(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電解質膜・電極構造体では、例えば、設置レイアウトの自由度を高められる等の利点から、出力を低下させることなく小型化すること、すなわち、単位体積当たりの出力(出力密度)を増大させることが望まれている。
【0008】
電解質膜・電極構造体を単に小型化する方法としては、厚さを減少させたガス拡散層を用いることが考えられる。しかしながら、この場合、反応ガスのガス拡散性を十分に維持することができず、発電特性が低下してしまう懸念がある。つまり、ガス拡散層の厚さを低減しても、電解質膜・電極構造体の出力密度を十分に増大させることに至らない懸念がある。
【0009】
なお、特許文献1、2に記載するような織物構造では、表面に織目が生じた凹凸形状となってしまうため、厚さを一様に減少させること自体が困難である。
【0010】
以上のように、電解質膜・電極構造体において、燃料ガス及び酸化剤ガスの各々のガス拡散性を維持しつつ、体積を減少させて、出力密度を向上させることについては、十分な考慮がなされていなかった。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、出力密度を良好に向上させることができる電解質膜・電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、固体高分子膜からなる電解質膜をアノード電極とカソード電極で挟持した重畳体から構成される電解質膜・電極構造体であって、
前記アノード電極は、前記電解質膜に臨むアノード電極触媒層と、アノードガス拡散層とを有し、
前記カソード電極は、前記電解質膜に臨むカソード電極触媒層と、カソードガス拡散層とを有し、
前記重畳体に
3MPaの締結荷重が付与された
状態の前記アノードガス拡散層は、厚さが0.12〜0.17mm、表面抵抗率が0.70〜1.00Ω/□であり、
前記重畳体に
3MPaの締結荷重が付与された
状態の前記カソードガス拡散層は、厚さが0.15〜0.22mm、表面抵抗率が0.60〜0.70Ω/□であり、
前記アノードガス拡散層の表面抵抗率が、前記カソードガス拡散層に比して大きいことを特徴とする。
【0013】
なお、「Ω/□(オーム・パー・スクエア)」については、JIS K 6911に定義されている。
【0014】
電解質膜・電極構造体のアノード電極に供給される燃料ガス中の水素は、カソード電極に供給される酸化剤ガス中の酸素に比して分子量が小さく、拡散性が高い。このため、燃料ガスは、カソードガス拡散層よりも厚さが小さいアノードガス拡散層においても、十分に拡散することができる。従って、カソードガス拡散層よりもアノードガス拡散層の厚さを小さくすることによって、発電特性(出力)を低下させることなく、電解質膜・電極構造体の体積を小さくすることができる。その結果、電解質膜・電極構造体の出力密度を良好に向上させることが可能になる。
【0015】
具体的には、アノードガス拡散層の厚さがカソードガス拡散層の厚さよりも小さく、且つガス拡散層の各々の厚さが上記の範囲内であるとき、電解質膜・電極構造体の出力密度を良好に向上させることができる。
【0016】
ここでのガス拡散層の厚さは、電解質膜・電極構造体を構成する重畳体に締結荷重が付与された後の厚さである。締結荷重は、電解質膜・電極構造体(重畳体)をセパレータによって挟持して単位セルを構成し、該単位セルをさらに積層した状態で締結して燃料電池を構成する場合等に、重畳体に対して付与される荷重である。
【0017】
アノードガス拡散層の厚さを0.12mm以上、且つカソードガス拡散層の厚さを0.15mm以上とすることで、ガス拡散層の各々が変形することや形状保持性が低下すること等を防止できる。また、アノードガス拡散層の厚さを0.17mm以下、且つカソードガス拡散層の厚さを0.22mm以下とすることで、電解質膜・電極構造体の厚さを良好に低減することができる。
【0018】
上記の通り、燃料ガス及び酸化剤ガスの各々の拡散性に応じて、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層の厚さが設定されている。このように、ガス拡散層の厚さが互いに異なる場合、ガス拡散層の各々に対して、適切となる大きさの締結荷重が加えられる必要がある。
【0019】
ガス拡散層の何れか一方にでも、過剰な締結荷重が加えられてしまうと、該ガス拡散層を構成するカーボンペーパ等の炭素繊維に破断が生じること等によって、細孔が閉塞されてしまい、ガス拡散性や排水性が低下する懸念がある。
【0020】
また、ガス拡散層の何れか一方に対してでも、締結荷重が不足してしまうと、単位セルを十分にシールすることができず、反応ガスの漏れ(アウトリーク)が生じてしまう懸念がある。従って、ガス拡散層の各々に対する締結荷重が過剰である場合及び不足する場合の何れも、電解質膜・電極構造体の発電特性が低下してしまい、出力密度を十分に向上させることが困難になる懸念がある。
【0021】
そこで、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層について、さらに、電解質膜・電極構造体を構成する重畳体に締結荷重が付与された後の表面抵抗率(以下、単に表面抵抗率ともいう)を上記の範囲内に調整した。
【0022】
