(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、第1軸と第2軸とが直交する直交座標において、前記駆動電流および前記無効電流による前記第1軸の実効値と、前記駆動電流および前記無効電流による前記第2軸の実効値とが等しくなる前記駆動電流および前記無効電流を前記巻線に通電させることを特徴とする請求項9に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明による電力変換装置を図面に基づいて説明する。なお、以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態による電力変換装置1は、回転電機としてのモータ10の電力を変換するものである。
【0010】
モータ10は、例えば電動車両に適用され、図示しない駆動輪を駆動するためのトルクを発生する。本実施形態のモータ10は、駆動輪を駆動するための電動機としての機能、および、図示しないエンジンや駆動輪から伝わる運動エネルギにより駆動されて発電可能な発電機としての機能を有する、所謂モータジェネレータ(MG)である。本実施形態では、主に電動機として機能する場合について説明するので、「モータ10」と呼ぶ。
【0011】
モータ10は、3相交流の回転電機であって、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13を有する。U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13が「巻線」に対応する。以下適宜、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13を「コイル11〜13」という。
また、モータ10には、図示しないロータの回転位置を検出する回転角センサ15が設けられる。回転角センサ15は、レゾルバ等、どのようなものでもよい。回転角センサ15の検出値は、制御部60に出力される。
【0012】
電力変換装置1は、第1インバータ部20、第2インバータ部30、および、制御部60等を備える。
第1インバータ部20は、3相インバータであり、コイル11〜13への通電を切り替えるべく、6つのスイッチング素子(以下、「SW素子」という。)21〜26がブリッジ接続される。本実施形態では、SW素子21〜26は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。本実施形態では、SW素子21〜26が「第1スイッチング素子」に対応する。
【0013】
SW素子21は、SW素子24の高電位側に接続される。SW素子21とSW素子24との接続点27は、U相コイル11の一端111に接続される。
SW素子22は、SW素子25の高電位側に接続される。SW素子22とSW素子25との接続点28は、V相コイル12の一端121に接続される。
SW素子23は、SW素子26の高電位側に接続される。SW素子23とSW素子26との接続点29は、W相コイル13の一端131に接続される。
以下適宜、高電位側に接続されるSW素子21〜23を「第1上アーム素子」、低電位側に接続されるSW素子24〜26を「第1下アーム素子」という。
【0014】
第2インバータ部30は、第1インバータ部20と同様、3相インバータであり、コイル11〜13への通電を切り替えるべく、6つのSW素子31〜36がブリッジ接続される。本実施形態では、SW素子31〜36は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。本実施形態では、SW素子31〜36が「第2スイッチング素子」に対応する。
【0015】
SW素子31は、SW素子34の高電位側に接続される。SW素子31とSW素子34との接続点37は、U相コイル11の他端112に接続される。
SW素子32は、SW素子35の高電位側に接続される。SW素子32とSW素子35との接続点38は、V相コイル12の他端122に接続される。
SW素子33は、SW素子36の高電位側に接続される。SW素子33とSW素子36との接続点39は、W相コイル13の他端132に接続される。
以下適宜、高電位側に接続されるSW素子31〜33を「第2上アーム素子」、低電位側に接続されるSW素子34〜36を「第2下アーム素子」という。
【0016】
第1電力供給源41は、第1インバータ部20に接続される直流電源であって、第1インバータ部20を経由してモータ10に電力を供給する。
第2電力供給源42は、第2インバータ部30に接続される直流電源であって、第2インバータ部30を経由してモータ10に電力を供給する。
【0017】
第1電力供給源41の電圧を第1電源電圧E1とし、第2電力供給源42の電圧を第2電源電圧E2とする。第1電源電圧E1と第2電源電圧E2とは、異なる値であってもよいし、等しい値であってもよい。本実施形態では、第2電源電圧E2は、第1電源電圧E1より大きいものとする。なお、
図1において、第1電力供給源41および第2電力供給源42を1つの直流電源として記載しているが、複数の直流電源により構成してもよいし、例えば図示しない昇圧コンバータ等を含んで構成するようにしてもよい。
【0018】
第1コンデンサ51は、第1電力供給源41と並列に接続され、第1電力供給源41からSW素子21〜26へ供給される電流を平滑化する平滑コンデンサである。
第2コンデンサ52は、第2電力供給源42と並列に接続され、第2電力供給源42からSW素子31〜36へ供給される電流を平滑化する平滑コンデンサである。
【0019】
ここで、第1インバータ部20および第1電力供給源41組み合わせを第1系統100とし、第2インバータ部30および第2電力供給源42の組み合わせを第2系統200とすると、本実施形態では、モータ10の一側に第1系統100が設けられ、他側に第2系統200が設けられている、ということである。
【0020】
制御部60は、通常のコンピュータとして構成されており、内部にはCPU、ROM、RAM、I/O、および、これらの構成を接続するバスライン等が備えられる。
