特許第6055242号(P6055242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6055242Cu−Mg−P系銅合金Snめっき板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055242
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】Cu−Mg−P系銅合金Snめっき板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20161219BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20161219BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20161219BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20161219BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 B
   C22F1/08 S
   C25D7/00 H
   C25D5/50
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630E
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-190111(P2012-190111)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-47378(P2014-47378A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】すくも田 俊緑
(72)【発明者】
【氏名】相田 正之
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和章
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−140569(JP,A)
【文献】 特開2007−084921(JP,A)
【文献】 特開2006−307336(JP,A)
【文献】 特開2004−339555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
C25D 5/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材とし、表面から前記母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層を有し、前記Sn相のMg濃度(A)と前記母材のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05であり、前記めっき皮膜層と前記母材との間の厚みが0.2〜0.6μmの境界面層におけるMg濃度(C)と前記母材のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3であることを特徴とするCu−Mg−P系銅合金Snめっき板。
【請求項2】
前記母材は、その表面に厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層を有することを特徴とする請求項1に記載のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板。
【請求項3】
更に、前記母材は、0.0002〜0.0013質量%のCと0.0002〜0.001質量%の酸素を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板。
【請求項4】
更に、前記母材は、0.001〜0.03質量%のZrを含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板。
【請求項5】
0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材とし、その表面にCu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成し、更に、加熱してリフロー処理することにより、表面から前記母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層、及び、前記めっき皮膜層と前記母材との間に厚みが0.2〜0.6μmの境界面層を形成する方法であって、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とする請求項1に記載のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の製造方法。
【請求項6】
0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材とし、前記母材の表面を機械研磨して厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層を形成した後に、その表面にCu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成し、更に、加熱してリフロー処理することにより、表面から前記母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層、及び、前記めっき皮膜層と前記母材との間に厚みが0.2〜0.6μmの境界面層を形成する方法であって、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とする請求項2に記載のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Mg−P系銅合金Snめっき板及びその製造方法に関し、特に詳しくは、摩擦係数が低いリフロー処理後のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気及び電子用機器の端子及びコネクタ用の材料としては、黄銅やリン青銅が一般的に使用されていたが、最近の携帯電話やノートPCなどの電子機器の小型、薄型化、軽量化の進展により、その端子及びコネクタ部品も、より小型で電極間ピッチの狭いものが使用される様になっている。また、自動車のエンジン回りの使用等では、高温で厳しい条件下での信頼性も要求されている。これらに伴い、その電気的接続の信頼性を保つ必要性から、強度、導電率、ばね限界値、応力緩和特性、曲げ加工性、耐疲労性等の更なる向上が要求され、黄銅やリン青銅では対応出来なくなり、その代替えとして、出願人は、特許文献1〜5に示される様なCu−Mg−P系銅合金に着目し、優れた特性を有する高品質で高信頼性の端子及びコネクタ用の銅合金板(出願人の商品名「MSP1」)を市場に提供している。
