特許第6055215号(P6055215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055215
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】インピーダンス測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20161219BHJP
   G01R 27/06 20060101ALI20161219BHJP
   G01R 35/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   G01R27/02 A
   G01R27/06
   G01R35/00 J
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-147237(P2012-147237)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-10067(P2014-10067A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】514046574
【氏名又は名称】キーサイト テクノロジーズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】烏川 浩明
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/090550(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/115110(WO,A1)
【文献】 特開2006−242792(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0304457(US,A1)
【文献】 特開2001−201524(JP,A)
【文献】 特表平06−505564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 27/06
G01R 27/26
G01R 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号源に対して被測定素子DUTを、信号線に直列に接続し、信号源から信号線を通して測定信号を送出し、被測定素子DUTへの入力信号と、被測定素子DUTから反射された反射信号と、被測定素子DUTを通過した通過信号とを測定し、前記入力信号、反射信号及び通過信号の各測定値に基づいて、SパラメータS11,S21を算出し、式:
Zx=2Z0S11/S21
(Z0は特性インピーダンス)により被測定素子DUTのインピーダンス Zxを算出するインピーダンス測定方法。
【請求項2】
ネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法であって、
一方が信号源につながり、他方が負荷素子につながるネットワークアナライザの第一ポートと第二ポートとの間に被測定素子DUTを接続し、
信号源から測定信号を送出して、請求項1記載のインピーダンス測定方法を実施する、ネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法。
【請求項3】
前記信号源と負荷素子とをスイッチで交替して、それぞれ測定を行い、得られた各インピーダンスの相乗平均をとる、請求項2に記載のネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法。
【請求項4】
信号線を通して測定信号を送出する信号源と、
前記信号線に被測定素子DUTを直列に接続するためのポートと、
前記信号源から測定信号を送出して、被測定素子DUTへの入力信号と、被測定素子DUTから反射された反射信号と、被測定素子DUTを通過した通過信号とを測定する測定手段と、
前記入力信号、反射信号及び通過信号の各測定値に基づいて、SパラメータS11,S21を算出するSパラメータ算出手段と、
式:Zx=2Z0S11/S21(Z0は特性インピーダンス)
により被測定素子DUTのインピーダンス Zxを算出するインピーダンス算出手段とを備える、インピーダンス測定装置。
【請求項5】
信号源に対して被測定素子DUTを、信号線と接地線との間に並列に接続し、信号源から信号線を通して測定信号を送出し、被測定素子DUTへの入力信号と、被測定素子DUTから反射された反射信号と、被測定素子DUTを通過して前記信号源と反対方向の信号線に向かう通過信号とを測定し、前記入力信号、反射信号及び通過信号の各測定値に基づいて、SパラメータS11,S21を算出し、
式:Zx=−Z0S21/2S11
により(Z0は特性インピーダンス)、被測定素子DUTのインピーダンス Zxを算出するインピーダンス測定方法。
【請求項6】
ネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法であって、
一方が信号源につながり、他方が負荷素子につながるネットワークアナライザの第一ポート及び第二ポートを接続して、接地との間に被測定素子DUTを接続し、
