(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記故障判定手段は、前記作動流体の温度が故障判定用の温度以上のときにも、前記電動ポンプが故障したと判定する請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動ポンプの故障診断装置。
前記故障判定予備手段は、前記第1の条件に加え、前記モータが前記上限電流で制限され、かつ、該モータの回転数が前記下限回転数未満である状態が検出された第2の条件が成立したときに、前記電動ポンプに故障の可能性があると判定し、
前記故障判定手段は、前記第2の条件の成立により前記電動ポンプに故障の可能性があると判定され、かつ、前記作動流体の温度が故障判定用の温度以上のときにも、前記電動ポンプが故障したと判定する請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の電動ポンプの故障診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を、車両の無段変速機に潤滑及び冷却のため作動油(作動流体)を供給する電動ポンプに適用した実施の形態を説明する。
図1において、エンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
【0014】
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0015】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0016】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0017】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
車両の各種信号に基づいて外部装置としてのCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式ポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0018】
一方、前記機械式ポンプ7をバイパスする通路に電動ポンプ8が配設される。該電動ポンプ8は、車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックを緩和するため、あるいは、各被潤滑部の潤滑及び冷却のため、外部装置としてのCVTコントロールユニット(CVTCU)5からの制御信号によって駆動される。
【0019】
なお、電動ポンプ8出口の油通路には、必要に応じて通常時の作動油の逆流を防止する逆止弁9を配設してもよい。また、図示点線で示すように、電動ポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0020】
図2は、上記電動ポンプの制御ブロック図を示す。
CVTCU5は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)及び油温センサ11によって計測される作動油の温度(油温)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動ポンプ8の目標回転数を演算し、該目標回転数を指令値として電動ポンプ8に出力する。
【0021】
電動ポンプ8は、ポンプ本体81と、該ポンプ本体81を駆動するモータ82と、該モータ81を駆動するモータ駆動回路83とを備えて構成されている。
モータ駆動回路83は、モータ回転数(ポンプ回転数)を検出してCVTCU5に送信しつつ、CVTCU5からの指令値に基づいて、実回転数を目標回転数に収束させるようにモータ82を駆動する。
【0022】
ここで、
図3に示すように電動ポンプ8の発熱による故障の発生、耐久性低下を抑制するため、起動後の連続運転時間(又は部品温度)の増大に応じて、モータ82の電流制限値を段階的に減少するように設定している。
【0023】
一方、電動ポンプ8側で、上記モータの電流制限や指令値の異常(指令値の生成不良や電動ポンプ8とCVTCU5間の通信異常等による)を考慮した処理により、電動ポンプ8が故障している可能性があるかを判定する。即ち、電動ポンプ8(モータ駆動回路83)は、故障判定の予備機能(故障判定予備手段)を備える。
