(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リアクトルはインダクタンスを調整するために、コアがギャップを有している。ギャップが巻線の内側に位置する構造のリアクトルにおいて、ギャップ部の漏れ磁束が近傍の巻線に鎖交し、巻線中に渦電流を発生させる。このため、ギャップ近傍の巻線は銅損が大きく、局所的な発熱の要因となることが知られている。巻線の発熱は劣化による機器寿命の短縮、場合によっては焼損による重大事故の原因となる可能性がある。そのため、リアクトルの設計においては、ギャップ近傍の巻線の冷却を効率よく行うことが求められる。
【0003】
従来のリアクトルは、冷却方式に空冷又は強制空冷が用いられることが多い。しかし、リアクトルにおいてコアと巻線の間は絶縁材や巻線用支持材により冷却が妨げられ、空冷又は強制空冷では問題となるギャップ近傍の巻線を効率よく冷却することが難しい。このため、構造上スペースに余裕のある設計を採用することが多く、製品が大型になるという問題がある。また、冷却ファン(強制空冷のみ)や通気口が必要となるため、騒音や制御盤の大型化を招くといった問題もある。
【0004】
また、その他の冷却方式として巻線の内部に流路を設け、ここに冷媒を循環させる構造もある。しかしこの方式は特殊な巻線を使用する関係上、従来のものと基本的な構造が異なるためにコストが高くなるという問題がある。
【0005】
最近では、放熱効率が高く、基本的な構造が従来のものとほとんど変わらない水冷式のリアクトルが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。従来の水冷式のリアクトルは、コアと巻線との間には放熱板のみが挿入され、放熱板の端部で冷媒用配管と熱交換が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の水冷式リアクトルは、コアと巻線との間に挿入された放熱板の端部で冷媒用配管と熱交換を行うため、冷媒用配管と発熱部との間に一定の距離が生じ、熱交換を行う放熱板端部までの経路の面積が小さくなってしまう。このため、熱抵抗が大きく、放熱板内部での温度勾配が大きくなるという課題があった。
【0008】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、温度上昇を効率的に抑制可能なリアクトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のある態様に係るリアクトルは、ギャップを有する磁性体のコアと、前記コアにコイル状に巻かれた巻線と、前記コアの前記ギャップを含む部分と前記巻線との間に配置され、その内部に冷媒の流路が設けられたプレート状の冷却部材とを備える。
【0010】
上記構成により、その内部に冷媒の流路が設けられたプレート状の冷却部材(ヒートシンク)が温度上昇の大きいギャップ近傍の巻線を直接冷却するので、効率的にリアクトルを冷却することができる。更に、冷媒の流路及び流量を選択することによって、発熱を小さくし、放熱を大きくする最適な放熱設計が可能となるため、リアクトルの小型化が実現できる。
【0011】
前記冷却部材は、非磁性及び熱伝導性を有するプレート状の部材であってもよい。
【0012】
上記構成により、プレート状の冷却部材が非磁性及び熱伝導性を有するので、ギャップの漏れ磁束に対するシールド効果が得られ、巻線の温度上昇を抑えることができる。非磁性及び熱伝導性を有する部材として例えば銅、アルミであってもよい。
【0013】
前記巻線と前記冷却部材との間に配置された絶縁体を更に備えてもよい。
【0014】
上記構成により、前記巻線と前記冷却部材との間の絶縁性が強化されるので、リアクトルに高い電圧が印加された場合であっても、導体である上記冷却部材と巻線との間に発生する短絡の可能性を抑制することができる。
【0015】
前記冷却部材は、前記コアの周方向における両端が接触しないように配置されていてもよい。
【0016】
上記構成により、コアを通る磁束に誘起されて冷却部材に循環電流が流れることを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度上昇を効率的に抑制可能なリアクトルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1によるリアクトル1の斜視図である。
図1に示すように、リアクトル1は、磁性体のコア2と、コア2にコイル状に巻かれた巻線3と、コア2と巻線3の間に配置されたプレート状の冷却部材4と、を備える。本実施の形態に係るリアクトル1は、特に用途を限定されない。リアクトル1は、例えばインバータの入出力フィルタに用いられる。尚、リアクトル1を構成するコア2や巻線3は特別な仕様の部材を使用する必要は無く、公知のものを用いることができる。
【0021】
図2は、
図1のリアクトル1のA−A´線断面図である。
