(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
熱間鍛造や熱間圧延などの熱間加工前には、変形抵抗を小さくして熱間加工しやすくするために、鋼片を、例えば、1200℃以上の高温に加熱する。また、高周波を用いた加熱時には、鋼片の温度が、例えば、1200℃以上の高温になることがある。しかし、加熱温度が目標温度を超えて高温に過熱されると、バーニングが発生する。バーニングとは、JIS G0201(2000年)によると、結晶粒界の融合によって引き起こされる組織や性質の非可逆的な変化であり、後の熱処理や機械加工又は加工と熱処理の組合せの作業で、初めにもっていた諸性質を回復できない現象と定義されている。バーニングが発生すると、材質が脆くなる。
【0003】
バーニングの発生を防止する方法としては、粒界に発生する偏析を低減することや、固相線温度を高くすることが考えられる。粒界に偏析が発生すると、偏析した成分によって局所的に凝固温度が低下するため、加熱時にバーニングが発生しやすくなる。また、固相線温度が低くなると、凝固温度が低くなるため、加熱時に鋼材の一部が溶融し、結晶粒界の融合が発生してバーニングが発生する。しかし、バーニングの発生を防止するために、鋼材の成分組成を調整する技術は検討されていなかった。
【0004】
そこで、バーニングの発生を防止するために、実操業では、加熱温度を下げ、過熱しないことが一般的である。即ち、加熱温度が、鋼材の固相線温度(凝固温度)に近づくとバーニングが発生するため、安全を見越して、加熱温度が固相線温度−130℃を超えないように制御していた。ところが、加熱温度を下げると、変形抵抗が大きくなるため、熱間加工しにくくなる。
【0005】
バーニングの発生を防止する技術ではないが、鋼材中に含まれるMnS系介在物に注目した技術が、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示されている鋼材は、切りくず処理性と工具寿命の両方を改善できる機械構造用の鋼材である。この鋼材は、加工方向に平行な断面に存在する等価直径が4μm以上であるMnS系介在物が下記の(i)式および(ii)式を満足するものである。下記(i)式におけるLおよびWは、それぞれ、対象となるMnS系介在物の長径および短径を表し、アスペクト比は平均値としてのアスペクト比である。また、下記(ii)式におけるn、n1およびn2は、それぞれ、下記のMnS系介在物の個数を表す。
アスペクト比(L/W)<3 ・・・・・(i)
(n1+n2)/n≦0.2 ・・・・・(ii)
n:MnS系介在物の面積1mm
2当たりの個数
n1:MnS系介在物のうちで、Caを0.5質量%以上固溶しているものの面積1mm
2当たりの個数
n2:MnS系介在物のうちで、異種介在物を含むものの面積1mm
2当たりの個数
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、熱間加工前や高周波を用いて加熱したときに、バーニングが発生することを防止するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、硫化物系介在物(例えば、MnS)がバーニングの発生に影響を及ぼすと考えられることが明らかになった。具体的には、硫化物系介在物のなかでも、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が、加熱時に分解し、生成したSは、Feと結合して硫化物系介在物よりも融点が低いFeSを形成すること、形成したFeSは加熱時に部分溶融し、バーニングが発生する原因になると考えられるという知見が得られた。
【0015】
そこで、本発明では、鋼材の成分組成のうち、特に、Mn量とS量が下記式(1)の関係を満足するように調整したうえで、下記式(2)を満足するように鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の生成を抑制すればよいこと、また、硫化物系介在物中の硫黄(S)を安定化させて加熱時に分解しないようにするには、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有すればよいこと、を見出し、本発明を完成した。
[Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1)
[円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.30 ・・・(2)
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
[硫化物系介在物]
本発明の鋼材は、Mnを0.2〜2.0%、およびSを0.015〜0.12%の範囲で含有する。
【0018】
Mnは、Sと結合してMnSなどの硫化物系介在物を形成し、FeSの生成を抑制して加熱時におけるバーニングの発生を抑制する元素である。Mnが0.2%未満ではその効果が不充分である。従って、本発明では、Mn量は0.2%以上とする。Mn量は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは0.7%以上である。しかし、Mn量が過剰になり、2.0%を超えると、円相当径が4μmを超える粗大な硫化物系介在物の他、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成するため、加熱時にバーニングが発生する。従って、本発明では、Mn量は2.0%以下とする。Mn量は、1.8%以下が好ましく、より好ましくは1.6%以下である。
【0019】
