【実施例】
【0037】
調製例1−LiOSO
2(CF
2)
3SO
2OLi(C3DS)の調製
LiOHの水溶液を、機械的攪拌器、温度形、還流凝縮器、及び添加用漏斗が装備された丸底フラスコ内で、53.091gのLiOH−H
2O(FMC Corp.,Philadelphia,PAから入手可能)を275mLの脱イオン水中に溶解することによって調製した。60℃にて攪拌中のLiOH溶液に、80.00gのFSO
2(CF
2)
3SO
2F(P.Sartoriら、J.Fluorine Chem.、83、145〜149(1997)及び米国特許第3,476,753号(Hansen)に記載される既知の電気化学的フッ素化方法によって調製した)を、添加用漏斗から1時間かけて徐々に添加した。添加速度は、反応混合物を反応発熱から85℃を上回って加熱するのを回避するように制御した。添加が完了した後、更に約3時間、攪拌しながら80℃での加熱を継続して、加水分解を完了まで進行させ、次に反応混合物を室温まで冷却した。冷却した反応混合物を、攪拌しながら過剰のドライアイスで処理し、残留LiOHをLi
2CO
3に変換した。数グラムのセライト(Sigma−Aldrich、Milwaukee,WIから入手可能)を攪拌しながら添加し、得られたスラリーを吸引濾過して、不溶性の固体(主にLiF及びLi
2CO
3)を除去した。回収された水性濾液を、パイレックス(登録商標)パン内で90℃対流式オーブンにて一晩加熱し、次に真空オーブン内で20トール(2.67kPa)、135℃にて更に乾燥させることによって蒸発乾固した。得られた乾燥塩を、200mLのエタノール(200プルーフ)中に溶解し、吸引濾過して、残留LiF及びLi
2CO
3固体を除去した。濾液を、回転蒸発器上で30〜80℃、20トール(2.67kPa)にて蒸発乾固し、透明で粘稠な油を得た。前記油に200mlのトルエンを添加し、それを次に50〜90℃、20トール(2.67kPa)にて回転蒸蒸発によって除去して、残留エタノールを取り去った。後者のプロセスを2回反復し、白色固体粉末を得た。前記固体を、ガラスジャーに移し、真空オーブン内で140℃、10mトル(1.3Pa)にて一晩乾燥して、本質的に全ての水及び残留揮発性有機溶剤を除去した。合計79.1gの生成物を回収した(FSO
2(CF
2)
3SO
2Fを基準として96%の収率)。生成物の同定及び純度を、定量的
19F NMR分析によって決定した(99.3重量%のLiOSO
2(CF
2)
3SO
2OLi、0.7重量%のLiOSO
2CF
2CF(CF
3)SO
2OLi、0.02重量%のCF
3COOLi)。
【0038】
電解質溶液中のC3DS溶解度の測定
基準電解質中のC3DSの溶解速度は低速であるため、初期の混合後、電解質中のC3DSの時間依存性濃度を知ることが必要であった。溶解されたC3DSの濃度を、
19F NMR分光法を用いて測定した。0.5重量%のC3DSを、基準電解質処方、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)(容積比3:7)(Novolyte,Independence、OHから入手可能)中の1.0MのLiPF
6に入れた。その混合物を、水分レベルが5ppm未満であるArパージグローブボックス内で、それぞれ、0分(<1分)、30分、及び4時間の間攪拌した。次に、この混合物のアリコートを濾過し、密封したNMR管内へと移した。NMRサンプルを、Bruker 500MHz NMR分光計上で分析した。
図1は、4時間攪拌後の、電解質溶液の
19F NMRスペクトルである。
図1において、−74ppmにおけるダブレットは、LiPF
6の共鳴の結果である。−114ppmにおけるピークA及び−119ppmにおけるピークBは、それぞれ、C3DS中のフッ素原子A及びBに帰属される。
LiOSO
2CF
2CF
2CF
2SO
2OLi
A B A
【0039】
全てのピークを統合し、1M LiPF
6へ正規化した。C3DSの容量モル濃度を、ピークAとBとを加算し、LiPF
6のピーク領域で除したピーク領域を用いて獲得した。1.17g/mlの電解質密度を仮定して、C3DSの容量モル濃度から、電解質中のC3DSの重量%濃度が容易に算出された。0分及び30分の攪拌後、C3DSの溶解度は、それぞれ、約0.09重量%及び0.10重量%であったのに対し、4時間後、溶解度は0.23重量%に増大した。下記の実施例では、C3DS添加剤を含有するリチウムイオン電池は、C3DSの0.5重量%チャージを伴うコントロール電解質の0分(<1分)の攪拌後、上澄み電解質溶液を注入されたことに留意されたい。前記電解質溶液中のC3DS濃度は、0.09重量%であると推定された。