一般的に、ガス拡散層に荷重が加わると、該荷重の大きさに応じて、ガス拡散層の表面抵抗率の大きさも変化する。このため、重畳体に対して締結荷重が加えられた後のガス拡散層は、該締結荷重の大きさに応じた表面抵抗率を示す。つまり、厚さが上記の範囲内にあるガス拡散層の両方に対して適切な大きさの締結荷重が加えられた場合、該ガス拡散層の各々の表面抵抗率が上記の範囲内となる。
【0023】
具体的には、アノードガス拡散層の表面抵抗率を、カソードガス拡散層の表面抵抗率よりも大きくし、且つアノードガス拡散層の表面抵抗率を0.70Ω/□以上、及びカソードガス拡散層の表面抵抗率を0.60Ω/□以上とする。これによって、発電性能を維持しながら、ガス拡散層を薄くすることが可能になる。また、アノードガス拡散層の表面抵抗率を1.00Ω/□以下、及びカソードガス拡散層の表面抵抗率を0.70Ω/□以下とする。これによって、ガス拡散層の厚さを確保して良好なガス拡散性を維持しながら、該ガス拡散層のカーボン繊維が破断すること等を効果的に防止できる。
【0024】
以上から、ガス拡散層の各々の厚さを上記の範囲内とすることで、発電特性を低下させることなく、電解質膜・電極構造体の体積を小さくすることができる。さらに、このときの表面抵抗率を上記の範囲内とすることで、ガス拡散層に加わる締結荷重の大きさを、ガス拡散性や排水性を維持しつつ、アウトリークを抑制することができる範囲内に調整できる。すなわち、電解質膜・電極構造体について、出力を低下させることなく小型化することができ、出力密度を良好に向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、重畳体に締結荷重を付与した後のアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層における厚さ及び表面抵抗率を所定の範囲に調整することで、出力密度を良好に向上させた電解質膜・電極構造体を得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る電解質膜・電極構造体につき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1は、固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」とも表記する)10の斜視説明図であり、
図2は、燃料電池10の要部概略縦断面図である。この燃料電池10は、本実施形態に係る電解質膜・電極構造体12(重畳体)が組み込まれた単位セル14を含んで構成される。
【0029】
具体的には、燃料電池10は、例えば20個以上の複数個の単位セル14が矢印A方向に積層される。
図2に示すように、単位セル14の積層方向両端には、ターミナルプレート16、16及び絶縁プレート18、18を介装してエンドプレート20、20が配置される。
【0030】
なお、単位セル14を積層する個数は、燃料電池10によって所望の発電力が得られるように設定することが可能である。すなわち、燃料電池10を、例えば、燃料電池車両に搭載する場合、該車両を駆動するために必要な発電力が得られる個数の単位セル14を積層して、燃料電池10を構成することができる。
【0031】
また、
図1に示すように、燃料電池10の矢印B方向の一端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、酸素含有ガス等の酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔22、純水やエチレングリコール等の冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔24、水素含有ガス等の燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔26が設けられる。
【0032】
また、燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔28、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔30、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔32が設けられる。
【0033】
エンドプレート20、20は、積層した単位セル14の両端を挟持した状態で、例えば、複数のタイロッド34により積層方向に締め付けられる。これによって、単位セル14に組み込まれた電解質膜・電極構造体12(重畳体)に積層締結時の荷重(締結荷重)が加わる。なお、タイロッド34の先端側に配置されるエンドプレート20には、タイロッド34の雄ねじと螺合するねじ孔(図示せず)が形成されている。あるいは、エンドプレート20に、上記ねじ孔に代えて貫通孔を形成し、タイロッド34の先端にナット(図示せず)を螺合してもよい。
【0034】
また、エンドプレート20、20間にプレート(図示せず)を介装して上記エンドプレート20、20間の距離を調整することにより、締結荷重を付与してもよい。さらに、エンドプレート20と絶縁プレート18との間に、皿ばね(図示せず)を介装して荷重を加えてもよい。
【0035】
図2に示すように、各単位セル14は、電解質膜・電極構造体12と、アノード側セパレータ36と、カソード側セパレータ38とが、例えば、立位姿勢で積層されて構成される。
【0036】
アノード側セパレータ36及びカソード側セパレータ38としては、例えば、カーボンセパレータが使用されるが、これに代えて金属セパレータを用いてもよい。
【0037】