信号源から測定信号を送出して、請求項5記載のインピーダンス測定方法を実施する、ネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法。
【請求項7】
ネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法であって、
一方が信号源につながり、他方が負荷素子につながるネットワークアナライザの第一ポートと第二ポートとの間に、2ポートを1ポートに変換する変換器の2ポート側を接続し、
変換器の1ポート側と接地との間に被測定素子DUTを接続し、
前記信号源から測定信号を送出して、請求項5記載のインピーダンス測定方法を実施する、ネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定方法。
【請求項8】
前記信号源と負荷素子とをスイッチで交替して、それぞれ測定を行い、得られた各インピーダンスの相乗平均をとる、請求項6又は請求項7に記載のネットワークアナライザ1を用いたインピーダンス測定方法。
【請求項9】
信号線を通して測定信号を送出する信号源と、
前記信号線に被測定素子DUTを前記信号源と並列に接続するためのポートと、
信号源から測定信号を送出して、被測定素子DUTへの入力信号と、被測定素子DUTから反射された反射信号と、被測定素子DUTを通過して前記信号源と反対方向の信号線に向かう通過信号とを測定する測定手段と、
前記入力信号、反射信号及び通過信号の各測定値に基づいて、SパラメータS11,S21を算出するSパラメータ算出手段と、
式:Zx=−Z0S21/2S11(Z0は特性インピーダンス)
により被測定素子DUTのインピーダンス Zxを算出するインピーダンス算出手段とを備える、インピーダンス測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス測定方法及び測定装置に係り、特に、ネットワークアナライザの測定原理を用いて、接続された被測定素子DUTに対するSパラメータを測定し、測定されたSパラメータに基づいて被測定素子DUTのインピーダンスを測定する改善された手法を利用する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域で使用される部品の正確なインピーダンス測定が、部品の特性評価において重要となっている。ここで「部品」とは、通常は、例えば、抵抗、キャパシタ、インダクタ、ダイオード、プリント基板上のパターンなどの2端子素子のことであり、以下「被測定素子DUT」と言う。
従来、被測定素子DUT のインピーダンスの測定方法として、測定周波数110MHz程度以下に適した自動平衡ブリッジ法、1MHzから3GHz程度の測定周波数範囲に適した高周波電流電圧法(RF I-V)法が知られており、それぞれ広いインピーダンス範囲を高い確度で測定することができ、インピーダンス測定専用の装置として販売されている。しかしながら、それらの方法・装置では、測定周波数が限定されてしまう。特にRF I-V法では、3GHz程度が限界となる。
【0003】
これに対し、3GHz程度以上の周波数でインピーダンス測定が可能な方法として、ネットワークアナライザを使用したネットワーク解析法(Sパラメータ測定法)が知られており、ネットワーク解析法には、反射係数法と伝送法とが知られている。反射係数法では、被測定素子DUTに対する入力信号と反射信号のベクトル電圧比S11すなわち反射係数Γを測定する。伝送法は2つのテスト・ポート間に被測定素子DUTを直列または並列に接続し、入力信号と出力信号とのベクトル電圧比S21(b2/a1)を測定する。従来、反射係数法では、S11 を測定してインピーダンスZxを求めている。伝送法ではベクトル電圧比S21を測定してインピーダンスZxを求めている。
【0004】
図5(a)に、反射係数法の原理、ベクトル電圧比S11と被測定素子DUTのインピーダンスZxとの関係式、そしてインピーダンスZxを求めるための計算式を示す。ただしZ0は特性インピーダンス(例: 50 Ω)を表す。
図5(b),(c)に、それぞれ被測定素子DUTを直列または並列に接続した伝送法の原理、ベクトル電圧比 S21と被測定素子DUTのインピーダンスZxとの関係式、そしてインピーダンスZxを求めるための計算式を示す。
【0005】
図6は、各方式でのインピーダンスZxとベクトル電圧比S11, S21との関係を示すグラフである。白い線は反射係数法における入力信号a1と反射信号b1とのベクトル電圧比S11(b1/a1)を示す。実線は、被測定素子DUTを直列または並列に接続した各伝送法における入力信号a1と出力信号b2とのベクトル電圧比S21(b2/a1)を示し、破線は伝送法における入力信号a1と反射信号b1とのベクトル電圧比S11(b1/a1)を示す。横軸はインピーダンスZxを特性ピーダンスZ0で正規化している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Agilent_Technologies:「インピーダンス測定ハンドブック」2003年11月版(http://cp.literature.agilent.com/litweb/pdf/5950-3000JA.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高価であることが多く測定周波数に限界のある専用のインピーダンスアナライザを用いることなく、市販されている汎用の広帯域ネットワークアナライザの機能を用いて、専用のインピーダンスアナライザと同等の機能・性能を、より高い周波数領域で提供するものであり、そのため、ネットワーク解析法における、いくつかの課題を解決しようとするものである。
