特許第6054739号(P6054739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054739
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】歪み補償装置及び歪み補償方法
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20161219BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   H03F1/32
   H04B1/04 R
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-282752(P2012-282752)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-127829(P2014-127829A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年8月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、総務省、マルチバンド・マルチモード対応センター無線通信基板技術に関する研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】平井 義人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 好史
【審査官】 白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−518660(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/090825(WO,A1)
【文献】 特開2011−135143(JP,A)
【文献】 特開2010−183525(JP,A)
【文献】 特開2011−176686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/32
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に係数を予め乗算するプリディストーションにより、所定の回路から出力される出力信号の歪みを補償する歪み補償装置であって、
第1の係数の候補のうち、前記入力信号に応じて選択された第1の係数と前記入力信号との乗算を行う第1の乗算部と、
第2の係数と前記入力信号の遅延信号との乗算を行う第2の乗算部と、
前記第1の係数が乗算された入力信号と、前記第2の係数が乗算された遅延信号を加算した信号を前記所定の回路に出力する加算部と、
前記出力信号と前記入力信号とに基づいて、前記第1の係数と前記第2の係数の更新処理を、反復法を用いた収束計算により実行する更新処理部と、
を具備し、
前記更新処理部は、まず前記第1の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、続いて前記第2の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、次に前記第1の係数、および、前記第2の係数の両方に対して前記収束計算を実行することにより、前記更新処理を実行する、
歪み補償装置。
【請求項2】
前記更新処理部は、前記第2の係数の更新処理における更新値の絶対値が所定の閾値よりも小さい場合に、該更新値を示す更新対象を前記収束計算の対象から除外する
請求項記載の歪み補償装置。
【請求項3】
前記反復法は、Least Mean Square法である
請求項1または2記載の歪み補償装置。
【請求項4】
入力信号に係数を予め乗算するプリディストーションにより、所定の回路から出力される出力信号の歪みを補償する歪み補償方法であって、
第1の係数の候補のうち、前記入力信号に応じて選択された第1の係数と前記入力信号との乗算を行うステップと、
第2の係数と前記入力信号の遅延信号との乗算を行うステップと、
前記第1の係数が乗算された入力信号と、前記第2の係数が乗算された遅延信号を加算した信号を前記所定の回路に出力するステップと、
前記出力信号と前記入力信号とに基づいて、前記第1の係数と前記第2の係数の更新処理を、反復法を用いた収束計算により実行する更新処理ステップと、
を具備し、
前記更新処理ステップでは、まず前記第1の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、続いて前記第2の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、次に前記第1の係数、および、前記第2の係数の両方に対して前記収束計算を実行することにより、前記更新処理を実行する、