【0040】
調製例2−LiOSO
2(CF
2)
4SO
2OLi(C4DS)の調製
C4DSを、FSO
2(CF
2)
4SO
2F(調製例1に記載される通り、電気化学的フッ素化によって調製した)が出発物質として使用されたことを除いて、調製例1と同じ手順を用いて調製した。生成物を分離し、その同定及び純度を
19F NMR分析によって決定した(99.210重量%のLiO
3S(CF
2)
4SO
3Li)。
【0041】
調製例3−(Li
+)
2[CF
3SO
2NSO
2(CF
2)
4SO
2NSO
2C
3]
2−(C4DI)の調製
二官能性イミド酸、CF
3SO
2NHSO
2(CF
2)
4SO
2NHSO
2CF
3を、米国特許第7,517,604号、第10コラム、40行目に記載される手順に従って、四水和物として調製した。この材料(66.7g)を、電磁攪拌棒、加熱マントル、クライゼンアダプタ、熱電対プローブ、添加用漏斗、及び水冷コンデンサ付きDean−Starkトラップを装備した500mLの二首丸底フラスコに入れた。脱イオン水(16.7mL)を、室温にて攪拌しながら添加して、二官能性イミド酸を溶解した。次に、6.55gのLiOH−H
2Oを攪拌しながら添加して、酸を部分的に中和した。発熱がおさまった後、1.71gのLi
2CO
3を添加して、中和を完了した。発泡(CO
2の発生による)がおさまった後、反応混合物を、攪拌しながら70〜80℃へ加熱した。次に、9.0mLの50% H
2O
2水溶液を攪拌しながら滴下添加して、小規模の不純物によって引き起こされた茶色を退色した。全ての過酸化水素を添加した後、攪拌しながら反応温度を80℃で1時間維持して、退色処理を完了した。漂白が完了した後、反応温度を高めて、水を蒸留させた。合計で12mLの水をDean Starkトラップに収集し、廃棄して、ポット内に残留するジリチウム塩を約80%固形分に濃縮した。濃縮物を室温まで冷却すると、ジリチウム塩が水溶液中に溶解して残った。濃縮物を、0.2ミクロンGHP膜(Pall Life Sciences,Port Washington,NYから入手可能)を通過させる吸引濾過して、過剰な溶解されていなリチウムカーボネートを除去し、7.0のpHを有する無色透明の濾液を得た。濾液をPYREX(登録商標)結晶皿に移し、対流式オーブン内で160℃にて部分的に乾燥して、白色固体を形成した。白色固体をガラスジャーに移し、真空オーブン内で150℃、0.01トール(1.33Pa)にて一晩、更に乾燥した。真空で室温付近まで冷却した後、生成物の純粋な白色粉末を、保管及びサンプリング用の乾燥した箱内へと窒素下ですみやかに移した。(Li
+)
2[CF
3SO
2NSO
2(CF
2)
4SO
2NSO
2CF
3]
2−(C4DI)の単離収率は、59.45g(96.8%収率)であった。定量的
19F NMR分析は、97.2重量%の純度を有する生成物の化学構造を確認した。
【0042】
電気化学電池の調製
電極の調製
95重量%のLiNi
0.4Mn
0.4Co
0.2O
2(
正極活物質、3M,St.Paul,MNから入手可能)、2.5重量%のSuper P carbon(Timcal Graphite and Carbon,Bodio,Switzerlandから入手可能な導電剤)、及び2.5重量%のポリフッ化ビニリデン結合剤(Arkema Inc.,King of Prussia,PAから入手可能なKYNAR RX PVDF)を、1−メチル−2−ピロリジノン(Honeywellから入手可能なNMP)中で溶剤として混合した。上述の溶液の固体含有量は58.3重量%であり、スラリー湿潤密度は1.91g/cm
3であった。次に、得られたスラリーをアルミホイル上にコーティングし、120℃にて乾燥し、
正極(カソード)を調製した。次に得られたカソードを、使用前に2.91g/cm
3(30%有孔率)にカレンダー仕上げをした。同様に、92重量%のMAGEグラファイト(Hitachiから入手可能な