【0008】
まず、測定感度と誤差拡大率の課題について説明する。ここで「測定感度」を、被測定素子DUTのインピーダンスZxの変化に応じた、測定信号レベルの変化と定義する。「誤差拡大率」を、 測定感度の逆数と定義する。
たとえば反射係数法では、S11の測定値が変化したときに、インピーダンスZxがどのくらい拡大して変化するか、という値が誤差拡大率である。図6から分かるように、反射係数法では、測定するインピーダンスZxが特性インピーダンスZ0付近の場合、反射係数Γはわずかなインピーダンスの変化に対しても急激に変化している。この傾向によって、特性インピーダンスZ0に近い範囲ではインピーダンスZxは良好な測定感度で求まるが、特性インピーダンスZ0から離れるほど測定感度は低下する。すなわち、反射係数法では、ZxがZ0の付近では 誤差拡大率は小さいが、ZxがZ0から離れるほど 誤差拡大率は大きくなる。このように反射係数法では、反射係数Γが0の近辺での測定に興味が持たれ、反射係数Γが10であるか100であるかを正確に測ることはそれほど意味がない、とされている。
【0009】
被測定素子DUTを直列に接続した伝送法では、インピーダンスZxが特性インピーダンスZ0よりも小さくなるほど、すなわちベクトル電圧比S21が1に近づくほど、インピーダンスZxの測定感度が下がる、すなわち誤差拡大率が大きくなることが分かる。
被測定素子DUTを並列に接続した伝送法では、インピーダンスZxが特性インピーダンスZ0よりも大きくなるほど、すなわちベクトル電圧比S21が1に近くなるほど、インピーダンスZxの測定感度が下がるが、インピーダンスZxが小さくなると、S21が大きく変化し、誤差拡大率は1に近づく。
【0010】
このように、従来の測定法では、インピーダンスZxの範囲によって誤差拡大率の大きい領域がある。このためインピーダンスZxを広い範囲で測定することが難しく、測定のダイナミックレンジは狭くなってしまう。また、そのため、測定しようとするインピーダンスの範囲によって、反射法、伝送法の接続を使い分ける必要があった。
そこで本発明は、インピーダンスZxの全領域で一定の測定感度を持ち、幅広い測定範囲をカバーできるインピーダンス測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、ネットワーク解析法の別の課題として、RF I-V法などインピーダンス測定専用の測定器では測定器本体の安定度が測定に影響しないような内部構成を取ることが多いのに対して、ネットワークアナライザを使用する場合、測定器本体の安定度が測定確度に影響を与えてしまうという課題があった。そこで、本発明は、測定器本体のいわゆるドリフトを打ち消すような手段を提供することを目的とする。
【0012】
また、ネットワーク解析法のさらに別の課題として、インピーダンス測定専用の測定器では、同軸形状でインピーダンスが正確に計算可能なインピーダンス標準(通常、開放(open)、短絡(short)、および50Ω)を用いることが可能であるが、ネットワークアナライザには、反射法を用いる場合を除き、通常、そのような手段は提供されていない。このため、ネットワーク解析法においては、測定のトレーサビリティーを如何に確立するか課題があった。そこで、本発明は、トレーサビリティーの保証されている、インピーダンス標準を用いることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、測定インピーダンスの全領域において一定の測定感度と測定確度を得るなどの目的を達成するため、信号源に対して被測定素子DUTを、信号線に直列に接続し、信号源から信号線を通して測定信号を送出し、被測定素子DUTへの入力信号と、被測定素子DUTから反射された反射信号と、被測定素子DUTを通過した通過信号とを測定し、前記入力信号、反射信号及び通過信号の各測定値に基づいて、SパラメータS11,S21を算出し、式:
Zx=2Z0S11/S21
(Z0は特性インピーダンス)により被測定素子DUTのインピーダンス Zxを算出するインピーダンスの測定方法及び装置である。
【0014】
この方法及び装置は、一方が信号源につながり、他方が負荷素子につながるネットワークアナライザの第一ポートと第二ポートとの間に被測定素子DUTを接続し、信号源から測定信号を送出するように、ネットワークアナライザを用いることにより実現できる。