Sは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、MnSなどの硫化物系介在物を形成すると、被削性の向上に有効に作用する元素である。S量が0.015%未満ではこうした効果は不充分である。従って、本発明では、S量は0.015%以上とする。S量は、0.017%以上が好ましく、より好ましくは0.019%以上である。しかし、過剰に含有すると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が生成しやすくなり、バーニングの発生原因となるFeSを形成する。従って、本発明では、S量は0.12%以下とする。S量は、0.115%以下が好ましく、より好ましくは0.110%以下である。
【0020】
本発明の鋼材は、MnとSを上記の範囲で含有したうえで、Mn量およびS量が上記式(1)の関係を満足する必要がある。
【0021】
[Mn]/[S]の値が13.0を下回ると、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になり、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する。その結果、加熱時に部分溶融が生じ、バーニングが発生する。従って、本発明では、[Mn]/[S]は13.0以上とする。[Mn]/[S]は、13.5以上とすることが好ましく、より好ましくは14.0以上である。[Mn]/[S]の値の上限は特に限定されず、後述するように、鋼材に含まれ得るMn量の上限は2.0%で、S量の下限は0.015%であるから、[Mn]/[S]の上限は、133.3である。[Mn]/[S]は、好ましくは100以下であり、より好ましくは80以下、更に好ましくは50以下である。
【0022】
本発明の鋼材は、鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、上記式(2)の関係を満足することも重要である。なお、以下では、上記式(2)の左辺の値を硫化物系介在物比ということがある。
【0023】
円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が過剰に生成すると、加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも融点が低いFeSを生成する。低融点のFeSが過剰に生成すると、部分溶融を起こし、バーニングが発生する。従って、本発明では、上記硫化物系介在物比は、0.30以下とする。上記硫化物系介在物比は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下である。上記硫化物系介在物比の下限は特に限定されないが、例えば、0.01以上であればよく、より好ましくは0.02以上である。
【0024】
上記硫化物系介在物とは、介在物の成分組成を分析したときに、鉄(Fe)を除いた合金元素の合計量を100質量%としたときに、Sを25質量%以上含有する介在物を意味する。上記鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数の測定方法については、実施例の項で説明する。
【0025】
次に、本発明の鋼材に含まれるMnおよびS以外の成分について説明する。
【0026】
[C:0.1〜0.8%]
Cは、鋼材の強度(最終製品の強度)を確保するために必要な元素であり、0.1%未満では鋼材の強度が低過ぎて機械構造用に用いることができない。従って本発明では、C量は0.1%以上とする。C量は、0.12%以上が好ましく、より好ましくは0.15%以上である。しかし、Cを過剰に含有すると強度が高くなり過ぎて、加工性が低下する。従って本発明では、C量は0.8%以下とする。C量は、0.75%以下が好ましく、より好ましくは0.70%以下である。
【0027】
[Si:0.01〜2.0%]
Siは、固溶体硬化によって最終製品の強度を増加させるために必要な元素であり、本発明では、0.01%以上とする。Si量は、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上である。しかし、Si量が過剰になり、2.0%を超えると、Si含有酸化物が過剰に生成すると共に、固相線温度が低くなるため、加熱時にバーニングが発生しやすくなる。従って、本発明では、Si量は2.0%以下とする。Si量は、1.5%以下が好ましく、より好ましくは1.3%以下である。
【0028】
[P:0.20%以下(0%を含まない)]
Pは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、被削性を改善するのに寄与する。しかし、Pを0.20%を超えて過剰に含有すると、粒界に偏析して固相線温度を低下し、加熱時にバーニングが発生しやすくなる。従って、本発明では、P量は、0.20%以下とする。P量は、0.15%以下が好ましく、より好ましくは0.12%以下である。
【0029】
[Al:0.002〜0.1%]
Alは、脱酸元素として作用する元素であり、Al量が0.002%を下回ると、低融点の酸化物が生成し、加熱時に部分溶融が促進され、バーニングが発生する。従って、本発明では、Al量は0.002%以上とする。Al量は、0.003%以上が好ましい。しかし、過剰に含有すると、Al
2O
3が多く生成し、加工性が劣化する。従って、本発明では、Al量は0.1%以下とする。Al量は、0.075%以下が好ましく、より好ましくは0.060%以下である。
【0030】
[Ca:0.0001〜0.01%、Mg:0.0001〜0.01%、Zr:0.01〜0.5%、Te:0.001〜0.05%、およびREM(希土類元素):0.001〜0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
