特許第6054940号(P6054940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60549401−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールまたはその塩を含有する固形医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054940
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールまたはその塩を含有する固形医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/397 20060101AFI20161219BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61K31/397
   A61P25/00
   A61K9/20
   A61K9/28
   A61K47/10
   A61K47/38
   A61K47/36
   A61K47/12
   A61K47/26
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-500753(P2014-500753)
(86)(22)【出願日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2013054268
(87)【国際公開番号】WO2013125617
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-35710(P2012-35710)
(32)【優先日】2012年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003698
【氏名又は名称】富山化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 裕之
(72)【発明者】
【氏名】長田 光広
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/091605(WO,A1)
【文献】 特開2007−137802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/397
A61K 9/20
A61K 9/28
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/26
A61K 47/36
A61K 47/38
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールまたはその塩ならびにマンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を含有する固形医薬組成物。
【請求項2】
1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールまたはその塩およびマンニトールを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールまたはその塩の含有率が30%〜90%である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに崩壊剤を含有する請求項1〜3いずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
崩壊剤がセルロース誘導体、デンプン誘導体またはポリピロリドン誘導体である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
崩壊剤がセルロース誘導体である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
崩壊剤がカルメロース、カルメロースカルシウムまたはクロスカルメロースナトリウムである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
さらに滑沢剤を含有する請求項1〜7いずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
固形医薬組成物が錠剤である請求項1〜9いずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
錠剤がフィルムコート錠である請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールまたはその塩ならびにマンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする固形医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オール(以下、化合物Aとする)またはその塩は、神経保護作用、神経再生促進作用および神経突起伸展作用を有し、中枢および末梢神経の疾病の治療薬として有用な化合物である(特許文献1)。
化合物Aまたはその塩は、経口投与される。そのため、化合物Aまたはその塩を含有する経口製剤が求められている。そして、一般的に最も好まれる剤形は、錠剤である(非特許文献1)。しかしながら、化合物Aまたはその塩は、圧縮成形性が低い、打錠障害(スティッキング)が起きやすい、高湿度での保存安定性が十分でないなどの性質を有する。
錠剤の製造においては、打錠用混合末が圧縮成形性を有することが必要である。打錠用混合末の圧縮成形性が低い場合、錠剤の硬度が低くなる。その場合、包装時や輸送中に錠剤が破損したり、錠剤をフィルムコーティングする際に錠剤がコーティング機の中で摩損したり、欠けたりするおそれがある。
結晶セルロースなどの成形性の高い添加剤を配合することにより、圧縮成形性の高い打錠用混合末を製造し、必要な硬度(非特許文献2)を有する錠剤を製造する方法が報告されている(非特許文献3)。
