特許第6055438号(P6055438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055438
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】複合電極材
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1397 20100101AFI20161219BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161219BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01M4/1397
   H01M4/136
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M4/58
   H01M4/36 B
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-110163(P2014-110163)
(22)【出願日】2014年5月28日
(62)【分割の表示】特願2010-547927(P2010-547927)の分割
【原出願日】2009年2月24日
(65)【公開番号】特開2014-179339(P2014-179339A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2014年5月28日
(31)【優先権主張番号】2,623,407
(32)【優先日】2008年2月28日
(33)【優先権主張国】CA
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591117930
【氏名又は名称】ハイドロ−ケベック
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ カリム
(72)【発明者】
【氏名】外輪 千明
(72)【発明者】
【氏名】チャースト パトリック
(72)【発明者】
【氏名】武内 正隆
(72)【発明者】
【氏名】ゲルフィ アブドルバスト
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−035488(JP,A)
【文献】 特表2004−509447(JP,A)
【文献】 再公表特許第2004/068620(JP,A1)
【文献】 国際公開第2007/113624(WO,A1)
【文献】 特開2007−035358(JP,A)
【文献】 特開2003−292309(JP,A)
【文献】 特開2009−043514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物粒子に炭素質材料の有機前駆体を接触させ、
該前駆体を熱分解させて炭素被覆された複合酸化物粒子からなる電極活物質を得、
該電極活物質と繊維状炭素とを共粉砕混合し、
該共粉砕混合物に溶媒に溶解された状態のバインダーを添加することによって電極活物質と繊維状炭素とバインダーと溶媒とを含有してなる低粘度材料を得、
得られた低粘度材料を集電体の上に載せて膜状にし、
次いで溶媒を除去して、複合酸化物、繊維状炭素およびバインダーの合計重量に対して複合酸化物の重量が70〜95重量%となる割合で電極活物質と繊維状炭素とバインダーとを含有する複合電極材の被膜を1層だけ集電体の上に設けることを含み、且つ
前記繊維状炭素が気相成長炭素繊維である、
リチウムイオンを有するイオン性化合物からなる電解質を備えた電気化学電池用の電極を製造する方法。
【請求項2】
炭素被覆された複合酸化物粒子がナノサイズの粒子である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
複合酸化物粒子は、遷移金属およびリチウムの、硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、オキシ硫酸塩、オキシリン酸塩、オキシケイ酸塩、並びにそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
複合酸化物粒子は、LiFePO4、LiMnPO4、LiFeSiO4、SiOおよびSiO2からなる群から選ばれるものである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
繊維状炭素は、フィラメント直径が5〜500nmで且つアスペクト比(長さ/直径)が20〜10000の繊維フィラメントを含有するカーボンファイバーを含むものである、請求項1〜4のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項6】
バインダーは、PVDF、PTFE、スチレンブタジエンゴムSBR、および天然ゴムからなる群から選ばれるものである、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項7】