Ca、Mg、Zr、Te、およびREMは、いずれも硫化物系介在物(例えば、MnSなど)中のSを安定化し、硫化物系介在物を粗大化することにより、加熱時にバーニングが発生するのを抑制する元素である。こうした作用を発揮させるには、Caは、0.0001%以上とし、好ましくは0.0003%以上、より好ましくは0.0004%以上とする。Mgは、0.0001%以上とし、好ましくは0.0003%以上、より好ましくは0.0004%以上とする。Zrは、0.01%以上とし、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.04%以上とする。Teは、0.001%以上とし、好ましくは0.002%以上とする。REMは、0.001%以上とし、好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.003%以上とする。しかし、過剰に含有しても添加効果は飽和し、コスト高となる。従って、本発明では、Caは、0.01%以下とし、好ましくは0.0095%以下、より好ましくは0.0090%以下とする。Mgは、0.01%以下とし、好ましくは0.0095%以下、より好ましくは0.0090%以下とする。Zrは、0.5%以下とし、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。Teは、0.05%以下とし、好ましくは0.045%以下とする。REMは、0.05%以下とし、好ましくは0.04%以下とする。上記元素は、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。
【0031】
上記REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味であり、これらの元素のなかでも、La、CeおよびYよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましく、より好ましくはLaおよびCeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有するのがよい。
【0032】
本発明の鋼材は、上記元素を含有するものであり、残部は、鉄および不可避不純物である。
【0033】
本発明の鋼材は、更に、他の元素として、
(a)Cu、Ni、Cr、Mo、およびBよりなる群から選ばれる少なくとも1種、
(b)V、Ti、Nb、およびWよりなる群から選ばれる少なくとも1種、
(c)Pb、Bi、Sn、およびSbよりなる群から選ばれる少なくとも1種、
を含有してもよく、
(d)Nは0.02%以下の範囲で含有してもよい。
【0034】
各元素の好適な範囲は、次の通りである。
【0035】
[(a)Cu:1%以下(0%を含まない)、Ni:2%以下(0%を含まない)、Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:2%以下(0%を含まない)、およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
Cu、Ni、Cr、Mo、およびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させて最終製品の強度を高めるのに作用する元素であり、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。こうした作用を有効に発揮させるには、Cuは、0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.2%以上である。Niは、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1.0%以上である。Crは、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上、更に好ましくは0.5%以上である。Moは、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.3%以上である。Bは、0.0005%以上が好ましく、より好ましくは0.0010%以上である。しかし、これらの元素の含有量が過剰になると、鋼材の強度が高くなり過ぎて、加工性を劣化させることがある。従って、本発明では、Cuは、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下である。Niは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.8%以下、更に好ましくは1.7%以下である。Crは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.9%以下、更に好ましくは1.8%以下である。Moは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下である。Bは、0.01%以下が好ましく、より好ましくは0.008%以下、更に好ましくは0.005%以下である。
【0036】
[(b)V:0.5%以下(0%を含まない)、Ti:0.5%以下(0%を含まない)、Nb:0.5%以下(0%を含まない)、およびW:2%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