制御部60は、回転角取得部61、指令演算部62、および、駆動制御部65を有する。回転角取得部61、指令演算部62、および、駆動制御部65は、ハードウェアにより構成してもよいし、ソフトウェアにより構成してもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせにより構成してもよい。
【0021】
回転角取得部61は、回転角センサ15の検出値を取得し、取得された検出値に基づき、モータ10のロータの回転角度を演算する。演算された回転角度は、各種演算に用いられる。
指令演算部62は、トルク指令値等に基づき、モータ10の駆動に係る駆動電流Itの大きさ、および、位相を演算する。駆動電流Itの位相は、例えば最大トルク、最小電流となる位相や、最大トルク、最小損失となる位相である最大トルク位相とする。例えばモータ10がIPMモータであれば、最大トルク位相は、q軸より進角している(
図2参照)。
【0022】
また指令演算部62は、例えば外気温やモータ10の潤滑油等として機能する作動油の温度等に応じた加熱指令値に基づき、発熱に寄与する無効電流Ir1を演算する。本実施形態では、無効電流Ir1は、駆動電流Itの等トルク線L1の接線L2と平行な方向に通電される。なお、駆動電流Itの等トルク線L1の接線L2と平行な方向に通電される無効電流Ir1は、モータ10のトルクには寄与しないので、モータ10の駆動に影響を与えない(
図2参照)。なお、「駆動電流Itの等トルク線L1の接線L2と平行な方向」とは、換言すると、「最大トルク位相と位相が90[deg]ずれた位相」ということである。
【0023】
指令演算部62では、駆動電流Itおよび無効電流Ir1をコイル11〜13に通電させるべく、駆動電流Itおよび無効電流Ir1に応じた電圧指令を演算する。
なお、
図1では、指令演算部62がトルク指令値および加熱指令値を制御部60の外部から取得する例を示しているが、トルク指令値および加熱指令値を制御部60にて内部的に取得するように構成してもよい。
【0024】
駆動制御部65は、SW素子21〜26、31〜36のオンオフ作動を制御し、駆動電流Itに無効電流Ir1を加算した電流をコイル11〜13に通電させる。本実施形態では、駆動制御部65は、第1インバータ部20および第2インバータ部30の少なくとも一方を指令演算部62にて演算される電圧指令に基づいてスイッチングし、コイル11〜13への通電を制御することにより、モータ10の駆動を制御する。
【0025】
本実施形態では、第1インバータ部20を全相同電位とする場合、駆動制御部65は、指令演算部62にて演算される駆動電流Itおよび無効電流Ir1に応じた電圧指令と、三角波に代表されるキャリア波との比較により、第2インバータ部30を構成するSW素子31〜36のオンオフ作動を制御する。
また、第2インバータ部30を全相同電位とする場合、駆動制御部65は、指令演算部62にて演算される駆動電流Itおよび無効電流Ir1に応じた電圧指令とキャリア波との比較により、第1インバータ部20を構成するSW素子21〜26のオンオフ作動を制御する。
本実施形態では、キャリア波の周波数は一定とする。
【0026】
例えば、駆動制御部65は、低回転、低トルク域では、モータ効率を高めるべく、第2上アーム素子31〜33の全相または第2下アーム素子34〜36の全相をオンすることにより第2インバータ部30を全相同電位とし、第1インバータ部20をスイッチングすることにより、第1電力供給源41の電力によりモータ10を駆動する。
また、中回転、中トルク域では、第1上アーム素子21〜23の全相または第1下アーム素子24〜26の全相をオンすることにより第1インバータ部20を全相同電位とし、第2インバータ部30をスイッチングすることにより、第2電力供給源42の電力によりモータ10を駆動する。
【0027】
さらにまた、高回転、高トルク域では、モータ出力を高めるべく、第1インバータ部20および第2インバータ部30をスイッチングする。本実施形態では、コイル11〜13に印加される電圧に応じた第1基本波に基づいて第1インバータ部20をスイッチングし、第1基本波を反転した第2基本波に基づいて第2インバータ部30をスイッチングすることにより、第1電力供給源41と第2電力供給源42とを直列接続しているのに相当する状態にてモータ10を駆動する。なお、第1基本波と第2基本波とは、位相が180[deg]ずれていると捉えることもできる。第1基本波と第2基本波との位相差は、第1電力供給源41と第2電力供給源42とを直列接続した状態に対応する電圧をモータ10に印加可能であれば、180[deg]から多少のずれは許容されるものとし、「第1基本波を反転した第2基本波」の概念に含まれるものとする。
すなわち、本実施形態では、モータ10の回転数およびトルクの少なくとも一方に基づき、制御モードを切り替えている。
【0028】
第1インバータ部20を全相同電位とする場合、第1上アーム素子21〜23を全相オン、第1下アーム素子24〜26を全相オフ、または、第1上アーム素子21〜23を全相オフ、第1下アーム素子24〜26を全相オンする。このとき、第1インバータ部20は、中性点化される。
【0029】
本実施形態では、第1インバータ部20を全相同電位とする期間において、第1上アーム素子21〜23を全相オン、第1下アーム素子24〜26を全相オフする期間と、第1上アーム素子21〜23を全相オフ、第1下アーム素子24〜26を全相オンする期間とを第1アーム切替期間毎に切り替える。オンにするアームを第1アーム切替期間毎に切り替えることにより、SW素子21〜26のオン時間の偏りが低減され、熱損失の偏りを低減可能である。
【0030】
また、第2インバータ部30を全相同電位とする場合、第2上アーム素子31〜33を全相オン、第2下アーム素子34〜36を全相オフ、または、第2上アーム素子31〜33を全相オフ、第2下アーム素子34〜36を全相オンする。このとき、第2インバータ部30は、中性点化される。
【0031】
