特許第6055109号(P6055109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6055109-無段変速機の制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055109
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20161226BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20161226BHJP
   F16H 59/08 20060101ALI20161226BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/42
   F16H59/08
   F16H61/662
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-549036(P2015-549036)
(86)(22)【出願日】2014年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2014077632
(87)【国際公開番号】WO2015076041
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2016年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-241424(P2013-241424)
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋次
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−068142(JP,A)
【文献】 特開昭62−137454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/08
F16H 59/42
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリとセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を伝達する無段変速機と、
駆動源と前記プライマリプーリとの間に設けられ、動力伝達状態を断接するクラッチと、
前記プライマリプーリの回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサと、
車両が停止状態か否かを判定する停車状態判定手段と、
前記プライマリプーリ回転数センサの信号に基づいて、ベルト滑りを検出するベルト滑り検出手段と、
運転者のシフトレバー操作によりニュートラルレンジが選択されていて且つ車両停止状態の場合は、前記ベルト滑り検出手段によるベルト滑りの検出を禁止する禁止手段と、
を備え、
ニュートラルレンジが選択されていても車両停止状態でない場合は、前記ベルト滑り検出手段によりベルト滑りを検出する無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の制御装置において、
前記セカンダリプーリの回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサを有し、
前記ベルト滑り検出手段は、セカンダリプーリ回転数センサにより検出されたセカンダリ回転数に前記無段変速機の最低変速比を掛けた値よりも、前記プライマリ回転数が大きいときは、ベルト滑りであると検出するものである無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ間の動力をベルトにより伝達する際の変速比を無段階に変更可能な無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の無段変速機の制御装置として特許文献1に記載されたものが提案されている。この特許文献1に記載された技術では、プライマリプーリ回転数が、機構上取り得る最大変速比にセカンダリプーリの回転数を乗算した値よりも大きくなり、かつ、エンジン回転数が所定値以上の場合には、ベルト滑りと判定し、ベルト滑り保護制御を行っている。
【0003】
しかしながら、運転者がシフトレバーをPレンジやNレンジに設定している状態で、アクセルペダルを踏み込むような操作を行うと、エンジンが高回転となってプライマリプーリが振動する場合がある。この振動によってプライマリプーリの回転数を検出しているセンサは、プライマリプーリの位置によっては、パルス信号を出力してしまう場合があり、この場合、制御装置は、単なる振動をプライマリプーリが回転していると誤って認識することになる。このとき、車両は停止しているのでセカンダリプーリは回転していないため、ベルト滑りがあると判断し、ベルト滑り保護制御を実施してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−124968号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、ベルト滑りの誤検知を回避可能な無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機の制御装置では、プライマリプーリとセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を伝達する無段変速機と、駆動源とプライマリプーリとの間に設けられ、動力伝達状態を断接するクラッチと、前記プライマリプーリの回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサと、車両が停止状態か否かを判定する停車状態判定手段と、前記プライマリプーリ回転数センサの信号に基づいて、ベルト滑りを検出するベルト滑り検出手段と、車両が停止状態と判定され、運転者のシフトレバー操作によりニュートラルレンジが選択されている場合は、前記ベルト滑り検出手段によるベルト滑りの検出を禁止する禁止手段と、を備え、ニュートラルレンジが選択されていても車両停止状態でない場合は、前記ベルト滑り検出手段によりベルト滑りを検出するものとした。