V、Ti、Nb、およびWは、Cと結合して炭化物を形成したり、Nと結合して窒化物を形成し、鋼材の強度向上に寄与する元素であり、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。こうした作用を有効に発揮させるには、Vは、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上である。Tiは、0.005%以上が好ましく、より好ましくは0.010%、更に好ましくは0.015%以上である。Nbは、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.10%以上である。Wは、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは0.7%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、形成される炭化物や窒化物が、鋼材の変形抵抗を上昇させ、加工性を低下することがある。従って、本発明では、Vは、0.5%以下が好ましく、より好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.30%以下である。Tiは、0.5%以下が好ましく、より好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.1%以下である。Nbは、0.5%以下が好ましく、より好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下である。Wは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下である。
【0037】
[(c)Pb:0.3%以下(0%を含まない)、Bi:0.3%以下(0%を含まない)、Sn:0.02%以下(0%を含まない)、およびSb:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
Pb、Bi、Sn、およびSbは、いずれも被削性の改善に寄与する元素であり、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。こうした作用を有効に発揮させるには、Pbは、0.03%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.15%以上である。Biは、0.03%以上が好ましく、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.10%以上である。Snは、0.002%以上が好ましく、より好ましくは0.005%以上、更に好ましくは0.010%以上である。Sbは、0.002%以上が好ましく、より好ましくは0.004%以上、更に好ましくは0.006%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、強度や加工性が低下することがある。従って、本発明では、Pbは、0.3%以下が好ましく、より好ましくは0.28%以下、更に好ましくは0.25%以下である。Biは、0.3%以下が好ましく、より好ましくは0.25%以下、更に好ましくは0.20%以下である。Snは、0.02%以下が好ましく、より好ましくは0.018%以下、更に好ましくは0.015%以下である。Sbは、0.02%以下が好ましく、より好ましくは0.015%以下、更に好ましくは0.010%以下である。
【0038】
[(d)N:0.02%以下(0%を含まない)]
Nは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、鋼材中の固溶N量が多くなり過ぎると、歪み時効による硬度上昇や、延性の低下を招き、加工性が劣化することがある。従って、本発明では、N量は、0.02%以下であることが好ましい。N量は、より好ましくは0.018%以下であり、更に好ましくは0.015%以下、最も好ましくは0.010%以下である。
【0039】
[製造条件]
次に、本発明に係る鋼材の製造方法について説明する。
【0040】
本発明の鋼材は、上記成分組成を満足する溶鋼を鋳造して鋼材を製造するにあたり、鋳造開始から凝固完了までの鋳片中央部の平均冷却速度を7℃/分以下とすることが重要である。平均冷却速度を7℃/分以下に抑えることにより、硫化物系介在物を成長させることができ、上記硫化物系介在物比を0.30以下にできる。その結果、加熱時にバーニングが発生することを防止できる。上記平均冷却速度は、6℃/分以下であることが好ましい。
【0041】
上記平均冷却速度は、例えば、鋳造時に用いる鋳型の大きさを調整することによって制御できる。即ち、鋳型の内径を大きくするほど、鋳片中央部の平均冷却速度は小さくなり、硫化物系介在物は粗大化する。一方、鋳型の内径を小さくするほど、鋳片中央部の平均鋳造速度は大きくなり、硫化物系介在物は微細化する。鋳型の内径は、例えば、350〜1100mmであることが好ましく、より好ましくは450〜1000mmである。
【0042】
上記平均冷却速度は、少なくとも鋳片の表面における平均冷却速度を7℃/分以下に制御すればよい。少なくとも鋳片の表面における平均冷却速度を7℃/分以下に制御すれば、鋳片中央部の平均冷却速度は7℃/分以下となる。鋳片の表面とは、例えば、鋳片の表面の中央部である。鋳片表面の中央部における平均冷却速度は、例えば、次の手順で測定すればよい。即ち、温度測定用の熱電対をアルミナ製の保護管に挿入したものを、押湯部の表面中央付近に設置し、鋳造開始時点から凝固完了時点までの温度と、冷却に要した時間に基づいて、平均冷却速度を求めることができる。また、上記平均冷却速度は、鋳片の中央部における平均冷却速度を計算により求め、この平均冷却速度を上記のように制御してもよい。
【0043】
鋳造後は、常法に従って、熱間加工等を行えばよい。例えば、850〜1250℃程度に加熱した後、熱間加工により所望の線径とした後、放冷または空冷により冷却すればよい。この冷却時の平均冷却速度は、例えば、3℃/秒以下とすればよい。
【0044】