本実施形態では、第2インバータ部30を全相同電位とする期間において、第2上アーム素子31〜33を全相オン、第2下アーム素子34〜36を全相オフする期間と、第2上アーム素子31〜33を全相オフ、第2下アーム素子34〜36を全相オンする期間とを第2アーム切替期間毎に切り替える。オンにするアームを第2アーム切替期間毎に切り替えることにより、SW素子31〜36のオン時間の偏りが低減され、熱損失の偏りを低減可能である。
第2アーム切替期間は、第1アーム切替期間と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
また、第1インバータ部20を全相同電位とする期間と、第2インバータ部30を全相同電位とする期間とをインバータ切替期間毎に切り替える。これにより、SW素子21〜26、31〜36毎のオン時間の偏りが低減され、熱損失の偏りを低減可能である。
第1アーム切替期間、第2アーム切替期間、および、インバータ切替期間は、例えばSW素子21〜26、31〜36が熱飽和に達するまでの時間等に応じ、適宜設定可能である。
【0033】
ところで、寒冷地等において、モータ10の作動油の温度が低下すると、作動油の粘度が増加するため、モータ10の効率が悪化する。そのため、モータ10の作動油の温度が低い場合、作動油の温度を速やかに上昇させることが好ましい。
そこで本実施形態では、モータ10の駆動に係る駆動電流Itに加え、モータ10のトルクに寄与しない無効電流Ir1をコイル11〜13に通電することにより、第1インバータ部20、第2インバータ部30、および、モータ10を昇温させる。
【0034】
ここで、無効電流Ir1の有無によるU相コイル11に通電されるU相電流Iu、V相コイル12に通電されるV相電流Iv、および、W相コイル13に通電されるW相電流Iwを
図3に基づいて説明する。
図3においては、U相電流Iuを実線、V相電流Ivを破線、W相電流Iwを一点鎖線で示した。以下の実施形態に係る図においても同様である。また、以下適宜、U相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwを「各相電流Iu、Iv、Iw」という。
図3(a)に示すように、モータ10が回転している状態において、駆動電流Itを通電すると、各相電流Iu、Iv、Iwは正弦波波形となる。
【0035】
また、
図3(b)に示すように、駆動電流Itに無効電流Ir1を加えることにより、
図3(a)と比較して、コイル11〜13に通電される各相電流Iu、Iv、Iwの通電量が大きくなる。これにより、第1インバータ部20、第2インバータ部30およびモータ10を速やかに昇温させることができる。また、モータ10が回転している状態では、モータ10の回転に伴いdq座標が回転するので、駆動電流Itの等トルク線L1の接線L2方向に通電される無効電流Ir1も回転する。したがって、
図3(b)に示すように、コイル11〜13には、正弦波電流が均等に通電されるため、各相を均等に昇温することができる。
【0036】
以上詳述したように、本実施形態の電力変換装置1は、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13を有するモータ10の電力を変換するものであって、第1インバータ部20と、第2インバータ部30と、制御部60と、を備える。
【0037】
第1インバータ部20は、SW素子21〜26を有し、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13の一端111、121、131と第1電力供給源41との間に接続される。
第2インバータ部30は、SW素子31〜36を有し、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13の他端112、122、132と第2電力供給源42との間に接続される。
【0038】
制御部60は、第1インバータ部20および第2インバータ部30の少なくとも一方をトルク指令値および加熱指令値に基づいてスイッチングし、トルク指令値に応じた駆動電流Itに加熱指令値に応じた無効電流Ir1を加算した電流をコイル11〜13に通電させる。
【0039】
(1)本実施形態では、モータ10の駆動に係るトルク指令値に応じた駆動電流Itに加え、発熱に寄与する加熱指令値に応じた無効電流Ir1がコイル11〜13に通電されるので、第1インバータ部20、第2インバータ部30およびモータ10を速やかに昇温することができる。これにより、モータ10の作動油の温度を速やかに上昇させることができ、例えば寒冷地等における作動油の温度低下に伴う粘度の増加によるモータ効率の低下を抑制することができる。
【0040】
(2)制御部60は、第1インバータ部20または第2インバータ部30の一方を全相同電位とし、第1インバータ部20または第2インバータ部30の他方をトルク指令値および加熱指令値に基づいてスイッチングする。
ここで「全相同電位」とは、スイッチングする側のインバータ部に影響を与えない程度の誤差は許容されるものとする。
これにより、例えば低回転、低トルク域において、一方の電力供給源による電圧によりモータ10を駆動することにより、モータ効率を向上することができる。また、スイッチング損失を低減することができる。
(3)SW素子21〜26は、高電位側に接続される第1上アーム素子21〜23、および、低電位側に接続される第1下アーム素子24〜26から構成される。また、SW素子31〜36は、高電位側に接続される第2上アーム素子31〜33、および、第2下アーム素子34〜36から構成される。
【0041】
制御部60は、第1インバータ部20を全相同電位とする場合、第1上アーム素子21〜23または第1下アーム素子24〜26の一方を全相でオン、他方を全相でオフする。
また制御部60は、第2インバータ部30を全相同電位とする場合、第2上アーム素子31〜33または第2下アーム素子34〜36の一方を全相でオン、他方を全相でオフする。
これにより、第1インバータ部20または第2インバータ部30を適切に全相同電位とすることができる。
【0042】
(4)制御部60は、第1インバータ部20を全相同電位とする場合、第1上アーム素子21〜23の全相をオン、第1下アーム素子24〜26の全相をオフする期間と、第1上アーム素子21〜23の全相をオフ、第1下アーム素子24〜26の全相をオンする期間とを第1アーム切替期間毎に切り替える。