化合物Aまたはその塩、乳糖、結晶セルロースおよび賦形剤を含有する錠剤などが知られているが(特許文献2)、溶出性および加温加湿保存条件下での安定性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/035647号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/091605号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】福室憲治、「コンプライアンスを上げる工夫2」、CLINICIAN、'91、No.405、p. 1020、1991年
【非特許文献2】ファーム テク ジャパン(Pharm Tech Japan) 19(12), p.61(2069)-p.67(2075)
【非特許文献3】一番ヶ瀬 尚 他2名編、「医薬品の開発」、第12巻、初版、株式会社廣川書店、第12巻、1990年10月15日、p.178-185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化合物Aまたはその塩を含有し、溶出性および成形性に優れ、さらに長期保存に安定な固形医薬組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況下において、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、化合物Aまたはその塩を含有し、溶出性および成形性に優れ、さらに長期保存に安定な固形医薬組成物を見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明の化合物Aまたはその塩ならびにマンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を含有する固形医薬組成物は、溶出性および成形性に優れ、さらに長期保存に安定である。
本発明の固形医薬組成物は、化合物Aまたはその塩の固形医薬組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下に詳述する。
本明細書中に使用される%は、特に断らない限り、質量百分率を意味する。
【0009】
本発明の固形医薬組成物は、化合物Aまたはその塩ならびにマンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を含有する。
本発明に使用される化合物Aまたはその塩は、たとえば、国際公開第03/035647号パンフレットに記載の方法により製造することができる。
【0010】
本発明の固形医薬組成物に含有される化合物Aまたはその塩の含有率は、0.1〜96%であり、好ましくは、30〜90%であり、より好ましくは、40〜90%であり、さらに好ましくは、45〜87%である。
【0011】
化合物Aの塩としては、通常知られているアミノ基などの塩基性基における塩を挙げることができる。
塩基性基における塩としては、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硝酸および硫酸などの鉱酸との塩;ぎ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩が挙げられる。
上記した塩の中で、好ましい塩としては、薬理学的に許容される塩が挙げられ、マレイン酸塩がより好ましい。
本発明の化合物Aまたはその塩は、これらの溶媒和物、水和物および種々の形状の結晶を包含する。
【0012】
本発明の固形医薬組成物は、マンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を含有し、マンニトールを含有することが好ましい。
本発明に使用されるマンニトールは、特に限定されないが、たとえば、パーテックM200(メルク)などが挙げられる。
固形医薬組成物に含有されるマンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を合計した含有率は、1〜98%、好ましくは、6〜60%であり、より好ましくは、6〜51%である。
【0013】
本発明の固形医薬組成物は、さらに、崩壊剤を含有することが好ましい。
本発明に使用される崩壊剤としては、たとえば、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチナトリウムおよび部分アルファー化デンプンなどのデンプン誘導体;クロスポビドンなどのポリピロリドン誘導体などが挙げられ、セルロース誘導体が好ましく、カルメロース、カルメロースカルシウムおよびクロスカルメロースナトリウムがより好ましく、クロスカルメロースナトリウムがさらに好ましい。
クロスカルメロースナトリウムは、特に限定されないが、たとえば、プリメロース(ディーエムヴイ・フォンテラ・イクシピエンツ)、アクジゾル(エフエムシー)、キッコレート(ニチリン化学工業)などが挙げられる。
固形医薬組成物に含有される崩壊剤の含有率は、0〜10%、好ましくは、0〜5%である。
【0014】
本発明の固形医薬組成物は、さらに、滑沢剤を含有することが好ましい。
本発明に使用される滑沢剤としては、たとえば、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクおよびショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられ、ステアリン酸マグネシウムおよびフマル酸ステアリルナトリウムが好ましく、ステアリン酸マグネシウムがより好ましい。
固形医薬組成物に含有される滑沢剤の含有率は、0.5〜3%、好ましくは、1〜2%である。
【0015】
本発明の固形医薬組成物は、さらに賦形剤を添加することができる。