バインダーの量は、前記低粘度材料の粘度を106Pa・s未満に低下させるように調整される、請求項1〜6のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項8】
繊維状炭素と電極活物質とを共粉砕混合する工程がメカノフュージョン法によって行われる、請求項1〜7のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項9】
前記複合電極材は、繊維状炭素を0.5〜20重量%含有する、請求項1〜8のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項10】
前記複合電極材は、気相成長炭素繊維0.5〜5重量%、複合酸化物70〜95重量%、およびバインダー1〜25重量%の、合計100%を含んでなる、請求項1〜9のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかひとつに記載の方法を行って、リチウムイオンを有するイオン性化合物からなる電解質を備えた電気化学電池用の電極を得、
次いで該電極を用いて電気化学電池を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合電極材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池には複合電極が用いられており、該複合電極の材料としては、活物質としての複合酸化物、電子伝導材としての炭素質材料、およびバインダーを含んでなるものが知られている。
【0003】
米国特許第5,521,026号(Brochuら)は、固体高分子電解質、リチウムアノード、および集電体上のV25とカーボンブラックとの混合物を含んでなるカソードを有する電池を開示している。該複合カソード材は、前記酸化物とカーボンブラックを、溶媒中で、ステンレス鋼球を用いたボールミル粉砕をすることによって得られる。カソード成分を単に混合することだけで得られる電池に比べて、ボールミル粉砕によって得られる前記電池は、その性能が改善されている。しかし、該鋼球を用いると副反応を引き起こす不純物がカソード材に混入する。
【0004】
国際公開第2004/008560号(Zaghibら)には、複合カソード材が記載されている。該カソード材は、非導電性または半導電性の材料と、低結晶質炭素(C1)と、高結晶質炭素(C2)との混合物を高エネルギーで粉砕することによって得られる。低結晶質炭素の例としてカーボンブラックが挙げられ、高結晶質炭素の例として黒鉛が挙げられている。
【0005】
米国特許第6,855,273号(Ravetら)には、制御された雰囲気中で、複合酸化物またはそれの前駆体の存在下に、炭素質前駆体を熱処理することによって電極材を製造する方法が記載されている。このようにして得られる電極材は、炭素で被覆された複合酸化物粒子から成り、その導電率は被覆されていない酸化物粒子に比べて大幅に増加している。導電率の増加は、酸化物の粒子表面に化学的に結合されている炭素被覆の存在によるものである。該化学結合は優れた付着力と高い局所的導電性とをもたらす。炭素質前駆体は、高分子の前駆体であってもよいし、気体状の前駆体であってもよい。複合電極材は、炭素被覆された粒子を、カーボンブラックおよびバインダーとしてのPVDFに混合することによって製造される。理論容量である170mAh/gの容量を達成できる電極を製造する場合には、複合酸化物粒子にカーボンブラックを添加しなければならない。
【0006】
国際公開第2004/044289号(Yanoら)には、熱伝導性と電気伝導性とを高めるために、樹脂、セラミックまたは金属からなるマトリクス材に気相成長炭素繊維が混合されてなる、複合材料が開示されている。
【0007】
米国特許出願公開2003/0198588号(Muramakiら)には、気相成長炭素繊維などのカーボンファイバーを含んでなる複合材料から成る電極を有する電池が開示されている。カーボンファイバーは負極用の炭素質材料として優れたインターカレーション特性を示す。複合負極材料はカーボンファイバーとバインダーの混合物を混練することによって製造される。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、複合電極材の製造方法およびそれによって得られる複合電極材が提供される。
本発明の一形態として、電極活物質と繊維状炭素とを共粉砕混合し、該共粉砕混合物にバインダーを添加することによって該共粉砕混合物の粘度を低下させることを含む方法が提供される。
本発明の他の形態として、繊維状炭素、電極活物質、およびバインダーを含有する複合電極材が提供される。該電極活物質は炭素被覆された複合酸化物であることが好ましい。