【0024】
そして、電動ポンプ8に故障の可能性があると判定された場合(及び故障を確定した場合)は、その旨の信号を(実回転数信号に代えて)CVTCU5に送信すると共にモータ82の駆動を停止して電動ポンプ8を強制的に停止する。
【0025】
一方、CVTCU5は、電動ポンプ8側から、電動ポンプ8に故障の可能性があるとの信号を受信した場合は、油温センサ11で検出される油温等に基づいて電動ポンプ8の故障判定を行い、故障ありとの判定(故障判定)を確定する機能(故障判定確定手段)を備える。そして、電動ポンプ8の故障判定を確定した場合は、電動ポンプ8の停止を維持し、故障判定を確定できない場合は、所定時間経過後に駆動を再開させる等の処理を行う。
【0026】
また、後述するように、電動ポンプ8側にも、所定の処理によって故障判定を確定する機能(第2故障判定確定手段)も備えてある。
以下、故障診断処理の各実施形態の詳細を、
図3に示すタイムチャート及び
図4〜
図8のフローチャートに従って説明する。
【0027】
図4は、基本的な処理の実施形態(第1実施形態)を示す。本処理は、電動ポンプ8(ポンプ駆動回路83)側でなされる。
ステップS1では、電動ポンプ8を起動後、モータ82を正常時における上限電流Iαを電流制限値として駆動する所定時間T1の経過前であるかを判定する。ここで、上限電流Iαは、使用温度条件において必要なポンプ吐出量を確保するために必要な電流の上限値として設定される。
【0028】
所定時間T1経過前、つまり、上限電流Iαを電流制限値とした運転中と判定されたときは、ステップS2へ進み、モータ82の実回転数(モータ回転数=ポンプ回転数)がモータ回転数の指令値(目標回転数)に対して所定偏差以上低く、かつ、下限回転数NL0未満であるかと判定する。ここで下限回転数NL0とは、電動ポンプ8の動作を保証する油温範囲(例えば、−25℃〜100℃)における下限の回転数である。通常は、低温の方が漏れが少なくフリクションが増大して回転数が減少するので、下限温度(例えば、−25℃)における回転数が下限回転数として設定されることとなる。
【0029】
なお、CVTCU5側で設定される指令値が、油温に対して1対1の関係で定まる場合もあり、この場合、電動ポンプ8側で受信した指令値に基づいて油温を推定し、推定油温に応じて下限回転数を設定することも可能である。
【0030】
また、故障可能性の判定精度を高めるため、モータ回転数が指令値に対して所定偏差を超えて下回ることを、故障の可能性があるとの判定条件に加えている。例えば、極低温時に、CVTCU5が把握している油温に応じて下限回転数NL0に近い指令値を生成した場合は、モータ回転数が指令値から所定偏差内であれば下限回転数NL0未満となっても正常に運転されているといえるので、故障の可能性があるとの判定を回避することができる。但し、CVTCU5により最終的な故障判定の確定が行われるため、簡易的には、電動ポンプ8側での故障可能性判定条件では、上記偏差に基づく判定条件を省略するようにしてもよい。
【0031】
ステップS2で、モータ回転数が下限回転数NL0以上と判定されたときは、運転が正常に行われていると判断し、そのまま運転を継続する。
モータ回転数が下限回転数NL0未満(及び所定偏差外)と判定されたときは、ステップS3へ進み、この状態で故障可能性判定用の所定時間t0を経過したかを判定する。
【0032】
所定時間t0内で下限回転数NL0以上に回復した場合は、そのまま運転を継続する。
一方、下限回転数NL0未満(及び所定偏差外)のまま所定時間t0を経過したときは、正常な運転が行われておらず、電動ポンプ8が故障している可能性があると判定し、ステップS4で故障の可能性ありとの判定結果を、CVTCU(外部装置)5へ通報する。
【0033】
次いでステップS5では、電動ポンプ8(モータ82)の駆動を強制的に停止処理する。この場合、電動ポンプ8(モータ駆動回路83)側で停止するようにしてもよいが、CVTCU5が、上記故障可能性ありとの受信によって、電動ポンプ8の駆動を停止させる(駆動量0)信号を電動ポンプ8に送信することによって停止させる構成としてもよい。
【0034】
一方、ステップS1で電動ポンプ8を起動後、所定時間T1を経過したと判定されたとき、つまり、正常時の上限電流Iαより低い電流制限値(Iβ又はIγ)とした運転に切換後は、ステップS6へ進む。