歪み補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の回路から出力される出力信号の歪みを補償する歪み補償装置及び歪み補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信機等の送信システムを構成するアナログ回路やRF(Radio Frequency)回路などでは非線形の信号歪みが生じることが知られている。そして、このような信号歪みを補償するため、適応的デジタルプリディストーションと呼ばれる技術が開発されている。
【0003】
この技術では、アナログ回路やRF回路の逆特性が、入力信号の振幅やパワーに応じて補償係数としてLUT(Look Up Table)に格納される。そして、入力信号の振幅やパワーに応じた補償係数を入力信号に予め適用することにより歪み補償が実現される。
【0004】
また、この技術では、補償係数が適用された入力信号と送信信号とが比較され、その差が小さくなるように適応的に補償係数が更新される。これにより、温度変化や電圧変化の影響で歪み特性が変化した場合でも、信号歪みの補償が効果的になされ得る。
【0005】
例えば、特許文献1には、増幅器により生じる信号歪みを補償するため、増幅器の入力信号と出力信号との差に基づいて、信号歪みを補償するための補償係数を適応型アルゴリズムにより生成する技術が開示されている。
【0006】
なお、信号歪みにはメモリ効果があることが知られている。メモリ効果とは、信号歪みが現在の入力信号だけでなく、過去の入力信号にも依存するという現象である。しかし、特許文献1の技術では、メモリ効果について何ら考慮されていないので、信号歪みの抑制効果が十分に得られないという問題がある。
【0007】
このような問題を解決するものとして、特許文献2には、現在の入力信号の電力(または振幅)が取り得るL個の状態、および、過去の入力信号の電力(または振幅)が取り得るM個の状態に対応するL×M個の補償係数の候補を予めメモリに記憶しておき、その中から現在および過去の入力信号の電力(または振幅)に応じた補償係数を1つ読み出し、その補償係数を入力信号に適用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−69733号公報
【特許文献2】国際公開第01/008320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献2の技術では、L×M個の補償係数の候補をメモリに記憶しておく必要があるので、必要な記憶容量が大きくなるという問題がある。メモリ効果の影響をより精度よく評価するため、さらに過去の入力信号(状態数N)を考慮することとすれば、補償係数の候補の数はL×M×N個となり、補償係数の記憶に必要な記憶容量が著しく増大する。
【0010】
また、特許文献2の技術では、現在の入力信号に対し、1つの補償係数を乗算するだけで歪み補償を行っているが、このような方法では、歪み補償を精度よく行うことが難しいという問題もある。
【0011】
本発明の目的は、歪み補償を行うための計算に必要な係数を記憶する記憶容量を低減するとともに、歪み補償を精度よく実行することができる歪み補償装置および歪み補償方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の歪み補償装置は、入力信号に係数を予め乗算するプリディストーションにより、所定の回路から出力される出力信号の歪みを補償する歪み補償装置であって、第1の係数の候補のうち、前記入力信号に応じて選択された第1の係数と前記入力信号との乗算を行う第1の乗算部と、第2の係数と前記入力信号の遅延信号との乗算を行う第2の乗算部と、前記第1の係数が乗算された入力信号と、前記第2の係数が乗算された遅延信号を加算した信号を前記所定の回路に出力する加算部と、前記出力信号と前記入力信号とに基づいて、前記第1の係数と前記第2の係数の更新処理を、反復法を用いた収束計算により実行する更新処理部と、を具備し、前記更新処理部は、まず前記第1の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、続いて前記第2の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、次に前記第1の係数、および、前記第2の係数の両方に対して前記収束計算を実行することにより、前記更新処理を実行する
【0013】
本発明の歪み補償方法は、入力信号に係数を予め乗算するプリディストーションにより、所定の回路から出力される出力信号の歪みを補償する歪み補償方法であって、第1の係数の候補のうち、前記入力信号に応じて選択された第1の係数と前記入力信号との乗算を行うステップと、第2の係数と前記入力信号の遅延信号との乗算を行うステップと、前記第1の係数が乗算された入力信号と、前記第2の係数が乗算された遅延信号を加算した信号を前記所定の回路に出力するステップと、前記出力信号と前記入力信号とに基づいて、前記第1の係数と前記第2の係数の更新処理を、反復法を用いた収束計算により実行する更新処理ステップと、を具備し、前記更新処理ステップでは、まず前記第1の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、続いて前記第2の係数に対してのみ前記収束計算を実行し、次に前記第1の係数、および、前記第2の係数の両方に対して前記収束計算を実行することにより、前記更新処理を実行する
