(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(a)基油
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油は、通常油圧作動油として用いられる基油であれば、特に制限はなく用いることができるが、JIS K 2283「動粘度試験方法」により測定される40℃における動粘度が28〜51mm
2/sである炭化水素系基油を用いることが好ましく、30〜48mm
2/sのものがより好ましい。なお、ここでいう基油の動粘度とは、2種以上の異なる基油を混合した場合には、混合後の動粘度を指している。以後、単独もしくは混合したことで好適に用いられる本発明の基油について、「基油部分」と称することとする。基油部分の40℃動粘度を28
mm
2/s以上とすることで、引火点250℃以上を確保しやすい。また、ポンプの容積効率の低下を抑制しやすく、10MPa以上の高圧用油圧機器に用いる場合でも油膜を保持しやすく、耐摩耗性への影響も抑制しやすい。また、基油部分の40℃動粘度を51mm
2/s以下とすることで圧力損失抑制による省電力効果向上が期待できる。なお、引火点が250℃以上の潤滑油は、一部を除いて消防法における「指定可燃物可燃性液体類」に分類されるため、貯蔵・管理の面で有利である。
【0017】
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油または基油部分の密度は、15℃における密度が0.8200〜0.8500g/cm
3の範囲にあるものが好ましく、0.8300〜0.8500g/cm
3の範囲にあるものがより好ましい。基油部分の密度を0.8200g/cm
3以上とすることで、引火点を250℃以上に確保しやすい。また、基油部分の密度を0.8500g/cm
3以下とすることで絶対粘度を低く抑えられ、圧力損失を抑制し、より高い省電力効果を期待できる。
【0018】
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油または基油部分は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」の「6.ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法」に準拠した蒸留試験(以下、GC蒸留と称する)における初留点が350℃以上であり、かつ5%留出温度が380℃以上であることが好ましく、初留点が370℃以上、5%留出温度が390℃以上であることがさらに好ましい。基油部分のGC蒸留における初留点を350℃以上かつ5%留出温度が380℃以上とすることで、油圧作動油組成物を調製したときに引火点が250℃以上となるので好ましい。
【0019】
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油または基油部分は、ASTM D3238「n−d−m環分析法」における%CPが72〜90、%CNが10〜28、%CAが2以下であることが好ましく、%CPが75〜88、%CNが12〜25、%CAが1以下であることがさらに好ましい。%CPを72以上、%CNを28以下、%CAが2以下とすることで、粘度指数向上剤の添加量を増やさなくても高粘度指数を確保しやすく、また密度が低くなる傾向にあるので好ましい。また%CPを90以下、%CNを10以上とすることで、本発明の(b)成分の脂肪酸や(c)成分の脂肪酸アミドをはじめとする各種添加剤の溶解性を確保しやすい傾向にあるので好ましい。
【0020】
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油または基油部分は、粘度指数が110以上であることが好ましく、120以上がより好ましい。粘度指数を110以上とすることで、油圧作動油組成物を調製したときの粘度指数が高くなり、その結果、低温粘度が低くなるため、低温始動時の消費電力を低減しやすくなる。また、組成物の粘度指数は粘度指数向上剤の配合量が多いほど、高くすることができるが、基油の粘度指数が高ければこの配合量を抑制することができ、フィルタビリティを向上させたり、貯蔵安定性を良くしたり、コストを低く抑えることができる。また、粘度指数向上剤の配合量が抑制されることで、本発明の(b)成分の脂肪酸や(c)成分の脂肪酸アミドと組み合わせた場合に貯蔵安定性への影響を抑制しやすい。
【0021】
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油または基油部分は、JIS K 2256「アニリン点試験方法」において110℃〜130℃であることが好ましく、120℃〜130℃であることがさらに好ましい。アニリン点を110℃以上とすることで、高粘度指数で低密度としやすく圧力損失の抑制による省電力効果を期待できるため好ましい。またアニリン点を130℃以下とすることで、添加剤の溶解性を確保しやすい傾向にあるため好ましい。また、シール材料適合性を確保する観点からも、アニリン点を適切な範囲にする必要があり、この観点からも110℃〜130℃であることが好ましい。
【0022】
本発明の油圧作動油組成物の基油部分に含有される基油は、単独もしくは混合して用いた場合に、前記の性状を有していれば、特に限定されるものではない。前記の性状を有する基油部分を構成する基油としては、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油、炭化水素系合成油などの、パラフィンもしくはイソパラフィンを主成分とする基油が好適に用いられる。中でも、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油が好ましく用いられ、水素化分解鉱油が特に好ましい。水素化精製鉱油、水素化分解鉱油の製造方法は、特に限定されないが、好ましい製造方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、原油の常圧蒸留で得られた残さ油を減圧蒸留装置で処理する。そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行い、その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得る。この残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分を水素化脱ロウ処理もしくはワックス異性化処理、安定化処理を行う。その際、ワックス異性化により高粘度指数化させたものがより好ましく用いられる。
