特許第6055296号(P6055296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6055296-口腔用組成物 図000006
  • 特許6055296-口腔用組成物 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055296
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20161219BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20161219BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61K8/44
   A61K8/55
   A61Q11/00
   A61K8/46
   A61K8/37
   A61K8/60
   A61K8/34
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-266282(P2012-266282)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-12655(P2014-12655A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-131288(P2012-131288)
(32)【優先日】2012年6月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】永山 美佳
(72)【発明者】
【氏名】矢納 義高
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 拓也
【審査官】 福永 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−021219(JP,A)
【文献】 特開昭63−060917(JP,A)
【文献】 特開2005−029506(JP,A)
【文献】 国際公開第02/007692(WO,A1)
【文献】 特開2013−112654(JP,A)
【文献】 特開2008−143824(JP,A)
【文献】 特開平09−012438(JP,A)
【文献】 特開2010−143843(JP,A)
【文献】 特開平02−256608(JP,A)
【文献】 特開昭54−117039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)N−アシル酸性アミノ酸又はその塩 0.005質量%以上0.3質量%以下 及び
(B)ピロリン酸又はその塩 0.005質量%以上0.5質量%以下
を含有し、成分(A)と成分(B)の質量比((B)/(A))が0.1以上40以下
であり、かつ成分(A)と成分(B)の含有量の合計が0.01質量%以上0.6質量%以下である口腔用組成物。
【請求項2】
成分(A)が、炭素数6〜22のアシル基を有する請求項1項に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
成分(A)が、N−アシル酸性アミノ酸の塩として、アルカリ金属塩を含む請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
さらに(C)アルキル硫酸塩を0.5質量%以上2質量%以下含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
成分(A)と成分(C)の質量比((C)/(A))が、5以上200以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項6】
成分(B)が、ピロリン酸又はそのアルカリ金属塩である請求項1〜5のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項7】
さらに(F)ノニオン界面活性剤を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項8】
成分(F)が、グリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種である請求項7に記載の口腔用組成物。
【請求項9】
歯磨組成物である請求項1〜8のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項10】
液体口腔用組成物である請求項1〜8のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項11】
さらに(D)20℃において水溶液100gに対して5〜40g溶解する糖アルコールを含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、口腔用組成物において、配合成分の分散性を高めたり、使用感や洗浄効果の向上を図ったりする上で、発泡剤として種々の界面活性剤が用いられている。例えば、特許文献1には、かかる界面活性剤としてN−長鎖アシルグルタミン酸塩を配合した歯磨組成物が開示されており、特許文献2に記載の口腔用組成物では、アミノ酸系界面活性剤を配合することによって、さらにステイン形成阻害効果を得ることを試みている。
【0003】
一方、ピロリン酸塩等を配合することによって歯面への汚れの付着を防止できることも知られており、例えば、特許文献3には、アルキル硫酸塩、ピロリン酸塩等の水溶性ポリリン酸塩を1重量%以上、及びオルトリン酸塩を含有する口腔用組成物が開示されており、かかる組成物はステイン、プラーク、煙草のヤニ等の歯面の汚れに対する化学的清掃効果を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−256608号公報
【特許文献2】特開平10−17444号公報
【特許文献3】特開平9−12438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したステイン、プラーク、煙草のヤニを含む、歯面に付着した種々の汚れは、歯面上に形成されたタンパク質汚れの上に、さらに細菌の共凝集や他の無機汚れの層が形成されてなる。そのため、歯面とステインやプラーク等の汚れとの間に介在するタンパク質汚れを有効に除去すれば、これらステインやプラーク等の汚れを根こそぎ除去することができ、洗浄効果を高めることが可能となる。さらに、歯面へのタンパク質汚れの付着を未然に防止できれば、歯垢形成抑制効果も大いに期待できることとなる。また、歯石形成過程の詳細については、必ずしも明らかにされているわけではないが、歯面に存在するプラークを構成する細菌、或いは粘着性デキストラン等の有機基質に、唾液や浸出液から供給されるカルシウム及びリンが付着し、これが結晶化することでプラークの石灰化現象が生じることによると考えられる。そして、この無機成分は、ハイドロキシアパタイト様の石灰化物である。