こうして得られた本発明の鋼材は、熱間鍛造や熱間加工前、または高周波を用いて高温に加熱しても、バーニングが発生しないものとなる。高温とは、例えば、固相線温度−150℃以上、固相線温度−100℃以下の範囲であり、特に、固相線温度−130℃以上、固相線温度−100℃以下の範囲である。
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0046】
溶鋼を鋳造し、下記表1、表2に示す成分組成(残部は、鉄および不可避不純物)の鋼材を製造した。下記表1、表2に示したMn量とS量に基づいて、Mn量とS量の比([Mn]/[S])を算出し、結果を下記表1、表2に示す。
【0047】
鋳造時における鋳造開始から凝固完了までの鋳片表面の中央部における平均冷却速度を次の手順で測定した。即ち、温度測定用の熱電対をアルミナ製の保護管に挿入したものを、押湯部の表面中央付近に設置し、鋳造開始時から凝固完了時までの温度と、冷却に要した時間に基づいて、平均冷却速度を算出した。
【0048】
鋳造時に用いた鋳型の内径は、200mm、300mm、450mm、または1000mmである。内径が200mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は30℃/分であった(下記表3のNo.39)。内径が300mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は20℃/分であった(下記表3のNo.38)。内径が450mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は5℃/分であった(下記表3のNo.1〜36)。内径が1000mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は1℃/分であった(下記表3のNo.37)。
【0049】
また、下記表1、表2に示した成分組成と、下記式(a)に基づいて、固相線温度を算出し、結果を下記表3に示す。下記式(a)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
固相線温度(℃)=1536−(170×[C]+12.3×[Si]+6.8×[Mn]+124.5×[P]+183.9×[S]) ・・・(a)
【0050】
次に、鋳造して得られた鋳片を熱延加工して試験片を製造し、試験片に含まれる硫化物系介在物比を算出した。即ち、得られた鋳片を、900℃以上に加熱した後、鍛造比が約20となるように900〜1200℃で熱延加工し、放冷して試験片を作製した。なお、上記鍛造比とは、熱延加工前における試験片の断面を、熱延加工後における試験片の断面で除した値である。具体的には、内径が200mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ45mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、20であった。内径が300mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ70mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、18であった。内径が450mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ95mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、22であった。内径が1000mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ230mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、19であった。
【0051】
試験片の直径をD(mm)としたとき、得られた試験片のD/4位置における縦断面を、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Microanalyser;EPMA)で、倍率200倍で観察し、短径(幅)が2μm以上の全ての介在物の成分組成を分析した。成分組成を分析した介在物の個数が300個以上となるように、観察は複数の視野で行った。分析した介在物の成分組成について、鉄(Fe)を除いた合金元素の量を100質量%としたとき、S含有量が25質量%以上である介在物を、「短径が2μm以上の硫化物系介在物」とし、その個数を測定した。また、「短径が2μm以上の硫化物系介在物」のうち、円相当径が4μm以下の介在物を、「円相当径が4μm以下の硫化物系介在物」とし、その個数を測定した。
【0052】
上記円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数との比(円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数/短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数;硫化物系介在物比)を算出し、結果を下記表3に示す。
【0053】
ここで、鋳造時における鋳片表面の中央部の平均冷却速度と、硫化物系介在物比との関係を
図1に示す。なお、
図1には、内径が450mmの鋳型を用い、鋳片の中心における平均冷却速度を5℃/分とした例の代表例としてNo.3の結果、平均冷却速度を1℃/分としたNo.37の結果、平均冷却速度を20℃/分としたNo.38の結果、および平均冷却速度を30℃/分としたNo.39の結果を示した。
【0054】
次に、鋳造して得られた鋳片を熱延加工して試験片を製造し、所定の温度に加熱して30秒保持した後、バーニング発生の有無を評価した。具体的な評価手順は、下記の通りである。
【0055】