【0023】
本発明の油圧作動油組成物の基油部分に含有される基油として炭化水素系合成油を用いる場合には、ポリαオレフィンが好適に用いられる。ポリαオレフィンの好適な製造例としては、エチレンの低重合またはワックスの熱分解によって炭素数6〜18のα−オレフィンを合成し、このα−オレフィン2〜9単位を重合し、水添反応を行うことによって合成される。また、基油として、溶剤脱ロウによるスラックワックスやフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得た基油や、アルキルナフタレンやアルキルベンゼンなどの芳香族系炭化水素油なども好適に用いることができる。これら炭化水素系合成油や、ワックス原料の水素化異性化基油や、芳香族系炭化水素油を用いる場合には、%CP及び%CNを適切な範囲にするために溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油などを混合して用いることがより好ましい。
【0024】
本発明の油圧作動油組成物の基油部分は上記の炭化水素系基油が用いられるが、本発明の効果に影響しない範囲であれば、エステル油やアルキル化フェニルエーテル油等の炭化水素以外の合成基油を用いることもできる。ただし、炭化水素系基油以外の合成基油は密度が高いので、これらの基油を用いる場合には基油部分のうち30%以下の割合で混合するのが好ましく、20%以下の割合がより好ましく、10%以下の割合がさらに好ましく、5%以下の割合が最も好ましい。
【0025】
本発明の油圧作動油組成物において、基油部分の含有量は、油圧作動油組成物全量に対して、好ましくは85〜99.5質量%であり、より好ましくは87〜99質量%であり、さらに好ましくは90〜98質量%である。
【0026】
(b)脂肪酸
本発明の油圧作動油に用いる脂肪酸は、摩擦調整剤の1種として配合するものである。また、同じく摩擦調整剤の1種として配合する(c)成分の脂肪酸アミドの基油への溶解性を高める作用もある。脂肪酸アミドは摩擦低減効果が高いものの基油への溶解性が低いため、添加量を少量にせざるを得ず、その結果、単独では十分な摩擦低減効果が得づらい面がある。また、添加量を少量にしたとしても、低温で析出しやすいため貯蔵安定性への影響も懸念される。本発明における脂肪酸の配合は、このような性質を有する脂肪酸アミドの溶解性を高める効果があり、その結果、脂肪酸アミドの有する摩擦低減効果をより高めることができ、同時に貯蔵安定性も向上させることもできる。
【0027】
本発明の油圧作動油に用いる脂肪酸としては特に制限はないが、炭素数が6〜28のものが好ましく、12〜24のものが基油への溶解性が良好であるためより好ましい。また、脂肪酸のカルボキシル基は2価(ジカルボン酸)または1価(モノカルボン酸)のものが好ましく、1価のものがより好ましい。3価以上のものは抗乳化性が劣る可能性があるので好ましくない。また、脂肪酸の脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でも良いが、直鎖がより好ましい。また飽和型でも不飽和型でも良いが、不飽和型がより好ましく、不飽和型の場合、不飽和基が炭素−炭素二重結合であるものが好ましい。不飽和型の場合、炭素−炭素二重結合の数は、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましく、1個が特に好ましい。
【0028】
上記脂肪酸の例としては、飽和型の場合は、(イソ)カプロン酸、(イソ)カプリル酸、(イソ)カプリン酸、(イソ)ウンデカン酸、(イソ)ラウリン酸、(イソ)トリデシル酸、(イソ)ミリスチン酸、(イソ)ペンタデシル酸、(イソ)パルミチン酸、(イソ)マルガリン酸、(イソ)ステアリン酸、(イソ)ノナデシル酸、(イソ)アラキジン酸、(イソ)ベヘン酸、(イソ)リグノセリン酸、(イソ)セロチン酸、(イソ)モンタン酸などが挙げられる。また、不飽和型の場合は、(イソ)β―プロピルアクリル酸、(イソ)カプロレイン酸、(イソ)ウンデシレン酸、(イソ)ラウロレイン酸、(イソ)リンデル酸、(イソ)ツズ酸、(イソ)ミリストレイン酸、(イソ)パルミトレイン酸、(イソ)ゾーマリン酸、(イソ)ペトロセリン酸、(イソ)ペトロセライジン酸、(イソ)オレイン酸、(イソ)エライジン酸、(イソ)バセニン酸、(イソ)コドイン酸、(イソ)ゴンドイン酸、(イソ)セトロレイン酸、(イソ)エルカ酸、(イソ)ブラシン酸、(イソ)セラコレイン酸、などが挙げられる。
【0029】
これら脂肪酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても良い。本発明に用いる脂肪酸は、油圧作動油組成物全量に対し
て0.02〜0.8質量%であり、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。含有量が
0.02質量%より小さいと、上記した脂肪酸による効果を十分に得ることができない。一方、
0.8質量%を超えると熱酸化安定性や抗乳化性が劣る場合があり、また配合量に見合った効果の向上が期待できない。摩擦係数を低くするためには、脂肪酸の含有量を、油圧作動油組成物全量に対して0.15〜0.4質量%にすることが特に好ましい。
【0030】
(c)脂肪酸アミド
本発明の油圧作動油に用いる脂肪酸アミドは、摩擦調整剤の1種として配合するものである。前記した通り、脂肪酸アミドは特に低温下での基油への溶解性が十分でないため、(b)成分の脂肪酸を併用することで、高い摩擦低減効果と良好な貯蔵安定性を得ることができる。
本発明の油圧作動油に用いる脂肪酸アミドとしては
、炭素数が6〜40のものが好ましく、12〜24のものが基油への溶解性が良いのでより好ましい。また、脂肪酸アミドのアミド基は2価(ビスアミド)または1価(モノアミド)のものが好ましく、モノアミドがより好ましい。一方、3価以上のものは抗乳化性が劣る可能性があるので好ましくない。
脂肪酸モノアミドとしては一般式(1)で表わされる化合物、脂肪酸ビスアミドとしては一般式(2)で表される化合物
である。
【0031】
【化1】
(一般式(1)及び一般式(2)中のR
1、R
3及びR
5は炭素数6〜24の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基を表し、R
2は水素原子または炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基を表し、R
4は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0032】