したがって、歯面へのタンパク質汚れの付着を未然に防止でき、またプラーク中に沈着したリン酸カルシウム分がハイドロキシアパタイト結晶に転移して成長するのを抑制することができれば、歯垢形成抑制効果も大いに期待できることとなる。さらに、歯牙表面からのカルシウムイオンの溶出を効果的に抑制し得る耐酸性を付与することができれば、むし歯を有効に防止することも可能となる。
【0006】
一般に、口腔用組成物を用いた歯の洗浄効果を確認するにあたり、医師や歯科衛生士等の専門家による判断に委ねられる以外、使用者自身が舌等で歯面に触れた際につるつるとした感触を実感できるか否かに拠ることが多いため、こうした清掃効果を使用者が容易に実感できる口腔用組成物が好まれている。また、口腔用組成物を使用することで、むし歯に対する抵抗力を増大させることも望まれている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜2のようにアミノ酸系界面活性剤を用いても、歯のタンパク質汚れの除去性能を得ることができず、また特許文献3のように、ポリリン酸を配合しても、タンパク質汚れの除去効果と付着防止効果とを共に十分発揮させるには至らない。また、ポリリン酸は、その配合量が増大するにつれて口腔内の洗浄後の歯の感触が低下するおそれがあるため、清掃効果を十分に実感できない可能性もある。さらに、これらの文献ではいずれも、耐酸性を高めたり、良好な低温安定性を付与したりすることに関し、何らの検討もなされていない。
【0008】
したがって、本発明は、歯面に存在するタンパク質汚れを十分に除去できるとともに、タンパク質汚れの歯面への付着をも効果的に防止することができ、その清掃効果を口腔内で良好に実感することをも可能とするうえに、優れた耐酸性や良好な低温安定性を有する口腔用組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、N−アシルアミノ酸又はその塩及びピロリン酸又はその塩を特定の量で含有しながら、これらを特定の量比かつ特定の合計量とすることにより、タンパク質汚れの除去効果と付着防止効果とを高め、口腔内で良好な清掃効果をも実感できるとともに、優れた耐酸性や良好な低温安定性をも有する口腔用組成物が得られることを見出した。
また、本発明の口腔用組成物であれば、プラーク中に沈着したリン酸カルシウム分がハイドロキシアパタイト結晶に転移し、さらに成長してしまうのを抑制することもできるので、より優れた歯垢形成抑制効果を期待できることを見出した。
さらに、本発明の口腔用組成物であれば、優れた耐酸性をも有するため、歯牙表面からのカルシウムイオンの溶出を効果的に抑制することができるとともに、低温環境下においても良好な安定性を保持できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)N−アシルアミノ酸又はその塩 0.005質量%以上0.3質量%以下 及び
(B)ピロリン酸又はその塩 0.005質量%以上0.5質量%以下
を含有し、成分(A)と成分(B)の質量比((B)/(A))が0.05以上40以下であり、かつ成分(A)と成分(B)の含有量の合計が0.01質量%以上0.6質量%以下である口腔用組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物は、優れた歯面のタンパク質汚れの除去効果と、歯面へのタンパク質汚れの付着抑制効果とを兼ね備えるとともに、口腔用組成物を使用した後に、歯面がつるつるとなめらかな感触となることを実感することができ、歯垢形成抑制効果を十分に期待できるとともに清掃実効感をも高めることができ、さらに優れた耐酸性や良好な低温安定性をも有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】タンパク質汚れの除去効果の評価結果を示すグラフである。縦軸はタンパク質汚れの除去率(%)を示す。
図2】タンパク質汚れの付着抑制率の評価結果を示すグラフである。縦軸はタンパク質汚れの付着抑制率(%)を示す。
図3】歯垢量の測定箇所を概略図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の口腔用組成物は、N−アシルアミノ酸又はその塩(A)を0.005質量%以上0.3質量%以下含有する。かかる成分(A)を特定の量で含有することにより、後述する特定の量のピロリン酸又はその塩(B)との併用によって、効果的にタンパク質汚れを除去しつつその付着をも有効に抑制することができる。また、本発明の口腔用組成物を使用した後の口腔内においては、歯面が汚れのない滑らかな状態であるときに触感できる、ギシギシとした引っかかり感のないつるつるとした感触を高め、いわゆる清掃実効感を十分に高めることができる。ここで、ギシギシとした引っかかり感のないつるつるした感触とは、歯面を舌でふれたときに、摩擦を殆ど感じずに舌をすべらせることができる歯の表面がなめらかな感触をいう。
【0014】
N−アシルアミノ酸のアシル基は、優れたタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを兼ね備える観点、良好な清掃実効感をもたらす観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖を有する脂肪酸又はそれらの混合脂肪酸を由来としたものであって、直鎖脂肪酸又は直鎖脂肪酸の混合脂肪酸を由来としたものが好ましく、炭素数6〜22のアシル基であるのが好ましく、炭素数10〜20のアシル基であるのがより好ましく、炭素数12〜18のアシル基であるのがさらに好ましい。かかるアシル基としては、口腔用組成物の泡立ち、扱いやすさの点から、カプリロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ココイル基から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、ラウロイル基、ミリストイル基、ココイル基から選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、ラウロイル基、ミリストイル基から選ばれる1種以上がさらに好ましい。
【0015】