また制御部60は、第2インバータ部30を全相同電位する場合、第2上アーム素子31〜33の全相をオン、第2下アーム素子34〜36の全相をオフする期間と、第2上アーム素子31〜33の全相をオフ、第2下アーム素子34〜36の全相をオンする期間とを第2アーム切替期間毎に切り替える。
本実施形態では、オンにするアームをアーム切替期間毎に切り替えるので、一方のアームがオンされ続ける場合と比較して、アーム毎の熱損失の偏りを低減することができる。
【0043】
(5)制御部60は、第1インバータ部20をスイッチングし、第2インバータ部30を全相同電位とする期間と、第1インバータ部20を全相同電位とし、第2インバータ部30をスイッチングする期間とをインバータ切替期間毎に切り替える。
スイッチングするインバータ部を切り替えることにより、第1インバータ部20および第2インバータ部30を均等に昇温することができる。また、第1インバータ部20と第2インバータ部30との熱損失の偏りを低減することができる。特に、オンするアームをアーム切替期間毎に切り替えるように構成すれば、SW素子21〜26、31〜36の熱損失の偏りを低減することができる。また、スイッチングするインバータ部を切り替えることにより、第1インバータ部20および第2インバータ部30を均等に昇温することができる。
【0044】
(6)制御部60は、第1インバータ部20および第2インバータ部30をトルク指令値および加熱指令値に基づいてスイッチングする。第1インバータ部20および第2インバータ部30を共にスイッチングすることにより、スイッチング損失が大きくなるので、第1インバータ部20、第2インバータ部30およびモータ10をより速やかに昇温することができる。
【0045】
(7)本実施形態では、制御部60は、駆動電流Itの等トルク線L1の接線L2に平行な方向に無効電流Ir1を通電させる。これにより、モータ10の駆動に影響を与えることなく、無効電流Ir1を通電することができる。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を
図4に基づいて説明する。
以下の実施形態では、無効電流が上記実施形態と異なっているので、この点を中心に説明し、構成等の説明は省略する。
本実施形態では、駆動電流Itは、上記実施形態と同様、トルク指令値等に基づき、大きさおよび位相が指令演算部62にて演算される。
また、指令演算部62は、加熱指令値等に基づき、コイル11〜13の各相に通電される電流の方向および大きさが等しい無効電流Ir2を演算する。
【0047】
制御部60は、第1インバータ部20および第2インバータ部30の両方をトルク指令値および加熱指令値に基づいてスイッチングする前提とし、駆動電流Itに加え、無効電流Ir2としてコイル11〜13の各相に同方向に大きさの等しい電流を通電する。なお、本実施形態では、第1インバータ部20および第2インバータ部30の両方をトルク指令値および加熱指令値に基づいてスイッチングする前提とするが、本実施形態以外では、第1インバータ部20または第2インバータ部30の一方をスイッチングしてもよいし、第1インバータ部20および第2インバータ部30の両方をスイッチングしてもよい。
【0048】
ここで、無効電流Ir2の各相成分をI
0とした場合のd軸電流I
dおよびq軸電流I
qを式(1)に示す。以下、式中の角度に係る数値の単位は[deg]であるが、式中においては単位の記載を省略した。
【数1】
【0049】
式(1)に示すように、各相成分の大きさが等しい無効電流Ir2によるd軸電流I
dおよびq軸電流I
qは、いずれもゼロとなるため、無効電流Ir2によるトルクは生じない。
ここで、駆動電流Itおよび無効電流Ir2を通電したときの各相電流Iu、Iv、Iwを
図4に示す。
図4に示すように、モータ10が回転している状態において、駆動電流Itに無効電流Ir2を加えることにより、駆動電流Itがオフセットされ、駆動電流Itを通電した場合と比較してコイル11〜13に通電される各相電流Iu、Iv、Iwの通電量が大きくなる。これにより、第1インバータ部20、第2インバータ部30およびモータ10を速やかに昇温させることができる。また、モータ10が回転している状態では、コイル11〜13には、正弦波電流が均等に通電されるため、各相を均等に昇温することができる。
【0050】
本実施形態では、制御部60は、無効電流Ir2として、コイル11〜13の各相に通電方向および大きさの等しい電流を通電させる。これにより、モータ10の駆動に影響を与えることなく、無効電流Ir2を通電し、第1インバータ部20、第2インバータ部30、および、モータ10を昇温することができる。
ここで、無効電流Ir2によりコイル11〜13の各相に通電される電流は、モータ10の駆動に影響を与えない程度の誤差は許容されるものとする。
また、上記(1)、(6)と同様の効果を奏する。
【0051】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による電力変換装置を
図5に基づいて説明する。
例えば、駆動電流Itの等トルク線L1の接線L2方向以外の一方向に電流を通電し続けると、通電した電流によるトルクが生じる。また、生じたトルクを打ち消すような電流を通電すれば、トルクが相殺される。特に、モータ10の機械時定数より短い期間内において、無効電流による合計トルクがゼロであれば、モータ10の駆動に影響を与えない。
【0052】
そこで本実施形態では、無効電流を、
図5(a)に示す第1無効電流Ir31、および、
図5(b)に示す第2無効電流Ir32から構成する。第1無効電流Ir31および第2無効電流Ir32は、指令演算部62にて演算される。なお、駆動電流Itは、上記実施形態と同様、トルク指令値等に基づき、大きさおよび位相が指令演算部62にて演算される。
第1無効電流Ir31は、駆動電流Itと直交する方向であって、加熱指令値等に応じた大きさの電流である。第2無効電流Ir32は、第1無効電流Ir31と大きさが等しく、方向が反対向きの電流である。