アノード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体12に臨む面には、燃料ガス入口連通孔28と、燃料ガス出口連通孔26とに連通する燃料ガス流路40が、水平方向(矢印B方向)に延在して設けられる。
【0038】
同様に、カソード側セパレータ38の電解質膜・電極構造体12に臨む面には、酸化剤ガス入口連通孔22と、酸化剤ガス出口連通孔32とに連通する酸化剤ガス流路42が水平方向に延在して設けられる。
【0039】
単位セル14を複数個積層した際にアノード側セパレータ36とカソード側セパレータ38とが互いに対向する面同士の間には、冷却媒体入口連通孔24と、冷却媒体出口連通孔30とに連通する冷却媒体流路44が一体的に形成されている。
【0040】
電解質膜・電極構造体12は、固体高分子膜からなる電解質膜46をアノード電極48とカソード電極50とで挟持した重畳体から構成される。
【0041】
電解質膜46の外形寸法(表面積)は、アノード電極48及びカソード電極50の外形寸法よりも大きく設定される。これによって、アノード電極48及びカソード電極50の一方の電極に供給された反応ガスが他方の電極に移動することを防止できる。また、後述するシール部材68、70、72によって、電解質膜・電極構造体12からその外部へ反応ガスが漏れること(アウトリーク)を防止できる。
【0042】
電解質膜46は、例えば、陽イオン交換樹脂に属してプロトン伝導性を備えるポリマーを、フィルム状に形成したものを用いることができる。陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸等のビニル系ポリマーのスルホン化物や、パーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、パーフルオロアルキルカルボン酸ポリマー、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性高分子にスルホン酸基又はリン酸基を導入したポリマーや、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られる剛直ポリフェニレンを主成分として、これにスルホン酸基を導入したポリマー等が挙げられる。
【0043】
アノード電極48は、アノード電極触媒層52と、アノードガス拡散層54とを有している。一方、カソード電極50は、カソード電極触媒層56と、カソードガス拡散層58とを有している。なお、以降の説明では、アノード電極触媒層52とカソード電極触媒層56とを特に区別しないとき、これらを総称して電極触媒層ともいう。アノードガス拡散層54とカソードガス拡散層58とについて同様にガス拡散層ともいう。
【0044】
アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56の各々は、電解質膜46と接合されている。すなわち、電解質膜46、アノード電極触媒層52、カソード電極触媒層56によって、電解質膜−電極触媒層接合体(CCM)を形成している。
【0045】
アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56は、触媒金属を担持した炭素粒子(触媒粒子)を含んで構成されている。炭素粒子としては、カーボンブラックを用いることができるが、この他にも、例えば、黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブ等の炭素化合物を採用することができる。一方、触媒金属としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0046】
なお、アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56のそれぞれは、組成の異なる2層以上の触媒層から構成されていてもよく、互いの厚さ及び外形寸法が異なっていてもよい。また、アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56は、電解質膜46に接合して設けられ、外形寸法が該電解質膜46に比して小さく設定される。
【0047】
アノードガス拡散層54は、多孔質層から構成されている。また、カソードガス拡散層58は、基材60と、多孔質層62とが積層されて構成されている。
【0048】
アノードガス拡散層54(多孔質層)及び多孔質層62は、電子伝導性物質と撥水性樹脂とを含む多孔質性の層であり、該電子伝導性物質に基づいて導電性を示す。この電子伝導性物質の好適な例としては、ファーネスブラック(ケチェン・ブラック・インターナショナル社製「ケチェンブラックEC」及び「ケチェンブラックECP600JD」、Cabot社製「バルカンXC−72」、東海カーボン社製「トーカブラック」、旭カーボン社製「旭AX」等;何れも商品名)、アセチレンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック」等;商品名)、グラッシーカーボンの粉砕品、気相法炭素繊維(昭和電工社製「VGCF」及び「VGCF−H」等;何れも商品名)、カーボンナノチューブ、及びこれらを黒鉛化処理した粉末を単独又は2種以上混合したものが挙げられる。
【0049】