N−アシルアミノ酸のアミノ酸部分としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、スレオニン、メチルアラニン、サルコシン、リジン、アルギニンから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。N−アシルアミノ酸のアミノ酸部分は、成分(B)との併用によりタンパク質汚れの除去効果と汚れ付着防止の効果を向上する観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、酸性アミノ酸であるのが好ましく、グルタミン酸、アスパラギン酸がより好ましく、グルタミン酸がさらに好ましい。また、これらのアミノ酸部分はD体、L体或いはD体とL体の混合物のいずれであってもよく、L体であるのが好ましい。
【0016】
N−アシルアミノ酸又はその塩(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、N−アシルアミノ酸又はその塩(A)としては、タンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点とを向上する観点から、N−ラウロイルグルタミン酸、N−ミリストイルグルタミン酸、N−ココイルグルタミン酸、N−ラウロイルアスパラギン酸、又はこれらの塩が好ましく、N−ラウロイルグルタミン酸、N−ミリストイルグルタミン酸、又はこれらの塩がより好ましい。
【0017】
N−アシルアミノ酸塩の塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム、亜鉛等の他の無機塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。。なかでも、N−アシルアミノ酸塩の塩としては、香味や入手容易性の点から、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0018】
N−アシルアミノ酸又はその塩(A)の含有量は、後述する成分(B)のピロリン酸又はその塩と相まってタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを飛躍的に高める観点、清掃実効感をもたらす観点、味の観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.005質量%以上であって、好ましくは0.007質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上である。N−アシルアミノ酸又はその塩(A)の含有量は、後述する成分(B)との併用によるタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果を向上し、かつ苦味とえぐ味を抑制し、清掃実効感を得る観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.3質量%以下であって、好ましくは0.2質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。また、N−アシルアミノ酸又はその塩(A)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、0.005〜0.3質量%であって、好ましくは0.007〜0.2質量%であり、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、ピロリン酸又はその塩(B)を0.005質量%以上0.5質量%以下含有する。かかる成分(B)を特定の量で含有することにより、上記成分(A)と相まって、タンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを飛躍的に高めながら、組成物を使用した後の口腔内における清掃実効感をも十分に高めることができ、加えて、優れた耐酸性や良好な低温安定性をももたらすことが可能である。ピロリン酸塩の塩としては、水への溶解性の点からナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、これらピロリン酸又はその塩(B)を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、ピロリン酸又はその塩(B)としては、タンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果の観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、ピロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
ピロリン酸又はその塩(B)の含有量は、上記成分(A)とともにタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを相乗的に高める観点、清掃実効感をもたらす観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.005質量%以上であって、好ましくは0.01質量%以上である。ピロリン酸又はその塩(B)の含有量は、きしみ感を抑制し清掃実効感の低下を抑制し、香味が損なわれるのを防止する点から、本発明の口腔用組成物中に、0.5質量%以下であって、好ましくは0.4質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以下である。また、ピロリン酸又はその塩(B)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、0.005〜0.5質量%であって、好ましくは0.01〜0.4質量%であり、より好ましくは0.01〜0.15質量%である。
【0021】
上記N−アシルアミノ酸又はその塩(A)の含有量とピロリン酸又はその塩(B)の含有量との合計は、タンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを相乗的に高めつつ、良好な清掃実効感をもたらす観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、0.01質量%以上であって、好ましくは0.02質量%以上である。そして成分(A)と成分(B)の含有量の合計は、歯へのタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果を高める観点、及び清掃実効感を得る観点と味の観点から、0.6質量%以下であって、好ましくは0.45質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下である。また、成分(A)と成分(B)の含有量の合計は、0.01〜0.6質量%であって、好ましくは0.01〜0.45質量%であり、より好ましくは0.02〜0.3質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.2質量%である。