ここでは、無効電流Ir31、Ir32は、駆動電流Itに直交する例を説明するが、無効電流Ir31、Ir32の方向は駆動電流Itの直交方向に限らない。
【0053】
本実施形態では、制御部60は、
図5(a)に示す第1無効電流Ir31が通電される状態と、
図5(b)に示す第2無効電流Ir32が通電される状態とを切り替える。また制御部60は、第1無効電流Ir31が通電される期間P31と、第2無効電流Ir32が通電される期間P32とは、モータ10の機械時定数より短い所定期間Ps内にて等しくなるように切り替える。
【0054】
したがって、所定期間Ps内における第1無効電流Ir31によるトルクと第2無効電流Ir32によるトルクとの和はゼロとなり、第1無効電流Ir31によるトルクと第2無効電流Ir32によるトルクとが相殺される。本実施形態では、所定期間Psは、モータ10の機械時定数より短い期間に設定されるので、モータ10の駆動に影響を与えることなく、第1無効電流Ir31および第2無効電流Ir32を通電することができる。
ここで、第1無効電流Ir31および第2無効電流Ir32の大きさ、および、通電期間は、モータ10の駆動に影響を与えない程度の誤差は許容されるものとする。この点については、他の実施形態に係る無効電流についても同様である。
【0055】
(8)本実施形態では、制御部60は、所定期間Ps内における無効電流Ir31、Ir32による合計トルクがゼロとなる無効電流Ir31、Ir32をコイル11〜13に通電させる。また、本実施形態の所定期間Psは、モータ10の機械時定数より短い。
詳細には、無効電流は、第1無効電流Ir31および第2無効電流Ir32から構成され、制御部60は、第1無効電流Ir31が通電される期間と第2無効電流Ir32が通電される期間とを所定期間Ps内にて切り替える。
【0056】
これにより、所定期間Ps内における無効電流Ir31、Ir32による合計トルクがゼロとなるので、モータ10の駆動に影響を与えることなく、無効電流Ir31、Ir32を通電し、第1インバータ部20、第2インバータ部30、および、モータ10を昇温することができる。
また、上記(1)〜(6)と同様の効果を奏する。
なお、「合計トルクがゼロとなる無効電流」とは、モータ10の駆動に影響を与えない程度の誤差は許容されるものとする。
【0057】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による電力変換装置を
図8〜
図10に基づいて説明する。
まず第1実施形態〜第3実施形態について言及しておく。
モータ10が回転しているとき、第1実施形態〜第3実施形態のように、dq座標における特定の方向に電流を通電したとしても、dq座標が回転することにより、各相に均等に通電することができる。
一方、モータ10が停止している場合、dq座標が回転しないため、特定方向に電流を通電すると、モータ10に通電される電流は直流化する。
【0058】
ここで、モータ10がロータ位置0[deg]、すなわちd軸=U相で停止している場合を例に説明する。
図6に示すように、モータ10が停止している状態にて、駆動電流Itを通電すると、各相電流Iu、Iv、Iwが直流状態となる。
また
図7に示すように、モータ10が停止している状態にて、第3実施形態にて説明した第1無効電流Ir31および第2無効電流Ir32を通電した場合、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値が異なり、各相を均等に昇温することができない。
【0059】
そこで本実施形態では、直交する大きさの等しい2つの電流ベクトルを繰り返すと、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値が均等になることに着目し、駆動電流Itの直交方向と平行方向に無効電流を通電する。
dq座標において、直交する大きさの等しい2つの電流ベクトルの各相電流Iu、Iv、Iwの実効値について説明する。大きさがIaである直交する2つの電流ベクトル(d
1、q
1)、(d
2、q
2)を式(2)、(3)に示す。
【0061】
次に、式(2)に示す電流ベクトル(d
1、q
1)を逆dq変換により、3相座標に変換した式を式(4)に示す。
【0063】
また、式(3)に示す電流ベクトル(d
2、q
2)を逆dq変換により、3相座標に変換した式を数(5)に示す。
【0065】
ここで2つの電流ベクトル(d
1、q
1)、(d
2、q
2)を交互に繰り返したときの各相電流Iu、Iv、Iwの実効値を式(6)〜(8)に示す。
【0067】
式(6)〜(8)に示すように、大きさが等しく、dq座標にて直交する2つの電流ベクトル(d
1、q
1)、(d
2、q
2)を交互に繰り返したときの各相電流Iu、Iv、Iwの実効値は等しい。
換言すると、電流ベクトル(d
1、q
1)方向を第1軸、電流ベクトル(d
2、q
2)方向を第2軸とすると、第1軸と第2軸とが直交する直交座標において、第1軸の実効値と、第2軸の実効値とが等しければ、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値は等しい。なお、任意の直交座標における2軸の実効値が等しければ、dq座標におけるd軸の実効値とq軸の実効値も等しくなる。
【0068】
なお、直交する2軸である第1軸および第2軸において、第1の電流I1の第1軸実効値をx1、第2軸実効値をy1、第1の電流I1と異なる第2電流I2の第1軸実効値をx2、第2軸実効値をy2とすると、第1の電流I1および第2電流I2による第1軸実効値Xおよび第2軸実効値Yは、以下の式(9)、(10)で表される。
【0070】
そこで本実施形態では、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値を等しくすべく、実効値が等しく、かつ、直交する2つの電流ベクトルとなるように、駆動電流Itおよび無効電流Ir41〜Ir44を通電する。
本実施形態における駆動電流および無効電流を
図8および
図9に基づいて説明する。
【0071】