賦形剤としては、エリスリトールおよびキシリトールなどの糖アルコール類;白糖、粉糖、乳糖およびブドウ糖などの糖類;α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンおよびスルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンナトリウムなどのシクロデキストリン類;結晶セルロースおよび微結晶セルロースなどのセルロース類;トウモロコシデンプン、バレイショデンプンおよび部分アルファー化デンプンなどのでんぷん類;リン酸水素カルシウムおよび無水リン酸水素カルシウムなどのリン酸塩類;沈降炭酸カルシウムなどの炭酸塩類が挙げられる。これらの賦形剤は、いずれか一種または二種以上を組み合わせて添加してもよい。
固形医薬組成物に含有される賦形剤の添加量は特に限定されず、剤型に応じた量を添加すればよい。
【0016】
本発明の固形医薬組成物の形態は、錠剤であることが好ましく、フィルムコート錠であることがより好ましい。
本発明の固形医薬組成物においては、本発明の効果を害さない範囲で、通常、薬剤に用いられる添加物を使用することができる。
このような添加物としては、結合剤、矯味剤、着色剤、着香剤、界面活性剤、流動化剤、コーティング剤および可塑剤が挙げられる。
結合剤としては、たとえば、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒプロメロースおよびメチルセルロースが挙げられる。
矯味剤としては、たとえば、アスパルテーム、サッカリン、ステビア、ソーマチンおよびアセスルファムカリウムが挙げられる。
着色剤としては、たとえば、二酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、食用赤色102号、食用黄色4号および食用黄色5号が挙げられる。
着香剤としては、たとえば、オレンジ油、レモン油、ハッカ油およびパインオイルなどの精油;オレンジエッセンスおよびペパーミントエッセンスなどのエッセンス;チェリーフレーバー、バニラフレーバーおよびフルーツフレーバーなどのフレーバー;アップルミクロン、バナナミクロン、ピーチミクロン、ストロベリーミクロンおよびオレンジミクロンなどの粉末香料;バニリン;ならびにエチルバニリンが挙げられる。
界面活性剤としては、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ポリソルベート類、ソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類が挙げられる。
流動化剤としては、たとえば、軽質無水ケイ酸および含水二酸化ケイ素などの二酸化ケイ素類が挙げられる。
コーティング剤としては、たとえば、ヒプロメロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、ヒプロメロースアセテートサクシネート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLDおよびメタクリル酸コポリマーSが挙げられる。
可塑剤としては、たとえば、クエン酸トリエチル、マクロゴール、トリアセチンおよびプロピレングリコールが挙げられる。
これらの添加物は、いずれか一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。配合量は、特に限定されず、それぞれの目的に応じ、その効果が充分に発現されるよう適宜配合すればよい。
【0017】
本発明の固形医薬組成物の投与方法、投与量および投与回数は、患者の年齢、体重および症状に応じて適宜選択できるが、通常、薬効を発揮しうる量を1日、1回から数回に分割して投与すればよく、通常成人に対して化合物Aとして、1日、たとえば、40〜1000mgを1回から数回に分割して投与すればよい。
【0018】
本発明の固形医薬組成物の製造方法としては、湿式造粒法もしくは乾式造粒法で得られた造粒物を打錠する方法、または直接打錠法が挙げられる。
湿式造粒法としては、たとえば、流動層造粒、湿式破砕造粒、押出造粒および撹拌造粒が挙げられる。
乾式造粒法としては、たとえば、コンパクティング法、スラッギング法およびブリケティング法などが挙げられる。
本発明の固形医薬組成物の好ましい製造方法としては、直接打錠法および乾式造粒法が挙げられる。
好ましい乾式造粒法としては、コンパクティング法およびスラッギング法が挙げられ、コンパクティング法がより好ましい。コンパクティング法としては、ローラーコンパクターを用いて圧縮成形物を製造し、それを破砕して造粒粒子を得る方法などが挙げられる。ローラーコンパクターのローラー加圧圧力としては、使用する機種により異なるが、TF−LABOまたはTF−MINI(いずれもフロイント産業製)を用いる場合、3〜9MPaが好ましい。
本発明の固形医薬組成物の乾式造粒法による好ましい製造方法としては、(1)化合物Aまたはその塩に滑沢剤の一部を添加、混合し、(2)乾式造粒法により造粒し、(3)得られた造粒末を篩に通し、(4)残りの滑沢剤、崩壊剤、賦形剤および添加剤を添加し、混合し、(5)打錠する方法が好ましい。
【0019】
次に、本発明の固形医薬組成物の有用性を以下の試験例で説明する。
【0020】
試験例1
試料として、実施例1および比較例1の素錠およびフィルムコーティング錠を使用した。
素錠の硬度は、錠剤硬度計(錠剤硬度計8M,シュロイニゲル製)を用いて、3回測定して求めた。
フィルムコーティング錠の溶出試験は、日本薬局方溶出試験(パドル法)によって行った。パドルの回転数は50rpmとした。USP溶出試験液(pH6.8)900mLに試料を投入し、15分後の試験溶液を採取し、化合物Aの溶出率(%)を吸光度法により求めた。なお、pH6.8溶出試験液は、リン酸二水素カリウム272.2gを水に溶かし、5mol/L 水酸化ナトリウム 179.2mLを加えたのち、水で2000mLにしたものを300mLとり、水5700mLに混和して調製した。
結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
賦形剤として、乳糖および結晶セルロースを使用したフィルムコーティング錠(比較例1)は、15分後の溶出率が85%未満であるのに対し、賦形剤としてマンニトールを用いた錠剤(実施例1)は、15分後の溶出率が85%以上の極めて優れた溶出性を示した。