負極活物質)及び8重量%のPAA−Li結合剤(水中LiOHで中和することによってPAA(Sigma−Aldrichから入手可能なポリアクリル酸)から調製した)を、溶剤としての水中で混合した。得られた混合物を、銅ホイルに塗布し、乾燥して、
負極を生成した。アノードを、電池の組み立て前に1.61g/cm
3(25%有孔率)にカレンダー仕上げをした。
【0043】
電解質の調製
容量で3:7の比を有するエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)(どちらもNovolyteから入手可能)を含む、非水性溶剤混合物を調製した。リチウム塩、LiPF
6(Novolyteから入手可能)を、上述の溶剤混合物に溶解して、1.0Mの電解質原液を調製した。種々の量の添加剤を、後述の実施例に示すように、1.0Mの電解質溶液に添加した。全ての電解質は、5ppm未満の水分含有量を有するArパージグローブボックス内で調製した。上述の配合した電解質を、リチウムイオン電池への注入の直前に濾過した。
【0044】
コイン電池の作製
コイン電池を、乾燥室内で、得られたカソード及びアノードを用いて、2325寸法法(23mm直径及び2.5mm厚)ステンレス鋼コイン電池ハードウェアにおいて製造した。2つの層のCELGARD #2335(Celgard,Charlotte,NCから入手可能)を、セパレータとして使用した。上述に記載された通りに調製された100μlの電解質を、コイン電池に手動で注入した。最後に、電池を圧着によって封止した。
【0045】
コイン電池サイクル動作
コイン電池試験条件(電圧上下限、温度、及びレート)は、添加剤を伴う性能と伴わない性能との区別化を可能にするため、コントロール電池において200サイクルにわたって、電池にストレスを加え、著しい容量低下を引き起こすように選択した。添加剤試験を、後述の試験プロトコルを使用して、2つの異なる温度にて実行した(室温及び60℃)。任意の所与の電池に関して、形成及びサイクル動作は同一温度にて実行した。
1)標準形成工程(C/30リミットまでの定電圧トリクルで、C/8にて4.4Vまで定電流充電−開回路電圧にて15分休止−C/8〜2.5Vにて定電流放電−開回路電圧にて15分休止)
2)C/20リミットまでの定電圧トリクルで、C/2レートにて4.4Vまで定電流充電
3)1Cレートにて2.5Vまで定電流放電−開回路電圧にて15分休止
4)工程2〜3を更に200サイクル反復
【0046】
比較実施例1及び2並びに実施例1及び2
コイン電池を、上述のカソード及びアノードで調製した。表Iに示す添加剤を、上述の1.0MのLiPF
6を含有する処方した電解質原液に添加した。
【0047】
【表1】
表1 1Mの電解質原液への添加剤 比較実施例1〜2及び実施例1〜2
【0048】
比較実施例1〜2及び実施例1〜2に関するコイン電池を、上述に詳細に述べるプロトコルに従ってサイクル動作した。異なる多数の電池を、室温及び60℃(高温)にてサイクル動作した。
図2aは、室温に維持されたコイン電池に関する、コイン電池の比放電容量(mAh/g)対サイクル数のグラフを含む。室温にてサイクル動作した場合、添加されたVC(比較実施例2)、及びVCとC3DSとの組み合わせ(実施例2)を有する電池は、100サイクル後、明らかな容量低下を示す。しかしながら、コントロール及びC3DS電池(比較実施例1及び実施例1)は、200サイクル後に著しい容量損失を伴わず、同様のサイクル性をもたらした。
【0049】
より激しい条件下(60℃サイクル動作)では、C3DSを伴う電池(実施例1)は、
図2bに示されるようにコントロール電池(比較実施例1)よりも高い放電容量維持率を示す。VC+C3DSの二成分混合物(実施例2)は、60℃において、VC単独(比較実施例2)よりも更に良好なサイクル動作グ性能を提供する。
【0050】
比較実施例3及び4、並びに実施例3及び4。
コイン電池を、上述のカソード及びアノードで調製した。容積比3:7を有するEC:EMCを含む非水性溶剤混合物を調製した。リチウム塩、LiPF
6を、上述の溶剤混合物に溶解して、1.0Mの電解質溶液を調製した。表2に示す添加剤を、上述の1.0MのLiPF
6電解質原液に添加した。この基準(又はコントロール)サンプルを分けるため、電解質溶液に、それぞれ、2.0重量%のビニレンカーボネート(VC)、2.0重量%のC4DI、及び2.0重量%のVC+2.0重量%のC4DIの混合物を添加した。全ての電解質は、5ppm未満の水分含有量を有するArパージグローブボックス内で調製した。