図8に示すように、駆動電流Itは、上記実施形態と同様、例えばトルク指令値等に基づき、大きさおよび位相が指令演算部62にて演算される。
また
図9に示すように、本実施形態の無効電流は、4つの電流ベクトルで表される第1直交無効電流Ir41、第2直交無効電流Ir42、第1平行無効電流Ir43、および、第2平行無効電流Ir44から構成され、これらは指令演算部62にて演算される。なお、
図8中には、第1直交無効電流Ir41および第1平行無効電流Ir43を示している。以下適宜、第1直交無効電流Ir41、第2直交無効電流Ir42、第1平行無効電流Ir43、および、第2平行無効電流Ir44を「無効電流Ir41〜Ir44」という。
【0072】
図9(a)に示すように、第1直交無効電流Ir41は、駆動電流Itに直交する方向であって、加熱指令値等に応じた大きさの電流である。
図9(b)に示すように、第2直交無効電流Ir42は、第1直交無効電流Ir41と大きさが等しく、方向が反対方向である。
図9(c)に示すように、第1平行無効電流Ir43は、駆動電流Itと平行する方向であって、駆動電流Itおよび第1平行無効電流Ir43による駆動電流It方向の実効値と第1直交無効電流Ir41の駆動電流Itの直交方向の実効値とが等しくなる大きさである。詳細には、第1直交無効電流Ir41の大きさが駆動電流Itの大きさより大きい場合、第1平行無効電流Ir43の大きさは、第1直交無効電流Ir41の大きさの2乗値から駆動電流Itの大きさの2乗値を減じた値の平方根とする。これにより、駆動電流It方向を第1軸、駆動電流Itの直交方向を第2軸とすると、式(9)、(10)で示す実効値が等しくなる。
図9(d)に示すように、第2平行無効電流Ir44は、第1平行無効電流Ir41と大きさが等しく、方向が反対方向である。
【0073】
ここで、本実施形態では、駆動電流It方向を第1軸とし、駆動電流Itに直交する方向を第2軸とする。また、第1直交無効電流Ir41および第1平行無効電流Ir43が「第1無効電流」に対応し、第2直交無効電流Ir42および第2平行無効電流Ir44が「第2無効電流」に対応する。
【0074】
本実施形態では、
図9(a)〜(d)に示すように、駆動電流Itに加え、無効電流として、第1直交無効電流Ir41、第2直交無効電流Ir42、第1平行無効電流Ir43、および、第2平行無効電流Ir44を繰り返す。これにより、直交する2軸の実効値が等しくなるため、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値が等しくなる。
【0075】
本実施形態では、第1直交無効電流Ir41が通電される期間P41と、第2直交無効電流Ir42が通電される期間P42と、第1平行無効電流Ir43が通電される期間P43と、第2平行無効電流Ir44が通電される期間P44とが、モータ10の機械時定数より短い所定期間Ps内にて等しくなるように切り替える。
【0076】
すなわち、所定期間Ps内において、第1直交無効電流Ir41が通電される期間P41と第2直交無効電流Ir42が通電される期間P42とが等しいので、第1直交無効電流Ir41により生じるトルクと第2直交無効電流Ir42により生じるトルクとが相殺される。これにより、モータ10の駆動に影響を与えることなく、第1直交無効電流Ir41および第2直交無効電流Ir42を通電することができる。
【0077】
また、所定期間Ps内において、第1平行無効電流Ir43が通電される期間P43と第2平行無効電流Ir44が通電される期間P44とが等しいので、第1直交無効電流Ir41により生じるトルクと第2直交無効電流Ir42により生じるトルクとが相殺される。これにより、モータ10の駆動に影響を与えることなく、第1平行無効電流Ir43および第2平行無効電流Ir44を通電することができる。
【0078】
図10には、モータ10がロータ位置0[deg]で停止している状態にて、期間P41〜P44を切り替えた場合の各相電流Iu、Iv、Iwを示している。
図10に示すように、期間P41〜P44を切り替えることにより、コイル11〜13にはパルス状の電圧が印加され、パルス状の各相電流Iu、Iv、Iwが通電される。
【0079】
上述のように、期間P41〜P44を切り替えることにより、無効電流Ir41〜Ir44によるトルクが相殺され、モータ10の駆動に影響を与えることなく、無効電流Ir41〜Ir44を通電することができる。また、駆動電流It方向を第1軸、駆動電流Itと直交する方向を第2軸とすると、駆動電流Itおよび無効電流Ir41〜Ir44による第1軸の実効値と、駆動電流Itおよび無効電流Ir41〜Ir44による第2軸の実効値とが等しいので、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値が等しくなる。
【0080】
本実施形態では、制御部60は、モータ10の機械時定数より短い期間である所定期間Ps内における無効電流Ir41〜Ir44による合計トルクがゼロとなる無効電流Ir41〜Ir44をコイル11〜13に通電させる。詳細には、制御部60は、第1直交無効電流Ir41と、第1直交無効電流Ir41と大きさが等しく方向が反対向きの第2直交無効電流Ir42とを所定期間Ps内にて切り替えてコイル11〜13に通電させる。また制御部60は、第1平行無効電流Ir43と、第1平行無効電流Ir43と大きさが等しく方向が反対方向のIr44とを所定期間Ps内にて切り替えてコイル11〜13に通電させる。
【0081】
(9)制御部60は、コイル11〜13の各相を均等に昇温させる無効電流Ir41〜Ir44をコイル11〜13に通電させる。
詳細には、制御部60は、第1軸と第2軸とが直交する直交座標において、駆動電流Itおよび無効電流Ir41〜Ir44による第1軸の実効値と、駆動電流Itおよび無効電流Ir41〜Ir44による第2軸の実効値とが等しくなる駆動電流Itおよび無効電流Ir41〜Ir44をコイル11〜13に通電させる。
【0082】
これにより、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値が等しくなるので、モータ10が停止している状態であっても、各相を均等に昇温可能である。