【0035】
ステップS6では、モータ回転数が当該電流を制限して運転される場合の所定回転数NL1以下に低下したかを判定する。ここで、該所定回転数NL1は、停止に近い値に設定され、該所定回転数NL1以下であるときは、実質的にモータ82(ポンプ)が停止していると判定する。即ち、指令値の異常(生成不良や通信異常)に加えて電流の制限により、電動ポンプ8が故障していなくとも停止または停止に近い回転数まで低下する場合があるからである。
【0036】
モータ回転数が所定回転数NL1以下に低下し、実質的な停止状態と判定されたときは、ステップS7へ進み、この状態で所定時間t1が経過したかを判定する。所定時間t1内で所定回転数NL1以上となって、モータ回転が回復した場合は、そのまま運転を継続する。
【0037】
ステップS7で、モータ回転数が所定回転数NL1以下、つまり停止したまま所定時間t1を経過したと判定されたときはステップS8へ進む。
ステップS8,S9では、ステップS4,S5と同様、正常な運転が行われず電動ポンプ8が故障している可能性があるとの判定結果を、CVTCU(外部装置)5へ通報すると共に、電動ポンプ8(モータ82)の駆動を強制的に停止処理する。
【0038】
かかる第1実施形態の処理によれば、所定時間T1経過前の上限電流Iαを電流制限値とした運転条件において、指令値が過大となって実回転数の指令値への追従が遅れ、実回転数が所定偏差以上低下しても、下限回転数NL0以上であれば、当該運転条件における必要ポンプ吐出量は確保されているので、そのまま電動ポンプ8の駆動を継続する。
【0039】
このように、ポンプ使用時の作動流体条件(下限温度)を考慮して設定された下限回転数NL0を用いて故障可能性を判定することにより、従来の指令値と実回転数との関係(偏差)に基づく電動ポンプ8が故障との誤判定、及び該誤判定による電動ポンプ8の停止を抑制でき、電動ポンプ8によるCVT(作動機器)の作動性向上(作動油圧の上昇)に可能な限り寄与することができる。
【0040】
一方、実回転数が下限回転数NL0未満のときは、上記運転条件における必要ポンプ吐出量が確保されず、電動ポンプ8が故障している可能性があるが、油温が極低温で回転数が上昇しにくいなど故障でない場合もありえる。このため、故障判定を確定することなく、故障の可能性があるとの判定結果をCVTCU(外部装置)5に通報し、油温情報を有するCVTCU(外部装置)5に、最終的な故障判定を委ねることができる。
【0041】
即ち、この場合も電動ポンプ8が故障していない場合に、電動ポンプ8側で故障ありと判定を確定することによる誤判定を抑制できる。
また、所定時間T1経過後の電流制限値がIβまたはIγに
制限された運転条件においては、電動ポンプ8が正常であっても指令値の異常による回転数低下に加えて、モータ電流が制限されることにより回転が停止または停止に近い状態まで低下する場合がある。
【0042】
そこで、所定時間t1内に電動ポンプ8が所定回転数NL1以上となって回転が検出されたときは、そのまま電動ポンプ8の運転を継続することにより、CVT作動油圧の作動性向上に可能な限り寄与することができる。
【0043】
一方、所定時間t1経過後も電動ポンプ8が停止状態と判定されたときは、故障の可能性があるとの判定結果をCVTCU(外部装置)5に通報し、CVTCU(外部装置)5に、最終的な故障判定を委ねることができる。
【0044】
このように、所定時間T1経過後は、指令値の異常や通信異常による回転数低下に加えて、モータ電流の制限を考慮して設定した所定回転数NL1により、故障の可能性を判定するため、指令値と実回転数との偏差のみに基づく電動ポンプ8が故障との誤判定を抑制できる。また、該誤判定による電動ポンプ8の停止を抑制でき、電動ポンプ8によるCVT(作動機器)油圧の上昇に可能な限り寄与することができる。
【0045】
また、所定時間T1経過前、経過後のいずれにおいても、故障の可能性ありと判定したときは、モータ(ポンプ)の駆動によって電動ポンプの耐久性に影響を与える可能性があるが、駆動を停止することにより電動ポンプの耐久性への影響を回避できる。
【0046】
図5は、上記第1実施形態による処理後に、電動ポンプ8側でなされる処理の実施形態(第2実施形態)を示す。