【0007】
よって、本発明によれば、ニュートラルレンジが選択されていて且つ車両停止状態であれば、基本的にプライマリプーリの回転数は出ておらず、ベルト滑りは生じないため、この場合にベルト滑りの検出を禁止することで、誤ったベルト滑り検出を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る無段変速機の制御装置における実施の形態を表すシステム図である。
図2】上記実施の形態におけるベルト滑り検出禁止処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明に係る無段変速機の制御装置の具体的な実施の形態を表すシステム図である。この実施の形態における車両は、内燃機関であるエンジン1と、トルクコンバータ2と、オイルポンプ3と、前後進切替機構4と、ベルト式無段変速機CVTとを有し、ディファレンシャルギヤを介して駆動輪に駆動力を伝達する。トルクコンバータ2は、オイルポンプ3を駆動する駆動爪と一体に回転するポンプインペラと、前後進切替機構4の入力側と接続されるタービンランナと、これらポンプインペラとタービンランナとを一体的に連結可能なロックアップクラッチ2aとを有する。前後進切替機構4は、遊星歯車機構と複数のクラッチ4aから構成されており、クラッチ4aの締結状態によって前進と後進とを切り替える。ベルト式無段変速機CVTは、前後進切替機構4の出力側と接続されたプライマリプーリ5と、駆動輪と一体に回転するセカンダリプーリ6と、プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6との間に巻回され動力伝達を行うベルト7と、を有する。
【0010】
コントロールユニット10は、運転者の操作によりレンジ位置を選択するシフトレバー11からのレンジ位置信号(以下、レンジ位置信号をそれぞれPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジと記載する。)と、アクセルペダル開度センサ12からのアクセルペダル開度信号(以下、APOと言う。)と、プライマリプーリ5の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ13からのプライマリ回転数信号Npriと、セカンダリプーリ6の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサ14からのセカンダリ回転数信号Nsecとを読み込む。尚、各プーリのベルト挟持側とは反対側の側面には、回転軸を中心として放射状に規則的な凹凸が形成されている。プライマリプーリ回転数センサ13及びセカンダリプーリ回転数センサ13は、この凹凸と向き合うように配置されており、センサ内に設けられたコイルによって生じる磁場が凹凸によって変化する状態を読み取り、パルス状の信号を検出する。
【0011】
コントロールユニット10は、レンジ位置信号に応じたクラッチ4aの締結状態を制御する。具体的にはPレンジもしくはNレンジであればクラッチ4aは解放状態とし、Rレンジであれば前後進切替機構4が逆回転を出力するように後進クラッチ(もしくはブレーキ)を締結し、Dレンジであれば前後進切替機構4が一体回転して正回転を出力するように前進クラッチ4aを締結する。Pレンジでは、クラッチ4a及び後進クラッチを解放状態とするとともに、図示しないパークロック機構を作動させ、車両が走行状態とならないようにしている。つまり、運転者によってPレンジが選択されている場合、車両は停止状態となっている。また、セカンダリ回転数Nsecに基づいて車速を算出し、APO信号と車速とに基づいて目標変速比を設定する。そして、目標変速比に基づいて各プーリの油圧をフィードフォワード制御により制御すると共に、プライマリ回転数信号Npriとセカンダリ回転数信号Nsecとに基づいて実変速比を検出し、設定された目標変速比と実変速比とが一致するように、各プーリの油圧をフィードバック制御する。尚、上記油圧制御のためのユニットは、プライマリプーリ5のプーリ油圧とセカンダリプーリ6のプーリ油圧とを個別に制御可能なユニットでもよいし、一方にはライン圧相当の油圧を供給した状態で他方のプーリ油圧を制御するユニットでもよく、特に限定しない。
【0012】
コントロールユニット10内には、ベルト7の滑りを検出するベルト滑り検出部10aを有する。ベルト滑り検出部10a内では、プライマリプーリ回転数センサ13により検出されたプライマリ回転数Npriが、セカンダリ回転数Nsecに最低変速比を掛けた(乗じた)滑り判定値以上か否かを判断し、プライマリ回転数Npriが滑り判定値以上のときはベルト滑りが発生していると判断する。ベルト滑りが無い状態での実変速比が不明であったとしても、無段変速機CVTの変速比が最低変速比と仮定し、セカンダリ回転数Nsecに対するプライマリ回転数Npriを滑り判定値とすることで、プライマリ回転数Npriが更に高い回転数となった場合は、ベルト滑りが発生していると考えられるからである。尚、セカンダリプーリ回転数Npriがゼロの場合も想定されることから、所定のオフセット値を付与して判定感度を調整してもよく、特に限定しない。