【0003】
特許文献1には、Mg:0.3〜2重量%、P:0.001〜0.02重量%、C:0.0002〜0.0013重量%、酸素:0.0002〜0.001重量%を含有し、残りがCuおよび不可避不純物からなる組成、並びに、素地中に粒径:3μm以下の微細なMgを含む酸化物粒子が均一分散している組織を有する銅合金で構成されているコネクタ製造用銅合金薄板が開示されている。
【0004】
特許文献2には、重量%で、Mg:0.1〜1.0%、P:0.001〜0.02%を含有し、残りがCuおよび不可避不純物からなる条材であって、表面結晶粒が長円形状をなし、この長円形状結晶粒の平均短径が5〜20μm、平均長径/平均短径の値が1.5〜6.0なる寸法を有し、かかる長円形状結晶粒を形成するには、最終冷間圧延直前の最終焼鈍において平均結晶粒径が5〜20μmの範囲内になるように調整し、ついで最終冷間圧延工程において圧延率を30〜85%の範囲内とする金型を摩耗させることの少ない伸銅合金条材が開示されている。
【0005】
特許文献3には、質量%で、Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界としたみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45〜55%であり、引張強さが641〜708N/mmであり、ばね限界値が472〜503N/mmである引張り強さとばね限界値が高レベルでバランスの取れたCu−Mg−P系銅合金及びその製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、 質量%で、Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、全結晶粒における結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の平均値が3.8〜4.2°であり、引張強さが641〜708N/mm2であり、ばね限界値が472〜503N/mmであり、200℃で1000時間の熱処理後の応力緩和率が12〜19%である銅合金条材およびその製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、質量%で、Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45〜55%であり、前記測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが2.2〜3.0°であり、引張強さが641〜708N/mmであり、ばね限界値が472〜503N/mmであり、1×106回の繰り返し回数における両振り平面曲げ疲れ限度が300〜350N/mmである銅合金条材およびその製造方法が開示されている。
【0008】
これら以外に、特許文献6には、高導電性および高強度を維持しながら、通常の曲げ加工性だけでなくノッチング後の曲げ加工性にも優れ、且つ、耐応力緩和特性に優れた安価な銅合金板材およびその製造方法として、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、その銅合金板材の板面における{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とし、純銅標準粉末の{420}結晶面のX線回折強度をI{420}とすると、I{420}/I{420}>1.0を満たし、銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とすると、1.0≦I{220}/I{220}≦3.5を満たす結晶配向を有する銅合金板材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−157774号公報
【特許文献2】特開平6−340938号公報
【特許文献3】特許第4516154号公報
【特許文献4】特許第4563508号公報
【特許文献5】特開2012−007231号公報
【特許文献6】特開2009−228013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜5に基づいた優れた品質を有するCu−Mg−P系銅合金板は、出願人の商品名「MSP1」として製造及び販売されており、端子・コネクタ材料として広く使用されているが、最近の市場ニーズとして、例えば、自動車用嵌合型端子材として使用されるSnめっき付きCu−Mg−P系銅合金板には、端子・コネクタの小型多極化を目指して、嵌合時の更なる低摩擦係数化(低挿入力化)を要求されることも多くなっている。
【0011】
本発明では、出願人の商品名「MSP1」を改良し、その諸特性を維持しながら、低摩擦係数を有する嵌合型接続端子用としての使用に適したCu−Mg−P系銅合金Snめっき板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの事情に鑑み、発明者らは鋭意検討の結果、リフロー処理後のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の摩擦係数を低下させるには、めっき皮膜層のSn相中に存在するMg濃度と銅合金母材中に存在するMg濃度との比、及び、めっき皮膜層と銅合金母材との間の境界面層に存在するMg濃度と銅合金母材中に存在するMg濃度との比が、
めっき皮膜層の摩擦係数の低減に大きく影響し、これらの比を最適な範囲に調整することにより、その目的が達成されることを見出した。
また、このリフロー処理後のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板を製造するには、
銅合金母材の表面にCu又はCu合金めっき、最適な組成及び性状のSnめっき液を使用してSn又はSn合金めっきをこの順に施して、最適なリフロー条件にて熱処理することにより、上述の最適なそれぞれのMg濃度比を得ることが可能となり、更に、銅合金板母材の表面に酸洗処理を施して最適な厚みの加工変質層を形成した後に、前述のめっき処理及び最適なリフロー条件にての熱処理を実施することにより、一段と効果が増長し、めっき皮膜層の摩擦係数の更なる低減が可能となることも見出した。