一方の撥水性樹脂の素材としては、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEPをはじめとする結晶性フッ素樹脂や、旭硝子社製の「ルミフロン」及び「サイトップ」(何れも商品名)等の非晶質フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂等が例示され、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0050】
基材60は、例えば、多数の繊維状カーボンがセルロース質に含有されることで構成されたカーボンペーパを含んで構成される。具体的には、基材60は、上記のカーボンペーパに、例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等からなる撥水性樹脂を含有させた構成としてもよい。また、基材60の外形寸法は、多孔質層62の外形寸法と略同等に設定されている。
【0051】
ここで、上記の締結荷重が付与された後のアノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の物性値(厚さ及び表面抵抗率)は、以下に示す範囲に定められている。すなわち、アノードガス拡散層54は、厚さが0.12〜0.17mm、表面抵抗率が0.70〜1.00Ω/□である。また、カソードガス拡散層58は、厚さが0.15〜0.22mm、表面抵抗率が0.60〜0.70Ω/□である。また、アノードガス拡散層54は、カソードガス拡散層58に比して、表面抵抗率が大きく(厚さが小さく)設定される。
【0052】
これらの物性値は、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の最大細孔径、平均細孔径、細孔径分布、撥水性樹脂の種類や量等を適宜調整することや、後述するように締結荷重の大きさを調整することによって設定できる。
【0053】
なお、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の厚さは、例えば、一般的なレーザ変位計を用いて求めることができる。ここで、アノードガス拡散層54の厚さは、締結荷重を付与した後の多孔質層の厚さの測定値である。また、カソードガス拡散層58の厚さは、締結荷重を付与した後の基材60及び多孔質層62の積層体の厚さである。
【0054】
表面抵抗率は、例えば、JIS K 7194に準拠して、四探針法により求めることができる。具体的には、締結荷重を付与した後のガス拡散層に4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流す。そして、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗値(V/I)を算出する。この抵抗値に抵抗率補正係数(RCF)を乗ずることにより、表面抵抗率(Ω/□)を算出することができる。
【0055】
なお、基材60と多孔質層62の積層体からなるカソードガス拡散層58の表面抵抗率は、基材60及び多孔質層62側の何れの面に対して測定を行ってもよいが、損傷を受け難い面に対して測定を行うことが好ましい。
【0056】
アノードガス拡散層54の外形寸法は、アノード電極触媒層52に比して大きく設定され、カソードガス拡散層58の外形寸法は、カソード電極触媒層56に比して大きく設定されている。すなわち、アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56は、上記の通り、電解質膜46、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58に比して外形寸法が小さく設定される。
【0057】
アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56は、電解質膜46を介して積層される際、互いの外周端部の位置が一致しないように配置される。これによって、電解質膜46に対して、アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56の外周端部による応力が集中することを防止できる。その結果、電解質膜46の物理的な変形や損傷を効果的に防止することができる。
【0058】
また、電解質膜46の外周縁部は、アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56の外周から外部に露呈する。この電解質膜46の露呈する部位を、以下、露呈部位ともいう。
【0059】
電解質膜・電極構造体12では、電解質膜46の露呈部位の一方側の面及びアノード電極触媒層52に対して、アノードガス拡散層54が接触している。また、上記の露呈部位の他方側の面及びカソード電極触媒層56に対して、カソードガス拡散層58の多孔質層62が接触している。
【0060】
さらに、上記の露呈部位のうち、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の外周から外部に露呈する部位の一方側(アノード側セパレータ36に臨む側)の面には、額縁形状をなすシール部材68が当接するように設けられる。同様に、上記露呈する部位の他方側(カソード側セパレータ38に望む側)の面には、額縁形状をなすシール部材70が当接するように設けられる。
【0061】