【0051】
【表2】
表2 1Mの電解質原液への添加剤 比較実施例3〜4及び実施例3〜4
【0052】
LiNi
0.4Mn
0.4Co
0.2O
2のリチウム混合金属酸化物95重量%と、MAGEグラファイトアノードとを含有する
正極を、上述の実施例1〜2に記載される通りに調製した。
【0053】
コイン電池を、上述の通りに製造した。コイン電池試験条件(電圧上下限、温度、及びレート)は、添加剤を伴う性能と伴わない性能との区別化を可能にするため、コントロール電池において200サイクルにわたって、電池にストレスを加え、著しい容量低下を引き起こすように選択した。添加剤試験を、実施例1〜2に関して上述したものと同一の試験プロトコルを使用して、2つの異なる温度にて実行した(室温及び60℃)。任意の所与の電池に関して、形成及びサイクル動作は同一温度にて実行した。
【0054】
図3は、過酷な条件下(60℃サイクル動作)での、コイン電池の放電容量対サイクル数のグラフである。C4DI添加剤を含有する電池は、コントロール電池(添加剤を伴わない)よりも高い放電容量維持率を示す。VC+C4DIの二成分添加剤混合物を含有する電池は、60℃にて、VC又はC4DI添加剤単独の場合よりも、更に良好なサイクル寿命性能を提供する。
【0055】
比較実施例5及び6、並びに実施例5及び6
高電圧LiMn
1.5Ni
0.5O
4スピネルカソードをコイン電池中に利用したことを除いて、実施例5〜6及び比較実施例5〜6用のコイン電池を実施例1〜2及び比較実施例1〜2に関するものと同じ様式で構成した。高電圧スピネルLiMn
1.5Ni
0.5O
4カソード材料を含有する
正極を、固体状態プロセスを使用して調製した。前駆体粉末NiO、Mn
2O
3、Li
2Oを、ローラーミルと自動粉砕との組み合わせによって一緒に混合した。前記材料を次に、900℃〜750℃の温度プロファイルを有するファーネス内で焼結した。冷却後、材料を軽くすりつぶし、100ミクロンにて篩過した。その後、LiMn
1.5Ni
0.5O
4粉末を、Mazerustarミキサ内でPVDF、NMP、及びSuper Pと混合して、90:5:5コーティングスラリーを生成した。以下の5Vサイクル動作研究におけるカソードとしての使用のために、スラリーをアルミホイル上にコーティングし、120℃にて真空下で乾燥した。
【0056】
より高電圧のLiイオンバッテリケミストリーにおけるC4DI添加剤の性能を、MAGEグラファイト/LiMn
1.5Ni
0.5O
4コイン電池においてサイクル動作することによって調べた。電池を、4.9V〜2.5Vの間でC/2の充電及び放電レートにて室温でサイクル動作した。基準(コントロール)電解質は、EC:EMC(容積比3:7)中の1MのLiPF
6(比較実施例5)であった。本発明の電解質を、0.5重量%のC4DI(実施例5)及び2.0重量%のC4DI(実施例6)を基準電解質に添加することによって調製した。添加された2.0重量%のVCを伴う基準電解質を含有する比較実施例も、同様に含まれる(比較実施例6)。
図4は、これらの電池に関する放電容量対サイクル数を示す。基準電解質への0.5重量%及び2.0重量%のC4DIの添加は、添加剤を含有しないコントロール電池(比較実施例5)又は2.0重量%のVCを含有する電池(比較実施例6)と比較して、これらの高電圧MAGEグラファイト/LiMn
1.5Ni
0.5O
4電池における放電容量維持率を著しく改善することが明らかである。
【0057】
LiNi
0.4Mn
0.4Co
0.2O
2カソードを有するコイン電池の熱保管試験
LiNi
0.4Mn
0.4Co
0.2O
2カソードと、MAGEグラファイトアノードと、添加剤を含まない、2重量%のビニレンカーボネート添加剤を含む、0.5重量%のHQ−115(比較のフッ素化電解質添加剤、3M,St.Paul,MNから入手可能)を含む、0.09重量%のC3DSを含む、0.09重量%のC4DSを含む、及び0.5重量%のC4DI添加剤を含む電解質と、を有するコイン電池を、4.2V〜2.8Vの間で室温にてC/10レートで7回、充電及び放電させた。その後、電池を100%充電状態(SOC)で4.2Vの端子電圧に充電した。次に、全てのコイン電池を、60℃のオーブンで1週間保管した。その後、バッテリを室温にて4回、放電及び充電させた。熱保管の前後の電池の放電容量を収集し、バッテリの不可逆容量損失(IRC)を