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歪み補償を行うための計算に必要な係数を記憶する記憶容量を低減するとともに、歪み補償を精度よく実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る送信装置の構成を示すブロック図
図2】収束時間を低減させる更新処理について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る送信装置100の構成を示すブロック図である。この送信装置100は、歪み補償部101、RF(Radio Frequency)変調部102、アンテナ103、フィードバック復調部104を備える。
【0018】
歪み補償部101は、RF変調部102において生じる信号歪みを補償する。具体的には、歪み補償部101は、適応的デジタルプリディストーションの技術を用いて上記歪みを補償する。歪み補償部101の詳細については後に詳しく説明する。
【0019】
RF変調部102は、歪み補償部101により歪みが補償されたベースバンド信号の変調および増幅を行い、アンテナ103から電波を放射させる。アンテナ103は、RF変調部102から出力された信号を電波として放射する。フィードバック復調部104は、RF変調部102から出力された出力信号を復調し、歪み補償部101に出力する。
【0020】
次に、歪み補償部101の構成について詳しく説明する。歪み補償部101は、メモリレス補償部200、メモリ効果補償部201、加算器202、誤差算出部203、更新処理部204を備える。
【0021】
メモリレス補償部200は、入力されたベースバンド信号に対して歪み補償を行う。メモリレス補償部200は、アドレス生成部200a、第1の記憶部200b、乗算器200cを備える。
【0022】
アドレス生成部200aは、ベースバンド信号の振幅を算出し、算出した振幅に対応するアドレスを生成し、生成したアドレスを第1の記憶部200bに出力する。なお、アドレス生成部200aは、ベースバンド信号の振幅の代わりに、ベースバンド信号のパワーや、振幅の関数、パワーの関数などに応じてアドレスを生成することとしてもよい。
【0023】
第1の記憶部200bは、メモリなどの記憶デバイスである。第1の記憶部200bは、ベースバンド信号に対して乗算される補償係数の候補A(i=1〜n)を記憶するLUT(Look Up Table)として構成される。
【0024】
そして、第1の記憶部200bは、記憶した補償係数の候補のうち、アドレス生成部200aにより生成されたアドレスに対応する補償係数を乗算器200c、および、更新処理部204に出力する。
【0025】
乗算器200cは、第1の記憶部200bにより出力された補償係数とベースバンド信号との乗算を行い、その結果得られた信号を加算器202に出力する。
【0026】
メモリ効果補償部201は、ベースバンド信号の遅延信号に対して、メモリ効果を補償するための信号処理を行う。メモリ効果補償部201は、遅延器201a〜201a、第2の記憶部201b、乗算器201c〜201cを備える。
【0027】
遅延器201a〜201aは、過去(1次、2次、・・・、m次遅れ)のベースバンド信号を保持する。本実施の形態では、遅延器201a〜201aがm個あることとしたが、遅延器201a〜201aの数は少なくとも1つ以上あればよい。
【0028】
第2の記憶部201bは、メモリなどの記憶デバイスである。第2の記憶部201bは、ベースバンド信号の遅延信号に対して乗算されるタップ係数B(j=1〜m)を記憶するLUT(Look Up Table)として構成される。第2の記憶部201bは、記憶したタップ係数を乗算器201c〜201c、および、更新処理部204に出力する。
【0029】
乗算器201c〜201cは、第2の記憶部201bにより出力されたタップ係数とベースバンド信号の遅延信号との乗算を行い、その結果得られた信号を加算器202に出力する。
【0030】
加算器202は、メモリレス補償部200の乗算器200cにより出力された信号と、メモリ効果補償部201の乗算器201c〜201cにより出力された信号の和を算出し、その結果得られた信号をRF変調部102に出力する。
【0031】
誤差算出部203は、時刻tにおいて入力されたベースバンド信号xと、フィードバック復調部104において出力信号が復調された結果得られた信号yとの差e(=x−y)を算出し、その差の情報を更新処理部204に出力する。この差の絶対値が小さいほど、歪み補償が有効になされているといえる。
【0032】
更新処理部204は、誤差算出部203により出力された差eの情報を用いて、第1の記憶部200bに記憶された補償係数A(i=1〜n)、および、第2の記憶部201bに記憶されたタップ係数B(j=1〜m)を更新する。
【0033】