本発明の他の形態として、集電体の上に複合電極材を有してなる複合電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ノビルタ(登録商標)粉砕機で共粉砕混合し、次いでNMPを除去した後の、実施例1のC−LiFePO4/VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図。
図2】ノビルタ(登録商標)粉砕機で共粉砕混合し、次いでNMPを除去した後の、比較例1のC−LiFePO4/AB混合物のSEM顕微鏡写真を示す図。
図3】実施例4と比較例4で得られたC−LiFePO4と炭素との共粉砕混合物における、電極密度D(g/cm3)に対する時間T(秒)の関係を表す図。
図4】実施例5と比較例5で得られたC−LiFePO4と炭素との共粉砕混合物における、電極密度D(g/cm3)に対する時間T(秒)の関係を表す図。
図5】実施例7での、0.5Cの放電レートにおける、三電極式セルの放電容量(mAh/g)に対する電位(V vs Li)の関係を表す図。
図6】実施例7での、2Cの放電レートにおける、三電極式セルの放電容量(mAh/g)に対する電位(V vs Li)の関係を表す図。
図7】実施例7での、4Cの放電レートにおける、三電極式セルの放電容量(mAh/g)に対する電位(V vs Li)の関係を表す図。
図8】1MのLiPF6のEC−MEC(3:7)溶液に含浸させた、リチウムアノードおよびセルガード3501製セパレーターをさらに有してなる電気化学電池中での各種電極における、電極密度Dに対する電気抵抗Rの関係を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合電極材の製造に用いられる電極活物質は、炭素被覆された複合酸化物である。該複合酸化物は、遷移金属およびリチウムの、硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、オキシ硫酸塩、オキシリン酸塩、もしくはオキシケイ酸塩、または、これらの混合物であることが好ましい。また、複合酸化物は、LiFePO4、LiMnPO4、LiFeSiO4、SiO、およびSiO2であることが好ましい。炭素被覆された酸化物は、酸化物を炭素質材料の有機前駆体に接触させ、その前駆体を熱分解させることによって得ることができる。炭素被覆された複合酸化物は、ナノサイズ粒子の形態で用いられることが好ましい。
【0011】
本発明の複合電極材の製造に用いられる繊維状炭素は、フィラメント直径が5〜500nmで且つアスペクト比(長さ/直径)が20〜10000の繊維フィラメントからなるカーボンファイバーからなるものである。
カーボンファイバーは、反応領域に、炭素源と遷移金属を含有する溶液を噴霧して、該炭素源を熱分解させ、それによって得られたカーボンファイバーを800℃〜1500℃の非酸化雰囲気中で加熱し、更に、2000℃〜3000℃の非酸化雰囲気中で加熱することを含む方法によって得ることができる。気相成長炭素繊維の製造方法のより詳細な情報は、WO2004/044289(Yanoら)から得ることができる。2000〜3000℃で行われる炭素の第二熱処理は、ファイバー表面を浄化し、複合酸化物粒子を被覆する炭素とカーボンファイバとが付着する力を増加させる。このようにして得られるカーボンファイバーは、気相成長炭素繊維と呼ばれている。
【0012】
当該気相成長炭素繊維は、VGCFという商標で、昭和電工株式会社(日本)が、市販している。
【0013】
バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体や、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴムから選択することができる。バインダーの添加量は、混合物の粘度を106Pa・s未満に低下させるように調整される。
【0014】
カーボンファイバーと炭素被覆された複合酸化物粒子との共粉砕混合は、メカノフュージョン法によって行われる。
【0015】
メカノフュージョン法とは、内部に圧縮用具とブレードとを備え且つ高速回転する筒状チャンバーを有するメカノフュージョン反応装置で行われる乾式処理法である。回転速度は、通常1000rpmより速い。炭素被覆された複合酸化物粒子および繊維状炭素をチャンバー内に入れる。チャンバーを回転させることによって、当該粒子は、粒子相互で及びチャンバー壁で押圧される。圧縮用具を使用し且つ高速回転によって遠心力を生じさせると、カーボンファイバーと炭素被覆された複合酸化物粒子との付着結合が促進される。
【0016】
メカノフュージョン反応装置としては、ホソカワミクロン株式会社(日本)製の「ノビルタ」(登録商標)粉砕機または「メカノフュージョン」(登録商標)粉砕機、並びに株式会社奈良機械製作所製の「ハイブリダイサー」(商標)粉砕機が挙げられる。
【0017】
ボールミルによる共粉砕混合は、材料の中に不純物が混入する恐れがあるので、推奨されない。カーボンファイバーと複合酸化物粒子との共粉砕混合の際に不純物が混入しなければ、その複合材料を含んでなる電極は、電気化学的な充放電において副反応を引き起こさず、該電極を用いることによって非常に高い安全性を有する電池を得ることができる。