ステップS11では、上記電動ポンプ8に故障の可能性ありとの判定に伴う駆動停止処理が実施されていないかを判定する。
【0047】
停止処理がなされておらず、電動ポンプ8が正常に運転されていると判断された場合には、ステップS12へ進み、CVTCU(外部装置)5から駆動指示があるかを判定する。
【0048】
そして、駆動指示がある場合には、ステップS13で指令値(目標回転数)に従って電動ポンプ8(モータ82)の作動を制御し、駆動指示がない場合には、ステップS14で電動ポンプ8の通常停止処理を行って停止させる。
【0049】
一方、ステップS11で電動ポンプ8(モータ82)の駆動停止処理が実施されていると判定されたときは、ステップS15へ進んで、該ポンプ駆動停止後、所定時間t2が経過したかを判定し、所定時間t2経過前は、ステップS16にて駆動停止を継続し、所定時間t2経過後は、ステップS17へ進んで駆動停止を解除する。ここで、所定時間t2は、油温が所定温度上昇するのに必要な時間に設定され、前記所定温度は、例えば、油温センサ11のバラツキ量相当の値に設定される。即ち、通常、油温センサ11で検出された油温に応じて指令値が設定されるが、油温センサの検出油温が実際の油温より高温側にバラツキを生じることを考慮すると、所定時間の経過によってバラツキ量相当の油温上昇が得られることとなる。
【0050】
つまり、上記のような油温センサの高温側のバラツキにより目標回転数が高めに設定されても、実油温が低く作動油粘度が大きいため電動ポンプ8の回転が上昇しにくくなることによって、故障の可能性ありと判定される場合が考えられる。モータ電流が増大して電流制限値で制限され、回転上昇が妨げられる場合もある。このような場合には、所定時間t2の経過によって油温が上昇して作動油の粘度が減少して吐出されやすくなることにより、モータ回転数(ポンプ回転数)を目標回転数まで上昇できる可能性がある。
【0051】
そこで、ステップS12以降へ進んで、CVTCU(外部装置)5から駆動指示に応じた電動ポンプ8の作動制御または通常停止処理を実施する。
かかる第2実施形態の構成によれば、電動ポンプ8の強制停止後、所定時間経過後に強制停止を解除することによって、時間経過に応じた油温の上昇によって故障の可能性ありと判定されない正常運転相当の回転数まで上昇した場合は、そのまま、運転が継続される。即ち、故障の誤判定を抑制しつつ可能な限り、CVT(作動機器)の作動制限を緩和して作動性向上に寄与することができる。
【0052】
図6は、CVTCU5側での故障判定確定を含む故障診断処理の実施形態(第3実施形態)を示す。
ステップS21では、電動ポンプ8が強制停止中であるかを判定する。強制停止中でなければ、ステップS22で電動ポンプ8の通常制御を継続し、強制停止中のときは、ステップS23へ進む。
【0053】
ステップS23では、ポンプ故障がまだ確定されていないかを判定する。故障確定済みの場合は、ステップS30へ進んでポンプ停止時処理を継続する。
故障が確定していない場合は、ステップS24へ進み、駆動指示後、最初の強制ポンプ停止であるかを判定する。そうでない場合は、ステップS30へ進んでポンプ停止時処理を継続する。
【0054】
最初の強制ポンプ停止と判定されたときは、ステップS25へ進んでポンプ起動後所定時間T1を経過前であるかと判定する。
T1経過前、つまり、正常時の上限電流Iαを電流制限値とした運転中と判定されたときは、ステップS26にて故障判定油温を所定温度1に設定し、T1経過後のIβまたはIγを電流制限値とした運転中と判定されたときはステップS27にて故障判定油温を所定温度2に設定する。
【0055】
ここで、所定温度1、所定温度2は、それぞれの運転条件において、これらの温度以上であれば、作動油の粘度低下によるポンプ駆動時のフリクションが所定値以下に維持され、電動ポンプ8が正常である限り、ポンプ回転数が故障の可能性ありと判定されることがない所定回転数NL0,NL1以上に達する限界温度に設定される。なお、油温センサ11の高温側のバラツキ量を加算した温度に設定される。
【0056】
次いで、ステップS28では、油温が上記故障判定油温(所定温度1、所定温度2)未満であるかと判定する。未満と判定されたときは、油温が低温であることによって
図4のステップS4又はステップS8で故障の可能性ありと判定された可能性があるので、故障判定を確定することなくステップS29へ進む。
【0057】
