイル3の一端側3aに供給するための増幅器26と、第1及び第2の切替手段38,39と、これら第1及び第2の切替手段38,39を介して一方の入力端子33aに偏向コイル3の他端側3bが接続され、他方の入力端子33bに基準電位配線が接続され、増幅器26の入力端子に出力信号を帰還する誤差アンプ33と、偏向コイル3の他端側3bと基準電位配線との間で、第2の切替手段の各開閉接点RY1.2〜RY4.2を介して並列接続された複数の抵抗素子R11〜R41(R11:5Ω,R21:50Ω,R31:500Ω,R41:5kΩ)からなる抵抗素子群101とを備え、第2の切替手段39が、その何れか一つの開閉接点を閉じることにより抵抗素子群101における何れか一つの抵抗素子を選択し、これにより選択された抵抗素子を介して偏向コイル3の他端側3bと基準電位配線とを接続するように動作するとともに、第1の切替手段38が、第2の切替手段39において閉じられた当該開閉接点と当該選択された抵抗素子との間の配線を誤差アンプ33の一方の入力端子33aに接続するように動作する。
【0091】
本実施例が前述した第1の実施例と異なるのは、第1の実施例では、4つの電流検出抵抗を直列接続すると共に、第2の切替手段により各電流検出抵抗を一つずつ短絡するようにして抵抗値を4段階に変化させたのに対し、本実施例では、抵抗値の異なる4つの電流検出抵抗を第2の切替手段により個別に切り替えて偏向コイルに接続するようにした点である。
【0092】
すなわち、図4の構成において、第2の切替手段の開閉接点RY1.2〜RY4.2のいずれかを閉じることにより、偏向コイル3は閉じられた接点につながる抵抗に選択的に接続される。同時に、第1の切替手段の開閉接点RY1.1〜RY4.1も、偏向コイル3に接続された抵抗につながる接点が閉じられる。
【0093】
例えば、電流検出抵抗R11を選択する場合には、第2の切替手段の開閉接点RY1.2と第1の切替手段の開閉接点RY1.1が閉じられるため、電流検出抵抗R11の両端に発生する電圧が開閉接点RY1.1を介して誤差アンプ33に伝えられ、演算増幅器26により、誤差アンプ33の出力と入力されたSCAN信号に基づくフィードバック制御が行われる。
【0094】
本実施例においても、誤差アンプの入力インピーダンスは無限大と言えるほど大きいため、第1の切替手段の開閉接点RY1.1〜RY4.1には殆ど電流が流れず、リレー接点の溶着に注意を払う必要が無く、接点の接触抵抗が安定しているシグナルリレーを用いることができる。
【0095】
また、第2の切替手段としてパワーリレーなどの接点容量が十分大きく大電流を流すことのできるパワーリレーを用いても、誤差アンプで電流検出抵抗の両端の電圧を検出してフィードバックしているので、パワーリレーの接点の接触抵抗が大きかったり不安定になっても、検出電圧はそれによる影響を受けることがない。そのため、演算増幅器26により、誤差アンプ33の出力と入力されたSCAN信号に基づくフィードバック制御が良好に行われることになる。
【0096】
本発明においては、大電流が流れるおそれがある切替手段(第2の切替手段)には、接点容量の十分大きなパワーリレーを用いているので、接点の溶着による動作不具合の発生を確実に防止することができる。
【0097】
また、駆動電流(SCAN電流)の安定度に影響を及ぼす切替手段(第1の切替手段)には、接点の接触抵抗が安定しているシグナルリレーを用いているので、リレー接点の接触抵抗による回路の安定度の悪化を防止することができる。
【0098】
さらに、接点容量が大きいとともに接点の接触抵抗も安定しているような特殊なリレーを用いる必要がなく、安価な市販のリレー(パワーリレー,シグナルリレー)を使用することにより本発明は実施可能である。
【0099】
このとき、パワーリレーは接点容量を考慮するのみでよく、シグナルリレーは接点の接触抵抗を考慮するのみでよいので、これらのリレーを選定する際に選択の幅が広がる。
【符号の説明】
【0100】
1…電子銃、2…集束レンズ、3…偏向コイル、4…対物レンズ、5…投影レンズ、6…電子検出器、7…試料、8…走査駆動手段、9…スキャンジェネレータ、10…画像形成回路、21…オペアンプ、22…パワーアンプ、23…誤差アンプ、24…ノイズフィルター、25…高抵抗素子、26…演算増幅器、27…粗倍率切替回路、28…第1の切替手段、29…第2の切替手段、33…誤差アンプ、38…第1の切替回路、39…第2の切替回路、100…抵抗素子群、101…抵抗素子群、R10〜R40…抵抗素子、R11〜R41…抵抗素子、GND…接地配線(基準電位配線)
図1
図2
図3
図4