一般式(1)における、R
1は炭素数6〜24の脂肪族炭化水素基であり、好ましく炭素数10〜22であり、より好ましくは炭素数16〜20である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることがより好ましい。また、R1は飽和型でも不飽和型でも良いが、不飽和型であることがより好ましく、不飽和型の場合には不飽和基は炭素−炭素二重結合であるものが好ましい。さらに、R1が不飽和型の場合、炭素−炭素二重結合の数は、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましく、1個が特に好ましい。一方、R2は水素原子または炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、水素原子またはメチル基が最も好ましい。
【0033】
一般式(2)における、R
3及びR
5は脂肪族炭化水素基であり、炭素数は6〜24であり、好ましくは炭素数10〜22であり、より好ましくは炭素数16〜20である。R
3及びR
5は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることがより好ましい。また、R
3及びR
5は飽和型でも不飽和型でも良いが、不飽和型であることがより好ましく、不飽和型の場合には不飽和基は炭素−炭素二重結合であるものが好ましい。さらに、R
3及びR
5は不飽和型の場合、炭素−炭素二重結合の数は、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましく、1個が特に好ましい。一方、R
4は炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖の2価の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜4であり、より好ましくは炭素数2である。R
4は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることがより好ましい。また、R
4は飽和型でも不飽和型でも良いが、飽和型がより好ましい。
【0034】
上記脂肪酸アミドの具体例としては、エチレンビス−ステアリン酸アミド、エチレンビス−イソステアリン酸アミド、エチレンビス−オレイン酸アミド、エチレンビス−エルカ酸アミド等のビスアミド、(イソ)カプロン酸モノアミド、(イソ)カプリル酸モノアミド、(イソ)カプリン酸モノアミド、(イソ)ウンデカン酸モノアミド、(イソ)ラウリン酸モノアミド、(イソ)トリデシル酸モノアミド、(イソ)ミリスチン酸モノアミド、(イソ)ペンタデシル酸モノアミド、(イソ)パルミチン酸モノアミド、(イソ)マルガリン酸モノアミド、(イソ)ステアリン酸モノアミド、(イソ)ノナデシル酸モノアミド、(イソ)アラキジン酸モノアミド、(イソ)ベヘン酸モノアミド等の飽和脂肪酸モノアミド、(イソ)カプロレイン酸モノアミド、(イソ)ウンデシレン酸モノアミド、(イソ)ラウロレイン酸モノアミド、(イソ)リンデル酸モノアミド、(イソ)ツズ酸モノアミド、(イソ)ミリストレイン酸モノアミド、(イソ)パルミトレイン酸モノアミド、(イソ)ゾーマリン酸モノアミド、(イソ)ペトロセリン酸モノアミド、(イソ)ペトロセライジン酸モノアミド、(イソ)オレイン酸モノアミド、(イソ)エライジン酸モノアミド、(イソ)バセニン酸モノアミド、
【0035】
(イソ)コドイン酸モノアミド、(イソ)ゴンドイン酸モノアミド、(イソ)セトロレイン酸モノアミド、(イソ)エルカ酸モノアミド、等の不飽和脂肪酸モノアミド、N−メチル(イソ)ラウリン酸アミド、N−メチル(イソ)トリデシル酸アミド、N−メチル(イソ)ミリスチン酸アミド、N−メチル(イソ)ペンタデシル酸アミド、N−メチル(イソ)パルミチン酸アミド、N−メチル(イソ)マルガリン酸アミド、N−メチル(イソ)ステアリン酸アミド、N−メチル(イソ)ノナデシル酸アミド、N−メチル(イソ)アラキジン酸アミド、N−メチル(イソ)ベヘン酸アミド、N−メチル(イソ)ラウロレイン酸アミド、N−メチル(イソ)リンデル酸アミド、N−メチル(イソ)ツズ酸アミド、N−メチル(イソ)ミリストレイン酸アミド、N−メチル(イソ)パルミトレイン酸アミド、N−メチル(イソ)ゾーマリン酸アミド、N−メチル(イソ)ペトロセリン酸アミド、N−メチル(イソ)ペトロセライジン酸アミド、N−メチル(イソ)オレイン酸アミド、N−メチル(イソ)エライジン酸アミド、N−メチル(イソ)バセニン酸アミド、N−メチル(イソ)コドイン酸アミド、N−メチル(イソ)ゴンドイン酸アミド、N−メチル(イソ)セトロレイン酸アミド、N−メチル(イソ)エルカ酸アミド等のN−メチル脂肪酸アミド、(イソ)ステアリン酸(イソ)カプリルアミド、(イソ)ステアリン酸(イソ)ステアリルアミド、(イソ)ステアリン酸(イソ)オレイルアミド、(イソ)オレイン酸(イソ)カプリルアミド、(イソ)オレイン酸(イソ)ステアリルアミド、(イソ)オレイン酸(イソ)オレイルアミド等のN−アルキル脂肪酸アミド、等が挙げられる。
【0036】
これら脂肪酸アミドは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても良い。本発明に用いる脂肪酸アミドは、油圧作動油組成物全量に対して0.01質量%〜1.0質量%含有することが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.8質量%であり、特に好ましくは0.03〜0.5質量%である。含有量が0.01質量%より小さいと十分な摩擦低減効果を得ることができない。一方、1.0質量%を超えると熱酸化安定性や貯蔵安定性が劣る場合があり、また含有量に見合った効果の向上も期待できない可能性もある。摩擦係数を低くするためには、脂肪酸アミドの含有量を、油圧作動油組成物全量に対して0.06〜0.3質量%にすることが特に好ましい。
また、脂肪酸アミドの脂肪酸に対する含有比率は、10:90〜60:40、好ましくは15:85〜50:50である。この比率とすることで、より高い効果を得ることができる。
【0037】
(d)ポリ(メタ)アクリレート
本発明の油圧作動油組成物においては、上記(b)脂肪酸と(c)脂肪酸アミドに加え、各種油圧機器全体の省電力効果をより一層高めるために、さらにポリ(メタ)アクリレートと後述するオレフィンコポリマーと共に配合することが好ましい。これらは、低摩擦化により省電力効果を高める上記(b)脂肪酸と(c)脂肪酸アミドとは異なり、低せん断粘度化することにより省電力効果を高めるものである。