図5の概略図に基づいて算出した。
図6は、C3DS、C4DS、及びC4DI添加剤が、添加剤を伴わないコントロール電池と比較して、高温で保管された電池の不可逆容量損失を低減することをはっきりと示す。0.09重量%のC3DS、0.09重量%のC4DS、及び0.5重量%のC4DIに伴って獲得される性能改善のレベルは、ビニレンカーボネート添加剤(2.0重量%)の著しく高い充填を使用して獲得されるものに匹敵し、また0.5重量%のHQ−115を使用して獲得されるものより良好である。
【0058】
C4DI添加剤を伴うコイン電池における水混入の悪影響の抑制
既知の量の水が存在するときにコイン電池性能に及ぼすC4DI添加剤の影響を決定するために、基準電解質を含有する電池、及び添加された2.0重量%のC4DIを伴う電解質を含有する電池の全てに、1000ppmの水を混入して(電解質中)、室温にてC/5レートで4.2V〜2.8Vの間でサイクル動作した。
図7は、これらの電池の比放電容量対サイクル数を示す。2.0重量%のC4DIの添加は、放電容量を大幅に改善し、また、1000ppmの水混入を含有するリチウムイオン電池のインピーダンス上昇を低減する。
【0059】
C4DI添加剤を伴うLiPF
6系電解質の加水分解安定性及び熱安定性
1H及び
19F NMR分光法を利用して、LiPF
6含有電解質中に水混入が存在する場合に、C4DIが、LiPF
6の加水分解安定性を著しく改善し、HF発生を抑制し得るかを決定した。まず、2.0重量%のC4DIを、基準の電解質処方、1MのLiPF
6EC:EMC(容積比3:7)に投入した。次に、300ppmの脱イオン水を、露点が−70℃未満である乾燥室内で、基準電解質のサンプルと、2.0重量%C4DIを含有する電解質のサンプルとにそれぞれ添加した。プラスチックバイアル瓶中で室温にて24時間保管した後、各溶液を密封したNMR管に移した。NMRサンプルを、Bruker 500MHz NMR分光計上で分析した。基準電解質の
1H NMRスペクトルにおいて、7.8ppmにおけるダブレットは、HFの陽子共鳴の結果であった。同様に、HFはまた、基準電解質の
19F NMRスペクトルでは、−189ppmにおけるダブレット出現として識別された(H−F結合に起因する分裂)。また、フルオロリン酸OPF
2OHが、基準電解質の
19F NMRスペクトルにおいて−88ppmにおけるダブレットとして識別された。興味深いことに、2.0重量%のC4DI添加剤を含有する電解質に関しては、HF及びOPF
2OH信号は観察されず、C4DIは、LiPF
6加水分解及び関連するHFの発生を抑制することが示唆される。抑えられたHF発生は、酸誘発性の電解質溶剤の分解を制限し、また電極表面における望ましくない酸誘発性反応を低減することによって、電解質の安定性に対して有益であると期待される。
【0060】
2.0重量%のC4DI添加剤のHF発生を抑制する能力を良好に定量化するために、上述のプロトコルを使用して、基準電解質と2.0重量%のC4DIを含有する電解質との双方に異なる濃度の水を、それぞれ添加した。300、500、700、及び1000ppmの水をそれぞれ添加した基準電解質及び2.0重量%のC4DIを含有する電解質溶液の
19F NMRスペクトルを、室温にて24時間保管した後に取得した。結果は、2重量%のC4DIは、LiPF
6系電解質に最大1000ppmの水を添加した後でさえも、感知可能なレベルのHFが形成されるのを防ぎ得ることを示す。
【0061】
以下は、本発明の態様によるフルオロカーボン電解質添加剤を含む、リチウムイオン電気化学電池の代表的な実施形態である。
【0062】
実施形態1は、リチウム金属酸化物又はリチウム金属リン酸塩を含む
正極と、リチウムをインターカレートする又はリチウムと合金化することが可能な
負極と、添加剤を含む液体又はゲル電解質と、を含み、前記添加剤が、化学式:
X−SO
2−R
f’−SO
2−Y、を有する多官能性アニオンを含み、
化学式中、X及びYは、独立して、O
−又はR
fSO
2N
−のいずれかであり、R
fは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖フルオロアルキル部分であり、また所望により、窒素、酸素、又はこれらの組み合わせから選択される1つ又は複数の鎖内へテロ原子を含有することができ、R