【0013】
即ち、本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板は、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材とし、表面から前記母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層を有し、前記Sn相のMg濃度(A)と前記母材のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05であり、前記めっき皮膜層と前記母材との間の厚みが0.2〜0.6μmの境界面層におけるMg濃度(C)と前記母材のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3であることを特徴とする。
本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板は、母材の成分が0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物より構成され、その母材表面に形成された境界面層を介してリフロー処理後のめっき皮膜層が形成されている。
Cu−Mg−P系銅合金、特に出願人の商品名「MSP1」は、優れた特性を有する高品質で高信頼性の端子及びコネクタ用の銅合金として知られており、Mgは、Cuの素地に固溶して導電性を損なうことなく強度を向上させ、Pは、溶解鋳造時に脱酸作用があり、Mg成分と共存した状態で強度を向上させる。これらMg及びPは上記範囲で含有することにより、その特性を有効に発揮することができる。
【0014】
本発明では、めっき皮膜層は、その表面から母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されている。
Sn相の厚みが0.3μm未満では、半田濡れ性が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなる。
Sn−Cu合金相は、硬質であり、その厚みが0.3μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
Cu相の厚みが0.3μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
本発明では、めっき皮膜層と母材との間に、厚みが0.2〜0.6μmの境界面層を有しており、境界面層の厚みが0.2μm未満では、加熱時に、めっき皮膜層と母材との間で剥離が生じる恐れがあり、厚みが0.6μmを超えると、接触電気抵抗性に悪影響を及ぼす。
本発明において、Sn相のMg濃度(A)と母材のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05であり、前述の境界面層におけるMg濃度(C)と母材のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3であることにより、めっき皮膜層の硬度が最適な範囲で向上し、めっき皮膜層の摩擦係数が低下する。
Sn相に存在するMg、及び、境界面層に存在するMgは、母材中のMgの一部が、めっき後のリフロー処理時にマイグレーションしたものであり、軟質のSn相にマイグレーションするMg量と母材のMg量との比、及び、軟質のSn相や硬質のSn−Cu合金相にマイグレーションせずに境界面層に残留するMg量と母材のMg量との比とを、適切な範囲値とすることにより、めっき皮膜層の硬度が最適な範囲で向上し、めっき皮膜層の摩擦係数の低下が可能となる。
比(A/B)と比(C/B)とが、何れも上述の範囲値内である場合にのみ、この効果が得られる。
本発明でのSn相のMg濃度とは、銅合金Snめっき板の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたMg濃度プロファイルにおいて、Sn相に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
本発明での境界面層のMg濃度とは、銅合金Snめっき板の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたMg濃度プロファイルにおいて、境界面層に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
【0015】
更に、本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板は、前記母材は、その表面に厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層を有することを特徴とする。
リフロー処理前の母材の表面に0.05〜0.25μmの加工変質層が形成されていると、この最適な厚みの加工変質層の存在により、母材中に存在するMgの適切量が、後工程でのリフロー処理時に、Sn相及び境界面層にマイグレーションし易くなり、
比(A/B)が最好適値である0.01〜0.03の範囲に収まり、比(C/B)が最好適値である0.15〜0.25の範囲に収まり、めっき皮膜層の摩擦係数の低減効果が増す。
この加工変質層の厚みは、リフロー処理前とリフロー処理後で大きな変化はないが、リフロー処理後の厚みの方が若干小さくなる傾向にある。
【0016】
更に、本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板において、前記母材は、0.0002〜0.0013質量%のCと0.0002〜0.001質量%の酸素を含有することを特徴とする。
Cは、純銅に対して非常に入りにくい元素であるが、微量に含まれることにより、Mgを含む酸化物が大きく成長するのを抑制する作用がある。しかし、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.0013質量%を越えて含有すると、固溶限度を越えて結晶粒界に析出し、粒界割れを発生させて脆化し、曲げ加工中に割れが発生することがあるので好ましくない。より好ましい範囲は、0.0003〜0.0010質量%である。