また、実施例1の素錠は、必要な硬度を有していた。
化合物Aまたはその塩およびマンニトールを配合した素錠は、乳糖および結晶セルロースを配合した素錠と比べて同等の硬度を有し、かつそのフィルムコーティング錠は、さらに十分な溶出性を有する錠剤として優れていた。
【0023】
試験例2
試料として、実施例3〜6および比較例2〜4の素錠およびフィルムコーティング錠を使用した。
試験例1と同様にして、素錠の硬度の測定およびフィルムコーティング錠の溶出試験を行った。
結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
賦形剤として、マンニトール、イソマルトースおよびソルビトールを使用した素錠(実施例3〜6)は、必要な硬度を有し、かつ、それらのフィルムコーティング錠の15分後の溶出率が85%以上の優れた溶出率を示した。また、賦形剤としてマンニトールを用いた錠剤の滑沢剤をフマル酸ステアリルナトリウムとした製剤(実施例4)においても、素錠は、必要な硬度を有し、フィルムコーティング錠の溶出性は、優れていた。
一方、賦形剤として、エリスリトール、キシリトールならびにショ糖および結晶セルロースを使用した素錠(比較例2〜4)の硬度は、極めて低かった。
化合物Aまたはその塩およびマンニトール、ソルビトールまたはイソマルトースを配合したフィルムコーティング錠は、優れた溶出性を有し、それらの素錠は、必要な硬度を有する素錠として優れていた。
【0026】
試験例3
試料として、実施例3および7〜13のフィルムコーティング錠を使用した。
フィルムコーティング錠に含まれる類縁物質の総量および特定の類縁物質(D1体)の量は、試験開始時および40℃相対湿度75%の条件下で4週間および3箇月間保管した後に測定した。なお、D1体は、3−((3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アミノ)プロパン−1,2−ジオールである。
類縁物質の測定は以下の条件にて測定した。
測定条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:230nm
カラム:XTerra RP18(ウォーターズ製)、5μm、4.6×150mm
プレカラム:XTerra RP18(ウォーターズ製)、5μm、3.9×20mm
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0):水:アセトニトリル=10:85:5(体積比)
移動相B:0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0):水:アセトニトリル=10:40:50(体積比)
0.2 mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0)は、次の方法で調製した。
リン酸二水素カリウム12.25gに水を加えて全量を450mLとした。この溶液にリン酸(和光純薬工業社製,特級)13.7mLに水を加えて1000mLに希釈したリン酸溶液を加え、pH3.0に調整した。
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を次のように変えて濃度勾配制御した。
流速:1.0mL/分
結果を表3に示す。表中のN.D.は、検出限界以下を意味する。
【0027】
【表3】
【0028】
崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム、カルメロースおよびカルメロースカルシウムを使用したフィルムコーティング錠(実施例3、7および8)は、40℃相対湿度75%の条件下で4週間保管後、類縁物質の著しい増加は認められなかった。さらに、実施例3、7および8のフィルムコーティング錠は、40℃相対湿度75%の条件下で3か月保管後も、類縁物質の著しい増加は認められなかった。
一方、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドンおよび部分アルファー化でんぷんを使用したフィルムコーティング錠(実施例9〜12)ならびに崩壊剤を使用していないフィルムコーティング錠(実施例13)は、40℃相対湿度75%の条件下で4週間保管後、実施例3、7および8のフィルムコーティング錠に比べて、類縁物質総量でおよそ2〜3倍の増加、特定の類縁物質(D1体)でおよそ2〜7倍の増加が認められた。さらに、実施例9〜12および13のフィルムコーティング錠は、40℃相対湿度75%の条件下で3箇月保管後、実施例3、7および8のフィルムコーティング錠に比べて、類縁物質総量でおよそ2〜8倍の増加、特定の類縁物質でおよそ2〜10倍の増加が認められた。
崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム、カルメロースおよびカルメロースカルシウムを使用したフィルムコーティング錠(実施例3、7および8)は、極めて優れた安定性を示した。
とりわけ、化合物Aまたはその塩、マンニトールおよびクロスカルメロースナトリウム、カルメロースまたはカルメロースカルシウムを配合した錠剤は、優れた溶出性を有し、長期保存に安定な錠剤として優れていた。
【0029】
試験例4
試料として、実施例14および実施例15の素錠およびフィルムコーティング錠を使用した。
試験例1と同様にして、素錠の硬度の測定およびフィルムコーティング錠の溶出試験を行った。
結果を表4に示す。
【0030】
【表4】
【0031】
化合物Aまたはその塩を高含有するフィルムコーティング錠(実施例14および15)は、15分後の溶出率が85%以上の極めて優れた溶出性を示した。
また、それらの素錠は、必要な硬度を有していた。
【0032】
次に、本発明を実施例および比較例で説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
化合物Aのマレイン酸塩は、目開き500μmの篩で篩過したものを使用した。