【0018】
共粉砕混合の後、得られた共粉砕混合物に、適切な溶媒に溶解された状態のバインダーが添加される。フッ素系重合体のための溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。SBRゴムのための溶媒としては水が挙げられる。バインダーの添加量は、共粉砕混合物の粘度が106Pa・s未満になるように調整することが好ましい。
【0019】
共粉砕混合物にバインダー溶液を添加した後に得られた低粘度材料は、電極の製造に用いることができる。集電体として作用する導電性支持体上に前記低粘度材料を載せて膜状にし、次いで溶媒を蒸発させて除去することによって、電極を得ることができる。
【0020】
溶媒の蒸発後に、集電体上に得られる複合電極材は、炭素被覆された複合酸化物粒子、カーボンファイバー、およびバインダーからなる。ここで、複合酸化物粒子を被覆している炭素は該粒子のコアである複合酸化物に強く結合しており、また該被覆炭素は炭素−炭素化学結合によって気相成長炭素繊維と強力に結合している。複合酸化物粒子は好ましくはナノサイズ粒子である。
【0021】
本発明に係る複合電極材は、0.5〜20重量%の気相成長炭素繊維を含んでいることが好ましい。炭素繊維の含有量を5重量%より多くしても、コストが上がるだけで電極性能の顕著な改善はみられない。好ましい実施形態では、該電極材は、気相成長炭素繊維を0.5〜5重量%、複合酸化物を70〜95重量%、およびポリマーバインダーを1〜25重量%の合計100%を含んでいる。
【0022】
本発明に係る複合電極材は、リチウムイオンを有するイオン性化合物からなる電解質を備えた電気化学電池に、特に有用である。電気化学電池を高い放電レートでの使用を考えている場合には、複合電極材に高い放電電位を得るために繊維状炭素を約5重量%含ませることが好ましい。電気化学電池を低い放電レートでの使用を考えている場合においては、繊維状炭素の含有量を少なくしても高い放電電位が得られる。
【0023】
本発明の複合材料は、複合電極の活物質として用いられるときに、種々の長所がある。
【0024】
本発明の複合材料は、リチウムの挿入と脱離の際に生じる粒子および電極の体積変化に対して有効な高い機械的強度を有している。該複合材料は、電池の充放電の際の体積変化を吸収することができる。
【0025】
複合酸化物のナノ粒子からなる複合電極材においては、電極をカレンダー成形法によって製造すると、電極に適したチャネル構造と空孔の形成が困難である。ナノ粒子を含有する複合材料中に繊維状炭素を存在させると、液状電解質に対する材料の濡れ性が改善された多チャネル構造を形成する。それによって、電解液が粒子の表面およびコアに接近し易くなり、粒子上のイオン導電率が局所的に高まる。
【0026】
繊維状炭素は高い導電性を有するので、複合電極材に他の炭素源を加える必要がない。
【0027】
繊維状炭素の使用によって、各粒子における導電率が局所的に増加し、電極材中に導電ネットワークが形成される。
導電率が高いほど、高い充放電レートにおける容量(mAh/g)が上がる。さらに、低温、特に−20℃未満の温度においても、高容量となる。
【0028】
求められる繊維状炭素の量が少なくなるほど、該複合材料を電極材として有する電気化学電池の重量および体積あたりのエネルギーが高くなる。
【0029】
複合電極材中に繊維状炭素が存在することによって、固体電解質を備える電気化学電池中の電極表面に安定な不動態層が形成されるので、不可逆的容量損失(ICL)が減少する。
【0030】
繊維状炭素を含む複合電極の抵抗が低減すると、電圧低下(IR)が非常に小さくなり、それによって、体積固有インピーダンス(VSI)および面積固有インピーダンス(ASI)が小さくなる。電動工具やハイブリッド電気自動車などの大電力用途には、これらの特性が必要である。
【実施例】
【0031】
本発明について、以下の実施例によって、更に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0032】
本実施例では、以下の製品から複合材料を製造した:
C−LiFePO4 ; Phostech社製の炭素被覆されたLiFePO4粒子からなる材料。
アセチレンブラック ; 電気化学工業株式会社(日本)製のデンカブラック(商品名)。
VGCF(商標) ; 昭和電工株式会社(日本)製の炭素繊維(繊維径:150nm、繊維長:約10μm、比表面積:13m2/g、導電率:0.1mΩ.cm、純度:99.95%以上)。
PVDF ; 株式会社クレハ(日本)製のポリフッ化ビニリデン。
SBR ; 日本ゼオン株式会社(日本)製のスチレンブタジエンゴム、BM400(商標)。
【0033】
共粉砕混合は以下の粉砕機で行った:
NOB300−ノビルタ(登録商標) ; ホソカワミクロン株式会社製
メカノフュージョン ; ホソカワミクロン株式会社製