【0038】
本発明の油圧作動油に用いることのできるポリ(メタ)クリレート(以下、PMAということもある)としては、具体的には式(1)で表される化合物の中から選ばれる少なくとも1種以上のモノマーを重合して得られる、非分散型PMAや、式(1)で表される化合物の中から選ばれる1種以上のモノマーと、アクリル基以外の極性基をもつモノマーとを共重合して得られる、分散型PMAが挙げられる。これらのPMAは、本発明の油圧作動油組成物に用いる場合には、予め基油(希釈油ともいう)に溶解させた粘度指数向上剤として、添加することができる。非分散型PMAを主成分とした粘度指数向上剤を非分散型PMA系粘度指数向上剤と呼び、分散型PMAを主成分とした粘度指数向上剤を分散型PMA系粘度指数向上剤と呼び、そのどちらも用いることができるが、非分散型PMA系粘度指数向上剤が好ましく用いられる。
【0040】
(式(3)中のR6は水素原子またはメチル基を表し、同一であっても、異なっていてもよい。式(3)中のR7は炭素数1〜18の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。)極性基をもつモノマーの具体例としては、アルキル−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン及びビニルイミダゾール等の窒素原子含有化合物、ポリアルキレングリコールエステル、マレイン酸エステル及びフマル酸エステル等のエステル類が挙げられる。これらは1種でも、2種以上を混合しても用いることができる。
【0041】
ポリ(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、70,000〜200,000が好ましく、より好ましくは100,000〜180,000であり、特に好ましくは120,000〜160,000である。重量平均分子量が70,000未満では、高せん断粘度を低くすることができ、ポリ(メタ)アクリレートに基づく高い省電力効果が得やすくなる。一方、重量平均分子量が200,000を超えると、永久せん断安定性が低下するため、200,000以下とすることが好ましい。なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0042】
ポリ(メタ)アクリレートの数平均分子量は、20,000〜80,000が好ましく、より好ましくは30,000〜65,000である。数平均分子量を20,000以上とすることで、高せん断粘度を低くすることができ、ポリ(メタ)アクリレートに基づく高い省電力効果が得やすくなるので好ましい。また、数平均分子量を80,000以下とすることで、より良好な永久せん断安定性を得やすくなるので好ましい。なお、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0043】
上記のポリ(メタ)アクリレートは、Mw/Mnの比が好ましくは1.5〜3.5であり、より好ましくは1.9〜3.0である。
上記のポリ(メタ)アクリレートは、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合には、それぞれの重量平均分子量及び数平均分子量が上記の範囲に入っていることが好ましい。
上記のポリ(メタ)アクリレートは、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合には、それぞれの重量平均分子量及び数平均分子量が上記の範囲に入っていることが好ましい。
【0044】
ポリ(メタ)アクリレートの油圧作動油組成物全量に対する配合量は、好ましくは0.06〜3質量%であり、より好ましくは0.1〜2質量%であり、さらに好ましくは0.15〜1.5質量%である。配合量を0.06質量%以上とすることで、油圧作動油組成物の粘度指数を十分に高めることができ、高せん断条件下での一時せん断粘度を十分低くすることができるため、ポリ(メタ)アクリレートに基づく省電力効果が得やすくなる。また、ポリ(メタ)アクリレートはオレフィンコポリマーと比較し、添加剤との相溶性が比較的高いため、この点からも配合量は0.06質量%以上とすることが好ましい。一方、配合量が3質量%を超えると、永久せん断安定性が悪化する他、基油への溶解性も確保しづらくなるため、5質量%以下とすることが好ましい。
【0045】
(e)オレフィンコポリマー
本発明の油圧作動油組成物においては、上記(b)脂肪酸と(c)脂肪酸アミドに加え、各種油圧機器全体の省電力効果をより一層高めるために、さらに前述のポリ(メタ)アクリレートと共にオレフィンコポリマーを配合することが好ましい。これらは、前述の通り、低せん断粘度化することにより省電力効果を高めるものである。
本発明の油圧作動油に用いることのできる(e)オレフィンコポリマー(以下、OCPということもある)は、粘度指数向上剤として用いられるものであり、異なるオレフィンの共重合体であればどのようなものであってもよく、例えばエチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0046】
エチレンと共重合体を形成するエチレン以外のモノマーとしては、例えば、オレフィン炭化水素、ジエン炭化水素、ビニル芳香族等が挙げられる。これらの炭素数は、好ましくは3〜30であり、より好ましくは3〜25であり、さらに好ましくは3〜15であり、特に好ましくは3〜8であり、最も好ましくは3〜5である。モノマーの炭素数が30以下とすることで、分子量を比較的低く抑えることができ、耐せん断安定性を向上させることができるため好ましい。エチレン以外のモノマーとして用いられるオレフィン炭化水素としては、直鎖であっても環状であっても良く、分岐があっても良い。具体例としては、プロピレン、n‐ブテン、i‐ブチレン、シクロブテン、n‐ペンテン、i‐ペンテン、シクロペンテン、n‐へキセン、i‐へキセン、n‐ヘプテン、i‐ヘプテン等が挙げられる。エチレン以外のモノマーとしては用いられるジエン系炭化水素は、鎖状であっても、環状であってもよく、分岐鎖があってもよい。具体例としては、ブタジエン、シクロブタジエン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン等が挙げられる。オレフィンコポリマーにおけるエチレン以外のモノマーとしては用いられるビニル芳香族としては、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
このうち、エチレン/プロピレン共重合体を用いることが特に好ましい。
【0047】
オレフィンコポリマーとしてエチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体を用いる場合、エチレンとエチレン以外のモノマーのモル比は特に制限されないが、好ましくは80:20〜20:80であり、より好ましくは70:30〜30:70であり、さらに好ましくは65:35〜35:65である。エチレンの割合が80を超えると、基油へ溶解しにくくなる傾向にある。
【0048】
また、かかる共重合体は、規則的交互重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト重合体のいずれであっても良く、分散型、非分散型のいずれであってもよいが、熱酸化安定性の観点から、非分散型の共重合体であることが好ましい。
なお、これらオレフィンコポリマーも、PMAと同様に、本発明の油圧作動油組成物に用いる際に、予め基油(希釈油ともいう)に溶解させた粘度指数向上剤として添加することができるが、本発明で用いるオレフィンコポリマーは分子量が比較的小さいため、基油に溶解させない状態で粘度指数向上剤として取り扱われているものが多い。
【0049】
オレフィンコポリマーの重量平均分子量は好ましくは5,000〜100,000であり、より好ましくは8,000〜80,000であり、さらに好ましくは10,000〜50,000、特に好ましくは10,000〜20,000である。重量平均分子量が5,000以上とすることで、高せん断条件下での一時せん断粘度を十分に低くすることができ、オレフィンコポリマーに基づく省電力効果が得やすくなる。重量平均分子量が100,000を超えると永久せん断安定性が低下するため、100,000以下とすることが好ましい。ここで、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0050】
オレフィンコポリマーの数平均分子量は好ましくは4,000〜50,000であり、より好ましくは6,000〜30,000である。数平均分子量を4,000以上とすることで、高せん断条件下での一時せん断粘度を低くすることができ、オレフィンコポリマーに基づく省電力効果を得やすくできる傾向にあるため好ましい。また数平均分子量を50,000以下とすることで、より良好な永久せん断安定性を得やすい傾向にあるため好ましい。ここで、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
上記のオレフィンコポリマーは、Mw/Mnの比が好ましくは1.5〜3.0であり、より好ましくは1.6〜2.5である。
上記のオレフィンコポリマーは、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合には、それぞれの重量平均分子量及び数平均分子量が上記の範囲に入っていることが好ましい。
【0051】
オレフィンコポリマーの油圧作動油組成物全量に対する配合量は、好ましくは0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.2〜3質量%であり、さらに好ましくは0.3〜2質量%である。配合量を0.1質量%以上とすることで、油圧作動油組成物の粘度指数を高め、高せん断条件下での一時せん断粘度を低くすることができ、オレフィンコポリマーに基づく省電力効果を得やすくなるため好ましい。一方、オレフィンコポリマーが多すぎると永久せん断安定性が低下するため、配合量は5質量%以下とすることが好ましい。また、オレフィンコポリマーが多すぎると他の添加剤、特に脂肪酸アミドとの相溶性も低下し、特に基油がパラフィニックな基油の場合には一層添加剤の相溶性が低下する場合がある。その結果、十分に添加剤による効果を得づらくなる場合がある。この点からもオレフィンコポリマーの配合量は5質量%以下とすることが好ましい。
【0052】
本発明の油圧作動油組成物において、ポリ(メタ)アクリレートやオレフィンコポリマーを配合して、高せん断粘度を低くすることにより省電力効果を高めるためには、上記した特定の重量平均分子量のポリ(メタ)アクリレートと、特定の重量平均分子量のオレフィンコポリマーの双方を所定の含有量で含有することが好ましい。すなわち、低分子量のポリ(メタ)アクリレートやオレフィンコポリマーは、永久せん断安定性に優れる一方、一時せん断に対しては粘度低下しにくいこと、また油圧作動油組成物の粘度指数を高める効果が小さいことから、省電力性能に対する寄与が低い傾向にある。逆に、高分子量のポリ(メタ)アクリレートやオレフィンコポリマーは、粘度指数を高めることができ、一時せん断に対して粘度低下するものの、永久せん断安定性は劣る傾向にある。
【0053】
一方、同じ分子量のポリ(メタ)アクリレートとオレフィンコポリマーを比較すると、ポリ(メタ)アクリレートの方が粘度指数を高めやすく、添加剤との相溶性に優れ耐摩耗性等の添加剤の効果を十分に引き出しやすい利点があるが、永久せん断安定性に劣る傾向にある。逆に、オレフィンコポリマーの方は一時せん断粘度低下率と永久せん断安定性のバランスに優れる利点があるが、添加剤との相溶性に劣る傾向にある。従って、ポリ(メタ)アクリレートかオレフィンコポリマーのどちらか単独で高粘度指数、一時せん断粘度低下、永久せん断安定性、添加剤との相溶性の全てを満足するのは困難であるため、特定の重量平均分子量のポリ(メタ)アクリレートと、特定の重量平均分子量のオレフィンコポリマーの双方を含有することで、それらの要求性能の全てを満足することができる。
上記性能を達成するために、(d)成分と(e)成分の含有比率は、(d)成分100質量部に対して(e)成分が10〜1000質量部の範囲が好ましく、20〜500質量部の範囲がより好ましい。
【0054】
(f)抗乳化剤
本発明の油圧作動油組成物においては、上記(b)脂肪酸、(c)脂肪酸アミド、(d)ポリ(メタ)アクリレート、及び(e)オレフィンコポリマーに加え、各種油圧機器全体の省電力効果をより一層高めるため、さらに(f)抗乳化剤を含有させることが好ましい。これは、水分の分離性を向上することにより、水分混入時の油膜切れによる耐摩耗性の低下や省電力効果の低下を防ぐものである。
【0055】