図2に示すように、磁性体である鉄心のコア2は、ギャップ5を有する。コア2はコイル状の巻線3の内側を貫通している。本実施の形態では、コア2には、4つのギャップ5が形成されている。そして、コア2のギャップ5を含む部分に巻線3が配置され、当該コア2のギャップ5を含む部分と巻線3との間には、流路9が設けられたプレート状の冷却部材4が配置されている。
【0022】
図3は、
図1のリアクトルのB−B´線断面図である。
図3に示すように、磁気回路を構成するコア2の周囲に、流路9が設けられた冷却部材4が配置され、その外側に巻線3が配置される。なお、巻線3を構成する素線(電線)はそれ自体が絶縁層で被覆されていることはいうまでもない。本実施の形態では、コア2の周囲の四方に4枚の冷却部材4が配置されている。ここで冷却部材4は、コア2の周方向における両端が接触しないように配置されている。つまり、4枚の冷却部材4は、少なくとも全体として、コア2の周方向における両端が接触しないよう配置されることが必要である。コア2を通る磁束に誘起されて冷却部材4に循環電流が流れることを防止するためである。ここでは、4枚の冷却部材は、それぞれ、隣り合う冷却部材4に対し、コア2の周方向における両端が接触しないように配置されている。
【0023】
図4は、リアクトル1が備える冷却部材4の分解斜視図である。
図4に示すように、冷却部材4は、その内部に冷媒の流路9が設けられている。本実施の形態では、冷却部材4は、プレート状の水冷ヒートシンクで構成される。冷却部材4は、3枚のプレート状の部材が重ね合わされた3層構造である。具体的には、冷却部材4は、平板状のプレート6と、冷媒が通る溝(流路)9が形成されたプレート7と、片側の上下の隅に形成された貫通孔からなる供給口10と排出口11とを有する平板状のプレート8を含む。
【0024】
プレート6〜8は、非磁性及び熱伝導性を有するプレート状の部材である。本実施の形態では、非磁性及び熱伝導性を有する部材として銅が使用される。
【0025】
プレート7の溝(流路)9は、コア2のギャップ5に沿って、冷却部材4のプレート平面内を横方向に蛇行するようにして形成され、この流路を冷媒が通るようになっている。本実施の形態では、流路9を通る冷媒には液体である冷却水(例えば不凍液)が使用される。
【0026】
冷却部材4内の冷媒は、外部のポンプユニット(図示せず)から冷却部材4に供給口10を通じて給水され、冷却部材4内で熱交換を行った後、排出口11から排水されてポンプユニットへと戻る。このように冷媒は冷却部材4内の流路9を通って循環する。尚、このポンプユニットは、他の水冷ユニット、例えばインバータ内で使用されるIGBTを冷却する冷却ユニットと共有して使用されてもよい。
【0027】
次に、以上のような構成のリアクトル1による作用効果について用いて説明する。
【0028】
図5は、
図2のリアクトル1のギャップ5付近を拡大した部分断面図である。矢印は磁束を示している。
図5に示すように、コア2のギャップ5近傍では、ギャップ5の外側に漏れ磁束(図の矢印)が生じる。その結果、巻線3に渦電流が発生する。巻線3の渦電流による損失が増えると、リアクトルの効率が低下すると共に、稼動時の巻線3の温度が高温となってしまう。
【0029】
そこで、本実施の形態では、冷媒の流路9が内部に設けられたプレート状の冷却部材4により、温度上昇の大きいギャップ5近傍の巻線3を直接冷却する。これにより、コア2と巻線3とを同時に効率よく冷却することができ、ひいてはリアクトル1を効率よく冷却することができる。
【0030】
また、プレート状の冷却部材4は、非磁性及び熱伝導性を有するので、ギャップの漏れ磁束に対するシールド効果が得られ、巻線の温度上昇を抑えることができる。
【0031】
更に、冷媒の流路及び流量を選択することによって、発熱を小さくし、放熱を大きくする最適な放熱設計が可能となる。これにより、リアクトルの小型化が実現できる。また、冷却ファン(強制空冷)や通気口が必要で無い構成であるので、低騒音且つ省スペースを実現できる。
【0032】
尚、各々の方向の冷却部材(水冷ヒートシンク)4は導体であるため、これらを一体化した場合には、渦電流による損失の増加及びリアクトル1の特性の悪化が懸念される。そこで、本実施の形態では、冷却部材4(水冷ヒートシンク)はコア2の周囲の四方に配置させつつ、これらを一体化させてはいない。すなわち、4枚の冷却部材4は、全体として、コア2の周方向における両端が接触しないよう配置されており、且つ、それぞれ、隣り合う冷却部材4に対し、コア2の周方向における両端が接触しないように配置されている。これにより、冷却部材にコアの磁束よって循環電流が流れることを防止できる。
【0033】
冷却部材4(水冷ヒートシンク)を一体化させる場合には、各ヒートシンク間を絶縁した上で一体化させればよい。
【0034】
次に、本実施の形態の効果について従来例と比較して説明する。
【0035】
従来のリアクトルは、コアと巻線の間に放熱板が挿入され、放熱板の端部に連結した冷媒用配管と熱交換を行う。従来のリアクトルは、液体を冷媒に用いる点、及び冷媒を循環させる点で、本実施の形態と共通している。
