特許第6054966号(P6054966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6054966-動物保定具 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054966
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】動物保定具
(51)【国際特許分類】
   A01K 15/04 20060101AFI20161219BHJP
   A61D 3/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A01K15/04
   A61D3/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-525881(P2014-525881)
(86)(22)【出願日】2013年7月19日
(86)【国際出願番号】JP2013069648
(87)【国際公開番号】WO2014014085
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2012-161193(P2012-161193)
(32)【優先日】2012年7月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西岡 雄基
(72)【発明者】
【氏名】田中 穣
(72)【発明者】
【氏名】孫 偉
(72)【発明者】
【氏名】久保田 明衣
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4510058(JP,B2)
【文献】 特公平7−110279(JP,B2)
【文献】 特開2007−236525(JP,A)
【文献】 実開平6−48619(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 15/04
A61D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性繊維を含有してなる織編物からなる筒状の動物保定具であって、その筒両端部の織編密度が、筒中央部の織編密度より密であることを特徴とする動物保定具。
【請求項2】
弾性繊維が、ポリウレタン系繊維であることを特徴とする請求項1に記載の動物保定具。
【請求項3】
弾性繊維を非弾性繊維でカバリングしたカバリング糸を、少なくとも一部に用いてなることを特徴とする請求項1に記載の動物保定具。
【請求項4】
弾性繊維がポリウレタン系繊維であり、非弾性繊維がポリアミド系繊維であることを特徴とする請求項3記載の動物保定具。
【請求項5】
一方の筒端部が閉鎖されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物保定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、薬学などの分野において、検体となるマウス、ラットなどの動物を保定するために用いられる動物保定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動物保定具としては、検体となる動物を包み込む袋状のものや、パイプ型容器内に動物を入れて前後より固定するようにしたものがある。
しかし、袋状のものではしっかり固定ができず、動物が暴れてしまい、また、パイプ型容器のものでは、動物に過度の力がかかり、ストレスを与えてしまい、検査結果に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、タオルのようなものを巻き、固定するやり方もあるが、作業が難しく、訓練が必要となる。
【0003】
また、上記の問題点を解決するために、柔軟性のある合成樹脂シートやフィルムを筒状にし、固定するものが提案されている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4510058号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、合成樹脂シートやフィルムを、動物の大きさに合わせて筒状に作成しても保定が十分ではなく、加えて動物を入れにくいという欠点があった。
本発明の目的は、極めて容易に、動物にストレスを与えずに保定することができる動物保定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、弾性繊維を含有してなる織編物からなる筒状の動物保定具であって、その筒両端部の織編密度が、筒中央部の織編密度より密であることを特徴とする動物保定具によって達成される。
【0007】
また、本発明においては、弾性繊維が、ポリウレタン系繊維であることが好適である。
【0008】
また、本発明においては、弾性繊維を非弾性繊維でカバリングしたカバリング糸を、少なくとも一部に用いてなることが好適である。
【0009】
また、本発明においては、弾性繊維がポリウレタン系繊維であり、非弾性繊維がポリアミド系繊維であることが好適である。
【0010】
また、本発明においては、一方の筒端部が閉鎖されていることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の動物保定具は、極めて容易に、動物にストレスを与えずに保定することができる。すなわち、伸縮性のある織編地を使用することにより、動物にほどよくフィットし、より確実に保定することができ、また、誰でも簡単に動物を保定できる。それにより、作業性を改善することが可能になる。