(f)抗乳化剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、ポリアルキレングリコールが好ましい。主成分であるポリアルキレングリコールとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール又はブチレングリコールをモノマーとし、これらを単独で重合させたホモポリマーや、これらを組み合わせて重合させたコポリマーが挙げられる。ホモポリマーとコポリマーは、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。そして、ノニオン系界面活性剤としては、コポリマーが好ましく、エチレングリコールとプロピレングリコールを組み合わせて重合させたエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドコポリマーが特に好ましい。界面活性剤の分子量は、100〜20,000が好ましく、1,000〜15,000が特に好ましい。主成分であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドコポリマーの場合、エチレンオキサイド:プロピレンオキサイドの比率は、モル比で、10:1〜1:20が好ましく、5:1〜1:10が特に好ましい。
【0056】
本発明の油圧作動油組成物中の(f)抗乳化剤の含有量は、油圧作動油組成物全量に対し、好ましくは5〜95質量ppm、特に好ましくは10〜80質量ppmである。本発明の油圧作動油組成物中の(f)抗乳化剤の含有量を5質量ppm以上とすることで良好な効果を得やすい。ただし、95質量ppmを超えて含有させても添加量に見合った効果の向上は期待できず、また、(b)脂肪酸と(c)脂肪酸アミドとの配合量のバランスが適切でないと逆に乳化を促進してしまう場合があるため、95質量ppm以下の含有量とすることが好ましい。かかる観点から、(f)抗乳化剤を含有させる場合には、(b)脂肪酸と(c)脂肪酸アミドの合計の含有量に対する、(f)抗乳化剤との含有量の割合は、{(b)+(c)}:(f)=100:1〜10:1(質量比)が好ましく、{(b)+(c)}:(f)=80:1〜20:1(質量比)が特に好ましい。
【0057】
(g)他の添加剤
本発明の油圧作動油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の公知の添加剤を含有することができる。例えば、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、油性剤、清浄分散剤、無灰系分散剤、さび止め剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤等が挙げられる。
【0058】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、等の単環フェノール系酸化防止剤、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−エチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、6,6’−メチレンビス(2−ジ−t−ブチル―4―メチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤、4,4’チオビス−(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)、4,4’チオビス−(2−メチル−6−t−ブチル−フェノール)等の硫黄含有フェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、ホスホン酸エステル等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0059】
極圧剤としては、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化油脂、ジチオリン酸誘導体等の硫黄系極圧剤、ZnDTP、ZnDTC等の有機金属系極圧剤が挙げられる。特に好ましいものとして、硫化オレフィン、ジチオリン酸誘導体が挙げられ、具体的には、β―ジチオホスホリル化プロピオン酸などが挙げられる。
【0060】
摩耗防止剤としては、リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類、及びこれらの誘導体が挙げられる。リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類として具体的には、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジオクチルホスフェート、モノオレイルホスフェート、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリキシレニルホスファイト等が挙げられる。またこれらの誘導体としてはアミン塩があり、ステアリルアミン塩、オレイルアミン塩、ココナッツアミン塩などが挙げられる。
油性剤としては、オレイルアルコール等の高級アルコール、オレイルアミン等のアミン、ブチルステアレート等のエステル、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールハーフエステル等が挙げられる。
【0061】
清浄分散剤としては、アルカリ土類金属系清浄分散剤が挙げられ、具体的には、Caサリシレート、Caフェネート、Caスルホネート等が挙げられる。
無灰系分散剤としてはコハク酸イミド化合物が挙げられ、具体的にはポリブテニルビスコハク酸イミド及びそのホウ素変性化合物が挙げられる。
さび止め剤としては、スルホネート金属塩やナフテン酸金属塩などの金属石けん、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体、ラノリン化合物、ソルビタンモノオレエートやペンタエリスリトールモノオレエートなどの界面活性剤、ワックスや酸化ワックス、ペトロラタム、N−オレイルザルコシン、ロジンアミン、ドデシルアミンやオクタデシルアミン等のアルキル化アミン系化合物、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、フォスファイト等のリン系化合物、等が用いられ、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体、界面活性剤、アルキル化アミン系化合物が好ましく用いられ、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体がさらに好ましい。
【0062】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、インダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、インドール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体、等が用いられ、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体が好ましく用いられる。