シール部材68、70は、ガス不透過性を有し、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)製の略平坦なフィルム等で構成される。また、シール部材68の厚さとアノードガス拡散層54の厚さは略同等であるため、シール部材68及びアノードガス拡散層54の面同士が面一の状態で、アノード側セパレータ36に当接している。同様に、シール部材70及びカソードガス拡散層58の面同士が面一の状態で、カソード側セパレータ38に当接している。
【0062】
このように、シール部材68、70を設けることによって、アノード電極48とカソード電極50との間で反応ガスが移動して混在してしまうことや、アウトリークが起こることを効果的に回避できる。
【0063】
アノード側セパレータ36及びカソード側セパレータ38には、それぞれ、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の縁部を囲繞するようにしてシール部材72、72が設けられている。これによって、アウトリークが有効に防止されている。
【0064】
以下、上記した電解質膜・電極構造体12を作製する方法について説明する。
【0065】
電解質膜・電極構造体12を作製するに際しては、はじめに、前述した陽イオン交換樹脂に属してプロトン伝導性を備えるポリマーから選択したポリマーを長方形のシート形状として電解質膜46を作製する。
【0066】
そして、この電解質膜46の一方の面にアノード電極触媒層52を形成し、且つ他方の面にカソード電極触媒層56を形成する。具体的には、先ず、上記触媒粒子と、アイオノマー溶液とを混合することにより触媒ペーストを調製する。
【0067】
次に、この触媒ペーストを、PTFE等から形成したフィルムの一方の面上に所定量塗布する。そして、上記フィルムにおける触媒ペーストを塗布した面を電解質膜46の一方の面に対して熱圧着する。その後、フィルムを剥離すれば、触媒ペーストが電解質膜46の一方の面に転写される。これによって、アノード電極触媒層52を形成することができる。また、電解質膜46の他方の面に対しても同様にして上記触媒ペーストを転写することで、カソード電極触媒層56を形成することができる。すなわち、電解質膜46と電極触媒層の接合体(CCM)を形成することができる。
【0068】
これとは別に、多孔質層からなるアノードガス拡散層54を得るとともに、基材60上に多孔質層62を形成してカソードガス拡散層58を得る。
【0069】
具体的には、例えば、上記電子伝導性物質と、上記撥水性樹脂とを、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等の有機溶媒中で混合することにより多孔質層用ペーストを調製する。この多孔質層用ペーストから溶媒を抽出した後、延伸処理等を行うことによって、多孔質層をシート状成形体として得る。これによって、アノードガス拡散層54を形成することができる。
【0070】
この際、例えば、多孔質層用ペーストの量や、該多孔質層用ペーストの有機溶媒に対する電子伝導性物質及び撥水性樹脂の濃度(固形分濃度)、延伸処理後のシート状成形体の厚さ等を適宜調整する。これによって、アノードガス拡散層54の厚さ及び表面抵抗率をそれぞれ上記の範囲内となるように調整することができる。
【0071】
また、上記のアノードガス拡散層54の作製に用いた多孔質層用ペースト、又は該多孔質層用ペーストとは別に、電子伝導性物質及び撥水性樹脂を有機溶媒中で混合することにより調製した多孔質層用ペーストを用いてカソードガス拡散層58を形成する。具体的には、多孔質層用ペーストの所定量を、基材60上に塗布した後、熱処理することで、多孔質層62と基材60の積層体からなるカソードガス拡散層58が得られる。
【0072】
この際、例えば、基材60上に塗布する多孔質層用ペーストの塗布量や、該多孔質層用ペーストの固形分濃度等を適宜調整する。これにより、カソードガス拡散層58の厚さ及び表面抵抗率をそれぞれ上記の範囲内となるように調整することができる。さらには、カソードガス拡散層58の物性値を調整するべく、基材60の物性値や、該基材60に含浸させる撥水性樹脂の濃度等を調整してもよい。
【0073】
また、多孔質層62を、アノードガス拡散層54と同様にシート状成形体として得るようにしてもよい。この場合、シート状成形体として得られた多孔質層62を基材60に重畳して、加圧及び加熱(ホットプレス)することで、多孔質層62と基材60と熱圧着してカソードガス拡散層58を得ることができる。
【0074】
以上のようにして得られたアノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58と、CCMとを重畳する。具体的には、アノードガス拡散層54とアノード電極触媒層52とが対向し、カソードガス拡散層58の多孔質層62とカソード電極触媒層56とが対向するように上記の構成要素を重畳する。そして、このように重畳した上記の構成要素を熱圧着等により一体化することで、電解質膜・電極構造体12が得られるに至る。
【0075】
この際、上記した通り、電解質膜46に対して、直接ないし電極触媒層を介して当接するのは、多孔質層からなるアノードガス拡散層54とカソードガス拡散層58の多孔質層62である。
【0076】
アノードガス拡散層54及び多孔質層62は、電子伝導性物質及び撥水性樹脂から主に構成されるため、多数の繊維状カーボンから主に構成されるカーボンペーパやカーボンクロスに比して、平滑且つ柔軟に形成される。すなわち、アノードガス拡散層54及び多孔質層62は、電解質膜46を物理的に変形させるようなうねりが抑制され、且つ電解質膜46を物理的に損傷させるような繊維を略含まずに形成されている。従って、電解質膜・電極構造体12の製造過程において、熱圧着による荷重が付与されても、電解質膜46が物理的に変形すること及び損傷することを抑制できる。