具体的には、時刻t−jにおけるベースバンド信号をxt−jとすると、フィードバック復調部104において出力信号が復調された結果得られる信号yは、
=(A+ΣAt−j)f
と表される。ここで、Aは、第1の記憶部200bに記憶されている補償係数の候補の中から、ベースバンド信号xの振幅に応じて選択された補償係数、fは、RF変調部102において生じる歪みの影響を表す関数である。
【0034】
更新処理部204は、広く普及しているLMS(Least Mean Square)やRLS(Recursive Least Square Algorithm)などの反復法による収束計算を行って、入力されたベースバンド信号xと、フィードバック復調部104による復調の結果得られた信号yとの差e、すなわち、
=x−y=x−(A+ΣAt−j)f
の絶対値が小さくなるよう、補償係数A、および、各タップ係数B(j=1〜m)の値を決定する。
【0035】
そして、更新処理部204は、決定したそれぞれの値で第1の記憶部200bに記憶されている補償係数A、および、第2の記憶部201bに記憶されている各タップ係数B(j=1〜m)の値を更新する。
【0036】
このように、本実施の形態では、過去の各ベースバンド信号に対してタップ係数を1つずつ記憶しておけばよいため、歪み補償に必要な記憶容量を低減することができる。また、現在のベースバンド信号に補償係数を乗算して信号を生成するだけでなく、過去のベースバンド信号にタップ係数を乗算して信号を生成し、それらの信号を合成して歪み補正を行うため、精度よい歪み補償が可能となる。
【0037】
さらに、次のような更新処理を行うことにより、補償係数A、および、各タップ係数B(j=1〜m)の収束に要する時間を低減させることもできる。図2は、収束時間を低減させる更新処理について説明する図である。なお、図2には、補償係数の候補の数が8(n=8)で、タップ係数の数が2(m=2)である場合について示してある。
【0038】
この更新処理では、更新処理部204は、まず、補償係数A(A〜Aのうち、ベースバンド信号xの振幅に応じて選択された補償係数)に対してのみ反復法による収束計算を所定の時間実行し、補償係数Aを順次更新する(図2のステップ0〜4)。この間、タップ係数B、Bの値については、一定の値(初期値)に設定される。
【0039】
続いて、更新処理部204は、タップ係数B、Bに対してのみ反復法による収束計算を所定の時間実行し、タップ係数B、Bを順次更新する(図2のステップ5〜9)。この間、補償係数Aの値については、一定の値(図2のステップ4で最後に更新された値)に設定される。
【0040】
その後、更新処理部204は、補償係数A、および、タップ係数B、Bの両方に対して反復法を適用し、補償係数A、および、タップ係数B、Bの両方を順次更新する(図2のステップ10〜18)。
【0041】
このような処理により、初めから補償係数A、および、タップ係数B、Bの両方を同時に収束させる場合と比較して、より短時間で補償係数A、および、タップ係数B、Bを収束させることができる。
【0042】
また、更新処理部204は、タップ係数の収束値の絶対値が所定の閾値よりも小さくなった場合、その係数が0であるとみなし、収束値の絶対値が所定の閾値よりも小さくなった補償係数、または、タップ係数を収束計算の対象から除外する。
【0043】
また、タップ係数Bの収束値の絶対値が所定の閾値よりも小さくなった場合は、B=0として、
=x−y=x−(A+Σj≠kt−j)f
の絶対値が小さくなるよう、補償係数A、および、タップ係数B(j=1〜m、j≠k)の値を決定する。
【0044】
図2には、ステップ14でタップ係数Bの収束値の絶対値が所定の閾値よりも小さくなった場合の例が示されている。このような処理により、各係数をより速く収束させることができ、またこの場合Bの更新処理に関する回路は停止させることができるため、省電力化を図ることも可能となる。
【0045】
なお、上記実施の形態では、更新処理部204が、誤差算出部203により出力された差eの情報を用いて、補償係数A、および、タップ係数B(j=1〜m)を更新することとしたが、各係数の一部(例えば、補償係数の候補もしくはタップ係数)または全部を予め実験等で求めた値に設定し、更新処理部204による更新を行わないようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明にかかる歪み補償装置および歪み補償方法は、所定の回路から出力される出力信号の歪みを補償する歪み補償装置および歪み補償方法に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0047】
100 送信装置
101 歪み補償部
102 RF変調部
103 アンテナ
104 フィードバック復調部
200 メモリレス補償部
200a アドレス生成部
200b 第1の記憶部
200c 乗算器
201 メモリ効果補償部
201a〜201a 遅延器
201b 第2の記憶部
201c〜201c 乗算器
202 加算器
203 誤差算出部
204 更新処理部
図1
図2