【0022】
上記N−アシルアミノ酸又はその塩(A)とピロリン酸又はその塩(B)との質量比((B)/(A))は、良好な香味を保持しつつ、タンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを相乗的に高める観点、清掃実効感をもたらす観点、及び優れた耐酸性や良好な低温安定性もたらす観点から、0.05以上であって、好ましくは0.1以上であり、40以下であって、好ましくは15以下であり、より好ましくは12以下である。また、質量比((B)/(A))は、0.05〜40であって、好ましくは0.1〜15であり、より好ましくは0.1〜12である。
【0023】
本発明の口腔用組成物は、上記成分(A)によって泡立ちが低下するのを抑制しつつ良好な使用感を確保する観点、タンパク質汚れの付着抑制効果とタンパク質汚れの除去効果の両立の観点、また後述するように本発明の口腔用組成物が歯磨組成物である場合には、さらにアルキル硫酸塩(C)を0.5質量%以上2質量%以下含有するのが好ましい。かかるアルキル硫酸塩としては、具体的には、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、カプリル硫酸ナトリウムが挙げられる。なかでも、アルキル硫酸塩(C)としては、タンパク質汚れの付着抑制効果を確保しつつタンパク質汚れの除去効果を得る観点から、ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
アルキル硫酸塩(C)の含有量は、良好な泡立ち、タンパク質汚れの付着抑制効果、及び良好な使用感を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.5質量%以上であって、より好ましくは0.8質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは2質量%以下であって、より好ましくは1.7質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0025】
上記N−アシルアミノ酸又はその塩(A)とアルキル硫酸塩(C)との質量比((C)/(A))は、良好な泡立ちを保持しつつタンパク質汚れの付着抑制効果を十分に発揮させる観点から、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上であり、好ましくは200以下であり、より好ましくは150以下である。また、質量比((C)/(A))は、好ましくは5〜200であり、より好ましくは10〜150である。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、清涼効果を高めて清掃実効感を増大させる観点から、さらに20℃において水溶液100gに対して5〜40g溶解する糖アルコール(D)を含有するのが好ましい。なお、前記水溶液は、水に糖アルコール(D)を溶解した水溶液を意味する。かかる糖アルコール(D)としては、口腔内での清涼感及び良好な香味の観点からエリスリトール、マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトールとα−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトールの混合物である還元パラチノースから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、適度な溶解性と味の点からエリスリトール、還元パラチノースがより好ましく、良好な清涼感の観点からエリスリトールが好ましい。
【0027】
成分(D)の含有量は、すっきりした清涼効果を得る観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0028】
本発明の口腔用組成物は、味と使用感の観点から、さらに成分(D)以外の、20℃において水溶液100gに対して40gよりも多く溶解する他の糖アルコールを含有することが好ましい。他の糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトールから選ばれるものが好ましく、湿潤剤としても機能するソルビトールが好ましい。成分(D)以外の糖アルコールの含有量は、使用感の点から、本発明の口腔用組成物中に10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上がより好ましく、30質量%以下が好ましい。
【0029】
本発明の口腔用組成物の形態としては、口中に適用できるものであれば特に制限されず、練り歯磨剤や粉歯磨剤等の歯磨組成物、洗口剤や液状歯磨剤等の液体口腔用組成物として用いることができる。なかでも、良好なタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果の点及び良好な清掃実効感の観点から、洗口剤、液状歯磨剤から選ばれる液体口腔用組成物が好ましく、歯ブラシによる物理的な洗浄との併用によってタンパク質汚れの除去効果や付着効果を高める観点から、練歯磨剤が好ましい。
【0030】
本発明の口腔用組成物は、上記成分のほか、水を含有する。これにより、成分(A)及び成分(B)を溶解又は分散させつつ口腔内で良好に拡散させ、タンパク質汚れの除去効果及び付着抑制効果を有効に発揮させることができる。
【0031】
例えば、本発明の口腔用組成物が歯磨組成物である場合、かかる水の含有量は、本発明の歯磨組成物100質量%中に、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。また、本発明の口腔用組成物が液体口腔用組成物である場合、かかる水の含有量は、本発明の液体口腔用組成物100質量%中に、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。本発明の液体口腔用組成物100質量%中の水の含有量は、他の成分の残部であり、好ましくは99.99質量%以下であり、より好ましくは99.98質量%以下であり、さらに好ましくは99.98質量%未満である。また、本発明の口腔用組成物が液体口腔用組成物であってさらにノニオン界面活性剤(F)を含有する場合、かかる水の含有量は、本発明の液体口腔用組成物100質量%中に、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは86質量%以上であり、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下であり、さらに好ましくは92質量%未満である。