f’は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖又は環式フルオロアルキレンであり、また所望により、1つ又は複数の鎖内酸素原子を含有することができ、R
f及びR
f’の双方が、最大で20%の非フッ素置換基を有する、
リチウムイオン電気化学電池である。
【0063】
実施形態2は、前記
正極がリチウム金属酸化物を含む、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0064】
実施形態3は、前記リチウム金属酸化物が、コバルト、ニッケル、マンガン、又はこれらの組み合わせを含むリチウム混合金属酸化物を含む、実施形態2によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0065】
実施形態4は、前記多官能性アニオンが、化学式:
−OSO
2(CF
2)
nSO
2O
−、を有するジアニオンであり、
化学式中、n=1〜10である、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0066】
【0067】
実施形態5は、n=1〜4である、実施形態4によるリチウムイオン電気化学電池である。
実施形態6は、前記添加剤が、電解質の総重量の約0.1重量パーセント〜約1.0重量パーセントの量で存在する、実施形態4によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0068】
実施形態7は、X及びYが同一である、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0069】
実施形態8は、前記添加剤が、少なくとも1つのリチウムイオンを含む、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0070】
実施形態9は、電荷輸送媒体及び電解質塩を更に含む、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0071】
実施形態10は、前記電荷輸送媒体が、有機カーボネートを含む、実施形態9によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0072】
実施形態11は、前記有機カーボネートが、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、2−フルオロエチレンカーボネート、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態10によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0073】
実施形態12は、前記有機カーボネートが、ビニレンカーボネートを含む、実施形態11によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0074】
実施形態13は、前記電解質塩が、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、リチウムビス(オキサラート)ボレート、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiAsF
6、LiC(SO
2CF
3)
3、LiN(SO
2F)
2、LiN(SO
2F)(SO
2CF
3)、LiN(SO
2F)(SO
2C
4F
9)、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態9によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0075】
実施形態14は、前記電解質塩が、LiPF
6、又はリチウムビス(オキザラート)ボレートを含む、実施形態13によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0076】
実施形態15は、前記電解質が、ビニレンカーボネートを更に含む、実施形態14によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0077】
実施形態16は、前記ジアニオンが、化学式:
R
fSO
2−N
−−SO
2−(CF
2)