特に限定しない限り、マンニトール(パーテックM200,メルク製)およびクロスカルメロースナトリウム(プリメロース,ディーエムヴイ・フォンテラ・イクシピエンツ製)は、目開き850μmの篩で篩過したものを使用し、ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム,メルク製)は、目開き180μmの篩で篩過したものを使用した。
コーティング剤は、オパドライ03F44057(ヒプロメロース2910:71.5 %,マクロゴール6000:14.166 %,タルク:7.167 %,酸化チタン:7.067 %,三二酸化鉄:0.1 %,日本カラコン製)を使用した。
カルナウバロウは、ポリシングワックス-105(日本ワックス製)を使用した。
乾式造粒機はTF−LABO(ロール加圧3MPa、フロイント産業製)、打錠機はHT−P18A(畑鐵工所製)、フィルムコーティング機は、DRC−200(パウレック製)を使用した。
以下の実施例および比較例で製造された製剤は、直径:約8.5mm、厚さ:約4.1〜4.7mmの円形の錠剤である。
【0033】
実施例1
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにマンニトール4.87gおよびクロスカルメロースナトリウム0.50gを加え、手動で5分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.1491gを加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0034】
実施例2
化合物Aのマレイン酸塩452.82gにステアリン酸マグネシウム2.5296gを加え、30分間混合した。この混合末を乾式造粒機にて圧縮成形し、成形された固形物を整粒した。得られた整粒末100.00gに、マンニトール112.77gおよびクロスカルメロースナトリウム6.67gを加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム2.7776gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加して、フィルムコーティング錠を得た
【0035】
実施例3
化合物Aのマレイン酸塩53.70 gにマンニトール60.90 gおよびクロスカルメロースナトリウム3.60 gを加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80 gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10 kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8 mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0036】
実施例4
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにマンニトール5.07gおよびクロスカルメロースナトリウム0.30gを加え、手動で5分間混合した。この混合末にフマル酸ステアリルナトリウム(プルーヴ,ジェーアールエス ファーマ製)0.1499gを目開き180μmの篩で篩過して加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0037】
実施例5
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにイソマルトース(ガレン アイキュー720,樋口商会製)5.07gおよびクロスカルメロースナトリウム0.30gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、手動で5分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.1505gを加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0038】
実施例6
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにソルビトール(パーテック エスアイ150,メルク製)5.07gおよびクロスカルメロースナトリウム0.30gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、手動で5分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.1503gを加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0039】
実施例7
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール60.90gおよびカルメロース(エヌエス−300,五徳薬品製)3.60gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0040】
実施例8
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール60.90gおよびカルメロースカルシウム(イー・シー・ジー−505,五徳薬品製)3.60gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10 kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0041】
実施例9
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール60.90gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(エル−エイチピーシー エルエイチ−11,信越化学工業製)3.60gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0042】
実施例10