【0032】
本発明の口腔用組成物が歯磨組成物である場合、その水分量は、配合した水分量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業(株))を用いることができる。この装置では、歯磨組成物を5gとり、無水メタノール25gに懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0033】
本発明の口腔用組成物が歯磨組成物である場合は、さらに粘結剤(E)を含有することが好ましい。粘結剤(E)としては、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びメトキシエチレン無水マレイン酸共重合体等からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、粘結剤(E)は、エーテル化度が0.7〜2.0のカルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガムから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、2種以上がより好ましい。粘結剤(E)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.4質量%以上であり、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下である。また、本発明の口腔用組成物が歯磨組成物である場合は、粘結剤(E)とともに、増粘性シリカ(JIS K5101-13-2に準ずる方法により測定される吸油量が、200〜400mL/100g)を1質量%以上12質量%以下含有することが好ましい。
【0034】
本発明の口腔用組成物が歯磨組成物である場合は、本発明の効果を阻害しない範囲でさらに研磨剤を含有することができる。研磨剤としては、例えばリン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、研磨性シリカ(JIS K5101−13−2に準ずる方法により測定される吸油量が、50〜150mL/100g)等が挙げられる。研磨剤は、RDA値(Radioactive Dentine Abrasion values、ISO11609研磨性の試験方法 付随書Aにより測定される値)が20〜250のものが一般に用いられる。本発明の口腔用組成物は、高いタンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果に加え、優れた清掃実効感をもたらすことから、研磨剤の含有量を低減しても優れた効果を発揮することができる。研磨剤の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは1質量%以上であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0035】
本発明の口腔用組成物は、さらにノニオン界面活性剤(F)を含有することが好ましい。かかる成分(F)を含有することにより、耐酸性を高めて歯牙表面からのカルシウムイオンの溶出を有用に抑制することができるとともに、良好な低温安定性を付与することができる。また、プラーク中に沈殿したリン酸カルシウム分がハイドロキシアパタイトに付着するのを有効に抑制することもできる。成分(F)としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、平均付加モル数が60未満、好ましくは平均付加モル数が40以下のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種組み合わせて用いてもよい。なかでも、有効に耐酸性を高め、リン酸カルシウムの付着を抑制する観点、及び低温安定性を効果的に付与する観点から、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。成分(F)の含有量は、耐酸性を高め、リン酸カルシウムの付着を抑制する観点、及び低温安定性を付与する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。成分(F)の含有量は、味・使用感の観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下である。
【0036】
本発明の口腔用組成物は、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物のほか、乳酸アルミニウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、アルギニン-炭酸カルシウム等の象牙質知覚過敏用成分;グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の湿潤剤;甘味剤;香料;pH調整剤;カチオン性殺菌剤等の殺菌剤;抗炎症剤;防腐剤;植物抽出物;その他有効成分等を含有することができる。
【0037】
上述した実施態様に関し、本発明はさらに以下の口腔用組成物を開示する。
[1]次の成分(A)及び(B):
(A)N−アシルアミノ酸又はその塩 0.005質量%以上0.3質量%以下 及び
(B)ピロリン酸又はその塩 0.005質量%以上0.5質量%以下
を含有し、成分(A)と成分(B)の質量比((B)/(A))が0.05以上40以下であり、かつ成分(A)と成分(B)の含有量の合計が0.01質量%以上0.6質量%以下である口腔用組成物。
[2]成分(A)と成分(B)の質量比((B)/(A))は、0.05以上であって、好ましくは0.1以上であり、40以下であって、好ましくは15以下であり、より好ましくは12以下である上記[1]の口腔用組成物。
[3]成分(A)と成分(B)の含有量の合計は、0.01質量%以上であって、好ましくは0.02質量%以上であり、0.6質量%以下であって、好ましくは0.45質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下である上記[1]又は[2]の口腔用組成物。
【0038】