また、本発明は、測定器本体のドリフトを打ち消して、測定器本体の安定度が測定確度に影響しないようにするなどの目的を達成するために、順方向測定、逆方向測定を組み合わせる、すなわち、信号源と負荷素子とをスイッチで交替して、それぞれ測定を行い、得られた各インピーダンスの相乗平均をとる方法及び装置である。
【0015】
また、本発明は、通常のインピーダンス専用測定器と同じく同軸形状の測定端面を提供して、入手できるトレーサブルなインピーダンス標準を用いることができるようにするなどの目的を達成するため、一方が信号源につながり、他方が負荷素子につながるネットワークアナライザの第一ポートと第二ポートとの間に、2ポートを1ポートに変換する変換器の2ポート側を接続し、変換器の1ポート側と接地との間に被測定素子DUTを接続し、信号源から測定信号を送出して、前述のSパラメータS21とS11の比を取る工程を含む方法及び装置を実施するインピーダンス測定方法及び装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、反射係数法と伝送法(並列法)、又は反射係数法と伝送法(直列法)とを組み合わせることにより、全インピーダンス範囲で測定感度が一定すなわち誤差拡大率が1のインピーダンス測定方法及び測定装置を実現することができる。
また、本発明によれば、測定本体の安定度が測定確度に影響しない、ネットワーク解析法によるインピーダンス測定方法及び測定装置を提供することができる。
【0017】
また、本発明によれば、インピーダンスアナライザーと同じく同軸形状の測定端面を提供でき、通常入手できるトレーサブルなインピーダンス標準を用いて校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、信号線に直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定原理を説明するための概略図であり、測定の原理図、ベクトル電圧比S21,S11とインピーダンスZxとの関係式、そしてインピーダンスZxを求めるための計算式を示す。(b)は、信号線に並列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定原理を説明するための概略図であり、測定の原理図、ベクトル電圧比S21,S11とインピーダンスZxとの関係式、そしてインピーダンスZxを求めるための計算式を示す。
図2】被測定素子DUTのインピーダンスを表す2S11/S21及び−S21/2S11を縦軸に、Zx/Z0を横軸にとったグラフである。
図3】直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を実施するためのネットワークアナライザ1を含む測定装置の全体を示す概略ブロック図である。
図4】並列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を実施する他の好ましい形態に係る、ネットワークアナライザ1を含む測定装置の全体を示す概略ブロック図である。
図5】従来の測定法の原図理、ベクトル電圧比S11, S21と被測定素子DUTのインピーダンスZxとの関係式、そしてインピーダンスZxを求めるための計算式を示す図である。
図6】従来の各方式でのインピーダンスZxとベクトル電圧比S11, S21との関係を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明するが、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図されている。
図1(a)は、信号線に直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンスを測定する測定原理を説明するための概略図である。信号源2から出力される信号は、被測定素子DUTへ入力される途中で、方向性結合器によって一部分離され、これによって被測定素子DUTへの入力信号a1が測定される。被測定素子DUTから反射された信号は方向性結合器によって一部分離され、これによって被測定素子DUTからの反射信号b1が測定される。また被測定素子DUTを通過した信号は方向性結合器によって一部分離され、これによって被測定素子DUTの通過信号b2が測定される。Rは終端抵抗を表す。
【0020】
被測定素子DUTには4個のベクトル電圧比すなわち4個のSパラメータがあり、これらのうちS11は、被測定素子DUTの入力ポートからの反射を表している。S21は、被測定素子DUTを通過する順方向の伝送を表している。式で表現すれば、
S21=b2/a1=2Z0/(Zx+2Z0),
S11=b1/a1=Zx/(Zx+2Z0)
となる。両者の比をとることにより、
式:Zx=2Z0S11/S21・・・(1)
が得られ、Zxが求められる。ZxをZ0で割ったものを、”zx”と記述すると、
zx=2S11/S21
で表される。これが本発明の、直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を表す式である。
【0021】