【0012】
また、前後に織編密度の高い部位を設けることで、動物の頭部と足部とを固定し、良好に動物の動きを止めることができる。これにより、注射、運搬の際の作業性の向上につながる。
【0013】
また、上記のような従来用いられているパイプ状容器では、高価なものになるため、再利用することになり、病原菌のクロスコンタミネーションの問題が生じる恐れがあるが、繊維製品にすることで安価に提供することができ、使い捨てを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の動物保定具の一実施態様例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の動物固定具は、例えば、図1に示すような形態が挙げられる。
図1は、動物保定具の一実施態様を示す説明図である。
1は動物保定具、2は端部A、3は中央部、4は端部Bである。
【0017】
動物保定具1は、伸縮性ある糸を使用してなり、端部A2及び端部B4は、ゴム編、中央部3は、メッシュ状に編成された編物からなる。
端部A2及び端部B4は、中央部3より編密度を高くして、伸び率を低くし、伸長回復率を高くすることで、動物の頭部、臀部の固定を可能としている。
また端部A2は、その先端2eが閉鎖されている。このようにすることにより、端部A2に、動物の頭部がくるように保定するとき、その内部が暗いので、保定された動物がよりおとなしくなり、暴れることがなくなるので好適である。
【0018】
中央部3の編み組織は、メッシュ編みとすることで、通気性が良好となり、また、注射する際にも注射針の動物への挿入が容易となる。また、筒端部A2及び端部B4は、比較的に強い締付け力を持たせるために、ゴム編みとすることが好ましい。
また、動物保定具1は、上記編組織の他、平編などでもよい。また、編物の他、織物、不織布等でもよい。
【0019】
上記のように、動物保定具において、その筒両端部の織編密度が、筒中央部の織編密度より密であることが必要である。このようにすることで、動物の頭部と臀部は、比較的強く保定でき、一方、胴体部はゆったりした状態で保定でき、動物が保定具の中でおとなしくしている。
【0020】
また、織編密度を数値で表すと、筒両端部の編密度は、25コース/2.54cm以上、35ウェル/2.54cm以上、筒中央部の編密度は、5〜20コース/2.54cm、10〜30ウェル/2.54cmとすることが好適である。
【0021】
動物保定具の大きさは、保定する動物の大きさによって適宜設定すればよい。
例えば、ラット用の場合、筒端部A2及び端部B4は、そのタテ方向Pの長さは、3〜10cm、周の長さ(ヨコ方向R)は、5〜15cm、中央部3は、そのタテ方向Pの長さは、5〜20cm、周の長さ(ヨコ方向R)は、10〜25cmの範囲内で、内部で動かないよう、保定する動物より小さいものとすることが好適である。
【0022】
動物保定具の筒端部A2及び端部B4は、タテ方向Pにおいて、伸び率は好ましくは100%以上、より好ましくは150%以上である。また、伸長回復率が90%以上であることが好適である。
【0023】
また、ヨコ方向Rにおいて、伸び率は、好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上である。伸長回復率が85%以上であることが好ましい。
タテ伸び率が100%未満、ヨコ伸び率が300%に未満であると、手足、頭を確実に固定できず、動物が動いてしまうため、作業性の改善に繋がらなくなる傾向にある。
また、タテ伸長回復率が90%未満、ヨコ伸長回復率が85%未満であると、動物を一度入れただけで伸びてしまい、再利用ができなくなる。そのため、コストが余分にかかってしまう傾向にある。
【0024】
本発明の動物保定具の筒中央部3は、タテ方向Pにおいて、伸び率は好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上である。また、伸長回復率は90%以上であることが好適である。
また、ヨコ方向Rにおいて、伸び率は好ましくは600%以上、より好ましくは800%以上である。また、伸長回復率は85%以上であることが好ましい。
タテ伸び率が200%未満、ヨコ伸び率が600%に未満であると、様々な動物サイズに対応できず、サイズ別に多くの種類を作成することが必要になる傾向にある。
また、タテ伸長回復率が90%未満、ヨコ伸長回復率が85%未満であると、動物を一度入れただけで伸びてしまい、再利用ができなくなる。そのため、コストが余分にかかってしまう傾向にある。
【0025】
また、筒中央部3は、ヨコ方向の伸び率/タテ方向の伸び率が、2〜4であることが好適ある。
タテとヨコの伸び率比が上記範囲であると、製品のメッシュサイズが適度となり、フィット感と快適性に優れたものとなる。また、動物の挿入が容易で、且つ、動物にピッタリフィットする動物保定具となる。
【0026】
本発明においては、動物保定具に、良好な伸び率と伸長回復率を付与するため、伸縮性のある糸を用いる。伸縮性のある糸としては、弾性繊維が挙げられる。弾性繊維としては、ポリウレタン系繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリオレフィン系エラストマー繊維等が挙げられ、中でも、ポリウレタン系繊維が好適である。