[4]成分(A)の含有量は、0.005質量%以上であって、好ましくは0.007質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、0.3質量%以下であって、好ましくは0.2質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である上記[1]〜[3]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[5]成分(A)は、炭素数6〜22のアシル基を有し、より好ましくは炭素数10〜20のアシル基を有し、さらに好ましくは炭素数12〜18のアシル基を有する上記[1]〜[4]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[6]成分(A)は、N−アシル酸性アミノ酸又はその塩である上記[1]〜[5]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[7]成分(A)は、N−ラウロイルグルタミン酸、N−ミリストイルグルタミン酸、N−ココイルグルタミン酸、N−ラウロイルアスパラギン酸及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはN−ラウロイルグルタミン酸、N−ミリストイルグルタミン酸及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上である上記[1]〜[6]のいずれか1記載の口腔用組成物。
【0039】
[8]成分(B)の含有量は、0.005質量%以上であって、好ましくは0.01質量%以上であり、0.5質量%以下であって、好ましくは0.4質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以下である上記[1]〜[7]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[9]成分(B)は、ピロリン酸又はそのアルカリ金属塩であり、より好ましくはピロリン酸ナトリウムである上記[1]〜[8]のいずれか1記載の口腔用組成物。
【0040】
[10]さらにアルキル硫酸塩(C)を含有する上記[1]〜[9]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[11]アルキル硫酸塩は、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム及びカプリル硫酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはラウリル硫酸ナトリウムである上記[10]の口腔用組成物。
[12]成分(C)の含有量は、0.5質量%以上であって、より好ましくは0.8質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、2質量%以下であって、より好ましくは1.7質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である上記[10]又は[11]の口腔用組成物。
[13]成分(A)と成分(C)との質量比((C)/(A))は、5以上であり、より好ましくは10以上であり、200以下であり、より好ましくは150以下である上記[10]〜[12]のいずれか1記載の口腔用組成物。
【0041】
[14]さらに20℃において水溶液100gに対して5〜40g溶解する糖アルコール(D)を含有する上記[1]〜[13]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[15]成分(D)は、エリスリトール、マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトールとα−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトールの混合物である還元パラチノースから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはエリスリトールである上記[14]の口腔用組成物。
[16]成分(D)の含有量は、20質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上55質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上50質量%以下である上記[14]又は[15]の口腔用組成物。
[17]さらに成分(D)以外の他の糖アルコールを含有する上記[1]〜[16]いずれか1記載の口腔用組成物。
【0042】
[18]歯磨組成物である場合における水の含有量は、10質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは12質量%以上50質量%以下であり、液体口腔用組成物である場合における水の含有量は、50質量%以上99.99質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上99.98質量%以下である上記[1]〜[17]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[19]さらに研磨剤を1質量%以上20質量%、より好ましくは1質量%以上10質量%以下含有する上記[1]〜[18]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[20]さらに粘結剤(E)を含有する上記[1]〜[19]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[21]成分(E)の含有量は、0.3質量%以上であり、好ましくは0.4質量%以上であり、2質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以下である上記[20]記載の口腔用組成物。
【0043】
[22]さらに(F)ノニオン界面活性剤を含有する上記[1]〜[21]のいずれか1記載の口腔用組成物。
[23]成分(F)が、グリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種である上記[22]記載の口腔用組成物。
[24]成分(F)の含有量は、0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、2質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下である上記[22]又は[23]記載の口腔用組成物。
[25]歯磨組成物である上記[1]〜[21]の口腔用組成物。