鋳造して得られた鋳片を、900℃以上の加熱温度で加熱した後、鍛造比が約400〜600となるように900〜1200℃で熱延加工し、放冷して試験片を作製した。上記加熱温度は、バーニングの発生の有無を評価するために、成分組成に基づいて算出される固相線温度−100℃〜固相線温度−130℃を目安とした。具体的には、No.1〜26、31〜36は、C量が約0.4%近傍で類似するため、加熱温度は一律に1330℃とした。No.27、28は、C量が約0.15%近傍で類似するため、加熱温度は一律に1360℃とした。No.29、30は、C量が約0.7%近傍で類似するため、加熱温度は一律に1300℃とした。下記表3に加熱温度(℃)を示す。
【0056】
上記熱延加工は、具体的には、次の条件で行った。内径が200mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ9mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は494であった。内径が300mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ15mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は400であった。内径が450mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ18mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は625であった。内径が1000mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ45mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は494であった。
【0057】
得られた試験片を下記表3に示す温度に加熱し、この加熱温度で30秒間保持した後冷却した。冷却後の試験片表面を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察し、結晶粒界における溶融跡の有無を調べた。溶融跡は、結晶粒界に、空孔または酸化物が存在するか否かで評価した。即ち、結晶粒界に、酸化物および孔が無い場合を、耐バーニング性に優れると評価し、下記表3に、合格と表記した。結晶粒界に、酸化物または孔のうち何れか一つが有る場合を、耐バーニング性に劣ると評価し、下記表3に、不合格と表記した。
【0058】
また、下記表3に示したNo.1の試験片表面を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で撮影した図面代用写真を
図2に示す。
図2において、aは空孔、bは酸化物を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
上記表1〜表3から次のように考察できる。No.3〜26、28、30、37は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例であり、鋼材の成分組成、鋼材に含まれるMn量およびS量の関係、並びに硫化物系介在物比が適切に制御できるため、加熱時にバーニングが発生しない。
【0063】
これに対し、No.1、2、27、29、31〜36、38、39は、いずれも本発明で規定する要件を満足しない比較例である。以下、詳細に説明する。
【0064】
No.1と27は、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない例であり、硫化物系介在物に含まれるSを安定化できない。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0065】
No.29は、上記No.1と同様、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない例であり、硫化物系介在物に含まれるSを安定化できない。また、鋼材に含まれるMn量とS量の比も本発明で規定する範囲を外れる。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0066】
No.2は、Sを過剰に含有し、鋼材に含まれるMn量とS量の比が本発明で規定する範囲を外れる例である。また、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない例であり、硫化物系介在物に含まれるSを安定化できない。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0067】
No.31は、Sを過剰に含有し、鋼材に含まれるMn量とS量の比が本発明で規定する範囲を外れる例である。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0068】
No.33は、Mnを過剰に含有する例であり、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0069】
No.36は、鋼材に含まれるMn量とS量の比が本発明で規定する範囲を外れる例である。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0070】
No.32は、Siを過剰に含有する例であり、No.34は、Pを過剰する例であり、No.35は、Al量が少な過ぎる例であり、いずれもバーニングが発生した。
【0071】
No.38と39は、鋳造時における平均冷却速度が大き過ぎた例であり、硫化物系介在物が粗大化し、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。