【0077】
以上のように構成される電解質膜・電極構造体12をアノード側セパレータ36とカソード側セパレータ38で挟持して単位セル14を形成する。この単位セル14を複数積層して締結荷重を付与することにより、燃料電池10が構成される。この際の締結荷重の大きさは、該締結荷重を付与した後のアノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の各々の表面抵抗率が上記の範囲内となるように調整される。
【0078】
燃料電池10を発電(運転)させるに際しては、酸化剤ガス入口連通孔22に酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔28に燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔24に冷却媒体が供給される。
【0079】
冷却媒体入口連通孔24に供給された冷却媒体は、アノード側セパレータ36及びカソード側セパレータ38間に形成された冷却媒体流路44に導入される。この冷却媒体流路44では、冷却媒体が重力方向(
図1中矢印C方向)に移動する。従って、冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12の発電面全面にわたって冷却した後、冷却媒体出口連通孔30に排出される。
【0080】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔22からカソード側セパレータ38の酸化剤ガス流路42に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路42に沿って矢印B方向に流通し、電解質膜・電極構造体12のカソード電極50に沿って移動する。
【0081】
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔28からアノード側セパレータ36の燃料ガス流路40に導入される。この燃料ガス流路40では、燃料ガスが矢印B方向に流通することにより、電解質膜・電極構造体12のアノード電極48に沿って移動する。
【0082】
従って、電解質膜・電極構造体12では、アノード電極48に供給された燃料ガスがアノードガス拡散層54を通過してアノード電極触媒層52に到達する。また、カソード電極50に供給された酸化剤ガスがカソードガス拡散層58を通過してカソード電極触媒層56に到達する。そして、アノード電極触媒層52及びカソード電極触媒層56内で、燃料ガス及び酸化剤ガス電気化学反応(電極反応)によりそれぞれ消費されることで、発電が行われる。
【0083】
一層詳細には、燃料ガス中の水素ガスがアノード電極触媒層52で電離し、プロトン(H
+)と電子が生成される。この電子は、燃料電池10に電気的に接続された負荷(不図示)を付勢するための電気エネルギとして取り出され、一方、プロトンは、電解質膜・電極構造体12を構成する電解質膜46を介してカソード電極50に到達する。なお、プロトンは、電解質膜46に含まれる水を伴って、アノード電極48側からカソード電極50側へ移動する。
【0084】
カソード電極50のカソード電極触媒層56では、上記プロトンと、外部負荷を付勢した後に該カソード電極50に到達した電子と、酸化剤ガス中の酸素とが結合し、水が生成される。以下、この水を生成水ともいう。
【0085】
ここで、電解質膜・電極構造体12では、締結荷重を付与した後のガス拡散層の各々の厚さ及び表面抵抗率が上記の範囲内に設定されている。また、アノードガス拡散層54の表面抵抗率がカソードガス拡散層58に比して大きく、換言すると、アノードガス拡散層54の厚さがカソードガス拡散層58に比して小さく設定されている。
【0086】
水素を含む燃料ガスの拡散性は、酸素を含む酸化剤ガスに比して大きい。このため、上記の通り、カソードガス拡散層58よりも厚さが小さいアノードガス拡散層54においても燃料ガスを十分に拡散させることができる。
【0087】
従って、アノードガス拡散層54の厚さを小さくした分、電解質膜・電極構造体12の体積を減少させても、ガス拡散層における反応ガスの拡散性を十分に維持することができる。
【0088】
また、上記のように、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58に対して、表面抵抗率が上記の範囲内となるように締結荷重が加えられている。このように表面抵抗率を調整することによって、アノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の両方に対して、過不足ない大きさの締結荷重を付与することができる。すなわち、締結荷重が過剰となりガス拡散層の各々の細孔が閉塞されることや、締結過剰が不足して単位セル14から反応ガスがアウトリークすることを抑制できる。このため、ガス拡散層における反応ガスのガス拡散性や、生成水の排水性を維持すること、及び単位セル14のシール性を良好に維持することが可能になる。
【0089】
つまり、電解質膜・電極構造体12では、燃料ガス及び酸化剤ガスの拡散性に応じて、互いに異なる厚さに設定されたアノードガス拡散層54及びカソードガス拡散層58の各々に、適切な大きさの締結荷重を付与することができる。その結果、電解質膜・電極構造体12について、出力を低下させることなく小型化することができ、出力密度を良好に向上させることが可能になる。