[26]液体口腔用組成物である上記[22]〜[24]の口腔用組成物。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0045】
[実施例1〜8、比較例1〜2]
表1に示す処方にしたがい、pH7に調整した液体口腔用組成物を調製し、下記方法にしたがって、タンパク質汚れの除去効果、タンパク質汚れの付着抑制効果及び洗浄性を評価した。
なお、表1に示す各液体口腔用組成物は、全量100質量%となるように調製した。
【0046】
《タンパク質汚れの除去効果の評価試験》
ヒドロキシアパタイト(HAp)粉(HAP-200 太平化学産業(株))50mgを精製水5mlと混合した懸濁液を製造した。次に、懸濁液にアルブミン(ウシ血清由来 和光純薬(株)pH5.2)15mgを加えて振動させながら90分間おいた。なお、振動は、振盪機(CUTE MIXER CM―1000(EYERA東京理化器械(株)))を用いて行った。
【0047】
その後、HApを懸濁液ごと遠心分離機(3000rmp、5分)にかけた後に上澄み液を吸引除去し、洗浄(精製水5mLを加えて再度遠心分離した後に上澄み液を吸引除去する)を2回繰り返した。洗浄後のHApと精製水5mLを混合し、懸濁液を製造し、懸濁液から75μLずつ取り出し、再度遠心分離機にかけた後に上澄み液を吸引除去して各液体口腔用組成物の評価のためのHApを準備した。これらの洗浄後のHApに、各液体口腔用組成物1mLを加え、2分間攪拌した。次いで、遠心分離機にかけた後に上澄み液を誘引除去し、前述と同様にして精製水300mLによる洗浄を行った。洗浄後のHApに1N塩酸 100μL、リン酸バッファー(0.1mol pH8.4)1mLを加えて攪拌した溶液から、400μLを取り出し、蛍光色素溶液(フルオレスカミン 0.3mg/mL アセトン溶液)150μLを加えて混合した。この蛍光色素液を混合した混合溶液から、さらに200μLを取り出して暗所に30分間静置した。なお、静置を含み、試験は全て室温(20℃)で行った。
【0048】
次に、HApに残存するタンパク質の量(タンパク質残存量)を、蛍光を測定することにより求めた。蛍光の測定には、マイクロプレート蛍光光度計 Gemini EM(モレキュラーデバイス(株))を用い、励起光波長360nmにて蛍光波長480nmの測定を行った。各濃度のアルブミンのリン酸バッファー液(リン酸バッファー0.1mol、pH8.4)の蛍光の測定結果を元に検量線を作製し、蛍光の測定結果からタンパク質残存量へ換算した。
【0049】
上述の評価試験において、液体口腔用組成物を精製水とした以外は、同様にしてタンパク質残存量を求め、この値を100として、各液体口腔用組成物について求めたタンパク質残存量から、タンパク質除去率(%)を算出した。結果を表1に示すとともに、実施例1及び比較例1〜2の結果を図1に示す。
【0050】
《タンパク質汚れの付着抑制効果の評価試験》
ヒドロキシアパタイト(HAp)粉(HAP-200 太平化学産業(株))50mgを精製水5mlと混合した懸濁液を製造した。次に、このHAp懸濁液を75μLずつ取り出し、遠心分離機(3000rpm、5分)にかけた後に上澄み液を吸引除去して各液体口腔用組成物の評価用のHApを準備した。これらの洗浄後のHApに液体口腔用組成物1mLを加え、2分間攪拌した後、前述と同様に精製水300mLによる洗浄を2回行った。次にアルブミン水溶液(ウシ血清由来 和光純薬(株)pH5.2、3mg/mL)75μLを加え、前述と同様にして振動させながら90分間おいた。次に、遠心分離機(3000rmp、5分)にかけた後に上澄み液を吸引除去し、前述と同様に精製水300mLによる洗浄を2回行った。洗浄後のHApに1N塩酸 100μL、リン酸バッファー(0.1mol pH8.4)1mLを加えて攪拌した後、400μLを取り出し、蛍光色素溶液(フルオレスカミン 0.3mg/mL アセトン溶液)150μLを混合した。この蛍光色素溶液を混合した溶液から、さらに200μLを取り出して暗所に30分間静置した。静置後、HApに付着したタンパク質の量(タンパク質付着量)を、前述と同様の蛍光測定により求めた。
【0051】
上述のタンパク質汚れ付着抑制効果の評価試験において、液体口腔用組成物を精製水とした以外は、同様にしてタンパク質付着量を求め、この値を100として、各液体口腔用組成物について求めたタンパク質残存量からタンパク質汚れ抑制率(%)を算出した。結果を表1に示すとともに、実施例1及び比較例1、2の結果を図2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1及び図1の結果より、成分(A)のみを0.01質量%含有する比較例2にはタンパク質汚れの除去効果がないものの、成分(B)のみを0.01質量%含有する比較例1で示されるタンパク質汚れ除去率に対して、成分(B)0.01質量%と成分(A)0.01質量%を併用する実施例1は、約2倍ものタンパク質汚れ除去率を示しており、タンパク質汚れ付着抑制率も飛躍的に向上していることが確認できる。
【0054】
これらの結果より、本発明の口腔用組成物は、上記特定の量の成分(A)及び成分(B)を、特定の質量比及び特定の合計量で含有すれば、成分(A)又は成分(B)を単独で用いる場合に比べ、高いタンパク質汚れの除去効果及び付着抑制効果を発揮する、優れた洗浄性を有し、これら成分(A)及び成分(B)の併用に拠る効果を十分に発揮できることが容易にわかる。
【0055】
[実施例9〜17、比較例3〜6]
表2に示す処方の歯磨組成物を調製し、下記方法にしたがって、使用後の歯面の感触の評価、及び味の評価を行った。
結果を表2〜3に示す。
【0056】
《使用後の歯面の感触》
得られた歯磨組成物1gを歯ブラシにとって2分間歯をブラッシングした後、口腔内を水で数回すすぎ、その後の歯面を舌で触ったときの感触を下記基準にしたがって評価した。評価は専門パネラー2名で行い、協議による評価結果を表2に示す。
AA:歯面がなめらかな感触であり、清掃実効感が高い。
A :歯面がややきしむが、清掃実効感はある。
B :歯面がなめらかでなく、清掃実効感に乏しい。
C :歯面がギシギシする(歯面に摩擦を強く感じる)
【0057】
《味》
得られた歯磨組成物1gを歯ブラシにとって2分間歯をブラッシングした後、口腔内を水で数回すすいだ。ブラッシング中の味及び水で数回すすいだ後味を下記基準にしたがって評価した。評価は専門パネラー2名で行い、協議による評価結果を表2に示す。
AA:苦味、えぐ味、及び塩味は感じられない。
A :極めて僅かに苦味、えぐ味、または塩味を感じる。
B :僅かに苦味、えぐ味、または塩味を感じる。
C :苦味、塩味及びえぐ味を感じる。