【0034】
得られた材料は、走査電子顕微鏡法(SEM)、透過電子顕微鏡法(TEM)、およびX線回折法(XRD)で分析した。
【0035】
(実施例1)
C−LiFePO4300gとVGCF9gとをノビルタ粉砕機で5分間混合した。次に、NMPに溶解されたPVDF16.25g(LiFePO4、VGCFおよびPVDFの合計重量に対して5%に相当する量)を添加した。得られたスラリーをポリプロピレンシートに塗布した。NMPを蒸発させて除去した後、測定された被膜の抵抗値は7Ω.cmである。
【0036】
(比較例1)
VGCF(商標)の代わりにアセチレンブラックABを9g用いて、実施例1と同じ操作を行った。試料の抵抗値は30Ω.cmであり、実施例1よりはるかに高い。
【0037】
図1および2は、それぞれ、ノビルタ粉砕機で共粉砕混合し、次いでNMPを除去した後の、C−LiFePO4/VGCF混合物およびC−LiFePO4/AB混合物のSEM顕微鏡写真である。図1中の矢印は繊維状炭素を指し示している。図2中の矢印は非繊維状のアセチレンブラックを指し示している。
【0038】
(実施例2)
C−LiFePO4300gとVGCF9gとをメカノフュージョン(登録商標)粉砕機で30分間混合した。次に、NMPに溶解されたPVDF16.25g(LiFePO4、VGCF、およびPVDFの合計重量に対して5%に相当する量)を添加した。得られたスラリーをポリプロピレンシートに塗布した。NMPを除去した後、測定された被膜の抵抗値は8Ω.cmである。
【0039】
(比較例2)
VGCFの代わりにアセチレンブラック9gを用いて、実施例2と同じ操作を行った。試料の抵抗値は35Ω.cmであり、実施例2よりはるかに高い。
【0040】
(実施例3)
C−LiFePO4300gとVGCF9gとをメカノフュージョン粉砕機で30分間混合した。次に、NMPに溶解させたPVDF16.25g(LiFePO4、VGCF、およびPVDFの合計重量に対して5%に相当する量)を添加した。得られたスラリーをアルミニウム製集電体に塗布した。NMPを除去した後、得られた電極にプロピレンカーボネート(PC)を染み込ませた。5秒以内で電極にPCが完全に浸透した。
【0041】
(比較例3)
VGCFの代わりにアセチレンブラック9gを用いて、実施例3と同じ操作を行った。電極にPCが完全に浸透するのに、実施例3よりはるかに長い370秒を要した。
【0042】
(実施例4)
C−LiFePO4300gとVGCF9gとをメカノフュージョン粉砕機で30分間混合した。次に、水に溶解させたSBR17.98g(LiFePO4、VGCF、およびSBRの合計重量に対して5.5%に相当する量)を添加した。得られたスラリーをアルミニウム製集電体に塗布した。水を除去した後、集電体上の複合材料の面積比重量は10mg/cm2である。このようにして得られた電極に、プロピレンカーボネート(PC)を染み込ませた。
【0043】
VGCFの代わりにアセチレンブラックを用いた以外、または炭素を加えなかった以外は、上記と同じ操作を行って、種々の試料をさらに製造した。
【0044】
図3は、電極密度D(g/cm3)に対する時間T(秒)の関係を表している。「電極密度」Dは、電極材の体積単位あたりの重量を意味する。電極材は、複合酸化物、もしあれば加えられた炭素(カーボンファイバーまたはアセチレンブラック)、およびもしあれば吸収されたPCを含んでいる。時間Tは、PC3μLが完全に吸収されるまでの時間を表している。
◆は、炭素を含有しない試料に対応する。
△は、アセチレンブラックを含有する試料に対応する。そして、
■は、VGCFを含有する試料に対応する。
【0045】
図3は、電極密度Dが2g/cm3付近で、PC3μLを完全に吸収したものを表している。カーボンファイバーを含む材料では2000秒以内で該密度に達する。アセチレンブラックを含む材料では3000秒以内で該密度に達する。炭素を加えていない材料では3500秒以上で該密度に達する。
【0046】
(実施例5)
C−LiFePO4とVGCFとをメカノフュージョン粉砕機で30分間混合した。次に、水に溶解されたSBRを、C−LiFePO4、VGCF、およびSBRの合計重量の3重量%に相当する量で添加した。得られたスラリーをアルミニウム製集電体に塗布した。水を除去した後、集電体上の複合材料の面積比重量は28mg/cm2である。このようにして得られた電極に、プロピレンカーボネート(PC)を染み込ませた。
【0047】
VGCFの代わりにアセチレンブラックを用いた以外、または炭素を加えなかった以外は、上記と同じ操作を行って、種々の試料をさらに製造した。
【0048】
図4は、吸収されたPCの量に関連する電極密度D(g/cm3)に対する時間T(秒)の関係を表している。時間Tは、PC3μLが完全に吸収されるまでの時間を表している。
aは、アセチレンブラックを3%(重量/重量)含有する試料に対応する。
bは、VGCF1%(重量/重量)を含有する試料に対応する。