図1(b)は、信号線に並列に接続された被測定素子DUTの測定原理を説明するための概略図である。信号源2から出力される信号は、被測定素子DUTへ入力される途中で、方向性結合器によって一部分離され、これによって被測定素子DUTへの入力信号a1が測定される。被測定素子DUTから反射された信号は方向性結合器によって一部分離され、これによって被測定素子DUTからの反射信号b1が測定される。また被測定素子DUTを通過した信号は方向性結合器によって一部分離され、これによって被測定素子DUTの通過信号b2が測定される。
【0022】
被測定素子DUTには4個のSパラメータがあり、これらのうちS11は、被測定素子DUTの入力ポートからの反射を表している。S21は、被測定素子DUTを通る順方向の伝送を表している。式で表現すれば、
S21=b2/a1=2Zx/(Zx+2Z0),
S11=b1/a1=−Z0/(2Zx+Z0)
となる。両者の比をとることにより、
式:Zx=−Z0S21/2S11・・・(2)
となり、Zxが求められる。ZxをZ0で割った”zx”は、
zx=−S21/2S11
で表される。これが本発明の、並列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を表す式である。
【0023】
これらの2つの式(1)(2)で表される2S11/S21及び−S21/2S11を縦軸に、Zx/Z0を横軸にとったグラフを、図2に示す。図6に掲載した、反射係数法におけるS11のグラフと、被測定素子DUTを直列に接続したS11,S21のグラフと、被測定素子DUTを並列に接続したS11,S21のグラフも併せて示している。
この図2のグラフから、直列に接続されたzxを表す2S11/S21は、Zx/Z0の全領域でその傾きは一定であり、よって測定感度が一定であることが示される。また並列に接続されたzxを表す−S21/2S11も、Zx/Z0の全領域でその傾きは一定であり、よって測定感度が一定であることも示されている。
【0024】
したがって、インピーダンスの全領域で一定の測定感度を持ち、幅広い測定範囲をカバーできるインピーダンス測定方法及び測定装置を提供するという本発明の目的は完全に達成される。
本発明のインピーダンス測定方法を実施するには、ネットワークアナライザを用いて、一方が信号源につながり、他方が負荷素子につながるネットワークアナライザの第一ポートと第二ポートとの間に被測定素子DUTを接続し、信号源から測定信号を送出して行うことができる。この方法により、既存のネットワークアナライザをそのまま利用してインピーダンスの測定が行える。
【0025】
図3は、直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を実施するためのネットワークアナライザ1を含む測定装置全体を示す概略ブロック図である。
ネットワークアナライザ1は、第一ポート11と第二ポート12とを持ち、切り替えスイッチSWを通して、各ポートの一方が信号源2につながり、他方が負荷素子Rにつながっている。信号源2は測定信号としての正弦高周波を生成する。負荷素子Rは、特性インピーダンスZ0に相当する抵抗値を持つ抵抗素子である。
【0026】
切り替えスイッチSWのフォワード/リバースの切り替えにより、第一ポート11を出力ポートとして第二ポート12を入力ポートとして機能させる状態と、第一ポート11を入力ポートとして第二ポート12を出力ポートとして機能させる状態とを切り替えることができる。
第一ポート11と切り替えスイッチSWとを接続する内部線路には、切り替えスイッチSWから第一ポート11まで進行する信号a1を検出するための方向性結合器13と、第一ポート11から切り替えスイッチSWまで戻って来る信号b1を検出するための方向性結合器14とが設けられている。第二ポート12と切り替えスイッチSWとを接続する内部線路にも、切り替えスイッチSWから第二ポート12まで進行する信号a2を検出するための方向性結合器15と、第二ポート12から切り替えスイッチSWまで戻って来る信号b2を検出するための方向性結合器16とが設けられている。
【0027】
被測定素子DUTは、第一ポート11と第二ポート12とを結ぶ信号線17,18に対して直列に接続されている。
各信号a1,a2,b1,b2は、ネットワークアナライザ1の測定・演算回路21に供給され、ここにおいて、各SパラメータS11,S21,S12,S22が算出される。
ネットワークアナライザ1は、さらにSパラメータ補正回路22と、インピーダンス補正回路23とを備えている。
【0028】
インピーダンス測定手順は次のとおりである。
第一ポート11が信号源2につながるように切り替えスイッチSWを設定し、信号源2から第一ポート11に測定信号を送出し、被測定素子DUTへの入力信号a1と、被測定素子DUTから反射された反射信号b1と、被測定素子DUTを通過した通過信号b2とを測定し、測定・演算回路21に入力する。測定・演算回路21は、前記入力信号a1、反射信号b1及び通過信号b2の各測定値に基づいて、SパラメータS11,S21を算出する。
【0029】
Sパラメータ補正回路22は、被測定素子DUTの相反性と、信号a1,b1,b2及び信号a2を利用して、負荷素子Rと信号源2のインピーダンス変動をキャンセルし、Sパラメータの補正を行う回路であり、信号源、受信機、方向性結合器および接続ケーブルの誤差を取り除くために、ネットワークアナライザに通常備わっている機能を利用して実現することができる。