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール60.90gおよびカルボキシメチルスターチナトリウム(プリモジェル,ディーエムヴイ・フォンテラ・イクシピエンツ製)3.60gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0043】
実施例11
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール60.90gおよびクロスポビドン(ポリプラスドン エックスエル−10,アイエスピー製)3.60gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0044】
実施例12
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール60.90gおよび部分アルファー化でんぷん(スターチ1500,日本カラコン製)3.60gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0045】
実施例13
化合物Aのマレイン酸塩53.70gにマンニトール64.50gを加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.80gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0046】
実施例14
化合物Aのマレイン酸塩398.45gにステアリン酸マグネシウム1.57gを加え、30分間混合した。この混合末を乾式造粒機にて圧縮成形し、成形された固形物を整粒した。得られた整粒末120.00gに、マンニトール32.69gおよびクロスカルメロースナトリウム4.78gを加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.99gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加して、フィルムコーティング錠を得た。
【0047】
実施例15
化合物Aのマレイン酸塩398.45gにステアリン酸マグネシウム1.57gを加え、30分間混合した。この混合末を乾式造粒機にて圧縮成形し、成形された固形物を整粒した。得られた整粒末120.00gに、マンニトール8.02gおよびクロスカルメロースナトリウム4.01gを加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム1.67gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約10kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加して、フィルムコーティング錠を得た。
【0048】
比較例1
化合物Aのマレイン酸塩174.03gにステアリン酸マグネシウム0.9726gを加え、30分間混合した。この混合末を乾式造粒機にて圧縮成形し、成形された固形物を整粒した。得られた整粒末60.0gに乳糖(フローラック90,メグレ・ジャパン製)49.51g、結晶セルロース(セオラスピーエイチ302,旭化成ケミカルズ製)16.50gおよびクロスカルメロースナトリウム6.67gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、10分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.6667gを加え、30分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0049】
比較例2
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにエリスリトール(エリスリトール,物産フードサイエンス製)5.07gおよびクロスカルメロースナトリウム0.30gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、手動で5分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.1497gを加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0050】
比較例3
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにキシリトール(キシリット,東和化成工業製)5.07gおよびクロスカルメロースナトリウム0.30 gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、手動で5分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.1490gを加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【0051】
比較例4
化合物Aのマレイン酸塩4.48gにショ糖(フロストシュガー,日新製糖製)3.81g、結晶セルロース(セオラスピーエイチ302,旭化成ケミカルズ製)1.27gおよびクロスカルメロースナトリウム0.30gをそれぞれ目開き850μmの篩で篩過して加え、手動で5分間混合した。この混合末にステアリン酸マグネシウム0.1497gを加え、手動で5分間混合した。この混合末を錠剤径8.5mmのダブルアール面の杵を用いて打錠圧約12kNで打錠し、1錠250mgの円形の素錠を得た。素錠にコーティング剤を1錠あたり8mgの割合でコーティングした後、微量のカルナウバロウを添加し、フィルムコーティング錠を得た。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の化合物Aまたはその塩ならびにマンニトール、ソルビトールおよびイソマルトースから選ばれる1種または2種以上を含有する固形医薬組成物は、溶出性および成形性に優れ、さらに長期保存に安定である。
本発明の固形医薬組成物は、化合物Aまたはその塩の固形医薬組成物として有用である。