【0013】
ここで、車両停止時にプライマリ回転数センサ13の検出信号に基づくベルト滑り検出が誤検出される場合について説明する。上述したように、プライマリ回転数センサ13は、プライマリプーリ5に形成された凹凸変化を読み取ることで回転数を検出している。このとき、プライマリプーリ5の回転数がゼロ、すなわち停車している状態で、プライマリプーリ回転数センサ13と対向する凹凸の位置が、凹部と凸部のほぼ境界部分に位置すると、プライマリプーリ5は停止しているものの、例えばアクセルペダルを踏み込んでエンジン1を空吹かしした場合、その振動によって凹部と凸部の間を行き来する場合が発生する。すると、プライマリプーリ5は回転していないにも関わらず、プライマリプーリ回転数センサ13がパルス信号を出力し、コントロールユニット10においてプライマリプーリ5に回転数が発生していると認識する場合がある。
【0014】
そうすると、ベルト滑り検出部10aでは、セカンダリ回転数Nsecに基づいて滑り判定値が算出されており、セカンダリ回転数Nsecがゼロとすると、滑り判定値としては小さな値が設定されることになる。このとき、プライマリ回転数Npriは滑り判定値よりも大きくなることによって、ベルト滑りが検出されてしまう。ベルト滑りが検出された場合、ベルト滑りを保護するための制御として、例えばライン圧を上昇させる制御や、滑りを防止するためにエンジン1の出力トルクを低減する制御等が介入してしまう。そうすると、例えば、PレンジからDレンジに切り替えて発進しようとしても、所望の発進状態が得られず運転者に違和感を与えるおそれがあった。そこで、本実施の形態では、PレンジもしくはNレンジで車両停止状態のときは、ベルト滑りは生じないと判断してベルト滑り検出を禁止することで、上記のような誤検出を回避することとした。
【0015】
図2は本実施の形態でのベルト滑り検出禁止処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、PレンジもしくはNレンジで車両停止状態か否かを判定し、条件を満たしていればステップS2に進んでベルト滑り検出部10aによるベルト滑り検出を禁止する。一方、条件を満たしていない場合はステップS3に進んでベルト滑り検出部10aによるベルト滑り検出を行う。これにより、誤ったベルト滑り検出を回避できる。
【0016】
すなわち、DレンジやRレンジが選択されている場合は、運転者に走行意図があり、その場合には、例え車両停止状態であってもベルト滑りの検出を行う必要がある。しかしながら、PレンジやNレンジの車両停止状態であれば、運転者に走行意図は無く、クラッチ4aが解放されており、ベルト滑りを心配する必要が無い。
尚、仮にベルト滑りの検出を停止しないPレンジやNレンジの車両停車状態では、クラッチ4aが解放されており、エンジン空吹かしをすると、エンジン振動の影響や、クラッチ4aのドラグトルクの影響によって、クラッチ4aの締結時よりもプライマリプーリ5に微振動が生じやすく、回転数を検出するおそれがある。この誤検出は、例えばベルト滑りが発生したことを報告する異常ランプが点灯したり、ライン圧が不要に高められたり、実際にDレンジに切り替えて走行しようとしたときに過剰にエンジントルクが抑制されてしまうといったベルト滑り抑制制御の不要な実行を招くおそれがある。本実施の形態では、PレンジやNレンジの車両停止状態においてベルト滑り検出を禁止することで、これら問題を回避している。
【0017】
以上説明したように、本実施の形態にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6の間にベルト7を巻装して動力を伝達する無段変速機CVTと、エンジン(駆動源)1とプライマリプーリ5との間に設けられ、動力伝達状態を断接するクラッチ4aと、プライマリプーリ5の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ13と、プライマリプーリ回転数センサ13の信号に基づいて、ベルト滑りを検出するベルト滑り検出部(ベルト滑り検出手段)10aと、ステップS1によりPレンジもしくはNレンジで車両停止状態と判定されたときは、ベルト滑り検出部10aによるベルト滑り検出を禁止するステップS3(禁止手段)と、を備えた。これにより、PレンジやNレンジの車両停止中であれば、運転者に走行意図はなく、クラッチ4aが解放されているため、プライマリプーリ5の回転数は出ていないはずであり、動力伝達系に大きなトルク伝達が行われることはなく、そもそもベルト滑りが生じない状態である。よって、ベルト滑り検出を禁止したとしても、制御上に影響を与えることがなく、誤ったベルト滑り検出のみを回避することができる。
【0018】
(2)上記(1)に記載の無段変速機の制御装置において、セカンダリプーリ6の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサ14を有し、ステップS2は、セカンダリプーリ回転数センサ14により検出されたセカンダリ回転数Nsecに無段変速機CVTの最低変速比を掛けた値である滑り判定値よりも、プライマリ回転数Npriが大きいときは、ベルト滑りであると検出する。よって、回転数センサのみでベルト滑りを検出することができる。
図1
図2