酸素は、Mgとともに酸化物を作り、この酸化物が微細で微量存在すると、打抜き金型の摩耗低減に有効であるが、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.001質量%を越えて含有するとMgを含む酸化物が大きく成長するので好ましくない。より好ましい範囲は0.0003〜0.0008質量%である。
【0017】
更に、本発明の本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板において、前記母材は、
0.001〜0.03質量%のZrを含有することを特徴とする。
Zrは、0.001〜0.03質量%の添加により、引張強さ及びばね限界値の向上に寄与し、その添加範囲外では、効果は望めない。
【0018】
更に、本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の製造方法は、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材とし、その表面にCu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成し、更に、加熱してリフロー処理することにより、表面から前記母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層、及び、前記めっき皮膜層と前記母材との間に厚みが0.2〜0.6μmの境界面層を形成する方法であって、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とする。
本発明の製造方法では、先ず、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材として、その表面に、Cu又はCu合金めっきを境界面層の厚み及びリフロー処理後のめっき厚みを考慮して、所定の厚みにめっき層を形成する。次に、その表面に、Sn又はSn合金をリフロー処理後のめっき厚みを考慮して、所定の厚みにめっき層を形成する。
このSn又はSn合金めっき時に、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用することが好ましい。
また、Snめっき液は、めっきの性状や均質性を保つために、消泡試験において2分後に泡が半減する消泡剤を使用し、適量の光沢剤、界面活性剤を含むことが好ましく、これらの光沢剤、消泡剤、界面活性剤は、表面張力や粘度を調整する役割もはたす。
光沢剤としては、親水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマー、エチレンジアミンEO−PO付加物、クミルフェノールEO付加物、界面活性剤としては、ピロガロール或いはハイドロキノン、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどがあげられる。
このSnめっき液を使用してSn又はSn合金めっきを施すことにより、リフロー処理後に、Sn相のMg濃度(A)と母材のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05となる素地が作られる。Snめっき液の条件が上記の範囲外であると、特に、比(A/B)が所定範囲値内に収まり難くなる。
次に、これらのめっき層に対し、230℃以上に加熱後、温度ばらつきが±2℃以下で制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却するリフロー処理を施すことにより、表面から銅合金母板にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層、及び、めっき皮膜層と母材との間に、厚みが0.2〜0.6μmの境界面層が形成される。
このリフロー処理にて、母材中のMgの一部がSn相にマイグレーションして、Sn相のMg濃度(A)と母材のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05となり、めっき皮膜層と母材との間に厚みが0.2〜0.6μmの境界面層が形成され、その境界面層中に母材中のMgの一部がマイグレーションして、境界面層におけるMg濃度(C)と母材のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3となり、めっき皮膜層の摩擦係数の低下が実現化される。
リフロー処理条件が上記の範囲外であると、上述の摩擦係数の低下効果を有するCu−Mg−P系銅合金Snめっき板を形成することはできない。
【0019】
更に、本発明のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の製造方法は、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材とし、前記母材の表面を機械研磨して厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層を形成した後に、その表面にCu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成し、更に、加熱してリフロー処理することにより、表面から前記母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相、厚みが0〜0.3μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層、及び、前記めっき皮膜層と前記母材との間に厚みが0.2〜0.6μmの境界面層を形成する方法であって、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とする。
本発明の製造方法では、先ず、リフロー処理前の0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する母材の表面に機械研磨を施し、厚みが0.05〜0.25μmである加工変質層を形成する。この最適な加工変質層により、母材中の適切量のMgが、後工程でのリフロー処理時にSn相及び境界面層にマイグレーションするのが容易となり、比(A/B)が最好適値である0.01〜0.03の範囲に収まり、比(C/B)が最好適値である0.15〜0.25の範囲に収まり、めっき皮膜層の摩擦係数の低下効果が増大する。
リフロー処理前の加工変質層の厚みが0.05μm未満では、効果が不十分であり、0.25μmを超えると、めっき皮膜の耐熱剥離性に悪影響を及ぼす。