【0090】
また、本実施形態では、カソードガス拡散層58が、主にカーボンペーパ又はカーボンクロスから構成される基材60を有している。これによって、燃料ガスに比して拡散性が低い酸化剤ガスであっても、カソードガス拡散層58を良好に拡散させることが可能になる。
【0091】
さらに、上記したように、多孔質層からなるアノードガス拡散層54と、カソードガス拡散層58の多孔質層62とによって電解質膜46を挟持している。アノードガス拡散層54及び多孔質層62(以下、これらを総称して多孔質層ともいう)の存在により、上記の電極反応の最中、アノード電極48及びカソード電極50における保水性と排水性との均衡を適切に図ることができる。
【0092】
すなわち、アノード電極48においては燃料ガスに含まれる水蒸気、カソード電極50においては生成水が、多孔質層を過剰に透過することや、多孔質層によって過剰に堰止されることを回避できる。従って、電解質膜46を湿潤状態に保つための保水性が十分となり、なお且つ反応ガスを迅速に拡散させるための排水性も十分となる。このため、電解質膜46においてプロトン伝導が容易に進行するとともに、アノード電極48及びカソード電極50においてフラッディングが生じることが回避されて反応ガスが容易に拡散する。その結果、電解質膜46に良好なプロトン伝導性を発現させることができるとともに、反応ガスの拡散性を向上させて発電反応を促すことができる。
【0093】
なお、本発明は、上記した実施形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0094】
例えば、上記の実施形態では、多孔質層からなるアノードガス拡散層54を例示したが、アノードガス拡散層54についても、カソードガス拡散層58と同様に、多孔質層と基材とを積層した構成としてもよい(後述の実施例参照)。この場合のアノードガス拡散層では、締結荷重を付与した後の基材及び多孔質層の積層体の厚さが0.12〜0.17mmであり、該積層体の表面抵抗率が0.70〜1.00Ω/□である。なお、一般的に、カソード電極触媒層56に比して、アノード電極触媒層52の厚さが薄い。このため、アノード電極触媒層52が基材のカーボン繊維等の影響を受けることを効果的に抑制するべく、カソードガス拡散層58側の多孔質層62に比して、アノードガス拡散層54側の多孔質層を厚くすることが好ましい。
【実施例1】
【0095】
[実施例1]
(1) ガス拡散層の基材として、嵩密度が0.31g/m
2のカーボンペーパに、三井・デュポンフロロケミカル社製のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の分散液「FEP 120−JRB Dispersion」(商品名)を含浸させ、120℃で30分間乾燥させることで、撥水処理を行った。この際、カーボンペーパは、該カーボンペーパに対するFEPの乾燥重量が、2.4重量%となるように分散液に含浸させた。
【0096】
(2) アノードガス拡散層の多孔質層を作製するための多孔質層用ペーストAは、Cabot社製のカーボン「Vulcan XC72R」(商品名)を12gと、三井・デュポンフロロケミカル社製のFEP分散液(固形分濃度54%)「FEP120JRB」(商品名)を20gと、エチレングリコールを155gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
【0097】
(3) カソードガス拡散層の多孔質層を作製するための多孔質層用ペーストBは、昭和電工社製の気相成長カーボン「VGCF」(商品名)を12gと、三井・デュポンフロロケミカル社製のFEP分散液(固形分濃度54%)「FEP120JRB」(商品名)を20gと、エチレングリコールを200gとをボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
【0098】
(4) 上記(1)で作製した基材上に、上記(2)で得た多孔質層用ペーストAを設けて、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.16mmとなるように調整した。この調整は、ブレード塗工器、スクリーン印刷機、プレス機等を用いて行うことができる。そして、積層体に対して380℃で30分間の熱処理を行うことによって、アノードガス拡散層を得た。
【0099】
(5) 上記(1)で作製した基材上に、上記(3)で得た多孔質層用ペーストBを、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.19mmとなるように設けた以外、上記(4)と同様にして、カソードガス拡散層を得た。
【0100】
(6) 触媒ペーストは、デュポン社製のイオン伝導性ポリマー溶液「DE2020CS」(商品名)に対し、BASF社製の白金触媒「LSA」(商品名)の重量比が0.1となるように添加し、さらに、ボールミルで撹拌して混合することにより調製した。
【0101】
(7) PTFEシート上に、上記(6)で調製した触媒ペーストを白金の重量が0.7mg/cm
2となるように塗布した後、120℃で60分間の熱処理を行うことにより、カソード電極のカソード電極触媒層を電解質膜の一方の面に転写するためのシートを作製した。
【0102】