cは、VGCF2%(重量/重量)を含有する試料に対応する。
dは、VGCF0.5%(重量/重量)を含有する試料に対応する。
【0049】
図4に示されるように、アセチレンブラックを含む材料ではプロピレンカーボネートが浸透するまでに非常に長い時間(1500秒以上)を要する。これに対して、カーボンファイバーを含有する材料では1000秒未満でPCを吸収する。
【0050】
電極材の放電容量のために有用である電子伝導材としての炭素を添加することにおいて、この図は、従来のアセチレンブラックの代わりに気相成長繊維形状の炭素の添加が有利であることを示している。
【0051】
(実施例6)
電極を実施例3の操作に従って製造した。さらにリチウムアノードと1MのLiPF6のEC−DEC(3:7)溶液を含浸させたセルガード3501製セパレーターを備える電池に該電極を組み込んだ。
異なる放電レート(C/2、2C、および4C)で電池を放電した。放電レートC/2における容量は155mAh/g、放電レート2Cにおける容量は155mAh/g、放電レート4Cにおける容量は153mAh/gであった。
【0052】
(比較例6)
比較例3に従って製造された電極を用いた以外は実施例6と同じ操作で電池を組み立てた。
異なる放電レート(C/2、2C、および4C)で電池を放電した。放電レートC/2における容量は150mAh/g、放電レート2Cにおける容量は148mAh/g、放電レート4Cにおける容量は120mAh/gであった。
実施例6と比較例6は、本発明のカソード材料によって高い放電容量が可能となり、高い放電電流に対応する高放電レートにおいて最も大きな差異が生じることを示している。
【0053】
(実施例7)
C−LiFePO4とVGCFとをメカノフュージョン粉砕機で30分間混合した。次に、水に溶解させたSBRを、C−LiFePO4、VGCFおよびSBRの合計重量の5.5重量%に相当する量で添加した。得られたスラリーを面積比重量10mg/cm2でアルミニウム製集電体に塗布した。このようにして得られた電極をプロピレンカーボネート(PC)に浸して、電極密度を1.7g/cm3にした。
VGCFを2重量%、3重量%、および5重量%で含有する電極をそれぞれ複数製造した。
リチウムアノードと1MのLiPF6のEC−MEC(3:7)溶液を含浸させたセルガード3501製セパレーターとを備える電池に各電極を組み込んだ。
異なる放電レート(C/2、2C、および4C)で電池を放電した。
【0054】
図5、6、および7は、放電レート0.5C(図5)、放電レート2C(図6)、および放電レート4C(図7)における、三電極式セルの放電容量(mAh/g)に対する電位(V vs Li)を、それぞれ表している。
△は、VGCF5重量%を含有する電極に対応する。
◆は、VGCF3重量%を含有する電極に対応する。
■は、VGCF2重量%を含有する電極に対応する。
【0055】
図5〜7に示すように、高放電レートにおいては、VGCFの含有量が多いほど、高い放電電位が得られる。低放電レートにおいては、VGCF含有量が少なくても十分に高い放電電位が得られる。本発明の複合材料を含有する電極を低放電レートの装置で使用しようとする場合は、VGCF含有量は非常に少なくてよい。本発明の複合材料を含有する電極を高放電レートの装置で使用しようとする場合は、VGCF含有量は好ましくは多めに、より好ましくは5重量%近くにする。
【0056】
(実施例8)
C−LiFePO4と炭素とをメカノフュージョン粉砕機で30分間混合した。次に、水に溶解させたSBRを、C−LiFePO4、炭素およびSBRの合計重量の5.5重量%に相当する量で添加した。得られたスラリーを面積比重量10mg/cm2でアルミニウム製集電体に塗布した。このようにして得られた電極にプロピレンカーボネート(PC)を染み込ませた。
VGCFを2重量%、3重量%、および5重量%で含有する電極、アセチレンブラックABを2重量%、および3重量%で含有する電極、および炭素を全く含有しない電極をそれぞれ複数製造した。
次いで、リチウムアノードと1MのLiPF6のEC−MEC(3:7)溶液を含浸させたセルガード3501製セパレーターとを備える電池に各電極を組み込んだ。
様々な電極密度Dにおける電気抵抗Rを測定した。結果を図8に示す。
【0057】
図8において:
◆は、VGCF2重量%を含有する電極に対応する。
■は、VGCF3重量%を含有する電極に対応する。
●は、VGCF5重量%を含有する電極に対応する。
△は、AB2重量%を含有する電極に対応する。
*は、AB5重量%を含有する電極に対応する。
○は、炭素を添加していない電極に対応する。
【0058】
図8に示すように、導電性炭素を添加していない電極において最も高い抵抗値になり、VGCFの含有量が最も高い電極において最も低い抵抗値になった。同じ炭素含有量の場合には、抵抗値は、VGCFを含有するときより、ABを含有するときに高くなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8