次に、前述と同様のCu又はCu合金めっき及びSn又はSn合金めっきを施し、前述と同様のリフロー処理を施すことにより、摩擦係数の低下効果が更に増長したCu−Mg−P系銅合金Snめっき板が形成される。
本発明では、砥粒での機械研磨と処理液での化学研磨を含むことが好ましく、目的とする加工変質層は、主に機械研磨により形成され、表面粒度が#1000以上の研磨ロールで母材の表面を機械研磨することが特に好ましい。引続く化学研磨工程は、必ずしも必要ではないが、形成された加工変質層を残して砥粒を除去する為に、例えば、硫酸5〜20質量%及び過酸化水素1〜10質量%を含む液温30〜70℃の処理液中にて、10〜30秒間浸漬して実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、低摩擦係数を有し嵌合型接続端子用としての使用に適するCu−Mg−P系銅合金Snめっき板及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態であるCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の横断面を模式的に示した断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態であるCu−Mg−P系銅合金Snめっき板の横断面を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の第1の実施形態について、図1を参照に説明する。
図1に示す様にCu−Mg−P系銅合金Snめっき板1は、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材2とし、表面から母材2にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相6、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相7、厚みが0〜0.3μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層5を有し、Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05であり、めっき皮膜層5と母材2との間の厚みが0.2〜0.6μmの境界面層4におけるMg濃度(C)と母材のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3である。
【0023】
[銅合金板母材の成分組成]
Cu−Mg−P系銅合金の母材2、特に出願人の商品名「MSP1」銅合金板は、優れた特性を有する高品質で高信頼性の端子及びコネクタ用の銅合金として知られており、Mgは、Cuの素地に固溶して導電性を損なうことなく強度を向上させ、Pは、溶解鋳造時に脱酸作用があり、Mg成分と共存した状態で強度を向上させる。これらMg及びPは上記範囲で含有することにより、その特性を有効に発揮することができる。
更に、Cu−Mg−P系銅合金の母材2は、0.0002〜0.0013質量%のCと0.0002〜0.001質量%の酸素を含有することが好ましい。
Cは、純銅に対して非常に入りにくい元素であるが、微量に含まれることにより、Mgを含む酸化物が大きく成長するのを抑制する作用がある。しかし、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.0013質量%を越えて含有すると、固溶限度を越えて結晶粒界に析出し、粒界割れを発生させて脆化し、曲げ加工中に割れが発生することがあるので好ましくない。より好ましい範囲は、0.0003〜0.0010質量%である。
酸素は、Mgとともに酸化物を作り、この酸化物が微細で微量存在すると、打抜き金型の摩耗低減に有効であるが、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.001質量%を越えて含有するとMgを含む酸化物が大きく成長するので好ましくない。より好ましい範囲は0.0003〜0.0008質量%である。
更に、Cu−Mg−P系銅合金の母材2は、0.001〜0.03質量%のZrを含有することが好ましい。
Zrは、0.001〜0.03質量%の添加により、引張強さ及びばね限界値の向上に寄与し、その添加範囲外では、効果は望めない。
【0024】
[めっき皮膜層、境界面層、Mg濃度]
めっき皮膜層5は、表面から母材2にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相6、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相7、厚みが0〜0.3μmのCu相8の順で構成されている。
Sn相6の厚みが0.3μm未満では、半田濡れ性が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなる。
Sn−Cu合金相7は、硬質であり、その厚みが0.3μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
Cu相8の厚みが0.3μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
めっき皮膜層5と母材2との間には、厚みが0.2〜0.6μmの境界面層4が存在しており、境界面層4の厚みが0.2μm未満では、加熱時に、めっき皮膜層5と母材2との間で剥離が生じる恐れがあり、厚みが0.6μmを超えると、接触電気抵抗性に悪影響を及ぼす。
Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05であり、境界面層4におけるMg濃度(C)と母材2のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3であることにより、めっき皮膜層5の硬度が最適な範囲で向上し、めっき皮膜層5の摩擦係数が低下する。
Sn相6に存在するMg、及び、境界面層4に存在するMgは、母材2のMgの一部が、めっき後のリフロー処理時にマイグレーションしたものであり、軟質のSn相6にマイグレーションするMg量と母材2のMg量との比、及び、軟質のSn相6や硬質のSn−Cu合金相7にマイグレーションせずに境界面層4に残留するMg量と母材2のMg量との比とを、適切な範囲値とすることにより、めっき皮膜層5の硬度が最適な範囲に適度に向上し、めっき皮膜層5の摩擦係数が低下する。