なお、「駆動電流および無効電流による第1軸の実効値と、駆動電流および無効電流による第2軸の実効値とが等しい」とは、完全に等しい場合に限らず、各相を均等に昇温させることができる程度の誤差は許容されるものとする。
また、上記(1)〜(6)、(8)と同様の効果を奏する。
【0083】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態による電力変換装置を
図11および
図12に示す。
図11に示すように、駆動電流Itは、上記実施形態と同様、例えばトルク指令値等に基づき、大きさおよび位相が指令演算部62にて演算される。
また、指令演算部62では、直交方向無効電流Ir51および平行方向無効電流Ir52を演算する。直交方向無効電流Ir51は、駆動電流Itと直交する方向であって、加熱指令値等に応じた大きさの電流である。また、平行方向無効電流Ir52は、駆動電流Itと平行する方向であって、駆動電流Itおよび平行方向無効電流Ir52による駆動電流It方向の実効値と直交方向無効電流Ir51の駆動電流Itの直交方向の実効値とが等しくなる大きさである。詳細には、直交方向無効電流Ir51が駆動電流Itより大きいとすると、平行方向無効電流Ir52の大きさは、直交方向無効電流Ir51の大きさの2乗値から駆動電流Itの大きさの2乗値を減じた値の平方根とする。
【0084】
本実施形態の無効電流Ir5は、所定期間Ps内において、直交方向無効電流Ir51を長半径、平行方向無効電流Ir52を短半径とする楕円軌跡L5を描く高周波回転電流である。
すなわち、制御部60は、
図12(a)、(b)、(c)・・・と無効電流Ir5を変化させる。これにより、無効電流Ir5は、楕円軌跡L5を描く。
【0085】
ここで、駆動電流It方向を第1軸、駆動電流Itと直交する方向を第2軸とすると、無効電流Ir5の第1軸の実効値は、楕円軌跡L5の短半径である平行方向無効電流Ir52をピーク値とする実効値であり、無効電流Ir5の第2軸の実効値は、楕円軌跡L5の長半径である直交方向無効電流Ir51をピーク値とする実効値である。これにより、駆動電流It方向を第1軸、駆動電流Itの直交方向を第2軸とすると、式(8)、(9)で示す実効値が等しくなる。
したがって、駆動電流Itおよび無効電流Ir5による第1軸の実効値と、駆動電流Itおよび無効電流Ir5による第2軸の実効値とが等しいので、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値は等しい。
【0086】
また本実施形態の無効電流Ir5は、モータ10の機械時定数より十分に大きい高周波の回転電流であり、所定期間Psにおける無効電流Ir5による合計トルクがゼロとなるので、モータ10の駆動に影響を与えることなく無効電流Ir5を通電することができる。
【0087】
なお、
図11および
図12においては、直交方向無効電流Ir51が長半径、平行方向無効電流Ir52が短半径となる楕円軌跡の例である。ここで、直交方向無効電流Ir51と平行方向無効電流Ir52の大きさが等しければ、すなわち駆動電流It=0であれば、無効電流Ir5の軌跡L5は円となる。もちろんこのような円軌跡は、楕円軌跡の概念に含まれるものとする。
【0088】
図13には、モータ10がロータ位置0[deg]で停止している状態にて、高周波回転電流である無効電流Ir5を通電した場合の各相電流Iu、Iv、Iwを示している。
図13に示すように、各相電流Iu、Iv、Iwは、正弦波波形となる。また、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値は等しい。
【0089】
(10)本実施形態では、制御部60は、モータ10の機械時定数より短い期間である所定期間Ps内における無効電流Ir5による合計トルクがゼロとなる無効電流Ir5をコイル11〜13に通電させる。
詳細には、本実施形態の無効電流Ir5は、所定期間Ps内に楕円軌跡L5を描く高周波回転電流である。
【0090】
これにより、モータ10の駆動に影響を与えることなく、無効電流Ir5を通電することができるので、第1インバータ部20、第2インバータ部30、および、モータ10を昇温することができる。
また上記(1)〜(6)、(9)と同様の効果を奏する。
【0091】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態による電力変換装置を
図14および
図15に基づいて説明する。
図14に示すように、駆動電流Itは、上記実施形態と同様、例えばトルク指令値等に基づき、大きさおよび位相が指令演算部62にて演算される。
また、指令演算部62では、加熱指令値等に応じ、d軸無効電流Ir61およびq軸無効電流Ir62を演算する。本実施形態では、駆動電流Itおよびd軸無効電流Ir61によるd軸の実効値が、駆動電流Itおよびq軸無効電流Ir62によるq軸実効値と等しくなるように、d軸無効電流Ir61およびq軸無効電流Ir62が演算される。
【0092】
なお、駆動電流Itの大きさをIta、d軸基準の位相をθとすれば、駆動電流Itのd軸実効値をIt(d)、q軸実効値をIt(q)すると、d軸実効値It(d)およびq軸実効値It(q)は、以下の式(10)、(11)のように表される。
It(d)=Ita×cosθ ・・・(10)
It(q)=Ita×sinθ ・・・(11)
【0093】
本実施形態の無効電流Ir6は、所定期間Ps内において、d軸無効電流Ir61を長半径、q軸無効電流Ir62を短半径とする楕円軌跡L6を描く高周波回転電流である。
ここで、q軸方向を第1軸、d軸方向を第2軸とすると、無効電流Ir6の第1軸の実効値は、楕円軌跡L6の短半径であるq軸無効電流Ir62の実効値であり、無効電流Ir6の第2軸の実効値は、楕円軌跡L6の長半径であるd軸無効電流Ir61の実効値である。
したがって、駆動電流Itおよび無効電流Ir6によるq軸の実効値と、駆動電流Itおよび無効電流Ir5によるd軸の実効値とが等しいので、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値は等しい。