ステップS29では、故障の可能性があると判定されたときは、その後、所定時間経過後に
図5で電動ポンプ8の強制停止が解除された再起動された場合でも、電動ポンプ8の回転数が不足または停止していて必要吐出量を確保できない可能性があるので、作動機器であるCVTの動作を制限する処理(例えば、調整油圧を低めに設定する等)を行う。
【0058】
ステップS30では、ポンプ停止時処理を継続する。
一方油温が故障判定油温(所定温度1、所定温度2)以上と判定されたときは、油温によらず異常を生じている、つまり、電動ポンプ8に部品故障等、何らかの故障があると判断し、ステップS31で故障ありとの診断を確定した上で、ステップS30でポンプ停止時処理を継続する。
【0059】
かかる第3実施形態の構成によれば、油温が故障判定油温(所定温度1、所定温度2)以上に上昇したにも関らず、ポンプ回転が正常でないことに基づいて、精度よく故障判定を確定することができる。
【0060】
図7は、電動ポンプ8側での故障判定確定を含む故障診断処理の実施形態(第4実施形態)を示す。
本実施形態では、所定時間T1経過後のモータ電流が制限された状態で電動ポンプ8を駆動中に電動ポンプ8が停止したとき、モータ電流の制限を緩和して直ちに電動ポンプ8を再起動させる制御を行う。
【0061】
ここで、上記の状況で電動ポンプ8が停止するのは、指令値の異常(生成不良や通信異常)、実油温に適合しない過剰な電流の制限等により電動ポンプ8が停止したとき、あるいは、電動ポンプ8の故障したことが考えられる。
【0062】
ステップS41では、上記の状況で電動ポンプ8が再起動された後、所定時間t3が経過したかを判定する。
再起動開始直後は、所定時間t3経過前と判定されてステップS42へ進み、再起動用の修正された電流制限値Ixが設定される。該電流制限値Ixは、
図3に一点鎖線で示すように、電動ポンプ8起動後の経過時間によって設定される通常の電流制限値β又はγより大きく、上限電流α以下の値に増加する。このように電流制限値を増加して再起動処理することにより、回転数の上昇を促進する。
【0063】
次いでステップS43では、該修正された電流制限値での運転中に、再び再起動判定があったか、つまり、電動ポンプ8が停止状態と判定されたかを判定する。よって再起動しても、電動ポンプ8が回転しない場合は、新たに再起動判定がなされることとなる。
【0064】
そして、再起動判定がなされた場合は、ステップS44へ進んで該電流制限値増加運転時用の再起動カウンタ2をカウントアップする。
次いで、ステップS45で上記再起動カウンタ2によってカウントされる再起動判定回数が所定回数C2以上に達したかを判定し、達したと判定されたときは、ステップS46へ進んで電動ポンプ8(モータ及び駆動回路)の故障を確定し、駆動を停止する。
【0065】
このように、電流制限値を増加した運転中にもポンプ回転数が上昇しないとき(実質的な停止状態)は、油温に基づく故障判定を行うことなく、故障を確定する。指令値の異常(生成不良や通信異常)による回転数低下を考慮しても、電流制限値Ixの増加によって電動ポンプ8が正常であればモータ回転は可能となるように設定されているので、それでも停止状態が継続する場合は、電動ポンプ8が故障していると確定することができる。
【0066】
一方、ステップS41で再起動後、電動ポンプ8が回転し、故障が確定されることなく所定時間t3を経過したと判定されたときは、ステップS47へ進んで再起動カウンタ2のカウント値をクリアする。
【0067】
次いで、ステップS48では、上記電流制限値の増加分を除く通常の起動後経過時間に応じた電流制限値に戻す設定を行う。
ステップS49では、ステップS43同様、電動ポンプ8が回転しない場合の再起動判定がなされたかを判定する。
【0068】
再起動判定がされた場合は、ステップS50へ進んで通常電流制限時用の再起動カウンタ1をカウントアップする。
ステップS51では、再起動判定回数が所定回数C1以上に達したかを判定し、達したと判定されたときは、ステップS52へ進む。
【0069】
ステップS52では、CVTCU(外部装置)5へ電動ポンプ8が故障している可能性があると通報する。
ステップS53では、電動ポンプ8(モータ)の駆動を停止する。
【0070】