比(A/B)と比(C/B)とが何れも上述の範囲値内である場合にのみ、この効果が得られる。
本発明でのSn相6のMg濃度とは、銅合金Snめっき板1の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたMg濃度プロファイルにおいて、Sn相6に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
本発明での境界面層4のMg濃度とは、銅合金Snめっき板1の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたMg濃度プロファイルにおいて、境界面層4に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
【0025】
[製造方法]
製造方法としては、先ず、成分組成が0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板母材2の表面に、Cu又はCu合金めっきをリフロー処理後のめっき厚み、及び、境界面層4の厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成し、更に、その表面に、Sn又はSn合金をリフロー処理後のめっき厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成する。
Cu又はCu合金めっき条件の一例を表1に、Sn又はSn合金めっき条件の一例を表2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
この場合、Cu−Mg−P系銅合金板母材2は、本発明の成分範囲に調合した材料を溶解鋳造により銅合金鋳塊を作製し、この銅合金鋳塊を熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延をこの順序で含む工程で製造された銅合金母板ものであれば種類は問わない。
例えば、熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施し、前記連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜10分にて実施し、テンションレベリングを、ラインテンション;10N/mm〜140N/mmにて実施して製造されても良い。
【0029】
そして、上述のSn又はSn合金のめっきの際に、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用する。この表面張力及び粘度は、リフロー処理後のSn相6のMg濃度を決定するのに重要な役割を果たす。
Snめっき液は、めっきの性状や均質性を保つために、消泡試験において2分後に泡が半減する消泡剤を使用し、適量の光沢剤、界面活性剤を含むことが好ましい。この光沢剤、消泡剤、界面活性剤は、表面張力や粘度を調整する役割もはたす。
光沢剤としては、親水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマー、エチレンジアミンEO−PO付加物、クミルフェノールEO付加物、界面活性剤としては、ピロガロール或いはハイドロキノン、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどがあげられる。
このSnめっき液を使用してSn又はSn合金めっきを施すことにより、リフロー処理後に、Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05となる素地が作られる。Snめっき液の条件が上記の範囲外であると、比(A/B)は、所定範囲値内に収まらない。
次に、これらのめっき層に対し、230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却するリフロー処理を施すことにより、表面から母材にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相6、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相7、厚みが0〜0.3μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層を有し、Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05であり、めっき皮膜層5と母材2との間の、厚みが0.2〜0.6μmで、かつそのMg濃度(C)と母材のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3である境界面層4が形成される。
このリフロー処理は、例えば、めっき層を20〜75℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、ピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で2〜10秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に100〜250℃/秒の冷却速度で20〜60℃まで冷却する二次冷却工程で実施する。
この場合、特に、加熱後の冷却工程を通して、冷却媒体の温度が±2℃以下に制御されていないと、加熱後の急冷が安定せず、本発明の効果を得ることが難しくなる。冷却媒体は水であることが好ましい。
即ち、このリフロー処理にて、母材中のMgの一部がSn相6にマイグレーションして、Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005〜0.05となり、めっき皮膜層5と母材2との間に、厚み:0.2〜0.6μmの境界面層4が形成されて、その境界面層4に母材2のMgの一部がマイグレーションして、境界面層4におけるMg濃度(C)と母材2のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1〜0.3となり、めっき皮膜層5の摩擦係数の低下が実現化される。
リフロー処理条件が上記の範囲外であると、上述のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板を形成することはできない。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態について、図2を参照に説明する。