【0094】
また本実施形態の無効電流Ir6は、モータ10の機械時定数より十分に大きい高周波の回転電流であり、所定期間Psにおける無効電流Ir6による合計トルクがゼロとなるので、モータ10の駆動に影響を与えることなく無効電流Ir6を通電することができる。
なお、第5実施形態と同様、駆動電流Itが0であれば、無効電流Ir6の軌跡L6は円となる。
【0095】
図15には、モータ10がロータ位置0[deg]で停止している状態にて、高周波回転電流である無効電流Ir6を通電した場合の各相電流Iu、Iv、Iwを示している。
図15に示すように、各相電流Iu、Iv、Iwは、正弦波波形となる。また、各相電流Iu、Iv、Iwの実効値は等しい。
これにより、上記(1)〜(6)、(9)、(10)と同様の効果を奏する。
【0096】
(他の実施形態)
(ア)上記実施形態では、スイッチングする側のインバータ部を構成するスイッチング素子のオンオフ作動の制御に係るキャリア波の周波数を一定とする。他の実施形態では、制御部は、加熱指令値等に応じ、キャリア波の周波数を可変とすることによりスイッチング周波数を可変としてもよい。すなわち、スイッチング周波数を加熱指令値に基づいて決定してもよい。スイッチング周波数を高めることにより、スイッチング損失により第1インバータ部、第2インバータ部、および、回転電機を昇温可能である。なお、広義では、加算する無効電流をゼロとし、スイッチング周波数を高めることにより、第1インバータ部、第2インバータ部、および、回転電機を昇温することができる。
【0097】
(イ)上記実施形態では、第1インバータ部を全相同電位とする場合、第1上アーム素子をオン、第1下アーム素子をオフする状態と、第1上アーム素子をオフ、第2下アーム素子をオンする状態とを第1アーム切替期間毎に切り替える。また、第2インバータ部を全相同電位とする場合、第2上アーム素子をオン、第2下アーム素子をオフする状態と、第2上アーム素子をオフ、第2下アーム素子をオンする状態とを第2アーム切替期間毎に切り替える。さらにまた、第1インバータ部をスイッチングし、第2インバータ部を全相同電位とする状態と、第1インバータ部を全相同電位とし、第2インバータ部をスイッチングする状態とをインバータ切替期間毎に切り替える。
【0098】
他の実施形態では、例えば第1スイッチング素子および第2スイッチング素子の温度を検出し、検出された温度に基づき、オンにするアームや、全相同電位とするインバータ部を切り替えるようにしてもよい。換言すると、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子の温度に基づき、第1アーム切替期間、第2アーム切替期間、および、インバータ切替期間の少なくとも1つを可変にしてもよい、ということである。このように構成しても、スイッチング素子の熱損失の偏りを低減することができる。
【0099】
また、第1インバータ部を全相同電位とする場合において、各スイッチング素子のオン時間等に応じ、第1上アーム素子をオンにする期間と、第1下アーム素子をオンにする時間とが異なるようにしてもよい。同様に、第2インバータ部を全相同電位とする場合において、各スイッチング素子のオン時間等に応じ、第2上アーム素子をオンにする期間と、第2下アーム素子をオンにする期間とが異なるようにしてもよい。
また、他の実施形態では、オンするアームを切り替えなくてもよいし、全相同電位とするインバータ部を切り替えなくてもよい。
【0100】
(ウ)上記第4実施形態では、駆動電流および無効電流による第1軸の実効値と、駆動電流および無効電流による第2軸の実効値とが等しくなるように、無効電流は、駆動電流と直交方向の正負の無効電流、および、駆動電流と平行方向の正負の無効電流から構成された。他の実施形態では、駆動電流および無効電流による第1軸の実効値と、駆動電流および無効電流による第2軸の実効値とが等しければ、無効電流は、駆動電流の直交方向および平行方向の電流に限らず、どのような電流から構成してもよい。駆動電流および無効電流による第1軸の実効値と、駆動電流および無効電流による第1軸と直交する第2軸の実効値とが等しければ、各相電流の実効値が等しくなるので、各相を均等に昇温することができる。
【0101】
また、駆動電流および無効電流による第1軸の実効値と、駆動電流および無効電流による第2軸の実効値とは、等しくなくてもよい。例えば第3実施形態や第4実施形態のように、複数の無効電流を切り替えるようにしてもよいし、第5実施形態や第6実施形態のように、楕円軌跡を描く高周波回転電流としてもよい。
この場合、各相均等ではないが、無効電流を通電することにより作動油を昇温可能であるので、作動油の温度低下による粘度増加に伴う回転電機の効率低下を抑制可能である。なお、回転電機の駆動に影響を与えずに無効電流を通電すべく、所定期間内における無効電流による合計トルクはゼロであることが好ましい。
【0102】
(エ)上記実施形態では、スイッチング素子はIGBTである。他の実施形態では、スイッチング素子は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ、バイポーラトランジスタ等を用いることができる。
(オ)上記実施形態では、第1インバータ部および第2インバータ部は、2レベルインバータである。他の実施形態では、第1インバータ部および第2インバータ部は、3レベル以上のインバータであってもよい。
【0103】
(カ)上記実施形態では、回転電機は、電動機としての機能および発電機としての機能を併せ持つ所謂モータジェネレータであるが、他の実施形態では、発電機としての機能を持たない電動機であってもよいし、電動機としての機能を持たない発電機であってもよい。また、上記実施形態では、回転電機は3相交流電動機である。他の実施形態では、4相以上の回転電機であってもよい。
(キ)上記実施形態では、回転電機は、電動車両の車両主機に適用される。他の実施形態では、回転電機は、車両補機に適用してもよいし、他の装置に適用してもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。