(8) PTFEシート上に、上記(6)で調製した触媒ペーストを白金の重量が0.1mg/cm
2となるように塗布した以外、上記(7)と同様にして、アノード電極のアノード電極触媒層を電解質膜の他方の面に転写するためのシートを作製した。
【0103】
(9) 厚さ24μm、イオン交換容量1.05meq/gとしたフッ素系の電解質膜の一方の面に、上記(7)で作製したシートの触媒ペースト塗布側を、且つ上記電解質膜の他方の面に、上記(8)で作製したシートの触媒ペースト塗布側をそれぞれ熱圧着させた後、PTFEシートを剥離した。すなわち、デカール法により、電解質膜の一方の面にアノード電極触媒層を、他方の面にカソード電極触媒層をそれぞれ形成した。
【0104】
(10) 前記(9)で作製した電解質膜に形成されたアノード電極触媒層及びカソード電極触媒層にそれぞれ、前記(4)で作製したアノードガス拡散層の多孔質層及び前記(5)で作製したカソードガス拡散層の多孔質層を120℃で面圧30kgf/cm
2の条件で熱圧着させた。これによって、電解質膜・電極構造体を作製した。これを実施例1とする。
【0105】
[実施例2]
上記(5)の工程に代えて、上記(1)で作製した基材上に、上記(3)で作製した多孔質層用ペーストBを、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.17mmとなるように設けて、カソードガス拡散層を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例2とする。
【0106】
[実施例3]
上記(4)の工程に代えて、上記(1)で作製した基材上に、上記(2)で作製した多孔質層用ペーストAを、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.12mmとなるように設けて、アノードガス拡散層を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例3とする。
【0107】
[実施例4]
上記(5)の工程に代えて、上記(1)で作製した基材上に、上記(3)で作製した多孔質層用ペーストBを、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.22mmとなるように設けて、カソードガス拡散層を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを実施例4とする。
【0108】
[比較例1]
上記(5)の工程に代えて、上記(1)で作製した基材上に、上記(3)で作製した多孔質層用ペーストBを、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.14mmとなるように設けて、カソードガス拡散層を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例1とする。
【0109】
[比較例2]
上記(5)の工程に代えて、上記(1)で作製した基材上に、上記(3)で作製した多孔質層用ペーストBを、多孔質層及び基材からなる積層体の厚さが0.24mmとなるように設けて、カソードガス拡散層を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、電解質膜・電極構造体を得た。これを比較例2とする。
【0110】
上記の実施例1〜4及び比較例1、2の電解質膜・電極構造体をセパレータで挟持し、3MPaの締結荷重が付与されるように単位セルを作製した。そして、それぞれの単位セルの発電性能(セル電圧)(V)を求めた。その結果を
図3に示す。なお、単位セルの発電条件は、発電温度;70℃、相対湿度(RH);燃料ガス50%及び酸化剤ガス100%、ガス利用率;燃料ガス70%及び酸化剤ガス60%、ガス圧;燃料ガス及び酸化剤ガスともに100kPa、出力電流密度;1.0A/cm
2とした。
【0111】
次に、実施例1〜4及び比較例1、2の電解質膜・電極構造体が組み込まれた単位セルのそれぞれについて、上記の締結荷重を解放し、CCMからアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を剥離した。これらのガス拡散層について、表面抵抗率を上記の方法で測定した。その結果を併せて
図3に示す。
【0112】
なお、
図3に示す表面抵抗率は、三菱化学社製の抵抗率計「LORESTA−GP、MCP−T610」を用いて、JIS K 7194に準拠した四探針法により測定した値である。
【0113】
図3から、実施例1〜4の電解質膜・電極構造体では、比較例1、2の電解質膜・電極構造体よりも優れた発電性能を示すことが分かる。すなわち、アノードガス拡散層の厚さが0.12〜0.17mm、表面抵抗率が0.70〜1.00Ω/□であり、カソードガス拡散層の厚さが0.15〜0.22mm、表面抵抗率が0.60〜0.70Ω/□であり、且つアノードガス拡散層の表面抵抗率がカソードガス拡散層に比して大きいとき、良好な発電性能を示す電解質膜・電極構造体が得られる。
【0114】
以上から、ガス拡散層の厚さ及び表面抵抗率を上記の範囲内とすることで、互いに厚さが異なるガス拡散層の各々に対して、ガス拡散性等を維持しつつ、アウトリークを抑制することが可能な大きさの締結荷重を付与できる。これによって、出力を低下させることなく、アノードガス拡散層の厚さを低減できる分、電解質膜・電極構造体を小型化することができる。その結果、出力密度を良好に向上させることが可能になる。