図2に示す様にCu−Mg−P系銅合金Snめっき板11は、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材2とし、その母材2の表面に厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層3が形成されており、表面から母材2にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相6、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相7、厚みが0〜0.3μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層5を有し、Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.01〜0.03であり、めっき皮膜層5と母材2との間の、厚みが0.2〜0.6μmの境界面層4におけるMg濃度(C)と母材2のMg濃度(B)との比(C/B)が0.015〜0.025である。
リフロー処理前の母材2に0.05〜0.25μmの加工変質層3が形成されていると、この最適な厚みの加工変質層3の存在により、母材2の適切量のMgが、後工程でのリフロー処理時に、Sn相6及び境界面層4にマイグレーションするのが容易となり、比(A/B)が最好適値である0.01〜0.03の範囲に収まり、比(C/B)が最好適値である0.015〜0.025の範囲に収まり、めっき皮膜層5の摩擦係数の低下効果が増す。
この加工変質層3の厚みは、フロー処理前とフロー処理後で大きな変化はないが、フロー処理後の厚みの方が若干小さくなる傾向がある。
銅合金板母材2の成分組成は、第1の実施形態と同様である。
【0031】
[めっき皮膜層、境界面層、加工変質層、Mg濃度]
本発明では、めっき皮膜層5は、表面から母材2にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相6、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相7、厚みが0〜0.3μmのCu相8の順で構成されている。
Sn相6の厚みが0.3μm未満では、半田濡れ性が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなる。
Sn−Cu合金相7は、硬質であり、その厚みが0.3μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層5に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
Cu相8の厚みが0.3μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層5の内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
めっき皮膜層5と母材2との間には、厚みが0.2〜0.6μmである境界面層4が存在しており、境界面層4の厚みが0.2μm未満では、加熱時に、めっき皮膜層5と母材2との間で剥離が生じる恐れがあり、厚みが0.6μmを超えると、接触電気抵抗性に悪影響を及ぼす。
母材の表面に0.05〜0.25μmの加工変質層3が形成されていることにより、母材2の適切量のMgが、後工程でのリフロー処理時に、Sn相6及び境界面層4にマイグレーションするのが容易となり、比(A/B)が最好適値である0.01〜0.03の範囲に収まり、比(C/B)が最好適値である0.15〜0.25の範囲に収まり、めっき皮膜層5の硬度が特に好都合な範囲で向上し、めっき皮膜層5の摩擦係数が更に低下する。
本発明でのSn相6のMg濃度とは、銅合金Snめっき板1の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたMg濃度プロファイルにおいて、Sn相6に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
本発明での境界面層4のMg濃度とは、銅合金Snめっき板1の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたMg濃度プロファイルにおいて、境界面層4に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
【0032】
[製造方法]
製造方法としては、先ず、成分組成が0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する母材2の表面に、酸洗処理にて厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層3を形成する。その加工変質層3表面に、Cu又はCu合金めっきをリフロー処理後のめっき厚み、及び、境界面層4の厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成し、更に、その表面に、Sn又はSn合金をリフロー処理後のめっき厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成する。
0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する母材2の表面に酸洗処理を施し、厚みが0.05〜0.25μmである加工変質層3を形成すると、母材2の適切量のMgが、後工程でのリフロー処理時にSn相6及び境界面層4にマイグレーションするのが容易となり、比(A/B)が最好適値である0.01〜0.03の範囲に収まり、比(C/B)が最好適値である0.15〜0.25の範囲に収まり、めっき皮膜層5の摩擦係数の低下効果が増大する。
リフロー処理前の加工変質層3の厚みが0.05μm未満では、効果が不十分であり、0.25μmを超えると、めっき皮膜層5の耐熱剥離性に悪影響を及ぼす。
本発明での酸洗処理とは、砥粒での機械研磨と処理液での化学研磨を含むことが好ましく、目的とする加工変質層3は、主に機械研磨により形成され、表面粒度が#1000以上の研磨ロールで母材の表面を機械研磨することが特に好ましい。引続く化学研磨工程は、
必ずしも必要ではないが、形成された加工変質層3を残して砥粒を除去する為に、例えば、硫酸5〜20質量%及び過酸化水素1〜10質量%を含む液温30〜70℃の処理液中にて、10〜30秒間浸漬して実施することが好ましい。
【0033】