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート等が挙げられる。流動点降下剤のポリ(メタ)アクリレートは、分子量が低いものであり、重量平均分子量が70,000未満であるものが好ましく、65,000以下であることがより好ましく、60,000以下であることがさらに好ましい。また、流動点降下剤のポリ(メタ)アクリレートの数平均分子量は、30,000未満であることが好ましく、25,000以下であることがより好ましい。
消泡剤としては、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、フッ素変性シリコーンなどのシリコーン系消泡剤や、ポリアクリレート系消泡剤等が挙げられる。
【0063】
(h)組成物の性状
本発明の油圧作動油組成物の40℃動粘度は、ISO VG10、15、22、32、46、68、100のいずれかに適合する範囲で、JIS K2283動粘度試験方法において、9.00〜110mm
2/sであることが好ましい。
本発明の油圧作動油組成物の40℃動粘度は、18〜100mm
2/sであることがより好ましく、25〜75mm
2/sであることがさらに好ましく、40〜51mm
2/sであることが特に好ましい。
【0064】
本発明の油圧作動油組成物の粘度指数は、特に制限はないが、JIS K2283動粘度試験方法において、好ましくは120以上であり、さらに好ましくは130以上であり、さらに好ましくは140以上である。粘度指数を120以上とすることで、低温粘度が低くなるため、低温始動時の電力消費量を抑制しやすく、より高い省電力効果を得やすい傾向にある。
【0065】
本発明の油圧作動油組成物の引火点は、200℃以上が好ましく、250℃以上がさらに好ましい。引火点が250℃以上であると、消防法上の危険物分類において「可燃性液体」に指定されるため、貯蔵及び取扱いの規制が大幅に緩和されるため好ましい。油圧作動油組成物の引火点は、基油(複数の基油を混合して用いる場合には混合後の基油)のGC蒸留における初留点を350℃以上かつ5%留出温度が380℃以上とすることにより、250℃以上を確保しやすい。
【0066】
(i)用途
本発明の油圧作動油組成物は、種々の工業用油圧作動油に適用できるが、特に油圧システムに用いる油圧作動油として好ましく用いることができる。さらには、油圧システムのうち、ベーンポンプなど金属同士の摺動部を有する場合や、高圧になることで耐摩耗性が必要な場合で、これらの摺動部の摩擦損失を低減したい場合に特に有効である。
また、さらに(d)成分のポリ(メタ)アクリレートと(e)成分のオレフィンコポリマーを併用した油圧作動油組成物は、油圧配管、各種フィルター・各種制御弁等が多く圧力損失が発生する場合や、油圧ポンプ、油圧モーター、制御弁等、作動油が高いせん断状態にさらされる箇所での省電力化を図る際に特に有効であるため、これらの部分に加え摺動部を併せ持つ油圧システムを総合的に省電力化するのに有効である。
【実施例】
【0067】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。各実施例、比較例において油圧作動油組成物の調製に用いた基油、添加剤成分は次のとおりである。
【0068】
<基油>
・水素化分解鉱油A:インドネシア産パラフィン基原油を原料とし、常圧蒸留により得られた残さ油を減圧蒸留したのち、潤滑油留分として得られた留分を水素化分解し、再度、減圧蒸留したのち、ワックス分異性化及び水素化仕上げして得られた鉱油で、表1に表す性状を有する。
・水素化分解鉱油B:中東産パラフィン基原油を原料とし、常圧蒸留により得られた残さ油を減圧蒸留したのち、潤滑油留分として得られた留分を水素化分解し、再度、減圧蒸留したのち、ワックス分異性化及び水素化仕上げして得られた鉱油で、表1に表す性状を有する。
【0069】
<摩擦調整剤>
・摩擦調整剤A:オレイン酸
・摩擦調整剤B:イソステアリン酸
・摩擦調整剤C:オレイン酸アミド(式(1)におけるR2は水素原子である。)
・摩擦調整剤D:グリセリンモノオレエート
・摩擦調整剤E:ジトリデシルアジペート(DTDA)
・摩擦調整剤F:イソステアリルアルコール
【0070】
<性能添加剤>
・非Zn系作動油PKG(パッケージ):アミン系酸化防止剤、リン−硫黄含有極圧剤、脂肪酸系さび止め剤、チアジアゾール誘導体を含む。
・分散剤:ポリブテニル−ビスコハク酸イミド(2つのポリブテニル基の重量平均分子量はいずれも1300、窒素含有量1.8質量%)
・抗乳化剤:エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドコポリマー(エチレンオキサイド:プロピレンオキサイド=1:4(モル比)のもの)
・リン系摩耗防止剤:トリクレジルホスフェート
・消泡剤:ジメチルシリコーン
・さび止め剤:アルケニルコハク酸ハーフエステル
・フェノール系酸化防止剤:ジ−t−ブチル−p−クレゾール
・流動点降下剤:ポリ(メタ)アクリレート(Mw:51,000、Mn:28,000、Mw/Mn=1.82)
【0071】
<粘度指数向上剤>
・OCP:非分散型オレフィンコポリマー(エチレン/プロピレン共重合体)、重量平均分子量16,000、数平均分子量7000、エチレン/プロピレンのモル比:10/9、有効成分量100質量%のもの。
・PMA:非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、重量平均分子量140,000、数平均分子量50,000、有効成分量60質量%のもの。
【0072】
表1〜表5に示す基油、油圧作動油組成物の物理化学性状試験は、以下に示す試験法により行った。
・密度
:JIS K 2249「密度試験方法」
・動粘度
:JIS K 2283「動粘度試験方法」
・粘度指数
:JIS K 2283「粘度指数算出方法」
・流動点
:JIS K 2269「流動点試験方法」
・引火点
:JIS K 2265−4「引火点試験方法(クリーブランド開放法)」
・残留炭素
:JIS K 2270「残留炭素分試験方法」
・酸価
:JIS K 250.1「中和価試験方法」
・ASTM色
:JIS K 2580「ASTM色試験方法」
・硫黄分(紫外蛍光法)
:JIS K 2541−6「硫黄分試験方法(紫外蛍光法)」
・窒素分
:JIS K 260.9「窒素分試験方法」