【0030】
補正されたSパラメータは、インピーダンス補正回路23に供給され、ここで、
式:Z′x=2Z0S11/S21・・・(3)
により、被測定素子DUTのインピーダンス Z′xが算出される。インピーダンス補正回路23の補正機能については、後述する。
次に、第二ポート12が信号源2につながるように切り替えスイッチSWを操作し、信号源2から第二ポート12に測定信号を送出し、被測定素子DUTへの入力信号a2と、被測定素子DUTから反射された反射信号b2と、被測定素子DUTを通過した通過信号b1とを測定し、測定・演算回路21に入力する。測定・演算回路21は、前記入力信号a2、反射信号b2及び通過信号b1の各測定値に基づいて、式:
S11=b2/a2,S21= b1/a2
に基づいてSパラメータS11,S21を算出する。
【0031】
Sパラメータ補正回路22は、被測定素子DUTの相反性と、信号a2,b1,b2とともに信号a1を利用して、負荷素子Rと信号源2のインピーダンス変動をキャンセルし、Sパラメータの補正を行う。
補正されたSパラメータは、インピーダンス補正回路23に供給され、ここで、
式:Z″x=2Z0S11/S21・・・(4)
により、被測定素子DUTのインピーダンス Z″xを算出する。
【0032】
式(3)(4)により算出されたインピーダンス Z′x, Z″xは同じ被測定素子DUTの測定データであるので同じ値になるはずであるが、異なるとすれば、測定器の測定中のドリフトの影響があると考えられる。そこで、インピーダンス補正回路23は、次の式を使って、
Zx=√(Z′x・Z″x)
2つのデータであるインピーダンス Z′x, Z″xの相乗平均をとり、その結果を被測定素子DUTのインピーダンスZxとして出力する。このように、ネットワークアナライザ1の2回の測定中に発生するドリフト誤差をキャンセルすることができる。
【0033】
いままでは、直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を説明したが、図3において、並列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を実施することもできる。そのためには、同図の左下部分に示すように、被測定素子DUTを、第一ポート11と第二ポート12とを結ぶ信号線17,18と接地との間に接続すればよい。ネットワークアナライザ1の内部構成と測定方法は、直列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測する場合と同様であるから、説明を省略するが、直列法との違いは、被測定素子DUTのインピーダンス Zxを算出する式が、
Zx=−Z0S21/2S11・・・(5)
となることである。そして切り替えスイッチSWのフォワード/リバースの切り替えにより2回測定して、それらの相乗平均をとることが好ましいのは、前述したのと同様である。
【0034】
図4は、並列に接続された被測定素子DUTのインピーダンス測定方法を実施する他の好ましい形態に係る、ネットワークアナライザ1を含む測定装置全体を示す概略ブロック図である。
図3の構成との違いは、被測定素子DUTを接続するのに2ポート−1ポート変換器25を用いていることである。
【0035】
2ポート−1ポート変換器25の回路を説明すると、線路につながる第三入力ポート31と線路につながる第四入力ポート32とが2つの直列抵抗器で接続されその中間点が出力ポート33につながっている。そして第三入力ポート31は抵抗器を通して接地され、第四入力ポート32は抵抗器を通して接地され、出力ポート33も抵抗器を通して接地されている。被測定素子DUTは、出力ポート33と接地との間に接続されている。
【0036】
このような構成の2ポート−1ポート変換器25を用いることにより、被測定素子DUTから見た測定器側の変化を緩和することができる。また被測定素子DUTから測定器側を見たインピーダンスを適当な値に変換することもできる。専用のインピーダンス測定器では、インピーダンス測定値の絶対値の確度を得るため、あらかじめ既知のインピーダンス標準を用いて測定値を校正している。インピーダンス標準は、物理的寸法と材質の物理定数から正確なインピーダンスが計算により得られるものであり、通常、開放、短絡、整合終端が用いられることが多い。
変換器25により基準面が2ポートから同軸1ポートに変換され、この同軸1ポートにおいてインピーダンス標準を測定することにより、変換器25による追加誤差を除去し、かつ、同軸1ポートを基準面としてインピーダンスの絶対値の校正が可能となる。
インピーダンス補正回路23には、この校正手段も含まれている。
【符号の説明】
【0037】
1…ネットワークアナライザ,2…信号源,11…第一ポート,12…第二ポート,13〜16…方向性結合器,17,18…信号線,21…測定・演算回路,22…Sパラメータ補正回路,23…インピーダンス補正回路,25…2ポート−1ポート変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6