CC:極めて強い苦味またはえぐ味を感じる。
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果より、本発明の成分(A)及び成分(B)の含有量であれば、ブラッシング後(洗浄後)の歯面の感触がなめらかで清掃実効感も高いことが認められる。一方、比較例3、4のように成分(B)ピロリン酸ナトリウムの含有量が多い場合には、歯磨後の歯面がなめらかではなく、舌でふれたときに摩擦のある感触があるため清掃実効感に欠けることが認められる。さらに、比較例3、4は、含有量の多い成分(B)と成分(A)を併用しているため、味についても苦味、えぐ味、塩味が感じられ、特に比較例4は極めてこれらの異味が強かった。
【0060】
[比較例7〜8(実施例11との対比)]
表3に示す処方の歯磨組成物を調製し、下記方法にしたがって、3名のパネラーについてタンパク質汚れ付着抑制率の評価を行った。実施例11を含め、評価結果を表3に示す。
《人でのタンパク質汚れの付着抑制率の評価》
1)予め歯科衛生士により、プラークがゼロになるまで歯をブラッシングした。
2)得られた歯磨組成物1gを歯ブラシにとって、歯科衛生士が2分間歯をブラッシングした。
3)その後、歯磨き、ブラッシング、洗口液による洗浄を行なうことなく、24時間、通常の生活を送った。
4)24時間後に、歯に付着した歯垢量を測定した。歯垢量の測定部位は1名につき上下左右4本ずつの16歯であって(1番、4番、6番、7番の歯)、測定箇所は図3に示すように歯間に位置する4箇所(測定箇所:X)と、平滑面に位置する6箇所(測定箇所:Y)の合計10箇所とした。歯垢量は、各測定箇所について図3に示すように、歯に歯垢が付着している領域の歯肉からの高さによって定量した。各歯磨組成物の歯垢量は3名のパネラーの合計量とした。
5)なお、プラークがゼロになるまでの歯のブラッシングを行うのみで歯磨組成物によるブラッシングを行っていない場合の歯垢量を100として、各歯磨組成物について求めた歯垢量との差を減少分(タンパク質汚れ付着抑制量)とし、タンパク質汚れ付着抑制率(%)を算出した。
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果より、N−アシルアミノ酸又はその塩及びピロリン酸又はその塩を特定の量で含有しながら、これらを特定の量比かつ特定の合計量とする本発明の口腔用組成物(歯磨組成物)は、ヒトの口腔内に適用した場合においても、良好な歯垢形成抑制効果が認められた。
【0063】
[実施例18〜24、比較例9〜12]
表4に示す処方の液体口腔用組成物を調製し、下記方法にしたがって、各評価を行った。
結果を表4に示す。
【0064】
《使用後の歯面の感触》
得られた液体口腔用組成物10mLで口腔内を20秒間含嗽し、吐き出した直後の歯面を舌で触ったときの感触を下記基準に従って、評価した。評価は専門パネラー2名で行い、協議による評価結果を表4に示す。
AA:歯面がなめらかな感触であり、清掃実効感が高い。
A :歯面がややきしむが、清掃実効感はある。
B :歯面がなめらかでなく、清掃実効感に乏しい。
C :歯面がギシギシする(歯面に摩擦を強く感じる)。
【0065】
《味》
得られた液体口腔用組成物で口腔内を20秒間含嗽し、吐き出した。含嗽中の味、及び吐き出した直後の後味を下記基準に従って、評価した。評価は専門パネラー2名で行い、協議による評価結果を表4に示す。
AA:異味を感じない。
A :ほとんど異味を感じない。
B :わずかに異味を感じる。
C :異味を感じる。
【0066】
《低温保存安定性》
得られた液体口腔用組成物を透明PET容器に入れ、5℃で1週間保存し、液の性状を下記に示す判定基準にて評価した。
AA:透明である。
A :やや透明である。
B :沈殿が生じるが、室温に戻せば透明。
C :沈殿が生じ、白濁した。
なお、本発明において口腔用組成物が透明であるとは、着色の有無にかかわらず、外観上にごりや沈殿物がなく、波長550nmの光の透過率(セル長10mm)で90%以上であることを言う。
【0067】
《リン酸カルシウム付着物抑制試験》
13.1mMのCaCl2溶液を9.1mL取り、精製水で70mLにしたのち、アルブミン(牛血清由来 和光純薬(株))を0.18g溶解させ、溶液を調整した。その溶液を攪拌しながら 40mM のK2HPO4溶液を10mL添加し、最終濃度(Ca濃度1.5mM、P濃度5mM)とした。その溶液に対して鏡面研磨処理を行ったヒドロキシアパタイトペレット(ペンタックスリコーイメージング(株))を30分間浸漬した。鏡面研磨とは研磨紙40μm, 12μm, 3μmの3種類のラッピングフィルム(住友スリーエム製)を粗い方から細かい順に水を含ませて研磨したものである。溶液からペレットを取り出し、得られた液体口腔用組成物に3分間浸漬したのちに、さらに新しく調製した最終濃度(Ca濃度1.5mM、P濃度5mM)の溶液に浸漬した。このサイクル試験を10回繰り返し行った。その後ペレットを取りだし、ペレット表面に付着している沈着物の様子を走査型電子顕微鏡により観察し、沈着物の付着抑制効果を下記に示す判定基準により判定した。
A :付着物がなかった。
B :ペレット表面にやや付着物が見られた。
C :ペレット表面全体に一様に付着物が見られた。
【0068】
《耐酸性の評価》
ヒドロキシアパタイト粉((株)大平化学製)0.5gに対して、得られた液体口腔用組成物10mLを10分間作用させた後、遠沈し、上澄みを取り除いた。残部の粉体を水で洗浄した後、0.1Mの乳酸5mLを加え、5分間反応させた。その後、上澄みを取り出し、CaテストワコーE(和光純薬(株))を用いて溶出したカルシウムイオン濃度を測定し、下記に示す判断基準にて評価した。
A :カルシウムイオン濃度が1.5M未満であった。
B :カルシウムイオン濃度が1.5M以上〜2M未満
C :カルシウムイオン濃度が2M以上であった。
【0069】
【表4】
【0070】
表4の結果より、N−アシルアミノ酸又はその塩及びピロリン酸又はその塩を特定の量で含有しながら、これらを特定の量比かつ特定の合計量とする本発明の口腔用組成物(液体口腔用組成物)は、ヒトの口腔内に適用した場合においても、使用後に良好な感触を得ることができるだけでなく、優れた歯垢形成抑制効果を発揮し、低温環境下でも優れた保存安定性を有するとともに耐酸性にも優れることがわかる。
【0071】
以上のように、本発明の口腔用組成物は、タンパク質汚れの除去効果と付着抑制効果とを相乗的に高めながら、良好な清掃実効感をもたらすとともに、良好な後味を保持し、歯垢形成抑制にも大いに寄与できることがわかる。また、低温保存安定性や耐酸性にも優れていることがわかる。
図1
図2
図3