【0027】
また、伸縮性のある糸としては、弾性繊維を非弾性繊維でカバリングしたカバリング糸を用いることが好ましい。ポリウレタン系繊維を芯糸とし、熱可塑性合成繊維を鞘糸としてなるカバリング糸を用いることが好適である。カバリング糸は、シングルカバリング糸でもダブルカバリング糸でもよい。
【0028】
上記芯糸をカバリングするための鞘糸である熱可塑性合成繊維としては、6ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系繊維等が挙げられ、中でも、ポリアミド系繊維が好適に用いられる。
本発明で用いられるポリアミド系繊維は、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610、あるいはこれらの2種以上の任意の共重合ナイロン等が挙げられる。
【0029】
上記芯糸としては、総繊度15〜100デシテックスのポリウレタン系繊維を用いるのが好ましく、鞘糸としては総繊度10〜100デシテックスの上記熱可塑性合成繊維を用いることが好ましい。上記範囲よりも細い芯糸は製造が困難であり、強度的に問題が生じる恐れがある。逆に太過ぎると織編物としたときの肌ざわりや着用感が問題となることがある。また、鞘糸である熱可塑性合成繊維が上記範囲より細過ぎても太過ぎても肌ざわりや風合いが悪くなる傾向にある。
【0030】
また、芯糸は、モノフィラメントでも、マルチフィラメント(2〜10本)でもよい。 また、鞘糸は10〜50本のマルチフィラメントが好適である。風合いや吸水性の点から単糸繊度1デシテックス以下の極細繊維を用いてもよい。
【0031】
また、芯糸への鞘糸の巻きつけ回数は、700〜2000回/mとすることが好ましい。
【0032】
また、本発明の動物保定具は、上記のようなカバリング糸を100%用いてもよいが、ポリアミド糸等と組み合わせてもよい。
用いる糸の総繊度は、30〜85デシテックスが好ましく、カバリング糸と同程度の総繊度の糸を用いることが好ましい。
他の糸を併用する場合、カバリング糸は、動物保定具中50質量%以上用いることが好適である。
【0033】
本発明の動物保定具は、編物の場合、シームレス経編機、丸編機等を用いることにより製造される。
【0034】
また、本発明の動物具保定具は、編物に限らず、織物を用いてもよい。編物の方が伸縮性を持ち、また小ロットでの生産ができるため、作業性、生産性において有利である。
また、本発明の動物具保定具に用いられる織編物の織編組織は、図1に示す実施形態のような2種の織編組織に限らず、本発明の目的を達成するものであれば、3種以上の織編組織としてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0036】
尚、実施例において、伸び率及び伸長回復率は以下の方法により求めた。
1)伸び率
JIS L−1096B法に準じ、試料幅25mm、長さ80mm、印間の長さ40mmとして測定した。
測定方法:テンシロン(ORIENTEC CORPORATION RTM−250)を使用し、試料に加重14.7Nをかけたときの伸び率を測定。
【0037】
2)伸長回復率
JIS L−1096B法に準じ、試料幅25mm、長さ80mm、印間の長さ40mmとして測定した。
測定方法:テンシロン(ORIENTEC CORPORATION RTM−250)を使用し、試料に加重14.7Nを1分間かけ、装置から取り外し、30秒、1時間後の伸長回復率を測定。
【0038】
[実施例1]
ポリウレタン糸(22デシテックス/1本、Yiwu Yuan社製)にナイロン6糸(33デシテックス/12本、Fujian Jiayi社製)をカバリングしたカバリング糸とナイロン6糸(56デシテックス/48本、Fujian Jiayi社製)とを用い、シームレス経編機(ドイツ・マイヤー社製)にて2本ずつ給糸して編み立て(筒中央部はメッシュ編、筒端部はゴム編)、図1に示すような動物保定具を作成した。
得られた動物保定具のサイズ(使用前)、編密度、伸び率及び伸長回復率を測定した。
その結果を、表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
また、実施例1の動物保定具を用いて、ラット(鼻先から尾根までの長さ約24cm、腹周囲長約20cm、体重約300g)を保定したところ、暴れることなく、おとなしくしていた。これは、筒端部がそれぞれラットの頭部と臀部とをしっかり固定し、一方、筒中央部はラットの腹部を中心に過度に締め付けることなく、ゆったりした状態で保定することが可能であったためであると考えられる。
【0041】
また、動物保定具を用いて保定する前と保定したときのラットの心拍数と血圧を、ソフトロン(Softron) BP−98A−L(株式会社ソフトロン社製)を用いて測定した。
その結果を、表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、動物保定具で保定されている状態でも、心拍数は上がらず、通常と同じ状態であった。このことから、ラットには、保定によるストレスがかかっていなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の動物保定具は、マウス、ラットなどの動物を保定するために、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
1 動物保定具
2 端部A
3 中央部
4 端部B
図1