【0073】
・n-d-m
:ASTM 3238−85「Standard Test Method for Calculation of Carbon Distribution
and Structural Group Analysis of Petroleum Oils By the n−d−m Method」
・アニリン点 :JIS K 2256「アニリン点及び混合アニリン点試験方法」
・ヨウ素価 :JIS K 00.70「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」
・GC蒸留留出温度 :JIS K 2254「蒸留試験方法(ガスクロ法)」
・絶対粘度については、以下の式により算出した。なお、式中の密度と動粘度は上記測定法に従って測定した。
絶対粘度(40℃)=密度(40℃)×動粘度(40℃)
【0074】
【表1】
【0075】
表2〜表5に示す油圧作動油組成物の性能評価試験は、以下に示す試験法により行った。
・調合時溶解性:全ての基材をビーカーに所定量張込み、温度60℃で1時間調合した直後の組成物の溶解状態を観察。観察結果は以下の記号で示す。
○:濁りなし、クリア―に溶解
△:わずかに濁りが認められる
×:溶解しないか、濁りの状態
【0076】
・貯蔵安定性:100mlのサンプル管に試料を約90ml注入し、室温及び0℃×1週間の条件で保管し、濁り・沈殿・変色の有無を観察した。観察結果を以下の記号で評価した。
○:濁り・沈殿・変色なし、クリア―に溶解
△:わずかに濁り、沈殿、変色が認められる
×:明らかに濁り、沈殿、変色が認められる
【0077】
・SRV摩擦試験:オプチモール社製「SRVIII」試験機にて、以下の条件にて摩擦試験を行い、30分後の摩擦係数を評価した。
(試験条件)
温度 :40℃
荷重 :100N
周波数 :50Hz
振幅 :1mm
SRV摩擦試験で得られる摩擦係数は低い程優れており、0.155以下が好ましく、0.150以下がより好ましく、0.145以下がさらに好ましく、0.142以下が特に好ましい。
【0078】
【表2】
表2中の粘度指数向上剤の含有量(質量%)を示す数値において、括弧内は希釈油を除く有効成分量である。
【0079】
【表3】
表3中の粘度指数向上剤の含有量(質量%)を示す数値において、括弧内は希釈油を除く有効成分量である。
【0080】
【表4】
表4中の粘度指数向上剤の含有量(質量%)を示す数値において、括弧内は希釈油を除く有効成分量である。
【0081】
【表5】
表5中の粘度指数向上剤の含有量(質量%)を示す数値において、括弧内は希釈油を除く有効成分量である。
【0082】
表2〜表5に示す油圧作動油組成物について、さらに下記性能試験を下記の試験条件により行った。結果を表6〜表8に示す。
・熱酸化安定性試験:内径2.5cmのガラス製容器に試料を40ml入れ、鋼及び銅の触媒を浸漬し、140℃の回転盤付き恒温槽内に放置し、240h後のスラッジ量(0.8μmミリポアフィルター使用)を測定した。
(触媒材質/サイズ)
鋼=SPCC−SB、銅=C1100P、サイズはともに1.0mm×20mm×50mm
・抗乳化性:JIS K 2520「水分離性試験方法 5.抗乳化性試験方法」に準拠し、抗乳化性を評価した。評価結果は次のように示す。
油層−水槽−乳化層(経過時間)=O−W−E(min)
【0083】
・高せん断粘度:USV(Ultra Shear Viscometer、PCS Instruments製)を用い、温度40℃、せん断速度10
6(S
−1)におけるせん断粘度を測定した。
・1次せん断粘度低下率:上記の装置・条件により高せん断粘度を測定し、以下の式より1次せん断粘度低下率を算出した。
1次せん断粘度低下率=(高せん断粘度(40℃)−絶対粘度(40℃))/(絶対粘度(40℃))×100
【0084】
・ビッカース104cポンプ試験:ASTM D 7043−10 「Standard Test Method for Indicating Wear Characteristics of Non−Petroleum and Petroleum Hydraulic Fluids in a Constant Volume Vane Pump」に準拠し、運転時間100h、250hにおけるカムリング、ベーンの合計摩耗量を評価した。
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
表2、表3及び表6に示すように、本発明の構成を満たす実施例1〜6は、調合時溶解性、室温及び0℃での貯蔵安定性に優れ、SRV試験においても0.155以下の低い摩擦係数を示している。また、熱酸化安定性試験におけるスラッジ量も1.0mg/40ml以下と良好であり、抗乳化性も30分以内の良好な結果となっている。なお、いずれもOCPとPMAによる効果である低い高せん断粘度を有していることもわかる。
さらに、表8に示すように、実施例1は、ビッカース104cポンプ試験における摩耗量も、建設機械用油圧作動油規格JCMAS HK(JCMAS P041:2004)の合格基準をクリアし、さらにドイツ工業規格DIN51524−2(耐摩耗性油圧作動油規格)HLP46の要求性能も大きく上回る結果となっており、油圧作動油として良好な性能を有していることがわかる。
【0089】
一方、表4、表5、表7に示すように、本発明の構成を満たさない比較例1〜8は、調合時溶解性、室温及び0℃での貯蔵安定性、SRV摩擦係数、熱酸化安定性、抗乳化性のいずれかで、実施例と比較して劣っていることがわかる。
すなわち、摩擦調整剤を含まない比較例1、2は、調合時溶解性、室温及び0℃での貯蔵安定性に優れており、熱酸化安定性、抗乳化性も良好であるが、SRV試験での摩擦係数が高い値となっている。なお、OCPとPMAも含まない比較例1は、高せん断粘度も高い。
【0090】
摩擦調整剤として脂肪酸のみを含み、その配合量が実施例の配合量よりも多く含む比較例3は、貯蔵安定性が劣り(室温で変色)、摩擦係数もやや高く、熱酸化安定性や抗乳化性も劣っており、脂肪酸アミドのみ含む比較例4は、摩擦係数は低いものの、0℃での貯蔵安定性と、抗乳化性が劣っている。また、摩擦調整剤として多価アルコールハーフエステルの1種であるグリセリンモノオレエートを含む比較例5は、摩擦係数は低いものの、0℃での貯蔵安定性が劣っている。
また、脂肪酸アミドと2塩基酸エステルであるDTDAを組み合わせた比較例6は、摩擦係数は低いが0℃の貯蔵安定性が劣り、脂肪酸アミドと脂肪族アルコールであるイソステアリルアルコールを組み合わせた比較例7は摩擦係数もやや高く、0℃での貯蔵安定性も劣っている。