n−SO
2−N
−−SO
2R
f、を有する、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0078】
実施形態17は、前記添加剤が、電解質の総重量の約0.5重量パーセント〜約4.0重量パーセントの量で存在する、実施形態16によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0079】
実施形態18は、前記電解質が、ビニレンカーボネートを更に含む、実施形態16によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0080】
実施形態19は、前記添加剤が全フッ素化されている、実施形態1によるリチウムイオン電気化学電池である。
【0081】
実施形態20はリチウムイオン電気化学電池を安定化させる方法であって、リチウム金属酸化物
正極又はリチウム金属リン酸塩
正極と、リチウムをインターカレートする又はリチウムと合金化することが可能な
負極と、液体電解質と、を有する、リチウムイオン電気化学電池を準備する工程と、化学式:
X−SO
2−R
f’−SO
2−Y、を有する多官能性アニオンを添加する工程と、を含み、
化学式中、X及びYは、独立して、O
−又はR
fSO
2N
−のいずれかであり、R
fは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖フルオロアルキル部分であり、かつ所望により、酸素、窒素、又はこれらの組み合わせから選択される1つ又は複数の鎖内へテロ原子を含有することができ、R
f’は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖又は環式フルオロアルキレンであり、かつ所望により、1つ又は複数の鎖内酸素原子を含有することができ、R
f及びR
f’の双方が、最大で20%の非フッ素置換基を有する、
方法である。
【0082】
実施形態21は、X及びYが、R
fSO
2N
−であり、前記電解質に添加されるジアニオンの量が、前記電解質の総重量の約0.05重量パーセント〜約3.0重量パーセントである、実施形態20によるリチウムイオン電気化学電池を安定化させる方法である。
【0083】
実施形態22は、リチウム金属酸化物又はリチウム金属リン酸塩を含む
正極と、リチウムをインターカレートする又はリチウムと合金化することが可能な
負極と、添加剤を含む固体ポリマー電解質と、を含み、前記添加剤が、化学式:
R
fSO
2−N
−−SO
2−(CF
2)
n−SO
2−N
−−SO
2R
f、を有する多官能性アニオンを含み、
化学式中、R
fは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖フルオロアルキル部分であり、かつ所望により、窒素、酸素、又はこれらの組み合わせから選択される1つ又は複数の鎖内へテロ原子を含有することができ、R
fは、最大で20%の非フッ素置換基を有する、リチウムイオン電気化学電池である。
【0084】
実施形態23は、リチウム金属酸化物又はリチウム金属リン酸塩を含む
正極と、リチウムをインターカレートする又はリチウムと合金化することが可能な
負極と、添加剤を含む固体電解質と、を含み、前記添加剤が、化学式:
−O−SO
2−R
f’−SO
2−O
−、を有する多官能性アニオンを含み、
化学式中、R
f’は、1〜10個の炭素原子を有する分枝鎖又は環式フルオロアルキレンであり、かつ所望により、1つ又は複数の鎖内酸素原子を含有することができ、R
f’は、最大で20%の非フッ素置換基を有する、リチウムイオン電気化学電池。
【0085】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本発明の様々な改変及び変更が当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書に記載される例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではない点、また、こうした実施例及び実施形態はあくまで例示を目的として示されるにすぎないのであって、本発明の範囲は本明細書において以下に記載する「特許請求の範囲」によってのみ限定されるものである点は理解すべきである。本開示に引用される参照文献は全て、その全体が本明細書に組み込まれる。