【0036】
しかし、従来例では、冷媒用配管と発熱部であるコアとの間に距離が生じ、熱交換を行う放熱板端部aまでの経路の面積が小さくなってしまう。このため、熱抵抗が大きく、放熱板内部での温度勾配が大きくなってしまう。
【0037】
これに対し、本実施の形態では、
図2に示すように、内部に冷媒用の流路9が設けられた冷却部材4がコア2と巻線3の間に挿入され、冷却部材4が発熱部であるコアギャップ5の近傍に設けられている。これにより、リアクトルの変更を極力抑えたまま温度上昇の大きい近傍の巻線を直接冷却できるので、従来例と比べて冷却能力を向上させることができる。
【0038】
また、従来例では、放熱板が使用されるため、コイルと放熱板、放熱板と冷媒用配管とがそれぞれ密着していなければ冷却能力が大幅に低下してしまう。これに対し、従来例の放熱板と冷媒用配管とが、本実施の形態では冷却部材4として一体化されているので、コイルと冷却部材4を密着させることができ、十分な冷却効果を得ることができる。従来のリアクトルに対して構造の大幅な変更が無いので、新たな製作コストの上昇を抑制することができる。
【0039】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2を説明する。以下では、実施の形態1と共通する点についての説明は省略し、相違する点を中心に説明する。
図6及び
図7は、本発明の実施の形態2に係るリアクトル1の断面図である。本実施の形態2のリアクトル1は、巻線3と冷却部材4との間に配置された絶縁部材12を更に備える点において、実施の形態1のリアクトル1と相違する。絶縁部材12は、高電圧に対しても絶縁性を有する絶縁体であればよく、本実施の形態では、例えばアラミド繊維シートを使用する。
【0040】
リアクトル1の冷却部材4を構成するプレートは導体であるため、高電圧では巻線との間に短絡が発生する可能性がある。そのため、本実施の形態では、実施の形態1による効果に加えて、巻線3と冷却部材4との間の絶縁性が強化されるので、リアクトル1に高い電圧が印加された場合であっても、導体である冷却部材4と巻線3との間に発生する短絡の可能性を抑制することができる。
【0041】
尚、本実施の形態においては、絶縁部材12に非常に薄い部材を使用することにより熱伝導への影響を軽微なものにすることができる。
【0042】
[変形例]
また、本発明の実施の形態2のリアクトル1は、巻線3と冷却部材4との間に絶縁部材12を配置する構成としたが、
図8の変形例に示すように、更に絶縁部材12をコア2と冷却部材4の間に挿入してもよい。コア2は、通常、導体であるので、実施の形態2の構成では、コア2と冷却部材4により不所望に循環電流が流れるループ状の流路が形成される可能性がある。そこで、絶縁部材12を配置することで、そのような状態を回避することができる。
【0043】
尚、本変形例においても、実施の形態2と同様に、絶縁部材12に非常に薄い部材を使用することにより熱伝導への影響を軽微なものにすることができる。
【0044】
尚、上記各実施の形態では、磁性体である鉄心のコア2はギャップ5を4つ備えたがこれに限られるものではない。本実施の形態によれば、冷却部材により巻線を直接冷却できるので、ギャップ1つ辺りの温度上昇に余裕ができるので、更にギャップ5の数を少なくすることができる。よってギャップは例えば2つでもよい。これにより、コアギャップの加工費を抑えることができる。
【0045】
尚、上記各本実施の形態では、非磁性及び熱伝導性を有する部材として銅を使用したが、その他の材料として例えばアルミであってもよい。
【0046】
尚、上記各本実施の形態では、プレート7の溝(流路)9は、コアのギャップに沿って、冷却部材4のプレート平面内を横に蛇行するようにして形成されたが、このような構成に限定されるものではない。プレート7は、冷媒によってプレート7が実質的に均一に冷却されるように流路が形成されていればよい。プレート7は、例えば、縦方向に蛇行するように形成してもよいし、その他、複数の流路を備えてもよい。
【0047】
尚、上記各実施の形態では、冷媒が流れる流路は、溝が形成された1枚のプレートを2枚のプレートで挟み込んで形成したが、このような構成に限定されるものではない。例えば冷媒用の配管をプレート内部に配置してもよい。
【0048】
尚、上記各実施の形態では、冷却部材4をコア2(断面視が四角形)の四方に設置しているが、コア2のギャップ5を含む部分と巻線3との間であれば、例えばコア2の一方、二方、三方のいずれかに設置してもよい。
【0049】
尚、上記各実施の形態では、冷却部材の流路に流れる冷媒は、液体である冷却水(例えば不凍液)を使用したが、これに限られるものではなく、冷媒は、液体及び気体の混合物であってもよい。
【0050】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。