この場合、Cu−Mg−P系銅合金板母材2は、本発明の成分範囲に調合した材料を溶解鋳造により銅合金鋳塊を作製し、この銅合金鋳塊を熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延をこの順序で含む工程で製造された銅合金母板ものであれば種類は問わない。
例えば、熱間圧延を、圧延開始温度;700℃〜800℃、総熱間圧延率;80%以上、1パス当りの平均圧延率;15%〜30%にて実施し、冷間圧延を、圧延率;50%以上にて実施し、前記連続焼鈍を、温度;300℃〜550℃、時間;0.1分〜10分にて実施し、テンションレベリングを、ラインテンション;10N/mm〜140N/mmにて実施して製造されても良い。
次に施すCu又はCu合金めっき条件、Sn又はSn合金めっき条件、リフロー処理条件は、第1の実施形態と同様であり、これらにより、0.2〜1.2質量%のMgと0.001〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材2とし、その母材2の表面に厚みが0.05〜0.25μmの加工変質層3が形成されており、表面から母材2にかけて、厚みが0.3〜0.8μmのSn相6、厚みが0.3〜0.8μmのSn−Cu合金相7、厚みが0〜0.3μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層5を有し、Sn相6のMg濃度(A)と母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.01〜0.03であり、めっき皮膜層5と母材2との間の、厚みが0.2〜0.6μmの境界面層4におけるMg濃度(C)と母材2のMg濃度(B)との比(C/B)が0.015〜0.025であり、更に
めっき皮膜層5の摩擦係数が低下した図2に示すCu−Mg−P系銅合金Snめっき板1が得られる。
【実施例】
【0034】
表3に示す組成の銅合金を、電気炉により還元性雰囲気下で溶解し、厚さが150mm、幅が500mm、長さが3000mmの鋳塊を溶製した。この溶製した鋳塊を、表3に示す、圧延開始温度、総熱間圧延率、1パス当たりの平均圧延率にて熱間圧延を行い、銅合金板とした。この銅合金板の両表面の酸化スケールをフライスで0.5mm除去した後、表3に示す圧延率で冷間圧延を施し、表3に示す連続焼鈍を施し、圧延率が70%〜85%の仕上げ圧延を実施し、表3に示すテンションレベリングを施し、実施例1〜10及び比較例1〜7に示すCu−Mg−P系銅合金薄板を作製した。
【0035】
【表3】
【0036】
次に、これらの銅合金薄板の表面を番手#1000の研磨ロールを使用して機械研磨した後に、硫酸5〜20質量%及び過酸化水素1〜10質量%を含む液温30〜70℃の処理液中に10〜30秒間浸漬し、化学研磨を実施し、表4に示す厚みの加工変質層を形成した。加工変質層の厚みは、銅合金薄板の断面をTEM−EDS分析にて観察して求めた。
これらの銅合金薄板からめっき用の試料を切出し、リフロー後のそれぞれのめっき厚みを考慮して、表1の条件でCuめっき、次に、表2に示すSnめっき条件でその表面張力、粘度を表4に示す様に変えてSnめっきを施した。Snめっき液の界面活性剤としては、ピロガロール、光沢剤としては、エチレンジアミンEO−PO付加物、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレンを使用した。
次に、これらのCuめっき、Snめっきが順に施された試料につき、表4に示す条件にて、リフロー炉及び水冷槽でリフロー処理を施して、リフローめっき付き銅合金薄板を作製した。
これらのリフローめっき銅合金薄板から試料を切出し、Sn相、Sn−Cu合金相、Cu相の順で構成されためっき皮膜層の各相の厚み、めっき皮膜層と銅基合金板との間の境界面層の厚み、加工変質層の厚みを測定した。
これらの結果を表4に示す。
各々の厚みの測定は、これらの試料の断面をTEM−EDS分析にて観察して求めた。
【0037】
【表4】
【0038】
次に、これらの試料につき、Sn相のMg濃度、境界面層のMg濃度、銅合金母材のMg濃度を測定し、(表面Sn相のMg濃度/銅合金母材のMg濃度)の値、(境界面層のMg濃度/銅合金母材のMg濃度)の値を求めた。これらの結果を表5に示す。
Mg濃度の測定は、GDSによる表面分析による深さ方向の濃度プロファイルから求めた。GDSの測定条件は次の通りである。
(測定条件)
前処理:アセトン溶剤中に浸漬し、超音波洗浄機を用いて38kHz 5分間 前処理を行う。
装置:堀場製作所製 マーカス型グロー放電発光表面分析装置 JY5000RF
測定条件:RFモード
出力:35W、Arガス圧:600Pa
Module/Phase=800/400
アノードサイズ:2mm
Flush time:20sec
Background acquis:10sec
Pre-integration time:30sec
Surface acquisition:60sec
Average time:0.080sec/pts
Bulk acquisition:10sec
次に、これらの試料につき、摩擦係数及び接触電気抵抗性を測定した。これらの結果を表5に示す。
摩擦係数の測定は、日本伸銅協会のJCBA−T311−200「銅および銅合金板の動摩擦係数測定方法」に従った。
接触電気抵抗性は、大気中、150℃で400時間加熱した試料に対し、山崎精機製、接点シミュレータ(商品名CRS−1)を使用し、四端子法により接触電気抵抗を測定した。測定条件は次の通りである。
接触荷重:50g
電流:200mA
摺動速度:1mm/分、摺動距離:1mm
表5にて、◎〜×は、155℃、大気雰囲気で400時間加熱後の接触電気抵抗が、◎は10mΩ以下、○は10〜20mΩ未満、△は20〜50mΩ、×は50mΩを超えたことを表す。
【0039】
【表5】
【0040】
これらの結果より、実施例1〜10は比較例1〜9と比べて、低摩擦係数を有しており、特に、実施例1〜4は一段と摩擦係数が低いことがわかり、実施例の本発明の製造方法により製造されたリフロー処理後のCu−Mg−P系銅合金Snめっき板は、摩擦係数が低く、嵌合型接続端子用としての使用に適していることが明確である。
【0041】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 Cu−Mg−P系銅合金Snめっき板
2 銅合金板母材
3 加工変質層
4 境界面層
5 めっき皮膜層
6 Sn相
7 Sn−Cu合金相
8 Cu相
11 Cu−Mg−P系銅合金Snめっき板
図1
図2