このように、起動後経過時間に応じた通常の電流制限値で電流を制限している場合は、電動ポンプ8が停止する可能性があるので、故障判定を確定することなく、故障可能性有りの通報を行い、CVTCU(外部装置)5側で油温に基づく故障判定を行う。
【0071】
かかる第4実施形態によれば、再起動時に電流制限値を緩和することにより、電動ポンプ8の回転の有無に応じて、電動ポンプ8側で故障判定の確定を行うことができる。
なお、以上の実施形態には示さなかったが、
図3に示すように、ポンプ回転数が指令値(目標回転数)より所定偏差以上大きい場合は、CVTCU5側で追従性不良と判定すればよい。
【0072】
以上の実施形態は、変速機油圧生成用の電動ポンプの制御装置に適用したものを示したが、ハイブリッド車の走行用モータもしくはインバータの冷却用等に用いられる電動ポンプの制御装置等にも同様にして適用することができ、同様の効果を得られる。
【0073】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
(イ)請求項5に係る電動ポンプの故障診断装置において、
前記所定時間経過前に前記再起動判定が所定回数以上行われたときに、前記電動ポンプが故障しているとの判定を確定する第2故障判定確定手段を備えることを特徴とする。
【0074】
このようにすれば、指令値の異常(生成不良や通信異常)による回転数低下を考慮しても、電流制限値の増加によって電動ポンプが正常であればモータ回転は可能であるため、それでも再起動判定が継続する場合は、油温に基づく故障判定を行うことなく、電動ポンプ8が故障していると確定することができる。
なお、出願時の特許請求の範囲は、以下の通りである。
[請求項1]
外部装置からの指示に応じて作動流体を供給する電動ポンプの故障診断装置であって、
前記電動ポンプ駆動用モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記モータが正常時に使用する上限電流以上の電流で駆動され、かつ、該モータの回転数が作動流体温度条件に基づいて設定された下限回転数未満である状態が検出されたときに、電動ポンプに故障の可能性があると判定する第1故障判定予備手段と、
前記モータが前記上限電流未満の電流制限値で電流を制限されて駆動され、かつ、該電流制限値の制限に応じて前記下限回転数より低く設定された所定回転数に対し、前記モータの回転数が前記所定回転数未満である状態が検出されたときに故障の可能性があると判定する第2故障判定予備手段と、を備え、
前記第1故障判定予備手段または前記第2故障判定予備手段が、前記電動ポンプに故障の可能性があると判定したときに、前記モータを停止することを特徴とする電動ポンプの故障診断装置。
[請求項2]
前記電動ポンプに故障の可能性があると判定されてモータを停止後、所定時間を経過した後、前記外部装置からの駆動指令に応じて前記モータの駆動を再開する請求項1に記載の電動ポンプの故障診断装置。
[請求項3]
前記第1故障判定予備手段または前記第2故障判定予備手段によって前記電動ポンプに故障の可能性があると判定された場合は、前記作動流体の温度が前記各故障判定予備手段に対してそれぞれ設定された故障判定用の第1温度または第2温度以上と判定されたときに、前記電動ポンプが故障しているとの判定を確定する故障確定手段を備える請求項1または請求項2に記載の電動ポンプの故障診断装置。
[請求項4]
前記第1故障判定予備手段または前記第2故障判定予備手段によって前記電動ポンプに故障の可能性があると判定された場合は、前記作動流体の温度が前記各故障判定予備手段に対してそれぞれ設定された故障判定用の第1温度または第2温度未満と判定されたときに、前記停止されたモータを再起動させ、該再起動時の電動ポンプの吐出状態に応じて、作動流体使用機器の動作を制限する請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動ポンプの故障診断装置。
[請求項5]
前記第2故障判定予備手段において、前記電動ポンプを駆動中に動作停止した場合、前記電流制限値を増加補正し、前記モータを該増加補正された電流制限値で電流を制限しつつ再起動させる再起動判定を行い、該再起動判定により再起動を開始後、所定時間経過後に、前記電流制限値を元の電流制限値に戻す請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の電動ポンプの故障診断装置。